東京地方裁判所判決/平成17年(ワ)第22638号、判決 平成19年11月30日、
判示事項
ホストクラブ等を経営する会社が青色申告承認を取り消されたことにつき税理士に顧問契約の債務不履行による損害賠償責任が認められた事例
主 文
1 被告は,原告に対し,1684万9200円及びこれに対する平成17年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1769万5866円及びこれに対する平成17年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,税理士である被告との間で税務顧問契約(以下「本件顧問契約」という。)を締結し,確定申告業務等の事務処理一切を行ってもらっていたとする原告が,被告の善管注意義務に違反した職務懈怠の債務不履行ないし不法行為により,損害を被ったとして,損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めるものである。
2 争いのない事実等(弁論の全趣旨及び後掲証拠により容易に認定できる事実を含む。)
(1) 原告は,東京都新宿区歌舞伎町において飲食店(ホストクラブ)の経営,酒類の販売等を行う有限会社であり,その事業年度は,毎年8月1日から翌年7月31日までである。
被告は,東京税理士会江東西支部に所属する税理士であり,税理士法の下,住所地において事務所を設け,税務に関する専門家として一般人の依頼を受け,諸般の税務事務を処理して,税理士として活動している。
(2) 平成9年6月30日まで,被告は,株式会社A(以下「A社」という。)の取締役であり,被告の母である東沢花子(弁論の全趣旨)が,その代表取締役であった(乙1)。
(3) 平成11年7月ころ,後に原告の代表者となる甲野春男(以下「原告代表者」という。)は,A社に経営相談に訪れ,その際,マスコミに報道されて有名になったという話が出て,売上についての話に及んだ。
その後も,原告代表者は,A社を訪れた。
(4) 平成11年12月22日,被告のアドバイスにより,原告が設立された。
被告が,当時原告の使用していた売上明細書を確認したところ,連番でなく,複写でもなかったため,被告は,原告に対し,連番のある売上明細書を使用すること,原告に経理担当者を入社させることを申し入れた。
原告代表者は,被告に対し,売上高と仕入れについては責任を持つと話した。
平成12年10月,原告代表者が面接して,原告の経理担当者として乙山夏子(以下「乙山」という。)を採用し,その後,経理担当社員として,丙川秋子(以下「丙川」という。)が原告に入社した。
平成13年11月,原告代表者は,乙山と税理士登録予定の西村二郎(以下「西村税理士」という。)を伴って,被告と会い,被告に西村税理士を紹介し,西村税理士について,税理士試験に合格し,2年間の実務経験中の身分であり,会計事務所に勤めていたが,同年夏ころから,既に原告の税務・会計に関する業務を行ってもらっており,月額30万円を支払っていると説明した。
平成14年春には,丁本冬男(以下「丁本」という。)がホストから原告の経理担当社員となった。
(5) 原告は,A社の口座に,平成12年4月から平成14年10月までの間,顧問料として月額30万円を送金したほか,平成12年3月31日に原告の設立手続手数料等として30万円,平成13年10月20日に経営指導料として95万2381円,平成14年3月22日に年末調整等料金として20万円,同年7月20日に修正申告料として285万7143円,同年10月15日に確定申告料として300万円を送金して支払った。
(6) 平成12年12月から平成14年8月までの間,原告とA社との間で,原告の店舗「サン」の名簿の送付,源泉所得税の納付のための原告の社員名簿の送付依頼,原告の賃借物件の明細の連絡,給与表の記入の仕方等の連絡,原告のホスト(個人事業者)の確定申告の依頼があれば代行申告するとの連絡,原告の店舗「ムーン」の開店に伴い,カード売上を既存店舗「サン」と分けるようにとの指示,給料明細に記入されていた源氏名の本名の連絡,原告の経理上の処理について,改善の連絡,「給料」欄の金額の記入の仕方の質問,売上表の送付の連絡,原告の売上表の「掛売上」の疑問点等の連絡,入金,出金の明細についての質問,ATMによる引出し等について質問,原告からのデータが届かないとA社は何もできない等の連絡,再度の入金,出金等の明細についての質問,コンピューターの数字の訂正の連絡,給与の相違についての調査依頼,再々度の入金,出金等の明細についての質問,掛売上等についての質問,家賃等についての質問,会社組織及び会計事務に関する回答,総勘定元帳と通帳コピーの差額についての質問,出金明細についての質問,出勤簿兼賃金計算簿の資料の送付,出金明細についての質問,出金明細についての回答,源泉額の確認の連絡,売上,売掛,仕入の明細について乙山が仕訳処理するよう明記された連絡書による日計表の正確な処理方法等についての指導,社員の生年月日,住所の連絡,社員の戊田の積立金についての連絡,年末調整についての連絡,生年月日,年収についての質問,源泉徴収表の確認の連絡,事務所家賃の連絡,給料台帳の書き方の質問,源泉税の支払用紙の書き方を質問,平成13年度12月分と平成14年度1月分の給与(報酬)支給総額等の質問,納付書の書き方の質問,給与台帳についての質問,上記質問への回答等のやり取りが行われた。
(7) 原告は,原告の役員ではない原告代表者の父に給与を支払っていた。
原告は,平成14年3月,渋谷税務署から,平成12年7月期及び平成13年7月期に関し,税務調査を受け,数々の経理改善要請と修正事項の指摘を受けた。
原告代表者は,被告に対し,売上高等の書類は全部捨てたと話したことがあり,原告は,修正申告をすることになった。
(8) 原告は,平成17年3月31日付けで,渋谷税務署長から,原告の青色申告の承認は,平成13年8月1日から平成14年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)以後これを取り消した旨の通知を受けたが(以下「本件青色申告承認取消処分」という。),同処分の基因となった事実は,本件事業年度の法人税の調査において,
①売上金額の一部443万2093円について,売上に計上していなかったこと(以下「取消事由①」という。),
②取引事実のない仕入金額1694万9010円を計上していたこと(以下「取消事由②」という。),
③給与を360万円過大に計上していたこと(以下「取消事由③」という。),
④社員及びホストから受領している1090万1733円を収入に計上していなかったこと(以下「取消事由④」という。)が認められ,このことは,青色申告に係る帳簿書類に取引の一部を隠ぺいし又は仮装して記載したことになるというものであった(甲1)。
3 争点
本件の争点は,(1)原告と被告の間で本件顧問契約が締結されたか,(2)被告に本件顧問契約における債務不履行ないし実際の税務処理上の不法行為があったか,(3)原告の損害額という点にある。
(1) 争点(1)(原告と被告の間で本件顧問契約が締結されたか)について
(原告の主張)
ア 原告は,平成12年ころ,被告との間で,税務顧問契約である本件顧問契約を締結し,被告は,平成12年7月期から3年間,原告の会計処理業務,確定申告業務等の事務処理一切を行い,原告は,被告に対し,顧問料として月額30万円,決算料として年1回300万円等を支払ってきた。
イ 原告は,顧問料の送金先として,A社の口座を指定されたため,その指示どおりに送金したにすぎず,原告の意思は,税理士としての被告個人との契約締結であった。
被告個人ではなく,A社が原告と税務顧問契約である本件顧問契約を締結したというのであれば,A社は,税理士法違反行為を行っていたことになるが,被告としても,そのような税理士法違反の契約を締結するはずはなく,あくまで被告個人が原告と本件顧問契約を締結したものである。
(被告の主張)
ア 原告が本件顧問契約を締結した当事者は,被告ではなく,A社であり,原告は,A社に顧問料を支払っていたし,原告へのファックスもA社名義であった。
イ 原告とA社が本件顧問契約を締結し,被告は,A社から業務を委託された関係にあった。
(2) 争点(2)(被告に本件顧問契約における債務不履行ないし実際の税務処理上の不法行為があったか)について
(原告の主張)
ア 原告は,平成16年12月6日及び同月7日に行われた渋谷税務署による税務調査において,本件事業年度である平成14年7月期に関し,
取消事由①の売上金額の計上漏れ443万2093円,
取消事由②の過大仕入計上1694万9010円,
取消事由③の給与過大計上360万円,
取消事由④の社員及びホストからの預かり金収益振替忘却1090万1733円について否認を受けた上,本件青色申告承認取消処分を受けた。
イ 原告が本件青色申告承認取消処分を受けたのは,平成12年7月期及び平成13年7月期に関する調査において,原告が多額の否認を受け,その際,税務署から数々の経理改善要請があり,また,修正事項を指摘されていたにもかかわらず,被告がその対処,指導を怠ったことによるものである。
また,平成14年7月期に関する上記否認事項に関しても,
取消事由①に関しては,被告のデータ入力の誤りによるもの,
取消事由②に関しては,原告が被告に対して,約半年間にわたる3000万円にも及ぶ広告宣伝に関する領収書をはり付けたスクラップ帳をデータ入力の基礎資料として渡していたところ,
被告が,これを紛失した結果,利益が過大となってしまい,
これを隠そうとして,原告に無断で毎月架空の仕入を計上していたことによるもの,
取消事由③に関しては,従前から税務署の指摘を受け,減額指導がなされていたにもかかわらず,
被告がただ漫然と平成14年7月期においても原告代表者の父の給与を過大計上し続けていたことによるもの,
取消事由④に関しては,原告が従業員ないしホストの福利厚生費,旅行積立金及び寮費を給与から天引きしていたから,その旨を記載した上で,「雑収入」として収益計上しなければならないところ,
被告が収益に計上せず,いい加減な処理をしたことによるものであった。
ウ 本件顧問契約は,確定申告のために,税務に関する事務処理一切を依頼するというものであるから,受任者たる被告は,善良なる管理者の注意(以下「善管注意」という。)をもってその事務を処理していく義務がある。
そして,その注意の程度は,税務に関する専門家に求められる高度の注意義務であり,これに違反するときは,債務の本旨に従った履行がされなかったことにより債務不履行の責任を免れない。
上記イの被告の職務懈怠行為は,税理士としてはおよそ考えられないような初歩的な過失行為に基づくものであって,
被告が,税務の専門家として税務関係の法規及び実務について正確な知識と理解を持ち,
これを前提として依頼された事務を適正に処理していく義務を怠り,善管注意義務に違反したものであることは明白である。
なお,西村税理士が税理士登録をしたのは平成13年12月であるから,
同年10月の時点で,原告代表者が,被告に対し,西村税理士が原告の税務・会計処理の責任者となったので,その指示に従うよう伝えたということはあり得ず,
また,西村税理士は,原告代表者から,被告の行っている税務・会計業務に疑問があるので,
独自に原告の会計業務を行うよう依頼され,原告の損益状況をタイムリーに知ることのできる月次データの作成を含むコンサルタント業務を行っていたものであって,
西村税理士から被告に対しデータの提供をしたこともなければ,被告やA社に対して何らかの指示を行ったということもなく,
さらに,西村税理士は,被告とは雑談とあいさつ程度で2度しか会っていないから,
平成14年7月期の確定申告について,被告と西村税理士が何度も打合せを行ったということもなく,西村税理士は,上記確定申告業務には一切かかわっていない。
エ 仮に,被告ないしA社が,税理士法違反をあえて犯して,A社と原告との契約を締結していたとしても,実際に税務指導,税務申告書の作成,税務代理等は,税理士としての被告自身の判断で行われていたものであるから,被告自身は,原告に対し,不法行為責任を負う。
(被告の主張)
ア 原告が主張する取消事由①の売上金額の計上漏れについては,
A社がパソコンに原告の売上のデータを入力したが,原告からの報告を受けてそのまま入力したものである。
すなわち,平成13年11月,原告代表者が,原告の経理責任者の乙山と西村税理士を伴い,A社の事務所を訪れ,被告に対し,西村税理士を紹介し,西村税理士を採用したことにより,原告の税務・会計処理は西村税理士が責任者となるので,西村税理士の指示に従うよう伝えた。
その後,西村税理士からA社への指示は,乙山を通じて行われ,A社は,乙山からの連絡に基づく売上の数字を入力していた。
したがって,被告のデータ入力の誤りについての原告の主張の前提となる数字については,乙山からA社に連絡された数字であった。
原告が主張する取消事由②の過大仕入計上については,被告が原告から合計3000万円にも及ぶ広告宣伝費に関する領収書を預かったこともないし,領収書を紛失したこともない。
被告の平成14年7月期の総勘定元帳(甲17)の「広告宣伝費」の同月31日借方欄に3069万3775円の記載があるが,
上記総勘定元帳は,A社が使用している会計ソフトにより作成される書面と外枠の寸法が異なっており,
A社あるいは被告が作成したものではなく,これは原告が作成したものである。
したがって,上記総勘定元帳の広告宣伝費の記載をもって,被告が原告からそのデータ入力のための基礎資料を渡されていたことの証左となるものではない。
A社がパソコンに入力した原告の仕入額は,上記売上の数字の入力と同様,原告からの報告に基づいて行われたもので,被告が原告に無断で毎月仕入額の架空計上を行ったことはない。
原告が主張する取消事由③の給与過大計上については,平成14年の原告に対する渋谷税務署の税務調査の際,被告が,税務署員に対し,原告の売上が大きい,社員及びホストの数が多い,原告は今後有限会社から株式会社にする予定であるが,信頼できる人物がおらず,原告代表者の父を役員に迎えることを予定しており,現在原告代表者の父をアドバイザーとして迎えており,そのための給与と説明したところ,税務署員は納得し,同年の被告が関与した税務調査のときは,否認されなかった。
原告が主張する取消事由④の社員及びホストからの預かり金収益振替忘却については,売掛金の処理のことと思われるが,
A社は,平成13年6月20日及び同年7月12日,原告の売掛金の処理について質問したが,原告が回答しなかったもので,
A社及び被告が忘却したものではない。
また,被告は,福利厚生費,旅行積立金及び寮費が社員及びホストの給与から天引きされていることが記載された原告の給与台帳を見たことがなかった。
イ A社あるいは被告は,平成13年11月に原告代表者から,原告の税務・会計処理は西村税理士が責任者となるので,
西村税理士の指示に従うよう伝えられたことにより,
平成14年7月期の原告の確定申告は西村税理士が行うものと認識していた。
そして,同確定申告について,被告は,原告の事務所で何度も西村税理士と打合せを行った。
しかし,原告代表者から,被告において上記確定申告書を作成するよう依頼されたことから,被告がその作成を行ったものであり,そこに記載された数字は,西村税理士が算出した数字が基になっていた。
A社は,原告の年末調整,支払調書の作成等のほか,会計処理について指導を続けており,原告と連絡を取って,誠実に業務を行っていたものである。
ウ よって,被告にもA社にも,善管注意義務に違反した行為はない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 増加になった税金額 1534万9200円
本件事業年度の確定申告において,被告が当初から適正な申告をしていれば,原告は増加された税を納付する必要はなかったのであり,それにより原告が被った損害は,以下のとおり,合計1534万9200円となる。
(ア) 修正申告に係る各種附帯税 708万3500円
a 修正申告に係る法人税の重加算税
330万4000円
b 修正申告に係る法人税の延滞税
152万2900円
c 修正申告に係る消費税の重加算税
46万5500円
d 修正申告に係る消費税の延滞税 15万9500円
e 修正申告に係る事業税の重加算税
108万4600円
f 修正申告に係る事業税の延滞金 35万8200円
g 修正申告に係る都民税の延滞金 18万8800円
(イ) 過大仕入否認に基づく法人税等本税
767万2600円
a 法人税 508万4700円
b 事業税 170万8400円
c 都民税 87万9500円
(ウ) 青色申告承認取消に基づく税金増加額
59万3100円
a 法人税 42万3700円
b 事業税 9万6300円
c 都民税 7万3100円
イ 弁護士費用 234万6666円
本件訴訟は,高度に専門的能力を要するものであり,弁護士への委任は不可欠であった。
原告は,原告訴訟代理人弁護士との間で,着手金を70万円,報酬金を原告が受けた経済的利益の1割とする委任契約を締結した。
消費税を加算した着手金及び請求額の1割相当額の報酬金の合計は,234万6666円となる。
(被告の主張)
原告の損害についての主張は,すべて争う。
第3 判断
1 甲23,24,26,32,39,40,乙72,証人丁本冬男,同西村二郎,同南原三郎,同乙山夏子,原告代表者本人,被告本人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)
ア 原告代表者は,平成11年夏ころ,銀座のクラブに勤務している知人から被告を紹介され,A社に被告を訪ね,経営相談を行った。
原告代表者は,被告が初対面のときから,「私は大学教授という立場だから税務署からも信頼されている。ぼくに任せてくれれば間違いない。」などと述べ,自信満々の様子であったことなどから,大変頼れそうな人物であるとの印象を受け,また,銀座のホステスの確定申告業務にも複数件携わっているとの話を聞き,原告の業界の実情に通じ,腕の立つ評判のよい税理士なのだろうと考えた。
そこで,原告代表者は,平成11年秋ころ,再び被告に会い,被告に対し,顧問税理士として原告の会計処理業務や確定申告業務等の事務処理一切を行うことを委任し,本件顧問契約を締結し,その後,同年12月22日,被告のアドバイスにより,原告が設立されたことにより,原告が本件顧問契約の当事者となった。
イ 以上の点につき,被告は,原告が本件顧問契約を締結した当事者は被告ではなく,A社であって,被告は,A社から業務を委託された関係にあった旨主張する。
しかし,原告代表者としては,あくまで税理士としての被告個人に事務処理を委任したものであって,A社に税務処理を含む事務処理を委任したという認識はないところ,
被告本人も,実際の流れの中で業務を処理するのは被告であり,
実質的に被告が原告から確定申告を含む業務の委任を受けたことは間違いない旨供述しており,
これに,A社が税理士業務を行っていたのであれば,
税理士法に抵触することになることも併せ考慮すれば,
原告が本件顧問契約を締結した相手方は,A社ではなく,被告と認めるのが相当である。
なお,原告が,A社の口座に,顧問料,年末調整等料金,修正申告料,確定申告料などを送金していたことは,当事者間に争いがないが,
それは,被告から,送金先として,A社の口座を指定されたにすぎないものと認められ,かかる送金の事実から,上記認定が覆されるものではない。
(2)
ア 被告が,原告に,経理担当者を入社させることを申し入れた結果,平成12年10月,経理担当として,乙山が原告に入社し,その後,丙川も原告に入社した。
また,原告は,平成13年夏ころ,税理士試験には合格していたが,当時は未登録であった西村税理士に対し,原告の経理事務の指導を依頼し,平成14年1月に西村税理士が税理士登録をするまでは,西村税理士が所属していた税理士事務所に対し,西村税理士が税理士登録した後は西村税理士に対し,月額30万円の顧問料を支払っていた。
原告としては,被告が顧問税理士として熱心に業務を行わず,報酬が高過ぎるなどの理由から,西村税理士が税理士登録を終えた後は,顧問税理士を西村税理士に切り替えることを考えていたものであった。
さらに,平成14年春には,ホストであった丁本が,原告の経理担当社員となり,乙山の補助として,伝票の計算,帳簿付け,金銭の管理等をするようになった。
イ 西村税理士は,平成13年秋ころ,原告代表者らと共に被告の事務所に赴いて,被告と面談したほか,その後にも一度,原告事務所であいさつをしたことがあったが,
西村税理士が,被告との間で,原告の顧問業務について話し合ったり,連絡を取り合ったりしたことはなかった。
西村税理士は,原告代表者から,原告の損益状況等について書かれた分かりやすい資料を作成してもらいたいとの依頼を受け,
月に3回程度,原告本社に通い,伝票,領収書及び乙山の作成した資料のチェック等を行い,
現金出納帳については自分の事務所に持ち帰り,パソコンに入力して,原告本社,原告の経営する店舗の「サン」及び「ムーン」の3つに分けて試算表を作成し,乙山を通じて,原告代表者に報告していた。
西村税理士としては,被告に対し,自ら作成したデータを提供したことはなく,被告とは別個に原告の税務・会計業務に関与していたものであり,原告の平成14年7月期の確定申告手続も自ら行うものと考えていた。
しかし,原告代表者は,西村税理士が年齢が若く,頼りなく感じていたこともあり,平成14年春ころ,同年7月期の確定申告手続は被告に委任することとした旨述べた。
そして,被告が平成14年7月期の原告の確定申告書(甲18)を作成し,税理士として署名,押印した。
西村税理士は,原告が平成14年7月期の確定申告手続を被告に依頼し,被告との税務顧問契約を継続したことから,同月ころ,原告の顧問税理士を辞した。
(3) 原告は,平成17年3月31日付けで,渋谷税務署長から,原告の青色申告の承認は,平成13年8月1日から平成14年7月31日までの本件事業年度以後これを取り消した旨の本件青色申告承認取消処分を受けたが,その基因となった事実は,本件事業年度の法人税の調査において,
取消事由①の売上金額の一部443万2093円について,売上に計上していなかったこと,
取消事由②の取引事実のない仕入金額1694万9010円を計上していたこと,
取消事由③の給与を360万円過大に計上していたこと,取消事由④の社員及びホストから受領している1090万1733円を収入に計上していなかったことが認められ,このことは,青色申告に係る帳簿書類に取引の一部を隠ぺいし又は仮装して記載したことになるというものであった(甲1)。
(4) 原告が本件青色申告承認取消処分を受けたのは,平成12年7月期及び平成13年7月期に関する調査において,原告が多額の否認を受け,
その際,税務署から経理改善要請があり,また,修正事項を指摘されていたにもかかわらず,
被告が,その対処,指導を怠たり,その結果,被告が行った平成14年7月期の確定申告においても,以下のとおり,取消事由①ないし④が存在し,それが青色申告に係る帳簿書類に取引の一部を隠ぺいし又は仮装して記載したことになるとされたことによるものであった。
ア 取消事由①の売上金額の計上漏れについて
(ア) 原告が被告と本件顧問契約を締結した当初,
原告代表者は毎月10日の数日前になると被告の事務所を訪問し,
被告に対し,直接売上伝票等の会計基礎資料を手渡したり,
源泉税として現金を支払ったりしていた。
また,平成14年当時には,原告の経理を担当していた乙山,丁本,丙川らが,被告に対し,
毎月,手書きで入出金の説明を記入した通帳の写し,出金明細表,売上伝票等の会計基礎資料を郵便や宅急便で送付していた。
以上のように,原告が被告に対し,売上に関する会計基礎資料である売上伝票を送付していたにもかかわらず,
被告において,売上伝票の数字を正確にパソコンに入力せず,その結果,売上計上漏れとして443万2093円につき,否認されることになった。
(イ) この点につき,
被告本人は,原告からのデータに基づいて会計処理をしているのであり,
売上が計上されていないのは,その売上に関する資料が原告から提出されないことによるものであった旨供述する。
しかし,税務署は,売上に関する会計基礎資料が存在したからこそ,
それらの資料を調査し,確定申告に際して売上計上漏れがあったと指摘して,否認したものということができる。
そして,
被告本人も,売上のデータが原告事務所に存在したこと自体についてはこれを認める供述をしているのであるから,
顧問税理士である被告において,売上に関する資料が原告から提出されなかったなどという弁解が通用するものでない。
すなわち,
被告本人は,原告事務所を何度も訪問していたと供述しているのであるから,
仮に,被告に送付されていない会計基礎資料があったのであれば,
顧問税理士として,原告事務所を訪問した際,原告事務所に存在した売上に関する会計基礎資料を持ち帰って,これをデータ入力しなければならない義務があったというべきである。
(ウ) したがって,被告が,平成14年7月期の確定申告手続において,売上金額の一部を売上に計上しなかったことについては,少なくとも税理士としての善管注意義務に違反した過失があるといわざるを得ない。
イ 取消事由②の過大仕入計上について
(ア) 平成14年11月22日から原告の顧問税理士となった南原三郎(以下「南原税理士」という。)は,
平成15年7月期において原告の確定申告書の作成業務を行っていた際,
前年度である平成14年7月期の資料を検討したところ,
被告が作成した平成14年7月期の仕入高の総勘定元帳(甲19)に,
仕入先が空欄となっている借方の金額のうち,消費税分を加えるとキリのよい数字になるもの,
例えば平成13年8月30日の176万1905円は消費税を加えると185万円となり,
同年10月31日の285万7143円に消費税を加えると300万円となるというものが存することが判明した。
実際の仕入額であれば,毎月月末に上記のような高額のキリのよい丸い数字になるということはあり得ないことであり,
上記総勘定元帳を作成するソフトは,
ある金額を入力すると自動的に消費税分を除いた金額で仕入勘定に計上されるような仕組みになっていることから,
南原税理士としては,被告が毎月,月末に摘要欄を空欄として,適当に実体のない丸い数字の金額を仕入として入力した結果,平成14年7月期の仕入額金額の合計が総額約3909万円にもなったものと推定した。
(イ) そして,南原税理士としては,
その原因は,被告が,原告の平成14年7月期の広告宣伝費を一部しか計上せず,
計上しなかった分を架空の仕入額として振り分けて入力したことにより架空の過大仕入額となったものであり,
広告宣伝費を計上しなかった理由としては,
以下のとおり,被告が原告の平成14年7月期の広告宣伝費の領収書ファイルを紛失したために計上することができなかったものと推定した。
a 原告の平成14年当時の経理担当者の乙山は,
それまで領収書を日付順に茶色のスクラップ帳にはり付けていたが,
被告の指示により,
科目ごとにA4の紙に領収書をはり,
そのA4の紙を厚さ5cm程度の青色の表紙の2穴ファイルにとじるようになり,
同年9月ころ,同年7月期の決算報告の準備のため,
被告に対し,
上記の領収書をはり付けたファイルのほか通帳のコピーをはじめとする書類一式をA4のファイルが10冊入る程度の大きさの段ボール箱に入れ,
原告事務所近くのクロネコヤマトの事務所から宅急便で送付したものであり,
被告本人自身,中身の確認はしていない旨供述するものの,
原告から書類が宅急便で送られてきたことは認めているものである。
そして,
被告が平成14年10月初旬ころ,
原告の顧問税理士を辞めるに当たり,
乙山が同年9月ころに宅急便で送付した資料も含め,
原告からの預かり書類一切を原告に返却した際,乙山が返却された書類を確認したところ,
領収書ファイル1冊が紛失していることが判明した。
原告代表者及び丁本が,
被告にこの事実を指摘したところ,被告は,初めからそのようなファイルはないなどと回答し,原告代表者や丁本との間で押し問答になった。
被告本人は,これを否定する供述をするが,証人丁本の証言及び原告代表者本人の供述に照らし,たやすく採用することができない。
b 被告の作成した平成14年7月期の確定申告書には,広告宣伝費として1391万3700円が計上されているが(甲18),丁本は,余りに低い額であったので,その旨被告に指摘した。
原告が広告会社に対し,上記申告額以上の支出をしたことは,
原告と取引関係にあった4社の広告会社のうち,
現在も存在している有限会社ザ・トップオブアマウンテンに対する支出額265万円(甲20)及び有限会社マックスプロモーションに対する支出額1728万3000円(甲21,22の1ないし27)の合計額のみで1993万3000円となっていること,
原告は,平成12年2月21日から同年7月31日までの期間に878万9000円(甲25の1),平成13年7月期には4174万0441円(甲25の2),平成15年7月期には6096万7975円(甲25の3),平成16年7月期には4670万7482円(甲25の4),平成17年7月期には3006万9007円(甲25の5)の広告宣伝費を支出していることに照らし,明らかである。
c 前記のとおり,西村税理士は,平成14年7月期の確定申告手続は自分が行うものと考えていたことから,毎月,試算表を作成していた。
西村税理士が作成した総勘定元帳の広告宣伝費部分の記載によれば,
平成14年7月期の広告宣伝費は,原告の店舗「ムーン」の広告宣伝費が2092万5750円(甲35),
同「サン」の広告宣伝費が2765万9413円(甲36),
原告本社の広告宣伝費が1万0683円(甲37)の合計4859万5846円となり,
原告は平成14年7月期に約5000万円近くの広告宣伝費を支払ったことになるのであって,
西村税理士が算出した上記金額と被告が申告した広告宣伝費の金額1391万3700円を比較すると,3468万2146円もの差異があることになる。
そして,西村税理士が作成した総勘定元帳(甲35ないし37)の内容によれば,
現金で支払った広告宣伝費は約3377万円,
銀行振込による広告宣伝費は約1482万円となることからすると,
被告の計上した平成14年7月期の広告宣伝費の1391万3700万円という数字は,
銀行振込による広告宣伝費の金額の一部であって,
現金払のものは一切無視されているものと推認される。
すなわち,
被告は,毎月,乙山をはじめとする原告の経理担当者から送付されていた通帳のコピーに基づいて入力された広告宣伝費のみを計上したのであって,
原告から送付された領収書ファイルの金額については計上していないことが推認されるというべきである。
d 被告が作成した総勘定元帳(甲17)の広告宣伝費の平成14年7月31日借方欄に「修正」として3069万3775円の記載がされているが,
データ入力の根拠となる会計基礎資料がなければこのような金額を入力することはできないから,
この金額が入力されているということは,被告が広告宣伝費の領収書を受領し,その内容を確認していたことを裏付けるものといえる。
この点につき,
被告は,上記総勘定元帳(甲17)は,A社が使用している会計ソフトにより作成される書面と外枠の寸法が異なっており,これは原告が作成したものであって,A社あるいは被告が作成したものではなく,
したがって,上記総勘定元帳の広告宣伝費の記載をもって,被告が原告からそのデータ入力のための基礎資料を渡されていたことの証左となるものではない旨主張する。
しかし,甲17の外枠の寸法が縮小された経緯は以下のとおりである。
すなわち,甲17は,
原告事務所から南原税理士事務所へファックス送信された甲29を入手した原告代理人弁護士が,
証拠として提出するため,その上部印字部分を修正カバーテープで消してコピーしたものであり,
その原本は甲30である。
このように甲30をファックス送信したものが甲29,17であるから,
ファックス送信されると,紙の上部に送信者のファックス番号等が印字されるため,その記載された表や文字が縮小されるのであり,横幅も約8mm縮小される(甲41,42)ものである。
そして,原本である甲30の表の外枠の大きさは,縦25.8cm,横18.2cmであり,被告が自ら作成したことを認める甲19,乙59,60とほとんど同じである。そうすると,甲17の外枠の寸法の違いをもって,これが被告が作成したものでないことの根拠となるものではない。
そして,西村税理士は,原告の税務・会計業務について,原告本社,「ムーン」,「サン」の3つに分けて行っていたものであり(甲35ないし37),
西村税理士において,原告本社,「ムーン」,「サン」をまとめて1つの数字として入力した甲17の総勘定元帳を作成することはあり得ず,その総勘定元帳は,被告が作成して原告に送付したものであることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,被告は,原告から,領収書のはり付けられたファイルの送付を受けながら,これを紛失したことから,これを隠すため,原告に無断で広告宣伝費を架空の仕入額として振り分け,毎月架空の仕入額を総勘定元帳にデータ入力していたものと推認するのが相当である。
したがって,被告がした架空仕入額の計上は,税理士としての善管注意義務に違反することが明らかである。
ウ 取消事由③の給与過大計上について
(ア) 法人が役員と特殊の関係にある使用人に対して支払う給与のうち,不相当に高額な部分は,法人税法36条の2により費用計上することができないところ,被告は,平成14年の税務調査において,渋谷税務署から原告代表者の父への給与金額を減額するよう指導されていたにもかかわらず,これに反して,高額な給与を計上し続けていた。
原告代表者は,税務・会計業務の知識を全く有していなかったことから,今後,株式会社に組織変更し,原告代表者の父を取締役として就任させるためには給与を支払っておいた方がよいという被告からの指示をそのまま真に受けて,父に給与を支払っていたものであった。
(イ) 被告は,原告の顧問税理士として,税務署からの減額指導があった時点で,すぐに原告代表者の父に対する給与金額を減額させなければならなかったにもかかわらず,そのような指導を行わず,漫然と計上を続けていた結果,給与の過大計上が本件青色申告承認取消処分の原因となったものである。
(ウ) この点につき,被告は,被告が関与した平成14年の税務調査のときは,給与過大計上について否認されなかった旨主張する。
しかし,平成14年の税務調査において,税務署から給与の過大計上について否認されなかったのは,平成12年7月期及び平成13年7月期については,単に1回目の指摘だから見逃されたにすぎず,翌期の平成14年7月期以降については,税務署から被告に対し,減額指導がなされていたものである。
したがって,平成14年の税務調査のときに給与過大計上について否認されなかったからといって,その後減額指導があったにもかかわらず,それをそのまま放置してよい理由となるものではない。
(エ) 以上のとおり,被告は,原告代表者の父に対する給与を減額するよう原告を指導すべき義務があったのにこれを怠り,平成14年7月期の確定申告手続において,過大な給与をそのまま計上したものであって,これが税理士としての善管注意義務に違反したことは明らかというべきである。
エ 取消事由④の社員及びホストからの預かり金収益振替忘却について
(ア) 被告は,従業員及びホストからの受領金を「収入」として計上しなければならないのに,これを誤って入力し,各月の仕訳を行った結果,預かり金1090万1733円について,否認を受けたものである。
(イ) この点につき,被告は,社員及びホストからの預かり金収益振替忘却とは売掛金の処理のことと思われるなどと主張する。
しかし,被告がこの受領金を収入に計上しなかったのは,被告のデータ入力の誤りによるものであり,売掛金の処理とは無関係である。
すなわち,例えば,平成14年7月期の5月分の給与,報酬台帳(甲15の1ないし3)から本来行われるべき仕訳は,別紙A表のとおりであって,A表は,南原税理士が平成14年7月期の5月分の給与,報酬台帳に基づいて正確に仕訳したものである。
原告は,福利厚生費,旅行積立金及び寮費を給与から天引きしていたのであるから,A表(1)ないし(4)欄にあるように,その旨を記載した上で,「雑収入」として収益計上しなければならなかった。
本社社員の給料台帳(甲15の1)の差引支給額の最終合計値は,367万7160円であり,
A表の摘要欄「役員・従業員 5月分給与差引支給額未払計上」の未払費用と一致しており,これが正しい仕訳となる。
同様に,「サン」(甲15の2),「ムーン」(甲15の3)の各ホスト報酬台帳の最終合計値の合算額が4624万6900円(「サン」のホストの報酬支給総額2844万7500円+「ムーン」のホストの報酬支給総額1779万9400円)であり,A表の摘要欄「5月分ホスト報酬 差引支給額未払計上」の未払費用と一致しており,これが正しい仕訳となる。
これに対し,別紙B表は,南原税理士が,被告の作成した総勘定元帳(甲16の1ないし4)に基づいて,被告が行ったと思われる仕訳を再現したものであり,
被告作成の総勘定元帳(甲16の1ないし4)によると,実際には平成14年6月5日に支払われている給与等を同年5月31日に支払っているかのような誤った入力がなされている。
しかも,本来「雑収入」として計上すべき各項目(A表の(1)ないし(4))が,総勘定元帳(甲16の1)には記載されていない。
上記のとおり,平成14年5月の本社社員に対する給料並びに「サン」及び「ムーン」のホスト報酬の支給総額は,4992万4060円(367万7160円+2844万7500円+1779万9400円)であるところ(甲15の1ないし3),
被告作成の総勘定元帳(甲16の1)によれば,5127万7060円(5月分役員報酬89万0480円+5月分給与291万6680円+5月分報酬4746万9900円)となっており,
実際に支給された額と比べて135万3000円(うち消費税4万4190円)もの差がある。
この差は,雑収入として計上すべき福利厚生費,旅行積立金及び寮費を無視した結果生じたものである。
よって,B表の現金支払合計5127万7060円(B表の5月分役員報酬+5月分給料+5月分ホスト報酬)は,被告が不正確な処理をしたことによる数値であることは明らかである。
そして,否認を受けた受領金1090万1733円は,被告が,本来収益とすべき項目を計上せずに入力し,仕訳を行った各月の収益未計上分の12か月の合算値である。
(ウ) この点につき,被告本人は,積立金は預かり金で対応するとか,経理処理の方法によって異なるなどと述べ,考え方の違いを理由に,上記入力の誤りについて自己に責任がない旨供述する。
しかし,ホストクラブのホストは会社の従業員ではないから,ホストの旅行積立金については預かり金として処理すべきではなく,雑収入に計上しなければならないところ,被告がその計上を行っていなかったため,否認されたのであり,このことは,税理士にとっては当然のことであって,単に考え方の違いで片付けられる問題ではない。
(エ) 以上のとおり,被告が平成14年7月期の確定申告手続において,ホストからの受領金を適切な勘定科目に計上しなかったことについて,被告には,税理士としての善管注意義務に違反した過失があるといわざるを得ない。
(5)
ア 被告が税理士としての善管注意義務に違反することなく適正に平成14年7月期の原告の確定申告手続を行っていれば,原告が本件青色申告承認取消処分を受けることはなく,修正申告による重加算税,延滞税を課税されたり,増加された本税を納付する必要もなかったものであり,
原告は,
①修正申告に係る法人税の重加算税330万4000円(甲2),
②修正申告に係る法人税の延滞税152万2900円(甲3),
③修正申告に係る消費税の重加算税46万5500円(甲4),
④修正申告に係る消費税の延滞税15万9500円(甲3),
⑤修正申告に係る事業税の重加算税108万4600円(甲5),
⑥修正申告に係る事業税の延滞金35万8200円(甲6),
⑦修正申告に係る都民税の延滞金18万8800円(甲6),
⑧過大仕入否認に基づく法人税本税508万4700円(1694万9000円(甲1)×0.3(甲7,8)),
⑨過大仕入否認に基づく事業税本税170万8400円(1694万9000円(甲1)×0.1008(甲9)),
⑩過大仕入否認に基づく都民税本税87万9500円(508万4000円×0.173(甲7)),
⑪青色申告承認取消に基づく法人税増加額42万3700円(192万6000円(甲12)×0.22(甲8)),
⑫青色申告承認取消に基づく事業税増加額9万6300円(192万6000円(甲12)×0.05(甲9)),
⑬青色申告承認取消に基づく都民税増加額7万3100円(42万3000円×0.173(甲13))の合計1534万9200円の損害を被ったものと認められる。
イ また,本件訴訟の追行状況等に照らせば,上記損害賠償請求をするために必要な弁護士費用相当額も,被告の善管注意義務違反の行為による原告の損害と認めるのが相当であり,その相当因果関係のある損害額としては,上記増加税額の損害の約1割である150万円をもって相当というべきである。
2 争点(1)(原告と被告の間で本件顧問契約が締結されたか)について
前記認定事実によれば,原告代表者は,平成11年秋ころ,被告との間で,被告が原告の顧問税理士として原告の会計処理業務や確定申告業務等の事務処理一切を行うことを委任する旨の本件顧問契約を締結し,その後,同年12月22日,原告が設立されたことにより,本件顧問契約の当事者は原告と被告になったものと認められる。
3 争点(2)(被告に本件顧問契約における債務不履行ないし実際の税務処理上の不法行為があったか)について
前記認定事実によれば,原告が本件青色申告承認取消処分を受けた原因となった取消事由①ないし④につき,被告には,原告の顧問税理士としての善管注意義務に違反した行為があったものと認められ,これは本件顧問契約上の債務不履行に該当するというべきである。
4 争点(3)(原告の損害額)について
前記認定事実によれば,原告が被告の本件顧問契約における債務不履行により被った相当因果関係のある損害としては,増加税額合計1534万9200円に弁護士費用相当額150万円を加えた1684万9200円と認めるのが相当である。
第4 結論
よって,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを容認し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 (裁判官・橋本昌純)
別紙〈省略〉