不動産取得税の還付の制度

 

 

 

 最高裁判所第1小法廷判決/平成28年(行ヒ)第6号、判決 平成28年12月19日、裁判所時報1666号24頁について検討します。

 

 

 

【判示事項】

 

 地方税法施行令附則6条の17第2項にいう「居住の用に供するために独立的に区画された部分が100以上ある共同住宅等」の該当性は,1棟の共同住宅等ごとに判断すべきである

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 原判決を破棄する。

 被上告人の控訴を棄却する。

 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

       

 

 

 

理   由

 

 上告代理人橋本勇,同茂木伸仁,同黒澤洋介の上告受理申立て理由について

 

1 本件は,土地の取得に対する不動産取得税を納付した被上告人が,当該土地上に建築された複数棟の建物につき同税が減額されるべき住宅に該当するとして,その還付を求める申請をしたところ,東京都都税総合事務センター所長(以下「処分行政庁」という。)からこれを還付しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,上告人を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。

 

 

2 関係法令の定め

 

(1) 地方税法73条の27第1項及び東京都都税条例(昭和25年東京都条例第56号。以下「本件条例」という。)48条の4は,

 

土地の取得に対して課する不動産取得税に係る徴収金を徴収した場合において,

 

当該不動産取得税について,それぞれ同法73条の24第1項1号及び本件条例48条1項1号の規定の適用があることとなったときは,

 

納税義務者の申請に基づいて,当該規定によって減額すべき額に相当する税額及びこれに係る徴収金を還付する旨を規定する。

 

 

(2) 地方税法73条の24第1項1号及び本件条例48条1項1号は,

 

土地を取得した日から2年以内に当該土地の上に住宅(政令で定める住宅に限る。以下「特例適用住宅」という。)が新築された場合

 

(当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る。)

 

においては,当該土地の取得に対して課する不動産取得税は,当該税額から150万円

 

(当該土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を当該土地の面積の平方メートルで表した数値で除して得た額に当該特例適用住宅1戸(共同住宅等にあっては,居住の用に供するために独立的に区画された一の部分で政令で定めるもの。なお,共同住宅等とは,同法73条の14第1項に規定する共同住宅等をいう。)

 

についてその床面積の2倍の面積の平方メートルで表した数値

 

(当該数値が200を超える場合には200とする。)

 

を乗じて得た金額が150万円を超えるときは,

 

当該乗じて得た金額)に税率を乗じて得た額を減額する旨を規定する(以下,この規定を「本件減額規定」という。)。

 

 

 

 

 もっとも,地方税法附則10条の2第2項(平成26年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)及び本件条例附則5条の2の7(平成26年東京都条例第96号による改正前のもの)は,

 

土地の取得が平成16年4月1日から同26年3月31日までの間に行われたときに限り,

 

当該土地を取得した日から同土地の上に特例適用住宅が新築されるまでの期間につき2年以内とあるのを3年

 

(土地の取得の日から3年以内に特例適用住宅が新築されることが困難である場合として政令で定める場合においては,4年)

 

以内とする旨を規定するところ,同法施行令附則6条の17第2項は,上記政令で定める場合として,

 

①当該特例適用住宅が居住の用に供するために独立的に区画された部分(以下「独立区画部分」という。)が100以上ある共同住宅等であって(以下,この要件を「戸数要件」という。),

 

②土地を取得した日から当該共同住宅等が新築されるまでの期間が3年を超えると見込まれることについてやむを得ない事情があると道府県(同法1条2項により都を含む。)知事が認めた場合と規定している。

 

 

 

 

 

 

3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 

(1) 被上告人は,不動産の売買,仲介及びコンサルティングに関する業務等を目的とする株式会社であり,平成20年3月19日,独立行政法人都市再生機構から原判決別紙1土地目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けた。

 被上告人は,平成22年3月9日,A株式会社に対し,本件土地を代金73億円で売却した。

 

(2) 東京都立川都税事務所長は,平成23年5月11日付けで被上告人の本件土地の取得に対する不動産取得税賦課処分をし,被上告人は,同月31日までに,本件土地の取得に対する不動産取得税として7926万6100円を納付した。

 

(3) A株式会社は,平成24年3月5日,本件土地上に建築された原判決別紙2建物目録記載1から6までの各建物(以下「本件各建物」という。)について,それぞれ同年1月30日新築を原因として,表示に関する登記を得た。

 

 本件各建物は,特例適用住宅であって,合計6棟の建物から成り,総戸数は405戸である。各棟はそれぞれ構造的に独立した建物であり,その戸数はいずれも100戸に満たないものであった。

 

 

(4) 被上告人は,平成24年6月13日,処分行政庁に対し,本件土地の取得に対する不動産取得税の還付を求める旨の申請をした。これに対し,処分行政庁は,同年8月9日,被上告人に対し,本件条例48条の4の規定に該当しないとして,不動産取得税を還付しない旨の処分(本件処分)をした。

 

 

4 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,本件処分は違法であり,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

 特例適用住宅の新築に係る不動産取得税の還付の制度は,居住の用に供せられる部分の床面積に着目して,一定の居住性を備えた住宅の供給を促進することを目的とするところ,

 

この点に関しては取得した土地の上に建築される共同住宅等が1棟で独立区画部分を100以上有する場合と複数棟で合計100以上有する場合とで違いがあるとはいえず,行政機関に対する各種申請手続や近隣住民との調整などに時間を要することも同様である。

 

そして,戸数要件について,1棟の共同住宅等ごとに判断されるべきことは法令の文言上明示されておらず,本件減額規定につき明文の規定なくその制度趣旨に反して制限的に適用することが正当化されるものではないから,本件減額規定は,複数棟の共同住宅等で合計100以上の独立区画部分がある場合にも適用される。

 

 

 

 

5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 

(1) 地方税法73条の14第1項は,同法施行令附則6条の17第2項において戸数要件の対象となる共同住宅等につき,

 

「共同住宅,寄宿舎その他これらに類する多数の人の居住の用に供する住宅」と規定し,

 

同法73条4号は,住宅につき,

 

「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分で,政令で定めるもの」と定義しているから,

 

同法施行令附則6条の17第2項の共同住宅等は,家屋に含まれるものと解される。

 

そして,同法73条3号は,家屋につき,

 

「住宅,店舗,工場,倉庫その他の建物をいう。」と定義しているところ,

 

ここでいう建物は,屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し,土地に定着した建造物であって,その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいい,

 

別段の定めがない限り,1棟の建物を単位として把握されるべきものというべきである。

 

 

 そうすると,地方税法施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件を充足するか否かの判断においても,

 

別段の定めがない限り,1棟の共同住宅等を単位とすべきであるところ,

 

この点について別異に解すべきことを定めた規定は設けられておらず,複数棟の共同住宅等を合わせて戸数要件を判断することを前提とした規定も存在しないことに照らすと,

 

 

1棟の共同住宅等ごとに判断することが予定されているというべきである。

 

 

 

 

(2) 以上によれば,地方税法施行令附則6条の17第2項にいう独立区画部分が100以上ある共同住宅等に当たるか否かは,1棟の共同住宅等ごとに判断すべきものと解するのが相当である。

 

これを本件についてみると,本件各建物は,1棟ごとの独立区画部分がいずれも100未満であって戸数要件を満たさないから,本件処分は違法であるとはいえない。

 

 

6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 木澤克之 裁判官 櫻井龍子 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕)