損害賠償請求権の益金計上時期(1)

 

 

 東京地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第496号、判決 平成20年2月15日、判例タイムズ1282号103頁

 

 

 

 

【判示事項】

 

1 不法行為による損害賠償請求権を法人の収益として計上すべき事業年度

      

2 従業員の詐欺行為により当該従業員に対して法人が取得することとなる損害賠償請求権の益金計上時期が法律上当該請求権の発生した事業年度ではなく法人が損害及び加害者を知った時期の属する事業年度であるとされた事例

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

一 浦和税務署長が原告に対し平成一六年一〇月一九日付けでした原告の平成一二年一〇月一日から平成一三年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分のうち納付すべき税額一〇五五万八四〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

 

二 浦和税務署長が原告に対し平成一六年一〇月一九日付けでした原告の平成一四年一〇月一日から平成一五年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分(ただし、平成一七年四月一四日付けの更正処分により減額された後のもの)のうち納付すべき税額一一七九万九〇〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分(ただし、平成一七年四月一四日付けの賦課決定処分により減額された後のもの)を取り消す。

 

三 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第一 請求

 主文と同旨

 

 

第二 事案の概要

 本件は、原告が、法人税の確定申告をしたところ、所轄税務署長が、外注費の架空計上を理由として、法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたことから、原告が、外注費の架空計上は原告の従業員の詐欺行為によるものであり、原告は当該詐欺行為によって架空外注費に相当する金額の損失を受けており、また同従業員に対する損害賠償請求権は回収が困難なこと等から益金の額に算入すべきでないと主張して、更正処分については確定申告に係る金額を超える部分の取消しを、賦課決定処分についてはその金額全部の取消しを、それぞれ求めた事案である。

 

一 前提となる事実(当事者間に争いがない。)

 

(1) 原告は、昭和五一年八月に設立された、ビル総合清掃業務及び建物等の警備保安業務等を営む法人であり、毎年一〇月一日から翌年九月三〇日までの期間を事業年度としている(以下、原告の事業年度を指すときは、当該事業年度終了の日の属する年月を付して「平成九年九月期」等という。)。

 

(2) 浦和税務署長が、平成一六年四月一四日、原告に対する税務調査を開始したところ、調査の過程で、平成九年九月期から平成一五年九月期までの各事業年度における架空外注費の損金計上が判明した。

 原告は、上記の架空外注費の損金計上は、原告の経理部長であった丙川松夫(以下「丙川」という。)の詐欺行為によるものであるとして、平成一六年五月一三日、丙川を懲戒解雇するとともに、同年七月三〇日、丙川を詐欺罪等で告訴した。丙川は、同年一一月二五日、詐欺罪で起訴され、平成一七年六月八日、懲役四年の実刑判決を受けた(同判決は、丙川が控訴することなく確定した。)。

 また、原告は、平成一六年九月七日、丙川に対する損害賠償請求訴訟を提起し、裁判所は、同年一〇月二七日、丙川に、原告に対して一億八八一五万〇四七五円の支払を命じる判決を言い渡した(同判決は、丙川が控訴することなく確定した。)。

 

(3) 丙川は、平成九年四月に原告の経理課長として採用され、その後平成一一年五月に経理部長に昇進するなど、経理の要職を任されていた。丙川は、原告の経理業務の一環として原告の外注費の支出書類の作成及びその支払手続業務を行っていたが、その業務の一般的な手続は、以下のとおりであった。

 

ア 原告の各外注先から外注取引に係る請求書が原告に送付されると、原告の営業部においてその内容を確認した後、丙川に同請求書を回付する。

 

イ 丙川又はその部下職員が、上記アの請求書の金額及び支払内容を支払明細表に記載する。なお、同部下職員が同明細表を記載する場合であっても、丙川が責任者として同明細表の記載内容を確認する。

 

ウ 外注費の支払金額を原告の取引銀行から引き出して各外注先の金融機関口座に振り込むため、丙川が、支払明細表に基づき、各外注先の金融機関口座を振込先とする振込依頼書を作成するとともに、原告の取引銀行の払戻請求書に外注費の総額を記載する。

 

エ 丙川は、振込依頼書、払戻請求書及び振込依頼書の枚数と外注費の合計額を記載したメモを、原告の専務取締役に示した上で、同専務取締役が保管する原告名義の普通預金口座の届出印により、同専務取締役から払戻請求書に押印を受ける。

 

オ 丙川は、押印済みの払戻請求書と振込依頼書を原告の取引銀行に持ち込み、原告名義の普通預金口座から各外注先の金融機関口座に対する振込みを依頼する。

 

カ 原告の会計を担当していた税理士事務所が、丙川が作成した支払明細表に基づき、原告の外注費に係る総勘定元帳を作成する。

 

(4) 丙川は、平成九年から平成一六年までの間、上記(3)の手続の中で、以下の方法で架空外注費の計上に係る会計処理を行い、原告の金員を詐取した(以下「本件詐取行為」という。)。

 

ア 丙川は、正規の振込依頼書とは別に、丙川が管理する他人名義の銀行普通預金口座を振込先とする振込依頼書を作成する。

 

イ 丙川は、正規の振込依頼書の金額の合計額に、上記アの振込依頼書の金額を上乗せした金額を、払戻請求書の払戻額の欄及び上記(3)エのメモにそれぞれ記載した上で、正規の振込依頼書(上記アの振込依頼書を除く。)と併せて原告の専務取締役に提示し、払戻請求書に同専務取締役の押印を受ける。

 

ウ 丙川は、払戻請求書及び正規の振込依頼書と併せて、上記アの振込依頼書を原告の取引銀行に提出し、上記アの振込依頼書の金額を、自己の管理する上記アの銀行口座に振り込ませる。

 

エ 丙川は、上記ウの振込手続の後、支払明細表にあらかじめ印刷されている任意の外注先の業務内容の欄に、架空の業務内容及び上記アの振込依頼書の振込金額を記載する。

 

オ 上記エの処理に基づき、原告の税理士事務所が、支払明細表に記載された上記エの金額を外注費と消費税に区分した上で、原告の総勘定元帳を作成する。

 

(5) 浦和税務署長は、税務調査で判明した外注費の架空計上等を理由として、平成一六年一〇月一九日付けで、原告の平成九年九月期から平成一五年九月期まで(平成一一年九月期を除く。)の六事業年度について、法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

 原告は、浦和税務署長に対し、丙川による粉飾行為(売上の架空計上)を主張して、平成一六年一一月三〇日、更正の請求をするとともに、同年一二月一七日、上記の更正処分及び賦課決定処分を不服として、異議申立てをした。浦和税務署長は、平成一七年三月一七日付けで、原告の異議申立てを棄却したが、他方で、売上の過大計上額を認定し、同年四月一四日付けで、平成一四年九月期について原告の申告額を下回る更正処分をし、平成一五年九月期について税額を一部減額する更正処分及び賦課決定処分をした。

 原告は、上記の異議棄却決定を不服として、平成一七年四月一五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。国税不服審判所長は、平成一八年三月二三日付けで、職権更正の除斥期間経過を理由に、平成九年九月期、平成一〇年九月期及び平成一二年九月期の更正処分及び賦課決定処分の全部を取り消したが、平成一四年九月期の更正処分及び賦課決定処分については、平成一七年四月一四日付けで取り消されているとして、原告の審査請求を却下し、平成一三年九月期及び平成一五年九月期の更正処分及び賦課決定処分については、いずれも適法であるとして、原告の審査請求を棄却した。

 

(6) 原告が本件訴訟において取消しを求める処分は、平成一三年九月期及び平成一五年九月期(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の各法人税の更正処分(ただし、平成一五年九月期については、平成一七年四月一四日付けの更正処分により減額された後のもの)(以下、これらを併せて「本件各更正処分」という。)のうちそれぞれ原告の申告額を超える部分及び各重加算税の賦課決定処分(ただし、平成一五年九月期については、平成一七年四月一四日付けの賦課決定処分により減額された後のもの)(以下、これらを併せて「本件各賦課決定処分」という。)の全部であり、本件各事業年度の法人税に係る確定申告等の経緯は、それぞれ別表一-一及び一-二記載のとおりである。

 

 

 

二 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の適法性に関する被告の主張

 

(1) 被告は、原告の本件各事業年度の法人税の納付すべき税額は、別表二-一及び二-二記載のとおり(平成一三年九月期が一八八二万四〇〇〇円、平成一五年九月期が一五三六万三一〇〇円)であるところ、これらの金額は、本件各更正処分の納付すべき税額(平成一三年九月期が一六九六万九四〇〇円、平成一五年九月期が一三〇一万二二〇〇円)をいずれも上回るから、本件各更正処分はいずれも適法であると主張する。

 

(2) また、被告は、原告は本件各事業年度の法人税について、納付すべき税額を過少に申告し、そのことについて国税通則法六五条四項の正当な理由は存在せず、さらに、原告は、架空の外注費を計上し、本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出していたことから、同法六八条一項により、過少申告加算税に代え、重加算税が課されることになるところ、同項の規定に基づき、本件各更正処分によって新たに納付することとなった税額(ただし、同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した重加算税の額は、平成一三年九月期が二二四万三五〇〇円、平成一五年九月期が四二万三五〇〇円であり、いずれも本件各賦課決定処分における重加算税の額と同額であるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法であると主張する。

 

 

三 争点及び当事者の主張

 原告の本件各事業年度の法人税の計算上、本件詐取行為による損害の額を損金の額に算入すべきこと(別表二-一の順号⑦、同二-二の順号⑧)と、当該損害の額に対応する外注費の架空計上額を損金の額から控除すべきこと(同各別表の順号②)は、当事者間に争いがなく、争点となっているのは、本件詐取行為によって原告が丙川に対して取得することとなる損害賠償請求権の額(同各別表の順号③)を、本件各事業年度の益金の額に算入すべきか否かである。

 

(1) 原告の主張

 益金に算入すべき収益の発生如何は、その権利の性質、内容、権利発生の具体的事情等に基づき、経済的実質的観点から納税者に担税力の増加があったといえるか否かによって判断されるべきであるところ、犯罪者に対する損害賠償請求権は、①加害者がその額等について争う場合が多く、②加害者の無資力により回収可能性が類型的に極めて低く、③その犯罪行為が発覚するまでの間、法人が権利を行使し現実に損失を回復させることを到底見込めないものであるから、当該事業年度において、加害者が損害額について争わずに債務を承認し、かつ、十分な資力を有しているなどの特段の事由がない限り、これを益金に計上すべきではない。

 原告は、本件各事業年度においては、本件詐取行為の存在を知らず、また、客観的にみても、丙川が多額の債務を負担する一方でその有する資産はわずかなものであったことからすれば、たとえ、原告が、本件各事業年度において、丙川に対する損害賠償請求権を行使したとしても、せいぜい平成九年に被った詐欺被害の極く一部を回収できたにすぎず、本件各事業年度で被った損失を回収することは不可能であったから、丙川に対する損害賠償請求権の額を、本件各事業年度の益金の額に算入することは許されないというべきである。

 

(2) 被告の主張

 詐取行為により損害を被った法人は、損害発生と同時に、かつ、法律上当然に加害者に対する損害額と同額の損害賠償請求権を取得するのであるから、同損害賠償請求権の同一事業年度中の実現が事実上不可能であると客観的に認められない限りは、同損害賠償請求権を、当該法人の資産を増加させたものとして、同法人の法人税の計算上、損害を生じた事業年度と同じ事業年度の益金に含めるべきである(最高裁昭和四三年一〇月一七日第一小法廷判決・裁判集民事九二号六〇七頁参照)。

 

 本件についてみると、損害が発生した本件各事業年度当時において、丙川が一定の預金や資産を有し、給与収入を得、他の債務を継続して返済していたことなどからすると、本件各事業年度内に丙川に対する損害賠償請求権を実現することが事実上不可能であったと客観的に認めることができないことは明らかであるから、損害の発生と同時に原告が取得した損害賠償請求権の額は、原告の法人税の計算上、本件詐取行為があった各事業年度の益金の額に算入されることになるというべきである。

 

 

 

 

第三 当裁判所の判断

 

一 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされ(二二条二項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条四項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定した時の属する事業年度の益金に計上すべきものと考えられる(最高裁平成五年一一月二五日第一小法廷判決・民集四七巻九号五二七八頁参照)。

 

 

 

 もっとも、企業会計における収益認識の基本原則とされている実現原則、すなわち財貨やサービスが実際に市場で取引されたときに収益があったと認識する原則は、収益計上の確実性及び客観性を確保するための原則であるとされており(甲六)、また、法人税に係る所得の金額の計算上益金の額に算入すべき収益の額は、そこから生じる経済的利益に担税力があること、すなわち、当該利益に現実的な処分可能性のあることが必要であると考えられることからすると、収益に係る権利の確定時期に関する会計処理を、純粋に法律的視点から、どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないと考えるのは相当ではなく、現実的な処分可能性のある経済的利益を取得することが客観的かつ確実なものとなったかどうかという観点を加えて、権利の確定時期を判定することが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものというべきである。

 

 

 そして、一般に、詐欺等の犯罪行為によって法人の被った損害の賠償請求権についても、その法人の有する通常の金銭債権と同様に、その権利が確定した時の属する事業年度の益金に計上すべきものと考えられるが、不法行為による損害賠償請求権の場合には、その不法行為時に客観的には権利が発生するとしても、不法行為が秘密裏に行われた場合などには被害者側が損害発生や加害者を知らないことが多く、被害者側が損害発生や加害者を知らなければ、権利が発生していてもこれを直ちに行使することは事実上不可能である。

 

 

この点、民法上、一般の債権の消滅時効の起算点を、権利を行使することができる時としている(一六六条一項)のに対し、不法行為による損害賠償請求権については、これを、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時としている(七二四条)のも、上記のような不法行為による損害賠償請求権の特殊性を考慮したものと解される。

 

このように、権利が法律上発生していても、その行使が事実上不可能であれば、これによって現実的な処分可能性のある経済的利益を客観的かつ確実に取得したとはいえないから、不法行為による損害賠償請求権は、その行使が事実上可能となった時、すなわち、被害者である法人(具体的には当該法人の代表機関)が損害及び加害者を知った時に、権利が確定したものとして、その時期の属する事業年度の益金に計上すべきものと解するのが相当である(最高裁平成四年一〇月二九日第一小法廷判決・裁判集民事一六六号五二五頁参照)。

 

 

 なお、被告の援用する最高裁昭和四三年一〇月一七日第一小法廷判決の理由中には、横領行為によって法人の被った損害が、その法人の資産を減少せしめたものとして、その損害を生じた事業年度における損金を構成することは明らかであり、

 

他面、横領者に対して法人がその被った損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得するものである以上、それが法人の資産を増加させたものとして、同じ事業年度における益金を構成するものであることも疑いない旨を判示した部分があるが、

 

この判示は、法人の代表者による横領行為によって当該法人が被った損害の賠償請求権の益金計上時期が争点となった事案についての判断であり、法人の代表者自身が横領行為を行った場合には、被害者である法人が損害の発生と同時に損害及び加害者を知ったものと評価することができ、これにより損害賠償請求権が確定したものとして、これを当該損害の発生と同じ事業年度の益金に計上すべきこととなるから、当裁判所の上記判断は、上記最高裁判決の判断と何ら相反するものではない。

 

 

二 これを本件についてみると、前判示の事実によれば、原告は、平成九年から平成一六年までの間、丙川による本件詐取行為によって金員を詐取され続け、浦和税務署長が平成一六年四月に開始した税務調査を契機として初めてこれが発覚したものであり、原告が本件詐取行為を理由として、丙川を懲戒解雇としたのが同年五月、詐欺罪等で告訴したのが同年七月、損害賠償請求訴訟を提起したのが同年九月であったというのであるから、原告は、本件各事業年度においては、いまだ本件詐取行為による損害及び加害者を知らず、原告がこれを知ったのは、平成一六年九月期であったことが認められる。

 

 したがって、本件詐取行為によって原告が丙川に対して取得することとなる損害賠償請求権の額は、本件各事業年度の益金の額に算入すべきものではなく、平成一六年九月期の益金の額として算入すべきものである。

 

 

三 本件各更正処分の適法性について

 

 上記二によれば、原告の本件各事業年度の法人税に係る納付すべき税額は、それぞれ以下のとおり(平成一三年九月期が一〇一七万五二〇〇円、平成一五年九月期が四九一万七七〇〇円)となり、いずれも本件各更正処分における納付すべき税額(平成一三年九月期が一六九六万九四〇〇円、平成一五年九月期が一三〇一万二二〇〇円)を下回るのみならず、原告の本件各事業年度の法人税の確定申告における納付すべき税額(平成一三年九月期が一〇五五万八四〇〇円、平成一五年九月期が一一七九万九〇〇〇円)をも下回るから、本件各更正処分のうち、当該各確定申告における納付すべき税額を超える部分は、違法なものとして取り消されるべきである。

 

(1) 平成一三年九月期(別表三-一)

 

ア 所得金額(順号⑩)三四三二万九八三一円

 上記金額は、下記(ア)の金額に下記(イ)ないし(オ)の各金額の合計額を加算し、下記(カ)及び(キ)の各金額の合計額を減算した金額である。

  

(ア) 申告所得金額(順号①)三五五八万八二〇三円

 上記金額は、原告の平成一三年九月期の法人税の確定申告書に記載された所得金額であり、当事者間に争いがない。

  

(イ) 外注費の架空計上額(順号②)二四七六万一九一一円

 上記金額は、平成一三年九月期において原告が架空に計上した外注費の金額(支払総額二六〇〇万円から仮払消費税相当額一二三万八〇八九円を控除した金額)であり、当事者間に争いがない。

  

(ウ) 雑益の益金算入額(順号③)二九円

 上記金額は、上記(イ)の仮払消費税相当額及び下記(キ)の仮受消費税相当額に基づいて未払消費税との調整を行ったところ算出される金額であり、当事者間に争いがない。

  

(エ) 交際費等の損金不算入額(順号④)           四七万五〇〇〇円

 上記金額は、原告が平成一三年九月期の損金の額に算入した外注費のうち、租税特別措置法(平成一三年法律第七号による改正前のもの)六一条の四に規定する交際費等に該当する金額であり、当事者間に争いがない。

  

(オ) 寄附金の損金不算入額(順号⑤)一万五九二八円

 上記金額は、上記(ア)の申告所得金額に比し所得金額が一二七万四三〇〇円(上記(イ)ないし(エ)の各金額の合計額と下記(カ)及び(キ)の各金額の合計額との差額)減少することに伴って増加する、寄附金の損金不算入額の金額であり、法人税法(平成一四年法律第七九号による改正前のもの。以下、(1)において同じ。)三七条二項の規定により、上記の金額一二七万四三〇〇円に法人税法施行令(平成一四年政令第一〇四号による改正前のもの。以下、(1)において同じ。)七三条一項一号ロに規定する一〇〇分の二・五及び二分の一を順次乗じて算出した金額である。

  

(カ) 本件詐取行為による損害の損金算入額(順号⑦)        二六〇〇万円

 上記金額は、平成一三年九月期の本件詐取行為による損害の額であり、当事者間に争いがない。

  

(キ) 売上金額の過大計上額(順号⑧)五一万一二四〇円

 上記金額は、税抜経理を採用している原告が、アメリカ大使館に対する売上として計上した仮受消費税相当額であり、当事者間に争いがない。

 

イ 法人税額(順号⑪)九六五万八七〇〇円

 上記金額は、法人税法六六条一項及び二項並びに経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成一四年法律第七九号による改正前のもの)一六条一項の規定により、上記アの所得金額三四三二万九〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)のうち、八〇〇万円については一〇〇分の二二の税率を、残額の二六三二万九〇〇〇円については一〇〇分の三〇の税率を、それぞれ乗じて計算した金額の合計額である。

 

ウ 課税留保金額に対する税額(順号⑫)           五四万八六〇〇円

 上記金額は、法人税法六七条の規定に基づき、以下のとおり算出した金額である。

  

(ア) 留保所得金額三二一一万二一五三円

 上記金額は、法人税法六七条二項に規定する所得等の金額のうち留保した金額であり、原告の平成一三年九月期の法人税の確定申告書に記載された留保所得金額三二六二万三三六四円(甲一の一)に、上記ア(ウ)の雑益の益金算入額二九円を加算し、同(キ)の売上金額の過大計上額五一万一二四〇円を減算した金額である。

  

(イ) 当期留保金額二〇四八万六一三七円

 上記金額は、法人税法六七条二項の規定により、上記(ア)の留保所得金額三二一一万二一五三円から、上記イの法人税額九六五万八七〇〇円から下記オの控除所得税額三万二〇三四円を控除した金額九六二万六六六六円と、上記イの法人税額九六五万八七〇〇円に法人税法施行令一四〇条に規定する一〇〇分の二〇・七を乗じて算出した金額一九九万九三五〇円の合計額を控除した後の金額である。

  

(ウ) 留保控除額  一五〇〇万円

 上記金額は、法人税法六七条三項の規定により算出した留保控除額であり、同項一号の金額(上記アの所得金額三四三二万九八三一円に一〇〇分の三五を乗じて算出した金額一二〇一万五四四〇円)、同項二号の金額(一五〇〇万円)及び同項三号の金額(積立金基準額であり、本件では零円。甲一の一)のうち最も多い金額である。

  

(エ) 課税留保金額五四八万六〇〇〇円

 上記金額は、上記(イ)の金額から上記(ウ)の金額を控除した後の金額(ただし、国税通則法一一八条一項の規定に準じて一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

  

(オ) 課税留保金額に対する税額五四万八六〇〇円

 上記金額は、上記(エ)の課税留保金額に対する税額であり、法人税法六七条一項の規定により、当該課税留保金額五四八万六〇〇〇円に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額である。

 

エ 法人税額計(順号⑬)一〇二〇万七三〇〇円

 上記金額は、上記イの法人税額九六五万八七〇〇円に上記ウの課税留保金額に対する税額五四万八六〇〇円を加算した金額である。

 

オ 控除所得税額(順号⑭)三万二〇三四円

 上記金額は、原告の平成一三年九月期の法人税の確定申告書に記載された控除所得税額であり、当事者間に争いがない。

 

カ 納付すべき法人税額(順号⑮)一〇一七万五二〇〇円

 上記金額は、原告の平成一三年九月期の法人税に係る納付すべき税額であり、上記エの法人税額計一〇二〇万七三〇〇円から、上記オの控除所得税額三万二〇三四円を差し引いた金額(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

 

(2) 平成一五年九月期(別表三-二)

 

ア 所得金額(順号⑫)一三二八万六九〇二円

 上記金額は、下記(ア)の金額に下記(イ)ないし(オ)の各金額の合計額を加算し、下記(カ)ないし(ケ)の各金額の合計額を減算した金額である。

  

(ア) 申告所得金額(順号①)三九一九万五八五九円

 上記金額は、原告の平成一五年九月期の法人税の確定申告書に記載された所得金額であり、当事者間に争いがない。

  

(イ) 外注費の架空計上額(順号②)三一一〇万円

 上記金額は、平成一五年九月期において原告が架空に計上した外注費の金額(支払総額三二六五万五〇〇〇円から仮払消費税相当額一五五万五〇〇〇円を控除した金額)であり、当事者間に争いがない。

  

(ウ) 交際費等の損金不算入額(順号③)          一二六万七五〇〇円

 上記金額は、原告が平成一五年九月期の損金の額に算入した外注費のうち、租税特別措置法(平成一五年法律第八号による改正前のもの。以下、(2)において同じ。)六一条の四に規定する交際費等に該当する金額であり、当事者間に争いがない。

  

(エ) 支払手数料の損金不算入額(順号④)               五〇万円

 上記金額は、原告が平成一五年九月期の損金の額に算入した支払手数料のうち、原告代表者の個人的な費用と認められる金額であり、当事者間に争いがない。

  

(オ) 貸倒引当金繰入限度超過額(順号⑤)           五八万一〇一〇円

 上記金額は、浦和税務署長が平成一七年四月一四日付けでした原告の平成一四年九月期の法人税の更正処分(以下「平成一四年九月期減額更正処分」という。)により減額された後の原告の売掛金の期末残高に基づき計算した貸倒引当金繰入限度額二〇一万八九九〇円と、原告が平成一五年九月期の確定申告において貸倒引当金に繰り入れた金額二六〇万円との差額であり、当事者間に争いがない。

  

(カ) 本件詐取行為による損害の損金算入額(順号⑦)    三二六五万五〇〇〇円

 上記金額は、平成一五年九月期の本件詐取行為による損害の額であり、当事者間に争いがない。

  

(キ) 寄附金の損金不算入額の減少額(順号⑧)           二六八二円

 上記金額は、上記(ア)の申告所得金額に比し所得金額が二一万四五八八円(上記(イ)ないし(オ)の各金額の合計額と上記(カ)及び下記(ク)の各金額の合計額との差額)増加することに伴って減少する、寄附金の損金不算入額の金額であり、法人税法(平成一五年法律第八号による改正前のもの。以下、(2)において同じ。)三七条三項の規定により、上記の金額二一万四五八八円に法人税法施行令(平成一五年政令第一三一号による改正前のもの。以下、(2)において同じ。)七三条一項一号ロに規定する一〇〇分の二・五及び二分の一を順次乗じて算出した金額である。

  

(ク) 貸倒引当金繰入限度超過額の認容額(順号⑨)       五七万八九二二円

 上記金額は、平成一四年九月期減額更正処分により平成一四年九月期の益金の額に算入された貸倒引当金繰入限度超過額であり、当事者間に争いがない。

  

(ケ) 繰越欠損金の当期控除額の損金算入額(順号⑩)    二六一二万〇八六三円

 上記金額は、平成一四年九月期減額更正処分により平成一五年九月期に繰り越された欠損金の当期控除額であり、当事者間に争いがない。

 

イ 法人税額(順号⑬)三三四万五八〇〇円

 上記金額は、法人税法六六条一項及び二項並びに経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成一六年法律第一四号による改正前のもの)一六条一項の規定により、上記アの所得金額一三二八万六〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)のうち、八〇〇万円については一〇〇分の二二の税率を、残額の五二八万六〇〇〇円については一〇〇分の三〇の税率を、それぞれ乗じて計算した金額の合計額である。

 

ウ 課税留保金額に対する税額(順号⑭)          一五七万九六六〇円

 上記金額は、法人税法六七条の規定に基づき、以下のとおり算出した金額である。

  

(ア) 留保所得金額三五六五万九四二〇円

 上記金額は、法人税法六七条二項に規定する所得等の金額のうち留保した金額であり、原告の平成一五年九月期の法人税の確定申告書に記載された留保所得金額三五六五万七三三二円(甲一の二)に、上記ア(オ)の貸倒引当金繰入限度超過額五八万一〇一〇円を加算し、同(ク)の貸倒引当金繰入限度超過額の認容額五七万八九二二円を減算した金額である。

  

(イ) 当期留保金額三一六二万八七三七円

 上記金額は、法人税法六七条二項の規定により、上記(ア)の留保所得金額三五六五万九四二〇円から、上記イの法人税額三三四万五八〇〇円から下記オの控除所得税額七六九七円を控除した金額三三三万八一〇三円と、上記イの法人税額三三四万五八〇〇円に法人税法施行令一四〇条に規定する一〇〇分の二〇・七を乗じて算出した金額六九万二五八〇円の合計額を控除した後の金額である。

  

(ウ) 留保控除額  一五〇〇万円

 上記金額は、法人税法六七条三項の規定により算出した留保控除額であり、同項一号の金額(上記アの所得金額一三二八万六九〇二円と上記ア(ケ)の繰越欠損金の当期控除額の損金算入額二六一二万〇八六三円との合計額三九四〇万七七六五円に一〇〇分の三五を乗じて算出した金額一三七九万二七一七円)、同項二号の金額(一五〇〇万円)及び同項三号の金額(積立金基準額であり、本件では零円。甲一の二)のうち最も多い金額である。

  

(エ) 課税留保金額一六六二万八〇〇〇円

 上記金額は、上記(イ)の金額から上記(ウ)の金額を控除した後の金額(ただし、国税通則法一一八条一項の規定に準じて一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

  

(オ) 課税留保金額に対する税額一五七万九六六〇円

 上記金額は、上記(エ)の課税留保金額に対する税額であり、法人税法六七条一項及び租税特別措置法六八条の二第二項の規定により、当該課税留保金額一六六二万八〇〇〇円に一〇〇分の一〇を乗じた金額に、さらに一〇〇分の九五を乗じて計算した金額である。

 

エ 法人税額計(順号⑮)四九二万五四六〇円

 上記金額は、上記イの法人税額三三四万五八〇〇円に上記ウの課税留保金額に対する税額一五七万九六六〇円を加算した金額である。

 

オ 控除所得税額(順号⑯)七六九七円

 上記金額は、原告の平成一五年九月期の法人税の確定申告書に記載された控除所得税額であり、当事者間に争いがない。

 

カ 納付すべき法人税額(順号⑰)四九一万七七〇〇円

 上記金額は、原告の平成一五年九月期の法人税に係る納付すべき税額であり、上記エの法人税額計四九二万五四六〇円から、上記オの控除所得税額七六九七円を差し引いた金額(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

 

四 本件各賦課決定処分の適法性について

 上記三のとおり、原告の本件各事業年度の法人税に係る納付すべき税額は、いずれも原告の本件各事業年度の法人税の確定申告における納付すべき税額を下回るから、原告は、本件各事業年度の法人税について、納付すべき税額を過少に申告したことにならない。したがって、本件各賦課決定処分もまた、違法なものとして取り消されるべきである。

 

第四 結論

 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 定塚 誠 裁判官 古田孝夫 工藤哲郎)

 

 別表一-一 平成一三年九月期の法人税に係る確定申告等の経緯《略》

 別表一-二 平成一五年九月期の法人税に係る確定申告等の経緯《略》

 別表二-一 平成一三年九月期の被告主張額《略》

 別表二-二 平成一五年九月期の被告主張額《略》

 別表三-一 平成一三年九月期の法人税額等《略》

 別表三-二 平成一五年九月期の法人税額等《略》