所得の帰属 親子間における所得の帰属

 

 

 

 

 本件における飲食店の経営主体が請求人である旨の原処分庁の主張を排斥した事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

(1) 争点1(g店の事業に係る本件各年分における所得及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価は、請求人又は父P3のいずれに帰属するか。)について

 

イ 法令解釈

 

収入が何人の所得に属するかは、何人の勤労によるかではなく、何人の収入に帰したかで判断される問題である。

 

 これを事業所得についてみると、事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、

 

当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきである。

 

 

ロ 認定事実

 

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

 

(イ) 平成17年の新装開店前のg店の状況等 A 祖母P4の昭和53年分の所得税の確定申告書の控えによれば、g店の事業に係る昭和53年分の所得税は同人名義で申告されており、当時、父P3は祖母P4の事業専従者となっていた。

 

B 祖母P4は、平成元年10月2日に原処分庁に対して、g店の事業に係る「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しており、昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者となる旨及び当該課税期間から消費税簡易課税制度の適用を受ける旨を届け出た。

 

C 祖母P4は、平成13年11月15日に原処分庁に対して、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出し、平成13年1月1日から平成13年12月31日までの課税期間から消費税の納税義務がなくなった旨を届け出た。

 

D 祖母P4は、平成15年1月24日に原処分庁に対して、g店の事業に係る消費税の「事業廃止届出書」を提出し、平成13年12月31日に事業を廃止した旨を届け出た。

 

E 祖母P4は、少なくとも平成6年11月16日から平成21年11月30日まで、f市保健所長からg店の事業に関して3年又は6年ごとに食品衛生法上の営業許可を受けていたが、同保健所長に対し、廃業した旨を平成17年7月22日に届け出た。

 なお、祖母P4は、平成21年11月○日に死亡した。

 

F 祖母P4は、g店の事業に関して平成6年12月29日にx2信用金庫から設備資金として14,000,000円の借入れをしており、当該借入金は、平成16年6月21日に完済された。なお、当該借入れにおいて父P3と兄P6が連帯保証人となっていた。

 

(ロ) g店の新装開店時の状況

 

A g店の店舗建物は、上記1の(4)のイの(イ)のBのとおり、賃借物件で平成16年の半ば頃から平成17年7月頃にかけて新しい建物に建て替えられた。父P3は、g店の新たな内装工事費用に充てるため、x2信用金庫○○支店と平成17年6月30日付で本件金銭消費貸借契約を締結し、16,000,000円を借り入れた。

 

この借入れは、e県の中小企業制度融資のうち小規模企業融資として行われたものであり、個人事業者が借主の場合には、事業承継者を保証人とすることとされ、請求人が連帯保証人となっていた。

 

 なお、本件金銭消費貸借契約に際してx2信用金庫○○支店が作成した書面には、父P3は、祖母P4が経営していたg店に36年以上勤務し、平成15年頃から経営者になった旨の記載がある。

 

B 父P3は、N社を請負者とする工事請負契約(本件工事請負契約)を平成17年7月1日付で締結し、g店の内装工事を17,167,500円で発注した。

 

C 請求人及び父P3は、上記Aの借入金の金額と上記Bの内装工事の金額との差額1,167,500円について、父P3名義のx2信用金庫○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、上記Aの借入金が入金され、かつ返済口座でもあり、以下「本件内装費用借入口座」という。)に平成17年7月12日に2,267,500円の現金入金があることを根拠に、父P3が自己資金で支払った旨当審判所に回答しているところ、これに反する証拠は存しない。

 

D 平成28年1月26日付でL社○○支店長が父P3宛に発行した「火災保険付保証明書」と題する書面及び契約日をそれぞれ平成18年7月28日、平成19年7月28日及び平成20年7月29日とする店舗総合保険証券並びに当審判所の同保険会社に対する調査の結果によれば、

 

父P3は、同保険会社との間でg店の設備什器等を保険の対象とする本件火災保険契約を、平成17年7月26日から平成26年10月3日まで締結していた(なお、本件火災保険契約は保険期間を1年とするものであり、年によっては次の契約まで数日、また、平成25年においては同年7月28日から10月2日まで保険期間の空白がある。)。

 

(ハ) 本件各年分のg店の資産の状況

 

A 本件各年分父P3決算書の貸借対照表の資産の部の内訳は別表5のとおりであり、g店の事業に係る資産の大部分は、建物附属設備、車両運搬具及び工具・器具・備品の減価償却資産並びに差入保証金(差入保証金840,000円のうち、800,000円はg店の店舗に係る敷金、40,000円は○○保証金である。)によって占められ、この減価償却資産及び差入保証金のうち店舗敷金800,000円の合計額が資産の合計額に占める割合は同表14欄のとおり、平成23年末は○○%、平成24年末は○○%及び平成25年末は○○%に達している。

 

B また、本件各年分父P3決算書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産の内訳は、別表6のとおりである。

 

(ニ) 法律行為等の名義

 

 平成23年ないし平成25年(以下「本件各年」という。)において、g店の事業の遂行上行われている法律行為等の名義に関しては、上記(ロ)のDのとおり、本件火災保険契約が父P3名義で行われ、また、上記1の(4)のイの(ロ)のBのとおり、平成17年営業許可が請求人の名義で取得されているほか、次の事実が認められる。

 

A 本件賃貸借契約

 本件賃貸借契約は、平成14年4月26日以降、少なくともその更新の都度、建物賃貸借契約公正証書が作成されており、当該公正証書によれば、平成14年ないし平成25年中の内容は、要旨次表のとおりである。

 

 

 

 

契約締結日

 

賃借人

 

賃貸借期間

 

平成14年4月26日  祖母P4(代理人父P3)  平成14年5月1日から平成17年4月末日 

平成17年6月1日   父P3          平成17年7月29日から平成20年7月28日 

平成20年7月15日              平成20年7月29日から平成23年7月28日 

平成23年7月21日              平成23年7月29日から平成26年7月28日 

 

上記のいずれの契約においても、賃貸人の承諾を得ずして賃借人の家族、使用人以外の第三者による事実上の使用は禁止されており、また、敷金については、800,000円を賃貸人が賃借人から受領したとされ、賃貸人は、賃貸借の終了時に賃貸部分の返還を受けると同時に、無利息で賃借人に返還することとされているが、父P3の当審判所に対する答述によれば、敷金は祖母P4が支払ってからそのまま据え置かれている。

 

B 本件加盟店等契約

 

 申込日をいずれも平成23年1月26日とするクレジットカードの加盟店申込書及びクレジットカード決済による売上代金を週1回決済とする内容の早期決済申込書によれば、申込者を記載する「代表者について」欄には、請求人○○及び当時の住所地などが記載されている。また、これらの申込書において、売上代金の振込口座は、g店口座とされている。

 

 なお、上記のとおり、本件加盟店等契約は、加盟店募集代行業務及び早期決済支払代行業務等を業務内容とするQ社と締結した早期決済申込みと、同社を通じてR社と締結したクレジットカードの加盟店申込みから成る。早期決済申込書には、営業許可に関して、許可年月日、営業種別、許可番号及び許可取得者名を記載する欄があり、これらの欄には、平成17年営業許可(上記1の(4)のイの(ロ)のB)に基づく内容が記載されている。

 

C 本件リース契約

 

 平成23年4月1日付でM社を貸主とし、g店に設置するオーダーエントリーシステムをリースする内容の本件リース契約に係る契約書によれば、「リース申込者名」欄には、「H代表」と請求人○○が記載され、また、「連帯保証人(代表者)」欄には、請求人○○及び当時の請求人の住所地などが記載されている。

 なお、本件リース契約に基づくリース料を、以下「本件リース料」という。

 

D g店の事業に係る税務申告の名義(父P3がg店の事業に係る申告を始めた時期)

 

 祖母P4は、上記ロの(イ)のBないしDのとおり、昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者となり、平成13年1月1日から平成13年12月31日までの課税期間から消費税の納税義務がなくなった旨を届け出たことからすると、

 

g店の事業に係る消費税等について、その間の課税期間のうち、その課税期間の当時において施行され適用を受ける消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定により消費税の納税義務が免除された課税期間を除いて確定申告をしていたものと推認される。

 

そして、祖母P4は、平成13年12月31日を事業廃止年月日として届け出たことからすると、g店の事業に係る所得税について、平成13年分頃まで確定申告をしていたものと推認される。

 

 一方、上記1の(4)のロの(イ)のA、C及びDのとおり、父P3が平成15年分以後の所得税から青色承認申請をし、平成15年1月1日に給与支払事務所を開設した旨を届け出たことからすると、

 

父P3は、g店の事業に係る所得税について、平成14年分あるいは平成15年分から申告し始めたものと推認され、また、消費税等については、父P3が平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間につき消費税の課税事業者となった旨を届け出たことからすると、当該課税期間以降、父P3が本件各課税期間まで申告してきたものと推認される。

 

 

 なお、父P3の平成15年分所得税青色申告決算書(一般用)の控えの「給料賃金の内訳」欄には、兄P6への給料賃金支給額が年間合計○○○○円である旨記載されているが、父P3の平成16年分所得税青色申告決算書(一般用)の控えの同内訳には、兄P6への給料賃金支給額は記載されていない。

 

 

(ホ) 収支の管理の状況

 

 g店の事業に係る売上げ、仕入れ及び経費等並びにg店口座の管理状況につき、請求人、父P3及び妻P7の申述等によれば、次の事実が認められる。

 

 

A 売上げ、仕入れ及び経費について

 

(A) g店の日々の売上げは、請求人がPOSレジ(販売時点情報管理機能付きキャッシュレジスター)で管理し、夜11時に同レジを締めて、現金払いの仕入れ及び福利厚生費に係る現金並びに翌日の釣銭50,000円を売上げから差し引いていた。そして、この差し引かれた後の売上金は、売上げの日ごとに分けて、妻P7がg店口座に入金していた。

 

(B) 仕入れ及び経費は、現金又は振込みで妻P7がg店口座から出金して支払っていた。なお、従業員の給与は、月末に各人ごとにg店口座から出金していたが、請求人と妻P7の給与はその時は出金せず、食費等の生活費として必要な時に妻P7が出金し、本件通帳に「生活費」と記載していた。

 

(C) 妻P7は、g店の経理を担当しており、入出金伝票の起票などをするほか、月に一度、当時の関与税理士に本件通帳、仕入れの請求書、入出金伝票及び給与賃金の支払明細書などを渡していた。

 

B g店口座の管理について

 

(A) g店口座の入出金は、妻P7しか行わず、父P3が行うことはなかった。本件通帳及び本件キャッシュカードは、請求人の自宅で保管されていた。

 

(B) 本件通帳には、現金による入金額及び出金額付近の余白に「生活費」、「給料」、「jに貸す」、「j家賃」、「支店に貸す」、「支店にかえす」、「借入れ」、「j店」及び「支店から」等の文字が手書きされている。

 

 

(ヘ) 収益の享受の状況

 

 上記(ホ)のAの(B)のとおり、g店口座から請求人の生活費等が出金されているところ、

 

本件各年においてg店の事業から支出された請求人及び妻P7の生活費等については、

 

当審判所に対する請求人及び父P3の回答によれば、平成23年は○○○○円、平成24年は○○○○円及び平成25年は○○○○円と算出され、原処分庁の回答によれば、同Bの(B)の本件通帳に記載されているメモのうち、「生活費」と記載されたもの及び「支店に貸す」などj店への出金である旨の記載があるものを年ごとに合計することにより、平成23年は○○○○円、平成24年は○○○○円及び平成25年は○○○○円と算出された。

 なお、父P3は、g店の事業から生活費等を得ていなかった。

 

 

(ト) 損失等の負担の状況

 

A 本件各年におけるg店及びj店の経営状況

 

(A) g店の事業は、別表4の「B 父P3申告額(g店)」欄のとおり、本件各年分においては連年損失(平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円及び平成25年分は○○○○円の損失)が生じており、j店の事業も、同表の「A 請求人申告額(j店)」欄のとおり、平成23年分は○○○○円の損失が生じている。

 

(B) また、別表7のとおり、父P3の平成22年分の所得税青色申告決算書(一般用)及び本件各年分父P3決算書並びに請求人の平成22年分及び平成23年分の各所得税青色申告決算書(一般用)によれば、g店の事業は、本件各年において平成23年末は○○○○円、平成24年末は○○○○円及び平成25年末は○○○○円の事業主借の状態となっており、j店の事業も事業を開始した平成22年分は元入金○○○○円から事業主貸○○○○円を差し引いた○○○○円が事業主の元入れ、平成23年末は○○○○円が事業主借の状態となっている。

 

B 本件金銭消費貸借契約に係る借入金の返済

 

 本件金銭消費貸借契約に係る借入金は、父P3名義である本件内装費用借入口座から返済されているところ、少なくとも本件各年中における当該借入金の返済原資は、g店口座から出金され、本件内装費用借入口座に入金された金員である。

 

C 本件リース料の支払

 

 本件リース料は、支払回数3回目以降口座引落しとされており、その引落し口座として、本件リース契約に係る契約書には請求人○○の名義であるx1信用金庫○○支店普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件リース料引落し口座」という。)が記載されている。

 

本件各年の間、本件リース料引落し口座へは、請求人のj店の事業に係る売上げや経費等を管理していたx1信用金庫○○支店の請求人○○の名義である普通預金口座(口座番号○○○○、以下「j店口座」という。)から出金された200,000円(平成23年2月10日)、g店口座から出金された250,000円(同年6月27日、なお、本件通帳のメモ書きによれば「借 S社(j)」と記載されている。)及び原資不明の180,000円(同年3月9日)の現金入金のほか、f市からの子供(児童)手当及び国税還付金が振り込まれており、おおむねこれらを原資としてリース料が支払われ、本件リース料引落し口座にリース料を支払える残高がない場合には、g店口座から振込みにより支払われていた。割合にすると、本件各年とも本件リース料引落し口座から支払われたのは約4割、g店口座から支払われたのは約6割である。

 

 

D 資金繰りの状況

 

(A) 請求人による資金繰り

 

a 請求人は、平成23年12月27日、x1信用金庫○○支店から借り入れた3,000,000円をj店口座で受け入れ、このうち、2,000,000円を同月29日にg店口座に入金した。この借入金は、少なくとも平成24年から平成25年の間、j店口座から返済されていた。

 なお、この3,000,000円の借入金は、父P3がx1信用金庫○○支店に預けてあった同額の定期預金が担保提供されている。

 

b 請求人は、平成25年9月30日、M社から1,500,000円を借り入れ、このうち、1,000,000円を同日にg店口座に入金した。なお、この借入金の金銭消費貸借基本契約証書兼保証契約証書によれば、その返済口座は、x3銀行○○支店の請求人○○の名義である普通預金口座(口座番号○○○○)とされているところ、平成25年中の返済は2回あり、そのうち、同年12月2日の50,000円はg店口座から返済された。

 

(B) 父P3による資金繰り

 

a g店及びj店に対する資金繰り

 

 J社の平成20年10月1日から平成21年9月30日まで、平成21年10月1日から平成22年9月30日まで及び平成22年10月1日から平成23年9月30日までの各事業年度(以下、順次「21年9月期」、「22年9月期」及び「23年9月期」という。)の貸借対照表及び当該各事業年度の法人税の各確定申告書に添付された「借入金及び支払利子の内訳書」によれば、J社は、父P3からの短期借入金を21年9月期末に23,369,000円、22年9月期末に9,500,000円及び23年9月期末に1,019,000円それぞれ計上していることから、父P3からの借入金を22年9月期に13,869,000円及び23年9月期に8,481,000円返済し、平成23年10月1日から平成24年9月30日までの事業年度の総勘定元帳の短期借入金勘定によれば、平成23年10月及び11月の2か月中に、父P3から11,354,893円を借り入れ、11,769,109円を返済した。

 

 そして、請求人及び父P3の当審判所に対する回答、本件通帳及びj店口座に係る取引明細書によれば、父P3は、次のとおりJ社名義の預金口座から出金することにより貸付金の返済を受け、これを原資に請求人又は妻P7に現金を渡し、請求人又は妻P7がg店口座又はj店口座に入金するなどした。

 

(a) 平成23年7月1日にJ社名義のx4銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「J社x4銀行口座」という。)及びJ社名義のx5銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「J社x5銀行口座」という。)からそれぞれ1,000,000円が出金され、同日にg店口座及びj店口座に各1,000,000円ずつ入金された。

 

(b) 平成23年9月5日にJ社x4銀行口座から2,000,000円が出金され、同日にg店口座に990,000円及びj店口座に1,000,000円が入金された。

 

(c) 平成23年9月30日にJ社x5銀行口座から1,400,000円が出金され、同日にg店口座に1,000,000円が入金された。

 

(d) 平成23年11月29日にJ社x5銀行口座から2,000,000円が出金され、同日にg店口座及びj店口座に各1,000,000円が入金された。

 

 

b その他のj店に対する資金繰り

 上記のほか、父P3は、j店の開業に際して、x1信用金庫○○支店から平成22年11月10日に「2号店出店に伴う内装工事費用」として18,000,000円の設備資金及び同日に「2号店出店に伴う諸経費支払資金」として4,000,000円の運転資金を借り入れた。なお、これらの借入金は、同支店に提出された同年12月9日付の「預金振替口座・種別等変更届」により、父P3の全ての融資取引について返済口座をj店口座とする手続が採られ、実際に本件各年中はj店口座から返済されていた。

 

 

 

(チ) 従業員の採用及び指揮監督状況等について

 

 原処分担当者に対する請求人、妻P7及び父P3の申述によれば、従業員の採用については、請求人が面接を行い決定し、昇給も請求人が決定していた。

 

ハ 検討

 

(イ) g店の経営の移譲時期等について

 

A 父P3は、原処分担当者に対し、祖母P4からの代替わりにより、g店を開業して約25年間は自分でg店の経営を行っていたが、平成2年にJ社を設立し、同社の代表取締役として同社の業務に専念することとしたため、それからは、兄P6がg店の経営を行うこととなった後、平成17年頃に、兄P6がJ社の業務に専念できるように、g店の経営を請求人に引き継いだ旨申述した。

 

B また、請求人は、原処分担当者に対し、平成17年に兄P6からg店を引き継がないかと言われ、当時のg店の経営状況が連年赤字だったことや、父P3から請求人が引き継がなければg店を閉めようと思うとも言われたことなどから、1週間悩んだ結果、g店を引き継ぐことに決めた旨申述した。

 

C 一方、請求人及び父P3は、当審判所に対し、請求人は、平成11年に大学を卒業した後同業他店に勤務したが(上記1の(4)のイの(ロ)のA)、当該同業他店は、退職の申出をその2か月前にチーフ料理長にしなければならなかったこと及び請求人は平成14年12月に実際に退職したことからすると、平成14年10月頃に兄P6からg店を引き継がないかと言われて、g店に勤務するために当該同業他店を退職した旨回答した。

 

D また、父P3は、当審判所に対し、同人が○○歳くらいの頃(昭和55年頃)に祖母P4からg店を引き継ぎ、父P3の妻と共に事業を営んでいたが、引き継いでからも祖母P4は頻繁に店に顔を出しており、親子間のためきちんとした引継ぎはなく、本件賃貸借契約の名義や申告の名義は35年くらい前(昭和56年頃)に自分名義に変えたと思う旨答述したが、更に当審判所の求釈明に対し、請求人及び父P3は、父P3がg店を引き継ぐこととなった時期や父P3名義で申告し始めた年分の記憶は定かでない旨回答した。

 

E 上記Dのとおり、父P3は祖母P4からg店をいつ引き継いだのか記憶が曖昧で、本件賃貸借契約の名義等は35年くらい前(昭和56年頃)に自分名義に変えたとする父P3の記憶あるいは認識と、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件賃貸借契約は、平成14年5月1日から平成17年4月末日までの賃貸借期間に係る契約は父P3が代理人であったとはいえ、賃借人は祖母P4であったなどの客観的な事実が整合せず、結局のところ、父P3が祖母P4からg店を引き継いだ時期は明らかでない。

 

 また、上記A及びBの父P3及び請求人の各申述によれば、上記4の(1)の「原処分庁」欄のイのとおり、平成2年に父P3から兄P6へ、更に平成17年に兄P6から請求人へg店の経営が引き継がれたかのようにも考えられるが、1上記ロの(ニ)のDのとおり、g店の事業に係る所得税等の申告は、平成14年分あるいは平成15年分以降から父P3が行っていたと推認され、2上記Cのg店を引き継ぐ話は平成14年10月頃からあった旨の請求人及び父P3の回答は、請求人の同業他店の退職時期など他の事実関係とも整合的であることから正確性が高いものと考えられ、また、3上記ロの(ニ)のDの父P3の平成15年分及び平成16年分に係る所得税青色申告決算書(一般用)の控えによる兄P6への給料賃金支給額の状況からすると、兄P6は平成15年末でg店を退店したと推認される。これらのことからすると、g店の経営が平成2年に父P3から兄P6へ、更に平成17年に兄P6から請求人へ引き継がれたとは認めがたい。

 

 

(ロ) g店の物的設備等の所有者について

 

 上記(イ)のEのとおり、父P3が祖母P4からg店の経営を引き継いだ時期は不明であるが、父P3が祖母P4からg店の経営を引き継いだこと自体に争いはないところ、上記ロの(イ)のFのとおり、平成6年頃は祖母P4がg店の設備取得のための資金をx2信用金庫から借り入れているが、平成17年頃には、同(ニ)のAのとおり、本件賃貸借契約の賃借人の名義がg店の新装開店を機に父P3に変更され、また、父P3は、同(ロ)のとおり、g店の経営者として新装開店資金を金融機関から借り入れた上、自ら内装工事の発注をし、そして、g店の設備什器等に係る本件火災保険契約も父P3の名義で行われていた。これらの状況からすると、少なくとも平成17年頃には既に、祖母P4から父P3がg店の経営を引き継いでいたことが推認される。

 

 そして、平成17年のg店の新装開店を機に取得された減価償却資産(別表6の順号3ないし10)は、父P3による上記のような資金繰りのもと工事の発注が行われ、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件工事請負契約に係る請負代金と本件金銭消費貸借契約に係る借入金の差額(1,167,500円)は、本件内装費用借入口座に対して平成17年7月12日に2,267,500円の現金入金があることを根拠に、請求人及び父P3は、父P3が自己資金で支払った旨回答しているところ、この2,267,500円の現金入金の原資がそもそも父P3の現金あるいは他の預金等であったのかは不明であるが、父P3以外の者が支出したことを示す証拠もないから、本件金銭消費貸借契約に係る借入金及び父P3の自己資金により、本件工事請負契約に係る請負代金が支払われたものと推認される(なお、本件金銭消費貸借契約に係る借入金は、同(ト)のBのとおり、本件各年中はg店口座から出金された金員を原資に返済されており、これを請求人あるいは他の第三者が負担していた証拠はない。)。

 

 これらのことからすれば、平成17年のg店の新装開店を機に取得された減価償却資産(別表6の順号3ないし10)は、父P3の所有する資産であったと認められる。

 

 また、本件各年分父P3決算書の「減価償却費の計算」欄に記載された平成7年、平成15年並びに平成21年3月、7月及び10月に取得された資産(別表6の順号1、2及び11ないし13)は、祖母P4と父P3のいずれが取得した資産であるか不明であるが、上記ロの(イ)のEのとおり、祖母P4が平成21年11月には亡くなっていることからすると、仮に祖母P4が取得した資産であったとしても、本件各年においては、これを請求人が取得したと認められる証拠はなく、譲渡、贈与あるいは相続など原因は定かでないが、父P3が承継したと推認される。

 したがって、本件各年分父P3決算書に記載された減価償却資産(別表6)は、いずれも本件各年において父P3が所有していたものと推認される。

 

 加えて、別表5の差入保証金840,000円のうち800,000円の店舗敷金(上記ロの(ハ)のA)も、同(ニ)のAのとおり、祖母P4が支払ってからそのまま据え置かれていたことからすれば、父P3が祖母P4から承継した資産であると認められる。

 

 そうすると、これらを父P3から請求人に譲渡あるいは贈与したと認められる証拠はないから、g店の事業の用に供されている物的設備等のほとんどが父P3の所有するものであったと認められる。

 

 

(ハ) 小括

 

上記イのとおり、収入が何人の所得に属するかは、何人の勤労によるかではなく、何人の収入に帰したかで判断される問題であり、

 

これを事業所得についてみると、事業所得が帰属する事業者については、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義のほか、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきであるところ、

 

本件においては、資産の譲渡等の対価が帰属する主体も、事業所得の帰属する主体と同様となるものと解される。

 

 そして、本件各年におけるg店の経営主体が請求人であったか、父P3であったかを判断するためには、上記(ロ)のとおり、g店の経営は既に平成17年頃には祖母P4から父P3に引き継がれていたことを前提とすれば、平成26年2月の1父P3による「事業廃止届出書」等の原処分庁への提出(上記1の(4)のロの(イ)のE)及び2請求人によるg店等の事業を引き継いだ「H社」の設立(同イの(ハ))よりも前に、経営主体が父P3から請求人に移っていたか否かが問題となる。

 

 

A g店の店舗及び物的設備等の状況について

 

 上記ロの(ニ)のAのとおり、本件各年において、本件賃貸借契約は父P3の名義になっていた。店舗の賃貸借契約においては、賃借人は賃料の支払義務を負うとともに、期限が到来した場合には契約を更新するか終了するかの判断をすべき立場にあり、契約終了の際には、原状回復義務を負担する立場にあるから、賃料支払能力や契約の更新等の事柄は、店舗の経営と密接に関連する事柄であるといえる。

 また、上記(ロ)のとおり、本件各年の当時、g店の事業は、おおむね父P3の所有する物的設備等によって営まれており、しかもその大半は、平成17年に父P3自らが購入したものであった。

 

B 本件各年における資金調達力について

 請求人は、上記1の(4)のイの(ロ)のCのとおり、平成22年11月にj店を開業したが、この際、上記ロの(ト)のDの(B)のbのとおり、父P3が、同月にj店出店に伴う内装工事費用及び諸経費支払資金として合計22,000,000円を借りている。請求人は、同(A)のaのとおり、平成23年12月にx1信用金庫○○支店から資金を借り入れたが、その際には父P3の定期預金が担保提供されていて、父P3の信用で借り入れがなされ、そのリスクも父P3が負っていた。

 

 さらに、同(B)のaのとおり、平成23年7月から同年11月の間に、父P3の経営するJ社の口座からg店口座に合計3,990,000円、j店口座に合計3,000,000円が入金されている。

 

 これらをみると、少なくとも平成23年当時には、請求人はg店を実質的に経営するだけの資金力を有するに至っておらず、g店の経営は父P3の資金力に大きく依存していたということができる。

 

 なお、請求人は平成25年9月末に1,500,000円を借り入れ、うち1,000,000円をg店口座に入金しているが、その約4か月後の平成26年2月10日にg店等の事業が請求人の経営するH社に引き継がれていることを考えると、事業継承の経緯の中で行われた借入れとみるべきと考えられる。

 

 

C 法律行為等の名義について

 

 本件各年において、上記ロの(ロ)のD及び(ニ)のAのとおり、g店の設備什器等を保険対象とする本件火災保険契約及び本件賃貸借契約は、父P3が名義人になっていた。

 

 他方、上記1の(4)のイの(ロ)のBのとおり、1平成17年営業許可は、請求人の名義で取得され、また、上記ロの(ニ)のB及びCのとおり、2本件加盟店等契約及び3本件リース契約も請求人が名義人になっていた。

 なお、本件リース料は、上記ロの(ト)のCのとおり、請求人が本件リース料引落し口座として自らの名義の預金口座を指定していたところ、同口座からの引落し金額は、本件各年において支払われた本件リース料の全体のうちの約4割の部分であったと認められる。

 

 このように、平成23年の時点で、請求人がg店の事業の遂行上行われる法律行為等を自らの名義により行い、また経費の一部について多少の負担をすることは、請求人がいずれg店の経営を引き継ぐことを前提に同店での勤務を開始したという立場であることからすれば(上記(イ)のB及びC)、これらの事実をもって請求人が経営者であると認定することはできない。

 

 

D 収支の管理状況並びに従業員の採用及び指揮監督状況

 

 上記ロの(ホ)及び(チ)のとおり、g店の事業に係る売上げ、仕入れ及び経費等並びにg店口座の管理については、請求人及び妻P7によって行われ、また、従業員の採用及び昇給の決定も請求人が行っていたとしても、これらのことは、父P3が、ゆくゆくは事業承継する請求人に店長としてかなりの裁量を持たせ、また、経理担当者の妻P7にその職務上g店口座の入出金や管理をさせていたにすぎなかったといえるにとどまり、請求人が経営者であると認定することはできない。

 

 

E 収益の享受

 

 g店の事業に係る収益の享受の状況について、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人及び父P3並びに原処分庁は、請求人及び妻P7が、本件各年において○○○○円台の生活費等をg店の事業に係る収益から享受していた旨それぞれ回答している。

 

 請求人及び父P3並びに原処分庁の回答した金額に各年とも数十万円の差があるのは、原処分庁の回答のとおり、請求人が経営していることに争いのないj店に対するg店からの出金についても請求人の生活費等とするなど、それぞれの生活費等の捉え方の違いに起因するものと考えられ、いずれにしても、本件各年分父P3決算書に計上された請求人及び妻P7の給与等の金額の範囲を超えて、請求人がg店の事業から収益を享受していたとは認められない。

 

 そして、一方で、父P3はg店の事業から収益を享受していなかったが、上記ロの(ト)のAのとおり、本件各年におけるg店の経営状況は悪く、連年損失が生じていたことからすると、請求人及び父P3の収益の享受の状況は、父P3が経営者であって、請求人が従業員であるとの状況を前提とすれば整合的である。

 

F まとめ

 

これらを総合して考慮すれば、平成26年2月以前にg店の経営主体が父P3から請求人に移っていたと認定することはできず、本件各年においては、請求人はg店の経営を引き継ぐことを前提にg店の事業の遂行に当たっており、g店の経営主体は父P3であったとみるべきである。

 

 

 

(2) 争点2(g店の事業に係る本件各期間分の給与等及び税理士報酬について、源泉徴収義務は、請求人又は父P3のいずれにあるか。)について

 

 

イ 判断

 所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項は、給与等及び報酬等の支払者が源泉徴収義務を負う旨規定しているところ、上記(1)のハのとおり、g店の経営主体は父P3とみるべきであって、請求人であるとは認められないことから、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者は、請求人であるとは認められない。

 したがって、請求人は、当該給与等及び税理士報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務はなく、父P3にあるものと認められる。

 

ロ 原処分庁の主張について

 上記4の(2)の「原処分庁」欄のとおり、原処分庁は、g店の経営主体は請求人であり、請求人は、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者であることから、当該給与等及び税理士報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務がある旨主張する。

 

 しかしながら、上記イのとおり、g店の経営主体は請求人でないことから、原処分庁の主張は前提となる事実関係を誤っている。

 

 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

 

 

(3) 原処分について

 

イ 所得税等に係る原処分について

 

 上記2のとおり、平成24年分の所得税の更正処分に対する審査請求は不適法であるから、却下すべきである。

 そして、上記(1)のハの(ハ)のとおり、父P3が本件各年におけるg店の経営主体であったとみるべきであることから、本件各年分のg店の事業に係る所得は、請求人に帰属するとは認められず、平成23年分及び平成25年分のg店の事業に係る所得が請求人に帰属するとしてされた本件所得税等各更正処分は違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきであり、また、本件所得税等各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。

 

ロ 消費税等に係る原処分について

 

 上記2のとおり、本件消費税等各決定処分等に対する審査請求は不適法であるから、却下すべきである。

 そして、上記(1)のハの(ハ)のとおり、父P3が本件各課税期間におけるg店の経営主体であったとみるべきであることから、平成25年課税期間のg店の事業に係る資産の譲渡等に係る対価は、請求人に帰属するとは認められず、平成25年課税期間のg店の事業に係る資産の譲渡等の対価が請求人に帰属するとしてされた本件消費税等更正処分は違法であるから、その全部を取り消すべきであり、また、本件消費税等賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

 

ハ 源泉所得税等に係る原処分について

 

 上記(2)のイのとおり、g店の経営主体は父P3とみるべきであって、請求人であるとは認められないことから、本件各期間分において、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬は、請求人が支払ったものとは認められず、これらを本件各期間分において請求人が支払ったとしてされた本件各納税告知処分は違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきであり、また、本件源泉所得税等各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。

 

(4) 結論

 

よって、審査請求のうち平成24年分の所得税の更正処分及び本件消費税等各決定処分等(原処分の2及び4)に対する審査請求は不適法であるから却下することとし、その余の審査請求はいずれも理由があるから上記を除く原処分はいずれもその全部を取り消すこととする。

 

 

 

(平成28年8月10日裁決)