賃借人から無償取得した建物(2)

 

 

 名古屋高等裁判所判決/平成17年(行コ)第22号、判決 平成17年9月8日、税務訴訟資料255号順号10120について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

(1) 不動産取得の範囲(原審判決引用)

      

(2) 所得税法26条(不動産所得)の「貸付による所得」の意義(原審判決引用)

      

(3) 不動産所得の意義(原審判決引用)

      

(4) 課税庁が提出した書証は、実質的な陳述書に当たるにもかかわらず、作成者の証人尋問をしないことなどから、書証の申出を却下すべきとする納税者の主張が、民事訴訟においては、これをどこまで貫くかは裁判所の合理的な訴訟指揮に委ねられているというべきところ、本件事案の内容、当該各書証の作成の経緯、納税者側からも作成者の証人尋問の申請がないことなどを考慮すると、上記理由をもって当該各書証の申出を却下すべきものとはいえないとして排斥された事例(原審判決引用)

      

(5) 建物の譲渡は、土地賃貸借契約の終了に伴って、賃借人である訴外A社が負担することとなる原状回復義務としての建物収去(土地明渡)義務の履行が相当額の費用出捐を伴うことから、その負担を免れたい訴外A社の希望に沿って申し入れられたものであり、たまたま新賃借人候補となった訴外B社が、建物をそのまま借り受けたいとの意向を示したことから、訴外A社と納税者の利害関係が一致し、賃貸契約の中途解約を内容とする合意の中で、建物の無償譲受けが約されたことが明らかであるので、建物の無償譲受けは、賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益させる賃貸人の義務やこれに対する賃料等を支払う賃借人の義務とは関連せず、専ら同契約の終了に伴う原状回復義務の履行を賃借人が免れることを目的として行われたものであるから、何らかの意味で賃貸借の目的物を使用収益する対価、あるいはこれに代わるものの性質を有するものでないとされた事例(原審判決引用)

      

(6) 不動産賃貸契約の合意解約は、既存の契約を終了させる旨の新たな契約であるから、当事者間で本来の法的効果と異なる内容を定めることは何ら妨げられるものではないところ、納税者が、①訴外A社の立場を理解して申し入れに係る中途解約に応ずる意思のあることを表明していること、②建物の買取りには応じないものの、訴外A社の負担を軽減すべく、双方で新賃借人を探すことに同意していることに照らすと、納税者としては、新しい賃貸借契約が締結された場合には、その後の期間の賃料ないし賃料相当損害金の支払を求める意思がなかったと判断することができ、法的にも、その時点からは目的物である建物を訴外A社が使用収益できなくなる以上、納税者がこれらの支払を求める権利を有するものでないから、建物の無償譲受けは不動産所得に該当しないとされた事例(原審判決引用)

      

(7) 課税処分取消訴訟における課税庁の処分理由の差替えの可否(原審判決引用)

      

(8) 課税庁は、所得税課税処分においては、建物利益が不動産所得に当たる旨の理由を附記し、異議決定においても同様の理由を述べていたのに対し、本訴の審理の中途段階に至って、雑所得に当たる旨の主張を予備的に追加したものであり、このように所得区分を異にするような処分理由を追加した結果、納税者側に新たな反論をする必要を生じたことは否定できないが、両者は単に所得区分に関する税法上の評価の差異にすぎないから、納税者側に新たな事実調査を行うなどの負担をもたらしたとは考え難く、納税者に格別の不利益を与えるものとはいえないとされた事例(原審判決引用)

      

(9) 一時所得の特色(原審判決引用)

      

(10) 建物を無償で譲受けたことによる利益は、訴外B社が建物をそのまま借り受けることを申し入れたことによって、本来は訴外A社が履行すべき建物の収去が必要でなくなったため、納税者に無償譲渡された結果、もたらされたものであって、不動産賃貸業務における継続的行為によって生じた所得に当たらず、しかも、労務その他の役務の対価とか資産の譲渡の対価としての性質も有しないから、一時所得に当たるとされた事例(原審判決引用)

      

(11) 駐車場付き住宅の貸付けについての消費税の課非判定

      

(12) 集合住宅において、実質的に駐車場が住宅と一体化して貸付けられているかにより消費税の課税関係を判断すべきであること等の納税者の主張が、少なくとも、住宅の使用料とは別個に駐車場使用料が定められ、収受されている場合は、実質的にも駐車場の貸付けが住宅のそれと一体化していないことを示す重要な徴表であるなどとして排斥された事例(原審判決引用)

      

(13) ①集合住宅Aの駐車場のうち、居室数を上回る1台分については、その契約書が、駐車場1台分込みの建物賃貸借契約書とは別に作成され、これに基づく駐車場料金が集合住宅Aの入金管理表に記帳されていること、それ以外の居室の賃貸借契約書には、居室及び駐車場1台分を合算した賃料の合意が記載されていることから、住宅の貸付けと一体化して貸し付けられている場合には当たらず、②集合住宅Bは、駐車場が不要の人には駐車場を貸さないで貸室料のみでよいという入居者募集広告をしており、現に、駐車場を利用せず、駐車場使用料を支払っていない賃借人がいたこと、駐車場を利用しない賃借人がいた場合には、他の賃借人に2台分の駐車場を貸すなどの対応が可能であること、納税者と各賃借人との間の賃貸借契約書では、居室料とは別に駐車場使用料が定められていることから、駐車場の貸付けが住宅の貸付けと一体化していると認めることは困難であり、③集合住宅Cは、居室が10戸あるのに対し駐車場は5台分、集合住宅Dは居室が10戸あるのに対し、駐車場は2台分しかないことから、これらについては、入居者各戸に駐車場が割り当てられるわけではなく、その時々の駐車場の空き具合とか借受け希望者の数などの事情によって駐車場の使用状況が左右される上、駐車場を賃借している者の賃貸借契約においては、それぞれ家賃とは別に駐車料が定められており、駐車場は住宅とは別の賃貸借契約の目的物とされていると推認されることに照らせば、その駐車場の貸付けが住宅の貸付けと一体化されていると認めることはできないから、その収入は課税売上げに該当することが明らかであるとされた事例(原審判決引用)

      

(14) 建物の所有権の所在について、納税者は金融機関から借りた金員を訴外教会に貸し付け、当該教会がこれを資金として建築請負契約を締結し、教会の建物を建築したものであるから、その所有権は教会に属するとする納税者の主張が、①納税者と教会との間で「建物賃貸借契約書」が作成されており、その内容も、納税者が所有者であることを前提としていることが明らかであること、②教会の増築時に作成された「建物建築合意書」においても、教会は、10年間の使用期間経過後、増築建物を撤去して原状に復する旨記載されており、納税者が所有者であることを前提としていること、③納税者は、15年間にわたり、当該教会賃料を課税売上げとして申告してきたものであり、反面、所得税の申告に当たり、本件教会の取得費を減価償却費として計上してきたこと、④教会の登記簿には、建築当初から、納税者を所有者とする保存登記等がなされていること、⑤納税者の主張のとおりであるなら、納税者が工面した建築費用を教会に貸し付けたことを証する消費貸借契約書や、その完済まで本件教会の所有名義人を納税者とする旨の譲渡担保設定契約書が存在して然るべきところ、これらは存在しないことなどの事情を総合すれば、教会の所有権は納税者に属していたと認められるとして排斥された事例(原審判決引用)

      

(15) 不動産所得とは、「不動産等の貸付けに基づいて」得る所得、あるいは「不動産等の貸付けを原因として」得る所得であり、不動産等の貸付けの開始から終了までの間に、不動産等の貸付けを原因として借主から貸主に移転される経済的利益の全てを含むものと解され、本件における納税者の建物等の無償譲受けは、土地賃貸借契約解除の一内容として行われたものであるから、不動産所得に当たる旨の課税庁の主張が、納税者の建物無償譲受けによる利益は、土地の賃貸契約の合意解約において、借主が土地上の建物を撤去して現状に回復すべき義務があるところ、建物を貸主に無償譲渡する旨の合意に基づいて納税者が取得したものであるから、土地を使用又は収益させる対価としての性質を有するものでないことが明らかであって、賃貸契約に直接因果関係のある取得ともいえないとして排斥された事例

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 本件各控訴をいずれも棄却する。

 控訴費用のうち、1審原告に生じた分は1審原告の、1審被告に生じた分は1審被告の各負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

  

1 1審原告

    

(1) 1審原告の控訴に基づき、

     

ア 原判決中、1審原告敗訴部分を取り消す。

     

イ 1審被告が、1審原告に対し、平成14年12月13日付けでした1審原告の平成11年1月1日から同年12月31日まで、平成12年1月1日から同年12月31日まで及び平成13年1月1日から同年12月31日までの各課税期間分の消費税及び地方消費税の各更正処分のうち申告額を超える部分並びに消費税及び地方消費税の過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

     

ウ 訴訟費用は、第1、2審とも1審被告の負担とする。

    

(2) 1審被告の控訴に対し、

     

ア 本件控訴を棄却する。

     

イ 控訴費用は、1審被告の負担とする。

  

2 1審被告

    

(1) 1審原告の控訴に対し、

     

ア 本件控訴を棄却する。

     

イ 控訴費用は、1審原告の負担とする。

    

(2) 1審被告の控訴に基づき、

     

ア 原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。

     

イ 1審原告の請求をいずれも棄却する。

     

ウ 訴訟費用は、第1、2審とも1審原告の負担とする。

 

第2 事案の概要

  

1 本件は、①1審原告が、その所有する原判決別紙物件目録記載1、2の各土地(本件高針土地)の土地賃貸借契約を合意解除する際、同土地上の賃借人(B株式会社)所有の同物件目録記載3の建物(本件建物)を上記賃借人から無償で譲り受けたことに関し、上記建物等の利益(本件建物利益)を一時所得として申告したところ、1審被告が、上記利益は不動産所得に当たるとして、1審原告の平成12年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(本件所得税課税処分)を行い、②1審被告が、1審原告所有の集合賃貸住宅の敷地内に設けられた駐車場収入(本件駐車場収入)及び同物件目録記載5の礼拝所(本件教会)の賃料収入(本件教会賃料)はいずれも消費税及び地方消費税(消費税等)の課税対象売上げ(課税売上げ)に当たるとして、1審原告の平成11年分ないし平成13年分の各課税期間の消費税等について更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(本件消費税等課税処分、本件所得税課税処分と併せて本件各課税処分)を行ったのに対し、1審原告が、①本件建物利益は一時所得に当たり、②本件駐車場収入は住宅の貸付けによる収入に当たり、③本件教会は1審原告の所有ではなく、本件教会賃料はその敷地の貸付けに対する地代であって、いずれも課税売上げに当たらないとして、本件各課税処分(ただし、本件所得税課税処分については異議決定により一部取消後のもの)のうち、申告額を超える部分の取消しを求めた抗告訴訟である。

    

 原審は、①本件建物利益は、不動産所得及び雑所得のいずれにも該当せず、一時所得に該当する、②本件の駐車場は非課税としての住宅の貸付けと一体化して貸し付けられている場合には当たらず、本件駐車場収入は課税売上げに該当する、③本件教会の所有権は1審原告に帰属し、本件教会賃料は建物の賃料収入として課税売上げに該当するとして、上記①についてのみ本件所得税課税処分を取り消し、その余は適法としたため、1審原告及び1審被告双方がこれを不服としてそれぞれ控訴した。

  

2 前提事実、本件の争点及び争点に関する当事者の主張は、次項において当審での補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」1ないし3のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決12頁5行目の「本件合意書をの文面」を「本件合意書の文面」に、19頁8行目から9行目にかけての「駐車スペースが割り当てられる等の場合で」を「駐車スペースが確保されており、かつ、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられる等の場合で」にそれぞれ改める。

  

 

 

3 当審での補充主張

    

(1) 本件建物利益の所得区分について〔争点(1)〕

    

(1審被告)

     

 不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得であり(所得税法26条)、同条にいう「貸付けによる」とは「貸付けに基づいて」あるいは「貸付けを原因として」という意味である。そうすると、不動産所得は、賃料すなわち「目的物を使用収益させる対価」がその中心となるものの、これに限定されるものではなく、不動産等貸付けの開始から終了に至るまでの間に、不動産等の貸付けを原因として借主から貸主に移転される経済的利益の全てが含まれるものである。

     

 また、所得税法施行令94条1項は、その柱書きにおいて「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に、掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする。」と定め、同項2号において「当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」と規定しているところ、目的物を使用収益させる対価としての性質を有しない「補償金」等の業務の遂行によって生ずべき収入に代わる性質を有する付随的な収入も、不動産所得に該当することを明らかにしている。さらに、実務においては、不動産等の貸付けの終了等に当たって目的物の原状回復、差入保証金の返還などの清算行為によって得た収入、あるいは、貸家等の入居者から支払を受けた水道光熱費や入居者が共同して負担する共益費、貸付建物の破損などにより受ける実費弁償金等も、不動産貸付業務に付随する収入等であるとされている。

     

 これらの収入が不動産所得と扱われてきたことに鑑みれば、不動産所得とは、不動産等の貸付けの開始から終了に至るまでに、その貸付けを原因として交付された経済的利得の全てをいうものと解すべきことは明らかである。

     

 本件建物等の無償譲受けは、本件解除契約の一内容として行われたものであり、不動産等の貸付けに直接の因果関係がある所得、すなわち、「不動産等の貸付け(賃貸借契約)の開始から終了に至るまでの間に、不動産等の貸付けを原因として」得る所得に該当するものといえ、本件無償譲受けによる所得は、不動産所得に該当することから、一時所得に該当しない。

     

 仮に、本件無償譲受けが不動産所得に該当しないとしても、本件無償譲受けは、「本件解除契約の一内容」として行われたものであり、不動産貸付業務においては、合意解約によって契約を解消することは、何ら異常なことではなく、通常生ずべき事態である。そうすると、不動産賃貸業務における貸付け(賃貸借契約)という営利を目的とする継続的行為によって生じた所得に当たることから、雑所得として取り扱われるべきである。

    

(2) 本件駐車場収入の消費税等課税売上げ該当性について〔争点(2)〕

    

(1審原告)

     

ア Eの1台分の駐車場は、住宅と一体として行われる貸付けに該当し、その駐車場収入は非課税である。

       

 消費税法基本通達6-13-3(本件通達)でも、駐車場付き住宅として、その全体が住宅の貸付けとされる駐車場に関し、「集合住宅に係る駐車場で入居者について1戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保されており」とされており、住宅戸数より駐車場数が多い場合があり得、その場合でも「住宅と一体として行われる貸付け」と評価できる場合があることを明らかにしている。そして、住宅戸数より駐車場の数が多い場合には、集合住宅中の特定の住宅の便益に供するよりも、必要とする住宅の便益に供する方が合理的であることは明らかである。したがって、当該住宅戸数を超える駐車場については、集合住宅全体から見て一体性があれば良い、すなわち、集合住宅を借りない限り当該駐車場を借りることはできないが、集合住宅のどこかの住宅を借りれば当該駐車場を借りることができる場合と解釈するのが妥当である。

       

 Eの1台分の駐車場については、現在までEの居住者が使用していて、それ以外の者が使用したことはないのであるから、「住宅と一体として行われる貸付け」と評価できる。

     

イ Dの駐車場は、住宅と一体として行われる貸付けに該当し、その駐車場収入は非課税である。

       

 Dについては、住宅を借り受ければ駐車場も借受けの対象となっていたところ、当該賃借人がその割り当てになる駐車場を借りなかったにすぎず、誰にも賃貸していないで、空きのままとなっている。そうすると、「ある特定の住宅を借り受ければ常に駐車場も借受けの対象となる」に該当することは明らかである。

       

 Dのパンフレット(甲21の5)に「駐車場完備」と記載されていること、同パンフレットの配置図に各駐車場の位置が明記され、各住宅にそれぞれ各駐車場が割り当てられているのであって、特定の住宅を借り受ければ常に特定の駐車場も借受けの対象となっており、「住宅と一体として行われる貸付け」と評価できることは明らかである。

    

(3) 本件教会賃料の消費税等課税売上げ該当性について〔争点(3)〕

    

(1審原告)

     

1審原告とH教会との貸借関係は、消費税等の非課税対象である土地の賃貸借である。

     

 本件教会〔増築前の建物(旧建物)〕の建築工事代金950万円のうち、150万円はH教会が、残りの800万円は1審原告がそれぞれ出捐し、上記800万円が1審原告の同教会に対する貸金でないとすれば、本件教会(旧建物)の実質的な所有権は、上記出捐割合に従って、1審原告が持分95分の80、H教会が持分95分の15の共有になると判断せざるを得ない。そうすると、H教会に帰属する持分(95分の15)については、建物の賃貸借であるはずはなく、土地の賃貸借でなければならない。

     

 さらに、平成7年2月の本件教会〔増築後の建物(新建物)〕の増築部分はH教会の所有であることは明らかであり、この増築部分については新たに土地の賃貸借契約が締結されたと判断せざるを得ないところ、増築の際に新たな土地の賃貸借契約を締結したことや、賃料が増額された事実は一切ない。

     

 そして、1審原告とH教会との間では、本件教会は、実質的には、H教会に帰属するものと理解されており、貸借関係は土地の賃貸借であるとの意思で合致している。

     

 また、H教会は、1審原告が本件教会(旧建物)のために出捐した上記800万円及び諸経費全額を10年間の分割により1審原告に返済している。したがって、これを法律的にみると、1審原告の本件教会(旧建物)についての持分95分の80の売買であり、上記分割返済金の支払が終了した平成9年12月、H教会は上記持分を取得し、増築後の本件教会(新建物)の所有権も当然に同教会に帰属したと評価できる。

     

 そうすると、平成9年12月以降は、本件教会(新建物)の所有権は全てH教会にあり、1審原告との法律関係は土地の賃貸借契約であることは明らかであるので、H教会からの収入は消費税等の非課税対象となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

  

1 当裁判所も、1審原告の本件各請求のうち、本件所得税課税処分の取消請求は理由があるが、本件消費税等課税処分の取消請求は理由がないものと判断する。その理由は、次項において原判決を訂正し、3項において当審での補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。

  

2 原判決の訂正

    

(1) 原判決38頁10行目の「(付言すれ」から13行目の「できない。)」までを削除する。

    

(2) 原判決41頁16行目の「消費税法は、」を「消費税は、生産流通過程を経て事業者から消費者に提供される財貨・サービスの流れに着目して、事業者の売上げを課税の対象とすることにより、間接的に消費に税負担を求めるもので、消費税法は、」に改める。

    

(3) 原判決41頁18行目の「定めるとともに」から43頁5行目までを次のとおりに改める。

     

「定め、原則として国内におけるすべての資産の譲渡等を課税の対象取引とするが、他方、本来課税の対象としてなじまないものや政策上課税することが不適当なものを非課税取引としている。すなわち、同法6条1項は「国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第1に掲げるものには、消費税を課さない。」とし、同表第1第1号で「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け(一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」と定めて(消費税の性格から課税対象とすることになじまないもの)、土地の譲渡及び貸付けを原則非課税取引とするが、同法施行令8条で「法別表第1第1号に規定する政令で定める場合は、同号に規定する土地の貸付けに係る期間が1月に満たない場合及び駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合とする。」と定めて、これらの場合を課税対象の取引としている。また、同表第1第13号で「住宅(人の住居の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」と定めて(社会政策的な配慮に基づくもの)、非課税取引としている。

      

したがって、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合には、土地そのものというよりも施設として貸し付けるものであり、原則としてその収入が課税売上げに当たるが、他方、住宅の貸付けについては、非課税取引としているため、駐車場付きの住宅の貸付けについては、課税対象取引とするか非課税取引とするかが問題となる。

      

この点について、消費税法基本通達6-13-1は、住宅の貸付けとして非課税になる範囲を、「庭、塀その他これらに類するもので、通常、住宅に付随して貸し付けられると認められるもの及び家具、じゅうたん、照明設備、冷暖房設備その他これらに類するもので住宅の附属設備として、住宅と一体となって貸し付けられると認められるものは含まれる。なお、住宅の附属設備又は通常住宅に付随する施設等と認められるものであっても、当事者間において住宅とは別の賃貸借の目的物として、住宅の貸付けの対価とは別に使用料等を収受している場合には、当該設備又は施設の使用料等は非課税とはならない。」と定め、

 

さらに、同通達6-13-3(本件通達)は、駐車場付き住宅の貸付けについては、「駐車場付き住宅としてその全体が住宅の貸付けとされる駐車場には、一戸建住宅に係る駐車場のほか、集合住宅に係る駐車場で入居者について1戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保されており、かつ、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられる等の場合で、住宅の貸付けの対価とは別に駐車場使用料等を収受していないものが該当する。」と定めており、

 

これらによれば、駐車場のように独立して賃貸借の目的となる施設の貸付けは、原則として、住宅の貸付けに含まれず課税の対象となるが、その駐車場が非課税とされる一戸建住宅の貸付けに伴う当該住宅の敷地の一部である場合には、その全体が住宅の貸付けに該当すると同様に、集合住宅においてすべての入居者について1戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保されており、かつ、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられるなど、駐車場が住宅の貸付けに含まれていると認められる実態にある場合には、その駐車場部分を含めた全体が住宅の貸付けに該当することになる。なお、駐車場使用料金を別途徴収している場合(その前提として住宅の使用料とは別個に駐車場使用料が定められる。)には、課税の対象となるものと解される。」

    

(4) 原判決43頁18行目の「駐車場が」から22行目の「状況にかかることになるから、」までを「駐車場が住宅の数より少なければ、住宅の貸付けに付随して駐車場が使用できる状態にないのであって、駐車場が住宅の貸付けに含まれているとみることはできないから、」に改める。

    

(5) 原判決44頁1行目の「乙6、」の次に「17、」を加え、18行目の「乙20」を「乙19、20」に、48頁23行目の「12及び13」を「12、13及び16」にそれぞれ改める。

    

(6) 原判決49頁2行目の「登記がなされていること」から4行目の「ことができる。」までを「登記を了していること、上記不動産取得税が増築分に関するものであったため、建物の登記名義人である1審原告に課税された上記不動産所得税の金額を丙に求償請求したにすぎないことが認められる。」に改める。

  

 

 

 

 

 

 

 

3 当審での補充主張に対する判断

    

(1) 本件建物利益の所得区分について〔争点(1)〕

      

1審被告は、要するに、不動産所得の「貸付けによる所得」とは、「不動産等の貸付けに基づいて」得る所得、あるいは「不動産等の貸付けを原因として」得る所得であり、不動産等の貸付けの開始から終了までの間に、不動産等の貸付けを原因として借主から貸主に移転される経済的利益の全てを含むものと解するのが相当であり、本件建物等の無償譲受けが、本件解除契約の一内容として行われたもので、不動産等の貸付けに直接の因果関係のある所得に該当し、不動産所得に当たると主張する。

      

所得税は、個人の1年間に得た所得に対して課税されるもので、その所得の性質・発生形態等に応じて、10種類(利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得)に分類されている(所得税法23条ないし35条)。そのうち、不動産所得は、①土地や建物等の不動産の貸付けによる所得、②地上権や永小作権等の不動産上の権利の貸付けによる所得、③船舶や航空機の貸付けによる所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)であって(同法26条)、上記「貸付けによる所得」とは、不動産等の貸付けに基づく所得を意味するものであり、貸主が借主に対して一定の期間、不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有する経済的利益、若しくはこれに代わる性質を有するものというべきであることは、前記(原判示)のとおりである。

      

そして、本件建物利益は、前記認定(原判決)の交渉の経過により、本件高針土地の賃貸契約の合意解約(本件合意)において、

 

本来、借主が同土地上に建設した本件建物を撤去して原状に回復すべき義務があるところ、

 

本件建物を貸主に無償譲渡する旨を合意し、この合意に基づいて1審原告が本件建物を取得したものである(前提事実及び弁論の全趣旨)。

 

そうすると、貸主である1審原告が本件建物を取得したのは、本件高針土地を使用又は収益させる対価としての性質を有し、若しくはこれに代わる性質を有するものでないことが明らかであって、これをもって不動産所得が生じたものと解することはできない。

 

1審原告の本件建物の取得は、本件高針土地の賃貸借から生じるものではなく

 

〔本件建物の無償譲受けが賃貸借契約終了に伴う借主の原状回復義務の履行に代わるものであるとしても、

 

貸主が土地の賃貸借契約により通常予定できる経済的利益とはいえず(もっとも、当初から賃貸借契約の内容として、契約の終了時に建物を無償譲受けする旨を合意し、それが地代等に反映している場合などでは、不動産所得と解する余地もあり得る。)、

 

あくまで賃貸借契約とは別個の合意に基づく本件建物の取得にすぎず、土地の貸付けによる所得とはいえない。〕、本件賃貸契約の直接の因果関係のある取得ともいえない。

      

 

また、所得税法施行令94条1項2号に、不動産所得を生ずべき業務に関し、「当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」について、「その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする」と定めており、

 

補償金等のほか、共益費や実費弁償金、賃貸借契約解除に伴う明渡しが遅滞した場合に受ける損害賠償金等も不動産所得に当たるとされるが、

 

これらも、不動産等の貸付けの業務の遂行により生ずべき収入金額に代わる性質を有するものであって、

 

本件建物利益のように、賃貸借契約の終了する際の借地上の借主の所有建物の無償譲受けとは性質を異にするものであって、これを上記付随収入に含めることはできない

      

したがって、1審被告の上記主張は採用することができない。

      

そして、本件建物利益が一時所得に該当し、雑所得に該当しないことは、前記(原判決)のとおりである。

    

 

(2) 本件駐車場収入の消費税等課税売上げ該当性について〔争点(2)〕

     

ア Eについて

       

1審原告は、住宅戸数を超える駐車場については、集合住宅を借りない限り当該駐車場を借りることができないが、集合住宅のどこかの住宅を借りれば当該駐車場を借りることができるのであって、Eの1台分の駐車場は、現在までEの居住者が使用していて、それ以外の者が使用したことはないから、「住宅と一体として行われる貸付け」と評価できると主張する。

       

前記のとおり、施設としての駐車場の貸付けは、原則として課税の対象取引であるが、住宅の貸付けに付随する(駐車場が住宅の貸付けに含まれている)と認められる実態にある場合には、その駐車場部分を含めた住宅の貸付け(住宅と一体として行われる貸付け)に該当するというべきである。しかし、前記認定(原判決)によれば、Eの居住者が居室の賃貸借契約とは別に駐車場契約を締結していることは明らかであり(甲16、乙6)、住宅と一体として行われた貸付けとみることはできず、前記のとおり、住宅の貸付けについては、社会政策的な配慮に基づき非課税とした消費税法の規定・趣旨に照らしても、住宅の賃貸借契約と別個の駐車場契約を締結し、これにより収受された駐車場使用料について、消費税が課税されるとしても、何ら不合理な点は認められず、1審原告の上記主張は採用できない。

     

イ Dの駐車場について

       

1審原告は、各住宅にそれぞれ各駐車場が割り当てられており、特定の住宅を借り受ければ常に特定の駐車場も借受けの対象となっており、「住宅と一体として行われる貸付け」と評価できると主張する。

       

しかしながら、前記認定(原判決)のとおり、Dの入居者の募集にあたっては、駐車場が不要の場合には駐車場を貸さないで貸室料のみでよいという入居者募集広告がされていること〔なお、1審原告は、「駐車場完備」とパンフレットに記載していると主張して、そのパンフレット(甲21の5)を提出するが、同パンフレットは情報公開日が平成14年11月2日のものであり、本件課税期間の後に作成されたものであって、前記認定を左右するものではない。〕、駐車場使用料が貸室料金とは別に定められ、貸室料金の支払とは別に把握されていること(乙7、19、20)などからすれば、住宅の貸付けの対価とは別に駐車場使用料を収受しているものと認められる。そうすると、上記駐車場については、駐車場付き住宅の貸付けとして非課税の対象であるとはいえず、1審原告の上記主張は採用できない。

    

(3) 本件教会賃料の消費税等課税売上げ該当性について〔争点(3)〕

      

1審原告は、本件教会(旧建物)の建築資金の出捐割合からすれば、その実質的な所有権は、1審原告が持分95分の80、H教会が持分95分の15の共有であり、H教会に帰属する持分(95分の15)については、土地の賃貸借であること、遅くとも平成9年12月以降は、本件教会(新建物)の所有権は全てH教会にあり、本件課税期間における1審原告との法律関係は土地の賃貸借契約であると主張する。

      

しかしながら、そもそも建物の所有権の帰属については、必ずしも建築資金の出掲割合に合致するものとはいえない上、

 

仮に、本件教会(旧建物)が実質的には共有であり、

 

その持分割合が、その建築資金の出捐割合によるべきであるとしても、

 

1審原告とH教会とは、本件教会の利用関係につき建物賃貸借契約を締結し、

 

1審原告は、これまで「建物の賃料」を収受し、その旨税務申告等を行ってきたこと

 

(なお、1審原告は、賃貸借契約の当事者の意思としては土地の賃貸借で合致していると主張するが、

 

前記の経過と矛盾するものであり、これを採用することはできない。)

 

などからすれば、建物自体の賃貸借契約を締結したものであり、その賃料も建物の貸付けの対価として収受したものと認められ、前記認定を左右するものではない。

      

 

また、H教会が、平成7年2月の本件教会の増築後に、本件教会の持分5分の4の持分移転登記を了したことにより、1審原告と本件教会(新建物)を共有することになったとしても、

 

その後も建物自体の賃貸借契約を継続していたものであって、その賃料も建物の貸付けの対価として収受したものといえることは上記のとおりであり、前記認定を左右するものではない。

      

 

さらに、1審原告は、H教会が平成9年12月までに1審原告の負担した建築資金を返済し、

 

本件教会(旧建物)の所有権を取得しており、

 

それ以降は土地の賃貸借契約となったと主張するが、前記認定(原判決)のとおり、

 

その後平成15年11月18日まで上記建物に対する1審原告の持分全部移転登記がなされず、

 

また、あらたに土地の賃貸借契約を締結した形跡もない。

 

さらに、1審原告は、平成10年ないし平成14年の各課税期間において、本件教会賃料を消費税等の課税売上げとして申告し、

 

また、所得税の申告に当たり、本件教会の取得価額800万円を減価償却して必要経費として計上した。

 

以上の諸事情を考慮すると、

 

1審原告が各課税期間以前に本件教会の1審原告の持分全部をH教会に移転していたものとは認められず、前記認定を左右するものではない。

      

 

したがって、1審原告の上記主張も採用できない。

 

 

 

第4 結論

  

以上のとおり、1審原告の本件各請求のうち、本件所得税課税処分の取消請求は理由があるが、本件消費税等課税処分の取消請求は理由がないところ、これと結論を同じくする原判決は相当であり、1審原告及び1審被告の本件各控訴はいずれも理由がない。

 

  よって、主文のとおり判決する。

 

    名古屋高等裁判所民事第1部

        裁判長裁判官  田中由子

           裁判官  佐藤真弘

           裁判官  山崎秀尚