ゴルフ会員権の譲渡損失(2)

 

 

 所得税更正処分等取消請求控訴事件、名古屋高等裁判所判決/平成17年(行コ)第48号、判決 平成17年12月21日、税務訴訟資料255号順号10249について検討します。

 

 

 

      

 

【判決要旨】

 

(1) 所得税法33条1項(譲渡所得)は、「譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう」と規定し、資産の譲渡によって生じた所得についても、これを譲渡所得として所得税の課税の対象とすることを明らかにしている。そして、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解される(最高裁判所昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁)。このような譲渡所得に対する課税の趣旨にかんがみると、同法33条1項にいう「資産」とは、一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、資産の増加益の発生が見込まれるようなすべての資産を含むと解され、また、「譲渡」とは、有償であると無償であるとを問わず、一般に所有権その他の権利の移転を広く含むものと解される。

      

(2) 預託金会員制ゴルフ会員権の法的性質は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権及び会費納入義務等が一体となった契約上の地位であると解されるところ、会員は、これらの権利義務関係を一体のものとして、一定の手続に従い自由に第三者に譲渡することができ、ゴルフ会員権に基づく法律関係から離脱するとともに、投下資本を回収することができることとされているから、同ゴルフ会員権の第三者への譲渡が所得税法33条1項(譲渡所得)にいう資産の譲渡に該当することは明らかである。

      

(3) 預託金会員制ゴルフ会員権については、会員が、預託金返還請求権を行使する前提として、ゴルフ場経営会社に対し、ゴルフクラブを退会する旨の意思表示をすることを必要としており、かかる意思表示によって、ゴルフ場の優先的利用権やその後の会費納入義務などの権利義務関係は消滅し、ゴルフ会員権の内容としては、無利息でゴルフ場経営会社に据え置かれていた預託金の返還請求権を残すのみであると解される。したがって、ゴルフクラブからの退会に伴って預託金返還請求権を行使することは、ゴルフ場経営会社に対する金銭債権の行使にほかならないと解される。

      

(4)~(8) 省略

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

  

1 原判決を取り消す。

  

2 被控訴人が平成15年9月12日付けでした控訴人の平成14年分の所得税の更正処分のうち課税所得金額1210万9000円として計算した税額を超える部分及び過少申告加算税12万2000円の賦課決定処分を取り消す。

 

第2 事実関係

  

 事実関係は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2記載のとおりであるから、これを引用する。

 

 

1 原判決10頁12行目から25行目までを次に改める。

   

「 なお、会員権譲渡の場合と退会の場合とで差異が生じるのは、預託金制ゴルフ会員権を譲渡した場合、その法的性格は契約上の地位の譲渡と解され、経済的価値と譲渡性のある資産の譲渡として損益通算の適用がある(所得税法33条、69条1項)のに対し、退会の場合、その法的性格は金銭債権たる預託金返還請求権の行使と解され、無利子の金銭債権の行使から生じた損失を斟酌すべき所得税法上の規定はなく、家事上の支出として、所得税の計算上無視されるからである。

     

 以上のように税法上の取扱いに差異が生じる場合でも、

 

「租税法の定立については、

 

国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、

 

裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

 

そうであるとすれば、

 

租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、

 

その立法目的が正当なものであり、

 

かつ、

 

当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、

 

その合理性を否定することができず、

 

これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない」

 

とされているところ(最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)、

 

上記の場合はいずれも立法府の裁量的判断が著しく不合理なものであるとはいえないから、これが憲法14条の規定に違反するということはできない。」

  

 

 

2 同11頁7行目と8行目との間に次を加える。

   

「 このように違法な結果となるのは、退会の場合を資産である会員権の譲渡の場合と異なり単なる金銭債権の行使であるとするからであり、この点が是正されなければならない。

     

 すなわち、会員権譲渡の場合と退会の場合とを対比すると、前記(原判決の「事実及び理由」欄の第2の3(1)(原告の主張))のように、

 

譲渡の場合も退会の場合と同様に、譲渡人が退会の手続を取るのであり、退会の場合が単なる預託金返還請求権の行使であれば、

 

会員権譲渡の場合も所詮預託金返還請求権の譲渡であり、

 

いずれも預託金返還請求権を換価するものであって、

 

両者はいずれも資産として取得した会員権から投下資本を回収する方法にすぎず、

 

いずれかによって異なる扱いをすることに国民として納得ができないことから、同一に扱うべきことになる。

 

しかるところ、会員権の譲渡の場合は、預託金の額の数十倍から数十分の一まで価格差が生じうるのであり

 

(本件ゴルフクラブの会員権も平成2年当時3000万円近い値が付いたのに対し、現在は10ないし30万円が相場である。)、

 

単なる預託金返還請求権の譲渡ではないことが明らかである。

 

したがって、退会の場合も単なる金銭債権としてではなく資産として会員権譲渡の場合と同様に扱うべきである。

     

 

 以上のとおり、退会の場合を会員権譲渡の場合と異なって扱った本件各処分は、公平・公正な課税原則(憲法14条、84条)に反して違法である。」

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

  

 当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから、これを引用する。

  

1 原判決13頁11行目から23行目までを削除し、同24行目の「もっとも」を「そして」に改める。

  

2 同14頁12行目の「(雑所得の金額の計算上生じたものと解される。)」を削除する。

  

3 同17頁16行目から18頁6行目までを次のように改める。

   

「 しかし、本件取引による収益を譲渡所得と認めることができない以上、損失が生ずるとした場合でも、他の所得と損益通算できないことはやむを得ないところである。

     

そして、

 

ある所得を損益通算の対象とするか否かについては、

 

立法府が、当該所得の性格や担税力を考慮し、

 

総合課税になじむか否かを専門的、政策的に判断した上で決すべきものであるから、

 

基本的に立法裁量に属するというべきところ、

 

所得税法69条が課税公平の原則に反するものということはできない。

    

 

(2) なお、控訴人は、退会の場合について会員権譲渡の場合と異なる扱いをする理由はないと主張する(補正後の原判決の「事実及び理由」欄の第2の3(2)(原告の主張))が、

 

前記のとおり(16頁11行目から23行目まで)、両者は、単に、法的手段や法的形式が異なるに止まらず、

 

実際の手続や効果も異なるから、両者について異なる扱いをする理由はあるというべきである。

      

 

また、

 

退会の場合も会員権譲渡の場合も同じく投下資本を回収する方法に過ぎないとする点も、

 

退会の場合には、所定の預託金の額面額の支払を受けるのに対し、

 

譲渡の場合には、控訴人も主張するとおり、譲渡代金の額は上記額面額と直接関係なく大きく変動することになるから、

 

この点に鑑みても、両者を同一に扱わなければ不合理であるとはいえない。

    

 

(3) 以上のとおりであるから、退会の場合を会員権譲渡の場合と異なって扱うことが公平・公正な課税原則(憲法14条、84条)に反するとの控訴人の主張は採用できない。」

 

 

第4 結論

 

  以上のとおりであって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

    名古屋高等裁判所民事第2部

        裁判長裁判官  熊田士朗

           裁判官  多見谷寿郎

           裁判官  堀内照美