確定申告(20)

 

 

 

 業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができないから、必要経費の額に算入することはできないとした事例について検討します。

 

 

 

 

 

 請求人は、同人が支出した諸会費等(同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等)は、請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。

  しかしながら、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、[1]その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び[2]青色申告であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合に、それぞれその明らかな部分を必要経費に算入することができることとされているところ、請求人の主張する諸会費等はいずれも家事費又は家事関連費と認められ、家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることはできないから、これを必要経費の額に算入することはできない。

 

 

 

 

 

 

(1)本件各更正処分について

 

イ 更正の理由附記について

(イ)所得税法第155条第2項は、青色申告に係る所得金額を更正する場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨規定している。

  ところで、所得税法は、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得金額の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障しているところであり、同法第155条第2項の規定は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解される。

  このことから、理由附記の程度は、上記理由附記制度の趣旨及び目的と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきである。そして、帳簿書類の記載自体を信用できないとして否認して更正する場合はともかく、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合においては、その理由附記の程度として、納税者の申告のいかなる点にどのような誤りがあり、また、更正された数値がどのようにして算定されたものであるかが理解できる程度であれば足りるものであり、それ以上に事実関係の細部にわたり、法的評価及び判断の根拠となった事実関係までも記載することは要しないものと解するのが相当である。

 (ロ)請求人は、本件各更正通知書に附記された更正の理由では、法に規定する更正の理由と判断することはできず、不備がある旨主張する。

  しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、本件各更正通知書には、更正の理由として、各年分の「総勘定元帳に記載された事業所得の必要経費のうち、事業遂行上の経費と認められない経費について、別紙のとおり否認します」と記載され、当該別紙には必要経費に該当しないとして否認した経費の額について、経費の科目別に「支払年月日」、「金額」、「支払先」、「内容」が記載されており、このことから、請求人が必要経費の額に算入した経費の額について、原処分庁は、その支出の事実を否定したものではなく、その経費の額が所得税法第37条《必要経費》及び第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》の規定に基づき必要経費の額とすることはできないと判断したものということができる。

  そうすると、本件各更正通知書に附記された更正の理由は、請求人の申告のいかなる点にどのような誤りがあり、また、更正された数値がどのようにして算定されたものであるかを理解できる程度に記載されているから、本件各更正処分に係る更正の理由附記に不備があるとは認められない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

ロ 必要経費の額について

(イ)上記1の(3)の各支出のうち、図書研究費に計上されている米国歯周病学会申込金等、租税公課及び損害保険料が必要経費に該当しないことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。

 (ロ)請求人は、上記1の(3)の各支出のうち、上記(イ)以外の各支出は、いずれも請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。

  ところで、所得税法第37条第1項は、事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を、当該所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定し、同法第45条第1項第1号において、個人の消費生活上の費用である家事上の経費(以下「家事費」という。)及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)は、原則として、必要経費に算入することはできない旨規定している。

  そして、所得税法施行令第96条《家事関連費》は、家事関連費のうち、〔1〕その主たる部分が所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合、また、〔2〕青色申告者については、〔1〕のほか取引の記録等に基づいて所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分がある場合には、それらの部分は必要経費とされない家事関連費から除く旨規定している。

  そうすると、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び青色申告者であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合は、その部分を必要経費の額に算入することができることとなる。

  そこで、請求人が必要経費に算入すべきとする各支出について、以下検討する。

 (ハ)諸会費について

A 同窓会の会費及び校友会の会費

  請求人は、同窓会は開業医師にとって業界情報収集の場あるいは交際の場であるから、その会費は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、同窓会に参加することは、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動であり、同僚医師から患者の紹介を受ける等の効 果もあるので、その会費は、通常の高校や中学の同窓会費とは異なり、医師として活動する上で必要な費用である旨答述する。

  ところで、請求人が当審判所に提出したK歯科大学同窓会Q支部連合会会則及びH会からの請求人宛の葉書には、同窓会の活動目的として、歯科医学、歯科医療の向上に関することに加え、会員相互間の連絡及び情報交換並びに福祉厚生に関することが掲げられ、また、請求人が当審判所に提出した総勘定元帳や同窓会会費内訳書によれば、大学卒業後の研修に要する研修費用が同窓会費とは別に徴収されていることや会員に対する弔慰金等が同窓会の会費から支出されている事実が認められる。

  これらのことからすると、同窓会の活動が請求人の業務に直接関係するものに限定されていると認めることはできないし、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。

  また、請求人が同窓会に参加することにより、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動ができることや、同僚医師から手術等の必要な患者の紹介を受けることもあるということから、結果として請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことはあり得るとしても、同窓会の活動目的からして、同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当であり、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

  さらに、校友会費は、当審判所の調査の結果によれば、請求人の息子であり、請求人の勤務医であるR及びSが会員になっているM歯科大学校友会に対して支払われたものであり、請求人の業務に直接関係して支出されたものと認めることはできないから、これを必 要経費に算入することはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B 共済負担金

  請求人が当審判所に提出したQ県歯科医師会の福祉共済規則によれば、共済負担金は、福祉共済年金制度の趣旨に基づいて各医師会が徴収しているもので、医師個人の死亡時に支給される死亡給付金等の共済掛金的な性質の支出金であることが認められる。

  そして、歯科医師会福祉共済の給付には、死亡共済金、火災共済金、災害共済金、全盲共済金及び疾病共済金があり、診療所を指定物件としていることにより必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額が含まれているが、共済負担金の額は、これらの全給付を総合して決定され、また、共済の運営は一本化されているから、当審判所の調査の結果によっても、必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額と家事費と認められる死亡共済等に係る共済負担金の額とに明らかに区分することはできない。

  そうすると、共済負担金は家事関連費であると認められるが、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

C 連盟会費

  請求人は、連盟会費は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、連盟会費の支出先である団体は、歯科医師会と密接な関係にある政治連盟に近いものであるが、請求人はそこから保険制度の改正等の情報を入手している旨答述する。

  当審判所の調査の結果によれば、歯科医師政治連盟とは、歯科医師会からは独立した団体で、日本歯科医師政治連盟の規約及びこれに準じて作成されたQ県歯科医師政治連盟規約に基づき、歯科医師の業権の確保とその発展を図るため、歯科医療に理解ある政党又は公職の候補者に対し、政治的後援活動を行うことを目的とする政治団体であるので、連盟会費は、政党又は公職の候補者の後援のためのものと認められる。

  そうすると、請求人が、連盟会費を支払うことにより、保険制度の改正等の情報の入手ができるとしても、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められず、仮に家事関連費であるとしても、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 (ニ)図書研究費について

A 英会話研修費

  請求人は、英会話能力の保持は請求人の業務の遂行上必要不可欠であるから、英会話研修の費用は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、それに沿う答述をする。

  しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、請求人が歯科診療業務、特に歯周病に関する治療を行う上で、英会話の技能を有することは有用であり、その意味で請求人の業務との関連があるといえるものの、英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の業務の遂行上不可欠なものとまでは認められないし、平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり、外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、請求人の歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたい。

  さらに、最新の歯周病に関する医療知識を修得するために海外における学会のビデオを購入し、それを講師と共に視聴して教授を受けることや海外の学会における活動のために自己の発表する原稿の英文表現の内容等のチェックを受けることは、請求人の業務の遂行上の必要があるとみることはできるものの、英会話研修費のすべてが所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。

  また、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

  なお、請求人は、英会話研修費について、過去の税務調査において、必要経費に該当しないとの指摘を受けることなく、容認されてきたものであるから、それを変更してなされた本件各更正処分は不当である旨も主張するが、過去の税務調査において是正が求められなかったからといって、当該英会話研修費が必要経費に該当しないことが明らかになった段階で是正を求めることは何ら不当なものとはいえない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B H会研修費

  請求人は、H会研修費は歯科診療業務に関する研修への参加費用である旨主張して、摘要欄に「研修費」と記載された領収証を当審判所に提出した。

  しかしながら、請求人は、当審判所に対して、当該研修の内容については記憶に残っておらず、パンフレット等の資料も手元にない旨答述し、当該領収証以外に証拠資料の提出もなく、当審判所の調査の結果によっても、研修の事実の有無を含めて支出の内容が明らかにならないことから、領収証の摘要欄の記載のみをもって、当該支出が、請求人の業務に直接関係する研修に要した費用に関する支出と認めることはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 (ホ)旅費交通費について

 請求人は、旅費交通費は英会話研修に付随する経費であるから、必要経費の額に算入するべきである旨主張する。

  しかしながら、上記(ニ)のAのとおり、英会話研修費は必要経費に算入することはできないのであるから、これに付随する旅費交通費についても、必要経費の額に算入することはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 (ヘ)接待交際費・福利厚生費・雑費について

 請求人は、接待交際費、福利厚生費及び雑費は業務の遂行上必要な経費である旨主張するが、当審判所の調査の結果によれば、これらの支出は、いずれも平成8年3月に行われたK歯科大学歯科同窓会主催のサイパン旅行に参加した際に支出した費用であることが認められ、請求人は、同窓会主催の当該旅行に参加したのは請求人及び請求人の妻で、他の従業員等は同行しておらず、旅行日程の中に歯科診療業務等に関係した研究会や勉強会等の実施は含まれていない旨答述している。

  そうすると、当該旅行は、医師仲間との観光旅行であり、同窓会会員の懇親を深める目的で開催されたものと認められ、当該旅行の際に同窓会会員から、請求人の業務に何らかの利益をもたらす情報を得られたとしても、当該旅行に参加することが、請求人の業務の遂行上直接必要なものとは認められないし、仮に、当該旅行に係る費用が家事関連費に該当するとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるとはいえず、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費の額に算入することはできない。

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

ハ 事業所得の金額について

(イ)総収入金額、売上原価の額及び青色申告特別控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても原処分庁の認定額は相当と認められる。

 (ロ)必要経費の額は、当審判所の調査の結果によれば、請求人が各年分の青色申告決算書に記載した必要経費の金額から、上記ロの(イ)から(ヘ)までにより必要経費に該当しないとした各支出の額を控除して算定するのが相当と認められ、その金額は、平成8年分64,120,331円、平成9年分70,146,349円及び平成10年分66,904,479円となり、当該金額は原処分庁の認定額と同額である。

 (ハ)以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、次表のとおりとなり、当該金額は、本件各更正処分の額といずれも同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

 

(図表5)

 

(2)本件各賦課決定処分について

 

 以上のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

 

(3)その他

 

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

 

 

 

 

 

(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 129頁)