確定申告(15)

 

 

 

 

 Q 不動産の譲渡による収入金額についての裁決事例を検討します。

 

 

 

 

 

 他の相続人らに支払われた金員は代償債務の支払であり、請求人の譲渡収入金額から控除することはできないとした事例(平成2年分所得税/棄却)

 

 

 

 

(1) 請求人の主張

 

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

 

 

イ 本件更正処分について

 

(イ) 請求人は、平成元年2月7日に夫A(以下「被相続人」という。)が死亡したことにより、他の共同相続人B、C、D、E及びF(これらの共同相続人5名を以下「他の相続人ら」といい、請求人と併せて「請求人ら」という。)とともに、平成2年4月30日付「故A殿遺産分割協議書」(以下「本件遺産分割協議書」という。)及び平成2年7月30日付「遺産分割協議書変更同意書」(以下、本件遺産分割協議書と併せて「本件遺産分割協議書等」という。)を作成し、被相続人の財産をそれぞれ相続した。

 

(ロ) 請求人らは、平成2年8月10日に相続財産のうち次表の土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)を254,200,000円(以下「本件譲渡代金」という。)で譲渡した。

  請求人らは、本件遺産分割協議書等に基づき、本件譲渡代金を分配することとし、請求人がその25分の15に相当する152,520,000円から他の相続人らに支払った合計25,000,000円(以下「本件調整金」という。)を差し引いた127,520,000円を、また、他の相続人らは各25分の2に相当する20,336,000円のほか、本件調整金の5分の1に相当する5,000,000円をそれぞれ受け取った。

 

(ハ)本件譲渡代金のうち、本件調整金は他の相続人らが取得し、請求人は取得していないのであるから、本件調整金は、換価分割により他の相続人らが相続したとみるべきであるところ、原処分庁は、請求人が本件調整金を代償分割により他の相続人らに支払ったものと認定しており、事実を誤認している。

  したがって、本件譲渡代金のうち請求人の譲渡収入金額は、平成2年分所得税の確定申告書に記載したとおり127,520,000円であり、分離長期譲渡所得の金額は112,134,981円である。

 

ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

 

 

 

 

 

 

 本件審査請求の争点は、本件譲渡代金から支払われた本件調整金が、換価分割に伴う支払か、あるいは代償債務の支払であるかにあるので、以下審理する。

 

 

(1) 本件更正処分について

 

 

イ 次の事実については、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。

 

(イ) 平成元年2月7日に、被相続人の死亡に伴い相続が開始したこと。

 

(ロ) 請求人らは、本件遺産分割協議書等を作成しており、その内容の要旨は次のとおりであること。

 

A 被相続人の遺産は、請求人が4分の3を、他の相続人らが各20分の1を相続することを基本とする。

 

B 本件土地は、請求人が25分の15を、他の相続人らが各25分の2をそれぞれ相続する。

 

C 他の相続人らは、同人らの相続分と実際に相続する土地の面積の差による価額などを調整するため各5,000,000円をそれぞれ相続する。

 

D 本件土地建物を総額254,200,000円(1坪当たり1,800,000円)で譲渡する。

 

  なお、他の相続人らが受け取る上記Cの金員各5,000,000円は、この譲渡代金254,200,000円のうちの請求人の持分に相当する譲渡代金から支出される。

 

E 被相続人のその他の財産は、請求人が相続する。

 

 

 

ロ 当審判所に対する請求人の答述及び当審判所が、原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。

 

(イ) 本件土地は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人には25分の15、他の相続人らには各25分の2が、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人らからGらにそれぞれ所有権の移転登記がされていること。

 

(ロ) 本件建物は、平成元年2月7日の相続を原因として平成2年8月31日付で被相続人から請求人に、更に、平成2年8月10日の売買を原因として同年9月12日付で請求人からGに所有権の移転登記がされていること。

 

(ハ) 請求人らは、遺産分割協議が成立したとして、平成2年12月15日に原処分庁に対して次のことを前提とした相続税の修正申告書を提出していること。

 

A 請求人は、他の相続人らの本件土地の持分の合計25分の10以外の被相続人の遺産のすべてを単独で相続し、代償債務として他の相続人らに本件調整金を支払う。

 

B 他の相続人らは、本件土地の持分各25分の2を相続するほか代償財産として各5,000,000円をそれぞれ取得する。

 

(ニ) 請求人らは、平成2年8月10日付で本件土地建物をGらに対し254,200,000円で譲渡する旨の売買契約を締結していること。

 

(ホ) 他の相続人らの平成2年分所得税の確定申告の内容は、次のとおりであること。

 

A 他の相続人らは、それぞれ法定申告期限までにそれぞれの納税地の税務署長に本件土地建物の譲渡に係る分離長期譲渡所得の確定申告書を提出している。

 

B 他の相続人らは、譲渡収入金額を254,200,000円の各25分の2の20,336,000円であるとして申告し、請求人から支払われた本件調整金各5,000,000円を譲渡収入金額に含めていない。

 

(ヘ) 他の相続人らのうち、Fは、請求人の長女で、請求人と同居しており、申告の時には未成年者であったこと。

 

(ト) Fの平成2年分所得税の確定申告書には、請求人が親権者として記載されており、同人が申告書の控えも保管していること。

 

 

 

ハ ところで、代償分割とは、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人の中の一人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる遺産の分割方法である。

  これに対して、換価分割とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、まずこれを未分割の状態で換価し、その対価として得られる金員を共同相続人間で分割する方法である。

 

ニ このことを前記イ及びロの各事実に照らして判断すると、

 

1請求人は、相続税の修正申告において、本件調整金を他の相続人らに支払う代償分割に基づく債務として、請求人の相続財産の価額から控除して相続税の課税価格を計算していること、

 

2他の相続人らは、平成2年分所得税の確定申告において、本件調整金が換価分割の方法によるものであるならば、当該金員を譲渡収入金額に含めて確定申告すべきであるところ、当該金員を譲渡収入金額に含めないで確定申告していること、

 

3請求人が確定申告書の作成に関与し、その内容も当然熟知していると思われるFも2と同様の申告をしていること、

 

4本件遺産分割協議書等を検討すると、前記イの(ロ)のCのとおり本件調整金は、他の相続人らが相続する旨記載されているものの、前記イの(ロ)のBのとおり本件土地について各相続人の持分が定められている上で、別途、他の相続人らは、調整金として各5,000,000円を相続することとなっていること

 

及び前記イの(ロ)のDのなお書きのとおり本件調整金は、

 

本件譲渡代金のうちの請求人の持分に相当する分から支払うこととなっていること、

 

また、前記イの(ロ)のEのとおり被相続人のその他の財産の全部を請求人が相続することとなっていることからみれば、

 

本件調整金は、本件土地以外の全財産を相続した請求人から他の相続人らへの代償分割による代償債務のための支払と認めるべきであり、請求人は、遺産の代償分割により負担した債務である本件調整金を支払うために、本件土地建物の譲渡代金の一部をこの支払に充てたものと認定するのが相当である。

  以上のことから、本件調整金相当額を譲渡収入金額から控除できないとした原処分庁の判断は相当である。

 

 

ホ 分離長期譲渡所得の金額

 

(イ) 譲渡収入金額

  請求人は、譲渡収入金額を本件土地建物の譲渡代金254,200,000円に請求人の持分25分の15を乗じた152,520,000円から他の相続人らに支払った25,000,000円を控除した127,520,000円である旨主張するが、前記ニで述べたとおり、本件調整金は、代償分割に伴う代償債務の支払であるから、請求人の持分に係る本件土地建物の譲渡収入金額から控除することはできない。

  したがって、請求人の譲渡収入金額は152,520,000円となる。

 

(ロ) 取得費の額

  原処分庁は、本件土地建物の取得費の額を概算取得費の額7,626,000円及び取得費の額に加算される相続税額1,653,993円の合計額9,279,993円であると認定しているが、当審判所が調査したところ、概算取得費の額は原処分庁の認定した金額と同額となるが、取得費の額に加算される相続税額は原処分庁の計算に誤りが認められ、これを補正して計算すると1,720,777円となる。

  したがって、本件土地建物の取得費の額は、概算取得費の額7,626,000円と取得費の額に加算される相続税の額1,720,777円の合計額9,346,777円となる。

 

(ハ) 譲渡に要した費用の額

  原処分庁は、本件土地建物の譲渡に要した費用の額を5,517,019円であると認定しているので、当審判所が原処分関係資料を調査したところ、当該費用の額には平成2年9月12日付で司法書士Iに対して支払われた登記関係費用342,900円(総額571,500円に請求人の持分25分の15を乗じた金額)が含まれているが、当該費用は相続による所有権の移転登記に係る費用及び抵当権の抹消に係る費用であって、本件土地建物を譲渡するために要した費用には当たらないと解される。

  したがって、当該金員342,900円を除いて計算すると本件土地建物の譲渡に要した費用の額は5,174,119円となる。

 

(ニ) 分離長期譲渡所得の特別控除額

  分離長期譲渡所得の特別控除額が1,000,000円であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。

 

(ホ) 分離長期譲渡所得の金額

  以上の結果、請求人の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、この金額は、本件更正処分に係る分離長期譲渡所得の金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

 

 

 

 

 

 

 

 

(平6.3.23、裁決事例集No.47 126頁)