在留資格認定証明書不交付処分取消請求事件、東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第513号、判決 平成19年4月27日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。
【判示事項】
外国人タレント9名について,在留資格認定証明書交付申請をした原告が,いずれの外国人についても,同証明書不交付処分を受けたため,第1次的には,上記各外国人に対し,第2次的には,原告に対し,同証明書不交付処分があったとして,その取消しを求める事案で,原告適格を否定し,訴えを却下した事例
主 文
1 原告の第1次請求に係る訴え、及び第2次請求に係る訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1次請求
(1)別紙タレント目録記載1ないし3の3名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年3月22日付け、申請番号東労認O 第05-113642ないし113644)について、処分行政庁が、上記各タレントに対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
(2)別紙タレント目録記載4ないし7の4名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年4月12日付け、申請番号東労認O 第05-115179ないし115182)について、処分行政庁が、上記各タレントに対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
(3)別紙タレント目録記載8及び9の2名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年5月20日付け、申請番号東労認O 第05-117563及び117564)について、処分行政庁が、上記各タレントに対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
2 第2次請求
(1)別紙タレント目録記載1ないし3の3名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年3月22日付け、申請番号東労認O 第05-113642ないし113644)について、処分行政庁が、原告に対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
(2)別紙タレント目録記載4ないし7の4名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年4月12日付け、申請番号東労認O 第05-115179ないし115182)について、処分行政庁が、原告に対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
(3)別紙タレント目録記載8及び9の2名に係る在留資格認定証明書交付申請(平成17年5月20日付け、申請番号東労認O 第05-117563及び117564)について、処分行政庁が、原告に対し、平成17年9月8日付けでした各在留資格認定証明書不交付処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の概要
本件は、別紙タレント目録記載の外国人9名について、在留資格認定証明書交付申請をした原告(どのような立場で申請をしたのかはしばらく措く)が、いずれの外国人についても同証明書不交付処分を受けたため、第1次的には、上記各外国人に対し、第2次的には、原告に対し、同証明書不交付処分があったとして、その取消しを求める事案である。
なお、本件に関しては、原告の原告適格が問題となったため、この点に絞った判断をするために、弁論を終結したものである。
2 前提事実(認定事実の後に、括弧書きで証拠を掲げたもの以外は、当事者間に争いがない。)
(1)原告は、外国人タレントの招へい及びマネージメント等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)原告は、平成17年3月22日、別紙タレント目録1ないし3記載の外国人タレント3名を、「A」(所在地、神奈川県平塚市(以下略))に出演させるため、処分行政庁に対し、上記3名の在留資格認定証明書交付申請書を提出した。
なお、上記申請書(甲4ないし6)の国籍、氏名欄には、それぞれ、別紙タレント目録1ないし3記載の外国人の国籍、氏名が記載されていた。一方、東京入国管理局による申請受理票は、原告宛に発行されていた。
(3)原告は、平成17年4月12日、(2)と同様の目的で、別紙タレント目録4ないし7記載の外国人タレント4名について、在留資格認定証明書交付申請書を提出した。
上記申請書(甲7ないし10)の記載内容等は、(2)と同様であった。
(4)原告は、平成17年5月20日、(2)と同様の目的で、別紙タレント目録8、9記載の外国人タレント2名について、在留資格認定証明書交付申請書を提出した(なお、(2)ないし(4)記載の在留資格認定証明書交付申請行為を併せて「本件各申請」といい、本件申請に係る申請書を「本件各申請書」という。)。
上記申請書(甲11、12)の記載内容等は、(2)と同様であった。
(5)処分行政庁は、平成17年9月8日、本件各申請に対し、在留資格認定証明書不交付処分(以下「本件各不交付処分」という。)をした。
本件各不交付処分の通知書(甲1ないし3)は、いずれも原告宛のものであり、処分理由等として、次のような記載がされていた。
(要件)
「興行」の在留資格に係る出入国管理及び難民認定法の第7条第1項第2号の基準を定める省令の定める基準第1号ハに適合するとは認められません。
(理由)
出演先の過去の活動状況から見て本邦において行おうとする活動を行うことが主たる活動であるとは認められません。
(6)原告は、平成17年11月4日、本件各不交付処分を不服として本訴を提起した。
3 争点と争点に関する当事者双方の主張
本件の争点は、原告が本件各不交付処分の取消しを求める原告適格を有するかどうかであり、具体的には、①原告は、本件各不交付処分の根拠法規により法律上保護された利益を有するか、あるいは本件各不交付処分によって直接権利を侵害される者として原告適格を有するかどうか(第三者としての原告適格の有無。第1次請求関係)、②原告は、本件各不交付処分の名宛人として原告適格を有するかどうか(相手方としての原告適格の有無。第2次請求関係)である(なお、念のため、本件各不交付処分の違法性に関する原告の主張の概略も併せて摘示しておく。)。
(1)第三者としての原告適格の有無
ア 原告
(ア)法律上保護された利益の存在
a 出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)7条の2第1項は、本邦に上陸しようとする外国人から、あらかじめ申請があったときは、在留資格認定証明書を交付することができる旨を、同第2項は、在留資格認定証明書交付申請は、当該外国人を受け容れようとする機関の職員その他の法務省令で定める者を代理人としてこれをすることができる旨を定めている。同条の規定は、形式的にみると、外国人本人による申請が原則で、代理申請は例外であるように見えるが、外国にいる外国人本人が申請を行うことは実際問題として困難であるから、本邦にある機関等による代理申請が原則になることが当然に予想され、実際にも、ほとんどの申請が代理人によって行われている。
そうだとすると、在留資格認定証明書交付申請に関しては、代理人が外国人本人と同等あるいはそれ以上に重要な役割を果たしているものであり、法7条の2もそのことを前提にして、代理人を外国人本人と同等の地位に立つ者として位置づけているものと解すべきである。
b 特に、本件で問題になっている「興行」の在留資格に関しては、在留資格認定証明書交付申請についての代理人となることができる者の資格は極めて厳格に定められている(法施行規則6条の2第3項、別表第4、入国・在留審査要領(乙4))。このことも、法は、代理人となり得る者の範囲を厳格に定める一方で、その資格が認められた者の利益を保護することを目的としているからであると解すべきである。
c 原告のような会社は、外国人タレントとの間で雇用契約を締結する一方で、外国人タレントの出演先との間で、出演契約(請負契約)を締結し、出演先に外国人タレントを供給しているのであるから、当該外国人タレントを本邦に入国させること、したがって、その前提として、在留資格認定証明書の交付を受けることについて固有の利益を有している。そして、法が、代理人による申請を認め、また、代理人の資格について厳格な規制をしているのも、このような固有の利益の存在を考慮しているからにほかならない。この観点からしても、原告には法律上保護された利益が存するものというべきである。
特に、本件の場合、処分行政庁は、原告が外国人タレントを供給していたAが、外国人タレントに資格外活動(接客)を行わせていた(このこと自体、事実誤認であるが、この点はしばらく措く)などの理由で本件各不交付処分を行ったばかりか、その後も、同様の理由で、原告と契約した外国人タレントに対する在留資格認定証明書交付を拒否し続けている。要するに、本件各不交付処分は、原告が外国人招へい業を行うことを阻止するという効果を有しており、この効果は、本件各不交付処分が取り消されない限り解消されないのであるから、この点からしても、原告の原告適格は認められるべきである。
(イ)直接的な権利侵害の存在
仮に原告には法律上保護された利益が認められないとしても、本件各不交付処分がされた結果、当該外国人を本邦に入国させることができないことになれば、原告が出演先との間で締結した出演契約を履行することができなくなることは明らかである。すなわち、本件各不交付処分は、外国人タレントを使用して行う原告の営業の自由を侵害するものなのであるから、原告は、処分によって直接権利侵害を受ける者として、原告適格が認められるものというべきである。
イ 被告
(ア)法律上保護された利益に関する主張について
原告は、法7条の2第2項の規定に基づいて申請行為を行っているのであるが、この規定は、その文言からも明らかなとおり、「代理人」としての申請を認める規定である。そして、代理人は、本邦に入国しようとする外国人本人の意思に基づいて、その手続を代行する者であって、固有の立場から手続に関与する者ではない。このような法の規定からすると、法律上保護された利益が認められているのはあくまでも外国人本人であって、代理人ではないというべきである。そして、上記規定のほかに、代理人の利益を保護する趣旨で設けられた法令の規定も存在しない。
原告は、特に、興行の場合、代理人となる資格が厳格に定められているから、そのような資格が認められた者には法律上保護された利益があるという趣旨の主張をする。代理人となる資格が厳格に定められていることから、代理人に法律上保護された利益が認められると結論づけることが可能なのかどうかには疑問があるが、その点を措くとしても、原告が問題にしている厳格な資格の定めとは、当該外国人の招へい機関や出演先機関に関する定めであるが、これらの定めが置かれた趣旨は、当該外国人の活動が、定められた在留資格の範囲内に限定されるような適正な環境の下で行われるようにすることにある。したがって、これらの規定も、あくまでも外国人の本邦における活動を管理することを目的としているのであって、外国人の招へい機関等に特別の利益を与えることを目的としたものではないのであるから、原告の法律上の利益を根拠付けるものではない。
また、原告は、本件各不交付処分は、原告による外国人招へい業を阻止する効果を有していると主張するが、過去において、招へい機関が招へいした外国人タレントについて、資格外活動等の違反行為が認められた場合であっても、外国人タレントが適正な在留活動に従事する体制が確保されるなどした場合には、在留資格認定証明書の交付は可能になるのであるから、原告の上記主張は失当である。
(イ)直接的な権利侵害の主張について
原告の主張は争う。
(2)処分の名宛人としての原告適格の有無
ア 原告
本件各不交付処分に係る通知書(甲1ないし3)は、いずれも、「(株)X1殿」として、「あなたの(上記の者に係る)在留資格認定証明書交付申請については、下記理由により不交付と決定したので、通知します。」と記載している。この記載は、原告を申請者であると認めた上で、原告を名宛人として処分をするとの意思に基づくものと解されるものなのであるから、原告は、本件各不交付処分の名宛人に当たり、その取消しを求める原告適格を有する。
イ 被告
原告が依拠している書面(甲1ないし3)は、あくまでも処分の「通知書」であって、処分そのものに係る書面ではない。そして、これらの書面は、本件各申請の代理人である原告に対し、処分の結果を通知したものにすぎず、原告を処分の相手方としているものではない。したがって、原告を本件各不交付処分の名宛人であると見る余地はない。
(3)本件各不交付処分の違法事由に関する原告の主張
本件各不交付処分は、平成17年8月9日に行われたAの実態調査の結果、①従業員名簿記載の従業員(外国人タレント)と実際に働いていた従業員との間に齟齬があったこと、②興行資格で就労していた外国人が接客を行ったこと、③外国人タレントの控え室が未使用の状態にあったことから、申請書に係る外国人について、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(以下「基準省令」という。)一、ハの要件(興行に係る活動に従事する興行の在留資格をもって在留する者が客の接待に従事するおそれがないと認められること)に該当しないとして行われたものと考えられるが、この処分は、次の理由により違法である。
ア 名簿記載の従業員と実際に働いていた従業員との間に齟齬はなく(欠勤者等がいたのにすぎない)、外国人タレントは客に挨拶をしていただけであって接客はしておらず、控え室は実際に利用されていたのであるから、処分理由はすべて事実誤認に基づくものであった。
イ 仮に、外国人タレントが接客を行っていたとしても、その対価として報酬を得ていたわけではないのであるから、これを資格外活動と見ることはできない。
ウ 原告及びAは、従前から同様の形態で外国人タレントを就労させていたのにもかかわらず、突如平成17年8月9日に立入調査が行われ、警告や是正指導もないままいきなり本件各不交付処分が行われたものであり、手段としての相当性を欠いている。
エ 他にも同様の形態で外国人タレントを就労させている施設等はいくらでもあるにもかかわらず、原告及びAに係る外国人に対してだけねらい打ち的に本件各不交付処分を行ったのは平等原則に違反する。
第3 争点に対する判断
1 本件各不交付処分の名宛人について
原告は、原告が本件各不交付処分の名宛人に当たると解することも可能であるという趣旨の主張をしている(第2次請求関係)が、本件各申請は、申請書(甲4ないし12)の記載に照らしても、外国人タレントが本人名義で申請を行ったものであることが明らかであり、原告は、その代理人として関与したものというべきである。
そうすると、外国人タレント本人による申請に対しては、外国人タレント本人を名宛人として処分が行われるべきことは当然であり、本件において、あえてそれとは異なる処分がされたと認めるべき事情は認められない
(本件各不交付処分の通知書の名宛人が原告であるが、これは、代理人である原告に対して本件各不交付処分を通知したことを意味するのにとどまるのであって、原告を名宛人として本件各不交付処分を行ったことまで意味するものではない。そして、他に、上記認定を左右するに足りる証拠は存在しない。)。
したがって、原告が本件各不交付処分の名宛人として、その取消しを求める原告適格を有するとの議論が成立する余地はなく、あくまでも、第三者としての原告が原告適格を有するかどうかが問題とされるべきものである。
2 第三者としての原告適格の有無
(1)法律上保護された利益の有無
ア 法令の定め
興行資格で本邦に入国しようとする外国人に係る、在留資格認定証明書交付に係る法令の定めを整理すると次のとおりである。
まず、同証明書の交付申請は、当該外国人を受け容れようとする機関の職員その他法務省令で定める者を代理人として行うこともできることは前示のとおりであるところ、出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「規則」という。)6条の2第3項、別表第4は、法7条の2第2項に規定する者とは、興行の場合、「契約機関(契約機関がないときは、本人を招へいする本邦の機関)又は本人が所属して芸能活動を行うこととなる本邦の機関の職員」であると定めている。
他方、在留資格認定証明書とは、本邦に入国しようとする外国人が、
法7条1項2号の条件に適合している旨の証明書であるところ(法7条の2第1項)、
法7条1項2号の条件を具体的に定めたのが基準省令である。
そして、基準省令は、
興行に関しては、
①当該外国人が、当該活動について2年以上の教育を受けたか、又は2年以上の経験を有すること(一、イ)のほか、
②当該外国人が契約する本邦の機関については、外国人の興行に係る業務について通算して3年以上の経験を有する経営者又は管理者がいること、
5名以上の常勤職員がいること、
経営者、常勤職員に人身取引の前歴等の欠格事由がないこと等の条件を満たし(一、ロ)、
③申請に係る活動が行われる施設については、不特定かつ多数の客を対象として外国人の興行を行う施設であること、
当該施設が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項1号又は2号に規定するキャバレー等である場合には、
専ら客の接待に従事する従業員が5名以上おり、
興行に係る活動に従事する興行の在留資格をもって在留する者が客の接待に従事するおそれがないと認められること等(一、ハ)の条件を満たすことを求めている。
そして、原告が触れている入国・在留審査要領の該当部分は、基準省令適合性の判断についての要領を定めたものである。
イ 法律上保護された利益の有無
法は、「本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備する」ことを目的として制定された法律であり(法1条)、その規制(裏腹としての保護)の対象となっているのは、本邦に出入国しようとする人であることは明らかである。
そして、在留資格認定証明書の制度は、外国人の上陸条件のうちには、当該外国人が到着した出入国港で短時間のうちに入国審査官に立証することが困難なものがあることから、あらかじめ、本邦に上陸しようとする外国人からの申請に基づき、在留資格に関する上陸条件適合性について審査する制度であるところ、
在留資格認定証明書の交付申請は、当該外国人が交付申請をするのが原則であるが、本邦に上陸しようとする外国人本人は外国にいるのが通常であるため、同条2項によって、その外国人を受け入れようとする本邦の機関の職員等を代理人として申請することができるとしたものである。
このような定めからすると、在留資格認定証明書交付制度は、代理人による申請を認めた部分を含め、本邦に入国しようとする外国人の便宜のために設けられた制度であって、代理人に固有の利益を認め、その利益を保護しようとする趣旨をも含んだ制度であると解することは困難であるというほかはない。
原告は、「入国・在留審査要領(正確には、その根拠となった基準省令)に、代理人の要件について厳格な定めが置かれていることからすれば、法には、代理人の利益を保護する趣旨も含まれていると解すべきである。」という趣旨の主張をする。
しかしながら、代理人の資格に関する規定は、前示のような法7条の2第2項、施行規則6条の2第3項、別表第4の定め程度にとどまるのであって、
これらは「厳格な定め」と評価できるようなものではないし、
代理人の利益の保護を目的とすることを読みとることができるようなものでもない。
原告が問題としている規定は、むしろ、法7条1項2号、基準省令であり、これらは、興行資格で本邦に入国しようとする外国人について、
契約の相手方である本邦の機関が具備すべき要件や、活動を行う施設が具備すべき要件等を定めたものであって、
当該外国人の活動が、「興行」という在留資格の範囲にとどまることを、いわば制度的に保障するための要件として定められたものであることが明らかである。
したがって、これらの要件は、あくまでも本邦に入国しようとする外国人に着目した規定なのであって、これらを、当該外国人を受け容れる本邦の機関等の利益を保護するために設けられた規定であると解することは到底困難であるといわざるを得ない(なお、基準省令等においては、外国人と契約をする本邦の機関や、外国人が活動を行う施設が、在留資格認定証明書交付申請の代理人となっているかどうかは何ら問題としていないのであるから、基準省令等を代理人の問題と結びつけることにはもともと無理があるといわざるを得ないことも付言しておく。)。
以上によれば、原告が依拠している基準省令等の規定も、原告の法律上の利益を保護する趣旨のものであると解することはできないし、他に原告の法律上の利益が保護されていることを裏付けるに足りるような法あるいは関連法令の規定を見いだすことはできない。
(2)権利侵害の有無
原告は、「仮に原告に法律上保護された利益が認められないとしても、原告は、本件各不交付処分によって営業の自由の侵害という権利侵害を受けているのであるから原告適格がある。」とも主張するので、
この点について判断する
(なお、被告は、処分の取消しを求める原告適格を有するのは、処分の相手方か、法律上保護された利益が認められる第三者に限られるという前提で主張を展開しているようにも思われないではない。しかしながら、処分の直接の効果として、権利又は利益の侵害を受ける者は、たとえ処分の名宛人とはされていなくても,当該処分の取消しを求める原告適格を有することは当然の事柄であり、このことは、最高裁判所第三小法廷昭和53年3月14日判決、民集32巻2号211頁、最高裁判所第一小法廷昭和57年9月9日判決、民集36巻9号1679頁等、一連の最高裁判決においても肯定されていた事柄であるし、行政事件訴訟法9条2項の新設によってこのことが否定されたものでもないと解される。したがって、原告の主張を、およそ成り立ち得ない主張であると解することはできない。)。
ところで、この点に関する原告の主張は、
「本件各不交付処分は、在留資格認定証明書の交付申請をした外国人個人の適格性を問題としているのではなく、当該外国人が興行を行う施設(A)の適格性
(興行に係る活動に従事する興行の在留資格をもって在留する者が客の接待に従事するおそれがないと認められること等)
を問題としているため、原告がAに外国人タレントを供給すべく外国人タレントを入国させようとする限り、常に、要件適合性が否定され、在留資格認定証明書の交付が拒否されることになる。
そして、在留資格認定証明書が交付されなければ、当該外国人はほぼ間違いなく本邦に入国することができなくなり、その結果、原告がAに外国人タレントを供給することもできなくなるのであるから、本件各不交付処分は、原告の営業の自由をも直接侵害する行為であると解すべきである。
また、そう解して原告の原告適格を肯定しなければ、原告は、処分行政庁が施設の適格性についていかに不当な判断をしていようともそれを争うことができず、救済を求めることができなくなるのであるから、結果的妥当性を欠く。」というものであると考えられる。
そこで検討すると、仮に原告が、本来、外国人タレントを自由に本邦内で興行を行う施設に供給する事業を行う自由(営業の自由)を有していると解することができるのであれば、
本件各不交付処分は、そのような原告の営業の自由を直接侵害するものであると見る余地も生ずるものと思われる。
しかしながら、外国人には自由に本邦に入国し、あるいは在留する権利が認められるものではなく、あくまでも出入国管理制度の枠の中で入国や在留が認められるのにとどまること(最高裁判所大法廷昭和53年10月4日判決、民集32巻7号1223頁)からすると、
そのような外国人を本邦において使用し、あるいは興行のために供給することを内容とする事業を行う者についても、無制約な営業の自由が認められるものではなく、
あくまでも、出入国管理制度の枠の中で出入国する外国人を使用し、供給する自由が認められるのにとどまるものといわざるを得ない。
このことを前提として考えてみると、本邦に入国しようとする外国人に対して在留資格認定証明書が交付されなければ、仮に当該外国人が同証明書のないまま本邦への上陸を試みようとしても、上陸が認められない可能性が極めて高いものというべきであるから、
当該外国人とってみれば、同証明書不交付処分は、本邦への入国を拒否するのに等しい処分であるということができるものの、
この処分は、あくまでも外国人の入国を拒否する(それを予告する)処分なのであって、その外国人を使用し、あるいは供給しようとする者の事業を禁止する処分ではない。
そして、現在の出入国管理制度の下においては、出入国に係る申請の主体はあくまでも外国人本人であって、原告のような業者が申請の主体となることは認められていないことは前示のとおりである以上、
現行の出入国管理制度の下における営業の自由とは、同制度の下において適法に本邦に入国した外国人を使用して営業を行う自由にとどまるものと解さざるを得ないのであるから、
原告と契約した外国人タレントが本邦に入国できないことそれ自体は、原告の営業の自由を侵害するものと評価することはできないのである。
そうすると、現在の出入国管理制度を前提とする限り、在留資格認定証明書不交付処分によって、原告の営業の自由が侵害されると解することは困難であるといわざるを得ないから、この観点から原告の原告適格を肯定することも困難であるというほかはない。
そして、このように解しても、原告としては、同証明書不交付処分を受けた外国人が、その取消訴訟を提起することに協力するという形で処分行政庁の判断を争うことは可能なのであるし、現行法の下においては、原告の立場がそのような従属的な立場にとどまることもやむを得ないのであって、結果的妥当性を欠くとまではいえないものというべきである。原告の主張は、心情的には理解できないではないとしても、結論的には失当といわざるを得ないのである。
第4 結論
以上、様々な観点から検討してみても、原告には本件各不交付処分の取消しを求める原告適格を認めることはできない(第2次請求の関係では,原告を名宛人とする処分の存在も認めることはできない。)。
したがって、本件訴えは、第1次請求に係る訴え、第2次請求に係る訴えのいずれも不適法というべきであるから、これらを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判官 中 山 雅 之
裁判官 進 藤 壮一郎
裁判長裁判官鶴岡稔彦は異動のため署名押印することができない。
裁判官 中 山 雅 之
タレント目録
1 B(国籍、ロシア)
2 C(国籍、ルーマニア)
3 D(国籍、タイ)
4 E(国籍、ウズベキスタン)
5 F(国籍、ウズベキスタン)
6 G(国籍、モンゴル)
7 H(国籍、ウズベキスタン。在留資格認定証明申請書上の国籍はモンゴル。甲9)
8 I(国籍、ウクライナ)
9 J(国籍、タイ)