特例財団法人の同一性を失わせるような根本的事項の定款の変更

 

 

 

 最高裁判所第3小法廷判決/平成25年(受)第2307号、判決平成27年12月8日、最高裁判所民事判例集69巻8号2211頁について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 特例財団法人は,その同一性を失わせるような根本的事項の変更に当たるか否かにかかわらず,その定款の定めを変更することができるか

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 原判決中,上告人の寄附行為に加えられた第1審判決別紙寄附行為変更目録記載の各変更の無効確認請求に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。

 

 

(1) 上告人の寄附行為に加えられた第1審判決別紙寄附行為変更目録記載1及び3の各変更の無効確認請求に係る被上告人の訴えを却下する。

  

(2) 上告人の寄附行為に加えられた第1審判決別紙寄附行為変更目録記載2及び4の各変更の無効確認請求を棄却する。

 

 

3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       

 

 

 

理   由

 

 

第1 事案の概要

 

 

1 本件は,宗教法人である被上告人が,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号。以下「整備法」という。)による改正前の民法(以下「旧民法」という。)の規定に基づく財団法人として設立され,平成20年に整備法40条1項により一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団・財団法人法」という。)の規定による一般財団法人(特例財団法人)として存続することとなり,平成23年に整備法45条の認可を受けて通常の一般財団法人に移行した上告人に対し,上告人の寄附行為に加えられた第1審判決別紙寄附行為変更目録記載1から4までの各変更(以下「本件各変更」といい,それぞれの変更をその番号に従い「本件変更1」などという。)は,設立者の意思に反し,根本的事項を変更するものであるから無効であるなどと主張して,本件各変更の無効確認等を求める事案である。

 

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 

(1) 上告人は,大正元年,A宗の宗派であるB派の門徒らにより,旧民法34条の規定に基づく財団法人として設立された。設立時の上告人の寄附行為には,要旨次のような定めがあった。

 

ア 上告人の目的についての定め(以下,上告人の目的について定める条項を「本件目的条項」という。)

 

 上告人は上記宗派の維持を目的とする。

 

イ 上告人の解散に伴う残余財産の帰属についての定め(以下,上告人の解散に伴う残余財産の帰属について定める条項を「本件残余財産条項」という。)

 

 上告人の解散に伴う残余財産は上記宗派に寄附する。

 

ウ 上告人の寄附行為の変更についての定め(以下,上告人の寄附行為の変更について定める条項を「本件変更条項」という。)

 

 上告人の寄附行為は,所定の手続を経て,主務官庁の認可があったときに変更することができる。

 

(2) 被上告人は,昭和27年に宗教法人として設立され,上記宗派の地位を承継した。

 

(3) 昭和57年4月に認可された本件変更1において,本件目的条項が,納骨堂の経営をも目的とする旨に変更された。

 

(4) 昭和63年5月に認可された本件変更3において,本件残余財産条項が,上告人の残余財産は,所定の手続を経た上で,上告人と同一又は類似の目的を有する公益法人又は団体に寄附する旨に変更された。

 

(5) 上告人は,平成20年12月1日,一般社団・財団法人法及び整備法の施行により,一般社団・財団法人法の規定による一般財団法人として存続しつつ整備法第1章第4節に定められた経過措置が適用される特例財団法人となり(整備法40条1項,42条1項),その寄附行為は定款とみなされた(整備法40条2項)。

 

(6) 上告人は,平成23年2月,整備法45条の認可を受け,通常の一般財団法人に移行した。この移行に際し,次のとおり,定款とみなされた上告人の寄附行為が変更された。

 

ア 本件変更2において,本件目的条項が,C寺伝承の有形・無形の文化及び広く仏教文化を興隆する事業を行うことにより世界の精神文化発展に寄与すること等を目的とする旨に変更された。

 

イ 本件変更4において,本件残余財産条項が,上告人の残余財産は,所定の手続を経て,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益法人認定法」という。)5条17号に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に贈与する旨に変更された。

 

3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,本件変更2から4までの無効確認を求める限度で被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

(1) 本件変更1及び3について

 

 財団法人の本質は設立者の意思の実現であることからすると,旧民法の規定に基づく財団法人の寄附行為の変更においては,当該法人の同一性を失わせるような根本的事項の変更は許されない。そして,本件変更1は上告人の同一性を失わせるような根本的事項の変更ではなく有効であるが,本件変更3は上告人の同一性を失わせるような根本的事項の変更であって無効である。

 

(2) 本件変更2及び4について

 

 財団法人の本質は設立者の意思の実現であることからすると,整備法の規定に基づく特例財団法人の定款の変更においても,当該法人の同一性を失わせるような根本的事項の変更は許されない。そして,本件変更2及び4は上告人の同一性を失わせるような根本的事項の変更であって無効である。

 

 

第2 上告代理人桂充弘ほかの上告受理申立て理由第4について

 

 1 所論は,整備法の規定に基づく特例財団法人の定款の変更において,当該法人の同一性を失わせるような根本的事項の変更は許されないとした原判決の前記第1の3(2)の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。

 

 2 特例財団法人は,一定期間内に公益法人認定法の規定による公益財団法人への移行の認定又は通常の一般財団法人への移行の認可を受けなかった場合には,上記期間の満了の日に解散したものとみなされる(整備法44条から46条まで)ところ,旧民法の規定に基づく財団法人の寄附行為の記載事項(旧民法37条)と公益財団法人又は通常の一般財団法人の定款の記載事項(一般社団・財団法人法153条等)とは異なる部分があるから,特例財団法人が公益財団法人又は通常の一般財団法人へ移行する場合には,定款の変更が不可欠である。また,特例財団法人が通常の一般財団法人に移行するためには,解散するものとした場合における残余財産の額に相当する金額を公益の目的のために支出するための計画を作成して実施しなければならないとされるが(整備法119条1項,123条1項),このような計画を作成するために特例財団法人の目的に係る定款の定めを変更しなければならない場合も少なからずあり得るものと考えられる。

 

 そして,整備法は,特例財団法人の定款の変更に関する経過措置等を定めているところ,これによれば,評議員を置く特例財団法人(以下「評議員設置特例財団法人」という。)は,目的並びに評議員の選任及び解任の方法以外の事項に係る定款の定めについて,評議員会の決議によってこれを変更することができるほか,目的並びに評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定めについても,評議員会の決議によって,一般社団・財団法人法200条3項の規定によることなく,これを変更することができる旨を定款で定めることで変更することができるとされている(一般社団・財団法人法200条1項,整備法94条4項において読み替えて適用される一般社団・財団法人法200条2項,整備法94条5項)。

 

 また,評議員設置特例財団法人を除く特例財団法人には,一般社団・財団法人法200条の適用がなく,その定款に定款の変更に関する定めがある場合には,当該定めに従い定款の変更をすることができ,上記定めがない場合には,定款の変更に関する定めを設ける定款の変更をした上で,当該定めに従い定款の変更をすることができるとされている(整備法94条1項から3項まで)。他方,整備法には,特例財団法人の同一性を失わせるような根本的事項に関する定款の変更が許されない旨を定めた規定は存在しない。

 

 そうすると,特例財団法人は,所定の手続を経て,その同一性を失わせるような根本的事項の変更に当たるか否かにかかわらず,その定款の定めを変更することができるものというべきである。このように解することは,先に述べた定款変更の必要性に沿うものであり,また,旧民法の規定に基づく財団法人から通常の一般財団法人への移行を円滑かつ適切に行うための措置を定める整備法の趣旨にも合致するものである。

 

3 これを本件についてみると,本件変更2及び4は,特例財団法人である上告人において,本件変更条項に従ってされたものであるから,整備法94条2項に基づく定款の変更として有効というべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

 

 

第3 上告代理人桂充弘ほかの上告受理申立て理由第3について

 

 前記第2の説示に照らすと,本件変更4がされる前の本件残余財産条項の内容がいかなるものであったとしても,本件変更4が有効であるから,本件変更3の無効確認を求める利益はない。そうすると,本件変更3の無効確認請求に係る被上告人の訴えは却下すべきものである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

 

第4 職権による検討

 

 前記第2の説示に照らすと,本件変更2がされる前の本件目的条項の内容がいかなるものであったとしても,本件変更2が有効であるから,本件変更1の無効確認を求める利益はない。そうすると,本件変更1の無効確認請求に係る被上告人の訴えは却下すべきものである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

 

第5 結論

 

 以上によれば,原判決中,本件各変更の無効確認請求に関する部分はいずれも破棄を免れず,同部分につき第1審判決を取り消し,本件変更1及び3の無効確認請求に係る被上告人の訴えを却下し,本件変更2及び4の無効確認請求を棄却すべきである。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 山崎敏充 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)