確定申告(31)

 

 

 

 

 

 請求人が、支給された賞与から支払った寄付金である旨主張する金額は、勤務先法人がその関連法人に寄付すべき金額を請求人の賞与に上乗せしたものであり、請求人の寄付金控除は認められないとした事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

賞与支給額及び本件寄付の有無について争いがあるので、以下審理する。

 

(1) 原処分関係資料、請求人の提出資料、関係人の答述及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

 

イ A会は、平成2年8月10日に主務官庁から社会福祉法人の認可を受け、平成3年4月1日から身体障害者福祉工場として操業を開始しており、同福祉工場の主たる業務内容は、B社の事業に係る下請であること。

  なお、理事長は、認可当初からB社の代表取締役C男が兼任していること。

 

ロ 請求人のB社における社内預金口座には、本件賞与として390,513円が平成3年5月31日に振り替えられていること。

 

ハ B社における本件賞与の算定経過及び本件寄付に関する経理等の状況は次のとおりであること。

 

(イ) B社が作成しているa表及びb表の基礎となったもので、各従業員ごとの本件賞与の額の算定決過を記載した「平成2年度期末手当」と題する一覧表(以下「賞与算定表」という。)によると、各人のa表及びb表の賞与支給額は、次の算式を基本として算定されている。

 

 

  

「支給」欄の額……基本賃金×支給率……1

 

「寄付」欄の額……1×3分の2……………2

 

賞与支給額

   

a表…………1

  

b表…………1+2

 

 

  なお、上記の計算において本件寄付をしなかった従業員4名については、「寄付」欄の額が零円とされている(このうち3名は、「寄付」欄の額がいったん算定された後に零円に減額されている。)。

 

(ロ) 本件寄付をしなかった従業員4名の各賞与支給額と、その者と雇用形態、基本賃金及び勤務成績等が類似する者で、本件寄付をしたとする者の各賞与支給額を比較すると、a表の場合はそれぞれ近似しているが、b表の場合は、本件寄付をしたとする者は本件寄付をしなかった者に比べて1.5倍以上と著しく高額になっている。

 

(ハ) a表及びb表の請求人の各欄には、次表の内容がそれぞれ記載されている。

 

  なお、a表の欄外下部には、本件賞与の支給を受けた請求人ら全従業員187名について、a表とb表の各差引支給額の差額(次表の「3」欄の「差引支給額」欄の額)が鉛筆で加筆されており、当該金額がA会に対する寄付金(以下「本件寄付金」という。)として、b表の差引支給額から控除され(そのうち本件寄付をしなかった従業員4名については、a表とb表が同額であるため、差額は零円となっており、控除する額はない。)、その金員はB社に寄付金預りとして受け入れられている。

 

 

ニ 寄付申込書の提出の経緯は、次のとおりであること。

 

(イ) B社から、本件賞与支給時に請求人ら従業員(以下「請求人ら」という。)に交付された期末手当振込み等通知書(その中央切取り線下部が寄付申込書となっている。)には、寄付申込書は、住所、氏名を記入・押印の上、明日(平成3年6月1日)12時までに提出願いたい旨付記されている。

 

(ロ) 請求人らは、寄付額を記入しないまま寄付申込書をB社へ提出し、寄付額は後日B社の経理担当者において、前記ハの(ハ)の差引支給額の差額を記入した後、その原本はB社、写しはA会でそれぞれ保管されている。

  なお、本件寄付をしたとする請求人ら183名のうち3名については寄付申込書は提出されていない。

 

ホ 上記ニの(ロ)の寄付申込書未提出者3名についても本件賞与のうちから本件寄付金が差し引かれていること。

 

ヘ 後援会の活動事績等は、次のとおりであること。

 

(イ) 「社会福祉法人A会後援会」と題する規約は、作成日付が明らかでなく、また、役員の選任経過、会員である従業員に本件寄付を要請することとした経緯、総会・役員会及びその他後援会の活動事績等を示す記録はない。

  なお、上記規約は、従業員に配付されていない。

 

(ロ) 平成3年1月28日から記帳されている後援会の金銭出納帳によれば、会費は1口当たり年100円であるが、その会費収入が会活動に使用された事績はない。

 

 

ト 元従業員について、当審判所が調査したところ、次のとおりであること。

 

(イ) 元従業員Q及びRは、平成3年5月ころa表に基づく支給明細書を、また、同年10月ころ、b表に基づく支給明細書を交付された旨それぞれ答述しており、そのうちQは、a表及びb表に基づく各支給明細書を毎月の給与等の支給明細書と合わせて交付を受けた順に編てつ・保管しており、a表に基づくものは、4月分と5月分との間に、b表に基づくものは、9月分と10月分との間にそれぞれ編てつされている。

  また、Rは、同年10月ころ、b表に係る支給明細書の交付を受けた際、会社の人から、税務署の調査が行われているので、この支給明細書を3月末にもらったと口裏を合わせるよう指示され、その後、退職届を提出したときもこれと同趣旨のことを指示された旨答述している。

 

(ロ) 上記Rは、会社の人から、会社がA会へ寄付するため名義を貸してほしいと、また、元従業員Sは、会社が寄付することができないから名義を貸してほしいとそれぞれ依頼され、負担はかけないということであったから、寄付申込書に寄付額を記入しないまま住所・氏名を記入、押印して会社へ提出した旨答述している。

 

(ハ) 元従業員Tは、税務調査があったころに本件寄付に係る領収書をもらった旨、また、前記Q及びRは、b表に基づく明細書の交付を受けて初めて自分の寄付額を知った旨それぞれ答述している。

 

 

 

チ B社の従業員について、当審判所が調査したところ、次のとおりであること。

 

 

(イ) 従業員V及びXは、本件寄付に関し、前後援会長○○から賞与のおよそ3分の1程度お願いしたい旨の話があった旨、また、Vは寄付額の計算は、後援会に一任した旨それぞれ答述している。

 

(ロ) 上記V、X及び従業員Wは、自己の具体的な寄付額がどういう手続で誰によって決定されたかについては知らない。

  また、W及びXは、本件寄付時に寄付に係る領収書を受領したかどうか記憶していない。

 

(ハ) 上記V及びWは、自分は後援会員であるが、後援会の具体的な活動状況、役員の選任経過等については知らない旨答述している。

 

 

 

リ 元従業員について、B社に係る原処分調査担当者が調査したところによると、次のとおりであること。

 

(イ) 元従業員Y及びZが本件賞与の支給時に交付を受けて所持している支給明細書は、いずれもa表に基づいて作成されたものである。

  なお、両名は、b表に基づくものは交付を受けていない旨申述している。

 

(ロ) 上記Y及びZは、平成3年4月又は5月に当時の上司から会社が寄付をするのだがいろいろあって名前を貸してほしい旨の依頼があり、自分の賞与の手取額は変わらないということであったから、寄付額を記入しないまま寄付申込書に署名、押印したものであり、本件寄付を自主的に行ったものではなく、自分の寄付額は知らない旨それぞれ申述している。

 

(2) 以上の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。

 

イ 賞与支給額については、以下のとおりである。

 

(イ) B社の従業員に対する支給明細書の交付状況等についてみると

A 元従業員Y及びZは、b表に基づく支給明細書は交付を受けておらずa表に基づく支給明細書のみを、また、元従業員Qは、a表及びb表に基づく2通の支給明細書をそれぞれ所持していること、

 B 2種類の支給明細書の交付時期については、1a表に基づく支給明細書は平成3年5月ころに交付を受けた旨の上記Q、Y、Z及び元従業員Rの各答述、2b表に基づく支給明細書は同年10月ころ交付を受けた旨のQ及びRの答述及び3Qにおけるa表及びb表に基づく各支給明細書の保存状況からみると、B社は、a表に基づくものは同年5月に、b表に基づくものは同年10月ころにそれぞれ交付したものと認められること、

 C 上記Rの、平成3年10月ころb表に基づく支給明細書の交付を受けた際、会社の人から口裏を合わせるように指示された旨の答述は、1B社に係る原処分調査が同年10月初旬に着手されていること及び2b表に基づく支給明細書を、殊更その時期に交付すべき特段の理由がないことから信頼できること、

から、B社は、従業員に対し本件賞与の支給時にはa表に基づく支給明細書を交付し、同社に係る原処分調査が着手された後に、更にb表に基づく支給明細書を交付して口裏合わせを指示したものと認められる。

  なお、a表に基づく支給明細書は、本件寄付の額の通知に代わるものとして、後日交付を受けたものである旨の請求人の主張は、上述のとおりa表に基づく支給明細書は5月に、b表に基づく支給明細書は10月ころにそれぞれB社から交付されたものと認められること及び寄付額の通知のためであれば、本件寄付に係る領収書を交付すれば足りることから、理由がない。

 (ロ) B社におけるb表の各従業員の賞与支給額の算定経過等についてみると、

 A B社は、請求人らの賞与支給額の算定に際して、本件寄付をしなかった者に対しては、前記(1)のハの(イ)のとおり、賞与算定表「寄付」欄の額を加算していないこと及びa表の賞与支給額でみると、前記(1)のハの(ロ)のとおり、雇用形態等が類似する者の間では均衡が取れていることから、b表に係る賞与支給額は、専ら本件寄付に応じるか否かを基準として算定されていると認められること、

 B 本件寄付金の額は、前記(1)のハの(ハ)のとおり、a表とb表の差引支給額の差額であり、b表に係る差引支給額から本件寄付金の額を控除した額とa表に係る差引支給額とが同額になるように算定されていること。

  また、b表は、a表とb表の賞与支給額の差額(以下「本件賞与差額」という。)を請求人らに支給したとした場合に同人らの負担を増加させることなく、実際にA会へ寄付することのできる額を計算するために作成したものと認められること、から、B社においては、本件賞与差額について賞与支給額の算定時から既に本件寄付金に充てることを予定していたものと認められる。

 (ハ) 請求人らから寄付申込書が提出された経緯等についてみると、

 A 請求人らは、前記(1)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、B社から言われたとおりに寄付額を記入しないで寄付申込書を提出していること、

 B 元従業員Rは、前記(1)のトの(ロ)及びリの(ロ)のとおり、会社がA会に寄付するので名義を貸してほしいと言われた旨答述し、同Y及びZも同旨の申述をしていること、

 C B社は、前記(1)のホのとおり、寄付申込書の提出の有無に関係なく、しかも、前記(1)のニの(イ)の寄付申込書の提出期限前の平成3年5月31日にb表に係る支給額から、本件寄付金を差し引いてこれを預り金として同社に受け入れていること、

 D 従業員V、W及びXは、前記(1)のチの(ロ)のとおり、自己の寄付額がどのようにして決まったのか知らないこと、から、B社においては、請求人らから、寄付申込書を徴することにより、B社のA会に対する寄付を従業員がしたかのように形式を整えたものと認められ、請求人らにおいても、本件寄付については自己の負担がないと認識していたために、B社の指示のまま協力したものと認められる。

 

  なお、後援会は、前記(1)のヘ及びチの(ハ)のとおり、いつ、どのような手続で結成されたのかさえも明らかでない状況で、その実態を備えていないと認められるから、寄付の要請及び本件寄付金の額の計算を後援会に依頼した旨の請求人の主張並びにこれにそう従業員Vらの答述はいずれも採用できない。

 

 (ニ) 以上を総合すると、B社が支給した本件賞与は、請求人の社内預金口座に振り替えられた390,513円に対応するa表の賞与支給額419,000円であり、b表は仮装して作成されたものと認められるから、本件賞与差額279,000円は請求人に支給されていないと認めるのが相当である。

 

  したがって、請求人の賞与支給額は、a表に基づく419,000円となる。

 

ロ 請求人は、b表に基づく賞与のうちから260,030円をA会へ寄付した旨主張するが、請求人の賞与支給額は、上記イのとおりa表に基づく419,000円と認められるから、請求人は、本件寄付をしていないことになり、他にA会へ寄付した事実も認められない。

 

ハ そうすると、請求人の本件賞与差額279,000円を給与所得の収入金額から減算して、給与所得の金額を2,561,000円とし、所得税法第78条に規定する寄付金控除はないものとしてなされた本件更正は適法である。

 

(3) 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

 

 

(平5.4.28、裁決事例集No.45 122頁)