確定申告(26)

 

 

 

 

 

 

 

 仕入税額控除に係る請求書等には、真実の仕入先の氏名等が記載されておらず、また、その仕入先が真実であると信じざるを得ない状況にはなかったとして仕入税額控除を否認した事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)本件各更正処分について

 

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

 (イ)請求人は、当審判所に対して、次の本件仕入取引に係る証拠を提出した。

A Hの担当者としての「営業f」及びLの担当者としての「g」という各氏名が記載された名刺。

B 本件証ひょう類のうち、G及びHの平成9年11月分、Kの平成11年3月分及びLの平成10年4月分の各納品書、請求書及び領収証。

 (ロ)本件各仕入先の所在等の状況は、以下のとおりである。

A Gについて

(A)G名義の請求書等の所在地であるU店の管理課員は、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。

a Gという名の業者は、請求人との取引期間とされる平成9年9月から同10年11月までの間において、U店4階に実在していない。

b U店への出店者は専用の領収証を使用しているが、Gの証ひょう類はU店のものとは異なる。

 (B)U店で「h」という店舗を開いていたh株式会社(本店所在地はQ市q町○丁目○番○号○○ビル。)の代表者の妻で、同社の経理担当でもあるmは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。

a 当社は、U店2階において、Gの名称で小売店舗を出店していたが、平成6年9月に閉鎖した。

b 当社は、請求人と取引をした実績はなく、本件証ひょう類に押印されている印章等は、当社が使用しているものとは異なっている。

B Kについて

(A)調査担当職員は、Kが賃借していたP市s町○-○-○の事務所の賃貸人であるyに臨場し、次の事実を確認した。

a Kは、平成10年2月分からの家賃を滞納したまま、同年11月15日に退室している。

b Kは、その後倒産し、上記aの滞納家賃の請求及び連絡先は、P市内の弁護士事務所となっている。

 (B)Kの代表者であるuは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。

a 当社は、平成10年11月に倒産したが、それまで請求人との取引は一切ない。

b 請求人が保存しているKの請求書等の写しは、当社が使用しているものとは異なる。

c Yは、当社の経理担当であったが、平成8年の前半ごろに退社している。

C Lについて

 Lは、本件証ひょう類に記載されている所在地に実在しておらず、その居所等が明らかでない。

 (ハ)調査担当職員は、Mが経営する「Z」と称する事務所(所在地はP市n町○-○。以下「Z」という。)に臨場し、以下の事実を確認した。

A 本件証ひょう類に押印されているKのゴム印及び印章(以下「印章等」という。)は、同事務所に保管されていた。

B 同事務所の事務員であるwは、調査担当職員に対し、上記Aの印章等はKのYから預かった旨の申述をした。

C 同事務所において把握した商品の品番及び新旧の上代(小売価格)が記載されたファックス送信による一覧表(以下「本件価格一覧表」という。)は、発信先が「x」となっていた。

D Mは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。

 (A)本件仕入取引は、N社長から私に商品の発注があり、私が商品を納入し、その代金を現金で受け取っていた。

  また、本件各仕入先名義の白紙の領収証等をN社長に預け、これらの名義の取引に係る代金が1千万円単位になれば、同社長から受け取っていた。

 (B)G及びHは偽名義で、名義の使用に当たっては、N社長と相談していた。また、本件証ひょう類に押印されているHのゴム印は、私が作ったものである。

 (C)Kは、Yとの共同で仕事をしていた時の屋号だが、Yが手を引いた後、同人が使用していた印章等を使って、私が商売をしていた。

 (D)Lは、事業主が韓国籍の人であり、私が請求人との取引の窓口になっていた。

E Yは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。

 (A)請求人との取引は、Kの代表者の指示により行っていた。

 (B)Kを平成11年の前半に退職し、同社の印が不用となったので、Zに置いていた。

 (ニ)請求人の経理担当者は、調査担当職員に対して、おおむね次のとおり申述した。

A Mから預かっていた書類は、H及びL名義の納品書、請求書及び領収証並びにG及びK名義の領収証である。

B 領収証は、主にSが記載していた。

C 仕入代金は、現金で主にMに渡していたが、時折、tという人物にも渡していた。

D KのYという人物は知らない。

 (ホ)N社長は、当審判所に対して、次のとおり答述した。

A 前記(イ)のAのH及びLの名刺は、請求人の営業担当者が受け取ったものであり、名刺に記載のある者とは会ったことがない。

B 請求人の担当者が、本件各仕入先の所在地に赴くことはなかった。

C 白紙の領収証等は、経理担当者がMから直接預かって、金額等を記載していた。

D Mは、自身が本件各仕入先の代理人であるといったことはなく、同人が本件仕入取引の代理業務を行っていたことを証する書面等もないが、取引の流れからMを本件各仕入先の代理人と受けとめていた。

 (ヘ)G、H及びLの納品書の「品名」欄に記載された番号は、本件価格一覧表に記載の商品番号と同一のものが見られる。

 

 

 

 

ロ 仕入税額の控除について

(イ)消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った仕入税額を控除する旨規定しているが、同条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない仕入税額については、同条第1項の規定を適用しない旨規定している。

  また、消費税法第30条第8項第1号及び第9項第1号は、同条第7項に規定する保存すべき帳簿及び請求書等の記載事項として、課税仕入れの相手方の氏名又は名称等を掲げている。

  このように、消費税法が、事業者に対し、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けている趣旨は、法定の帳簿等によって仕入税額の信頼性、正確性が担保されない限り、その控除を認めないというのであるから、事業者においてその仕入れに係る法定の帳簿及び請求書等を保存させることにより、当該仕入取引が仕入税額の控除の対象となる課税仕入取引に係るものであることを立証させることにあると解されている。

 (ロ)また、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項によれば、仕入税額の控除を受けようとする事業者は、上記(イ)にいう帳簿及び請求書等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないと規定し、課税庁の課税権限が行使される最長の期間にわたって、法定の帳簿等の保存を要求している。

 (ハ)上記(イ)及び(ロ)の消費税法の趣旨に照らして考えると、消費者からの預り金的な性格を有する消費税は、特に正確な税額の把握が求められているところ、事業者において保存されている帳簿及び請求書等については、課税資産の譲渡等の内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されており、事業者がその要件を具備した帳簿及び請求書等を保存していない場合は、当該課税仕入に係る消費税額の控除は認められないと解される。

  そして、仮に事業者が、取引の相手方から交付された請求書等に記載されている氏名又は名称が真実の名義かどうか、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、これを確認せず、漫然と請求書等を保存し、これに基づいて帳簿に記載したにとどまる場合は、いまだ「保存されている帳簿及び請求書等に、真実の仕入先の氏名又は名称が記載されている」という要件を満たしていないというべきである。

  しかし、その反面、たとえ帳簿及び請求書等に記載された取引先の氏名又は名称が虚偽の名義であっても、事業者がこれを真実と信ずべき相当な理由があり、そのため、当該帳簿等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められる場合、又は、やむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合は、取引先の氏名又は名称が真実でないことをもって、当該仕入税額の控除ができなくなるものではないということができる。

 

 

 

 

 

ハ これを本件について見ると、以下のとおりである。

 (イ)本件仕入取引について

A 原処分庁は、本件各仕入先が実在しないか、あるいは実在していても請求人と取引の事実がなかったと認定しているが、その根拠とした前記のイの(ロ)の調査担当職員が確認した当該仕入先の所在等の状況については、関係者の証言等に基づいて詳細かつ具体的な内容となっていることから、信ぴょう性があると認められる。

  また、本件仕入取引は、〔1〕前記イの(ハ)のDのMの申述、〔2〕同(ニ)及び(ホ)のN社長及び経理担当者の答述等及び〔3〕同(ハ)のC及び(ヘ)の当該取引の商品番号が記載された本件価格一覧表が請求人からMへ発信されていた事実から見て、N社長がMに商品を発注し、それを受注したMが商品を納品した際、経理担当者がMに代金を支払うという流れで行われていたことが認められ、M以外の者が当該取引の当事者としてかかわっていたという事実は認められない。

B これについて、Mは、前記イの(ハ)のDのとおり、G及びHは虚偽の名義であることを認める申述をしている。そして、L名義の取引については、M自身が事業主である韓国籍の人物との窓口となっていたと述べるものの、同人は関与していた者の氏名や所在等を明らかにせず、取引の経緯や事実関係についても明確にしていないのであるから、M以外の者が当該取引に関与していたとは認められない。

C また、K名義の取引に関与していたとされるYは、Kの代表者の指示の下に請求人と取引していた旨申述しているが、同人がKの社員として請求人との取引に関与していたという事実は認められないし、仮に、Y個人が当該取引に何らかの関与があったとしても、前記イの(ロ)のBのKの現況及び同社の代表者の申述並びに同(ハ)のAのKの使用印章と異なる印章等がZの事務所に保管されていた事実を併せ考えると、YがKの名義を無断で借用し、Mが営む事業において当該名義の取引を行っていたものと推認することができる。

D そうすると、本件仕入取引はMが虚偽の名義を使用して行っていたものと認められるから、本件帳簿等に真実の取引先の氏名等が記載されているとはいえない。そして、このことは、消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当する。

 

 

 

 

 (ロ)これに対し、請求人は、本件仕入取引が商品の確保と決済に伴う領収証の収受もされていること及び請求書等の氏名等が真実であるかどうかを追及することが現金取引の実態にそぐわないこと等を理由として、本件帳簿等に記載された氏名等を真実の取引先と取り扱わざるを得ず、あるいは、そのように信じざるを得ない旨主張し、本件各仕入先が真実の取引先であると信じていたことを裏付ける証拠として、H及びLの関係者の名刺並びに本件証ひょう類の写しの一部を提出した。

  しかしながら、前記イの(イ)のAの名刺に記載された氏名の担当者が実際に請求人からの受注や納品代金の受領に関わっていたという事実は認められないし、同Bの証ひょう類についても、請求人の経理担当者が作成していたのであるから、本件各仕入先が真実の取引先であると信じるに足る証拠とはいえない。

 

  そして、本件仕入取引は、名義のいかんを問わず、Mが商品を納品した際、白紙の領収証等に本件各仕入先の氏名等や金額などを記載した上、取引の名義人とは別人で、かつ、当該名義人の委任状等も持たないMに現金で支払うといったように、一般的な現金取引にもない形態で行われていたと認められ、このような場合、高額な仕入代金を現金で支払う請求人側から見れば、本件各仕入先の氏名等が真実の名義かどうか、社会通念上から見ても疑わしい状態にあったといえるところ、N社長をはじめ請求人の社員等は、当該仕入先の所在や業態、あるいは取引経路等をMに確認することなく、当該取引を継続して行っていたといわざるを得ない。

 

  そうすると、本件仕入取引において、請求人が本件各仕入先を真実の取引先であると取り扱わざるを得ない状況であったとか、そのように信じざるを得ない状況であったとはいえないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

 

 (ハ)なお、請求人は、本件各仕入先が真実の取引先でなかったとしても、本件仕入取引がMの行為か本件各仕入先の行為かという点について関知する立場になかったし、請求人自身が仮名取引をしていたのではない旨主張する。

 

  確かに、N社長は、前記イの(ホ)のとおり、Mを本件各仕入先の代理人と受けとめていた旨申述しており、原処分関係資料によっても、請求人が仮名取引に加担をしていたとまで認めるに足る証拠は見当たらない。

 

  しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件各仕入先が真実の取引先かどうか疑わしい状態であったにもかかわらず、その実態等が確認されることなく本件仕入取引が行われていたことは明らかであるから、請求人において、本件仕入取引に係る仕入税額の控除を認める理由等、すなわち、前記ロの(ハ)の後段に掲げる取引先の氏名又は名称を真実と信ずべき相当な理由、又は、真実の氏名又は名称を記載した帳簿及び請求書等を保存することができないやむを得ない事情があったとは認められない。

 

  したがって、虚偽の氏名等を使用した本件仕入取引への請求人の関与が否定されたとしても、そのことで当該取引に係る帳簿及び請求書等を法令の規定に従って保存していなかった請求人の責任を免れ得るものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 (ニ)また、請求人は、本件仕入取引の相手先は「GことM」等といえるから、本件帳簿等は真実の取引先の実態を反映しており、その記載の真実性には問題がないといえるとも主張する。

 

  しかしながら、本件帳簿等には、本件仕入取引に係る取引先としてMの氏名が全く記載されておらず、その記載によって真実の取引先を特定することができないことは明らかであるから、当該取引についての記載に真実性が存在するとはいえない。

 

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 (ホ)さらに、請求人は、本件においては真実の課税仕入れが存在するなどの事情があるから、「権利としての仕入税額の控除」が認められるべきであり、また、原処分庁が真実の取引先をMと判断したのであるから、本件仕入取引に係る仕入税額の控除が否認されるとともに、Mへの適正な課税処分がされたら、明確な二重課税となる旨主張する。

 

  しかしながら、本件仕入取引については、仕入れの事実そのものが否定されたのではなく、消費税法第30条第1項の課税仕入れには該当するといえるものの、上記(イ)ないし(ニ)の各事実認定の下で、当該取引に係る虚偽の氏名等の記載されている本件帳簿等が、同条第7項ないし第9項の規定による「仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等」に該当しないとされる結果、仕入先に対する課税の有無とはかかわりなく、仕入税額の控除が許されないこととなるのである。

 

 

  そうすると、請求人の主張する事情は、請求人の本件仕入取引に係る仕入税額の控除が認められないという上記判断を左右するものではない。

 

  したがって、この点に関する請求人は採用できない。

 

ニ 以上のとおり、請求人は、消費税等の税額計算において、本件仕入取引に係る仕入税額を控除することが認められないから、原処分庁が行った本件各更正処分は適法である。

 

 

 

 

(2)本件各賦課決定処分について

 

上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、当該各更正処分により納付すべき税額計算の基礎となった事実が更正処分前の税額計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

 (3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

 

 

(平14.4.3裁決、裁決事例集No.63 653頁)