確定申告(16)

 

 

 

 元国税職員で税理士の被告人が,同僚の税理士らと共謀して,その実質的に主宰する税理士法人と顧客である法人多数,個人2人の確定申告に際し,売上除外等の不正の方法により所得を秘匿して虚偽過少の申告をし,合計2億7700万円余の法人税と所得税を免れたほか,国税調査官と共謀して税務調査の際に偽りの答弁をするなどし,その調査官に謝礼として現金120万円の賄賂を供与し,さらに,無登録で貸金業を営み,法定の年利を超える高利の利息を受領するなどした事案について,被告人の全ての弁解が排斥され,懲役6年と罰金7000万円が言い渡された事例について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪地方裁判所判決/平成25年(わ)第1267号、平成25年(わ)第2464号、平成25年(わ)第3130号、平成25年(わ)第4179号、平成25年(わ)第4440号、平成25年(わ)第4776号

 

 

【判決日付】 平成28年3月18日

 

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 被告人を懲役6年及び罰金7000万円に処する。

 未決勾留日数中330日をその懲役刑に算入する。

 その罰金を完納することができないときは,金10万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

 訴訟費用は被告人の負担とする。

 

       

 

 

 

 

理   由

 

(罪となるべき事実)

 被告人は,税理士であったものであるが,

第1(平成25年7月8日付け起訴状公訴事実第1)

  別表1「納税義務者『行為者(役職)』」欄記載のA1株式会社代表取締役B1等7名とそれぞれ共謀の上,架空の業務委託費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,同表「納税義務者『法人名』」欄記載の各法人の同表「事業年度」欄記載の各事業年度における実際の所得金額がそれぞれ同表「実際額『所得金額』」欄記載の金額であり,これに対する法人税額がそれぞれ同表「実際額『法人税額』」欄記載の金額,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額がそれぞれ同表「実際額『差引法人税額』」欄記載の金額であったにもかかわらず,同表「法人税確定申告状況『申告年月日』,『申告書提出税務署』」各欄記載のとおり,平成20年7月24日から平成24年8月23日までの間,17回にわたり,大阪府東大阪市永和2丁目3番8号所在の所轄東大阪税務署等5か所において,各税務署長に対し,所得金額とこれに対する差引法人税額は,それぞれ同表「法人税確定申告状況『所得金額』,『申告納税額』」各欄記載のとおりである旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同表「ほ脱税額」欄記載のとおり,各事業年度における法人税額合計6286万9000円を免れ(別紙1-1-1から別紙1-1-7までの各修正損益計算書,別紙2-1-1から別紙2-1-7までの各ほ脱税額計算書参照),

第2(平成25年10月23日付け起訴状公訴事実第2)

  別表2「納税義務者『行為者(役職)』」欄記載の有限会社**取締役D1等6名とそれぞれ共謀の上,架空の業務委託費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,同表「納税義務者『法人名』」欄記載の各法人の同表「事業年度」欄記載の各事業年度における実際の所得金額がそれぞれ同表「実際額『所得金額』」欄記載の金額であり,これに対する法人税額がそれぞれ同表「実際額『法人税額』」欄記載の金額,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額がそれぞれ同表「実際額『差引法人税額』」欄記載の金額であったにもかかわらず,同表「法人税確定申告状況『申告年月日』,『申告書提出税務署』」各欄記載のとおり,平成21年2月25日から平成24年9月25日までの間,14回にわたり,大阪市淀川区木川東2丁目3番1号所在の所轄東淀川税務署等5か所において,各税務署長に対し,所得金額とこれに対する差引法人税額は,それぞれ同表「法人税確定申告状況『所得金額』,『申告納税額』」各欄記載のとおりである旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し(ただし,別表2付番5枝番2及び3については,財務省令で定める電子情報処理組織を使用して行う方法により申告し),そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同表「ほ脱税額」欄記載のとおり,各事業年度における法人税額合計3501万4900円を免れ(別紙1-2-1-1から1-2-5-3までの各修正損益計算書,別紙2-2-1-1から別紙2-2-5-3までの各ほ脱税額計算書参照),

第3(平成25年10月23日付け起訴状公訴事実第3)

  神戸市中央区(以下略)に事務所を置いて保険外交員をしていたE1と共謀の上,架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,

1 平成20年分のE1の実際の総所得金額が5647万6067円であり,これに対する所得税額が1804万4800円,源泉徴収税額を控除した申告納税額が903万7800円であったにもかかわらず,平成21年3月16日,神戸市中央区中山手通2丁目2番20号所在の所轄神戸税務署において,同税務署長に対し,平成20年分における総所得金額が1993万3299円で,これに対する所得税額から源泉徴収税額を控除できずに528万2733円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の所得税額1432万500円を免れ(別紙1-3-1修正損益計算書,別紙2-3-1ほ脱税額計算書参照),

2 平成21年分のE1の実際の総所得金額が8570万9433円であり,これに対する所得税額が2765万8800円,源泉徴収税額を控除した申告納税額が1056万1900円であったにもかかわらず,平成22年3月11日,前記所轄神戸税務署において,同税務署長に対し,平成21年分における総所得金額が4173万7697円で,これに対する所得税額から源泉徴収税額を控除できずに687万4864円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の所得税額1743万6700円を免れ(別紙1-3-2修正損益計算書,別紙2-3-2ほ脱税額計算書参照),

3 平成22年分のE1の実際の総所得金額が2701万9573円であり,これに対する所得税額が633万4800円,源泉徴収税額を控除した申告納税額が78万700円であったにもかかわらず,平成23年3月15日,前記所轄神戸税務署において,同税務署長に対し,平成22年分における総所得金額が1634万9573円で,これに対する所得税額から源泉徴収税額を控除できずに295万2864円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の所得税額373万3500円を免れ(別紙1-3-3修正損益計算書,別紙2-3-3ほ脱税額計算書参照),

第4(平成25年7月8日付け起訴状公訴事実第2)

  別表3「納税義務者『個人名』」欄記載のF1と共謀の上,架空の業務委託費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,同人の平成21年分から平成23年分までの実際の総所得金額がそれぞれ同表「実際額『総所得金額』」欄記載の金額であり,これに対する所得税額がそれぞれ同表「実際額『所得税額』」欄記載の金額,源泉徴収税額を控除した申告納税額がそれぞれ同表「実際額『申告納税額』」欄記載の金額であったにもかかわらず,同表「所得税確定申告状況『申告年月日』」欄記載のとおり,平成22年3月12日から平成24年3月14日までの間,3回にわたり,大阪府八尾市高美町3丁目2番29号所在の所轄八尾税務署において,同税務署長に対し,総所得金額とこれに対する所得税額は,それぞれ同表「所得税確定申告状況『総所得金額』,『申告納税額』」各欄記載のとおりである旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同表「ほ脱税額」欄記載のとおり,各年分の所得税額合計2447万1600円を免れ(別紙1-4-1から別紙1-4-3までの各修正損益計算書,別紙2-4-1から別紙2-4-3までの各ほ脱税額計算書参照),

第5(平成25年3月25日付け起訴状)

  大阪府東大阪市(以下略)に本店を置いて不動産業等を営むG1株式会社(以下「G1」という。)の法人税確定申告手続に関与し,同社の実質的経営者としてその業務全般を統括していたH1と共謀の上,架空の雑損失を計上する方法により所得を秘匿した上,平成22年11月1日から平成23年10月31日までの事業年度における同社の実際の所得金額が1億2332万8774円であり,これに対する法人税額が3603万8400円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が3594万2000円であったにもかかわらず,平成24年1月4日,前記所轄東大阪税務署において,同税務署長に対し,所得金額が1902万5274円で,これに対する差引法人税額が465万1100円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額3129万900円を免れ(別紙1-5修正損益計算書,別紙2-5ほ脱税額計算書参照),

第6(平成25年10月4日付け起訴状公訴事実第1及び第2)

1 大阪府知事の登録を受けないで,業として,別表4記載のとおり,平成22年5月10日頃から平成24年9月24日頃までの間,18回にわたり,税理士法人I1(以下「税法I1」という。)の後記第9の各事務所において,J1等7名に対し,現金合計1億330万7000円を貸し付け,もって登録を受けないで貸金業を営み,

2 業として金銭の貸付けを行うに当たり,別表5記載のとおり,平成24年4月20日頃及び同年7月11日頃,K1に対する2件の貸付けに関し,税法I1の後記第9の△△ビル6階の事務所において,利息を天引きする方法により,年利約40.94パーセントから約41.42パーセントの割合による利息合計4万7377円を受領し,もって法定の年利20パーセントを超える割合による利息を受領し,

第7

  大阪市中央区(以下略)に本店を置いて飲食業を営む株式会社L1(以下「L1」という。)の実質的経営者であり,L1の前身である株式会社M1(以下「旧M1」という。)の代表者であったN1から所得税等の滞納につき相談を受けそれに応じるとともに,L1の法人税確定申告手続に関与し,

1(平成25年7月8日付け起訴状公訴事実第4)

  N1の財産に対する滞納処分の執行を免れる目的で,N1がL1から支給されている役員報酬の存在を継続して隠ぺいしようと考え,N1と共謀の上,別表6記載のとおり,平成21年2月から平成24年11月までの間,L1本店や大阪市中央区(以下略)株式会社O1事務所等において,L1からN1に対し役員報酬合計4600万円が支給されたが,その各支給は金融機関を通さずに現金を手交する方法で行い,かつ,L1の帳簿書類等にその支給を記載させず,加えて,その間の,平成21年8月25日,同区大手前1丁目5番63号所在の大阪国税局において,N1が同局国税徴収官から収入の有無について質問をされた際,同徴収官に対し,L1からN1に役員報酬が支給されている事実を秘して,N1はL1と無関係であり,継続的な収入は得ていない旨虚偽の答弁をし,さらに,同年10月1日,同市浪速区(以下略)所在の当時のN1方において,N1が同徴収官から前同様の質問をされた際,同徴収官に対し,前同様の虚偽の答弁をし,もって滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠ぺいし,

2(平成25年6月3日付け起訴状公訴事実第1ないし第3)

  N1及び税理士としてL1の法人税確定申告手続に関与していたP1(以下単に「P1」というときは,同人のことを指す。)と共謀の上,売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上,

(1) 平成21年1月13日から同年12月31日までの事業年度におけるL1の実際の所得金額が4705万6785円であり,これに対する法人税額が1315万6800円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が1315万6700円であったにもかかわらず,平成22年3月1日,大阪市中央区谷町7丁目5番23号所在の所轄南税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における欠損金額が70万6018円であり,これに対する法人税額から控除対象の所得税額を控除できずに67円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額1315万6700円を免れ(別紙1-6-1修正損益計算書,別紙2-6-1ほ脱税額計算書参照),

(2) 平成22年1月1日から同年12月31日までの事業年度におけるL1の実際の所得金額が2309万2380円であり,これに対する法人税額が596万7600円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が596万7400円であったにもかかわらず,平成23年2月25日,前記所轄南税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における欠損金額が205万3441円であり,これに対する法人税額から控除対象の所得税額を控除できずに195円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額596万7500円を免れ(別紙1-6-2修正損益計算書,別紙2-6-2ほ脱税額計算書参照),

(3) 平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度におけるL1の実際の所得金額が534万6710円であり,これに対する法人税額が96万2280円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が96万2200円であったにもかかわらず,平成24年2月27日,前記所轄南税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における欠損金額が632万9129円であり,これに対する法人税額から控除対象の所得税額を控除できずに64円の還付を受けることとなる旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額96万2200円を免れ(別紙1-6-3修正損益計算書,別紙2-6-3ほ脱税額計算書参照),

第8

  大阪市中央区(以下略)(ただし,商業登記簿上は,平成22年12月20日以降,同市西区(以下略))に本店を置いて飲食業等を営む株式会社Q1(以下「Q1」という。)の法人税確定申告手続に関与し,

1(平成25年9月18日付け起訴状公訴事実第1)

  Q1の代表取締役であったR1(以下単に「R1」というときは,同人のことを指す。)及びQ1の法人税の確定申告手続に関与していたP1と共謀の上,売上げを除外するなどの方法により所得を秘匿した上,

(1) 平成21年10月1日から平成22年9月30日までの事業年度におけるQ1の実際の所得金額が5189万8747円であり,これに対する法人税額が1460万9400円であったにもかかわらず,同年11月29日,前記所轄南税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における欠損金額が878万9238円であり,これに対する法人税額が0円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額1460万9400円を免れ(別紙1-7-1修正損益計算書,別紙2-7-1ほ脱税額計算書参照),

(2) 平成22年10月1日から平成23年9月30日までの事業年度におけるQ1の実際の所得金額が4103万4264円であり,これに対する法人税額が1135万200円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が1135万100円であったにもかかわらず,同年11月30日,大阪市西区川口2丁目7番9号所在の所轄西税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における所得金額が971万2593円であり,これに対する差引法人税額が195万3500円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額939万6600円を免れ(別紙1-7-2修正損益計算書,別紙2-7-2ほ脱税額計算書参照),

2 前記1のとおり,Q1が継続的に売上げを除外するなどの方法により所得を秘匿して,内容虚偽の法人税確定申告書を提出していたところ,

(1)(平成25年9月18日付け起訴状公訴事実第2)

  Q1に対する税務調査を担当していた西税務署法人課税第2部門上席国税調査官のS1,R1及びP1と共謀の上,国税調査官にQ1の売上除外額の一部のみをあえて把握させて税務調査を終了させ,真の売上除外額の発覚を回避しようと考え,平成23年7月28日,Q1の前記商業登記簿上の本店事務所において,R1が,S1とともにQ1に対する税務調査に従事していたT1上席国税調査官に対し,かねて打合せのとおり,SDカードに記録された虚偽過少の売上金額の電磁的記録を提示し,SDカードのデータが本当の売上げである旨言うとともに,売上げを除外した資金であるかのように見せかけるためあらかじめ用意して所持していた現金380万円について,売上げを抜いた金である旨言い,Q1の売上除外額等について虚偽過少の答弁をし,もって税務署の職員の検査に関し偽りの記録をした帳簿書類に代わる電磁的記録を提示するとともに,質問に対して偽りの答弁をし,

(2)(平成25年10月23日付け起訴状公訴事実第1)

  西税務署法人課税第2部門上席国税調査官としてQ1に対する税務調査を担当していたS1が,平成23年7月28日に実施されたQ1に対する事前通知なしでの税務調査に際し,被告人及びR1らが売上除外額の一部のみをあえて国税調査官に把握させて真の売上除外額の発覚を回避しようとしたことに応じ,事前に,R1らとともに,SDカードに記録された虚偽過少の売上金額の電磁的記録を提示して売上除外額等につき虚偽過少の答弁をする旨打合せをした上,被告人に税務調査の日程を教示し,さらに,税務調査開始後,前記打合せの内容のとおり税務調査が進行するよう取り計らったことなどに対する謝礼の趣旨で,同年9月10日頃,税法I1の後記第9の△△ビル6階の事務所において,S1に現金120万円を供与し,もってS1が職務上不正な行為をしたことに関し賄賂を供与し,

第9(平成25年7月8日付け起訴状公訴事実第3)

  平成23年9月4日までは大阪市浪速区(以下略)に,同月5日からは同区(以下略)△△ビル6階に主たる事務所を置き,税務代理等を業とする税法I1を実質的に主宰してその業務全般を統括し,税法I1の代表社員であるP1及び税法I1に業務委託するなどしていた税理士のU1(以下「U1」という。)と共謀の上,売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上,

1 平成21年1月1日から同年12月31日までの事業年度における税法I1の実際の所得金額が6075万4577円であり,これに対する法人税額が1726万6200円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が1726万2100円であったにもかかわらず,平成22年2月26日,大阪市浪速区難波中3丁目13番9号所在の所轄浪速税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における所得金額が467万8705円であり,これに対する差引法人税額が83万7900円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額1642万4200円を免れ(別紙1-8-1修正損益計算書,別紙2-8-1ほ脱税額計算書参照),

2 平成22年1月1日から同年12月31日までの事業年度における同法人の実際の所得金額が6561万4069円であり,これに対する法人税額が1872万4200円,控除対象の所得税額を控除した差引法人税額が1872万4100円であったにもかかわらず,平成23年2月28日,前記所轄浪速税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における所得金額が469万6239円であり,これに対する差引法人税額が84万5100円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額1787万9000円を免れ(別紙1-8-2修正損益計算書,別紙2-8-2ほ脱税額計算書参照),

3 平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度における同法人の実際の所得金額が4606万1911円であり,これに対する法人税額が1285万8300円であったにもかかわらず,平成24年2月28日,前記所轄浪速税務署において,同税務署長に対し,同事業年度における所得金額が1265万9896円であり,これに対する法人税額が283万7700円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における法人税額1002万600円を免れた(別紙1-8-3修正損益計算書,別紙2-8-3ほ脱税額計算書参照)。

(証拠の標目)

 括弧内の数字は,検察官請求証拠等関係カードに記載され,かつ,証拠の欄外に記載された番号を示す。

判示第1ないし第6の事実について

 ・第1回,第5回及び第6回公判調書中の被告人の供述部分

 ・被告人の検察官調書(乙25)

 ・P1の検察官調書謄本(甲412,589(それぞれ不同意部分除く))

 ・実況見分調書謄本(甲576),写真撮影報告書(甲577),写真撮影てん末書謄本(甲578)

判示第1ないし第5の事実について

 ・V1の検察官調書(甲330)

判示第1ないし第4,第6の事実について

 ・P1の検察官調書(甲590)

判示第1(別表1付番7),第2(別表2付番4,5),第3,第4,第6の事実について

 ・W1の検察官調書(甲329)

判示第1ないし第4の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙29)

 ・Z1(甲332),A2(甲334)の検察官調書(それぞれ不同意部分除く)

判示第1(別表1付番7),第2(別表2付番4,5),第3,第4の事実について

 ・P1(甲325(不同意部分除く)),B2(甲327,328)の検察官調書

 ・C2(甲836(不同意部分除く)),D2(甲837)の検察官調書謄本

判示第1(別表1付番1),第2(別表2付番1,4),第3の事実について

 ・E2の検察官調書(甲395(不同意部分除く),758),検察官調書謄本(甲831)

 ・捜査報告書謄本(甲832)

判示第1,第4の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙24,26,28)

判示第1(別表1付番2,5),第4の事実について

 ・F2(甲322),G2(甲323(不同意部分除く))の検察官調書

判示第1(別表1付番5),第4の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙27)

 ・H2(甲319),F2(甲320)の検察官調書

 ・捜査報告書(甲321)

判示第1(別表1付番7),第4の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙23)

判示第2,第3の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙82,84ないし87(乙82,84につき不同意部分除く))

判示第2(別表2付番1),第6の事実について

 ・P5(甲664),J1(甲665(不同意部分除く))の検察官調書

判示第5,第6の事実について

 ・K3(甲31),K1(甲38,41,44)の検察官調書

判示第1(別表1付番3,4,6)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙34)

判示第1(別表1付番1)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙37)

 ・B1の検察官調書(甲163ないし165)

 ・I2(甲167,168,170),E2(甲173)の検察官調書

 ・履歴事項全部証明書(甲151),証明書(甲152),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲153),査察官調査書(甲154ないし160)

判示第1(別表1付番2)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙33)

 ・J2の検察官調書(甲186ないし189,192(甲186,192につき不同意部分除く))

 ・K2の検察官調書(甲194(不同意部分除く))

 ・履歴事項全部証明書(甲174),証明書(甲175ないし177),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲178),査察官調査書(甲179ないし183)

判示第1(別表1付番3)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙30)

 ・L2の検察官調書(甲207,208,210)

 ・履歴事項全部証明書(甲195),証明書(甲196ないし198),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲199),査察官調査書(甲200ないし204)

判示第1(別表1付番4)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙32)

 ・M2の検察官調書(甲224,226,227)

 ・履歴事項全部証明書(甲211),証明書(甲212ないし214),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲215),査察官調査書(甲216ないし221),査察官報告書(甲865,1049)

判示第1(別表1付番5)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙36,42)

 ・N2の検察官調書(甲240ないし244,246)

 ・F2の検察官調書(甲480)

 ・履歴事項全部証明書(甲228),証明書(甲229ないし231),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲232),査察官調査書(甲233ないし237)

判示第1(別表1付番6)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙31)

 ・O2の検察官調書(甲258,260,264(それぞれ不同意部分除く))

 ・履歴事項全部証明書(甲247),証明書(甲248ないし250),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲251),査察官調査書(甲252ないし255),捜査報告書(甲261)

判示第1(別表1付番7)の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙35)

 ・P2の検察官調書(甲276,277,279,281)

 ・Q2(甲282,284),R2(甲288),H2(甲292(不同意部分除く))の検察官調書

 ・履歴事項全部証明書(甲266),証明書(甲267),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲268),査察官調査書(甲269ないし273),査察官報告書(甲866)

判示第2(別表2付番1)の事実について

 ・D1(甲651ないし657(甲651につき不同意部分除く)),S2(甲660ないし663(甲660,661につき不同意部分除く))の検察官調書

 ・E2の検察官調書(甲666),T2の質問てん末書(甲668)

 ・履歴事項全部証明書(甲628),証明書(甲629,630),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲631),査察官調査書(甲632ないし646),捜査報告書(甲667)

判示第2(別表2付番2)の事実について

 ・U2の検察官調書(甲686ないし689,692)

 ・履歴事項全部証明書(甲671),証明書(甲672ないし674),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲675),査察官調査書(甲676ないし683)

判示第2(別表2付番3)の事実について

 ・V2の検察官調書(甲717,719ないし721,723)

 ・W2(甲724,725),Z2(甲727),Z1(甲728)の検察官調書

 ・履歴事項全部証明書(甲695),証明書(甲696ないし698),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲699),査察官調査書(甲700ないし714),捜査報告書(甲718)

判示第2(別表2付番4)の事実について

 ・A3の検察官調書(甲752ないし755)

 ・履歴事項全部証明書(甲729),証明書(甲730ないし732),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲733),査察官調査書(甲734ないし749)

判示第2(別表2付番5)の事実について

 ・B3の検察官調書(甲783,785ないし790(甲785につき不同意部分除く))

 ・C3の検察官調書(甲792)

 ・履歴事項全部証明書(甲759),証明書(甲760ないし762),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲763),査察官調査書(甲764ないし773,775ないし781),査察官報告書(甲774)

判示第3の事実について

 ・第2回公判調書中の証人E1の供述部分

 ・第4回公判調書中の証人V1の供述部分

 ・E1の検察官調書謄本(甲840ないし846,849(甲840,841,843,844,846につき不同意部分除く))

 ・V1(甲820,822ないし826(甲820,822,824,825につき不同意部分除く)),D3(甲827),E3(甲829),F3(甲830),G3(甲833),H3(甲834),W2(甲835)の検察官調書謄本

 ・証明書謄本(甲795ないし797),「所轄税務署の所在地について」と題する書面謄本(甲799),査察官調査書謄本(甲800ないし819(甲801につき不同意部分除く)),査察官報告書謄本(甲798),捜査報告書謄本(甲828)

判示第4の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙38ないし40)

 ・F1の検察官調書(甲310ないし313,315ないし318(甲310,315,317につき不同意部分除く))

 ・証明書(甲296ないし298),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲299),査察官調査書(甲300ないし306),査察官報告書(甲478,487,1050)

判示第5の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙2,4ないし10),弁解録取書(乙3)

 ・第3回公判調書中の証人H1の供述部分

 ・H1の検察官調書謄本(甲47,49ないし51,54,58ないし60(甲50,51につき不同意部分除く))

 ・I3(甲10),J3(甲17,18,20,23ないし26,28,29),K3(甲32ないし34),K1(甲39(不同意部分除く),43),L3ことK3’(甲46)の検察官調書

 ・履歴事項全部証明書(甲1),証明書(甲2),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲3),査察官調査書(甲4ないし8(甲7につき不同意部分除く)),査察官報告書(甲867,868),捜査報告書(甲884ないし887),同謄本(甲52)

 ・押収してある当座小切手帳2束(甲1039,平成27年押第15号の1)

判示第6の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙78,79,81),警察官調書(乙67ないし77)

 ・J1(甲579ないし581),M3(甲582(不同意部分除く)),W1(甲583(不同意部分除く)),O3(甲584),K1(甲585,586),N3(甲587(不同意部分除く)),P3(甲588),P1(甲591(不同意部分除く)),Q3(甲592),R3(甲620)の検察官調書

 ・捜査報告書(甲593)

判示第6の1の事実について

 ・捜査報告書(甲575)

判示第7の事実について

 ・被告人の公判供述

 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分

 ・被告人の検察官調書(乙25)

 ・証人S3,同T3,同U3及び同P1の各公判供述

 ・第7回及び第8回公判調書中の証人N1の供述部分

 ・N1(甲119,120(それぞれ不同意部分除く)),P1(甲412,589(それぞれ不同意部分除く))の検察官調書謄本

 ・S3(甲92(不同意部分除く)),V1(甲330)の検察官調書,V3の財務事務官調書(甲115)

 ・履歴事項全部証明書(甲594),捜査報告書(甲892,893,897,902,922ないし969,971ないし975,979ないし981,983ないし989,991ないし997),実況見分調書謄本(甲576),写真撮影報告書(甲577),写真撮影てん末書謄本(甲578)

判示第7の1の事実について

 ・証人W3の公判供述

 ・Z3(甲431ないし433),A4(甲434),B4(甲452,453),C4(甲459)の検察官調書

 ・電話聴取書(甲427),住民基本台帳(甲428),捜査報告書(甲429,430,435,436,460,479,904)

判示第7の2の事実について

 ・被告人の検察官調書(乙14ないし17,20,21)

 ・証人D4の公判供述

 ・P1の検察官調書謄本(甲139(不同意部分除く))

 ・S3(甲93(不同意部分除く)),B4(甲102ないし104(甲102につき不同意部分除く)),E4(甲106),F4(甲107(不同意部分除く),108)の検察官調書

 ・「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲69),査察官調査書(甲73ないし89,481,482),捜査報告書(甲894ないし896,898ないし901)

判示第7の2(2),(3)の事実について

 ・査察官報告書(甲483,486)

判示第7の2(1)の事実について

 ・証明書(甲65,148),査察官調査書(甲70(不同意部分除く))

判示第7の2(2)の事実について

 ・証明書(甲66,149),査察官調査書(甲71(不同意部分除く))

判示第7の2(3)の事実について

 ・証明書(甲67,68),査察官調査書(甲72(不同意部分除く)),査察官報告書(甲150)

判示第8の事実について

 ・被告人の公判供述

 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分

 ・被告人の検察官調書(乙25,59ないし62,65,66)

 ・証人R1,同P1,同G4及び同H4の各公判供述

 ・R1(甲532,534,537,539,540(甲534,537,539,540につき不同意部分除く),)P1(甲412,546ないし549,551,552,554,556ないし559,589(甲412,546ないし549,551,552,554,556,558,589につき不同意部分除く))の検察官調書謄本

 ・V1(甲330),G4(甲510,513(不同意部分除く)),I4(甲514ないし516)の検察官調書,J4の検察官調書謄本(甲508,509)

 ・履歴事項全部証明書謄本(甲489),証明書(甲491,492),査察官調査書(甲493ないし501,504ないし506(甲494,495,497,498,501につき不同意部分除く)),同抄本(甲1054),査察官報告書(甲507(不同意部分除く)),捜査報告書(甲907,908,999ないし1011),同謄本(甲533),実況見分調書謄本(甲576),写真撮影報告書(甲577),写真撮影てん末書謄本(甲578)

判示第8の1,2(1)の事実について

 ・「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲490)

判示第8の2の事実について

 ・証人S1,同V1,同D4及び同K4の各公判供述

 ・証人S1に対する平成25年9月10日付け証人尋問にかかる尋問調書謄本(甲601(相反部分に限る))

 ・P1の検察官調書(甲611(不同意部分除く)),S1の検察官調書謄本(甲563ないし567,570,598(甲563ないし565,567,598につき相反部分に限り,甲566,570につき相反部分及び同意部分に限る))

 ・K1(甲41),L2(甲207),T1(甲521ないし523),L4(甲524,525),M4(甲526(不同意部分除く),527),N4(甲528(不同意部分除く)),V1(甲529),Q3(甲617,618),R3(甲620),D1(甲650ないし652(甲651につき不同意部分除く),658(不同意部分除く)),S2(甲660(不同意部分除く)),W2(甲724),E2(甲863)の検察官調書,N1の検察官調書謄本(甲120(不同意部分除く))

 ・O4(甲605,606),P4(甲607),Q4(甲608),R4(甲850),S4(甲851,852)の検察官調書謄本

 ・証明書(甲573,574),捜査報告書(甲519,520,1012,1013),同謄本(甲597(不同意部分除く)),写真撮影報告書抄本(甲1038)

判示第8の2(2)の事実について

 ・S1の勾留質問調書謄本(甲604(相反部分に限る)),検察官調書謄本(甲600(相反部分に限る)),弁解録取書謄本(甲603(相反部分に限る))

 ・捜査報告書謄本(甲595,596)

判示第9の事実について

 ・被告人の公判供述

 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分

 ・被告人の検察官調書(乙23ないし26,28,30,31,35,37,38,43ないし52,56,59ないし62,82(不同意部分除く),85ないし87)

 ・証人P1,同U1,同T4,同U4,同V4,同W4,同H2,同Z1,同Z4,同V1,同A5及び同D4の各公判供述

 ・P1の検察官調書(甲325(不同意部分除く),590),P1(甲412ないし416,419,422,423,546,552,554,557,558,589(甲557を除き,それぞれ不同意部分除く)),U1(甲396,400ないし402,404(それぞれ不同意部分除く))の検察官調書謄本

 ・証人S1に対する平成25年9月10日付け尋問調書謄本(甲601(相反部分に限る))

 ・D4(甲12,371ないし375,377(甲12を除き,それぞれ不同意部分除く)),J3(甲18,26(それぞれ不同意部分除く)),B1(甲164,165),I2(甲168,169),J2(甲186(不同意部分除く),187),L2(甲206(不同意部分除く),207),O2(甲258,260(それぞれ不同意部分除く)),P2(甲275,277,278),Q2(甲283(不同意部分除く),284),H2(甲291(不同意部分除く),293,319(不同意部分除く)),F1(甲309ないし311,316,317(甲311を除き,それぞれ不同意部分除く)),B2(甲327,328),W1(甲329),V1(甲330),Z1(甲332,728(それぞれ不同意部分除く)),A2(甲334(不同意部分除く)),B5(甲384ないし388),A5(甲393(不同意部分除く)),Z4(甲394(不同意部分除く)),E2(甲395(不同意部分除く)),I4(甲514(不同意部分除く)),D1(甲652(不同意部分除く)),U2(甲687),V2(甲719),W2(甲724(不同意部分除く)),Z2(甲727(不同意部分除く)),A3(甲752,753,755),B3(甲784ないし788(甲784ないし786につき不同意部分除く))の検察官調書

 ・S1(甲565ないし567,598(甲565につき相反部分かつ同意部分に限り,甲566につき相反部分及び同意部分に限り,甲567,598につき相反部分に限る)),C2(甲836(不同意部分除く)),D2(甲837)の検察官調書謄本

 ・履歴事項全部証明書謄本(甲335,864),証明書(甲336ないし338),「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲339),査察官調査書(甲341,342,344ないし350,352ないし363,365,366,1046ないし1048(甲341,344ないし348,350,352ないし357,359,361ないし363,366につき不同意部分除く)),査察官報告書(甲484,488),捜査報告書(甲376,914,919ないし921,1023ないし1036,1053),同謄本(甲397),実況見分調書謄本(甲576),写真撮影報告書(甲577),写真撮影てん末書謄本(甲578)

(判示第1ないし第6までの事実に関する争点に対する判断)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1 争点

  弁護人は,①判示第1ないし第4の事実につき,被告人が代表取締役を務める株式会社I1(以下「(株)O5」という。)が,各顧客(判示第1別表1「納税義務者『法人名』」欄記載のA1株式会社等6法人(判示第1別表1付番7のC5株式会社を除く。),判示第2別表2「納税義務者『法人名』」欄記載の有限会社**等5法人,判示第3のE1及び判示第4のF1)から受領した業務委託費(別紙1-1-1ないし1-1-6-3,1-2-1-1ないし1-2-5-3の各修正損益計算書の「支払手数料」(借方勘定のもの。以下同じ。)及び「脱税経費損金不算入額」の各勘定科目,別紙1-3-1ないし1-3-3の各修正損益計算書の「支払手数料」の勘定科目並びに別紙1-4-1ないし1-4-3の各修正損益計算書の「架空支払手数料」の勘定科目においてそれぞれ計上されているもの)のうち,一部は正当な業務委託費である旨,②判示第3の事実につき,①に加え,被告人は,E1の架空の青色専従者給与(別紙1-3-1ないし1-3-3の各修正損益計算書の「給料賃金」の勘定科目において計上されているもの)の計上には関与していない旨,③判示第5の事実につき,被告人には共謀共同正犯は成立せず,幇助犯が成立するにとどまる旨をそれぞれ主張する。

第2 争点①(各顧客が(株)O5に支払った前記各勘定科目中の金員の中に正当な業務委託費が含まれるか)について

1 関係証拠によれば,(株)O5は,争点①の対象となる前記各顧客との間で,年額252万円から630万円の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し,その業務委託費を(株)O5の指定口座に振り込ませた上で,そのうち約8割にあたる金額を前記各顧客に現金でキャッシュバックしていることが認められる。このキャッシュバック分にあたる約8割の金額が実体のない業務委託費を計上する方法による脱税目的のものであったことは,被告人及び前記各顧客が一致して認めるものである。そこで,本件業務委託契約に基づいて支払われ(株)O5に最終的に残った約2割から消費税分を差し引いた残額について,正当な業務委託費といえる部分(被告人の公判供述によれば本件業務委託費の7.5パーセント相当分)があるか否かについて検討する。

2(1) 争点①の対象となる各顧客の全員が,本件業務委託契約締結の際に,被告人から脱税以外の目的を説明されていないことや,被告人側と本件業務委託契約とは別個に顧問契約を締結していたことを供述している。顧問契約に含まれない事務を依頼した顧客は,その都度別途報酬や費用を支払っていた旨を供述し,また,本件業務委託契約締結に先立ち顧問契約を締結していた顧客は,本件業務委託費の支払とそのキャッシュバック以外には,本件業務委託契約の締結により被告人側から新たに提供されるようになった業務はなかった旨を供述している。そして,各顧客は,以上のように,(株)O5や被告人から本件業務委託契約に基づく事務をしてもらったことは一切なかったことから,本件業務委託契約は全体として架空のものであり,本件業務委託費として(株)O5に支払った金員のうちキャッシュバックされない残額は,架空業務委託費の計上による脱税の手数料であると理解していた旨供述している。

   このような各顧客の供述内容は,具体的かつ合理的であって不自然な点は見当たらない。そして,前記各顧客に,実際には(株)O5に支払った業務委託費には正当な業務の対価が含まれているのに,これが一切含まれていない旨の自らに不利益なうそをつく動機は認められない。

 (2) また,V1(以下「V1」という。)が,平成22年8月頃に被告人の顧客に対する説明内容を基に作成した「メニュー」と題する書面(甲330号証添付資料1。被告人も,この書面が,被告人がいつも話している内容をV1がまとめたものであり,下記「105分の15」が実際は「105分の20」であること以外に内容の誤りもない旨供述している。)には,「コンサルティング料」という項目において,顧客から被告人側に毎月支払われるコンサルティング料のうち,被告人側で105分の15を手数料として差し引き,残額を顧客にキャッシュバックする旨や,顧客は,当該コンサルティング料の支払を帳簿上経費として処理することで,簿外の手許現金を得ることができる旨の記載がある一方,正当な業務委託の内容や,正当な業務委託に係る手数料の算定に関する記載は見られない。そして,この「メニュー」には,「コンサルティング料」に関する記載以外にも,「他社への出資」,「領収書の追加」,「不動産購入の違約金」という項目で脱税の方法が記載されており,それらは,被告人が実際に脱税に用いていた方法であった。

   このように,この「メニュー」は,まさに脱税方法の「メニュー」であり,本件業務委託費の計上は,その「メニュー」の一つである「コンサルティング料」に該当するものである。このことは,本件業務委託費の支払は専ら脱税目的であるという各顧客の供述内容と整合するものである。

3 これに対し,被告人は,(株)O5が各顧客から受領した業務委託費の一部は,被告人が行った正当な業務の対価である旨を供述する。

  しかし,被告人の供述は,「メニュー」の記載に整合していない上,被告人の供述内容自体,顧問契約の対象となる業務と,業務委託契約によって初めて委託の対象となる業務の区別や,脱税報酬と正規の業務に対する報酬の区別の基準が極めてあいまいであり,被告人が各顧客に対しそれらを区別する基準につきどのような説明をしたのかも不明確である。被告人が前記各顧客に提供した業務として供述する内容もあいまいな部分が多く,各顧客は,別途費用を支払ったものを除き,そのような業務を提供されたこと自体否定している。また,被告人側で開催していた研修会についても,その実態を踏まえれば本件業務委託契約との対価関係は認められない。

  よって,(株)O5と各顧客との間で,正当な業務の委託を含む業務委託契約が成立したことを前提とする被告人の供述は,信用することができず,それを踏まえた弁護人の主張も採用できない。

4 以上によれば,本件業務委託費のうち,キャッシュバックされていた約8割の部分が架空であることは明らかであり,残り約2割についても,前記各顧客の供述を信用することができるから,(株)O5と前記各顧客との間の本件業務委託契約は全体として架空のものであり,その中に正当な業務を委託する旨の合意は含まれておらず,したがって,前記各顧客が(株)O5に支払った金員の中に正当な業務委託費は含まれていないと認められる。そして,前記「メニュー」の内容及び作成経緯,各顧客が供述する(株)O5と各顧客との間の各業務委託契約の実態等に照らすと,被告人は,本件業務委託契約全体が脱税目的の架空のものであることを認識しながら,前記各顧客の法人税あるいは所得税のほ脱に積極的に関与したといえる。

 

 

 

 

第3 争点②(E1の架空の青色専従者給与計上への被告人の関与の有無(共同正犯の成否))について

1 弁護人の主張は,要するに,E1の架空の青色専従者給与の計上は,V1が自らの判断でしたものであり,被告人は関与していないから,被告人にはこの部分の故意も共謀もなく,したがって,被告人は,この部分について共同正犯の責任を負わないとの趣旨と解される。

2 そこで検討すると,被告人が,平成20年度から平成22年度までの各年度のE1の所得税確定申告において,E1と共謀の上,E1の架空業務委託費(前記第2参照)や架空接待交際費を計上していたことは当事者間に争いがなく,関係証拠からも明らかに認められる。

  E1は,前記各年度当時,保険外交員の業務を営んでいたところ,被告人及びV1の各公判供述によれば,被告人は,平成20年度のE1の所得税確定申告において,E1の妻に係る600万円の青色専従者給与の計上を認識していたと認められる。そして,被告人,E1及びV1の各公判供述によれば,被告人が,平成20年度から平成22年度までの各年度において,E1の妻の稼働状況につき,自ら確認することはなかったこと,被告人は,平成21年度及び平成22年度の確定申告に際して,V1が作成し600万円の青色専従者給与が計上されたE1の試算表及び確定申告書に対し,各書面の内容を詳細に確認していたかどうかはともかく,承認を与えていたことが認められる。

3 以上のとおり,被告人は,E1の前記各所得税確定申告において,架空業務委託費や架空接待交際費の計上によるE1の所得税ほ脱に積極的に関与しており,E1に申告所得を超える所得が存在することを十分に認識した上で,E1の妻の稼働実態を確認することなく,E1の青色専従者給与の計上を承認していたのであるから,それ以上に具体的な認識がなかったとしても,法律上,E1の青色専従者給与の計上に関し,被告人にはほ脱の故意があり,E1と意思を連絡していたと認めることができる。

4 したがって,被告人は,E1の青色専従者給与の計上についても共同正犯の責任を負うものといえる。

 

 

 

 

第4 争点③(G1のほ脱事件についての被告人の共謀共同正犯の成否)について

1 被告人の具体的な関与等について

  関係証拠によれば,被告人が,G1の平成23年10月期における架空雑損失計上による法人税ほ脱につき,以下の関与をしたことが認められる。

 (1) G1は,平成20年1月に所有不動産を売却し2億円以上の売却益が生じたが,不動産売却に係る「特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例」(租税特別措置法65条の8。以下「買換え特例」という。)の制度を利用し,平成22年10月期までは約1億7800万円を損金算入することができた。しかし,買換物件の購入の目処はなかったことから,このままだと平成23年10月期においては,前記売却益に対する法人税約7000万円を納めなければならない状況にあり,平成22年10月期の決算の目処がついた同年11月頃には,H1と被告人の間で,平成23年10月期における不動産売却益の計上に伴う法人税の支払を回避するための対策が話し合われるようになった。

 (2) 被告人は,平成22年11月頃,H1に対し,架空の貸倒れを計上する方法として,株式会社D5(以下「D5」という。)振出しに係る約束手形2枚(額面金額160万円及び300万円)を交付した上,前記各手形のコピーに指示を書き入れることにより,前記各手形を不渡りにする方法を教示した。H1は,同年12月9日,被告人から教示されたとおり,前記各手形のうち額面金額160万円のD5の約束手形を不渡りとした。それを受け,被告人は,平成23年5月21日頃,被告人の下で勤務する事務員のJ3に指示し,G1の同年10月期の法人税確定申告において,D5に対する160万円の貸倒れ損失を計上させた(以下この貸倒れを「D5に対する架空貸倒れ」という。)。

 (3) 被告人は,H1に対し,同年7月ないし8月頃,G1において2名に対する各5000万円程度の貸倒れが発生したように装い,架空貸倒れ損失を計上する方法を提案した。そして,被告人は,その架空の借主役としてK3(以下単に「K3」というときは,同人のことを指す。)及びK1の了解を取り付け,同年8月から10月頃にかけて,H1を,K3及びK1に引き合わせた。そして,被告人は,H1,K3及びK1に対し,H1及びK3,H1及びK1が,それぞれ知り合った経緯や金銭を貸借するに至った経緯につき,K3については,K3がH1のゴルフレッスンの先生であったことがきっかけでH1と親しくなり,お金を借りるようになった旨,K1については,H1がK1をナンパして知り合い,その後,男女の関係になり,K1がお金を借りるようになった旨の提案をし,口裏を合わせて税務調査に対応できるよう指示した(なお,被告人は,この架空貸倒れの計上をH1に提案し,H1にK3やK1を引き合わせたことは認めるが,経緯等についての口裏合わせの指示はしていないと供述する。しかし,この点に関するH1,K3,K1の各供述内容は,具体的であって,その経緯から考えても合理的であり,かつ,相互の供述内容が符合しており信用性が高い。これに対し,被告人の供述は,信用性の高い前記各供述に反するし,借金の経緯について指示しないというのは,税務署等に高額の架空の貸金であることが発覚する危険性を考えれば,あまりに不自然,不合理であるから信用できない。)。被告人は,同年9月ないし10月頃,J3に,G1がK3に対し4890万円を貸し付けた旨の金銭消費貸借契約書を作成させ,K3及びH1に署名押印等をさせ,また,J3に,金額欄等が空欄となった借用証書を作成させ,K1及びH1に,G1が,K1の父であるE5(F5工業代表者)に対し,5500万円を貸し付けた旨の記載や署名押印等をさせ,それぞれ架空の契約書を作成した。その後,被告人は,J3に,G1名義で,前記各架空契約書に対応する同年10月28日付けの債権放棄通知書を作成させ,H1及びJ3は,各債権放棄通知書をK3及びE5宛てに内容証明郵便で発送した(なお,E5宛ての同郵便はK1が受領した。)が,H1は,この債権放棄通知書を送付することをかなり躊躇していた。

   被告人は,K3から受領していた,K3の父であるG5振出しの小切手5枚に額面金額合計4890万円となるように適当な金額を印字し,また,K1から受領していた前記E5(F5工業ないしH5商店の代表者)振出しの額面合計5500万円の小切手及び約束手形合計16枚を準備した上,各架空契約書,各小切手及び各約束手形をH1に交付した。

   被告人は,同年12月頃,J3に指示し,G1の平成23年10月期の法人税確定申告において,K3及びE5に対する合計1億390万円の架空貸倒れ損失を計上させた(以下この貸倒れを「K3らに対する架空貸倒れ」という。)。なお,H1は,平成23年10月期の法人税確定申告書を提出する直前,その提出を迷っている様子をJ3らに見せていた。また,法人税確定申告書の提出前に,J3は,被告人に,本当にこの申告書を提出してよいのか確認したのに対し,被告人は承諾を与えていた。

2 被告人がK3らに対する架空貸倒れに係る報酬を受領したかについて

 (1) H1は,被告人から,K3らに対する架空貸倒れに係る報酬として,1000万円を要求され,平成23年12月から平成24年1月までの間に,当該報酬として,被告人に,G1振出しの額面金額500万円の小切手2枚(以下「本件小切手」という。)を渡した旨を供述する。他方で,被告人は,K3らに対する架空貸倒れに係る報酬は受け取っておらず,H1から本件小切手を受け取ったことはない旨供述する。

 (2) H1の前記供述は,本件小切手を交付しようとして,1枚目は普通に切り離すことができたが,2枚目を小切手帳から切り離す際に小切手を破ってしまったため,被告人に小切手の切り方知らんのか等と言われ,新たにもう1枚小切手を作り直したという特徴的な出来事に関する供述と一体となっている。そこで,H1が当時使っていた近畿大阪銀行の小切手帳等を見てみると,A○○○○○からA○○○○○の耳の部分が残っているが,そのA○○○○○の耳部分は小切手本体の左下の一部が残った状態で破れており,左下の一部が欠けているA○○○○○の小切手本体部分と形状が符合し,A○○○○○の小切手本体部分に「金五百万円也」との記載がある(甲1039号証(平成27年押第15号の1)参照)。このように小切手帳等の状態は,H1の供述する本件小切手の作成経緯と整合しており,H1供述には客観的な裏付けがあるといえる。

 (3) 被告人は,K3らに対する架空貸倒れを実現するため,前記1(3)の作業をしており,これらは被告人が供述するような伝票1枚でできる作業ではなく,無報酬というのは不自然である。また,総額1億円を超えるK3らに対する架空貸倒れに関与することにより,被告人が負う法的責任等のリスクは大きなものであり,それは,関与した事務員のJ3がその点を被告人に指摘するほどであったから,その対価として,被告人が報酬を要求するのは自然である。現に被告人は,架空業務委託等の方法による脱税についても報酬を得ている。これらの点で,この架空貸倒れの件で報酬を要求していないという被告人の供述は不自然な供述である。

   なお,弁護人は,債務超過であるG1の本件小切手には価値がないから,このような小切手を被告人が脱税の報酬として請求することはない旨主張する。しかし,G1が存続している以上,その小切手に経済的価値がないとはいえないし,K3から受け取った小切手がそうであるように,被告人には,資金の回収が難しそうな小切手にも使い道があることを考えれば,この点の弁護人の主張もH1供述の信用性に疑いを入れるものではない。

 (4) 本件小切手のその後の経緯に関し,H1は,G1に対する税務署の任意調査があった平成24年4月中旬から国税局査察部の強制調査が入る同年6月13日までの頃に,被告人から,K3らに対する架空貸倒れの報酬はなかったことにするから本件小切手は返却すると告げられ,その上で本件小切手は被告人が預かりシュレッダーで処分することになった旨供述する。

   このH1の供述は,具体的で特徴的なものであり,また,D5に対する架空貸倒れに関する被告人の手書きのメモが,前記の任意調査で発見されていたことが認められるところ(甲26号証,H1供述),同様の事態を避けるべく,被告人が本件小切手の処分を図ろうとしたという経緯は,当時の状況から考えると合理的な内容である。

   なお,H1の供述には,被告人が本件小切手をシュレッダーにかける様子を実際に見たか否かにつき変遷があり,弁護人はこの点をもってH1の供述は信用できないと主張する。しかし,H1は,被告人が本件小切手の処分に関しシュレッダーという言葉を口にした旨や,被告人に本件小切手の処分を委ねた旨については一貫して供述しており,当時,シュレッダーは,被告人がいる社長室にはなかったものの,税法I1の事務所にはあったのだから,前記供述内容の変遷は,被告人から本件小切手の返却の話があったというH1供述の信用性を減殺するものではない。

 (5) 以上の検討によれば,前記H1供述は信用することができ,前記被告人供述は信用することができない。したがって,被告人が,K3らに対する架空貸倒れに係る報酬として,H1から額面合計1000万円の小切手2枚を受領したと認められる。

3 被告人がD5に対する架空貸倒れに係る報酬を受領したかについて

 (1) H1は,被告人から,D5に対する架空貸倒れに関し,D5の約束手形の額面金額合計460万円の1割を報酬として請求され,平成22年11月29日,当該報酬として,被告人に対し現金46万円を支払った旨を供述する。

   他方,被告人は,この46万円は,不動産の買換え特例適用申請の報酬630万円の一部であって,D5に対する架空貸倒れに係る報酬は受け取っていないと供述する。

 (2) H1が供述するように,架空貸倒れという脱税行為に協力する対価として,被告人がH1に報酬を要求することは自然であるし,H1が供述する報酬の額も,D5の約束手形の額面金額合計の1割であり,K3らに対する架空貸倒れ計上に係る報酬額と同様の計算によるものであって,合理的である。

 (3) H1は,買換え特例適用申請についての被告人に対する報酬は,平成21年2月23日に支払った500万円のみであり,買換え特例適用申請の報酬として46万円を支払ったものではない旨供述する。

   税法I1のP1の机内ハードディスク内のデータとして保存された売上集計表(甲867号証)には,同日付けで,G1から,「対策費」という項目で税法I1側に500万円の支払があった旨の記載があるところ,H1供述は,税法I1の内部資料であり,前記記載が虚偽であるとの特段の事情がうかがわれない売上集計表の記載と整合するから,信用性が高いといえる。

   他方,被告人は,買換え特例適用申請の報酬は,(株)O5がG1との間で交わした甲885号証添付資料番号2の業務委託契約書記載のとおり,630万円であり,平成21年2月23日に支払われた500万円は,着手金として当該報酬の一部を受領したものであって,前記現金46万円は,当該報酬の残額として支払を受けたものであり,D5に対する架空貸倒れに対する報酬ではない旨を供述する。

   しかし,被告人の供述によれば,被告人は,平成20年5月21日頃には,法人税額の試算など買換え特例適用申請に係る業務を開始し,平成20年10月期末には,買換え特例の適用が認められていたにもかかわらず,翌年2月になって初めて着手金を受領したこととなり,極めて不自然な経緯となる。

   また,買換え特例適用申請の報酬が630万円と決定された経緯や根拠に関する被告人の供述は,その内容自体が不明確であるし,前記業務委託契約書の第3条によれば,630万円を一括で支払うものとされているにもかかわらず,500万円だけが着手金として支払われた理由を合理的に説明するものではない。

 (4) 以上によれば,前記H1供述は信用することができ,前記被告人供述は信用することができない。なお,H1の供述には,D5の約束手形を受け取った時期や,D5に対する架空貸倒れに係る報酬を支払った時期につき変遷が見られるが,D5の約束手形を受け取ってから数日のうちに,その対価として現金46万円を支払った点は一貫して供述しているから,当該変遷は,H1供述の信用性を減殺するものではない。

   したがって,被告人が,D5に対する架空貸倒れに係る報酬として,H1から現金46万円を受領したものと認められる。

4 共謀共同正犯の成否について

  被告人は,H1に対し,合計1億円を超える高額の架空貸倒れ計上という手法を教示するとともに,架空貸倒れを計上する借主側となるK3及びK1をH1に引き合わせた上,借用証書等の必要書類の作成,手形小切手の用意,口裏合わせの内容の提案といったK3らに対する架空貸倒れの準備を積極的に主導したことが認められる。そして,H1は,K3らに対する架空貸倒れの計上作業の終盤には,その額が高額なこともあって実行することに躊躇していた面があり,また,税法I1の事務員も実行の是非を被告人に確認するほどであったのだから,被告人は,K3らに対する架空貸倒れの計上に関し,その準備のみならず最終的な申告行為についても中心的な役割を果たしたといえる。また,被告人は,D5に対する架空貸倒れについても,D5の約束手形を準備してH1に交付し,具体的な段取りも指示し,160万円の架空貸倒れ計上を実現している。

  したがって,被告人は,本件各架空貸倒れの計上に不可欠な役割を果たしていたものと評価できる。

  そして,被告人は,H1からD5に対する架空貸倒れ及びK3らに対する架空貸倒れの脱税報酬として,額面合計1000万円の小切手及び現金46万円を受け取り,その利益に与っている。

  なお,弁護人は,本件脱税の動機を有していたのは専らH1であり,被告人がH1に無理に脱税させたことはない旨主張する。確かに,前述した事実を前提にすれば,被告人がH1に無理に脱税させたとまでは評価できないが,H1が架空貸倒れの方法等による脱税を申告直前まで躊躇していたことを考えれば,被告人の本件脱税に向けた積極的な姿勢が重要な役割を果たしたことは明らかといえる。また,被告人は,本件各架空貸倒れの計上につき相当額の報酬を得ようとしている以上,被告人にも本件脱税を実行する動機があったと認められる。

  以上によれば,被告人は,G1の架空の雑損失計上による法人税ほ脱につき,ほ脱の中核となる架空貸倒れの計上につき不可欠な役割を果たし,それに見合った報酬を得ようとしていること等から,被告人には,幇助犯ではなく,共謀共同正犯の成立が認められる。

 

 

 

(判示第7の事実に関する争点に対する判断)

第1 争点

  弁護人は,①判示第7の1の事実(N1の国税徴収法違反)につき,被告人は,N1がL1から簿外報酬を得ていたことを認識しておらず,共謀の成立が認められないから,無罪である旨,②判示第7の2(1)の事実(L1の平成21年12月期(以下「1期目」といい,判示第7の争点判断部分ではL1の1期目のことをいう。他の期についても同様である。)の法人税ほ脱)につき,被告人は,L1経営陣の求めに応じ,受動的に脱税に関与したにすぎず,売上除外等の脱税に関する具体的な作業はP1が行っているから,被告人には幇助犯が成立するにとどまる旨,③判示第7の2(2)の事実(L1の平成22年12月期(以下「2期目」という。)の法人税ほ脱)及び同(3)の事実(L1の平成23年12月期(以下「3期目」という。)の法人税ほ脱)につき,被告人は,平成22年2月から3月頃,L1経営陣が脱税報酬の支払を拒絶した以降は共犯関係から離脱したから,被告人は無罪である旨をそれぞれ主張する。

第2 争点①(N1の国税徴収法違反にかかる共謀共同正犯の成否)について

1 判断枠組み

  関係証拠によれば,N1は,判示第7の1のとおり,平成21年2月から平成24年11月までの間,L1から月額報酬100万円を金融機関を通さずに現金で手交する方法で,かつ,L1の帳簿書類等にその支給を記載することなく受領し,加えて,その間の平成21年8月及び10月に国税徴収官からの質問に対し,L1とは無関係であり,継続的な収入は得ていない旨の虚偽の答弁をしていることが認められる。

  ところで,弁護人が指摘するとおり,L1がN1に対し,月額100万円の報酬を簿外で支払い始めた平成21年2月以降,L1がN1に簿外で報酬を支払っているという具体的情報が被告人にもたらされたことを認めるに足りる証拠はない。平成21年6月及び7月に税法I1の事務所において,N1らL1関係者と被告人,P1との間で行われた国税徴収官の質問に対する対策打合せの際に配布されたメモ(甲971号証添付資料番号1ないし3)にも,N1がL1から受け取っていた簿外報酬のことは明示されていない。したがって,本件においては,L1設立前後の経過等から,被告人は,L1設立後にN1が簿外でL1から報酬を受け取るであろうことを予想し,それでも構わないと考えて認容していたといえるかの検討が重要になり,その点を踏まえて,N1がL1から報酬を受け取っていた期間における共謀の成否を検討することが必要となる。

2 L1の設立目的及びL1とN1の関係に関する被告人の認識について

 (1) 関係証拠によれば,L1設立前後の経過等について,以下の事実が優に認められる。

  ア N1は,旧M1の代表取締役として,ホストクラブ「□□□」(以下「本件ホストクラブ」という。)を経営していたところ,平成18年10月に税務当局の調査が入って,売上除外による脱税等が発覚し,修正申告するなどした。そして,平成19年3月の時点で,旧M1及びN1個人に合計2800万円余りの滞納税金が生じ,旧M1及びN1個人に対する督促状が発せられ,滞納処分が可能な状態となっており,N1は,同年4月及び6月,国税徴収官から,滞納処分として差押えの実施も検討する旨告げられていた。

  イ N1は,平成19年5月以降,旧M1及びN1の滞納税金をおおむね毎月,合計数十万円程度支払っていたが,平成20年10月31日時点で,旧M1の滞納税金が約4700万円,N1個人の滞納税金が約1600万円に及んでおり,できれば旧M1,N1個人ともに滞納税金の支払をせずに済ませたいと考えていた。

  ウ N1は,同年11月頃ないし12月頃,旧M1の専務取締役(N1に次ぐナンバー2の地位)であったS3や秘書のW3らとともに,税理士である被告人のいる税法I1の事務所を複数回訪問し,被告人と面談した。その際,被告人は,N1らに対し,N1とは無関係な新会社を設立し,旧M1からその新会社に本件ホストクラブの営業譲渡をすれば,旧M1の滞納税金は新会社には引き継がれず,旧M1の支払能力がなくなれば,法人である旧M1関係の税金を結局納めずに済むこと,また,N1個人の滞納税金についても,前記営業譲渡の代金を1500万円に設定し,N1が旧M1への貸付金の返済を受けるという形で前記金員を受け取って納税することで解消することをそれぞれ提案した。その結果,N1らは,被告人の提案を受けて,旧M1の財産をN1個人の滞納税額に見合った1500万円で譲り受ける法人として,平成21年1月13日,本件ホストクラブの1部(なお,同クラブは営業時間帯ごとに1部と2部に分かれていた。後記第3の2(1)も参照。)の本部長を務めていたT3を代表取締役として,新会社であるL1を設立した。

  エ 被告人は,前記L1の設立手続に関与するとともに,月額10万5000円の顧問料でL1の顧問税理士となり,担当税理士をP1とした。

 (2) L1の設立目的及びL1とN1の関係に関する被告人の認識について

   N1は,前記(1)ウのとおり,平成20年11月頃ないし12月頃,旧M1やN1個人の滞納税金の処理に悩んでいたのであるから,N1が税理士である被告人の事務所を訪れた目的は,N1が供述するとおり,滞納税金の処理の相談であったことは明らかである。したがって,被告人がその相談に応じて提案した内容は,滞納税金処理のためのものであったといえる。

   そして,N1が簿外報酬をL1から受け取っていた期間においては,N1,S3及びT3が供述し,L1の社内会議議事録(甲929号証添付資料番号1)とも整合するように,N1がL1の実質的経営者であったのであるから,L1設立の前後を通じて,N1,S3及びT3は,N1が引き続き経営を続けることを前提に被告人とやりとりしていたといえ,被告人は,L1設立当初から,N1がL1の実質的経営者であると認識していたといえる。被告人が,このように認識していたことは,平成21年6月及び7月頃の国税徴収官に対する答弁の対策において,被告人が,N1らとの間で,T3が新会社の社長である旨答えるようあえて打合せをしていることからも裏付けられるといえる。

   なお,被告人は,N1が,滞納税金の処理の相談ではなく,本件ホストクラブの経営を譲りたいという趣旨で相談に来た旨供述するが,前記(1)の動かし難い事実に反するし,後述するとおり,被告人自身がN1らとL1の確定申告の相談をしていることと矛盾する。また,被告人の公判供述は場当たり的で一貫しない面があるが,最終的には,1期目及び2期目の途中まで,N1がL1の実質的経営者だったことを認めている点でも,矛盾した供述になっている。いずれにしても,N1の相談目的に関する前記被告人供述は,到底信用できない。

3 N1のL1からの簿外報酬に関する被告人の認識,認容及び共謀について

 (1) N1は,L1設立に関する相談の際(前記(1)ウ),被告人に対し,N1が旧M1から受領していた月額100万円の報酬を,新会社設立後も引き続き受領してよいか尋ねている(この点は,被告人も認めている。)。

   N1は,旧M1と同様,新会社であるL1の実質的経営を続ける一方で,被告人から,旧M1やN1の滞納税金対策を成功させるためには,対外的にはL1と無関係である旨を装うように言われていたのであるから,N1がそれまで旧M1から受け取っていた高額の報酬を継続して受け取ることができるかに強い関心を抱くことは当然といってよい。

 (2) このN1の問いに対する被告人の回答について,N1,S3及びW3は,被告人から,新会社から正当な経理処理を伴う形で定額報酬を受領すべきでない旨のほか,「報酬をもらうなら裏でもらえ」という趣旨のことを言われた旨供述する。他方,被告人は,新会社から正当な経理処理を伴う形で定額報酬を受領すべきでない旨は言ったが,「報酬をもらうなら裏でもらえ」という趣旨の発言はしていないと供述する。

   そこで,N1ら3人のこの合致する供述の信用性について検討すると,前述のとおり,N1は新会社のL1においても実質的経営者であるから,N1がL1から旧M1時代と同様の報酬を受け取ることは自然であり,かつ,必要なことである。被告人の回答が,被告人が供述するような内容にとどまっていたのであれば,N1の収入を確保する手段が検討されなければならないが,そのような検討がなされた形跡はない。N1は,L1から旧M1時代と同様の報酬を簿外で受け取るようになった後も,被告人に対し,月額100万円を本件ホストクラブからのコンサルタント料として株式会社O1で受領できないかと相談している(この点は,被告人も認めている)ように,高額の報酬を簿外で受領することに不安を感じていたのである。そのため,N1が,税理士である被告人に相談せず,あるいは被告人から止められたのに,N1個人の判断で簿外報酬を受領していたとは考えにくい。加えて,平成21年7月頃に行われた国税徴収官対策の打合せに際して,P1が作成したメモ(甲971号証添付資料番号1ないし3)の中で,N1の収入が問題にされていることも,その当時,N1がL1から多額の簿外報酬を受けていることを前提にした議論がなされていると見るのが自然といえ,被告人がN1に対してL1から簿外報酬をもらうように示唆したことと整合するといえる。

 (3) 以上によれば,被告人から簿外で報酬をもらえと言われた旨のN1らの供述は信用でき,被告人は,L1が設立された当初から,N1がL1から簿外で報酬を受け取るであろうと予想し,それでも構わないと認容していたと認められる。そして,その態度は,前述した平成21年7月頃に行われた国税徴収官対策の打合せ時も継続しており,その後も一貫していたと認められる。

   なお,弁護人は,N1が,新会社から報酬をもらっていることが税務署に発覚すれば旧会社と新会社が同一とみなされてしまう危険があるとの趣旨の被告人の助言を,税務署に発覚しないよう,簿外で裏報酬を得れば良いと自分に都合よく解釈したと見るのが自然であると主張する。しかし,N1ら3人が同じく誤解するのも不自然であるし,その後の経緯を見ても,N1らL1関係者と被告人との間で簿外報酬に関する認識のずれが生じていたことをうかがわせる事情もないから,弁護人の主張は合理性がなく採用できない。また,弁護人は,被告人は,L1が旧M1に支払う営業譲渡の代金からN1個人の滞納税金を完納するスキームを構築し,実行していたから,その時点で,少なくともN1個人の滞納税金については,滞納処分の危険が消失していたとして,被告人にはN1の滞納処分を回避する意思がなかったと主張する。しかし,L1設立後も,N1個人には,多額の滞納税金が残っており,少額ではあるがその返済を続けなければならない状況は継続していたのであって,N1が実質的経営者であるL1の顧問税理士をし,平成21年6月及び7月頃にN1らと国税徴収官に対する対策の打合せをするなどしていた被告人としては,N1個人のそのような状況は想定できていたと考えられるから,弁護人の主張は採用できない。

 (4) 以上によれば,被告人は,L1設立当初の時点から,N1が簿外でL1から報酬を受領することにつき,認容したうえで意思を通じており,また「裏でもらえ」という助言により,N1のL1からの報酬の隠ぺいに大きな役割を果たしている。そして,被告人は,N1が本件に係る簿外報酬をL1から受け取っていた期間,N1が実質的経営者であるL1の顧問税理士として一定額の顧問料を継続的に受領し,その間,国税徴収官の質問に対する対策等を行うなどN1と深い関わりを持つ中で,N1がL1からの報酬を隠ぺいし国税徴収官に対して虚偽答弁する行為をN1と十分意思を通じて行っている。そして,N1がこのような報酬隠ぺい行為をする主たる動機は,旧M1とL1が経営主体という点でも別会社であると見せかけるためであるが,それは同時に,滞納処分の可能性のあるN1自身の財産である報酬を隠ぺいしていることになることはN1も被告人も分かった上で行っている以上,被告人にはN1との間で前記隠ぺい行為を行うについて共謀があったと認められる。

4 以上から,判示第7の1のN1の国税徴収法違反について,被告人はN1との間で,L1設立当初から共謀が成立していたといえ,N1は,その共謀に基づき,同判示の犯行を行っているから,被告人には,同犯行について共謀共同正犯が成立する(なお,N1は,N1がL1と無関係であるとの外観が生じていることを認識しながら,税務署が把握しにくい簿外での現金手交の形で,L1からの報酬を受領し,その間,N1がL1と無関係であり,L1から報酬を受け取っていない旨の国税徴収官に対する虚偽答弁を行っているから,N1は,同判示の期間,L1からの報酬という財産の発見を困難にし,隠ぺいしたものと認められる。)。

 

第3 争点②(L1の1期目の法人税ほ脱にかかる共謀共同正犯の成否)について

1 関係証拠によれば,L1の1期目については,L1の利益が数千万円に達することを聞いたN1が,平成22年2月頃までに,被告人に対し,L1の法人税をゼロにするように依頼し,被告人がこれを引き受け,その頃,P1に対して,L1の依頼に沿った確定申告をするように指示するとともに,P1との間で,L1の税金をゼロにする方法としては,売上げを除外するしかない旨を確認したこと,P1が,平成22年3月1日,この被告人との確認を踏まえて,売上除外を行った上で判示第7の2(1)のとおりL1の確定申告書提出の手続を行ったこと,被告人は,1期目の脱税報酬としてN1らに対し300万円を請求したところ,N1らが分割払を求めたためこれに応じ,平成22年2月から9月までの間に合計300万円を受け取り,このうち90万円をP1に分配したことが認められ,弁護人も特に争っていない。

2 被告人の具体的関与

 (1) 被告人の1期目の脱税への関与の態様について,P1は,公判で以下のとおり供述する。

  ア P1は,L1の売上げを除外するようにとの被告人の指示を受けて,L1の午後7時から翌日午前1時ころまでの1部と呼ばれる営業時間帯(以下「1部」という。)の現金売上げを除外し,赤字になる決算と黒字になる決算の2通りを被告人に示したところ,被告人から赤字とするよう指示されたため,1部の平成21年2月から7月までの現金売上げ合計5600万円を除外し,赤字となる試算表を作成した。

    P1は,前記試算表及びP1が決算上の注意点等を記載した平成22年2月18日付け「決算留意事項(打合せ用)」と題する書面(以下,他の年度に作成されたものを含め,単に「決算留意事項」という。)を作成し,その内容につき,被告人に確認を求め,了承を得た。

  イ その後,被告人は,N1,S3及びT3を税法I1の事務所に呼び,N1らに対し,ホワイトボードに図を書きながら,売上除外により税額がゼロになるようにした旨を説明するとともに,P1が,被告人同席の場で,1部の平成21年2月から7月までの現金売上げを除外した旨を説明した。

  ウ P1は,前記の売上除外を行った決算に基づいて確定申告書を作成し,被告人からその内容を確認したことを示す押印を得た。

 (2) P1の供述内容は,前記第2で見たとおり,L1設立を主導したのは被告人であり,1期目の全期間を通じて被告人がL1の顧問税理士であり,被告人が,N1やT3らと,国税徴収官に対する虚偽答弁の打合せを行うなどしていたこと,1期目の脱税報酬を決定したのは被告人であり,P1はその一部しか報酬を受け取っていないことなどからも自然なものとして理解できる。

   また,被告人自身,P1作成の決算留意事項に被告人の意見を求める記載がある場合には,その内容を確認していたことを認めているところ,1期目の決算留意事項(甲893号証添付資料番号1)には,「それでも、利益が、5800万円出ている」,「先方のお望みは、『税金ゼロ』 どうしましょうか?」といった,L1の支払税額をゼロにする方法につき被告人の意見を求める記載があることは,被告人は当該決算留意事項の内容を確認していたとのP1供述を裏付けるものといえる。さらに,前記(1)イの点については,N1やS3も同旨の供述をしており,P1供述を裏付けるものといえる。

   これに対して,被告人は,N1から,L1の支払税額をゼロにしてほしい旨の要望を受け,P1に対し,N1の希望するとおりにするよう指示しただけであり,脱税の具体的方法を指示したことはない旨,及び,P1が作成した1期目の税額をゼロにした試算表や決算留意事項を見た記憶はない旨供述する。

   しかし,被告人の供述は,L1設立を被告人が主導した経緯や,1期目において被告人がL1に対する報酬の請求や交渉をしていたことと整合しないし,決算留意事項に関する被告人の供述とも矛盾するから,信用できない。

 (3) 以上によれば,前記(1)のP1の供述は信用でき,その供述のとおりの事実があったと認められる。

3 共謀共同正犯の成否

 (1) 関係証拠によれば,L1が1期目において判示第7の2(1)のとおり法人税をほ脱したことが認められる。

   そして,前記P1の供述によれば,L1の1期目の確定申告に関し,被告人は,N1から脱税の依頼を受け,売上除外という方法で約5600万円の所得を除外することとし,P1に対し,具体的な数字の試算をさせたこと,及び,P1から試算結果の報告を受け,L1に提示する試算内容及び確定申告内容を決定したことが認められる。したがって,被告人は,弁護人が主張するようなP1への白紙委任の状態ではなく,L1の1期目の脱税において,積極的に重要な役割を果たしたものといえる。

   加えて,被告人は,1期目の脱税報酬額を300万円と決定し,実際に同額の報酬を得ており,その一部の90万円を脱税の実務的な作業を行ったP1に分配しているとはいえ,高額の利益に与っている。

 (2) 被告人は,L1が福利厚生費及び消耗品費(別紙1-6-1(1期目の修正損益計算書)参照)を過大計上していたことは知らなかった旨を供述する。

   しかし,被告人は,L1の1期目における約5600万円の売上除外を主導し,簿外所得の存在を認識していたと認められるから,福利厚生費及び消耗品費の過大計上について具体的な認識がなかったとしても,被告人には1期目のほ脱全体について故意があり,N1及びP1と意を通じていたと認められる。

 (3) 以上によれば,被告人には,L1の1期目の法人税ほ脱につき,幇助犯にとどまらず,共謀共同正犯が成立すると認められる。

 

第4 争点③(L1の2期目及び3期目の法人税ほ脱に係る共謀共同正犯の成否)について

1 従前の経緯等を踏まえた関係供述に対する基本的評価

 (1) 被告人は,前記第2のとおり,L1の設立に主導的に関与した上で,その顧問税理士となり,N1の国税徴収法違反にも積極的に関与し,また,前記第3のとおり,L1の1期目の法人税ほ脱に積極的に関与し,いずれにおいても重要な役割を果たしたことが認められる。そして,関係証拠によれば,L1は,2期目及び3期目も,1期目同様に売上除外の方法で法人税をほ脱したことが認められる。

   この2期目及び3期目の法人税ほ脱に関し,P1やN1らは,被告人の指示や関与のもと売上除外の方法により脱税した旨供述するのに対し,被告人は,①N1及びS3から,2期目は脱税報酬を支払えない旨の申出があった以降は,L1の脱税に関与していない,②P1に対し,B4(以下,判示第7の争点判断部分の「B4」は同人のことを指す。)に正当な経理処理の方法を教えるよう指示しただけであり,脱税の方法を教えるよう指示したことはない,③2期目及び3期目のL1の確定申告につき,N1らと打合せをしておらず,申告内容の詳細を認識していなかったとそれぞれ供述する。

 (2) これらの供述の信用性を検討するに,L1は,2期目及び3期目においても,被告人を関与税理士として確定申告をしており,従前の被告人のL1への関与に照らし,N1らが,顧問税理士である被告人に相談せず脱税を行うことは不自然であって,P1が,L1の顧問税理士である被告人の指示や承認を得ずに,L1の脱税に関与することも考え難い。また,被告人は,3期目終了後の平成24年4月のL1に対する税務調査に関し,N1やS3に対し,L1の3期目終了後の税務調査に備え,L1の売上除外に関連するデータや伝票を残しておかないよう助言した上,D4に指示して,平成24年4月24日に南税務署がL1に対し実施した税務調査に立ち会わせるとともに,税務署との間で追徴税額の交渉を行わせ,その内容について,D4から報告を受けていた。そして,被告人は,この税務調査の報酬として,L1から合計650万円を受領している(このうち265万をD4に,60万円をP1に分配している。)。

   このような経緯や3期目以降の事情に照らすと,被告人の指示や関与のもと売上除外の方法により脱税した旨のP1やN1らの供述は,これらの事情と整合性が高く合理的であり,基本的に信用性が高いといえる。そして,相互に供述内容が符合している点や,2期目の決算留意事項など個別の証拠とも整合性が高い点は,その信用性を高めているといえる。したがって,2期目及び3期目の法人税ほ脱に関するN1らやP1の供述は信用することができる。

   これに対し,被告人の供述②や③は,これまでの経緯や3期目以降の事情と整合性が乏しく,この点につき特段の説明がないものであって,基本的に信用性が低いといえる。そして,被告人が最大の根拠とする①の点も,S3及び被告人の供述によれば,平成24年8月頃,S3からL1の顧問契約の解消申入れがあった際,被告人は,顧問料を半分(月額5万円)に減額してもいいので顧問契約を継続したい旨提案したことが認められ,被告人は,顧問料減額に応じた理由として,大きなホストクラブであるL1との顧問契約が解消されると,他の顧問先が懸念を抱き,被告人の営業活動への悪影響が及ぶと考え,金額はどうでもよいからL1との関係を続けたかったからである旨供述している。以上によれば,被告人自身,L1との関係を維持することに営業上大きな利益があると考えていたと認められるから,2期目以降,N1らから脱税報酬の支払を受けられなかったとしても,被告人が,L1との関係を維持すべく,L1の脱税に関与する経済的な動機は十分にあったといえ,被告人の供述①は,2期目以降の脱税に被告人が関与していないことを基礎づける事情にはならないといえる。したがって,被告人の供述はいずれも信用することができない。

2 被告人の具体的関与

  信用することのできるN1,S3及びP1の各供述並びにその他関係証拠によれば,被告人の具体的関与について,以下の事実が認められる。

 (1) 2期目における被告人の役割

  ア 被告人は,平成22年3月頃,N1及びS3から,2期目は300万円の脱税報酬を支払えない旨告げられて,N1及びS3に対し,売上除外の作業をL1側で行うのであれば,脱税報酬は不要である旨を述べた上,売上除外に必要な作業内容を,L1の担当者に教える旨を伝えた。

  イ N1は,同月18日頃,前記作業の担当者として,B4を税法I1の事務所に連れて行き,被告人に担当者を連れてきた旨告げると,被告人はP1を呼び,P1が,B4に対し,売上除外の作業内容を説明した。

  ウ P1は,平成22年6月から7月頃,B4が届けていた売上日報等のデータは売上除外前のものであると知り,被告人に対し,L1側に売上除外後のデータの提出を求めるよう依頼したところ,被告人はそれに応じた。

    その後,同年9月頃から,B4が,売上除外後のデータを提出するようになり,P1はその旨を被告人に報告した。

  エ P1が,売上除外後のデータをもとに,試算表を作成したところ,約2000万円の赤字となった一方,売上除外により,売上げに比して経費が多額に及んだため,L1が経費を支払うだけの現金を有していなかったことになってしまうという問題(以下この問題を「現金不足」といい,判示第7の争点判断部分ではL12期目のものをいう。)が判明した。

    そこで,P1は,現金不足の問題につき記載した決算留意事項(甲897号証添付資料番号1)を作成し,被告人に対し,報告するとともに意見を求めた。

  オ 被告人は,平成23年2月22日頃,N1及びS3と打合せを行い,ホワイトボードに図を書きながら,売上除外により,L1の2期目の支払税額をゼロにした旨説明した。

  カ 被告人は,同打合せにおいて,現金不足につき,「現金抜き過ぎだからこんなことになるんだ」などと述べるとともに,P1が,T3からの代表者借入れと処理することで現金不足に対応する旨提案したのに対し,被告人は,T3だけでなく,L1の複数の役員からの借入れとして処理すべき旨を述べた。

  キ P1が,前記打合せの内容を踏まえた確定申告書を作成し,被告人から了承を得た上,同年2月25日,事務員を通じて,確定申告書を税務署に提出した。

 (2) 3期目における被告人の役割

  ア N1は,2期目の確定申告後の平成23年2月から3月頃,被告人に対し,3期目の脱税を依頼するとともに,B4ら2期目の売上除外の作業をしていた従業員が,担当から外れることを告げた。被告人は,「ころころ担当者を替えてくれるな」など述べるとともに,N1に対し,有償で売上げを抜く専属のスタッフを用意する旨提案したが,N1はその提案を断った。

  イ P1は,3期目の期中において,L1が売上除外の作業をしていないことを確認し,その旨を被告人に報告していた。

  ウ P1は,L1の正規の売上げに基づき,法人税等の税額が約700万円,消費税の税額が約200万円となる試算表を作成し,被告人に確認を求めた。被告人は,その内容を確認し,P1に対し,L1に試算表をファックスで送信するよう指示した。P1は,平成24年2月10日頃,B4に宛てて,同試算表をファックスで送信し,これを受けたB4がN1に納付税額を伝えた。

    その後,被告人は,N1から,電話で税額をゼロにするよう依頼された。被告人は,その依頼を引き受け,P1に対し,売上げを減らした試算表を作成するよう指示した。P1は,経費を追加計上した上で,被告人の指示に従い,売上げを減らし,わずかに黒字となる試算表と,赤字の試算表の2通りを作成して,被告人に見せた。P1は,同月16日頃,被告人の指示に従い,売上げを1400万円減額した赤字の試算表を,B4に宛ててファックスで送信し,これを受けたB4は,N1に消費税額が約75万円になる旨伝えた。

    被告人は,N1から,消費税額をもっと減らしてほしい旨の依頼を受け,P1に対し,さらに利益を少なくした試算表を作るよう指示した。P1は,被告人の指示に従い,売上げを2000万円減額した試算表を作成し,被告人に見せた。P1は,同月17日頃,被告人の指示に従い,試算表をB4に宛ててファックスで送信した。これを受けたB4が,N1に消費税の金額を伝え,N1は,同試算表の内容で決算をすることを決めた。

  エ 被告人は,同月24日頃,税法I1事務所において,N1,S3及びL1従業員のF4と打合せを行った。P1は,被告人がN1やS3と雑談している横で,F4に対し,3期目において合計2000万円の現金売上げを除外すること,及び,除外した売上伝票の処分や売上日報のデータ等の改ざんを行うことを指示した。その際,被告人は,F4に対して,「おまえでできるんか」などと述べた。

  オ P1は,3期目の確定申告書を,被告人に見せ了承を得た上,同月27日,事務員を通じて,確定申告書を税務署に提出した。

3 共謀共同正犯の成否

 (1) 関係証拠によれば,L1が,2期目において判示第7の2(2)のとおり,3期目において判示第7の2(3)のとおり,法人税をほ脱したことが認められる。

   前記2によれば,2期目のほ脱につき,遅くとも平成23年2月22日頃に,3期目のほ脱につき,遅くとも平成24年2月24日頃に,被告人は,N1及びP1と明示的に意を通じたことが認められる(弁護人は共犯関係からの離脱を主張しているが,前記のとおり,事業年度ごとに被告人がN1らと意思を連絡したことが認められる。)。

   被告人は,1期目と同様,2期目及び3期目においても,N1から脱税の依頼を受け,売上げを除外することを決定し,P1に個別の作業を行うよう指示している。また,2期目に,L1側が提出したデータにおいて売上除外がなされていないことや,売上除外に伴い現金不足が生じていることが発覚した際には,P1から報告や提案を受けた上で,被告人が最終的な対応を決定している。3期目においても,一旦P1が作成した試算表の納税案に応じられない旨N1から連絡を受けて,P1に再度L1側の意向に沿った試算表を作成させるなどの指示をしている。したがって,被告人が,L1の2期目及び3期目の売上除外について主導的役割を果たし,脱税につき重要な役割を果たしたといえる。

   弁護人が指摘するとおり,2期目及び3期目において,P1が,L1の従業員であるB4又はF4に対し,売上除外の具体的作業内容を教えたことが認められる。しかし,2期目において,L1側に売上除外の作業を行うよう提案し,P1にその作業内容を教えるよう指示したのは被告人であるし,3期目において,被告人は,N1からの依頼を受け,売上除外額をP1に指示しており,P1には,帳簿や確定申告書の記載,証ひょう類の処理等の作業を委ねていたに過ぎないのであるから,弁護人の指摘する点は,被告人が2期目及び3期目の売上除外を主導したという評価を左右するものではない。

   また,被告人は,2期目及び3期目において,1期目と異なり脱税報酬は得ていないものの,有名なホストクラブであるL1を顧客に持ち続けることで営業上の利益を得るべく,積極的に脱税に関与していたと認められる。

 (2) 被告人は,L1が,3期目において,福利厚生費及び消耗品費(別紙1-6-3(3期目の修正損益計算書)参照)を過大計上していたことは知らなかった旨を供述する。

   しかし,被告人は,3期目におけるL1の約2000万円の売上除外を主導し,簿外所得の存在を認識していたのであるから,福利厚生費及び消耗品費について具体的な認識がなかったとしても,被告人には3期目のほ脱全体について故意があり,N1及びP1と意を通じていたと認められる。

 (3) 以上によれば,被告人には,L1の2期目及び3期目の法人税ほ脱につき,共謀共同正犯の成立が認められる。

 

(判示第8の事実に関する争点に対する判断)

第1 争点

  弁護人は,①判示第8の1(1)の事実(Q1の平成22年9月期(以下「2期目」ともいい,判示第8の争点判断部分では,Q1の2期目のことをいう。他の期についても同様である。)の法人税ほ脱)につき,被告人は,R1及びP1と共謀しておらず,無罪である旨,④判示第8の2(2)の事実(贈賄)につき,被告人が,S1に120万円を供与した事実はなく,無罪である旨を主張する。

  また,弁護人は,②判示第8の1(2)の事実(Q1の平成23年9月期(以下「3期目」ともいう。)の法人税ほ脱)及び③判示第8の2(1)の事実(虚偽過少の電磁的記録の提示及び虚偽過少の答弁(以下「虚偽答弁等」という。))につき,それぞれ,被告人の関与は認めつつも,その関与は極めて限定的である旨を主張し,その趣旨は必ずしも明確ではないものの,実質的には被告人に共謀共同正犯が成立することを争っている趣旨とも解し得る。

第2 争点①ないし③の判断枠組みについて

  Q1関係事案の全体像に関し,被告人はQ1の平成21年9月期(以下「1期目」ともいう。)の法人税ほ脱に積極的に関与したこと,Q1の2期目の法人税の申告時期に,被告人はR1らに税金対策としてQ1の本店をS1が勤務する西税務署管内に移転する話を持ちかけ,R1らとS1を引き合わせていること,被告人は,3期目の期中に,その程度には争いがあるが,2期目以前に関する税務調査に対する虚偽答弁等に関与し,また,3期目の法人税ほ脱に,その程度には争いがあるが,被告人が関与したことが,証拠上優に認められる。

  このようにQ1の事案は,1期目から3期目までの一連の流れの中で生じたものであるから,以下では,1期目の法人税ほ脱の経緯や状況,3期目期中の虚偽答弁等の経緯や状況,そして3期目の法人税ほ脱の経緯や状況を順次検討する中で争点②及び③について判断を示し,その1期目や3期目の状況を踏まえて,2期目に関する争点①について判断を示すこととする。

第3 争点②(Q1の3期目の法人税ほ脱に係る共謀共同正犯の成否)及び争点③(虚偽答弁等に係る共謀共同正犯の成否)について

1 関係証拠によれば,判示のとおり,Q1が3期目の法人税をほ脱したこと及びR1が虚偽答弁等をしたことが認められる。

2 被告人の関与について

  R1,P1及びG4の各公判供述並びに関係証拠によれば,Q1の1期目及び3期目の法人税ほ脱や,Q1の虚偽答弁等に関し,下記のとおり,被告人が具体的に関与した事実が認められる。

 (1) Q1設立時の被告人の関与

   R1は,平成15年から個人でホストクラブ(平成19年5月ないし6月頃以降の名称は××と◇◇)を経営していたところ,平成20年まで,その事業所得を全く申告していなかったが,同年夏頃,水商売に対する税務調査が入るといううわさを聞き,自身のかつての上司であるU3から,税金を安くしてくれる税理士として,被告人の紹介を受けた。

   被告人は,R1から税務相談を受け,従前の無申告に対する追及を避けるため,法人を設立する旨提案した。R1は,それを受け,被告人に,会社の設立手続及び当該会社の顧問税理士となる旨を依頼した。

   同年10月15日,R1を代表取締役としてQ1が設立され,Q1が××及び◇◇を経営することとなった。

   被告人は,R1及びその下で稼働するG4に対し,被告人が国税当局の内部情報を入手できる旨話した上で,Q1の税金を安くしてやろうか等と提案し,R1からその旨の依頼を受けていた。

 (2) 平成21年9月期(1期目)における被告人の関与

  ア 平成21年11月頃,税法I1の事務所において,P1が,R1及びG4に対し,1期目の正規の売上げに基づく税額を説明した後,被告人が,R1及びG4に対し,税金をどうするか尋ねたのに対し,R1が被告人に脱税を依頼した。被告人は,決算内容につき,ちょい赤でいこかなどと述べた上,P1に対して,赤字決算を行い申告するよう指示した。

  イ P1が,被告人に対し,赤字決算にする方法は売上除外しかない旨伝えたところ,被告人は,P1にそのようにするよう指示したので,P1は,◇◇の現金売上げ及び未収売上げを除外するなど試算を行い,被告人に対し,売上除外の範囲や所得の欠損額等を記載した決算留意事項を見せた。その際,P1は,被告人に,売上除外に伴い現金が1600万円不足する旨を報告したところ,被告人は,その対応をP1に指示した。最終的にP1は,被告人の承認を得た上で,自動車購入費用約1000万円の計上をやめた上,R1及びG4からの借入金600万円を計上することにより,Q1の現金不足の問題に対応することとし,その旨の確定申告書を作成し,被告人の確認を受けた(なお,被告人は,前記のQ1の現金不足の問題につき,相談を受けた記憶はない旨供述する。しかし,P1の供述内容は,決算留意事項(甲547号証添付資料2)の記載と整合しており,その事務処理の手順は,既に検討した他の事件におけるP1のそれと同じであってごく自然なものといえ信用でき,被告人の供述は,そのような証拠と矛盾するものであり,信用できない。)。

  ウ 同月下旬頃,被告人が,税法I1事務所に,R1及びG4を呼び出し,P1及び被告人が,それぞれ前記売上除外の内容を説明し,同月25日,その内容が反映された確定申告書が南税務署に提出された。

    また,P1は,被告人の了解の下,Q1の申告内容に合わせ,Q1の売上日報等のデータを,P1らが内容を改ざんしたデータに置き換える,伝票や領収証の一部を処分するといった処理を行うようR1及びG4に指示した。1期目の法人税のほ脱に関する報酬の点は,後述する。

 (3) Q1の虚偽答弁等に関する経緯及び被告人の関与

  ア 被告人とS1は,従前から,S1が被告人の依頼に応じて,数年程度の課税状況等が記載された資料や調査対象者を選定するための資料等の国税当局の内部資料を提供したり,被告人が税法I1の事務所を訪れたS1に対し数万円程度の現金や商品券等を渡したりするなど,親密な関係を築いていた。

  イ S1は,平成22年7月頃から,西税務署に所属していたところ,被告人は,R1及びG4に対し,西税務署にいる被告人の知り合いにQ1の税務調査に入ってもらうため,西税務署管内の大阪市西区に,Q1の本店所在地を移転するよう指示し,R1はこれに応じた。

  ウ 同年11月13日,被告人は,R1及びG4に対し,S1を紹介した。被告人は,S1に対し,R1がホストクラブを個人で経営していた時期は,税務申告をしておらず,Q1設立後も脱税を行っていることを説明した。

    同日,被告人,S1,P1,R1及びG4は××の店舗兼事務所に行き,その内部の状況を確認し,被告人又はS1が,ホスト個人のメモ帳,ホストの売上げのグラフ,R1が個人で経営を始めた日付の入った鏡など,税務調査の際に国税職員が着目するであろう事項を指摘したところ,R1はその指摘に従ってメモ帳を各ホストに返却するなどの対応をとった。

  エ Q1は,同年12月20日,商業登記簿上の本店所在地を大阪市中央区から同市西区(以下略)に移転し(以下,移転後の事務所を「Q1の事務所」という。),平成23年1月初め頃,税務署にその旨を届け出て,法人税の管轄税務署が南税務署から西税務署に変更された。本店所在地が移転した後も,移転前の事務所が実質的な本店として利用されており,Q1の事務所に本店の実態はなかった。

  オ 平成22年12月頃,西税務署の法人課税第2部門の特別調査班に所属していたS1は,同部門のチーフを務めていたT1に対し,Q1が西税務署管内に移転してくる旨の報告をした。その結果,特別調査班においてQ1の税務調査を行うこととなり,S1がその担当者となった。

  カ 遅くとも平成23年3月頃までに,P1は,被告人からの指示に基づき,S1に対し,「決算留意事項(打合せ用)」と題する書面に基づき,Q1設立前のR1の個人経営時代には税務申告を行っていないことや,Q1の1期目及び2期目の申告状況,売上除外の内容などについて説明していた(なお,被告人及びS1は,P1がS1に対しQ1の1期目及び2期目の納税状況を説明した旨を否定する。しかし,P1は,S1への説明のために書面を作成したことなどを具体的に供述しているし,「決算留意事項(打合せ用)」と題する書面(甲1010号証添付資料番号1)が存在していることからも,P1供述は信用できる。)。

  キ 平成23年4月25日,西税務署内において,税務調査着手に先立ち,税務署長の決裁等を得るための選定会議が実施され,Q1に対する事前通知なしでの税務調査が行われる予定となり,S1は,その旨を被告人に伝えた。

    これを受け,同年5月28日,税法I1事務所において,被告人,S1,P1,R1及びG4により,税務調査に備えた打合せが行われた(以下「本件打合せ」という。)。

    本件打合せにおいては,被告人,S1及びP1のやり取りの中で,被告人及びS1が,申告用の売上データに,1か月あたり数百万円程度を上乗せして,真実の売上データに見せかけたデータを作成し,税務調査で発見させること,税務調査当日に,前記のとおりデータに上乗せした額の売上除外を裏付ける証拠として,R1がベンツを1300万円で購入した際の領収証をQ1の事務所内の金庫に置いておくこと,R1が現金を500万円ほど持っておくことを提案した。また,税務調査の際は,R1は,当初は脱税を否定し,しばらく追及されてからこれを認める態度を取ることなども話し合われた。

    被告人ら5名は,引き続き,Q1の事務所に行く予定だったが,被告人は,V1がけがをした旨の連絡を受け,V1のもとに向かったため,P1,S1,R1及びG4の4名でQ1の事務所に行くこととなった。

    G4は,S1の指示を受け,Q1の事務所内のパソコンに保存されていたQ1の申告用の売上データのうち,平成20年11月分から平成21年2月分までの4か月分に,それぞれ240万円から300万円までの金額を上乗せしたデータを作成し,SDカード(以下「本件SDカード」という。)に保存した。また,P1及びS1は,Q1の事務所に使用感がないことを指摘し,P1が,金庫や冷蔵庫を購入するようR1に助言した。その後,R1は,G4に指示し,金庫及び冷蔵庫をQ1の事務所に備え付けた。

  ク Q1に対する税務調査は平成23年6月には実施されなかったが,西税務署で同年7月21日に行われた選定会議及び同月22日に行われた打合せで,Q1に対する税務調査を事前通知なしで行うこと,調査着手の時間を同月28日午後零時半とすることが決まった。

    S1は,被告人に対して,Q1に対する税務調査の着手日時を電話で伝えた。被告人は,同月27日頃,R1に対し,翌日税務調査が入ることを教えた上,調査時にQ1の事務所にいるよう指示した。

    被告人からの連絡を受け,R1は,本件打合せに従い,現金380万円及び本件SDカードを用意する,Q1の事務所内の金庫にベンツ購入時の領収証を入れておくなどの準備を行った。

  ケ 同月28日午後零時半頃,Q1の事務所及び××の店舗に対する税務調査が実施された(以下「本件税務調査」という。)。S1及びT1がQ1の事務所の現況調査を担当し,Q1の事務所ではR1らが,××の店舗ではG4らが,それぞれ調査に応対した。

    R1は,P1に電話で税務調査が入ったことを伝え,P1からその旨報告を受けた被告人は,P1に対し,Q1の税務調査に立ち会うよう指示した。

    本件税務調査では,本件打合せのとおり,S1が,Q1の事務所の金庫からベンツの領収証を,R1のかばんから現金380万円を,R1の財布から本件SDカードをそれぞれ発見した。S1がQ1の事務所のパソコンで本件SDカードの内容を確認すると,「Q1」という名前のフォルダに,同時期の公表売上額より多額の売上額が記載された,平成20年11月分から平成21年2月分までの4か月分の売上データが保存されていた。

    R1は,本件打合せのとおり,S1やT1からの質問に対し,当初は売上除外を否定しておいて,しばらくしてから,売上除外の事実を認め,売上除外で得た資金でベンツを購入したこと,所持していた現金が売上除外により得た現金であること,前記SDカードの「Q1」という名前のフォルダに保存されているデータが,正規の売上データであることなど,事実と異なる説明をした。

    本件税務調査に関する報酬の点は,後述する。

  コ 本件税務調査に関する被告人供述の信用性について

    被告人は,虚偽答弁等につき,本件税務調査に先立つ本件打合せの際に,現金をR1のかばんに入れておく,虚偽の売上データを作成し,SDカードに保存しておくといった具体的な内容を聞いていなかった旨供述する。

    しかし,被告人は,前記2(1)ないし(3)のとおり,Q1の設立や1期目のほ脱を主導していると認められ,また,本件税務調査に関しても,被告人は,①S1をR1及びG4に紹介していること,②Q1の本店所在地を,S1の所属する西税務署管内の西区に移転させていること,③事前通知なく行われた本件税務調査の着手日時につき,S1から連絡を受け,R1にその日時を連絡していることといった事情が認められ,被告人は,本件税務調査を進める上でも,積極的に関与しているといえる。以上に照らせば,本件打合せは,当初の目的達成のために非常に重要なものであり,被告人は,その内容に強い関心を抱かざるを得ないものであるから,本件税務調査における虚偽答弁等の内容についても,被告人が積極的に打合せに関与し,R1やG4が供述するように,被告人らの主導で決定されたと考えるのが自然かつ合理的である。

    また,被告人の供述は,被告人自身認めている,被告人が本件税務調査に際し前記①ないし③の関与をした経緯を合理的に説明するものではない。

    以上によれば,被告人の供述は信用できない。

 (4) 平成23年9月期(3期目)における被告人の役割

  ア P1は,平成23年11月頃,Q1の3期目の正規の売上げに基づく試算表を作成し,被告人にその内容を報告した。

    P1は,その際,税務署が,同年7月,本件税務調査により3期目の真実の売上データを持って行っていることから,これ以上脱税はできないと考え,3期目はもう脱税はできない旨を被告人に伝えた。

  イ P1は,税法I1の事務所において,R1及びG4に対し,Q1の3期目の正規の売上げに基づく税額を説明した後,申告内容については被告人と相談するよう述べた。

    被告人は,R1及びG4に対し,税務調査が入ったことを踏まえ,ちょい黒でいっとこかなどと述べ,利益を減らした決算内容とする旨提案し,R1はその旨を被告人に依頼した。

  ウ 被告人は,P1に対し,利益を減らし少額の黒字決算とするよう指示した。××は,営業時間帯により,1部と2部に,◇◇は,ホストのグループ分けにより,A班とB班に,それぞれ分けて売上金の管理が行われていたところ,P1が,××1部及び◇◇B班の各半期分の現金売上げ及び未収売上げを除外し,連動する外注費の削除や交際費等の加算を行うと,Q1の3期目の所得は1073万4722円となった。

    P1は,前記売上除外の内容を記載した決算留意事項につき,被告人から承認を得た上で,前記売上除外を反映した試算表を作成し,被告人に見せた。

  エ 同年11月下旬頃,被告人が,税法I1事務所に,R1及びG4を呼び出し,P1及び被告人が,R1及びG4に対し,それぞれ前記売上除外の内容を説明した上,被告人が,R1の希望どおりの決算内容にした旨を述べた。

    P1は,被告人の了解の下,R1らに対し,Q1の申告内容に合わせ,Q1の売上日報等のデータを,P1らが内容を改ざんしたデータに置き換える,伝票や領収証の一部を処分するといった処理を行うよう指示した。

    3期目の法人税のほ脱に関する報酬の点は,後述する。

3 被告人に対する報酬について

 (1) R1及びG4は,被告人から,1期目の決算を赤字にする旨の打合せをした際,「へこませた分の2割」が脱税報酬であるとの説明を受け,1期目及び3期目のほ脱並びに本件税務調査の報酬として,それぞれ「へこませた分の2割」に相当する百万円単位の切りのよい金額を被告人に支払った旨を供述する。

 (2)ア 被告人に支払った具体的な報酬額に関しては,R1及びG4の記憶は必ずしも定かでないものの,「へこませた分の2割」に相当する百万円単位の金額を支払ったという点は,両者とも一貫して明確に供述している。

  イ 税法I1のP1の机内ハードディスク内のデータから発見された,売上集計表の「その他の明細」には,税法I1側が,平成21年11月19日に,Q1から対策費として300万円を受領した旨(甲548号証添付資料1),平成22年8月19日に,Q1から立会料として400万円を受領した旨(甲559号証添付資料),平成23年12月9日に,Q1から対策費として300万円を受領した旨(甲552号証添付資料1)がそれぞれ記載されている。

    関係証拠上,税法I1の内部資料である売上集計表に,あえて虚偽の記載がなされることは考えにくく,売上集計表の記載内容は十分に信用できる。

    H4の公判供述によれば,P1が作成した決算留意事項に基づき算出されるQ1の利益圧縮前の所得金額(H4証言7頁参照)をもとにした税額と申告税額との差額は,1期目が1294万8900円,3期目が1671万300円であると認められるところ,税理士であるP1及び被告人が試算したQ1の支払税額が,前記利益圧縮前の所得金額をもとにした税額と大きく異なっているとは考え難いから,「へこませた分」である前記各差額の2割は,前記各対策費の300万円とおおむね整合している。

    以上によれば,「へこませた分の2割」を1期目及び3期目のほ脱並びに本件税務調査の報酬として支払ったというR1及びG4の供述内容は,売上集計表の記載と整合し,信用性が高いといえる。

 (3) 被告人は,「へこませた分の2割」が報酬となるのは,税務調査に対する報酬のみであり,ほ脱の脱税報酬を「へこませた分の2割」としていたわけではない旨を供述する。

   しかし,被告人の供述は,信用できるR1及びG4の供述内容に反する上,ほ脱の脱税報酬額の基準に関する説明内容も極めてあいまいであるから,信用することができない。

 (4) また,R1は,本件税務調査終了後に支払った「へこませた分の2割」(ここでは,税務調査後,税務署側から最初に提示された税額と,被告人側と税務署側との交渉の後,最終的に修正申告をした上で支払うこととなった税額との差額の2割)に相当する400万円の報酬とは別に,税務調査の支度金として50万円を被告人に支払った旨を供述する。

   弁護人も被告人が前記50万円を受領した事実については特に争っていないところ,前記R1供述は,本件打合せを行うなど,本件税務調査に先立つ準備を被告人が主導している経緯に照らせば自然であるから,信用することができる。

 (5) 信用できる前記のR1及びG4の各供述並びに売上集計表の記載によれば,1期目のほ脱の報酬として300万円,本件税務調査の報酬として,支度金50万円を含め合計450万円,3期目のほ脱の報酬として300万円が脱税報酬としてQ1から被告人に支払われたことが認められる。

4 共謀共同正犯の成否について

 (1) 虚偽答弁等に関する共謀共同正犯の成否について

   被告人は,国税調査官であるS1をR1らに紹介した上で,虚偽答弁等の具体的内容につきR1及びS1らを交えた打合せを行い,本件税務調査の着手日時につき,S1から連絡を受け,R1に伝達するなど,本件税務調査における虚偽答弁等を主導する役割を果たしている。

   そして,本件税務調査の報酬として450万円を受け取り,少なくとも売上集計表上「I1」に分配されている200万円につき,最終的に被告人が自由に使用できる金員とすることで(甲559号証添付資料。なお,判示第9の争点判断部分も参照。),その利益に与っている。

   したがって,虚偽答弁等につき,被告人は,弁護人が主張するような限定的な関与ではなく,積極的かつ主導的な関与を行ったといえるから,被告人には共謀共同正犯が成立する。

 (2) 3期目のほ脱に関する共謀共同正犯の成否について

   3期目のほ脱につき,被告人が,①R1からQ1の3期目のほ脱の依頼を受けていること,②Q1の3期目の決算内容を少額の黒字とする旨を決定し,売上除外をP1に指示し,試算を行わせていること,③P1から,税務調査が入ったことを理由に,脱税はできないと伝えられていたにもかかわらず,売上除外を行う旨を決定していること,④P1から,決算内容の試算結果につき報告を受け,R1及びG4と決算内容の打合せを行う前に内容を確認していること,⑤3期目の脱税報酬額を300万円と決定し,Q1から報酬を受領していることが認められる。

   また,P1が,具体的な売上除外の試算を行い,Q1の売上データの改ざんや,伝票等の処分を指示しているものの,それらはいずれも被告人の指示によるものであったといえる。

   さらに,3期目の報酬300万円のうち,P1に対する分配額は150万円にとどまり,残りは被告人が最終的に自由に使用できる金員となっていることが認められる(甲552号証添付資料1)。

   以上の役割及び報酬の分配割合に照らせば,被告人は,弁護人が主張するような限定的な関与ではなく,R1及びP1と意を通じた上,Q1の顧問税理士として,ほ脱を主導し,かつそれに見合った相応の報酬を受領していたと評価できるから,Q1の3期目の法人税ほ脱につき,被告人には共謀共同正犯が成立する。

5 以上によれば,被告人には,Q1の虚偽答弁等及びQ1の3期目の法人税ほ脱につき,それぞれ共謀共同正犯の成立が認められる。

第4 争点①(Q1の2期目の法人税ほ脱)について

1 関係証拠によれば,Q1が2期目において,判示のとおり,法人税をほ脱したことが認められる。

2 被告人の関与について

 (1) R1,P1及びG4は,被告人が,Q1の2期目のほ脱に,以下のとおり具体的に関与した旨を供述する。

  ア 平成22年11月頃,税法I1の事務所において,P1が,R1及びG4に対し,Q1の2期目の正規の売上げに基づく税額を説明した後,被告人が,R1及びG4に対し,税金をどうするか尋ねたのに対し,R1が脱税を依頼した。

  イ 被告人は,2期目の決算内容につき,赤字にする旨を述べた上,P1に対し,ちょい赤にしてくれなどと指示した。P1は,被告人に対し,1期目同様に売上げを除外するしかない旨述べたところ,被告人は,売上除外を行うことを承認した。

    P1が試算を行うと,××1部と◇◇B班の現金売上げ及び未収売上げを除外し,連動する外注費を削除すると,Q1の2期目の所得に欠損が出ることが判明した。

    P1は,前記売上除外の内容を記載した決算留意事項を被告人に見せると,被告人はその内容に基づき作業を進めるよう指示をした。P1は,前記売上除外を反映した試算表を作成し,被告人に見せ,了解を得た。

  ウ 同月下旬頃,被告人が,税法I1事務所に,R1及びG4を呼び出し,P1及び被告人が,それぞれ前記売上除外の内容を説明した。

    P1は,被告人の了解の下,Q1の申告内容に合わせ,Q1の売上日報等のデータを,P1らが内容を改ざんしたデータに置き換える,伝票や領収証の一部を処分するといった処理を行うよう指示した。

 (2) これに対し,被告人は,Q1の2期目においては,P1が独断で1期目同様の脱税作業をしたものであり,被告人はほ脱に関与していない旨を供述し,弁護人もその供述を前提に,被告人が再度Q1の3期目のほ脱に関与したのは,本件税務調査がきっかけであると主張する。

 (3) 検討

   第3で前述したとおり,Q1は設立時から被告人の顧客であり,被告人が,Q1の設立,1期目のほ脱,3期目の期中に行われた本件税務調査及び3期目のほ脱をそれぞれ主導していたことが認められるところ,被告人が2期目においてQ1への関与を弱めたことをうかがわせる事情はない。

   また,Q1の2期目の税務申告は平成22年11月29日に行われているところ,その直前である同月13日に,被告人は,現役の国税調査官であるS1をR1及びG4に紹介しており,被告人が顧問税理士としてQ1の税務相談に対応していたことに照らせば,被告人はQ1の2期目の税務申告についても当然関与していたと考えるのが自然である。

   したがって,被告人が2期目のほ脱にも積極的に関与していたというR1らの供述内容は,2期目の前後を通じた被告人のQ1への関与の態様と整合しており,信用性は非常に高いといえる。

   この点,弁護人は,R1,P1及びG4の供述は,1期目の繰り返しに過ぎず信用できないと主張するが,法人税の確定申告の作業が毎年同様の流れで進むのは当然のことであるし,P1は2期目についても決算留意事項等を作成して作業を進めているから,R1,P1及びG4の供述は,資料に裏付けられた具体的な供述といえる。また,P1が被告人に決算留意事項を見せて指示を仰いだという点も,被告人自身が,税法I1における被告人の役割は,ややこしい案件の相談を受けることと供述していることと符合しており,自然な流れといえる。

   これに対し,被告人は,Q1の設立,1期目のほ脱,本件税務調査及び3期目のほ脱にそれぞれ関与したことを認める一方,3期目に,R1やP1から再度脱税を依頼されたことはない旨を供述するが,被告人の供述内容は,第3で認定した1期目からの流れに照らし不自然であるし,本件の経緯を合理的に説明するものとは到底いえない。また,前記のとおり,被告人は,2期目の申告をしたのと同じ月に,本件税務調査に先立ち,S1をR1らに紹介していることが認められるから,本件税務調査をきっかけに再度ほ脱に関与するようになったと認めることもできない。したがって,被告人の供述の信用性は非常に低い。

3 被告人の報酬について

 (1) 2期目における被告人に対する脱税報酬について,R1及びG4は,2期目においても,1期目及び3期目のほ脱並びに本件税務調査に対する報酬と同様,「へこませた分の2割」として,百万円単位の切りのよい金額を脱税報酬として支払った旨を供述する。

   また,R1は,2期目においては,1期目より多額の報酬を支払った旨を,G4は,2期目の報酬支払に際し,報酬額がおおむね「へこませた分の2割」となっていることを簡単に確認した旨を供述する。

   これに対し,被告人は,2期目の脱税報酬は受け取っていないと供述し,弁護人は,P1が作成していた売上集計表の「その他の明細」には,Q1の1期目及び3期目の脱税報酬として300万円が支払われた旨の記載があるものの,2期目の脱税報酬が支払われた旨の記載はないから,被告人が,Q1の2期目の脱税報酬を受け取ったことを示す客観的証拠がなく,被告人が2期目の脱税報酬を受け取っていたとは認められない旨主張し,このことが被告人が2期目のほ脱に関与していないことの最大の証左である旨主張する。

 (2) 検討

   売上除外を行い,脱税に関与することは,法的責任を伴うリスクの高い行為であるから,その対価として報酬を請求することは十分に考えられることである。実際に,被告人は1期目及び3期目のほ脱に関与した際には,Q1の利益圧縮前の所得金額をもとに算出した税額と申告税額の差額のおおむね2割の金額を,脱税報酬として受領しており,また,本件税務調査の報酬としても,被告人が交渉により減額した税額のおおむね2割に相当する400万円を受領していたのであるから,2期目においても,前記差額の2割相当額が,被告人に対する脱税報酬として支払われていたと考えるのが合理的である。

   したがって,前述のとおり,2期目の脱税報酬として,「へこませた分の2割」に相当する百万円単位の切りのよい金額を被告人に支払ったというR1及びG4の供述は信用できる。もっとも,R1の公判供述中には,2期目の脱税報酬(R1は手数料と述べる。)について700万円という具体的金額を述べる部分があるが,この具体的金額についてのR1の記憶はあいまいであることから,この部分のR1の公判供述は信用できない。

   なお,この2期目の脱税報酬に関し,弁護人が指摘するように,P1が作成していた売上集計表の「その他の明細」には,Q1の1期目及び3期目の脱税報酬として300万円が支払われた旨の記載があるものの,2期目の脱税報酬が支払われた旨の記載はない。

   しかし,P1供述によれば,売上集計表の「その他の明細」は,領収証や口座への入金記録などで数字を確認するのではなく,被告人の手書きのメモの内容に基づいて記載されていたものであると認められる上,売上集計表全体の性格としても,売上集計表には,P1が把握した範囲のI1グループ(同グループの概要については判示第9の争点判断部分で後述する。)の収支の動きが記載されているにとどまるから,被告人の下で売上集計表に記載のない収支の動きがあったことまでは否定されないといえる。したがって,P1が,被告人がQ1から報酬を受領したことを認識しなかったために,売上集計表にQ1の2期目の脱税報酬の記載がなされなかった可能性が十分に認められるから,弁護人の指摘する点により,前記の判断は左右されない。

4 小括

  以上によれば,被告人の具体的関与に関するR1,P1及びG4の各供述は信用でき,被告人への脱税報酬に関するR1及びG4の供述も前記で信用できないと説示した部分を除き,信用できる。

  H4の公判供述によれば,2期目の利益圧縮前の所得金額をもとに算出した税額と申告税額との差額は,3413万7000円であると認められるところ,そのおおむね2割として,600万円を下らない金額が,2期目の脱税報酬として被告人に支払われたことが認められる。

5 共謀共同正犯の成否

  被告人は,Q1の2期目において,①R1から脱税の依頼を受けていること,②2期目の決算内容を赤字とする旨を決定し,売上除外をP1に指示し,試算を行わせていること,③売上除外の試算結果につき,P1から報告を受け,その内容を確認した上で,R1及びG4との決算内容の打合せに臨んでいること,④2期目の脱税報酬として,「へこませた分の2割」として少なくとも600万円を受領していることが認められる。また,3期目のほ脱や本件税務調査におけるP1との報酬の分配状況に照らすと,2期目においても被告人は相応の報酬を得たものと推認することができる。

  以上の役割及び報酬の分配状況に照らせば,被告人は,3期目同様,2期目においても,R1及びP1と意を通じた上,Q1の担当税理士として,ほ脱を主導し,かつ相応の報酬を得ていたと評価できるから,Q1の2期目の法人税ほ脱につき,被告人に共謀共同正犯の成立が認められる。

6 なお,第5の3(1)で後述するとおり,本件税務調査は,R1の個人経営時代に申告していなかった所得,及び,Q1の1期目及び2期目のほ脱所得全額の発覚を避けることを目的として行われたものであるから,本件税務調査に対する被告人への報酬の全額が,所得を隠ぺいするために支払われた費用であるといえる。したがって,本件税務調査に係る支度金50万円及び報酬400万円は,法人税法55条1項のいう隠ぺい仮装のための費用にあたり,損金算入が認められない。

  また,既に検討したところに照らすと,Q1から被告人に対して支払われた2期目の脱税報酬は被告人に有利に解して600万円であり,これが支払われた時期は,2期目の申告が行われた平成22年11月頃(3期目中)であると認められるが,これも脱税経費として損金算入は認められない。他方,簿外支払手数料23万2000円(甲1054号証参照)については,経費として損金算入されることとなる。

  したがって,3期目の修正損益計算書(別紙1-7-2)の増減額欄中の支払手数料については,①600万円(前記脱税報酬)+②450万円(本件税務調査に係る支度金及び報酬の合計額)+③23万2000円(前記簿外支払手数料)=1073万2000円,脱税経費否認額については前記①+②の1050万円,これに伴って合計額が1億3101万705円と,検察官主張の金額よりそれぞれ100万円少なくなる(もっとも所得金額には影響しないので,本件のほ脱額には影響しない。)。

第5 争点④(贈賄)について

1 判断枠組み

  被告人及びS1は,公判廷において,被告人が,S1に対し,本件税務調査に関する謝礼の趣旨で120万円を交付したことはない旨を供述する。

  他方,S1は,S1自身に対する捜査段階における検察官の取調べ及び被告人を被疑者とする贈賄被疑事件における刑事訴訟法227条による証人尋問においては,本件税務調査に関する謝礼として120万円を受け取った旨を供述している(以下「S1の捜査段階の自白」という。)。

  そのため,争点④の判断に際しては,S1の捜査段階の自白の信用性判断が中核となる。

2 S1の捜査段階の自白の状況及び内容から,S1の捜査段階の自白が信用できるといえること

 (1)ア S1は,平成25年8月28日,逮捕に先立つ任意同行後の午後2時過ぎ頃から行われた山口智子検察官による任意での取調べにおいて,被告人との間の金銭の授受について付随的に事情を聴取された際,本件税務調査に関する謝礼の趣旨で,被告人から現金120万円を受け取ったこと,受け取った時期がQ1に対する本件税務調査後,Q1の修正申告がされた平成23年9月1日と近接した時期であったことを,取調べ開始から数時間以内には認め,受け取った状況等についても具体的に供述している。

    S1は,同日,逮捕状執行後の弁解録取手続においても,山口検察官に対し,これと同様の供述をした上,120万円を受領した時期を平成23年9月10日としている。

  イ 録音録画された前記弁解録取手続の実施状況に照らしても,S1が取調官である山口検察官から特定の供述内容を押し付けられているとは認められず,S1が,Q1の税務調査に関して謝礼をもらっているのではないかと同検察官に尋ねられ,逡巡する様子を見せながらも,真摯に淡々と前記供述をしたという同検察官の証言に沿う供述態度を見て取ることができる。

    前記任意取調べ時のS1の検察官調書謄本(甲598号証)には,S1からの訂正申立てに基づく記載がなされているところ,120万円受領の事実に関する訂正はなされていない。S1の被疑者ノート写し(弁5号証)の同日欄を見ても,120万円受領の事実にかかる取調べについての不満は記載されていない。

  ウ S1は,逮捕後も,120万円の受取日があいまいになった点以外は,時系列順に,法人税法違反の事実での取調べ,被告人を被疑者とする贈賄被疑事件での裁判所における証人尋問,加重収賄の事実での弁解録取手続,勾留質問,国税庁監察官の事情聴取と様々な場面で同様の供述をしており,S1に対する公訴提起に至るまで,一貫して自白を維持している。

    もっとも,S1が,平成25年10月4日に加重収賄の被疑事実で通常逮捕された以降は,S1の供述調書が一通も作成されていない。しかし,その間の被疑者ノートの記載を見ても,120万円の受領については一貫して認めており,120万円を受け取った日付の記憶があいまいになっていることを述べているにすぎない。このような経緯は,S1の家族にまで取調べが及んだことへの不満等から,S1の感情の浮き沈みが激しくなり,調書作成に至らなかったものの,S1は,120万円の受領の事実及びその受領の趣旨につき,120万円を受け取った日付が平成23年9月10日かどうかが分からなくなったという点を除けば,一貫して認めていたという山口検察官の証言に符合する。

  エ S1の捜査段階の自白の内容は,被告人から受け取った金額が120万円という端数を伴う額であること,被告人から渡された封筒に「120」と書いてあったために,受け取った金額が120万円であると思ったこと,当該封筒がS1が取引をしていない銀行の封筒であり,その封筒の中に現金を入れて金庫の中に保管しておくのが嫌な気がしたため,封筒を捨てたことといったものであり,具体的かつ詳細で,検察官が創作できるようなものではない。

  オ 以上のようなS1が自白に至った経緯や,その後もS1が自白を維持していた状況,S1の捜査段階の自白の内容を考慮すれば,平成25年8月28日におけるS1の自白が,山口検察官からの誘導によってなされたものではないと認められる。

    したがって,当時現職の国税調査官であったS1は,本件税務調査における不正行為に関連して被告人から120万円を受け取ったという極めて不利益な事実を,逮捕前における山口検察官からの最初のかつ任意の取調べにおいて,取調べ開始から数時間以内に,自発的に認めたものといえる。

    120万円を受領した事実は,S1自身の国税調査官としての立場や刑事責任に極めて重大な影響を与える事実であることや,S1と被告人が従前から親密な関係にあったことに照らせば,S1がS1自身や被告人に不利になる虚偽の内容を自発的に供述するとは考え難いから,前記の自白に至る経緯やその内容は,S1の捜査段階の自白の信用性を強く支える事情といえる。

 (2) 弁護人は,S1の捜査段階の自白には,税法I1の事務所が平成23年9月に移転した直後の情景の供述がなく,供述の具体性や迫真性がないから,信用できない旨主張する。

   確かに,S1の捜査段階の自白において,S1が被告人から120万円を受け取った際の周囲の情景等は供述されていない。S1が,120万円を受け取った点は一貫して自白を維持しつつも,その受領の時期について記憶があいまいになっていった経緯を考えれば,S1の120万円受領に関する記憶は,平成25年8月28日時点から,元々そのような記憶であったといえる。

   しかし,120万円受領の事実は強い印象に残る事柄といえるのに対して,受領時の周囲の情景等も同様に印象に残るはずであるとは必ずしもいえないことや,S1は,120万円の入った封筒を受け取った状況については,被告人の発言を含め具体的に供述していることを踏まえれば,本件において,受領時の周囲の情景の記憶がないことが,受領自体の記憶の評価に影響する事情とはいえない。

   よって,弁護人の指摘する点は,被告人から封筒に入った120万円を受領したというS1の捜査段階の自白の核心部分の信用性に疑いを生じさせる事情とはいえない。

 (3) 以上によれば,S1の捜査段階の自白の信用性は高いといえる。

3 被告人にS1に対して本件税務調査の謝礼を支払う動機があること

 (1) 被告人に本件税務調査を進める動機があること

  ア 前記第3の2(1)のとおり,R1は,ホストクラブを個人で経営していた時代の無申告分の追及を避ける目的で,平成20年に被告人に相談を行ったものと認められる。また,R1及びG4の供述によれば,R1及びG4は,被告人から,税務調査が入った際には追徴税を支払う必要が生ずるため,資金を残しておくよう説明されていたと認められる。したがって,R1及びG4には,税務調査後の追徴税額を本来よりも抑える動機があり,被告人もそのことを十分に認識していたといえる。

    したがって,被告人は,本件税務調査を通じて,R1の個人経営時代並びにQ1の1期目及び2期目の追徴税の支払を抑えることにより,顧客であるR1からの信頼を得ることができる立場にあったといえる。

  イ 被告人自身,R1から脱税の依頼を受けた際,国税当局からの内部情報を入手できる旨を述べているように,被告人と国税当局とのつながりを顧客に示すことは,顧客に対する大きなセールスポイントとなっていたといえる。

    したがって,被告人には,現職の国税職員とのつながりがあり,税務調査という納税者が恐れる事態に際し,協力を得ることができる旨を顧客に示す意味でも,本件税務調査を進める動機があったといえる。

  ウ また,前記第3の3のとおり,被告人は,本件税務調査後,税務署が当初提示した支払税額から,最終的な追徴税額を減額させることにより,Q1から,支度金を含め合計450万円の報酬を受け取ったことが認められる。

    したがって,被告人には,本件税務調査を進めることで,報酬を得るという利益があったといえる。

  エ 被告人は,R1らに対し良い格好をするとともに,面白半分で,S1とR1及びG4を引き合わせ,本件税務調査の実施に至った旨を供述する。

    しかし,本件税務調査前の打合せが入念に行われていることや,現職の国税調査官であるS1を引き込んだうえ,本件税務調査を実施したことが発覚した場合に,被告人に生ずる税理士としての法的責任等のリスクが極めて大きいことを考えれば,被告人が供述する理由だけで,本件税務調査に関与することは著しく不合理であり,被告人の供述は,あきれた供述といえるものであって,到底信用できない。

  オ 以上のとおり,被告人には,前記アからウの点で,本件税務調査を進める動機があったといえる。

 (2) 被告人にS1に対し本件税務調査の謝礼を支払う動機があること

  ア Q3やR3の各捜査段階供述によれば,被告人は,現役の国税職員に対して,国税庁の内部資料を入手する対価として現金を支払っていたことが認められる。

    前記の点に加えて,被告人とS1は,前記第3の2(3)のとおり,従前から,S1が被告人の依頼に応じて,国税当局の内部資料を提供したり,被告人が税法I1の事務所に訪れたS1に対し交通費等の名目で数万円程度の現金や商品券等を渡したりするなどといった,親密な関係を築いていたことに照らせば,被告人が,S1が被告人に協力することの謝礼として,S1に対し現金を支払うことは十分に考えられる状況であったといえる。

  イ S1は,前記第3の2(3)のとおり,Q1の納税状況を認識した上で,①事前の打合せにおいて,税務調査における着目点を教示すること,②税務調査の日時を教えることで,Q1側が本件税務調査に備える時間を与えていること,③税務調査当日,Q1の事務所の現況調査を担当することといった点で,本件税務調査を本件打合せの内容通りに進める上で,大きな役割を果たしている。

    そのようなS1の役割の重要性や,現役の国税調査官であるS1が本件税務調査を通じた不正に関与している事実が発覚した際には,S1に刑事罰や懲戒解雇といった重大な法的責任が生じることを考えれば,被告人が,本件税務調査への協力の対価をS1に支払うことは,不自然なことではない。

 (3) 以上のとおり,被告人には,本件税務調査に関する謝礼を,S1に対し支払う動機があったと認められる。よって,S1の捜査段階の自白は,被告人の動機の面からも合理的であり,信用できるといえる。

4 S1の捜査段階の自白は,S1の口座との出金状況と整合していること

 (1) S1は,毎月父母に,給与振込口座であるS1名義のゆうちょ銀行口座の貯金を原資に,12万円ないし15万円を生活費等として渡していた。ゆうちょ銀行の口座の取引履歴をみると,平成23年8月18日から平成24年1月14日までを除けば,その前後を通じて,毎月定期的に10万円を超える金額の引出しがあるのに対し,前記期間には,10万円を超える金額の引出しが一切ない。

   S1は,捜査段階において,被告人から平成23年9月10日に現金120万円を受け取り,生活費として費消したと供述しているところ,当該供述の内容は,前記口座の出金状況によっても一定程度裏付けられている。

 (2) 弁護人は,平成23年9月から12月までの間,S1は,それ以前に出金した現金や被告人から交付された数万円程度の現金及びクレジットカードの利用により生活費をまかなっており,120万円を生活費に充てていたものではない旨を主張する。

   しかし,S1は,公判廷において,名古屋出張のためあらかじめ出金していた現金から生活費をまかなった旨供述するが,捜査段階では何ら供述がなされていなかったのに,公判廷で前記供述を始めた合理的な理由は特に認められず,また,出張の具体的日程や場所が確定する前から,現金を引き出しておく必要があるとは考えられないから,その内容も不自然である。したがって,弁護人の主張の前提となるS1の公判供述は信用できない。

   また,S1は,平成23年9月及び10月には月額十万円以上をインターネットのゲームに利用していた旨供述しており,前記期間において生活費以外の支出が増加していたことがうかがわれる。したがって,弁護人の指摘する現金やクレジットカードの使用に加え,120万円を生活費に充てていたとしても,なんら不自然とはいえない。

   以上によれば,弁護人の主張は採用できない。

5 売上集計表に120万円を支払った旨の記載がないことについて

 (1) 弁護人は,税法I1において作成されていた売上集計表の「その他の明細」に,被告人からS1に120万円が供与された旨の記載がないことから,S1の捜査段階の供述が信用できない旨を主張する。

 (2) しかし,売上集計表には,P1が把握できる範囲のI1グループの収支の動きが記載されているにとどまる。被告人のS1に対する120万円の支払は,簿外でなされており,P1が被告人からの情報提供なしに当然にその内容を把握できるものではないと考えられる。そのため,120万円の支払が売上集計表に記載されていないことから,当該支払がなされていないとは認められない。

   また,3(2)で前述したとおり,被告人は,従前から,S1に対し交通費等の名目で数万円程度の現金を支払うほか,国税職員に対する内部資料提供の対価として現金を支払っていたことが認められる一方,それらの支払は,売上集計表に記載されていない。したがって,被告人が,自ら出金した金額のすべてにつき,売上集計表への記載を求めていたとはいえない。

   したがって,S1に対する本件税務調査の謝礼の支払について,売上集計表に記載がないことから,被告人からS1に対する当該支払がなかったということはできず,弁護人の主張は採用できない。

6 S1の公判供述の信用性について

 (1) S1は,本件税務調査の謝礼を受け取っていないのに,捜査段階で当該事実を認めたのは,被告人から平成25年1月ないし2月頃に子供の学費として100万円を借り入れたことと混同したからであると供述する。

   しかし,賄賂の授受というS1の刑事責任にとって重大な事項が尋ねられている場面で,賄賂を受け取っていないのに,その事実を認めるということ自体理解し難い。また,金員を借り入れることと金員をもらうことでは,金銭授受の意味合いが異なるし,S1の公判供述によれば,借り入れた金員は,平成25年3月ないし4月頃,子供の学資保険の返戻金で返済しようとしていたが,被告人が逮捕されたため返済できていないというのであるから,それからわずか半年足らずである同年8月に検察官に対して最初に自白した時点で,S1の供述するような記憶の混同が生じていたとは考え難い。

 (2) また,S1は,受け取った金額を120万円と供述した理由について,S1の頭の中では100万円のイメージが浮かんだものの,きれいな数字の金額は不正資金のイメージがあるため,端数を付した旨を供述する。

   しかし,100万円にしろ120万円にしろ,その受領の事実を認めることは,不正資金の受領を認めることを意味するから,不正資金のイメージを避けるために120万円と述べたというS1の供述内容は不合理といわざるを得ない。

7(1) 以上によれば,S1の捜査段階の自白は十分に信用することができ,それに反するS1の公判供述や,被告人の公判供述は信用できない。

   なお,120万円を受け取った時期につき,S1の捜査段階の記憶は,必ずしも明確なものではなかったが,Q1の修正申告が行われた平成23年9月1日以降であることを手掛かりに,同年9月10日と特定がなされているところ,その内容は,S1が自発的に供述を行ったというにとどまらず,S1のETCの使用履歴や,S1が携帯電話で行っていたゲームの位置情報といった他の証拠関係と符合しており,一定の裏付けがあるといえる。したがって,同年9月10日頃という限度で信用することができる。

   よって,被告人が,S1に対し,平成23年9月10日頃,120万円を交付したことが認められる。

 (2) 被告人には,前記のとおり,本件税務調査をS1の協力の下で進めることによる利益がある。S1の協力の下に行われた本件税務調査の結果に基づき,Q1の真実の売上除外額が発覚することのないまま,平成23年9月1日,被告人の企図した額でのQ1の修正申告が行われているところ,近接した時期に,被告人はS1に120万円を交付している。したがって,被告人は,本件税務調査における謝礼の趣旨を有する対価として120万円を交付したと認めることができる。

 (3) 以上によれば,被告人は贈賄罪の刑責を負う。

第6 証拠排除の主張について

1 弁護人は,刑事訴訟法(以下本節において「法」という。)321条1項1号に基づき,甲601号証を証拠として採用したことが違憲・違法である旨主張する。

  法は,裁判官の面前で証人尋問を行うことにより,信用性の情況的保障があることを考慮して,法227条1項の尋問に際し,被告人や弁護人に証人尋問への立会権を保障する必要がない旨を定めたものと解される。したがって,弁護人が主張するように,裁判官の補充質問の内容いかんにより,憲法37条2項及び法227条1項適合性が左右されるものではない。

  また,証拠決定時の理由として示したとおり,証人尋問請求時において,被告人とS1の従前の関係性等に照らし,S1が被告人の公判期日において前にした供述と異なる供述をするおそれがあるなど,法227条1項及び法321条1項1号の要件をいずれも満たしていると認められる。

2 また,弁護人は,甲563ないし567号証(甲567号証については相反性を肯定した部分),甲570号証,甲598号証,甲600号証,甲603号証につき,前記各検察官調書は,公判供述よりも相対的に信用すべき情況の下に作成されたものとはいえないから,法321条1項2号に基づき,前記各検察官調書を証拠として採用したことが違法である旨主張する。

  弁護人は,供述者がその意に反して供述したかのみが法321条1項2号該当性の判断基準とされている旨を主張するが,当裁判所は,S1が特段の事情なくS1自身及び被告人に不利な供述をしたことを,信用性を基礎づける事情と評価したにとどまるから,弁護人の主張はその前提を欠く。

  そして,証拠決定時の理由として示した通り,前記各検察官調書はいずれも法321条1項2号後段の要件を満たすと認められる。

3 したがって,弁護人の主張には理由がなく,前記各証拠にはいずれも証拠能力が認められる。

(判示第9の事実に関する争点に対する判断)

第1 争点等について

1 前提事実

  争点の内容を理解する上で必要となる前提事実として,以下の事実が認められる。

 (1) 税法I1の平成21年12月期ないし平成23年12月期において,税法I1,複数の税理士及び幹部従業員によって,I1グループが構成されていた。I1グループは,▽▽ビル又は△△ビルに拠点となる事務所を置き,税理士又は幹部従業員を班長とする業務担当班を編成し,税理士業務や記帳代行業務を協働して行っていた。

 (2) 税法I1の登記上の代表社員であるP1が班長を務める業務担当班(以下「P1班」といい,ほかの班についても同様に「○○班」という。)は,I1グループの顧客(以下,判示第9の争点判断部分では,同グループの顧客のことを単に「顧客」ともいう。)の応接,顧客への報酬請求等の総務や,経理事務を担当しており,顧客からの当月の売上額と,グループ内での分配割合及び分配額を記載した月次の売上集計表(以下単に「売上集計表」という。第27回公判調書と一体となる証人T4の証人尋問調書添付の別紙3(ただし,同表の右側太枠欄は同人が売上除外額算定に当たり付加したものである。)や甲345号証等参照。)を作成していた。

 (3) 売上集計表の「収入の帰属」欄に税理士法人と記載され,売上げの帰属主体が税法I1とされた部分(以下「税法I1帰属分」という。)は,税法I1の公表売上げとして計上されていた。

   他方,売上集計表の「収入の帰属」欄に,I1グループに所属するものの税法I1の社員ではない各個人税理士(以下単に「各税理士」という。平成21年12月期においては,被告人,U1及びD4の3名を,平成22年12月期及び平成23年12月期においては,被告人,U1,D4及びB5の4名を指す。)の名称が記載され,売上げの帰属主体が各税理士となった部分(以下「税理士帰属分」という。)のうち,その1割程度の金額は「P1」欄に,その5割程度の金額は「I1」欄に記載されていた(以下,それぞれ「税理士帰属分の1割相当額」,「5割相当額」などという。)が,それら税理士帰属分の6割相当額は,税法I1が初めて売上げを計上した平成16年12月期から平成23年12月期まで,税法I1の公表売上げとして計上されていなかった。また,大阪国税局査察部査察官T4が作成した「売上除外額一覧表(分配分)」と題する書面(甲1023号証添付)に記載されているH2及びQ5に係る売上げも,税法I1に対して分配されていたが,税法I1の公表売上げには計上されていなかった。

 (4) P1は,被告人や被告人の弟であるU1の指示に従い,I1グループの創業者である被告人,U1及び被告人の父であるH5(以下,この3名を総称して「Y1ファミリー」という。)に対し,毎月定額の金員を支払っていた。

   すなわち,P1は,被告人に対し,平成21年12月期に1800万円,平成22年12月期及び平成23年12月期にそれぞれ2400万円,U1に対し,平成21年12月期及び平成22年12月期にそれぞれ1800万円,平成23年12月期に1450万円,H5に対し,平成21年12月期ないし平成23年12月期にそれぞれ600万円を支払っていた。

2 争点

  検察官は,第1に,税理士帰属分の6割相当額は,各税理士から税法I1に対し外注費として支払われており,税法I1に帰属する売上げであるのに,税法I1の売上げから除外されていた旨,第2に,①Y1ファミリーに対する前記1(4)の金員は,いずれも,税法I1に帰属するに至った,税理士帰属分の6割相当額の中から支払われたものであること,②被告人は,税法I1の実質的主宰者であり,法人税法上の「役員」(法人税法2条15号,法人税法施行令7条1号)に該当すること,③前記1(4)の金員は,被告人に対しては簿外役員報酬として,U1及びH5に対しては簿外給与手当として,それぞれ税法I1から支払われたものであることから,被告人に対する支払額は,法人税法34条3項により,税法I1の損金には算入されない旨(なお,U1及びH5に対する簿外給与手当は,税法I1の損金に算入されることを前提とする。),第3に,被告人には,判示第9の事実全体につき,共謀共同正犯が成立し,ほ脱の故意も認められる旨を主張する。

  これに対し,弁護人は,第1に,税理士帰属分の5割相当額は,税法I1に帰属する売上げではない旨(なお,税理士帰属分の1割相当額が税法I1に帰属することには,3(1)で後述するとおり,争いがない。),第2に,①Y1ファミリーに対する前記1(4)の金員は,税理士帰属分の5割相当額の中から支払われているところ,当該金員は,税法I1に帰属していないこと,②被告人は,税法I1の業務に関与しておらず,その実質的主宰者ではないから,法人税法上の「役員」に該当しないこと,③仮に税法I1からY1ファミリーに対し前記1(4)の金員が支払われていたとしても,いずれも外注費であることから,検察官の主張には理由がない旨,第3に,①被告人は,税法I1の申告内容の詳細を認識しておらず,また,②被告人は,D4及びB5に帰属する売上げの6割相当額は,税法I1において受取外注費として計上すべきであると認識しており,P1にその旨を提示していたのに,P1がその内容を無視して税法I1の税務申告を行ったものであるから,被告人には共謀の成立及びほ脱の故意が認められない旨をそれぞれ主張する。

3 税理士帰属分の1割相当額及びいわゆるV1管理分について

 (1) 関係証拠によれば,税理士帰属分の1割相当額が,各税理士から,税法I1に対して,P1班の行う総務や経理事務の対価として支払われ,税法I1に帰属していたことが認められるから,税法I1が税理士帰属分の1割相当額を売上げから除外していたと認められる(この点は,弁護人も争っていない。)。

 (2) また,関係証拠によれば,平成23年5月頃から,V1班による売上げにつき,P1班ではなく,V1班が管理するようになったことに伴い,売上集計表の記載もそれを反映するものになったことが認められる。

   そのため,平成23年5月頃より前のV1班の売上げは,税理士帰属分に含まれるのに対し,平成23年5月頃以降のV1班の売上げは,税理士帰属分に含まれていない(検察官の主張する売上除外額にも含まれていない。)。

第2 税理士帰属分の5割相当額の帰属について

1 判断枠組み

  2(1)で後述するとおり,税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割相当額から,Y1ファミリーに対し毎月定額の金員が支払われていた上,その最終的な残額については,被告人が自由に使用できる状態にあった。したがって,本件における税理士帰属分の5割相当額の帰属という争点は,実質的には,税理士帰属分の5割相当額が税法I1に一旦帰属した上で被告人側に移転していくのか,税法I1には一切帰属せずに被告人側に初めから帰属するのかという争点といえる。

  このような争点を判断する上で,まず,売上集計表や税理士の採用条件を記した書面等の関係各書証の記載内容は,弁護人が指摘するように,必ずしも一義的な理解ができるものではなく,また被告人及びP1を除く各班長らの供述を見ても,税理士帰属分の5割相当額が税法I1に帰属するか否かに関する前記各班長らの認識はあいまいであって,いずれにしても決め手になるものではない(後記4参照)。

  そこで,本件では,P1班によるI1グループ全体の売上げの管理状況や税法I1の法人税の申告状況等を踏まえ,P1らが行っていた経理処理が税理士帰属分の5割相当額が税法I1に帰属することを前提にした経理処理といえるかを検討し,そこから,税理士帰属分の5割相当額の帰属に関する被告人やP1の意思内容を検討することとする。

2 P1班によるI1グループの売上げの管理状況について

 (1) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。

   P1班は,顧客から売上げが入金される税法I1名義及び各税理士名義の預金口座の通帳とキャッシュカードを管理し,各班長が顧客から報酬を現金で受領した場合は,その現金を前記各口座に入金するなどして,I1グループ全体の売上げを管理していた。

   顧客からの売上げは,税法I1帰属分と税理士帰属分のいずれについても,あらかじめ定められた分配割合に応じ,4割相当額が当該顧客に係る業務を担当した班に,1割相当額がP1班にそれぞれ分配されていた。

   残りの5割相当額は,引き続きP1班が管理し,その中から,▽▽ビル又は△△ビルの事務所家賃,事務用品費,設備費等の,I1グループ全体に係る経費が支払われていた(なお,各班員に対する給与は,各班長への分配額の中から,各班において支払われていた。)。

   税法I1の社員だけでなく,被告人,D4及びB5も業務の大半を,税法I1名義で賃借されていた▽▽ビル又は△△ビルの事務所において行っており,税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割相当額から支払われていた前記経費には,税法I1の社員及び従業員に係る経費だけでなく,各税理士及びその下で働く従業員に係る経費(給与を除く。)も含まれていた。

   P1は,税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割担当額から前記経費を支払った残額から,Y1ファミリーに対する毎月定額の金員の支払を行っていた。更に残額が生じた場合,その残額は,P1が管理する各預金口座内の預金,P1名義及び被告人名義で借りていた銀行の貸金庫内の現金又はP1班の手元の小口現金として,保管されていた。

   税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割相当額の最終的な残額については,P1が,被告人の指示に応じて,預金口座から現金を引き出して,被告人に渡す,被告人が,平成23年の年末頃にP1名義の貸金庫内の金員をすべて引き出すなどしており,被告人が自由に使用することができていた(P1供述及び合同事務所内訳明細(第34回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙5及び7))。

 (2) 以上によれば,業務担当班及びP1班への分配が行われた後,経費の支払や被告人を始めとするY1ファミリーに対する支払がなされるまでの間,税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割相当額は,P1班により,一体として管理されていたと認められる。

   これに対して,被告人は,税理士帰属分の5割相当額がY1ファミリーに帰属することを前提に,税法I1帰属分は,税理士帰属分の5割相当額と区別されており,被告人が税法I1に帰属する金員を使うことはできなかった旨供述するが,少なくとも,税法I1帰属分と税理士帰属分とは,最終的な残額を管理する段階では区別されていなかったと認められる。

   したがって,税理士帰属分の5割相当額は,税法I1の代表社員のP1の管理下に入っており,税法I1に帰属すると評価する実態があったものといえる。

3 税法I1の申告内容並びに被告人及びP1の認識について

 (1) 税法I1における経費計上について

  ア P1供述及び甲1046ないし1048号証等の関係証拠によれば,P1班が管理する,税法I1帰属分及び税理士帰属分の各5割相当額から支出した経費は,合同事務所総勘定元帳に記載され,税法I1の法人税の申告に際して計上されていた経費は,税法I1総勘定元帳に記載されていたところ,平成21年12月期ないし平成23年12月期において,合同事務所総勘定元帳に記載されている経費の6割強が,税法I1総勘定元帳に記載されていたことが認められる(なお,残り4割弱の差額の中で大きな割合を占めるのは,税法I1,(株)O5,Y1ファミリーやその親族の租税公課である。)。したがって,平成21年12月期ないし平成23年12月期の税法I1の税務申告において,P1班が税理士帰属分の5割相当額から支払を行っていた経費の多くが,税法I1の経費に計上されていたものといえる。

    そして,後記第3及び第4のとおり,平成21年12月期ないし平成23年12月期の税法I1の申告内容は,税法I1の実質的主宰者である被告人と,P1が中心となって決定していたと認められる。

    以上によれば,被告人及びP1は,税法I1の法人税の申告に際して,税理士帰属分の5割相当額から支出された経費の多くを税法I1に帰属するものとして計上していたのであるから,それに対応する収益である税理士帰属分の5割相当額も,税法I1に帰属させる意思があったものと推認できる。

  イ なお,弁護人が指摘するとおり,P1班が税理士帰属分の5割相当額から支払った合同事務所総勘定元帳記載の経費のうち,D4及びB5の個人事務所の家賃や水道光熱費等は,税法I1において計上されていない。

    しかし,合同事務所総勘定元帳記載の経費のうち,前記のD4及びB5の個人事務所に係る経費の割合は小さいものにとどまる。また,D4及び被告人の各供述によれば,被告人は,税務上のリスクが高い顧客を各税理士個人の顧問先とし,税法I1のブランドイメージを守る目的から,税法I1名義で申告を行う顧客と,各税理士名義で申告を行う顧客を振り分けていたことが認められる。そのため,各税理士の個人事務所は,税法I1の利益を考慮して運営されていたという側面もあり,そのための経費を税法I1が支払いつつも,各税理士の個人事務所が税法I1から独立しているという外観も必要であったため,個人事務所の家賃等は税法I1の経費に計上していなかったと考えることができる。

    したがって,弁護人の指摘は,前記推認を揺らがせるものではない。

 (2) 税法I1における受取外注費の計上に関するP1及び被告人の言動について

  ア 平成17年12月期の申告

    後記第4のとおり信用できるP1供述によれば,平成18年2月頃,平成17年12月期の税法I1の法人税の申告内容を決定する際,P1が,被告人に対し,税理士帰属分の6割相当額につき,税法I1において売上げとして計上しないのか聞いたところ,被告人は,税法I1の売上げが大きくなると,税務署から目を付けられるから,計上する必要はない旨述べたことが認められる。

  イ 平成24年12月期の申告

    後記第4のとおり信用できるP1供述によれば,平成24年12月期の税法I1の税務申告において,P1が,本当の姿のとおり申告したい旨を述べ,税理士帰属分の6割相当額から,各税理士固有の経費を差し引いた金額として,税理士帰属分の55パーセント相当額を税法I1の受取外注費として計上する旨を被告人に提案し,被告人の了承を得た上で,その内容の申告がなされたことが認められる。

  ウ 以上の事実によれば,被告人及びP1は,平成17年12月期において,少なくとも,税法I1が税理士帰属分の6割相当額の売上げを計上すべき主体となり得ることを認識しており,また,平成24年12月期においては,被告人とP1の意思に基づき,実際に,税法I1に6割相当額から前記イの経費を差し引いた55パーセント相当額の売上げを計上する旨の申告がなされたことが認められる。

    関係証拠によれば,平成17年12月期から平成25年3月に被告人が本件で逮捕されるまでの間に,税法I1の業務運営の枠組みや,税理士帰属分の5割相当額の管理及び分配の実態に特段変化があったとは認められない。したがって,被告人及びP1は,平成21年12月期ないし平成23年12月期においても,税理士帰属分の6割相当額は税法I1の受取外注費として計上すべき旨の認識を有していたことが推認できる。

 (3) Y1ファミリーへの分配を含めた評価

  ア 2(1)で前述したとおり,税法I1帰属分及び税理士帰属分の各5割相当額の中から,Y1ファミリーに対する毎月定額の金員の支払や,Y1ファミリーやその親族の税金,U1やH5の事務所に係る経費等,Y1ファミリーの各個人が負担すべき経費の支払がなされており,また,最終的な残額は,被告人が自由に使用していたことが認められる。そのため,被告人を始めとするY1ファミリーに,税法I1帰属分及び税理士帰属分の各5割相当額のうち相当部分が,最終的には分配されていたことが認められる。

  イ しかし,税法I1設立後,税理士帰属分の5割相当額について,被告人を始めとするY1ファミリーの各個人の売上げとして申告することが検討された様子はうかがわれないのに対し,税法I1においては,前述したように,平成21年12月期ないし平成23年12月期に一貫して,税理士帰属分の5割相当額から支出されていた経費の大部分が経費として計上され,さらに,平成24年12月期に,税理士帰属分の55パーセント相当額が受取外注費として計上されていたのである。

    以上によれば,被告人及びP1には,税理士帰属分の5割相当額を,税法I1帰属分の5割相当額と一体として,税法I1に一旦帰属させた後,税法I1から,被告人を始めとするY1ファミリーに対して,その一部を分配する意思があったものと理解することが自然かつ合理的である。

 (4) P1の公判供述について

  ア P1は,公判廷において,税理士帰属分の6割相当額は,税法I1か被告人個人のいずれかに帰属するものと認識していた旨を供述する。

  イ しかし,平成24年12月期における前記申告の後,さらに,P1は,平成25年8月19日,税法I1の平成21年12月期ないし平成23年12月期につき,修正損益計算書(甲920号証添付資料番号1ないし3)のとおり,税理士帰属分の6割相当額が税法I1に帰属する内容の修正申告を行ったことが認められる(なお,前記修正申告は,P1が,本件で身柄拘束中の被告人の意思を確認することなく行っている。)。

    P1は,平成24年12月期の申告及び平成25年の修正申告当時,税法I1の代表社員として,税法I1の債務につき,無限責任を負っており,税法I1に税理士帰属分の6割相当額が帰属することを前提とする申告を行えば,P1自身が,当該申告に伴い税法I1に生ずる税額を負担するおそれがあった。それにもかかわらず,P1が,平成24年12月期の申告及び平成25年の修正申告において,税法I1において受取外注費を計上することを一貫して選択したのは,その当時,P1には,税理士帰属分の6割相当額は税法I1に帰属するとの認識があったからこそであるといえる。

    弁護人は,P1が平成25年の修正申告において,税法I1に受取外注費を計上したのは,国税局や検察庁の見立てに誘導されたからであるなどと主張するが,P1が本件に関し取調べを受ける前になされた平成24年12月期の申告においても,P1は同内容の申告を行っているのであるから,弁護人の主張は採用できない。

  ウ よって,P1の前記アの公判供述により,前記の結論は左右されない。

 (5) 被告人の公判供述について

  ア 被告人は,税理士帰属分の5割相当額のうち,D4及びB5に関するものは税法I1に帰属する一方,被告人及びU1に関するものはY1ファミリーに帰属すると認識していた旨を供述する。

  イ 第3及び第4で後述するとおり,被告人は,税法I1を含めた,I1グループ全体を主宰しており,P1班が,前記2(1)のとおり税理士帰属分を管理しているという実態を認識した上で,前記3(1)及び(2)の税法I1の申告内容を決定していたと認められる。

    そして,税理士帰属分の5割相当額は,その管理や支出に際しても,前記の税法I1における売上げや経費計上に際しても,一体として扱われており,被告人やU1に帰属する売上げと,D4やB5に帰属する売上げが,特に区別して扱われていたとは認められないから,被告人は,税理士帰属分の5割相当額の全体が税法I1に帰属する根拠となる事実関係を十分に認識していたといえる。

    したがって,税理士帰属分の5割相当額の帰属につき,被告人が主張するような認識のずれが生じてはいなかったといえ,被告人は,税法I1に税理士帰属分の5割相当額が帰属していたことを認識していたと認められる。

  ウ よって,前記アの被告人供述は,信用できない。

 (6) 小括

   以上によれば,平成21年12月期ないし平成23年12月期において,税法I1の法人税の申告内容を決定していた被告人及びP1は,税理士帰属分の5割相当額を税法I1に帰属させることを前提にした経理処理をしていたのであり,その旨の意思があったと認めることができる。なお,被告人及びP1にこのような意思があったことは,第3で後述するように,被告人が税法I1をI1グループの中核的存在と位置づけた上で,税法I1に関する種々の重要な判断事項に関与していたこと,P1もこのような被告人の下で,被告人から指示を受けつつ,税法I1の業務を行っていたことといった,税法I1における業務の実態からも裏付けられる。

4 他の各班長らの認識や関係証拠の記載について

 (1) 被告人及びP1以外の班長の認識について

   H2,Z1(以下,判示第9の争点判断部分の「Z1」は同人のことを指す。),Z4,V1及びU1といったI1グループの各班長は,いずれも,公判廷において,自らの班で行った業務の対価として,売上げの4割相当額が自らの班に分配されることが重要なのであって,平成21年12月期ないし平成23年12月期において,残りの6割相当額の帰属には関心がなかった旨を供述している。

   また,関係証拠によれば,前記各班長とD4及びB5を比べて,D4及びB5が売上げの6割相当額の帰属を特に意識していたというべき事情も認められない(なお,弁護人は,甲384ないし388号証(甲385ないし387号証については不同意部分に限る。)のB5の検察官面前調書につき,証拠能力が認められない旨を主張するが,いずれも刑事訴訟法321条1項2号前段の要件を満たしている。)。

   よって,被告人及びP1を除く各班長は,いずれも,平成21年12月期ないし平成23年12月期における税理士帰属分の6割相当額の帰属について,明確な認識は有していなかったものと認められる。

   したがって,被告人及びP1を除く各班長の認識は,税理士帰属分の5割相当額の帰属を判断する決め手とはならない。

 (2) 売上集計表の「I1」という記載について

   P1,H2,Z1及びV1の各公判供述等によれば,売上集計表は,あらかじめ定められた分配割合に従い,各班が行った業務による売上げの4割相当額が,各班への報酬として分配されているかを確認するために作成されていたことが認められる。よって,売上集計表の作成者であるP1や,被告人を含むI1グループの各班長において,売上集計表の記載は,4割相当額を業務担当班の班長に分配する旨を示すものと理解されていたにとどまり,売上集計表の「I1」欄記載の金額を,「I1」という主体に分配し,帰属させるという趣旨を含むものとは理解されていなかったといえる。

   したがって,売上集計表の「I1」という記載の意味の解釈から,直ちに税理士帰属分の5割相当額の帰属を判断することはできない。

 (3) 税理士の採用条件の記載について

   D4及びB5がI1グループで業務を行う際の採用条件を記載した各書面には,それぞれ,「顧問料の配分」につき「Y1:D4=6:4」とする旨の記載(第35回公判調書と一体となるD4の証人尋問調書添付の別紙16)や,報酬につきB5と「I1」とで4対6の配分とする旨の記載(甲1025号証添付資料番号1)がある。

   しかし,それらの記載も,D4やB5に対し,各人がI1グループで行った業務の対価として,売上げの4割相当額が分配される旨を示すことに主眼があり,残りの6割相当額の分配先や帰属を意識したものとは認められない(取り分け,D4の採用条件を記載した書面には,P1班の業務の対価として税法I1に支払われた1割相当額を含め,6割相当額全体が「Y1」に分配される旨の不正確な記載がされていることからも,前記の趣旨は明らかである。)。

   したがって,D4及びB5の採用条件を示す各書面の記載も,税理士帰属分の5割相当額の帰属を判断する決め手とはならない。

5 小括

  以上のとおり,税理士帰属分の5割相当額が,P1班により税法I1帰属分と一体として管理されており,後述するとおり税法I1の実質的主宰者である被告人と,税法I1の総務及び経理事務を担当していたP1は,税理士帰属分の5割相当額を税法I1に帰属させることを前提にした経理処理を行っていたのであるから,両名には,その旨の意思があったと認められる。したがって,税理士帰属分の5割相当額は税法I1に一旦は帰属し,その後に被告人を始めとするY1ファミリーに対して,税法I1に一旦帰属した金員の一部が支払われたものであると認められる。

  以上によれば,税法I1は,平成21年12月期から平成23年12月期までの各法人税の申告に当たり,税理士帰属分の6割相当額(前記5割相当額及びP1班に分配される前記第1の3(1)の1割相当額の合計額)及び前記第1の1(3)のH2及びQ5に係る売上げを,売上げとして計上すべきであるのに,これらを計上せずに売上除外していたものと認められる。

第3 被告人が税法I1の実質的主宰者であったかについて

1 争点の位置づけ及び当事者の主張

 (1) 被告人が税法I1の実質的主宰者であったか否かは,判示第9の税法I1のほ脱に関し,被告人にP1らとの共謀及びほ脱の故意が認められるかという点に大きく関係する上(後記第4参照),被告人が,法人税法2条15号所定の「役員」(後記第5参照)や,同法159条1項所定の「その他の従業者」に当たるかにも関わるものである。

 (2) 検察官は,被告人が,I1グループ全体を統括する立場にあり,税法I1も実質的に主宰していた旨を主張するのに対し,弁護人は,被告人が,I1グループのリーダーではあったものの,税法I1の重要な業務には関与していなかったから,税法I1の実質的主宰者とはいえない旨を主張する。

2 検討

  公判廷において証言したI1グループの各班長は皆,P1ではなく,被告人が税法I1を実質的に主宰していた旨を供述している(B5については甲384号証。ただし,P1も同旨の証言をしているがここではひとまずおく。以下も同様である。)。そこで,被告人の税法I1への具体的な関与について以下検討する。

 (1)ア 被告人,P1及びH2らは,以前から▽▽ビルに事務所をおいて,税理士業務を営んでいたところ,被告人が,ブランドイメージの向上などを目的として税理士法人の設立を提案し,平成15年11月19日,税法I1が設立された。

  イ 平成23年12月時点において,I1グループの顧客の半数は,税法I1に帰属していた(甲413号証)。

    被告人が獲得した顧客と,その顧客から紹介のあった顧客を合計すると,I1グループ全体でみても,税法I1だけでみても,顧客の半数近くを占めていた。

    被告人は,被告人の獲得した顧客のうち,税務上のリスクが高い顧客については被告人自ら担当するとともにD4及びB5といった税理士個人に担当させ,それ以外の顧客については税法I1に担当させるという形で,顧客の帰属を決定していた。

  ウ 以上によれば,被告人は,税法I1を含めたI1グループの顧客獲得につき,中心的な役割を果たした上,自ら設立を提案した税法I1に,優良な顧客を中心とする数多くの顧客を割り振り,税法I1をI1グループにおける中核的存在と位置づけていたことが認められる。

 (2)ア 被告人は,前記のとおり,税法I1だけでなく,被告人個人でも一定の顧客を担当する旨考えていたこと,及び,被告人が国税庁を懲戒免職になっていたことなどを理由に,被告人は税法I1の社員税理士にならなかった。

    被告人は,P1に対し,税法I1設立時に,社員税理士となるよう指示し,また,平成16年12月,当初税法I1の代表社員であったU1が代表社員を退任した際には,代表社員に就任するよう指示した。

    平成20年3月には,被告人の依頼により,H2が税法I1の社員税理士に就任した。

  イ 被告人は,税法I1を含めたI1グループの従業員の採用に際し,書類選考を行い,採用面接に同席する,自らの縁故による採用を行う,各班長による縁故採用に際して人となりを確認するなどしていた。

  ウ 以上のとおり,被告人は,社員の決定を始めとする税法I1の人事に深く関与していたことが認められる。

 (3)ア 被告人は,税法I1を含めたI1グループの顧客のうち,少なくとも,規模が大きい顧客,高額の顧問料を支払っている顧客,税務上のリスクが大きい顧客,クレームの出るおそれがある顧客等については,当該顧客の申告内容を確認していた。

  イ 被告人は,税法I1が関与税理士として税務申告を行っていた,判示第1のA1株式会社,医療法人I5,医療法人社団J5整形外科,医療法人K5歯科医院,C5株式会社,判示第2のL5株式会社,有限会社M5,株式会社N5,判示第4のF1に対し,架空業務委託費計上等によるほ脱を指南し,また,判示第8の1のQ1に対し,売上除外等によるほ脱を指南していた(判示各事実の争点判断部分を参照)。

  ウ 以上のとおり,被告人は,税法I1の経営上重要な顧客の申告内容を判断しており,税法I1の主要な業務に直接関与していたといえる。

 (4)ア 被告人は,社長室と呼ばれる,▽▽ビル及び△△ビルの税法I1事務所の個室を,執務室として利用していたのに対し,P1は少なくとも△△ビルの税法I1事務所においては,他の班長や従業員とともに大部屋で勤務していた(P1供述及び第13回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙3及び15)。

  イ P1は,税法I1の業務を進める上で,判断に迷った際や,トラブルが生じた際,被告人に意見を求めていた。また,P1とV1が業務の進め方について対立した際や,P1とH2の間で給与に関するトラブルが生じた際には,被告人が仲裁に入っていた。

  ウ 被告人は,被告人の顧客であるL1のほ脱(判示第7の2)や,税法I1の顧客であるQ1のほ脱(判示第8の1)につき,自らほ脱の依頼を受けた上,P1に対し,売上除外等を指示し,具体的な試算をさせ,P1から決算留意事項による報告を受けていた。最終的なL1やQ1の申告内容は,被告人が判断していた(判示各事実の争点判断部分を参照)。

  エ 以上の事実によれば,被告人はP1より上位の地位にあったといえる。そして,被告人が税法I1の業務の多くについて前記(1)ないし(3)のような関与をしているのに対し,P1はI1グループの総務や経理事務を担当していたにとどまることを踏まえれば,被告人は,P1に対し,税法I1の経営上重要な判断を委ねてはいなかったと認められる。

3 小括

  以上によれば,I1グループの長である被告人は,税法I1をI1グループの中核的な存在と位置づけた上で,税法I1の設立,顧客の獲得及び割り振り,社員を始めとする人事,重要な顧客の申告内容の決定につき,中心的な役割を果たしており,税法I1の経営に際して,P1に対して指示を与える立場にあったと認められる。

  したがって,P1ではなく,被告人が税法I1を実質的に主宰していた旨をいうI1グループの各班長の供述は信用でき,各班長の供述等によれば,被告人が税法I1の実質的主宰者であったと認められる。

第4 共謀及びほ脱の故意の有無について

1 判断枠組み

  P1は,以下のとおり,被告人が,税法I1の法人税の申告内容の決定に際し,主導的に関与していた旨供述するため,P1供述の信用性を検討する。

2 P1供述の要旨

  P1は,平成21年12月期ないし平成23年12月期における税法I1の税務申告の経緯について,(1)ないし(4)のとおり供述し,その前後の経緯について,(5)及び(6)のとおり供述する。

 (1) 平成21年12月期ないし平成23年12月期に共通する経緯

  ア P1は,各期において,税法I1や各税理士の当該年度の売上げ,受取外注費,支払外注費等の欄を設けた上,税法I1やY1ファミリーの受取外注費欄,税法I1,D4及びB5の支払外注費欄並びにその内訳の記載欄等を空欄とし,それ以外の部分は該当する金額を記載した売上集計表(第33回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙14,18及び22。以下「税理士別売上集計表」という。)を作成し,被告人に交付していた。

    税理士別売上集計表では,各税理士から,税法I1の従業員である班長への支払外注費として計上すべき金額も,税法I1の支払外注費として計上されていた(別紙1-8-1ないし1-8-3の各修正損益計算書の「②外注費」に係る。)。

    被告人は,税理士別売上集計表の税法I1の受取外注費欄に,手書きで斜線を記載しており,税法I1において各税理士からの受取外注費を計上するよう指示したことはなかった(前記各修正損益計算書の「①売上高」に係る。)。また,被告人は,税法I1,D4及びB5において計上すべき支払外注費の総額とその内訳を,手書きで書きこんでいた(税法I1からU1及びH5に対する支払外注費は,前記各修正損益計算書の「②外注費」に係る。以上の被告人が書き込んだ内容を反映した税理士別売上集計表につき,第33回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙13,15及び21。)。

    P1は,被告人が税理士別売上集計表に書き込んだ内容に基づき,試算表を作成し,被告人の了解を得ていた。被告人は,試算表に基づき作成された決算書及び確定申告書を確認した上,確定申告書に税法I1の代表者印を押印していた。

  イ P1は,平成21年分から平成23年分までのD4の所得税の確定申告,及び,平成23年分のB5の所得税の確定申告に際し,税理士別売上集計表上の被告人の手書きの指示に基づき,A5やU1らに対する架空外注費を計上する旨のD4及びB5の決算留意事項(第33回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙23及び24)を作成し,被告人からその内容につき了承を得ていた。また,被告人は,P1に対し,D4の申告における旅費交通費やB5の申告における接待交際費などの架空計上額を手書きのメモで指示していた。

 (2) 決算留意事項

   平成21年12月期及び平成22年12月期において,P1は,試算表とともに,税法I1の決算留意事項(第33回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙16及び19)を作成し,税法I1の利益額や,税法I1においてU1やH5に対する支払外注費を加算する旨,被告人からの受取家賃を加算する旨(前記各修正損益計算書の「⑨受取家賃」に係る。)などにつき,被告人から了承を得ていた。なお,平成23年12月期においては,税法I1の決算留意事項は作成されなかった。

 (3) 架空接待交際費

   被告人は,P1に対し,平成21年12月期ないし平成23年12月期の各期において,接待交際費を追加計上するよう指示していたところ,平成23年12月期には,被告人が管理していた,税法I1や被告人による支払の実態がない,クラブ△×の領収証をP1に交付し,領収証記載の金額を接待交際費として計上するよう指示した(別紙1-8-3の修正損益計算書の「⑥接待交際費」に係る。)。

 (4) (株)O5に対する架空売上げ

   平成23年12月期において,被告人は,P1に対し,(株)O5の利益を調整するため,税法I1において(株)O5に対して4000万円の架空売上げを計上するように指示した(別紙1-8-3の修正損益計算書の「①売上高」に係る。)。

 (5) 平成17年12月期の申告

  ア 被告人とP1は,初めて税法I1に利益が出た平成16年12月期以降,前記(1)のように,税理士別売上集計表を用いて,税法I1及びI1グループの各税理士の申告内容を決定していた。

  イ 平成18年2月頃,平成17年12月期分の税理士別売上集計表をやり取りする際に,P1が,被告人に対し,税理士帰属分の6割相当額につき,税法I1において売上げとして計上しないのか聞いたところ,被告人は,税法I1の売上げが大きくなると,税務署から目を付けられるから,計上する必要はない旨述べた。

    その結果,税法I1の平成17年12月期において,税理士帰属分の6割相当額に対応する受取外注費は計上されなかった。

 (6) 平成24年12月期の申告

   平成24年6月以降,税法I1に対し,G1,L1及びQ1の関係で,大阪国税局査察部による強制調査が行われた。

   その後,平成24年12月期の税法I1の申告内容を決めるに際して,P1は,被告人に対し,税法I1において,被告人,U1,D4及びB5から,各人の売上げの55パーセント相当額を受取外注費として計上する旨が記載された平成24年分の税理士別売上集計表(第34回公判調書と一体となるP1の証人尋問調書添付の別紙3)を渡すとともに,本当の姿に基づく申告をしたい旨を述べた。なお,55パーセントという割合は,税理士帰属分の6割相当額から,各税理士の固有の経費を除いたものとして,P1が算出していた。

   被告人は,P1の提案に対し,特段異論を述べることなく,P1の好きなようにすればよい旨述べた。

   その結果,平成24年12月期において,前記内容の申告がなされた。

3 P1供述の信用性

 (1) 第3で前述したように,税法I1の実質的主宰者が被告人であることからすると,税法I1の申告内容を,P1の独断によるのではなく,被告人の判断に基づき決定することは,極めて自然かつ合理的であるといえる。

   また,P1供述は,税法I1だけでなく,D4やB5個人の税務申告における架空経費計上の経緯など,I1グループ全体の会計処理を,整合的に説明するものである。

 (2) P1が,決算留意事項を用いるなどして,被告人の判断を求めるという方法は,判示第7の2のL1や判示第8の1のQ1の各申告内容の決定と同様の方法である上,現に,税法I1,D4及びB5の各申告に関する決算留意事項が存在しており,書面による裏付けもある。

 (3) クラブ△×のホステスであったB2は,被告人に,被告人の支払にかかるものではないクラブ△×の領収証を買い取ってもらっていた旨を具体的に供述しており(甲327及び328号証),この供述は特に不自然な点がなく信用できる。被告人は,P1がクラブ△×の領収証を管理していた旨供述するが,信用できない。

   P1の架空接待交際費計上の経緯に関する供述は,クラブ△×の領収証を被告人が入手し管理していた点と整合している。

 (4) P1,H2及びZ1の各供述によれば,(株)O5の運営は専ら被告人が行っており,P1は,(株)O5から給与を受ける形をとっていたものの,(株)O5の実際の業務には関与していなかったことが認められる。そのため,P1には,税法I1の利益を増やし,(株)O5の利益を減らすこととなる架空売上げの計上を,被告人からの指示によらず自らの判断で行う動機があったとは考え難い。

   よって,平成23年12月期の,税法I1から(株)O5に対する架空売上げ計上の経緯に関する,P1供述の内容は合理的であるといえる。

 (5) P1の供述中,平成24年12月期の申告の際,P1が被告人に対して本当の姿に基づく申告をしたい旨を述べたとの部分は,前記申告が,同年6月以降,税法I1に大阪国税局査察部による強制調査が行われた直後の申告であることを踏まえれば,自然な内容として理解できるし,平成17年12月期の申告の際に被告人がP1に対して述べた言葉については,被告人自身明確には否定していない上,税法I1の売上げが大きくなれば税務署から目を付けられるという思いがあったこと自体は,被告人自身も認めている。

 (6) 以上によれば,前記2のP1供述は全体として信用できるといえる。

4 弁護人の主張及び被告人の供述について

 (1) 弁護人は,被告人が税法I1の申告内容の決定に関与していなかった旨を主張するが,弁護人の主張のうち,被告人が税法I1の実質的主宰者ではないことを根拠としている点は,第3で前述したところに照らして失当であるし,被告人が税法I1の経理に関与していなかったとの点も,前記3で指摘した関係書証や関係者の供述と整合せず信用できない被告人の供述に依拠したものであって,採用できない。

 (2) 税理士帰属分のうちD4及びB5に係る6割相当額について

   弁護人は,被告人が,被告人及びU1以外の税理士帰属分の6割相当額は,税法I1に対する外注費として支払われていると認識しており,P1を始めとするI1グループの構成員間で認識を共有すべく,従前から弁10号証(平成24年12月期の申告前後に作成された複数の書面のうちカレンダーの裏面に記載されたもの)のようなI1グループ全体の経理を一覧できる図を作成し,配布していたにもかかわらず,P1が,税理士帰属分のうちD4及びB5に係る6割相当額を税法I1の売上げとして計上しなかった旨を主張する。

   しかし,P1に,税法I1の実質的主宰者である被告人の意向に反する申告を行う動機があったことをうかがわせるような事情は認められないし,D4やB5に,被告人の認識に反してまで,税法I1に対する外注費の代わりに,架空経費を計上する理由があったとも考え難い。被告人自身も,被告人の認識とは異なる内容の申告がなされた理由を説明できていない。

   また,前記のとおり信用できるP1供述によれば,被告人は,税法I1の申告内容を把握していたと認められるから(なお,被告人が,税法I1の決算書や確定申告書を見た上で,確定申告書に代表者印を押印していたこと自体は,被告人自身も認めている。),被告人は,税理士帰属分のうちD4及びB5に係る6割相当額が税法I1の売上げとして計上されていないとの事実を認識していたと認められる。

   したがって,弁護人の前記主張は採用できない。

 (3) 税理士帰属分のうち被告人及びU1に係る6割相当額について

   また,被告人は,税理士帰属分のうち被告人及びU1に係る5割相当額は,Y1ファミリーに帰属しており,税法I1には帰属していないと認識していた旨供述する。

   しかし,第1の3(1)及び第2で前述したとおり,業務担当班への4割相当額を除き,P1班への分配額である1割相当額も,その余の残額である5割相当額も,税法I1に帰属しており,被告人はその旨を認識していたと認められるから,被告人の前記供述は信用できない。

5 小括

  以上の検討のとおり信用できるP1の供述に関係証拠を併せて見れば,被告人が,税法I1の実質的主宰者として,判示第9の全期に係る税法I1の法人税の申告に際し,税法I1の収支状況を認識した上で,P1及びU1と意を通じて,ほ脱を主導し,その申告内容を決定していたと認められる(なお,U1との共謀についても,U1自身がこれを認める旨の供述をしていることや,U1が,税法I1のU1やH5に対する支払外注費の金額の内訳の決定等,判示第9の税法I1のほ脱に関して重要な役割を果たしていることなどに照らして認められる。)。

  したがって,被告人には,判示第9の事実についてほ脱の故意があり,P1及びU1との共謀も認められる(なお,後記第5で検討するところに照らすと,Y1ファミリーに対する定額の金員の支払の部分についても故意,共謀が認められる。)。

第5 Y1ファミリーに対する定額の金員の支払について

1 第2の2(1)で前述したとおり,P1は,Y1ファミリーに対する定額の金員の支払(前記第1の1(4))を,税法I1帰属分と税理士帰属分の各5割相当額からI1グループに係る諸経費を支払った残額の中から行っていたものであるところ,税理士帰属分の5割相当額は,第2で前述したとおり,税法I1に帰属するから,Y1ファミリーに対する定額の金員は,税法I1から支払われていたものと認められる。

2 被告人に対する支払

 (1) 被告人は,判示第9の当時,税法I1を実質的に主宰していたのであるから,法人税法上の「役員」(法人税法2条15号,法人税法施行令7条1号)に該当していたと認められる。

 (2) 被告人に対して支払われていた毎月定額の金員は,被告人が,税法I1の実質的主宰者として,税法I1に顧客を融通し,経営上重要な判断を行うなどしていたことへの対価であり,被告人が行った特定の業務に応じて個別に金額が算定されたものでも,税理士法人が営む業務とは別個の業務を被告人が行ったことに対するものでもない。したがって,前記金員は外注費ではなく,給与として支払われたものと認められる。

 (3) したがって,税法I1の役員である被告人に対して毎月定額で支払われていた金員は,税法I1において売上除外等の事実を隠蔽し,仮装の経理を行うことにより支給された給与(役員報酬)であったといえるから,法人税法34条3項により,税法I1において損金算入が認められない。

3 U1及びH5に対する支払

  U1及びH5に対する毎月定額の支払も,被告人同様,税法I1に顧客を融通したこと等への対価であるから,被告人に対する支払と同様の理由により,外注費ではなく,給与であると認められる。

第6 結論

  以上によれば,被告人には,判示第9の事実全部につき,ほ脱の故意があり,P1及びU1との共謀も認められるから,共謀共同正犯が成立する(なお,被告人は,判示第9の当時,税法I1の実質的主宰者であったから,法人税法159条1項所定の「その他の従業者」であったと認められる。)。

(法令の適用)

罰条

 第1

  別表1付番1,付番2枝番1,付番3枝番1の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年6月1日施行に係る改正前のもの)

  別表1付番4枝番1,付番5枝番1,付番6枝番1の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年10月1日施行に係る改正前のもの)

  別表1付番2枝番2及び3,付番3枝番2及び3,付番4枝番2及び3,付番5枝番2及び3,付番6枝番2及び3,付番7の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(ただし,枝番があるものは枝番ごとに)

 第2

  別表2付番1枝番1及び2,付番2枝番1,付番3枝番1,付番4枝番1の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年6月1日施行に係る改正前のもの)(ただし,付番1については枝番ごとに)

  別表2付番2枝番2,付番5枝番1の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年10月1日施行に係る改正前のもの)

  別表2付番2枝番3,付番3枝番2及び3,付番4枝番2及び3,付番5枝番2及び3の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(ただし,枝番ごとに)

 第3の1及び2の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,所得税法238条1項(平成22年法律6号による改正前のもの)

 第3の3

    刑法65条1項,60条,所得税法238条1項

 第4

  別表3付番1

    刑法65条1項,60条,所得税法238条1項(平成22年法律6号による改正前のもの)

  別表3付番2及び3の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,所得税法238条1項

 第5

    刑法65条1項,60条,法人税法159条1項

 第6の1

  別表4記載の各所為

    包括して貸金業法47条2号,11条1項

 第6の2

  別表5番号1及び2の各所為

    いずれも出資法5条2項後段

 第7の1

    包括して刑法65条1項,60条,国税徴収法187条1項

 第7の2(1)

    刑法65条1項,60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年6月1日施行に係る改正前のもの)

 第7の2(2)及び(3)の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項

 第8の1(1)及び(2)の各所為

    いずれも刑法65条1項,60条,法人税法159条1項

 第8の2(1)

  虚偽の電磁的記録提示

    刑法60条,法人税法162条3号(平成23年法律114号による改正前のもの)

  電磁的記録に関する虚偽の答弁及び現金に関する虚偽の答弁の各所為

    いずれも刑法60条,法人税法162条2号(平成23年法律114号による改正前のもの)

 第8の2(2)

    刑法198条(刑法197条の3第2項)

 第9の1

    刑法60条,法人税法159条1項(平成22年法律6号による,同年6月1日施行に係る改正前のもの)

 第9の2及び3の各所為

    いずれも刑法60条,法人税法159条1項

科刑上一罪の処理  第8の2(1)の各罪につき,刑法54条1項前段,10条(犯情の最も重い虚偽の電磁的記録提示の罪の刑で処断)

刑種の選択     第1ないし第7,第8の1,第9の各罪につき,いずれも懲役刑及び罰金刑を併科

          第8の2(1)及び(2)の各罪につき,いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理    刑法45条前段

          懲役刑につき,刑法47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第9の2の罪の刑に法定の加重)

          罰金刑につき,刑法48条2項(各罪の罰金の多額を合計)

未決勾留日数の算入 刑法21条(懲役刑に算入)

労役場留置     刑法18条

訴訟費用負担    刑事訴訟法181条1項本文

 

 

 

 

(量刑の理由)

第1 事案の概要

  本件は,元国税職員であり,本件当時は税理士であった被告人が,①自らが実質的に主宰する税理士法人(税法I1)の3事業年度分の確定申告に際し,その代表社員であるP1ほか1名と共謀の上,売上除外などの方法により,法人税合計4400万円余りを免れ(判示第9。法人税法違反(脱税)),②被告人(被告人が設立して経営する(株)O5や税法I1も含む。)の顧客であったG1,L1及びQ1等15法人の合計37事業年度分及び個人2名の合計6年分の確定申告に際し,それぞれ法人の代表者らや個人らと共謀の上,売上除外及び架空の雑損失,架空の業務委託費等の諸経費計上などの方法により,法人税及び所得税合計2億3300万円余りを免れ(判示第1ないし第5,第7の2,第8の1。法人税法違反,所得税法違反(各脱税)),③L1の実質的経営者であったN1と共謀の上,N1の財産に対する滞納処分の執行を免れる目的で,L1からN1に支給されていた役員報酬の存在を継続して隠ぺいし(判示第7の1。国税徴収法違反(滞納処分免脱)),④Q1に対する税務調査の際,税務調査を担当する国税調査官であったS1らと共謀の上,SDカード内に保存した虚偽過少の売上金額の電磁的記録を提示し,それが本当の売上げである旨述べるなど偽りの答弁をし(判示第8の2(1)。法人税法違反(虚偽答弁等)),⑤S1に対し,前記税務調査の協力などへの謝礼の趣旨で現金120万円の賄賂を供与し(判示第8の2(2)。贈賄),⑥無登録で貸金業を営み,7名に対して合計1億円余りを貸し付けるとともに,うち1名からは法定の年利を超える割合の利息を受領した(判示第6。貸金業法違反,出資法違反)という事案である。

第2 判示第1ないし第5,第7の2,第8の1,第9の各ほ脱について

1 被告人は,当時税理士として納税義務の適正な実現を図るべき立場にありながら,国税職員としての勤務経験や,税務に関する専門的知識を悪用して,ほ脱の手法や国税庁への対応を助言するなどして,ほ脱に関与している。

  被告人が本件一連の脱税に関与した期間は,平成20年から平成24年までの約5年間と長期にわたっているところ,この間被告人は,常習的に,顧客の業態に応じて,売上除外,架空業務委託費計上など多様な脱税の方法を顧客に指南するとともに,自らが実質的に主宰する税理士法人においても,自らの判断・指示の下,税理士法人及びI1グループの各税理士間での複雑な経理処理を伴う脱税を行っている。いずれのほ脱についても,被告人が,申告内容の全体像を考案した上,被告人が設立した(株)O5を利用したり,被告人が架空貸倒れの相手先や,架空の領収証を用意したりするなど,脱税の手はずを整えている。さらに,被告人は,国税庁に脱税が発覚しないよう,関係者間で口裏を合わせるよう打合せを行うなど,事前及び事後の工作も行っている。

  また,被告人は,I1グループの税理士や幹部従業員を関与させて,組織的かつ大規模に本件ほ脱の犯行に及んでいる。

  以上のように,本件一連のほ脱は被告人が積極的に主導したものであり,かつ,その態様は極めて悪質といえる(弁護人は,判示第1ないし第5に関して,顧客から被告人に対し脱税の依頼があったことを強調するが,上記のような被告人の脱税への関与の仕方に照らすと,弁護人主張の点を被告人に有利に考慮することはできない。)。

2 前記のとおり,被告人は,16法人及び個人2名の,合計46年度分にわたるほ脱に関与し,ほ脱額は合計2億7700万円余りに及んでいる。加えて,G1,L1,Q1及び税法I1の各事件については,ほ脱率がおおむね8割超と取り分け高いことをも併せて考慮すると,その結果は重大である(なお,弁護人は,判示第1ないし第5に関して,青色申告承認取消しにより,A1等5法人のほ脱税額が,被告人が意図した金額より多額となっていることを考慮すべきと主張する。しかし,そもそも青色申告承認取消しに伴うほ脱所得の割合は小さく,また,被告人は,脱税の発覚により青色申告の承認が取り消されることは十分認識できたといえるから,弁護人の主張は採用できない。)。

3 被告人は,本件一連のほ脱により,顧客から合計約1億円の報酬を受け取っている上,税法I1において留保された所得から,3期で合計6600万円の簿外役員報酬を得ており,ほ脱に伴い多額の利益を受けている。

4 被告人は,最後の被告人質問においてなお,事後の税務調査を通じて修正がなされれば足りるから,当初の申告内容は虚偽であろうと構わないと思うなどと述べており,健全な納税意識が全く見られない。

  加えて,被告人は,前記のとおり本件一連のほ脱を主導しているにもかかわらず,P1と共謀した事件について,自己は関与しておらずP1が独断で脱税を行ったなどと不合理な弁解に終始しており,その供述態度からは,被告人に本件全体に対する反省の態度があるとは到底認められない。

第3 判示第7の1,第8の2各事実に関する事情について

1 判示第7の1の滞納処分免脱について

  被告人は,N1と共謀して,前記のようにL1のほ脱を行うだけでなく,N1がL1から受け取っていた役員報酬の存在を隠ぺいする旨も共謀し,L1とN1が無関係であるよう装うべく,国税徴収官に対する虚偽答弁の内容を,N1らL1関係者に詳細に指導している。

  N1が役員報酬を得ていた期間は4年弱もの長期にわたっており,また,隠ぺいした役員報酬額は合計4600万円にも上っている。

2 判示第8の2(1)の虚偽答弁等及び第8の2(2)の贈賄について

  被告人は,前記のとおり,Q1の代表取締役であるR1と共謀してQ1のほ脱を行うのみならず,R1の個人経営時代並びにQ1の1期目及び2期目の追徴税の支払を抑えることなどを目的に,事前の打合せや,SDカードの準備等を周到に行った上で,税務調査における虚偽答弁等も共謀して行っている。

  被告人は,Q1に対する税務調査の立会報酬及び支度金として,合計450万円を受領し,その利益に与っている。

  また,被告人は,計画通りに税務調査を進めるため,国税調査官であるS1を犯行に引き込んだ上,S1に対して,その協力の対価として120万円の現金を供与しており,税務行政の公正及びそれに対する社会一般の信頼を著しく害している。

3 以上によれば,L1及びQ1の各ほ脱にかかわる前記1,2の各犯行もそれぞれ厳しく反省を求めるべき犯行といえる。

第4 判示第6の貸金業法違反,出資法違反について

  被告人は,約2年4か月もの長期間にわたり,7名に対し,合計18回,総額約1億330万円を貸し付けており,悪質な犯行である(被告人は,友人への貸付けには貸金業登録は不要と考えていた旨供述するが,被告人の手書きのメモ等からも信用性を肯定できるQ3の供述(甲592号証の検察官調書)等によれば,被告人は遅くとも平成20年1月15日頃から,貸金業登録の必要性を認識していたと認められ,被告人の供述は信用できない。)。また,被告人は,本件各貸付けに際し各借主から利息を受領するとともに,借主の一人からは出資法違反となる高額な利息を受領して,利益を図っていたと認められ,悪質性は高い(被告人は,出資法違反の分を除き,利息の受領を否定する。しかし,各借主は,被告人に対し利息を支払った旨供述し,被告人作成の返済一覧表や利息等計算メモには,被告人が,本件各貸付けに際し利息を定め,実際に受領した旨の記載があるから,各借主の供述には客観的裏付けがあり,各借主の供述は信用できる。)。被告人が結果として元利金を回収できなかったとしても,そのことは被告人に有利に酌むべき事情とはいえない。

第5 結論

  以上のとおり,被告人のほ脱にかかる犯行態様の悪質さや被告人の果たした役割の重要性,関与件数の多さ,ほ脱額等に照らせば,本件ほ脱は,ほ脱犯の中でも非常に悪質な部類に属する事案であるといえ,被告人が前記のとおり本件一連のほ脱により多額の利益を受けていること,被告人には,ほ脱犯以外にも複数の罪の成立が認められることなどを考慮すれば,被告人が本件後税理士登録を抹消していることなどの事情を踏まえても,被告人の刑事責任は相当重いといえる。このような申告納税制度の根幹を揺るがしかねない犯行に及んだ被告人に対しては,平成22年度税制改正における法定刑引上げの趣旨をも踏まえれば,相当程度長期の実刑をもって臨むことが必要であり,不法収益の獲得を目的とする犯罪が経済的に引き合わないことを示すだけの,被告人の責任に応じた罰金を併科することが相当である。

  よって,主文のとおり,判決する。

(求刑 懲役8年及び罰金1億円)

  平成28年3月28日

    大阪地方裁判所第12刑事部

        裁判長裁判官  遠藤邦彦

           裁判官  國分 進

           裁判官  吉川 慶