事前求償権を被保全債権とする仮差押えと事後求償権の消滅時効の中断

 

 

 

 

 最高裁判所第3小法廷判決/平成24年(受)第1831号、判決 平成27年2月17日、最高裁判所民事判例集69巻1号1頁について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       

 

理   由

 

 上告代理人井木ひろしの上告受理申立て理由一について

 

一 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。

 

(1) 上告人甲野太郎(以下「上告人太郎」という。)は、平成二年五月一一日、株式会社第一勧業銀行との間で、貸越極度額五〇〇万円の貸越契約を締結した。その際、被上告人は、上告人太郎との間で同年二月二六日に締結した信用保証委託契約(以下「本件信用保証委託契約」という。)に基づき、第一勧業銀行に対し、上記貸越契約に基づく上告人太郎の債務を保証した。上告人太郎は、第一勧業銀行から、上記貸越契約に基づき借入れをし、平成六年一〇月当時の借入残元本の金額は、四九九万九五四八円であった。

 

(2) 上告人甲野花子は、平成二年二月二六日、被上告人との間で、本件信用保証委託契約に基づき上告人太郎が被上告人に対して負担すべき債務について連帯保証する旨の契約をした。

 

(3) 上告人太郎が第一勧業銀行に対する前記(1)の債務につき約定の分割弁済をしなかったため、被上告人は、平成六年一〇月一七日、上告人太郎を債務者として、上告人太郎所有の不動産につき、本件信用保証委託契約に基づく事前求償権を被保全債権とする不動産仮差押命令の申立てをし、同日に仮差押命令を得て、仮差押登記をした。

 

(4) 上告人太郎は、平成六年一一月四日、第一勧業銀行に対する前記(1)の債務の期限の利益を失った。被上告人は、同月一八日、第一勧業銀行に対し、前記(1)の借入残元本四九九万九五四八円及び約定利息四万七四六一円の合計額五〇四万七〇〇九円を代位弁済し、上告人太郎に対する求償権を取得した。

 

(5) 被上告人は、平成二二年一二月二四日、上告人太郎及びその連帯保証人である上告人甲野花子に対し、前記(4)の求償権等に基づき、連帯して五〇四万七〇〇九円及び遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起した。上告人らが上記求償権の消滅時効を主張するのに対し、被上告人は前記(3)の事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより消滅時効が中断していると主張して争っている。

 

二 原審は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、民法四五九条一項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(以下「事後求償権」という。)の消滅時効をも中断する効力を有するなどとして、被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

三 所論は、事前求償権と事後求償権とが発生要件等を異にし、別個の権利であることに照らせば、事前求償権を被保全債権とする仮差押えによっては事後求償権の消滅時効は中断しないと解すべきであるというものである。

 

四 事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。

 

 事前求償権は、事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁昭和五九年(オ)第八八五号同六〇年二月一二日第三小法廷判決・民集三九巻一号八九頁参照)、事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば、事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。また、上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば、委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法四五九条一項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは、当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当でない。

 

五 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 大谷剛彦 大橋正春 山崎敏充)