退去強制処分を受け,内縁関係にある日本人男性と同居

 

 

 

 

 東京高等裁判所判決/平成27年(行コ)第431号、判決 平成28年4月20日、LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 退去強制処分を受け,異議申立ては理由がないと裁決されたことから,控訴人(フィリピン国籍)が,内縁関係にある日本人男性と同居し,男性の日常生活を介助する必要があるなどの事情があるとして,本件裁決及び退去強制令書発布処分の各取消しを求めた事案の控訴審。原審は,請求を棄却。裁判所は,控訴人らの内縁関係は,いわゆる重婚的内縁関係で,控訴人の不法残留,不法就労の継続は,男性との同居生活を維持するためだけではなく,フィリピンの親族への送金をも目的とするもので,内縁関係が安定かつ成熟したものとはいえないから婚姻に準ずる法的保護が与えられる場合には当たらないとして,控訴を棄却した事例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

 

事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 裁決行政庁が,控訴人に対し,平成26年8月26日付けでした,出入国管理および難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

 3 処分行政庁が,控訴人に対し,平成26年9月3日付けでした,退去強制令書を発付する処分を取り消す。

 

第2 事案の概要(略語は,原判決の例による。)

 1 本件は,フィリピン国籍を有する女性である控訴人(1976年○月○日生)が,退去強制対象者に該当すると認定され,これに対する異議の申出(入管法49条1項)をしたところ,在留を特別に許可すべき事情は認められないとして上記異議の申出には理由がない旨の本件裁決を受け,本件退令発付処分を受けたが,控訴人が平成21年12月頃以降に日本国籍を有する男性であるAと内縁関係にあり,かつ,歩行に支障のあるAと同居して,その日常生活を介助する必要性もある等の事情によれば,控訴人に対する在留特別許可をすべきであったのに,これをしなかった本件裁決および本件裁決を前提とする本件退令発付処分は裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法なものであると主張して,被控訴人に対し,本件裁決および本件退令発付処分の各取消しを求める事案である。

 2 原審は,本件裁決に裁量権の範囲逸脱,濫用の違法があるとは認められず,また,適法な本件裁決を前提とする本件退令発付処分も適法なものであると判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。

 3 これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

 4 前提事実,主たる争点およびこれに関する当事者の主張は,次のとおり改めるほかは,原判決の「事実および理由」の「第2 事案の概要」2および3並びに「第3 主たる争点についての当事者の主張の要旨」1および2(原判決2頁12行目~16頁3行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 (1) 原判決2頁22行目の「B」を「A」と改める。

 (2) 原判決4頁18行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「ク 控訴人は,平成28年2月3日,仮放免許可によりその収容先であった入国者収容所東日本入国管理センターを出所し(乙21,乙22),現在は,Aの転居先住所で生活している(記録上明らかな事実,弁論の全趣旨)。」

 (3) 原判決6頁8行目の「内縁関係」を「安定かつ成熟した内縁関係」と改める。

 (4) 原判決9頁5行目の「原告は,」の次に「平成26年8月中旬頃,弁護士に相談してCを被告とする離婚訴訟を日本の裁判所に提起することを決定し,弁護士に委任の上,」を加える。

 (5) 原判決9頁10行目の「ところ,」から同頁12行目末尾までを「。このように,控訴人は,Aとの婚姻のために,本件裁決前からCとの婚姻解消に向けた行動を取っていた。」と改める。

 (6) 原判決9頁22行目末尾に「Aは,現在も外出が不可能で,入浴も家事もままならない状態にあり,身柄拘束された控訴人に代わってAの兄がAを援助したのも一時的なもので,その援助が今後も継続することは期待できない。」を加える。

 (7) 原判決13頁3行目の「送金している。」を「送金していたから,帰国費用を捻出するために不法に就労していたとは考え難い。」と改める。

 (8) 原判決14頁13行目の「この点,」を「控訴人が不法残留の被疑事実により逮捕される前にCとの婚姻無効手続を進めるなど,法律婚の解消に向けた真摯な努力がされていたとは認められないから,控訴人とAとの法律婚の成立に至らなかったことが両名の責に帰することのできない事情によるともいえない。そして,」と改める。

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 当裁判所も,控訴人の請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは,原判決の「事実および理由」の「第4 当裁判所の判断」1ないし5(原判決16頁5行目~26頁24行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。控訴人が,当審において,種々主張立証するところを踏まえて検討しても,上記判断は何ら左右されない。

 1 原判決17頁末行の「証拠(」の次に「甲34,甲61の1,甲61の2,甲64,甲65のほか後記各書証。」を加える。

 2 原判決18頁6行目の「できる。」の次に「他方,控訴人は,日本語については,簡単な日常会話はでき,平仮名,片仮名を読むこともできるが,書くことはほとんどできず,漢字の読み書きは全くできない。」を加える。

 3 原判決20頁18行目の「話をしていた。」を「話をしたことがあったが,控訴人がフィリピンで婚姻しており,フィリピンの法律では離婚が難しいことも認識していた。」と改める。

 4 原判決20頁22行目の「辞めた。」を「辞め,友人の経営する動物病院で手伝いをするようになった。」と,同頁24行目の「ことから,」を「ことなどから,」と,同頁末行の「入れるようになった。」を「入れたり,フィリピンの親族に送金したりしていた。」と,それぞれ改める。

 5 原判決21頁20行目の「受けている」の次に「(なお,Aが現在も外出が不可能で入浴も家事もままならない状態にあることを認めるに足りる的確な証拠はない。)」を加える。

 6 原判決22頁3行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 この離婚訴訟は,現在も係属中である(なお,控訴人が弁護士に相談してCを被告とする離婚訴訟を日本の裁判所に提起することを決定したのが平成26年8月中旬頃であったことを認めるに足りる証拠はない。)。」

 7 原判決22頁22行目冒頭から23頁16行目末尾までを次のとおり改める。

「 しかしながら,内縁が,男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点において婚姻関係と異なるものではなく,これに婚姻に準ずる法的保護が与えられる場合があることも否定することができない。

 そこで,控訴人がAとどのような内縁関係を形成していたかを次に検討する。

 8 原判決23頁18行目の「Aは,」の次に「控訴人が不法残留,不法就労を開始した後である平成21年9月頃に交際を開始し,」を加える。

 9 原判決23頁21,22行目の「結婚の意向を伝えるなどしており,実質的には婚姻意思を有していたこと,」を「控訴人との結婚を口にすることがあったものの,これに向けて格別の措置を講ずることはなく,控訴人との間に子もいなかったこと,」と改める。

 10 原判決23頁23,24行目の「生活費が不足したことが原因であったこと,」を「不足する生活費を補うことだけを目的としたわけではなく,その収入の実際の使途に照らせば,フィリピンの親族に送金することも目的としていたと考えられること,」と改める。

 11 原判決24頁2行目冒頭から同頁6行目の「しかしながら,」までを「他方,」と改める。

 12 原判決24頁19行目冒頭から同頁22行目末尾までを次のとおり改める。

「 以上のように,控訴人とAとの内縁関係は,いわゆる重婚的内縁関係にとどまり,控訴人はもとより,Aもこのことを十分認識していたというのであり,また,控訴人(およびA)において,本件裁決当時,控訴人とCとの法律婚の解消,Aとの婚姻に向けて特段の努力もされていなかったというのである。そして,控訴人とCとの婚姻関係が既に破綻していたため,重婚的内縁関係であるとの一事をもって控訴人とAとの内縁関係が法的保護におよそ値しないとまではいえないものの,この内縁関係は,控訴人の不法残留,不法就労を契機として形成されたものであり,控訴人によるその後の不法残留,不法就労の継続は,フィリピンの親族への送金をも目的とするものであって,Aとの同居生活を維持するためだけのものではなかったというのである。このような事情に照らせば,控訴人とAとの内縁関係が安定かつ成熟したものであったということはできず,婚姻に準ずる法的保護が与えられる場合には当たらないというべきである。」

 13 原判決25頁3行目の「エ 小括」を「ウ 小括」と,同頁6行目の「社会通念に照らして著しく」を「明白に」と,それぞれ改める。

 14 原判決25頁18行目の「できている上,」の次に「また,交通事故による受傷後においても,一定程度の就労を行っているというのであり,」を加える。

 15 原判決26頁1行目の「不合理である」を「妥当性を欠くことが明らかである」と改める。

第4 結論

 よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第1民事部

           裁判官  石橋俊一

           裁判官  田中秀幸

  裁判長裁判官石井忠雄は,差し支えにつき署名押印することができない。

           裁判官  田中秀幸