計算の誤りによる更正の請求

 

 

 

 更正すべき理由がない旨の処分の取消請求事件、最高裁判所第2小法廷判決/平成19年(行ヒ)第28号

判決 平成21年7月10日、 最高裁判所民事判例集63巻6号1092頁について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 法人税の確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)68条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除するに当たり,計算を誤ったために控除を受けるべき金額を過少に記載したとしてされた更正の請求が,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとされた事例

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 原判決を次のとおり変更する。

   

第1審判決を次のとおり変更する。

  

(1) 被上告人が平成17年3月25日付けでした上告人の同13年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税についての更正のうち,納付すべき税額18億1636万2400円を超える部分を取り消す。

  

(2) 上告人のその余の請求を棄却する。

 

2 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       

 

 

 

理   由

 

 

 

上告代理人三浦啓作ほかの上告受理申立て理由について

 

1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 

(1) 上告人は,清涼飲料等の製造及び販売等を目的とする株式会社であるが,平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき,同14年3月29日付けで,被上告人に対し,所得金額を59億6350万3090円,納付すべき税額を18億1759万7100円とする確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。

 

(2) 上告人は,本件確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)68条1項の規定を適用して本件事業年度中に支払を受けた配当等に対して課された所得税額を控除するに当たり,控除を受ける所得税額を法人税法施行令(平成18年政令第125号による改正前のもの。以下同じ。)140条の2第3項所定の方法(いわゆる銘柄別簡便法)により計算した。

 

その際,

 

上告人は,本件確定申告に係る申告書(以下「本件確定申告書」という。)に添付した別表六(一)の「所得税額の控除に関する明細書」中の「銘柄別簡便法による場合」の「銘柄」欄に所有する株式28銘柄をすべて記載し,「収入金額」欄に配当等として支払を受けた金額(合計38億7151万5233円)を,「所得税額」欄に配当等に対して課された所得税額(合計7億7430万2963円)を各銘柄別にすべて記載したものの,

 

「利子配当等の計算期末の所有元本数等」欄及び「利子配当等の計算期首の所有元本数等」欄に,本来ならば配当等の計算の基礎となった期間(平成12年1月1日から同年12月31日まで)の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載すべきところ,

 

誤って

 

本件事業年度の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載したため,

 

上記28銘柄のうち8銘柄につき銘柄別簡便法の計算を誤り,その結果,配当等に係る控除を受ける所得税額につき,本来合計7億7418万0111円とすべきところを合計6億2292万4172円と過少に記載した。

 

 

 

 なお,法人税法施行令140条の2第1項によれば,公社債の利子及び株式配当等に対する所得税については,その元本を所有していた期間に対応するものとして計算される所得税の額が控除の対象とされており,

 

同条3項の定める銘柄別簡便法とは,配当等の計算の基礎となった期間の期末及び期首の各時点における所有元本数を銘柄ごとに比較し,期末の方が少ない場合には配当等に対して課された所得税額の全額を控除し,期末の方が多い場合には,期首に所有していた元本数に対応する所得税額についてはその全額を,期中に増加した元本数に対応する所得税額については,当該元本を期央に取得したものとみなして,その2分の1を控除するものとして計算するという方法により,元本を所有していた期間に対応する所得税の額を銘柄ごとに計算するものである。

 

 

 

(3) 上告人は,本件確定申告において所得税額の控除の計算を誤るなどした結果,納付すべき法人税額を過大に申告したとして,平成14年7月10日付けで,被上告人に対し,国税通則法23条1項1号に基づき,所得金額を61億1134万4684円,納付すべき税額を17億2262万9000円とする更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。

 

 

(4) 被上告人は,平成14年9月25日付けで,上告人に対し,本件更正請求につき,更正すべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)をした。

 

 

(5) 上告人は,本件通知処分の取消しを求める訴えを提起したが,その後,被上告人が,本件更正請求に係る点を是正しないまま,これとは別個の理由により,平成17年3月25日付けで,上告人に対し,本件事業年度の法人税につき,所得金額を62億3782万9306円,納付すべき税額を19億1120万5500円とする更正(以下「本件更正処分」という。)をしたので,

 

上告人は,上記訴えを交換的に変更し,本件更正処分のうち納付すべき税額18億1620万9500円を超える部分の取消しを求めている(なお,本件更正処分がされた上記別個の理由自体については当事者間に争いがない。)。

 

 

(6) 第1審判決は,所得税額控除に関する上告人の主張を認めた上,

 

本件更正処分のうち納付すべき税額18億1635万0400円を超える部分を取り消したが,

 

同判決における所得金額及び納付すべき税額の計算には誤りがあり,

 

仮に,配当等に係る控除を受ける所得税額が上告人主張の7億7418万0111円であるとすれば,本件事業年度の法人税につき,所得金額は63億8546万9390円,納付すべき税額は18億1636万2400円と算定される(このことについても当事者間に争いがない。)。

 

 

2 上告人は,本件確定申告において所得税額の控除の計算を誤ったため納付すべき法人税額を過大に申告したことは国税通則法23条1項1号所定の要件に該当するから,

 

7億7418万0111円まで配当等に係る所得税額の控除が認められるべきである旨主張する。

 

これに対し,被上告人は,法人税法68条3項の規定によれば,所得税額の控除は確定申告書に記載された金額が限度となるから,上告人の上記主張には理由がない旨主張する。

 

 

3 原審は,前記事実関係等の下において,要旨以下のとおり判示して,上告人の所得税額控除に関する主張は理由がなく,本件更正処分(原審において審判の対象とされた納付すべき税額18億1635万0400円を超える部分)は適法であると判断した。

 

 

 

(1) 法人税法68条3項の文言はできる限り厳格に解釈されるべきであり,納税者である法人が自由な意思と判断により控除を受ける金額を確定申告書に記載した以上,そこに法令解釈の誤りや計算の誤りがあったからといって,直ちに国税通則法23条1項1号所定の要件に該当するということにはならない。

 

 

 

もっとも,

 

① 例えば,当該金額とその計算に関する明細の記載との間に明らかなそごがある場合において,

 

全体的な考察の結果,転記の際の誤記又は違算によるものであることが明白であるようなときには,

 

その金額の記載を合理的に判断して,本来あるべき正しい金額が記載されているものとして処理すべきである。

 

 

 

また,

 

② 法人税法68条4項に規定する場合との均衡を図る意味で,

 

当該金額を本来あるべき金額よりも過少な額にとどめる原因になった法令解釈や計算の誤りがやむを得ない事情によりもたらされたものであると認められるときは,

 

例外的に更正の請求が許されるべきである。

 

 

 

 

(2) 前記事実関係等によれば,

 

本件が上記(1)①の場合に当たらないことは明白である。

 

また,

 

本件確定申告における所得税額の控除の計算の誤りは,

 

上告人が,本件確定申告書の作成について税理士の関与を求めることもないまま,

 

社内の財務部に所属していた従業員に任せきりにしていたことが一因となっているものと認められるところ,

 

上告人が相当の規模を有する法人であること等を併せ考慮するならば,本件が上記(1)②の場合に当たるということもできない。

 

 

 

 

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

 

 

(1) 所得税額控除の制度について定める法人税法68条1項は,内国法人が支払を受ける利子及び配当等に対し法人税を賦課した場合,当該利子及び配当等につき源泉徴収される所得税との関係で同一課税主体による二重課税が生ずることから,これを排除する趣旨で,当該利子及び配当等に係る所得税の額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している。

 

 

もっとも,

 

同条3項は,同条1項の規定は確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り適用するものとし,

 

この場合において,同項の規定による控除をされるべき金額は,当該金額として記載された金額を限度とする旨規定している。

 

なお,同法40条は,同法68条1項の規定の適用を受ける場合には,同項の規定による控除をされる金額に相当する金額は,当該事業年度の所得の計算上,損金の額に算入しない旨規定している(平成14年法律第79号による改正前においても同様である。)。

 

 

 これらの規定に照らすと,同条3項は,納税者である法人が,確定申告において,当該事業年度中に支払を受けた配当等に係る所得税額の全部又は一部につき,所得税額控除制度の適用を受けることを選択しなかった以上,

 

後になってこれを覆し,同制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨で更正の請求をすることを許さないこととしたものと解される。

 

 

 

(2) 前記事実関係等によれば,上告人は,本件確定申告書に添付した別表六(一)の「所得税額の控除に関する明細書」中の「銘柄別簡便法による場合」の銘柄欄に,その所有する株式の全銘柄を記載し,配当等として受け取った収入金額及びこれに対して課された所得税額を各銘柄別にすべて記載したものの,「利子配当等の計算期末の所有元本数等」欄及び「利子配当等の計算期首の所有元本数等」欄に,本来ならば配当等の計算の基礎となった期間の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載すべきところ,誤って本件事業年度の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載したため,一部の銘柄につき銘柄別簡便法の計算を誤り,その結果,控除を受ける所得税額を過少に記載したというのである。

 

 

その計算の誤りは,本件確定申告書に現れた計算過程の上からは明白であるとはいえないものの,所有株式数の記載を誤ったことに起因する単純な誤りであるということができ,本件確定申告書に記載された控除を受ける所得税額の計算が,上告人が別の理由により選択した結果であることをうかがわせる事情もない。

 

そうであるとすると,上告人が,本件確定申告において,その所有する株式の全銘柄に係る所得税額の全部を対象として,法令に基づき正当に計算される金額につき,所得税額控除制度の適用を受けることを選択する意思であったことは,本件確定申告書の記載からも見て取れるところであり,

 

上記のように誤って過少に記載した金額に限って同制度の適用を受ける意思であったとは解されないところである。

 

 

(3) 以上のような事情の下では,本件更正請求は,所得税額控除制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨のものではないから,

 

これが法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,

 

上告人が本件確定申告において控除を受ける所得税額を過少に記載したため法人税額を過大に申告したことが,国税通則法23条1項1号所定の要件に該当することも明らかである。

 

そうすると,

 

本件更正処分は,上告人主張の所得税額控除を認めずにされた点において,違法であるというべきである。

 

 

5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,本件更正処分のうち納付すべき税額18億1636万2400円を超える部分に係る取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求は,本件更正処分のうち上記金額を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。したがって,以上と異なる原判決を主文のとおり変更することとする。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)