確定申告(25)

 

 

 

 

 

 

 店頭における商品の仕入れに際し、仕入先が言うままの名称を帳簿等に記載している仕入取引については、その名称が真実のものでないと推認されるとして、消費税の仕入税額控除は適用できないとした事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本件審査請求の争点は、請求人が行った本件仕入取引に係る消費税額の仕入税額控除の適用の有無であるので以下審理する。

 

(1)本件更正処分について

 

イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当であると認められる。

 (イ)請求人は、本件調査において、本件仕入取引に係る証拠として保存している本件帳簿等のみを調査担当職員に提示したこと。

 (ロ)本件請求書は、仕入先が請求書を発行しないため、納品に際し、請求人の社員等が備付けの請求書用紙に仕入年月日、商品名、数量、単価、金額及び仕入先名を記入し作成していること。

 (ハ)本件請求書の記載事項のうち、仕入先名を除く部分については、特に疑義がないこと。

 (ニ)本件帳簿の記載事項は、本件請求書から転記し記帳されていること。

ロ 当審判所が原処分関係資料を調査し、調査担当職員及びLから聴取したところ、次のとおりである。

 (イ)本件請求書に記載されている仕入先名は、K薬局、J薬局等の名称のみであり、所在地や電話番号等は一切記入がないこと。

 (ロ)本件調査において、調査担当職員が本件仕入取引に係る仕入先を特定する必要があると判断し、Lに対し再三にわたり、仕入先が特定できない場合、消費税の仕入税額控除は認められない旨説明し、仕入先の住所等を明らかにするよう求めたにもかかわらず、Lはこれに応じなかったこと。

ハ ところで、消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。

  また、消費税法第30条第7項は、事業者が当該課税期間に課税仕入れに係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る税額については同条第1項の規定を適用しない旨規定している。

  さらに、帳簿及び請求書等の記載事項等について、同条第8項第1号及び第9項第1号は課税仕入れの相手方の氏名又は名称等を規定しているところである。

  また、消費税法施行令第50条第1項によれば、同法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、当該帳簿については、その閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から、それぞれ2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない旨規定されている。

  これらの規定からすれば、帳簿又は請求書等の保存年限が、商法第36条《商業帳簿等の保存》では10年としているのに対し、消費税法施行令第50条第1項では税務当局において消費税法第62条《当該職員の質問検査権》に規定する課税権限を行使し得る最長の期限である7年とされていること及びその保存場所についても規定していることからみて、税務調査に際し、税務職員からその提示が求められた場合、当該保存されている帳簿又は請求書等が提示され、これに基づいて課税仕入れに係る取引の内容等を確認し、かつ、課税仕入れに係る消費税額を算出し得ることを予定し、このような確実な資料が保存されていないときには仕入税額控除の規定を適用しないこととする趣旨によるものと解される。

  そうすると、消費税法第30条第7項にいう帳簿又は請求書等の保存とは、ただ単に帳簿又は請求書等が事業者の支配下に存在するということのみをいうのではなく、適法な税務調査に際し、税務職員からその提示を求められたときには、正当な理由がない限りこれに応じ、当該職員において記載された事項を確認し得る状態に置くべきことを含むものであり、このことを含めて7年間保存が継続されなければならないと解するのが相当である。

ニ このような消費税法の趣旨にかんがみれば、消費税法第30条第1項の規定の適用を受けるためには、保存されている帳簿又は請求書等に、課税仕入れの年月日、課税資産の譲渡等の内容及び支払対価の額とともに真実の仕入先の氏名又は名称が記載されていることを要し、ただ単に仕入先の氏名又は名称として何らかの氏名又は名称が形式的に記載されていれば足りるというものではないことは明らかである。

  ところで、消費税法第30条第1項の規定の適用除外事由である法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存していないという事実については、事業者は当該課税仕入れに係る取引の当事者として取引に関する資料を保存していること、課税庁は取引と直接関係がない者であることなどを考慮すると、事業者側において、まず、帳簿又は請求書等に課税仕入れの相手方の氏名又は名称として記載されているものが、真実の相手方のそれであることを、相当の根拠、資料に基づいて明らかにする必要があり、事業者がこれを果たさない場合には、当該課税仕入れにつき法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存していないことが、事実上推認されるというべきである。

  そして、取引の経緯等から、仕入れをした相手方が表示した氏名又は名称が、真実の取引の相手の氏名又は名称であるか否か、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、あえて、これを確認しようとせず、漫然と当該氏名又は名称を記載するにとどまるときは、いまだ事業者において、帳簿又は請求書等に記載された氏名又は名称が、真実の相手方のそれであることを明らかにする必要を果たしたということはできないところである。

ホ 請求人は、本件帳簿等に記載された本件仕入取引に係る仕入先名は真実のものである旨再三説明しているにもかかわらず、原処分庁が、これを信用せず、当該仕入先名は仮名であるから本件帳簿等は消費税法に定める帳簿及び請求書等に該当せず、仕入税額控除の対象とならないとしているのは、前記2の(1)のイの(ロ)のとおり、数々の事実誤認に基づいて判断したものであり違法である旨主張するので、以下検討する。

  本件請求書の作成については、上記イの(ロ)のとおりの事実が認められる。また、その仕入先名の記載については、上記ロの(イ)のとおりである。

  さらに、請求人は、前記2の(1)のイの(ロ)のAのとおり、仕入先が言うままの名称を本件請求書に記載していることを自認しており、また、請求人の取引においては取引経路等まで確認しておく必要性はないと主張している。

  請求人が主観的に仕入先の言った名称が真実であるかどうか疑わしいと考えたか否かはともかくとして、仕入先が店頭に商品を持ち込み、発行者の氏名又は名称及び住所等が記載されている請求書及び領収書を持参しないという通常一般に行われない形の取引においては、仕入先の言うままの名称が真実かどうかは、社会通念上要求されるところの注意の範囲内では相当程度疑われるというべきである。

  しかるに、請求人は上記のとおり、取引経路等を確認せず、仕入先が言うままの名称を本件請求書に記載していたことが明らかである。

  したがって、本件帳簿等に記載されている名称は、真実のものではないと推認されるから、本件帳簿は、氏名又は名称の記載を欠くものと認められ、消費税法第30条第7項及び第8項に規定する帳簿には該当せず、また、本件請求書は仕入先が作成したものではないから、同条第7項及び第9項に規定する請求書等には該当しない。

  そうすると、請求人が調査担当職員に本件仕入取引の証拠資料として提示したのは本件帳簿等のみであるから、本件仕入取引については、消費税法第30条第7項が仕入税額控除の要件とする帳簿等の保存がなかったことになり、仕入税額控除をすることができない。

  なお、請求人は、原処分庁及び異議審理庁に事実誤認があるとして、前記2の(1)のイの(ロ)のとおり主張するが、それらの事実誤認の有無は本件帳簿等の保存に係る上記判断に影響を及ぼすものではない。

ヘ 請求人は、原処分庁が本件帳簿等を消費税法に規定する帳簿及び請求書等に当たらないとしながら、仕入税額控除を認めないとした本件更正処分に係る税額を本件帳簿等に基づき算出しているのは矛盾したものである旨主張する。

  しかしながら、原処分庁は、本件帳簿等に記載された仕入先名を除く部分については特に疑義がなく、当該仕入先名が真実であるか否かを確認することができないとしているところであり、本件帳簿等に記載された金額等まで否定しているものではない。

  そうすると、原処分庁が仕入税額控除を認めなかった本件更正処分に係る消費税額を本件帳簿等に基づき算出したとしても不合理とは認められない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

ト 請求人は、原処分庁の過去の法人税の調査の際における指導に基づき本件帳簿等を作成し保存しているにもかかわらず、原処分庁が本件帳簿等を消費税法に定める帳簿及び請求書等には該当しないとしているのは指導に一貫性がなく不当である旨主張する。

  しかしながら、法人税と消費税は、異なる税法の規定によるもので、課税標準等を異にしており、法人税の指導内容が消費税の取扱いと異なったとしても不当とは認められない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

チ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することができず、本件仕入取引については仕入税額控除をすることができない。また、本件各課税期間の消費税の課税標準額、消費税額、控除税額及び納付すべき税額の認定及び計算は、いずれも適正に行われている。

  したがって、本件更正処分は適法である。

 

(2)本件賦課決定処分について

 

 以上のとおり、平成3年3月期課税期間及び平成4年3月期課税期間の更正処分は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて本件賦課決定処分をしたことは適法である。

 

(3)その他

 

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

 

 

 

 

 

(平7.5.31裁決、裁決事例集No.49 490頁)