確定申告(22)

 

 

 

 

 

 

 事業に関して生じた貸付金の貸し倒れについて検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1) 事業所得の金額について

 

 請求人は、A男、B男及びC男に対する貸付金の貸倒れによる損失を事業所得の金額の計算において必要経費に算入すべきである旨主張するので、以下審理する。

 

イ A男に対する貸倒損失

 (イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方において争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

 A A男は、被相続人から金員を借用したとして次表のとおり借用証を作成していること。

B 更に、被相続人は、A男との間で金銭消費貸借に関して次のとおりの文書を作成していること。

 (A) A男は被相続人から昭和53年12月現在368,200,000円を借用していることを確認する旨の、同年12月18日付のA男が被相続人にあてた文書

 (B) A男と被相続人との間の債権債務が432,200,000円であり、その返済期限は昭和56年8月31日である旨の同年7月10日付の「債権債務の確認及び支払約定書」

 (C) A男と被相続人との間の債権債務が810,000,000円であり、その返済期限は昭和58年9月末日である旨の同年5月13日付の「債務確認並びに債務弁済契約書」

 (D) 請求人が、A男に対し上記(C)で確認した810,000,000円を放棄する旨を通知した、昭和63年9月8日付の「債権放棄書」

 (E) 支払期限を昭和63年10月31日とする、A男がF男が受取人として貸付金返済の遅延に伴う慰謝料200,000,000円の支払を確約した昭和63年9月16日付の「確約書」

 (ロ) A男は、調査担当職員に対し次のように申述している。

 A 被相続人とは、仕事上の取引はなく個人的な付き合いであり、同人からの借入金も個人的なものと認識していること。

 B 被相続人からの借入金は、前記(イ)のBの(B)の432,200,000であり、これに今後の利息を加えた810,000,000円を昭和58年5月13日付の債務確認並びに債務弁済契約書に記載したものであること。

 (ハ) 当審判所が、昭和58年分所得税の調査資料を調査したところ、被相続人は、次のように申述している。

 A 被相続人は、昭和45年ごろから農業の傍ら不動産仲介業を始めたが、昭和60年までに手掛けた仕事としては、S県のゴミ焼却場及び小学校の建設用地の買収があった時取りまとめをした程度で、他にはほとんど不動産関係の仕事はなかったこと。

 B 被相続人は、仲介者である△△からA男に対する事業資金の貸付けを依頼され、当時所持していた自己の不動産売却代金等をA男に貸し付けたもので、不動産取引に関係した貸付金ではなかったこと。

 C 被相続人は、A男に対する貸付金について、その内容を当時所持していた手帳に記載しており、前記(イ)のBの(B)で述べた「債権債務の確認及び支払約定書」は、B男が立会いの上、前記の手帳を基に被相続人とA男とで確認の上作成したものであること。

 D 被相続人は、金融業は営んでおらず、A男、B男及びC男に対する金銭貸借に関しては、利息の取決めはなく、また、担保の差し入れはなかったこと。

 

 (ニ) 以上の事実を総合勘案すると、昭和58年5月13日付の被相続人とA男との間で作成された債務確認並びに債務弁済契約書上の金額810,000,000円は、未確定の利息を加えたものであり、これを貸付金の額と認定することはできず、被相続人のA男に対する貸付金の額は、昭和56年7月10日付の債権債務の確認及び支払約定書記載の432,200,000円であると認められる。

 

  しかしながら、前記(ハ)のA、B及びDのとおり、A男に対する貸付金は不動産取引に関した貸付金とは認められず、更に、被相続人は貸金業を営んでいないことから、この貸付金が被相続人の事業の遂行上生じたものと解することはできない。

 

ロ B男に対する貸倒損失

 (イ) 当審判所が、昭和58年分所得税の調査資料を調査したところ、被相続人は、次のように申述している。

 A B男は、昭和56年5月ごろ、A男に対する貸金を回収してやるとの言をもって被相続人に近づき、当時、被相続人の所有不動産が競売にかけられていることを奇貨として被相続人のために立ち回り、それ以降、度重なる被相続人の新規資金の借入れや既存の負債の返済に関与するようになったこと。

 B 被相続人の既存の負債を返済するため自己所有の不動産を担保に市中金融から借入れした金員のうち、被相続人の負債返済後の残額をB男が受領しており、この金員は同人に対する貸付金であり、また、その額は次表のとおりであること。

C B男に対する貸付金は、総額で200,000,000円から250,000,000円ぐらいになっていること。

 D B男に対する貸付金も含めて、その貸付けが事業に関するものとは思っていないこと。

 (ロ) B男は、昭和63年10月3日に調査担当職員に対して、被相続人とは仕事上の取引は全くなく個人的な付合いであり、同人からの借入金の総額は約240,000,000円である旨を申述している。

 (ハ) 請求人は、当審判所に対して、被相続人が昭和60年分及び昭和62年分の確定申告において申告したB男に対する貸倒損失額165,008,000円及び230,000,000円の合計額395,008,000円は査察調査においてB男に対する貸付金として認定された金額である旨答述している。

 

 (ニ) 以上のことから判断すると次のとおりである。

 A 前記(イ)のB及びC、(ロ)並びに(ハ)の事実から、被相続人のB男に対する貸付金の残額は、少なくとも200,000,000円を超していたであろうが、被相続人が昭和60年分及び昭和62年分の確定申告において貸倒損失として申告した金額の合計額395,008,000円には達していないことが推察され、その金額がいくらかであるかは明確ではない。

 B そして、前記イの(ハ)のA及びDのとおり、被相続人は貸金業を営んではおらず、また、B男に対する多額の貸付金が発生した昭和58年における被相続人が業とする不動産仲介業に基づく事業所得の金額はきん少であり、更に、前記(イ)のDのとおり、被相続人はB男に対する貸付金が事業上のものではないと申述していることから判断しても、B男に対する貸付金が事業の遂行上生じたものと認めることはできない。

ハ C男に対する貸倒損失

 (イ) 当審判所が、原処分関係資料、昭和58年分所得税の調査資料、当審判所に対するC男の答述及び請求人から提出された証拠資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。

 A C男が被相続人にあてた2,500,000円の借用証書の日付は、昭和51年10月28日となっているが、「但借用書の差替の領収書として(土地売買に関する手数料として)」と記載のある2,000,000円の領収証も同日付となっていること。

 B C男は、被相続人の所有する土地の売買に関して仲介をなし、これにより仲介手数料として被相続人から2,500,000円を受け取ったが、後日契約が破棄となったこと。

  また、被相続人も、当該仲介手数料は自己の所有する不動産の売買に関して発生した旨申述していること。

 C 被相続人は、昭和63年2月15日にC男に対して、2,500,000円のうち500,000円しか返済を受けていないので残金の2,000,000円を返済するよう文書で通知し、これに対して、C男は、昭和63年2月17日及び同年2月23日の2度にわたり、被相続人に対して、上記2,000,000円は契約が不成立に終ったものの、土地取引に関する手数料である旨の文書を送付していること。

 (ロ) 以上の事実から判断すると、次のとおりである。

 A 上記(イ)のとおり、昭和51年10月28日付でC男は借用証書及び領収証を作成していることから、作成当時両者は、不動産売買契約の破棄に伴いこの仲介手数料を金銭消費貸借として取り扱ったことが推認され、被相続人はC男に対して貸付金を有していたこととなる。

  しかしながら、この貸付金は、被相続人自身の所有する不動産売買に起因して発生したもので、被相続人の不動産仲介に係る事業所得に関連して生じた貸付金とは認められない。

 B また、この貸付金が土地売買に関する支払手数料であるから事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである旨の請求人の予備的な主張については、仮に、この貸付金が支払手数料であるとしても、支払の発生した昭和51年分の所得の計算において必要経費とすべきもので、昭和62年分において必要経費と認めることはできず、この点に関する請求人の主張も採用することはできない。

 

 

 

 

ニ ところで、所得税法第51条第2項には、事業の遂行上生じた貸付金等の貸倒れにより生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨規定している。ここでいう事業の遂行上生じた貸付金等とは、当該事業の何らかの関係を有する貸付金等のすべてを指すものではなく、具体的には、販売業者の売掛金、金融業者の貸付金及びその未収利子、製造業者の下請業者に対して有する前渡金、工事請負業者の工事未収金、自由職業者の役務の提供の対価に係る未収金、不動産貸付業者の未収賃貸料、山林経営業者の山林売却代金の未収入金等をいい、その業種業態からみて、当該業務の遂行上通常一般的に必要であると客観的に認め得るもの、言い換えれば、当該事業による収入との間に相当因果関係の認められる貸付金等をいうものと解するのが相当である。

 

 

 

 

  そこで、本件についてこれをみると、被相続人のように個人で不動産仲介業を営む者が、本件のごとき多額の貸付けをすることが当該事業所得を得るため通常必要であるとは考えられず、また、被相続人も事業上の貸付金とは認識していなかった事実も認められ、更に被相続人が金融業を営んでいた事業もないから、A男ほか2名に対する貸付金が被相続人の事業遂行上生じたものとは到底認められない。

 

  したがって、請求人が主張するA男、B男及びC男に対する貸倒損失はいずれも被相続人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない。

ホ 請求人は、A男、B男及びC男に対する貸倒損失を除く被相続人の各年分の事業所得に関する原処分の金額について、これを争わず、かつ、当審判所の調査によっても、原処分庁の計算は適正であることが認められる。

  

 

 

 

 

 

(B) E社は、P市の土地の残土処理費として産業破棄物処理業者有限会社××発行の昭和55年6月18日付の9,009,090円の請求書並びに同年5月31日付の2,000,000円及び同年7月31日付の7,009,090円の領収証を受け取っていること。

 (C) P市の土地に関して、E社は被相続人を被告として昭和60年3月26日に訴訟(S地方裁判所建物収去土地明渡等請求事件)を提起し、両者は昭和60年6月25日に和解したところ、当該訴訟事件記録によれば、次の事実が認められること。

 a E社は、昭和55年4月4日にP市の土地の売買代金92,400,000円を、本来被相続人が支払うべき残土処理費の立替払分を差し引いてほぼ全額を支払った旨主張し、これに対して、被相続人は答弁書においてこのE社の主張を認めている。

 b 和解条項の主な内容は、被相続人はE社に対してP市の土地につき昭和55年4月4日売買を原因として所有権移転登記手続をし、かつ、土地を明け渡すこととなっており、また、原告と被告は本件に関し和解条項のほか何らの債権債務のないことを確認している。

 B 以上のことから、26,000,000円が未回収であるとの事実は認められず、かつ、請求人からP市への土地の売買代金92,400,000円のうち26,000,000円が未回収で貸倒れであることを証する資料の提出もないことからも、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 

 (ロ) R町の土地の売買契約に係る譲渡収入の金額

 A 当審判所が、原処分関係資料及び請求人からの提出資料並びに裁判所の訴訟事件記録を調査したところによれば、次の事実が認められる。

 (A) 被相続人は、E社との間でR町の土地について昭和57年1月20日付で売買代金90,000,000円とする売買契約書を作成していること。

  また、この土地の売買代金として、昭和57年1月20日付で被相続人はE社に対して90,000,000円の領収証を発行していること。

 (B) 被相続人は、R町の土地を担保に80,000,000円を第三者から借り受け、このうち、30,000,000円を昭和56年1月20日にE社に貸し付けたが未返済であるため、その返済を求める催促の文書を昭和58年1月18日にE社に対して送付していること。

 (C) R町の土地に関して、E社は被相続人を被告として昭和60年3月26日に訴訟(S地方裁判所建物収去土地明渡等請求事件)を提訴し、両者は昭和60年6月25日に和解したところ、当該訴訟事件記録によれば、次の事実が認められること。

 a E社は、訴状における請求の原因の第1項において、昭和57年1月20日にR町の土地の売買代金は90,000,000円で、全額を同日、被相続人に対して支払い、R町の土地の所有権移転登記を完了した旨を主張し、これに対して、被相続人は答弁書においてこのE社の主張を認めている。

 b 和解条項の主な内容は、被相続人はE社に対してR町の土地を明け渡すこととなっており、また、原告と被告は本件に関し和解条項のほか何らの債権債務のないことを確認している。

 B 以上のことから、被相続人とE社との間で前記Aの(B)で述べた30,000,000円の貸付金に関する問題があるにしても、譲渡代金の一部である30,000,000円が未回収であるとの事実は認められず、また、請求人からR町への土地の売買代金90,000,000円のうち30,000,000円が未回収で貸倒れであることを証する資料の提出もないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 (ハ) P市の土地及びR町の土地の譲渡に関する必要経費の額については原処分庁が算定した金額に誤りはなく、したがって、P市の土地及びR町の土地に関する譲渡所得の金額は次表のとおりとなり、被相続人の昭和60年分の分離課税の長期譲渡所得の金額は、被相続人が確定申告書に記載した金額136,233,800円に上記のP市の土地及びR町の土地に係る譲渡所得の金額合計173,190,000円を加算した金額309,423,800円である。

 

 

以下略

 

 

 (平4.12.9、裁決事例集No.44 126頁)