重加算税 隠ぺい、仮装の認定 認めた事例

 

 

 

 

 

 

 当初から過少申告及び無申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、所得税等については過少申告をし、消費税等については期限内に確定申告書を提出しなかったと認定した事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

(1) 法令解釈

 

通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合、又は、隠ぺい又は仮装という不正手段を用いて期限内申告書を提出しなかった場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

 

 

 したがって、重加算税を課するためには、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在することを要するが、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、過少申告をし、又は法定申告期限までに申告しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

 

(2) 認定事実

 

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

 

イ 本件各下書用収支内訳書の「収入金額の明細」欄の記載について

 

(イ) 請求人は、生活するだけで目一杯で、販売金額の合計額が10,000,000円を超えると消費税がかかり、消費税を払うことが大きな負担となると感じていたことから、本件各年分において、本件各実績表及び本件各口座の通帳により各農産物等の販売金額の合計額が10,000,000円を超えることを認識していたにもかかわらず、

 

次の(ロ)及び(ハ)のとおり、本件各下書用収支内訳書の「収入金額の明細」欄に、本件農協及び本件農協以外の販売先に対する販売金額の合計額が10,000,000円を超えないように調整した金額を記載した。

 

 なお、本件各実績表に記載された振込金額及び本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額は、平成21年分XX,XXX,XXX円、平成22年分XX,XXX,XXX円、平成23年分XX,XXX,XXX円、平成24年分XX,XXX,XXX円、平成25年分XX,XXX,XXX円であり、いずれも10,000,000円を超えていた。

 

 

(ロ) 本件農協に係る販売金額について

 

 本件各実績表には別表1の「振込金額1」欄のとおり販売した農産物等の品名ごとの振込金額が記載されていた。そして、請求人は、これらの金額が本件農協に対する販売金額であることを認識していたにもかかわらず、本件各下書用収支内訳書には同表の「販売金額2」欄のとおり、品名ごとに上記振込金額から適当な金額を差し引いた後の金額を記載し、又は上記振込金額があるにもかかわらずこれらを全く記載しなかった。

 

(ハ) 本件農協以外の販売先に係る販売金額について

 

 請求人は、本件銀行口座の通帳等により、別表2の「販売金額1」欄のとおり、本件農協以外の販売先に対する販売金額を認識していたにもかかわらず、同表の「販売金額2」欄のとおり、本件各下書用収支内訳書にこれらの販売金額を過少に記載し、又はこれらを全く記載しなかった。

 

ロ 平成19年分及び平成20年分に係る本件下書用収支内訳書の作成及び使用状況等

 

(イ) 請求人は、平成19年分及び平成20年分において、本件実績表に記載された振込金額と本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額が10,000,000円を超えていることを認識していたにもかかわらず、本件下書用収支内訳書に販売金額の合計額が10,000,000円を超えないように各農産物について過少な販売金額を記載するなどした。

 なお、平成19年分及び平成20年分の本件実績表に記載された振込金額及び本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額は、平成19年分XX,XXX,XXX円、平成20年分XX,XXX,XXX円であり、いずれも10,000,000円を超えていた。

 

(ロ) 請求人は、b市が開催した平成19年分及び平成20年分の確定申告に係る申告相談において、上記(イ)のとおり作成した本件下書用収支内訳書をb市職員に提示した。

 

(ハ) 請求人は、上記(ロ)の申告相談において、b市職員から本件実績表及び本件各口座の通帳の提示を求められたことはなく、b市職員にこれらを提示しなかった。

 

(ニ) b市職員は、上記(ロ)のとおり請求人が提示した本件下書用収支内訳書を基に平成19年分及び平成20年分の所得税の各確定申告書並びに各収支内訳書を作成した。

 

(ホ) 請求人は、b市職員が上記(ニ)のとおり作成した各確定申告書及び各収支内訳書を原処分庁に提出した。

 なお、当該各収支内訳書の「収入金額」の「販売金額」欄の金額は、平成19年分X,XXX,XXX円、平成20年分X,XXX,XXX円であった。

 

 

 

 

ハ 国税局長による臨時の税務書類の作成等の許可

 

平成19年分ないし平成25年分の各確定申告書の「税理士署名欄」には、いずれも、当該各確定申告書の作成当時にb市税務課長を務めていた職員の署名押印があり、当該各職員は、当該各確定申告書の作成当時、税理士法第50条《臨時の税務書類の作成等》第1項に規定する申告書等の作成及びこれに関連する課税標準等の計算に関する事項について相談に応じることの許可をP国税局長から受けていた。

 

ニ 請求人による資料の提示の状況

 

(イ) 本件調査担当職員は、平成26年10月10日に初めて請求人の自宅に臨場した際に、請求人に対し、確定申告書の控え及び本件各口座の通帳の提示を要請したところ、請求人は、平成19年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各確定申告書の控え並びにその関係書類を年分ごとに保管している各封筒並びに本件各口座の通帳を提示した。

 

(ロ) 本件調査担当職員は、上記(イ)のとおり提示された各封筒の中から、平成19年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各確定申告書の控え並びに各収支内訳書の控え、平成20年分及び平成22年分の本件実績表並びに本件各下書用収支内訳書を把握した。

 なお、請求人は、平成20年分及び平成22年分以外の本件実績表について、捨ててはいないと思うが失くしたかもしれない旨申述した。

 

(ハ) 本件調査担当職員が、平成26年10月10日に請求人に対し、平成19年分、平成21年分、平成23年分、平成24年分及び平成25年分の本件実績表を本件農協から取り寄せるように要請したところ、請求人は、平成26年10月17日に、本件農協から取り寄せた当該年分の本件実績表を提示した。

 

 

(3) 当てはめ

 

イ 請求人は、上記(2)のイ及びロのとおり、消費税等の負担を免れるために、平成19年分ないし平成25年分において、本件実績表及び本件各口座の通帳によって各農産物等の販売金額の合計額が10,000,000円を超えていることを認識していたにもかかわらず、その合計額が10,000,000円を超えないよう、本件下書用収支内訳書に各農産物の販売金額を過少に記載するなどしたことからすれば、

 

本件各年分の所得税等については過少申告の意図を、本件各課税期間の消費税等については無申告の意図を、それぞれ継続的に有していたものと認められる。

 

 

ロ そして、請求人は、上記1の(2)のハ及び上記(2)のロのとおり、b市が開催する平成19年分ないし平成25年分の確定申告に係る申告相談において、本件下書用収支内訳書をb市職員に提示し、その際、b市職員から本件実績表及び本件各口座の通帳の提示を求められず、本件下書用収支内訳書の記載内容に疑問を抱かれなかったことを奇貨として、これらの資料を一切提示せず、その結果、各農産物等の販売金額の合計額がいずれも10,000,000円以下となる各収支内訳書及び各確定申告書を作成させたものである。

 

 このように、請求人が、少なくとも平成19年分ないし平成25年分の7年間という長期間にわたり、各農産物の販売金額を過少に記載するなどした本件下書用収支内訳書を作成し、これをb市職員に提示することによって、上記(2)のハのとおりP国税局長の許可の下で臨時の税務書類の作成等が認められていたb市職員をして各農産物の販売金額を過少に記載させ、その合計額がいずれも10,000,000円以下となる各収支内訳書及び各確定申告書を作成させ続けていたことに鑑みると、請求人のこれらの行為は、請求人の過少申告の意図又は無申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当するものと認められる。

 

 

ハ 以上のとおり、請求人は、本件各年分の所得税等については当初から過少申告を意図し、かつ、本件各課税期間の消費税等については当初から無申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、所得税等については過少申告をし、消費税等については期限内に確定申告書を提出しなかったと認められるのであるから、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。

 

 

ニ なお、請求人は、本件各下書用収支内訳書を作成した行為は単なる過少申告行為であり、また、原処分に係る調査当初から保有する資料を隠すことなく提示し、虚偽答弁等も行っていないのであるから、通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する行為は認められず、重加算税の賦課要件は満たされない旨主張する。

 

 確かに、上記(2)のニのとおり、請求人は、本件調査担当職員の要請に応じて資料を提示したことが認められ、また、事後的に虚偽答弁又は隠ぺいのための具体的工作を行ったことは認められない。

 

 しかしながら、本件各下書用収支内訳書の作成を含む請求人の一連の行為が単なる過少申告行為と認めらないことは、上記イないしハのとおりであり、原処分に係る調査の際の請求人の応答状況を斟酌したとしても、当審判所の上記判断を左右するものではない。

 したがって、請求人の主張には理由がない。

 

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

 

イ 本件所得税等各賦課決定処分

 上記(3)のハのとおり、本件各年分において、請求人に通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったと認められ、同行為は同法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当するから、同法第68条第1項の規定に基づいて行われた本件所得税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。

 

 

ロ 本件消費税等各賦課決定処分

 上記(3)のハのとおり、本件各課税期間において、請求人に通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったと認められ、同行為は同法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当するから、同法第68条第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び同法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて行われた本件消費税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。

 

 

 

 

 

(平成28年9月30日裁決)