確定申告(28)

 

 

 

 

 

 譲渡代金によって弁済したのは自己の債務であって、保証債務ではないとして、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例の適用を認めなかった事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

(1)本件通知処分について

 

 本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、保証債務の特例が適用できるか否かについて争いがあるので、以下審理する。

 

 

イ 認定事実

 

  請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

 

 (イ)本件債務は、金銭消費貸借証書によれば、請求人が主たる債務者であり、Eが連帯保証人であること。

 

 (ロ)R農協の組合員名簿によれば、Eは、昭和61年3月14日に正組合員となってから本件第二債務が実行されるまでの間、引き続き組合員であったこと。

 

 (ハ)平成8年5月31日付のR農協の代表理事組合長が請求人にあてた「代位弁済証書」と題する書面によれば、本件債務を貸し付けるに当たり、Eには担保する資産等がないため、請求人を債務者、Eを連帯保証人とする金銭消費貸借契約証書に基づき融資を行ったが、主たる債務者はEであり、本件弁済債務は主たる債務者に対する代位弁済である旨の記載があること。

 

 (ニ)請求人が証拠書類として当審判所に提出した、Eの農業経営に係る帳簿書類の写しによると、次の記載があること。

 

A 本件第一債務は、昭和63年11月7日に農協より借入れ。

 

B 本件第二債務は、平成6年3月31日に農協より(父より)借入れ。

 

 (ホ)上記(ニ)の帳簿書類の写しの記載は、日付が前後する箇所が多々存すること。

 

 

ロ R農協本所の担当者は、当審判所に対して、次のとおり答述している。

 

 (イ)本件債務について、R農協では、請求人に対する融資であると考えており、返済が滞った場合は、請求人に対して請求するものであること。

 

 (ロ)本件債務について、R農協では、請求人と保証契約を結んだことはなく、請求人が保証人であるという認識はないこと。また、形式的にも実質的にも、請求人に対する融資であること。

 

ハ ところで、保証債務の特例は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部が行使できないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額については、譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなす旨規定している。

 

 

 

 

 

ニ そこで、本件譲渡が保証債務を履行するために譲渡されたものか否か、以下審理する。

 

 (イ)本件土地の譲渡代金は、上記1の(3)のヘ及びトから判断すると、本件弁済債務に充てられたと認められるところ、本件債務については、上記イの(イ)のとおり、主たる債務者は請求人であり、連帯保証人がEであることが認められる。

 

 (ロ)請求人は、本件債務について、主たる債務者は請求人名義となっているが、それは形式的なものであり、実質の主たる債務者はEである旨主張する。

 

  しかしながら、〔1〕本件債務を借り入れる際、EはR農協の組合員となっており、借入れの名義はEでも可能であったこと、〔2〕本件債務の金銭消費貸借証書によれば主たる債務者が請求人となっているが、請求人が保証人であるとの記載はもとより、保証契約を締結したとする記載もなく、かつ、そのことを推認できる書類も存しないこと、〔3〕R農協本所の担当者は本件債務は請求人に対する貸付けであり、請求人と保証契約を結んだことはなく、請求人が保証人であるという認識はない旨の答述をしていることからすると、本件債務の主たる債務者は、請求人であると認められる。

 

 

  この点に関し、請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、Eが本件債務を費消し、本件債務の返済もEが行っているから、それらも考慮すれば本件債務の実質的な主たる債務者はEである旨主張し、確かに上記1の(3)のニの(ホ)のとおり、本件債務は未払購買代金の返済のために借り入れられたもので、Eが最終的にこれを費消したものであり、請求人の提出資料によれば、本件債務の割賦弁済はE名義のR農協の総合口座から支払われていることが認められるが、この事実は、本件債務の主たる債務者は請求人であり、Eは、請求人から本件債務相当額を借り入れて未払購買代金の返済に充てたもので、請求人からの借入れの返済方法として、請求人に代わって本件債務をR農協に返済したにすぎないとしても矛盾を生じない内容であって、本件債務の主たる債務者が請求人であるとの認定を左右するものではない。

 

 

  また、〔1〕上記イの(ハ)のとおり、主たる債務者はEである旨の説明を付した代位弁済証書が作成されている事実が認められるが、本件債務の債権者であるR農協は、本件弁済債務の弁済を受けることができればそれで足りることから、あえて主たる債務者がEである旨の説明を付した代位弁済証書を作成した理由が不明であり、代位弁済証書の当該説明部分は不自然な記載であって信ぴょう性があるとは認められないこと、〔2〕上記イの(ニ)のとおり、本件債務が帳簿に記載されている事実は認められるが、本件第二債務について、摘要欄に「父より借入」と記載していたものを「農協より借入」と補正しており、また、帳簿の記載日付けが逆になっているなど、帳簿の記載内容に信ぴょう性があるとは認められないことから、これらの事実をもって、本件債務の主たる債務者が請求人であるとの認定を覆すに足る事実とは認められない。したがって、また、本件債務がE名義の青色申告決算書に記載されているとしても、上記認定が左右されるものではない。

 

 (ハ)なお、請求人は、上記2の(1)のロのとおり、Eが請求人から経営委譲を受けた際、債務の引受けをしており、この債務引受けは重畳的債務引受けであるから、連帯債務者の債務の履行があった場合に該当する旨主張するが、経営委譲された時に債務の引受けがあったか否かはともかく、本件債務は経営委譲した後に発生したものであり、債務引受けの有無については、本件債務の実質債務者を判断する場合に影響を及ぼすものではないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 (ニ)以上のことから、本件債務は、請求人が主たる債務者であると認められるので、本件弁済債務は自己の債務の弁済であって、保証債務の履行ではないと認められる。

 

 

ホ 以上審理したところによれば、請求人の主張には、いずれも理由がなく、本件譲渡は保証債務を履行するための譲渡とは認められないことから、求償権の行使が可能か否かの判断をするまでもなく、原処分庁が、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、保証債務の特例を適用することはできないとして行った本件通知処分は適法である。

 

(2)その他

 

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

 

 

(平12.12.11裁決、裁決事例集No.60 315頁)