確定申告(19)

 

 

 

 

 Q 調停離婚により前配偶者に分与した不動産について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 請求人が調停離婚により前配偶者に分与した不動産は、その取得に関して前配偶者の協力があったとしても、当該不動産は名実ともに請求人の名で取得した財産であるから、同人の特有財産であったというほかなく、したがって、共有財産の譲渡には当たらないので、その資金の全部について請求人が譲渡したこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本件財産の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件財産の持分について争いがあるので、以下審理する。

 

(1) 分離長期譲渡所得の金額について

 

イ 当審判所が原処分関係資料、請求人から提出された陳述書等を調査したところ、次の事実が認められ、これらの事実については請求人及び原処分庁の双方に争いはない。

 

 

(イ) 請求人は、昭和23年6月14日にA女との婚姻の届出をしたこと。

 

(ロ) 請求人は、昭和26年に本件土地の借地権をB女から60,000円で取得し、請求人名義で借地契約をしたこと。

 

 (ハ) 請求人は、本件土地上に旧建物を建築し、請求人名義で昭和26年5月24日に所有権保存の登記をしたこと。旧建物の建築代金の一部については、住宅金融公庫から請求人名義で260,000円を借り入れて支払ったこと。

 

(ニ) 請求人は、昭和46年に本件土地の所有権をB女から3,000,000円で取得し、請求人名義で昭和46年4月28日に所有権移転の登記をしたこと。

 

  本件土地の所有権の取得資金は、請求人の勤務先であるC社から借り入れ、この借入金は、借入れ以後毎月の給与から一部を割賦返済し、残額は昭和52年4月に同社を退職するに当たり支払われた退職金で同月28日に返済されていること。

 

(ホ) 請求人は、旧建物を取り壊し、その後、本件建物を建築し、請求人名義で昭和54年2月1日に所有権保存の登記をしたこと。

 

  本件建物の建築資金16,000,000円は、D社から請求人名義で借り入れ、この借入金は、借入れ以後C株式会社健康保険組合からの給与等により一部を割賦返済し、残額は昭和62年5月20日に上記(ニ)の退職金をE銀行で貸付信託で運用したもので返済されていること。

 

(ヘ) 請求人は、平成元年3月20日にA女との間で、本件財産の譲渡及び解決金3,000,000円を支払うことで離婚の調停が成立し、同日に財産分与及び解決金の支払が行われ、本件財産は、平成元年4月12日に請求人からA女へ財産分与を原因とする所有権移転の登記がなされたこと。

 

(ト) A女は、請求人と婚姻後調停離婚するまでの間、専業主婦として家政の維持に専念していたこと。

 

(チ) 請求人は、平成元年分の所得税の確定申告書に、本件財産に係る請求人の持分を2分の1として、分離長期譲渡所得の金額を算出し、申告したこと。

 

ロ ところで、請求人は、本件土地の借地権利金60,000円が婚姻時のA女の持参金より支払われたものであり、また、旧建物につきA女の父より建築資材の送付を受けたことをもって、本件財産が請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)である旨主張する。

 

  このため、当審判所が、請求人に対しその主張に関する証拠資料の提出を求めたところ、請求人は証拠資料を提出せず、当審判所の調査によってもその事実は確認できない。

 

  更に、前記イの(ロ)ないし(ホ)の事実から判断すると、本件土地の借地権の取得費は、請求人の手持現金から支払われたと推認され、また、本件土地の所有権の取得費及び本件建物の取得費は、請求人が借り入れた借入金により支払われており、更に、当該借入金はすべて請求人の給与や退職金により返済されていることから、本件財産は、すべて請求人の特有財産と認められる。

 

  したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

 

 

 

ハ 請求人は、本件財産が40年間に及ぶ婚姻生活における配偶者の寄与、貢献があって取得できたものであるから、その資産の2分の1は配偶者に帰属し、本件財産の所有関係は、請求人とA女との共有財産(持分各2分の1)であると主張する。

 

  しかしながら、民法第762条《特有財産、帰属不分明財産の夫婦共有の推定》は、夫婦の一方が婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とする旨を定めているから、配偶者の一方の財産取得に対して他方が常に協力するものであるとしても、婚姻中に夫婦が取得した財産が当然に両者の共有財産であると解する余地はない。

 

 

  一方、民法第768条は財産分与請求権を規定しており、夫婦相互の協力、寄与に対してはこの権利を行使することにより結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上配慮している。

 

  したがって、財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に取得した財産が当然には共有財産とならないことを前提とした上で、離婚に際して夫婦間における財産上の不平等を是正するためのものと解される。

 

  したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

 

 

ニ 分離長期譲渡所得の金額

 

  以上の結果、本件財産はすべて請求人の所有と認められるから譲渡収入金額及び取得費について、請求人が原処分庁に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」に記載した金額の2倍の金額であるとする原処分庁の認定額は相当と認められる。

 

  また、特別控除額は租税特別措置法第35条に規定する金額であるが、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。

 

  したがって、当該金額は本件再更正に係る分離長期譲渡所得の金額と同額であるから本件再更正は適法である。