確定申告(29)

 

 

 

 

 

 関連法人が支払った請求人の事業所得に係る経費に相当する額については、請求人が役員として経済的な利益を享受したと認めることはできないとした事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

(1) 認定事実

 

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

 

イ D社と請求人との間の契約関係等について

 

 請求人は、平成2年5月22日にJ社(現D社)との間でD社e店を契約店舗とするフランチャイズ契約を結び(以下、この契約に基づく事業を「本件D社事業」という。)、その後、契約は継続更新されており、平成14年2月13日には同店を販売場とする酒類販売業者の免許を取得するとともに、請求人の所得税の確定申告において本件D社事業に係る収支を事業所得として申告していたことなどから、D社e店の経営は、請求人個人によって行われていたことが認められる。

 

ロ F社の本件D社事業に係る経理処理について

 

(イ) F社は、平成18年12月期ないし平成20年12月期において、D社からF社の公表銀行口座(請求人名義のK銀行d支店の普通預金口座(口座番号○○○○)、以下「本件D社口座」という。)へ毎月振り込まれる「オーナー利益」及びD社e店の店員への「給料」相当額を仮受金として経理処理をし、また、D社e店に係る電気料及び店員への給料等の経費を本件D社口座から出金し当該仮受金からの支出とする経理処理をしていた。

  なお、本件D社口座の入出金は、本件D社事業に係るもののみであることから、本件D社口座は、本件D社事業の専用口座と認められる。

 

(ロ) また、F社は、平成18年12月期ないし平成20年12月期の各決算期末において、当該仮受金の残高を同法人の受入手数料として収益に計上し(以下、この受入手数料を「本件受入手数料」という。)、法人税の課税所得の計算上益金の額に算入していたことが認められる。

  なお、請求人とF社との間で本件D社事業に係る契約書等の作成はなく、本件受入手数料に係るF社からD社e店への役務の提供も無かったことから、請求人とF社との間で本件D社事業に関する契約はなかったと認められる。

 

(ハ) F社は、本件D社経費の全額を立て替えて支払っていた。

  なお、F社は、平成18年12月期においても本件D社経費と同様の経費を立て替えて支払っていたところ、平成18年12月期には当該立替金の全額を本件D社経費に振替処理等し法人税の課税所得の計算上損金の額に算入していたが、平成19年12月期及び平成20年12月期においては、本件D社経費のうち車輌関係費用等に相当する金額を各決算期末にG社からの短期借入金と相殺し、店長に係る給与に相当する金額を法人税の課税所得の計算上損金の額に算入していた。

 

 

 

ハ G社における請求人の地位及び本件D社事業に係る経理処理について

 

(イ) 請求人は、G社の債務の連帯保証人であるとともに、平成11年に同法人の代表取締役を辞任した後も、同法人の主要業務である債務返済計画の策定や金融機関等との債務返済及び担保物権の処分に係る交渉を行うなど同法人の経営に従事しており、実質的な経営者の地位にあったと認められる。

 

(ロ) G社は、平成19年12月期及び平成20年12月期の各決算期末において、本件D社経費のうち車輌関係費用等に相当する金額について、F社がG社の費用を立て替えたものであるとして、F社に対する貸付金勘定などを振替処理し、G社の損金の額に算入したものと認められる。

 

  なお、平成18年12月期においては、本件D社経費に相当する金額について何ら経理処理をしていない。

  また、G社と請求人の本件D社事業との間には、直接の取引もなく、事業の取引による関連性はないと認められる。

 

 

 

 

(2) 法令解釈

 

イ 給与所得について

 所得税法第28条第1項及び同法第36条第1項は、別紙の1及び2のとおり、所得税法上の給与所得には経済的利益による収入が含まれる旨規定されているところ、所得税基本通達36-15は、別紙の3のとおり、経済的利益には、まる1買掛金等の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額に相当する利益又はまる2自己の債務を他人が負担した場合における当該負担した金額に相当する利益等が含まれる旨を定めており、この定めは、当審判所においても相当と認められる。

 

ロ 法人税法上の役員について

 法人税法第2条第15号は、別紙の4のとおり、役員には法人の取締役等以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものが含まれる旨規定しており、法人税法施行令第7条第1号は、別紙の6のとおり、政令で定める役員について規定しているところ、「使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの」とは、相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事しているものをいい、更に、法人の経営に従事するとは、法人の主要な業務執行の意思決定に参与していることをいうものと解される。

 

 

 

 

(3) 本件への当てはめ

 

イ 本件D社事業について

 

 本件D社事業は、上記(1)のイのとおり、請求人が、個人としてD社とのフランチャイズ契約の締結及び酒類販売免許の取得をし、本件各年分においてその収支を事業所得として申告するなど、請求人個人が経営を行っていたと認められること、並びに上記(1)のロの(ロ)及びハの(ロ)のとおり、請求人と本件各関連法人との間で本件D社事業に関する契約はなかったことなどの事実からすれば、本件D社事業に係る損益は、本件各関連法人に帰属するものではなく、請求人に帰属するものと認められる。

 

ロ 本件D社経費について

 

 本件D社事業は、上記イのとおり、請求人の個人事業であり、全ての本件D社事業に係る損益が、請求人に帰属するものと認められる。

 

  なお、上記(1)のロの(イ)のとおり、F社が本件D社事業の専用口座である本件D社口座への入出金を仮受金として経理処理をしていたこと、並びに上記(1)のロの(ハ)及びハの(ロ)の事実からすれば、G社が損金の額に算入した本件D社経費は、F社が支払った上記(1)のロの(ハ)の本件D社事業に係る経費について、平成19年12月期及び平成20年12月期において、その一部を単に付け替えたものにすぎないことなどが認められる。

  以上のことを踏まえると、F社の本件D社事業に係る経費の支払は、請求人個人が行う本件D社事業に対するF社の立替金とみるのが相当である。

 

  そうすると、請求人が本件各関連法人から本件D社経費に係る経済的利益を享受したものと認めることはできず、本件D社経費は、請求人の本件各年分の給与所得には該当しない。

 

 

 

ハ 原処分庁の主張について

 

 原処分庁は、本件各関連法人が請求人が支払うべき本件D社経費を負担しており、これにより、請求人は本件D社経費に相当する額の経済的利益を享受しているものと認められ、また、請求人は、本件各関連法人の役員であり、当該経済的利益は、請求人が役員たる地位に基づき享受するものであることから、本件D社経費に相当する額は給与所得に該当する旨主張する。

 

  確かに、請求人は、上記1の(4)のロのとおりF社の代表取締役であり、また、上記(1)のハの(イ)のとおりG社の実質的な経営者と認められることから、上記(2)のロの役員の要件を満たし、G社の法人税法上の役員に該当するものである。

 

  しかしながら、本件各関連法人が損金の額に算入した本件D社経費については、上記ロのとおり、全ての本件D社事業に係る損益が、請求人に帰属するものと認められるのであるから、本件D社事業に係る損益のうち本件D社経費についてのみ、請求人が経済的利益を享受したとは認められない。

 

  したがって、原処分庁の主張には理由がない。

 

(4) 本件各更正処分について

 

 上記(3)のロのとおり、本件D社経費は、所得税法第28条第1項に規定する給与所得には該当しないことから、これを請求人の本件各年分の給与所得に該当するとして行われた本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

 

(5) 本件各賦課決定処分について

 

 本件各更正処分は上記(4)のとおり違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

 

 

 

(平成24年6月26日裁決)