福岡地方裁判所小倉支部判決/平成28年(わ)第95号、判決 平成28年5月25日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。
【判示事項】
留学生を受け入れている教育機関の実質的経営者である被告人A,B,Cが3年以上にわたり,組織的に学院に在籍する多数の留学生を対象に不法就労活動のあっせんを行ったとする事案。裁判所は,出入国管理及び難民認定法違反に係る同種事案の中でも重い部類に入るとして,主導的かつ中心的な役割を果たしたA,Aの指示を拒否し難い状況にあったB及びCをそれぞれ懲役及び罰金(各執行猶予付)に処した。
主 文
1 被告人Y1を懲役2年及び罰金200万円に,被告人Y2を懲役1年2月及び罰金70万円に,被告人Y3を懲役10月及び罰金40万円に処する。
2 被告人3名においてその罰金を完納することができないときは,それぞれ金5000円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
3 この裁判が確定した日から,被告人Y1に対し4年間,被告人Y2及び被告人Y3に対し3年間,それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
罪となるべき事実の要旨
起訴状に記載された公訴事実と同一であるから,これを引用する。
適用した罰条
被告人Y1につき
1 罰条 刑法60条,出入国管理及び難民認定法73条の2第1項3号
2 刑種の選択 懲役刑及び罰金刑を併科
3 労役場留置 刑法18条
4 刑の執行猶予 懲役刑につき刑法25条1項
被告人Y2につき
1 罰条 刑法60条,出入国管理及び難民認定法73条の2第1項3号
2 刑種の選択 懲役刑及び罰金刑を併科
3 労役場留置 刑法18条
4 刑の執行猶予 懲役刑につき刑法25条1項
5 訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書
被告人Y3につき
1 罰条 刑法60条,出入国管理及び難民認定法73条の2第1項3号
2 刑種の選択 懲役刑及び罰金刑を併科
3 労役場留置 刑法18条
4 刑の執行猶予 懲役刑につき刑法25条1項
量刑の理由
1 被告人らは,3年以上の長期にわたり,学院職員らに指示して組織的に学院に在籍する多数の留学生を対象に複数の就労先を積極的に紹介して不法就労活動のあっせんを行っており,その結果,実際に留学生らの多くが継続的に不法就労状態に陥っており,本件犯行はその一環として敢行されたものであり,結果は重大である。被告人らは,入国管理局からの目を逃れるため,別組織を隠れ蓑にして前記あっせん行為を行っていたほか,留学生らに複数の給与振込先口座を開設させるなどしており,計画的かつ巧妙で悪質である。そして,犯行の経緯等をみると,留学生らが金銭に窮して授業料を滞納しがちになったことから,授業料を確実に徴収するために本件犯行に及んだというものである。留学生らが複数の就労先で働くことを厭わなかったとしても,そうでもしなければ,留学生らが学院に残って教育を受けることができなかったという,学院の経営体制にこそ問題があったというべきであって,酌むべき事情とみることはできない。
以上の事情を考慮すると,本件は,同種事案の中で,重い部類に入る事案であると評価すべきである。
2 その上で個別に検討すると,被告人Y1は,学院の実質的経営者として本件犯行を立案し,被告人Y2及び同Y3らに指示する立場にあり,本件において,主導的かつ中心的な役割を果たしている。被告人Y1に対する非難の程度は,他の被告人らと比べて,格段に重いといわざるを得ない。
他方で,被告人Y1が事実を認めて反省の態度を示していること,異種の罰金前科しかないこと,既に学院は閉鎖しており,今後は同種の犯行がなされる可能性が高いとはいえないことなどの事情も考慮すると,同被告人を本件により直ちに実刑にするほどその刑事責任が重いとまではいえない。
そこで,被告人Y1に対しては,主文のとおりの量刑が相当と判断した。
3 これに対し,被告人Y2は学院の理事長として,同Y3は学院の副理事長として,それぞれ学院職員らに指示するなどして本件に関与しており,その刑事責任を軽視することはできない。
他方で,前記被告人両名は,被告人Y1の指示を受ける立場にあり,同被告人の意向に反して学院の経営方針等に口をはさむことは困難な状況にあったといえる。
そのほか,前記被告人両名ともに事実を認めて反省の態度を示していること,いずれも前科前歴がないこと,同種再犯のおそれは低いことなどの酌むべき事情も認められることから,前記被告人両名の学院における立場や本件において果たした役割等を踏まえ,それぞれ主文のとおりの量刑が相当と判断した。
(求刑 ①被告人Y1につき,懲役2年及び罰金200万円,②被告人Y2につき,懲役1年6月及び罰金100万円,③被告人Y3につき,懲役1年2月及び罰金50万円)
平成28年6月9日
福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
裁判官 藏本匡成
平成28年検第286,287,288号
起訴状
平成28年2月12日
福岡地方裁判所小倉支部 殿
福岡地方検察庁小倉支部
検察官 検事 大濱新悟
下記被告事件につき公訴を提起する。
記
本籍 福岡県直方市(以下略)
住居 同市(以下略)
職業 会社役員
勾留中 Y1
昭和33年○月○○日生
本籍 福岡県直方市(以下略)
住居 同市(以下略)
職業 会社役員
勾留中 Y2
昭和38年○月○○日生
本籍 福岡県直方市(以下略)
住居 同市(以下略)
職業 会社役員
勾留中 Y3
昭和43年○○月○○日生
公訴事実
被告人Y1は,A株式会社が運営する,福岡県直方市(以下略)所在の「△△△学院」の実質的経営者として経営全般を統括するもの,被告人Y2は,前記会社の代表取締役及び前記学院の理事長として前記学院の経理,人事管理等に従事するもの,被告人Y3は,前記会社の取締役及び前記学院の副理事長として理事長を補佐して前記学院の経理,人事管理等に従事するものであるが,被告人3名は,いずれも前記学院の学生で,ベトナム社会主義共和国の国籍を有し,「留学」の在留資格をもって本邦に在留する外国人であり,法務大臣から,資格外活動につき1週について28時間以内等の条件で報酬を受ける活動等の許可しか受けていないB,C,D,Eを,同県田川市(以下略)所在のF株式会社を就労先として紹介して雇い入れさせていたところ,前記Bら4名がそれぞれ1週について28時間を超えて報酬を受ける活動に従事することを知りながら,さらに同人らに就労先をあっせんしようと企て,共謀の上,業として,平成27年7月21日頃,前記学院内において,株式会社G常務Hに対し,前記Bら4名を作業員として紹介して雇い入れさせ,さらに,同年11月4日頃,前記学院内において,株式会社I総務部人事労務部主任Jに対し,前記B及び前記Cを作業員として紹介して雇い入れさせ,もって業として外国人に不法就労活動をさせる行為に関し,あっせんしたものである。
罪名及び罰条
出入国管理及び難民認定法違反 同法73条の2第1項第3号,刑法第60条