確定申告(10)

 

 

 

 

 

 

 Q 医療法人の理事長です。私の所有する建物が生活に通常必要でない資産に該当するかどうかはどのように

  判断されますか?

 

 

 

 

 

 

 前提事実

 

 請求人は、平成元年11月13日に、P市Q1番地10のK株式会社(以下「K社」という。)から、R県S郡T町117番24所在のホテルL(以下「本件ホテル」という。)1171号室(以下「本件建物」という。)を取得し、これをK社に賃貸し、この賃貸に係る不動産所得の金額の計算上生じた平成9年分、同10年分及び同11年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の損失の金額(以下「本件損失金額」という。)を、青色の確定申告書に次表2のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

 

 

 

 

 

 

 

イ 本件建物

 

 

(イ)ところで、所得税法第62条第1項及び同法施行令第178条第1項第2号の規定によれば、生活に通常必要でない不動産とは、「通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は観賞の目的で所有する不動産」と規定されているところ、同号に規定する家屋とは、特定の時期又は期間に限り個人の趣味、娯楽又は保養の目的で臨時的に利用するいわゆる別荘その他の家屋と解される。

 

  そして、当該家屋が主として保養等の目的で所有するものであるか否かは、その不動産の性質及び状況、所有者がその不動産を取得するに至った経緯、その不動産により所有者が受け又は受けることができた利益及び所有者が負担した支出ないし負担の性質、内容、程度等の諸般の事情を総合的に勘案し、所有者の主観的な意思によることなく、客観的にその主たる所有目的を判断するのが相当である。

 

 

(ロ)これを、本件建物についてみると、次のとおりである。

 

A 本件建物は、上記(1)のロのとおり、著名なリゾート地に所在し、上記1の(3)のハのとおり専有部分には家具及び備品が備え付けられ、ホテル用として充実した設備を有しており、オーナーが別荘等と同様に保養等の用に供し得る性質のものであると認められる。

 

B 本件分譲案内書が、本件ホテルを分譲する際に顧客に配布されたものであることからすれば、請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、本件建物を貸し付けることによって賃貸料収入が得られるほかに、本件ホテルの利用上のメリットがあること及び合理的な節税対策になることを前提に、本件建物を取得したものと認めるのが相当である。

 

C 請求人は、上記1の(3)のホの(ハ)及び1の(3)のヘのとおり、オーナーズルームを無料で何回でも利用することができるほか、本件ホテル及びホテルN内の各種スポーツ施設及び本件関連施設を特別割引料金、会員料金あるいは無料で利用することができるなどの利用上の利益があり、請求人による本件建物の利用に際しては何らの制限も存しないと認められることから、請求人は、実質的に本件建物を一般客に優先して利用することができるとみるのが相当である。

 

D 請求人は、上記1の(3)のホの(ロ)のとおり、K社に対して本件建物の管理を委託し、更に上記1の(2)の表1のとおり本件賃貸料の額をはるかに超える管理費を各年分とも支払っていることからすると、請求人及び請求人が指定する者が保養等のために本件建物を利用したとみるのが自然であり、請求人主張の管理目的といったものは従たるものと判断するのが相当である。

 

E 請求人が得られる賃貸料は、上記1の(3)のホの(ハ)のCの賃借料の算式によれば、請求人が本件建物を年間を通じてK社に賃貸しているにもかかわらず、一般客の客室利用があったときだけ算定の基礎に含まれるもので、その場合でも、オーナーが所有する同タイプの客室全体の利用頻度に左右されることになっており、不安定かつ偶発的なものである。

 

  しかも、そのうち5割に相当する金額は無条件でK社に帰属するものであり、そのうえ、オーナーの本件建物の利用回数が多くなれば賃貸料が逓減する仕組みともなっている。

 

  さらには、上記1の(3)のヘの(ロ)のFのとおり、本件建物を賃貸することにより合理的な節税対策にもなることが、本件分譲案内書にうたわれていることからすると、請求人は、本件建物の取得当初から賃貸による損失が生じることを想定していたとみるのが相当である。

 

F 本件賃貸料の額は、上記1の(2)の表1のとおり請求人が負担した必要経費の額の2割程度の金額であり、この金額は、請求人が負担した管理費の額にも達しておらず、各年分とも大きな損失が生じており、経済的に見て不合理であると認められる。

 

  さらに、本件建物の貸付けによる賃貸料収入は、本件建物の利用による利益の享受と比較して副次的なものとみざるを得ず、本件建物を賃貸しているのは、単に、本件建物の管理費等の負担の軽減を図るために過ぎないものと判断するのが相当である。

 

 

  以上のことから、本件建物の性質及び状況等の諸般の事情を総合的に勘案し、客観的にみれば、請求人は、本件建物を主として保養等の目的で所有していたものと認めるのが相当であり、本件建物は、生活に通常必要でない不動産に該当すると判断される。

  したがって、請求人の主張は採用することができない。

 

 

ロ 損益通算

 

 (イ)所得税法第69条第1項の規定によれば、総所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨、また、同条第2項によれば、同条第1項の場合において生活に通常必要でない不動産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。

 

  この規定の趣旨は、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額についてまで損益通算により担税力を減殺させる必要がないからであると考えられる。もっとも、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額でも、同一の所得内では相殺できるものと解されるが、これは損益通算の問題ではないことから当然のことである。

 

(ロ)これを本件についてみると、本件建物は、上記イで判断したとおり、生活に通常必要でない不動産に該当するから、本件損失金額は、所得税法第69条第1項の規定は適用されず、同条第2項の規定により本件損失金額は生じなかったものとみなされるから他の各種所得との間で損益通算が認められないと判断される。

 

  なお、本件についてみると、本件損失金額は他の物件の貸付けに係る不動産所得の金額から控除することができることから、控除しきれなかった損失の金額が同条第2項の規定により生じなかったものとみなされることになる。

 

  以上の結果、原処分庁が、本件損失金額をそれぞれ各年分の他の各種所得の金額から控除することができないとして行った本件更正処分は適法である。

 

 

 

 

(平13.5.30裁決、裁決事例集No.61 268頁)