財産の評価 宅地及び宅地の上に存する権利

 

 

 審判所認定地域が各土地に係る広大地通達に定める「その地域」に当たると判断した事例について検討します。

 

 

 

 

 本件は、審査請求人E(以下「兄E」という。)、同F(以下、兄Eと併せて「請求人ら」という。)及び同G(以下「弟G」という。)が、兄E及び弟Gが母からの相続により取得した宅地について、遺産分割が確定したとして、租税特別措置法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して、それぞれ、相続税の更正の請求をしたのに対して、原処分庁が当該宅地の一部は本件特例の適用要件を満たさないなどとして、その請求の一部のみを認めて各更正処分をしたことから、請求人ら及び弟Gが、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 なお、弟Gは、本審査請求後に死亡したため、兄Eが弟Gの地位を承継している。

 

 

 

(1) 本件特例の概要等

 

イ 本件特例に関する規定は別紙2のとおりであり、相続開始直前において、被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(被相続人等)の居住の用に供されていた宅地等であって(措置法第69条の4第1項及び第3項並びに措置法施行令第40条の2第2項。別紙2の1ないし3参照)、

 

下記(イ)ないし(ハ)に掲げた措置法第69条の4第3項第2号の要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(配偶者を除く。)が相続により取得した場合には、

 

当該宅地等は特定居住用宅地等に該当し、限度面積要件を満たすものに限り、小規模宅地等として相続税の課税価格に算入すべき当該宅地等の価額を80%減額するというものである。

 

 

 これは、小規模宅地等については、相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人等において事業の用又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約を受けることが通常であることから、相続税の課税上特別の配慮を加えることとしたものである。

 

(イ) 措置法第69条の4第3項第2号イに規定する要件

 

 1相続開始の直前において、当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族が、

 

2相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、3当該家屋に居住していること

 

 

(ロ) 措置法第69条の4第3項第2号ロに規定する要件

 

 1相続開始の直前において、当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族が無く、

 

2同居していない親族が、相続開始前3年以内に日本国内にその者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがなく、かつ、3相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること

 

(ハ) 措置法第69条の4第3項第2号ハに規定する要件

 

 1相続開始の直前において、当該被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等で、

 

2生計を一にしていた親族が、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、

 

3相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること

 

 

 

 

ロ なお、上記イにいう「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の資を共通にしている場合をいうものと解され、その判断は社会通念に照らして個々になされるべきである。

 

 

 

 

 

 

(2) 検討

 

イ 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲(本件宅地のうち本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地が、本件特例を適用し得るか否か)について (イ) 上記(1)のイのとおり、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲は、相続開始直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族(被相続人等)の居住の用に供されていた宅地等に限られる。

 

(ロ) そこで、本件における上記(イ)の「被相続人等」の居住の用に供されていた宅地等の範囲について検討するに、

 

本件建物は、

 

1階部分と2階部分がそれぞれ区分登記され(上記1の(3)のニの(イ))、

 

玄関も別々で1階と2階を直接行き来することのできる内階段等もなく、

 

日常生活に必要な台所、浴室、トイレ等の設備も別々に備え付けられていて(同ニの(ハ)のA)、

 

各階が独立して生活できる構造になっており、

 

実際の利用状況についても、1階部分は本件被相続人及び弟Gが居住し、2階部分は兄Eが居住していた(同(ハ)のB)。

 

 

 また、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、

 

本件建物に係る電気、ガス及び水道に係る契約は、1階部分及び2階部分が別々に契約され、

 

本件相続の開始前の1階部分の契約者は本件被相続人、2階部分の契約者は兄Eであり、

 

使用料は、契約者がそれぞれ支払っていたこと、

 

上記使用料以外の生活費についても、基本的には、本件被相続人と兄Eが、各自に係る費用をそれぞれ負担していたことが認められる。

 

 

(ハ) 上記(ロ)によれば、まず、本件被相続人の居住の用に供していた宅地については、本件宅地のうち、本件被相続人が居住していた本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地であると認められる。

 

 続いて、残る本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地についてみるに、

 

兄Eは2階部分に居住していたところ、上記(ロ)のとおり、

 

2階部分は、本件被相続人の居住していた1階部分とは構造上明確に区分されている状況にあって、

 

兄Eと本件被相続人は、水道光熱費のほか、基本的な生活費の負担を各自が行っていたというのである。

 

これらの事情を併せれば、兄Eと本件被相続人とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の資を共通にしていたとは認められず、

 

兄Eの当審判所に対する答述ないし回答の内容、具体的には、

 

1本件被相続人が、平日は、自ら費用負担した給食サービスを利用する一方で、週末は、兄Eの妻が調理したものを食しており、その材料費は兄Eが支払っていたこと、

 

2本件被相続人が、晩年入退院を繰り返すようになってからは、入退院時の送迎及び入院中の洗濯などの身の回りの世話は、兄E及びその妻が行い、治療費については本件被相続人が自ら支払う一方で、送迎に必要な費用は兄Eが支払っていたことなどを前提としても、上記認定は左右されない。

 

 よって、本件被相続人と兄Eが生計を一にしていたとは認められず、兄Eは「被相続人等」に該当しないから、本件宅地のうち、本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地は、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等には当たらない。

 

ロ 特定居住用宅地等に該当するか(兄Eに本件特例を適用し得るか)否かについて

 

(イ) 上記(1)のイのとおり、特定居住用宅地等として本件特例の適用を受けるには、親族において、措置法第69条の4第3項第2号イないしハに規定する要件のいずれかを満たす必要がある。

 

(ロ) この点、弟Gについてみると、弟Gは、本件相続が開始するまで、本件被相続人と共に本件建物の1階部分に居住し、本件相続が開始した後も平成28年6月○日に亡くなるまで、本件建物の1階部分に引き続き居住していたから(上記1の(3)のニの(ハ)のB及び(4)のヘ)、措置法第69条の4第3項第2号イに規定する者に該当する(上記(1)のイの(イ)参照)。

 

 

(ハ) 次に、兄Eについて検討する。

 

A 措置法第69条の4第3項第2号イは、被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族であることを要件とするところ(上記(1)のイの(イ)の1)、被相続人が共同住宅の独立部分の一を居住の用に供していた場合には、当該独立部分のみが上記「家屋」に当たると解される。なお、本件通達はこれと同旨の定めである(別紙2の5参照)。

 

 そして、上記イの(ロ)のとおり、本件建物は、1階部分と2階部分がそれぞれ区分登記され、構造上も各々別々に生活できる設備・構造を備え、現実の生活も別々に営まれていたから、

 

本件被相続人の居住の用に供されていた「家屋」は、独立部分すなわち本件建物の1階部分に限られ、

 

当該独立部分以外の独立部分(2階部分)に居住していた兄Eは、同居していた親族に該当せず、措置法第69条の4第3項第2号イの要件を満たさない。

 

 

B また、兄Eは、本件建物の2階部分を区分所有し、そこに居住していたのであるから(上記1の(3)のニの(イ)及び(ハ)のB)、措置法第69条の4第3項第2号ロの要件(上記(1)のイの(ロ)の2)を満たさない。

 

C さらに、上記イの(ハ)のとおり、兄Eは、本件被相続人と生計を一にしていた親族に該当しないので、措置法第69条の4第3項第2号ハの要件(上記(1)のイの(ハ)の1)を満たさない。

 

D したがって、兄Eは、措置法第69条の4第3項第2号に規定する者に該当せず、本件特例を適用することはできない。

 

 

ハ 小括

 以上のとおりであるから、本件宅地については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等である本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のうち、措置法第69条の4第3項第2号イの要件に該当する部分である弟Gの相続した2分の1(上記1の(3)のロ)のみが、特定居住用宅地等として本件特例の適用対象となり(措置法施行令第40条の2第7項)、その他の部分については本件特例を適用することができない(別図参照)。

 

 

(3) 請求人らの主張について

 

イ 請求人らは、本件建物を1階部分と2階部分に区分せずに1棟の建物と考えれば、本件建物は、その全部が本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に該当し、兄Eは本件被相続人と生計を一にしていたものとみなされるし、本件相続開始の直前において、本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者にも該当する旨主張する。

 

 しかしながら、上記(2)のロの(ハ)のAのとおり、被相続人が共同住宅の独立部分の一を居住の用に供していた場合には、当該独立部分のみが、措置法69条の4第3項第2号イに規定する家屋に当たると解されるところ、区分せずに考えるということ自体が、事実を離れたものである。また、本件特例の趣旨(上記(1)のイ)や、請求人らの主張する事情(上記3の(1)のイの1ないし3)をもって、請求人らの考えに沿う解釈が許容されるものでもない。

 

ロ また、請求人らは、弟Gが健康であったならば親と同居することはなかったから、本件通達のなお書に基づいて、兄Eに本件特例を適用すべきである旨主張する。

 

 しかしながら、現実には、本件被相続人の居住の用に供していた家屋である本件建物の1階部分において、弟Gが本件被相続人と起居を共にしている(上記1の(3)のニの(ハ)のB)ところ、

 

本件通達のなお書は、当該被相続人の配偶者又は当該被相続人が居住の用に供していた独立部分に共に起居していた当該被相続人の相続人がいない場合に限り、

 

措置法第69条の4第3項第2号イに該当する者と認める旨定めている(別紙2の5参照)。

 

そうである以上、兄Eは、本件通達のなお書が適用される者には当たらず、仮定の事情を持ち出して本件通達のなお書を適用することもできない。

 

ハ したがって、請求人らの主張は、いずれも理由がない。

 

(4) 本件各更正処分の適法性について

 

争点以外の課税要件及び税額計算の基礎となる金額等について、請求人らは争わず、当審判所の調査の結果によっても、違法ないし不当な点は認められない。そして、上記(2)のハのとおり、弟Gの相続した本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のみを本件特例の適用対象として本件宅地の価額を計算すると、別表2のとおりとなり、当該価額に基づき、請求人ら及び弟Gの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「異議決定」欄の課税価格及び納付すべき税額と同額となる。

 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

 

(5) 結論

 

よって、本審査請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとする。

 

 

(平成28年9月29日裁決)