同業者率を用いた推計の合理性 同業者選定の範囲

 

 

 

 原処分庁が選定した類似同業者の中に選定基準に該当しない事業者が含まれていたと認定した事例について検討します。

 

 

 

 

 本件は、社交飲食店業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原処分庁が所得金額等を推計の方法により算定して更正処分等をしたのに対し、請求人が、事実誤認があるなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

 

 

 

(1) 争点1(請求人の所得税及び消費税等に係る推計課税に必要性及び合理性があるか否か。)について

 

イ 確認された帳簿書類について

 請求人及び原処分庁による提出並びに当審判所の調査の結果、確認された帳簿書類は、以下のとおりである。

(イ) 本件ノート(平成20年3月13日ないし平成21年12月25日の期間に係るもの)

 なお、売掛金については平成20年4月26日以後記載されている。

(ロ) 平成20年4月16日ないし平成23年11月24日の期間に係るf店発行のk社、n社及びp社宛の請求書

(ハ) 本件会計票(平成23年2月26日ないし平成24年4月25日及び同年7月8日ないし同年12月30日の期間に係るもの)

 なお、会計票は、客がf店に入退店した際、接客した女性従業員が記載するものである。

(ニ) 本件メモ(平成23年9月26日ないし同年11月27日の期間に係るもの)

(ホ) 本件各年分の総勘定元帳

 なお、当該総勘定元帳の記載内容をみると、消費税法第30条第8項第1号に規定する上記1の(4)のハの(イ)ないし(ニ)に掲げる事項が記載されていない取引が多数存在する。

(ヘ) 本件金銭出納帳(平成24年1月1日ないし同年12月30日の期間に係るもの)

(ト) 平成20年5月20日に開設され、同年6月30日から振込入金が開始されたf店名義のu銀行○○出張所の普通預金通帳(口座番号○○○○)(以下「本件通帳」という。)

(チ) 平成21年1月1日ないし同年11月12日、平成23年3月16日ないし平成24年4月24日及び同年7月4日ないし同年12月31日の期間に係る仕入れ及び経費の領収書等

 なお、当該領収書等には、消費税法第30条第9項第1号に規定する上記1の(4)のニの(イ)ないし(ホ)に掲げる事項が記載されていないものが多数存在し、また、女性従業員に対する給与の支給が確認できる書類は全くない。

 

 

 

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人は、平成20年2月頃から、第三者が経営していた社交飲食店を任されており、同年○月○日から、これを引き継ぎ、同じ店舗においてf店の経営を開始した。

(ロ) f店は20時から1時まで営業し、その営業形態は、女性従業員に客の応対をさせて飲食させるものであり、女性従業員の指名料を500円としているほか、1時間単位で料金を設定しており、請求人がf店の経営を開始した当初から平成24年12月31日まで、その営業時間、営業形態及び料金に変更はなかった。

(ハ) f店は、請求人がその経営を開始した当初から平成25年2月まで、特定の業者からおしぼりをレンタルしており、客1人に対して少なくとも1本のおしぼりを使用していた。そして、使用したおしぼりのみをレンタル業者に返却し、返却数に見合うおしぼりを注文(レンタル)する方法で、当該期間中、その使用及びレンタルの方法に変更はなかった。

 なお、f店が、

 

平成20年○月○日ないし

 

平成21年12月31日の期間においてレンタルした

 

おしぼりの本数は21,650本であり、

 

平成22年分においては14,250本、

 

平成23年分においては12,700本、

 

平成24年分においては10,850本である。

 

 

(ニ) 請求人の元夫は、請求人がf店の営業を開始した当初から平成24年12月まで、請求人に依頼されて、f店の会計票、仕入れ及び経費に係る領収書等、本件通帳の写し等をg社に持参し、g社は、これらを基に本件各年分の総勘定元帳、本件各年分の所得税並びに平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の確定申告書を作成しており、当該作成手順に変更はなかった。

 

(ホ) 本件ノートは、請求人又はf店のチーママが記載したものであり、記載されている全期間(平成20年3月13日ないし平成21年12月25日)を通じ、1か月単位(前月26日から当月25日まで)で、記載された日付(曜日)の横に、「売上」欄として日々の売上金額、「売上」欄と併記した「掛」欄として日々の売上金額のうちの掛売りの金額及び相手先名、「指名」欄として数日分の指名料の合計金額などが記載され、日々の売上金額については、1か月分を合計した金額が欄外に記載されている。

 

(ヘ) 本件ノートに記載されているk社、n社及びp社に対する平成20年5月1日ないし平成21年12月24日の期間に係る売掛金については、上記イの(ロ)のとおり、f店から当該各社宛に請求書が発行されているところ、同期間に係る当該各社宛の請求書の記載金額の9割以上が本件ノートに記載されており、少なくとも本件ノートに記載された上記売掛金は生じている。

 

(ト) 本件ノートに記載されているk社、n社、p社、v社、m社及びx農業協同組合(現在のy農業協同組合)に対する平成20年5月19日ないし平成21年12月24日の期間に係る売掛金については、平成20年6月30日ないし平成22年1月29日において当該各社から本件通帳に係る口座に振込みがあるところ、当該振り込まれた各金額の9割以上が、本件ノートに当該各社に対する売掛金として記載されており、少なくとも本件ノートに記載された上記売掛金は生じている。

 

(チ) 上記(ニ)のとおり、g社は、請求人の元夫が持参した会計票等を基に本件各年分の総勘定元帳等を作成しているところ、本件会計票が存する平成23年2月26日ないし平成24年4月25日及び同年7月8日ないし同年12月30日の期間においては、本件会計票に記載された売上金額と総勘定元帳に記載された売上高勘定の金額がほぼ一致している。

 

(リ) 会計票の「TOTAL」欄の左には順次番号が付されており、当該番号によれば、平成23年2月26日ないし平成24年4月25日の期間について4,429枚の会計票が使用されているところ、

 

同期間に係る本件会計票については、1,480枚の欠番がある。また、同年7月8日ないし同年12月30日の期間に係る本件会計票については、「TOTAL」欄の左の箇所が切り取られており、番号の判別ができない。

 

(ヌ) 上記(ロ)のとおり、f店では、接客した女性従業員に1回当たり500円の指名料を支払っていることからすると、本件メモ(平成23年9月26日ないし同年11月27日の期間に係るもの)は、指名料を算定するために女性従業員ごとの指名数を記載したメモであると認められる。

 

そして、本件メモに記載されている指名数の合計は2,780であるにもかかわらず、本件会計票(平成23年9月26日ないし同年11月27日の期間に係るもの)に記載されている指名数の合計は1,680であり、1,100の差が生じている。

 

(ル) 平成21年分の総勘定元帳に記載されている売上金額は、本件ノートに記載されている同年分の売上金額の約半分の額である。

 

(ヲ) 本件金銭出納帳を作成した請求人の元夫は、異議申立てに係る調査を担当した職員に対し、本件金銭出納帳をどの書類から、いつ作成したのかはっきりと覚えていない旨申述していることから、本件金銭出納帳は、何を基に、いつ作成されたのか不明である。

 

(ワ) 原処分庁は、e、q、r、s及びt税務署において、当該各署の管轄内でバー、スタンドバー、キャバレーを営む者のうち、次の基準の全てに該当する者を請求人の類似同業者として、別表4―1ないし別表4-4の「原処分庁の主張」欄のとおり抽出し、本件各年分の平均特前所得率を算定した。

 

A 青色申告者

B f店の売上金額の0.5倍以上2倍以下であること

C 年中途での開廃業がないこと

D 調査中又は不服申立て中でないこと

E 複数店舗経営でないこと及び兼業でないこと

F 青色事業専従者がいないこと

 

 

ハ 判断

(イ) 推計課税の必要性について

A 上記ロの(ホ)ないし(ト)のとおり、本件ノートには1か月単位で日々の売上金額等が記載されているところ、本件ノートに売上金額の内書として記載されている売掛金の額は、平成20年5月1日ないし平成21年12月24日においてf店がk社等3社に対して発行した請求書の金額と9割以上が一致している。また、k社等6社から平成20年6月30日ないし平成22年1月29日において本件通帳に係る口座に振り込まれた金額も、同6社に対する売掛金として本件ノートに記載されている金額と9割以上が一致していることからすると、本件ノートに売上金額の内書として記載された売掛金の額は、f店において実際に生じた売掛金の額であると認められる。そして、上記ロの(ホ)のとおり、本件ノートは、1年9か月にわたる詳細な記録であり、売掛金として記載された額が、日々の売上金額として記載された額と併記して、その内書として記載されていることからすると、本件ノートに記載された売上金額はf店の売上金額を記載したものとして一定の信ぴょう性がある(少なくとも当該記載された売上金額は生じている)ものと認められる。

 

 他方、1上記ロの(チ)のとおり、平成23年2月26日ないし平成24年4月25日及び同年7月8日ないし同年12月30日の期間に係る総勘定元帳の売上金額は、本件会計票に記載された売上金額とほぼ一致するものであるが、

 

1上記ロの(リ)のとおり、本件会計票には多数の欠番がある上、請求人に対して原処分に係る調査が開始された頃以降の本件会計票については、一連番号の判別ができないように不自然な切り取りが行われていること、

 

2上記ロの(ヌ)のとおり、本件会計票から算定した指名数は、本件メモの指名数より1,100も下回っていることからすると、

 

当該期間においてg社に持参された会計票は、実際に作成された会計票の一部であると認められる。

 

そして、2上記ロの(ニ)のとおり、請求人が事業を開始した当初から平成24年12月まで、請求人の元夫がg社に会計票等を持参して総勘定元帳を作成させており、当該作成手順に変更がないこと、3上記ロの(ル)のとおり、平成21年分の総勘定元帳に記載されている売上金額は、本件ノートに記載されている同年分の売上金額の約半分の額であることからすると、上記1の期間のみならず、平成21年分ないし平成24年分の全ての期間において、実際に作成された会計票の一部のみがg社に持参され、当該会計票の一部のみに基づいて総勘定元帳が作成されたといえる。

 

したがって、本件各年分の総勘定元帳には、f店の全ての売上金額が正確に記載されているとは認められない。

 

 

また、上記イの(ホ)のとおり、本件各年分の総勘定元帳には、必要経費に係る記載の不備が多数存在するところ、上記イの(チ)のとおり、仕入れ及び経費に係る領収書等は一部であって必要事項が記載されていないものが多数含まれている上、女性従業員に対する給与の支給が確認できる書類は全くなく、必要経費につき、総勘定元帳の記載内容の正確性を確認できない。

 

さらに、本件金銭出納帳については、上記ロの(ヲ)のとおり、いかなる資料を基に作成されたか不明であって、信ぴょう性を欠く。

 

 

 以上のとおり、請求人の事業に係る平成20年分及び平成21年分の売上金額は、本件ノートにより把握することができるものの、本件各年分の事業所得の金額及び平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税の課税標準額については、総勘定元帳、本件金銭出納帳及び領収書等からは把握することができず、実額を把握するに足りる資料が存在しないといえることから、推計課税の必要性があったものと認められる。

 

B また、請求人は、当審判所に対しても新たな帳簿書類の提示を行うなどして、その主張する本件各年分の事業所得の金額が正当であることを裏付ける具体的な説明をしなかったことから、当審判所においても、推計の方法により本件各年分の事業所得の金額を算定せざるを得ない。

 

(ロ) 推計課税の合理性について

 

 一般に推計課税の合理性が肯定されるためには、

 

1推計の基礎となるべき事実、例えば比率法が適用される場合には、この比率を乗ずべき納税者の売上金額等が正確に把握されていること、

 

2種々の推計方法のうち、当該事案に適切と考えられる方法が選択されたこと、

 

3具体的な推計方法が、できる限り所得の実額に近似した数値が算出され得る客観性を有すること、具体的には、同業者比率法を用いる場合、

 

1対象となる同業者の類似性(業種・業態、立地条件、事業規模等)、

 

2資料の正確性、

 

3抽出過程における恣意の排除、

 

4同業者率の内容の合理性等の要件が満たされていることを要する。

 

A 1平成20年分及び平成21年分の売上金額並びにおしぼり1本当たりの売上単価の正確性

 

 上記1の(3)のロのとおり、原処分庁は、本件ノートに記載された平成20年分及び平成21年分の売上金額を基におしぼり1本当たりの売上単価を算出しているところ、上記(イ)のとおり、平成20年分及び平成21年分の売上金額の算定資料となった本件ノートに記載されたf店の売上金額には一定の信ぴょう性があると認められること、また、おしぼりのレンタル業者において把握した本数は、レンタル業者において取引先に対する納品の都度記載された記録に基づき把握されたものであることからすると、原処分庁が推計の基礎とした平成20年分及び平成21年分の売上金額並びに両年分におけるおしぼり1本当たりの売上単価は正確に把握されているものと認められる。

 

B 2推計方法の選択の適切性

 

 上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人がf店の経営を開始した当初から平成24年末までの期間において、その営業形態は、女性従業員に客の応対をさせて飲食させるものであり、その際、必ずおしぼりを使用し、使用した数に見合うおしぼりをレンタル業者に注文(レンタル)することから、客数に応じておしぼりのレンタル本数も増減するものと認められ、また、営業時間、営業形態及び料金、おしぼりの使用及びレンタルの方法に変更がなかったことからすると、上記期間においては、客数とおしぼりのレンタル本数とは比例関係にあるということができ、さらに、f店の売上げは客数に比例することは明らかであるから、f店の売上金額は、おしぼりのレンタル本数と比例関係にあるといえる。

 

 そして、上記1の(3)のロのとおり、原処分庁は同業者比率法を用いて推計しているところ、およそ、類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の収入に対し同程度の所得を得ることが通例であり、請求人の事業において同業者と異なる特段の事情があるとは認められず、また、類似の同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、平均値を算出する過程で捨象されるものであり、算定に当たって殊更影響を及ぼすものではない。

 

 以上のことからすると、原処分庁が採用した推計方法には合理性があると認められる。 

 

 

C 3原処分庁による具体的な推計方法

 

 原処分庁は、平均特前所得率の算定に当たって、類似の同業者を抽出する選定基準を上記ロの(ワ)のとおり設定しているところ、かかる選定基準についてみると、選定対象となった事業者は、f店の所在地を管轄するe税務署及び同税務署と隣接するq、r、s及びt税務署の管轄内に納税地及び事業所(店舗)を有する事業者に限定し、地域差による収益等のかい離を回避している。

 

また、選定対象とした業種・業態をバー、スタンドバー、キャバレーに限定しているところ、これは、上記ロの(ロ)のとおり、女性従業員に客の応対をさせるf店の営業形態との同一性に配慮したものと認められ、かつ、売上金額がf店の売上金額の0.5倍以上2倍以下であり、複数店舗経営及び兼業でなく、青色事業専従者がいないなど事業規模等においても、上記1の(2)のイのような請求人の事業規模等との類似性を十分に考慮していることから、選定対象となる同業者の類似性は満たされているといえる。

 

このような選定基準に基づき、これに該当する事業者を機械的に抽出することにより、抽出過程に関係者の恣意が介入することは回避できる。

 

さらに、抽出される同業者は、青色申告者であって、年中途の開廃業がないこと、調査中又は不服申立て中でない者としており、年を通じた収入金額等を正確に把握する上で障害となるような不確定要素を有する者が除外されているとともに、青色申告制度が日々の取引を所定の帳簿に記帳し、その記帳に基づいて申告をする制度であることに鑑みると、抽出される同業者に係る資料及び金額の正確性は担保されているといえ、原処分庁による推計の方法自体は相当であると認められる。

 

 しかしながら、当審判所の調査によれば、原処分庁が類似の同業者として抽出した事業者の中には、上記ロの(ワ)の原処分庁が設けた選定基準に該当しない事業者が13件含まれていることから、これらを類似の同業者から除外した別表4-1ないし別表4-4の「審判所の認定」の「平均」欄の数値をもって、本件各年分の平均特前所得率とするのが相当である。なお、当該13件を除外した後の本件各年分に係る類似の同業者数は15件ないし33件であることが認められ、同業者の個別性を平均化するに不足はない。

 

 

ニ 請求人の主張について

 

 請求人は、請求人がf店の経営を開始したのは平成20年○月○日であるにもかかわらず、本件ノートは同年3月13日から記載されていること、請求人が○○している期間においても本件ノートに記載があることからすると、本件ノートは、請求人が、請求人の事業の売上げを記載したものではない旨主張する。

 

 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、第三者によって経営されていたf店の従前の事業を平成20年2月頃から任され、同年○月○日にこれを引き継いでいることからして、本件ノートが同年3月13日から記載されていても何ら不自然ではない。また、推計の合理性に関しては、本件ノートに請求人の事業に係る売上げが記載されているか否か及びその信ぴょう性が問題となるところ、上記ハの(イ)のAのとおり、本件ノートに記載されたf店の売上金額等には一定の信ぴょう性が認められるのであって、本件ノートを請求人自身が記載したか否かは上記判断を左右するものでなく、請求人の主張は理由がない。

 

(2) 争点2(平成23年課税期間について、消費税法第30条第1項の適用により控除される額はいくらか。)について

 

イ 上記1の(4)のロないしニのとおり、消費税法第30条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、同条第1項の規定を適用しない旨規定し、同条第8項及び第9項は、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等の記載事項について規定している。

 

 すなわち、納税者が課税仕入れ等の税額に係る帳簿及び請求書等として保存していた書類であっても、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載事項を満たさないものは、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等に該当せず、その結果、当該書類に係る課税仕入れ等の税額について、同条第1項の規定を適用することはできないことになる。

 

ロ これを本件についてみると、上記(1)のイの(ホ)及び(チ)のとおり、請求人の平成23年課税期間に係る総勘定元帳及び領収書等については、消費税法第30条第8項第1号及び同条第9項第1号に規定する法定事項が記載されていない取引が多数存在する上、領収書等も保存されていない取引があり、かかる取引については、同条第1項の規定を適用することはできない。

 

 この結果、平成23年課税期間において、消費税法第30条第1項の規定により課税仕入れに係る税額として控除されるのは、別表6の「審判所認定額」欄の○○○○円に限られる。

 

(3) 争点3(請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠ぺい又は仮装」並びに通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

 

イ 認定事実

 

 原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる

 

(イ) f店では、上記(1)のイの(ハ)のとおり、客が入退店した際に、接客した女性従業員が会計票を記載していた。

 請求人は、上記(1)のロの(ニ)のとおり、本件各年分の全ての期間において、請求人の元夫に依頼して、会計票、領収書等及び本件通帳の写し等をg社に持参させ、g社が、当該会計票等に基づき本件各年分の総勘定元帳等を作成するとともに、当該総勘定元帳等に基づき本件各年分の所得税の確定申告書並びに平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の確定申告書を作成した後、これらの確定申告書を原処分庁へ提出していた。

 なお、上記(1)のロの(チ)のとおり、本件会計票に記載された売上金額とg社作成の上記総勘定元帳に記載された売上金額は、ほぼ一致している。

 

(ロ) 一方、上記(1)のロの(リ)及び(ヌ)のとおり、本件会計票に付された一連番号をみると相当数の番号の欠落が認められるとともに、本件メモに記載された女性従業員の指名数が本件会計票に記載された指名数を相当数上回っていることからすると、原処分に係る調査時に請求人の自宅に存していた会計票(本件会計票)は、f店において女性従業員が作成した会計票の全てではなく、相当数の欠落がある。

 

 そして、上記(1)のハの(イ)のAのとおり、本件ノートの記載内容には一定の信ぴょう性があるところ、平成21年分の総勘定元帳に記載された売上金額は、本件ノートに記載された同年分の売上金額の約半分の額であって、本件各年分の全ての期間において、総勘定元帳に記載された売上金額は、f店で作成された全ての会計票の売上金額を反映したものではない。

 

(ハ) 上記(イ)のとおり、請求人は請求人の元夫に依頼して会計票等をg社に持参させていたところ、会計票は、月に1回、仕入れ及び経費に係る領収書等並びに1か月分の支払を済ませた後の現金と併せて、f店のチーママから請求人あるいは請求人の元夫に渡されていたものであり、請求人は、原処分に係る調査の当初、本件ノートに記載された平成21年分の売上金額が確定申告書に記載された売上金額と異なる理由について、「売上げが多かったときに自宅で会計票の一部を破棄し、残りの会計票だけをg社に渡していた。」旨申述し、他の年分についても、「会計票の一部だけをg社に渡し、渡さなかった会計票は破棄した。」旨申述していることを併せ考慮すれば、請求人はg社に会計票を持参させる前に、その一部を破棄していたものと認められる。

 

ロ 法令解釈

 通則法第68条第1項及び第2項の規定は、上記1の(4)のホ及びヘのとおりであり、ここでいう「事実を隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠匿しあるいは故意に脱漏したことをいい、

 

また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。

 

 また、通則法第70条第4項の規定は、上記1の(4)のトのとおりであり、

 

ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。

 

 

ハ 当てはめ

 上記イのとおり、請求人は、会計票の一部を破棄し、請求人の元夫に依頼して、破棄した残りの会計票をg社に持参させることにより、f店の売上金額の一部を除外した総勘定元帳を作成し、その上で、当該総勘定元帳に基づく所得税及び消費税等の確定申告を行い、又は確定申告を行わなかったものであり、このことは、f店の売上げについて、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出していたこと、又は法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことに該当するとともに、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にする不正な行為にも該当する。

 

ニ 請求人の主張について

 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり主張する。

 しかしながら、上記イのとおり、請求人は、原処分に係る調査の際、会計票の一部を破棄し、残りの会計票だけをg社に提出している旨を申述しており、その後、当該申述の内容は変更されているものの、当該変更の理由について請求人から合理的な説明はない。むしろ、会計票が請求人あるいは請求人の元夫を介する形でg社に渡されていたこと、本件会計票には、事実、相当数の番号の欠落が認められたことからすれば、原処分に係る調査の当初の請求人の申述に不自然な点はなく信用できる。その上、申述の内容が変更された後、

 

 

請求人から、1本件会計票には相当数の欠落が認められること、2請求人に対する調査が開始された頃以降の本件会計票においては一連番号の判別ができないように不自然な切取りが行われていること、3本件メモと本件会計票に記載された指名数の開差があることのいずれについても合理的な理由の説明がなかったことからすると、「会計票の一部を除くことは一切していない。」、「会計票の抜取りはあり得ない。」などの請求人の主張を認めることはできない。

 

 

(4) 本件各年分の所得税の各更正処分の適法性について

 

イ 総収入金額

 上記(1)のハの(イ)のとおり、本件ノートには、平成20年分及び平成21年分の請求人の事業に係る売上金額が記載され、また、本件各年分において推計課税の必要性はあると認められるところ、本件ノートから総収入金額を計算すると、別表3-1の「審判所の認定」欄のとおり、平成20年分は○○○○円、平成21年分は○○○○円となる。そして、上記(1)のハの(ロ)のBのとおり、原処分庁が採用した推計方法には合理性が認められるところ、平成22年分ないし平成24年分の総収入金額については、上記(1)のロの(ハ)の当該年分のおしぼりのレンタル本数に、おしぼり1本当たりの売上単価○○○○円(本件ノートから把握した平成20年分及び平成21年分の売上金額の合計額○○○○円を同期間におけるおしぼりのレンタル本数の合計21,650本で除した金額)を乗じて算定すると、別表3-2のとおり、平成22年分は○○○○円、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円となる。

 

ロ 事業所得の金額

 上記(1)のハの(ロ)のCのとおり、平均特前所得率の算定の基礎とする類似の同業者を別表4-1ないし別表4-4の「審判所の認定」欄のとおり訂正して平均特前所得率を算定し、これを上記イの本件各年分の総収入金額に乗じて請求人の事業所得の金額を計算すると、本件各年分の事業所得の金額は別表5の「審判所の認定」欄のとおりとなる。

 

ハ 納付すべき税額

 以上によれば、本件各年分の所得税の納付すべき税額は、別表7の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成22年分については、原処分の額を上回るから、平成22年分の所得税の更正処分は適法であるが、平成21年分、平成23年分及び平成24年分については、原処分の額を下回るから、平成21年分、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

 

(5) 平成22年課税期間の消費税等の決定処分の適法性について

 

上記(4)のイのとおり、請求人の平成22年課税期間の基準期間(平成20年1月1日ないし同年12月31日)の課税売上高は○○○○円であり1,000万円を超えていることから消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》(平成27年法律第9号による改正前のもの)の規定の適用はなく、請求人は、平成22年課税期間につき消費税を納める義務があると認められる。そして、上記(4)のイの平成22年課税期間に係る総収入金額○○○○円を基に、当審判所において平成22年課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおり原処分の額と同額となる。したがって、平成22年課税期間の消費税等の決定処分は適法である。

 

(6) 平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の各更正処分の適法性について

 

イ 平成23年課税期間

 上記(4)のイのとおり、平成23年課税期間の総収入金額は○○○○円であり、上記(2)のロのとおり、平成23年課税期間の控除対象仕入税額は○○○○円になるところ、当審判所において平成23年課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおりとなり、この額は原処分の額を上回るから、平成23年課税期間の消費税等の更正処分は適法である。

ロ 平成24年課税期間

 上記(4)のイのとおり、平成24年課税期間の総収入金額は○○○○円であり、上記1の(2)のハのとおり、請求人は、平成23年11月16日に消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、第4種事業を営む事業者であると認められるところ、当審判所において平成24年課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおり原処分の額と同額となる。したがって、平成24年課税期間の消費税等の更正処分は適法である。

 

(7) 本件各年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について

 

上記(3)のハのとおり、請求人は通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れ、

 

また、本件各年分において、請求人に通則法第68条第1項に規定する隠ぺい行為があったと認められるところ、

 

請求人は、隠ぺいしたところに基づき、本件各年分の所得税の確定申告書を提出したと認められることから、請求人につき同項所定の重加算税の賦課要件を満たしているといえる。

 

 そして、当審判所において、本件各年分の所得税に係る重加算税の額を計算すると別表7の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成22年分については、原処分の額と同額となるから、平成22年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分は適法である。

 

 しかしながら、平成21年分、平成23年分及び平成24年分の所得税に係る重加算税の額については、上記(4)のハのとおり、平成21年分、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の一部が取り消されることに伴い、原処分の額を下回ることになるから、平成21年分、平成23年分及び平成24年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

 

(8) 平成22年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分の適法性について

 

上記(5)のとおり、平成22年課税期間の消費税等の決定処分は適法であり、通則法第66条第1項所定の要件を充足するところ、期限内申告書の提出がなかったことについて、請求人に同項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において、平成22年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおり原処分の額と同額となる。したがって、平成22年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

 

(9) 平成23年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分の適法性について

 

上記(6)のイのとおり、平成23年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の基礎とされなかったことについて、請求人に同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において、平成23年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおり原処分の額と同額となる。したがって、平成23年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

 

(10) 平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について

 

上記(3)のハのとおり、請求人に通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい行為があったと認められ、請求人は、隠ぺいしたところに基づき、納税申告書を提出した又は法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったと認められることから、請求人につき同条各項所定の重加算税の賦課要件を満たしているといえる。

 

 そして、当審判所において、平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税等に係る重加算税の額を計算すると別表8の「審判所認定額」欄のとおり原処分の額と同額となる。したがって、平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。 

 

 

(平成28年9月8日裁決)