ドローン事件

 

 

 

  東京地方裁判所判決/平成27年(刑わ)第1109号、平成27年(特わ)第1341号、判決 平成28年2月16日 、LLI/DB 判例秘書

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 原発再稼働阻止のためとして,発炎筒(緊急保安炎筒)を遠隔操作で自動着火可能な状態に加工し,放射性物質を含有する土砂を入れた容器と共に「ドローン」と称する小型無人飛行機に搭載し,ドローンを総理大臣官邸屋上に落下させたとする威力業務妨害,火薬類取締法違反被告事件。本件では,業務妨害罪の客体,威力該当性,業務妨害性,故意,違法性阻却事由の成否が争われた。裁判所は,本件犯行は高い計画性のもと,ドローンの落下により官邸職員の業務に支障をもたらすのみならず,身体に危害を加える危険もあったなどとして弁護人らの主張を退け,被告人の自首などを考慮して懲役2年,執行猶予4年を言渡した事例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  被告人を懲役2年に処する。

  未決勾留日数中190日をその刑に算入する。

  この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。

  押収してある小型無人飛行機1台(平成27年押第138号符号1)および東京地方検察庁で保管中の緊急保安炎筒2本(平成27年東地領第6230号符号2および3)を没収する。

 

        

 

 

理   由

 

 

(罪となるべき事実)

 

  被告人は,

 

第1 経済産業大臣の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,平成27年3月下旬頃から同年4月7日頃までの間,福井県小浜市(以下略)被告人方において,火薬類である緊急保安炎筒1本の着火部分にニクロム線を取り付けるなどして遠隔操作により電気点火が可能な状態に変形し,もって火薬類を製造した。

 

第2 平成27年4月9日午前3時40分頃,東京都港区(以下略)□□第2駐車場において,あらかじめ内部に放射性物質を含有する土砂を入れ放射性物質の存在を示す標識および「RADIOACTIVE」の文字が印刷されたシールを貼付した容器,緊急保安炎筒等を搭載した「ドローン」と称する小型無人飛行機1台を遠隔操作し,これを同所から同都千代田区永田町2丁目3番1号所在の総理大臣官邸の上空まで飛行させた上,同官邸敷地内に降下させる操作をして同官邸屋上に落下させ,同月22日午前10時25分頃に至り,これを発見した内閣官房内閣総務官室総理大臣官邸事務所庁舎管理担当所長補佐Aらに,警備担当者への連絡,発見時の状況説明等の対応を余儀なくさせて,同人らの正常な庁舎維持管理業務等の遂行を困難にし,もって威力を用いて人の業務を妨害した。

 

(証拠の標目)

 

判示事実全部について

 

被告人の公判供述

  

証人A,同Bの各公判供述被告人の検察官調書8通(乙4ないし7,9[不同意部分を除く],10ないし12)および警察官調書2通(乙2,3)

  

Cの検察官調書(甲38)

  

D(甲13),E(甲40)の各警察官調書

  

 取扱状況報告書(甲4),実況見分調書(甲5),検証調書(甲8),写真撮影報告書2通(甲17,23),捜査報告書2通(甲18,21),機体等起動操作状況報告書(甲22),証拠品写真撮影報告書(甲30),導通試験結果報告書(甲33),捜査関係事項照会回答2通(甲35,37),品名および販売元特定捜査報告書(甲39),鑑定嘱託書謄本2通(甲31,42)および鑑定書2通(甲32,43)

  

 緊急保安炎筒2本(平成27年東地領第6230号符号2および3。甲46,47),押収してある小型無人飛行機1台(平成27年押第138号符号1。甲51)

 

 

 

(争点に対する判断)

 

 1 被告人は,公判廷において,緊急保安炎筒を加工した上,加工済みの緊急保安炎筒等を搭載した無人小型飛行機(以下「本件ドローン」という。)を総理大臣官邸に落下させたと供述し,これを受けて弁護人は,判示第1の事実について,被告人が緊急保安炎筒に加えた加工は,火薬類取締法に定める変形にあたらないから無罪である,判示第2の事実について,(1)公務は業務妨害罪の客体に含まれない,(2)威力を用いたといえない,(3)業務を妨害するものといえない,(4)被告人に威力業務妨害罪の故意が認められないとして,被告人は無罪である,仮に業務妨害罪が成立するとしても,当該行為は,平穏な態様による請願行為ないし表現の自由で保護される行為であるとして刑法35条の正当行為にあたり,被告人は無罪である旨主張する。

 

2 認定できる事実

  

 関係各証拠によれば,次の事実が認められる。

  

ア 被告人は,平成27年3月下旬頃から同年4月7日頃までの間,被告人方において,キャップを外した緊急保安炎筒2本の着火部に,それぞれ,ニクロム線を取り付けるとともにリード線を用いてサーボやバッテリー等に接続させ,遠隔操作によりバッテリーから電気を供給しニクロム線を加熱することで着火部が発火するよう緊急保安炎筒を改造した。また,被告人は,福島県から採取した放射性物質を含有する土砂を茶色ボトルに入れ,放射能標識および放射能があることを意味する英語であるRADIOACTIVEの文字が印刷されたシールを貼付し,前記茶色ボトルと前記緊急保安炎筒2本を本件ドローンに搭載するとともに,「原発再稼働反対 官邸サンタ」と書かれた紙片を本件ドローンに貼付した。本件ドローンには,4枚のプロペラおよび4個のプロペラガードが取り付けられており,本件ドローンの縦横は51センチメートル,全高は20センチメートルであった。

  

イ 被告人は,平成27年4月9日午前3時40分頃,総理大臣官邸から約170メートル離れた東京都内の駐車場において,緊急保安炎筒の発火装置を作動させずに本件ドローンを遠隔操作し,総理大臣官邸敷地の上空まで飛行させ,本件ドローンが総理大臣官邸敷地上空に位置していることを確認した上,総理大臣官邸敷地内に降下させる操作をして総理大臣官邸屋上に落下させた。

  

ウ 本件ドローンが発見された際,本件ドローンの搭載物につながれたニクロム線やリード線はむき出しになっていた。前記緊急保安炎筒は,1本あたり約76グラムの火薬が使用され,伝火薬から発炎剤に炎が移ると温度約1000度くらいで5分から6分燃焼するというものであり,2本とも黒色に塗装されていた。

  

エ 官邸事務所の庁舎管理担当の所長補佐をしていたA(以下「A」という。)は,平成27年4月22日,庁舎管理業務の一環として保守点検の対象となる施設の習熟に努めるべく,官邸および公邸の視察を予定し,官邸の屋上を視察したところ,同日午前10時25分頃本件ドローンを発見した。Aは,通常の庁舎維持管理業務としての想定を超えると考え警備担当の職員に連絡し,予定していた視察を中止するとともに,上司である官邸事務所長に状況を説明して,警察官の事情聴取を受けるなどした。

  

オ 官邸事務所の庶務担当の所長補佐をしていたB(以下「B」という。)は,同日,年間の業務計画を策定するなどの通常業務に加え,内閣人事局に対して官邸事務所の業務説明等を予定していたが,本件ドローンが発見されたことにより,これらの業務を中止し,報道機関からの問い合わせに対する対応,国会議員に対する説明を行うなどした。

 

3 火薬類取締法違反の成否

 

  火薬類取締法の目的は,火薬類による災害を防止し,公共の安全を確保することにあること(1条)に加え,火薬類の製造には許可を要するとされ(3条),その許可にあたっては,製造施設の構造や方法等が技術上の基準に適合するものであることなどを基準と定めていること(7条)からすれば,火薬類取締法が経済産業大臣の許可を受けない火薬類の製造を禁止している趣旨は,火薬類が元来燃焼や爆発などの危険を有することから,国民の生命および身体を保護するため,国が定めた基準の下許可制をとることにより,火薬類を適切に取り扱うためである。これに加えて,変形が火薬類の製造の一類型と位置付けられている(3条)ことからすれば,変形とは火薬類の実質に変化を加えない加工をいい,かかる加工であれば加工の手段や程度を問わず,変形と認められると解される。

 

  本件の緊急保安炎筒はがん具煙火(火薬類取締法2条2項,火薬類取締法施行規則1条の5第6号)に分類されるものであって火薬類(法2条1項3号ヘ)にあたり,被告人が行った改造は,当該緊急保安炎筒にニクロム線を取り付けるなどして遠隔操作によって発火できるようにするというものであって,火薬類の実質に変化を加えない加工にあたり,変形と認められる。

 

  被告人は同法3条の許可を受けず,正当な理由なく火薬類を変形したものであって,火薬類取締法違反の事実が認められる。

 

 4 威力業務妨害罪の成否

 

(1) 業務妨害罪の客体

 

  業務妨害罪の客体には,強制力を行使する権力的公務は含まれないと解される(最高裁決定昭和62年3月12日刑集41巻2号140頁参照)ところ,本件において妨害の対象となった職務は,AやBら官邸職員が行う官邸事務所の庁舎管理や庶務などの事務であり,これらの職務が強制力を行使する権力的公務でないことは明らかであるから,Aらの業務は威力業務妨害罪の客体と認められる。

 

(2) 威力該当性

 

  威力とは,人の自由意思を制圧するに足る勢力をいう(最高裁判決昭和28年1月30日刑集7巻1号128頁参照)。決して小さいとはいえない本件ドローンを一定の速度で落下させれば,それだけで発見者に対して,衝突の危険などを感じさせる。また,本件ドローンに搭載されていた容器には,放射性物質を含有する旨の表示があり,発見者に対して,当該容器に生命や身体に危険を与えるような高線量の放射性物質が在中していると誤解させ,被曝などの危険性を感じさせる。そして,本件ドローンに搭載されていた緊急保安炎筒は,そもそも一定時間にわたって高温の炎を出すものであって一度発火すれば周囲に引火するおそれがある上,一見して市販されているような緊急保安炎筒とわかるものではなく,ニクロム線などが取り付けられていたことからすれば,発見者に対して,本件ドローンに搭載されていた緊急保安炎筒が爆発物であると誤解させ,爆発などの危険性を感じさせる。さらに,これらの特徴を備えた本件ドローンを厳しい警備が敷かれ,我が国の行政執務の拠点である官邸に夜間落下させれば,発見した官邸職員に対して,何者かが政務に混乱や危害を加えるためにドローンを用いて被曝や発火爆発等を企図したとの印象を与え得る。このような印象を受けた官邸職員が,本件ドローンによる被曝や発火爆発等を恐れて,通常業務を中断し異常事態への対応を必要とするおそれは非常に高く,本件ドローンを官邸に落下させるという行為は,Aら官邸職員の自由意思を制圧するに足る勢力にあたるといえ,威力性を充足すると認められる。

 

  弁護人は,緊急保安炎筒の電気点火装置の電源を入れなかったこと,ドローンを墜落させたわけではなく着陸させようとしていたこと,ドローンを着陸させた時間も深夜であり人のいない場所に着陸させたことなどから,威力性に該当しないと主張する。しかし,これらの事実をもってしても,先に述べた本件ドローンとその搭載物の特徴および落下の態様からすれば,威力該当性は否定されない。

 

(3) 業務妨害性

 

  業務妨害罪においては,現に業務妨害の結果の発生を必要とせず,業務を妨害するに足りる行為が行われれば足りると解される(最高裁判決昭和28年1月30日刑集7巻1号128頁参照)。本件ドローンを官邸に落下させる行為は,(2)で述べたように,何者かが政務に混乱や危害を加えるためにドローンを用いて被曝や発火爆発等を企図したとの印象を与え,本件ドローンを発見した官邸職員が,本件ドローンによる被曝や発火爆発等を恐れて,通常業務を中断し異常事態への対応を必要とするおそれが非常に高いといえることからすれば,本件ドローンを官邸に落下させる行為がAら官邸職員による官邸事務所の庁舎管理等の業務を妨害するに足りる行為と認められることは明らかである。

 

 なお,これに加え,庁舎管理業務の一環として官邸および公邸の視察を予定し,官邸の屋上を視察していたAは,本件ドローンの発見に伴い,予定していた視察を中止するなど通常業務を中断するとともに,上司である官邸事務所長に状況を説明して,警察官の事情聴取を受けるなど本件ドローンの落下に伴う異常事態への対応を迫られており,現に妨害の結果が生じている。また,庶務担当業務の一環として年間の業務計画を策定するなどの通常業務に加え,内閣人事局に対して官邸事務所の業務説明等を予定していたBも,本件ドローンの発見に伴い,これらの業務を中止し,報道機関からの問い合わせに対する対応,国会議員に対する説明を行うなど本件ドローンの落下に伴う異常事態への対応を迫られており,現に妨害の結果が発生している。

  

 弁護人は,本件ドローンの発見に伴う処理や連絡は,まさにAらの業務なのであるから,業務を妨害する性質のものでないし,実際に官邸職員の意思を制圧したものでなくAらの自己判断に基づいて行われたものであると主張する。

 

 しかし,本件ドローンの発見に伴う処理や連絡がAらの業務であったとしても,官邸職員が本来行う予定であった職務を中止ないし変更させて,本件ドローンへの対応という危機対応業務にあたらせる危険があったことからすれば,Aらの業務を妨害するものにあたるといえる。また,Aらはまさに本件ドローンが落下したことによって,自身の職務内容を変更して危機対応業務にあたることになったのだから,本件行為により当該官邸職員の自由意思が制圧されたといえる。

 

 

(4) 故意

 

  被告人は,あらかじめ放射線物質表示入りの容器を作成し緊急保安炎筒を改造してこれらを本件ドローンに搭載した上,本件ドローンを官邸に落下させているから,当該行為が,本件ドローンを発見したAら官邸職員の自由意思を制圧するとともに,それらの職務を妨害する危険を有していたことを十分理解していたといえるのであって,故意も認められる。

 

  弁護人は,

 

①被告人が本件ドローンを落下ではなく着陸させようとしていたこと,

 

②被告人は権力的公務を担う警察官などに本件ドローンを発見させる目的で本件ドローンを着陸させようとしており,本件ドローンの発見に伴う処理や連絡も当該職員の業務であるという認識を有していたこと,

 

③被告人に緊急保安炎筒を爆発物と誤解させる意図はなく,外形的にも緊急保安炎筒と一見してわかるような態様で搭載していたこと,

 

④被告人は本件ドローンの外からは見えない位置に「原発再稼働反対 官邸サンタ」の文字が貼られた紙片を裏返して貼り付けており,本件ドローンの発見者に紙片の存在も気付いてもらいたいとの意図を有していたのであって,発見者の自由意思を制圧する意思はなかったことから,

 

 故意が認められないと主張する。しかし,被告人が本件ドローンを降下させる操作をし,本件ドローンに搭載されたカメラから見える映像が確認できなくなっても降下の操作を続けたことは被告人供述からも認められるところであって,被告人も本件ドローンが一定速度で官邸に落下することについては認識していたといえる。

 

 また,被告人が本件ドローンを飛行させて落下させたのは,警備員や官邸の維持管理を担当する職員も含めた官邸職員全体に,本件ドローンに気付いてもらうとともに,騒ぎを起こしてもらうことで原発再稼働を阻止するためであって,

 

 被告人に特段権力的公務のみを害する意思があったとは認められない。

 

 そして,被告人には改造するなどした緊急保安炎筒を搭載して本件ドローンを降下させたという外形的事実についての認識はあり,緊急保安炎筒自体が威力性を有すること,爆発物と誤解しうる外見であったことは前記のとおりであって,故意は認められる。

 

 これに加えて,紙片の存在に気付いてもらう行為は,自由意思を制圧する行為と両立しうる上,本件紙片の記載内容は,放射能標識等とあいまって,さらに自由意思を制圧する特徴を有しているのであるから,故意を認めるにあたって障害事由とならない。

 

 

 5 違法性阻却事由の成否

 

  弁護人は,本件ドローンを官邸に落下させる行為が,憲法上保障された,平穏な態様による請願行為(憲法16条)ないし表現の自由(憲法21条1項)で保護される行為であるとして正当行為(刑法35条)にあたり,違法性が阻却されると主張する。

 

  請願行為は,方式や提出先など,具体的な手続が請願法によって定められており(請願法2条および3条),請願行為もこれらの手続に則って行うことが憲法上予定されていると解されるところ,

 

 本件ドローンを官邸に落下させる行為は,これらの手続に沿って請願するものでなく,むしろ官邸職員の自由意思を制圧するなどして請願者の意思を伝えるというものであって,請願権によって保護される正当行為とはいえず,その違法性は阻却されない

 

  また,憲法も表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,その手段が他人の権利等の他の法益を不当に害するようなものは許されないというべきであるところ,

 

 本件行為は先述のように官邸職員の自由意思を制圧して対応等を余儀なくさせる危険があるというものであって,路上で演説を行ったりビラを配布するなど代替的な表現手段があることにかんがみても,本件行為が社会通念上許されない態様であることは明らかである。

 

 そうすると,本件ドローンを官邸に落下させる行為を処罰することは,表現の自由に対する必要かつ合理的な制限として憲法上是認されるものであって,当該行為は正当行為にあたるといえず,その違法性は阻却されない。

 

6 結論

 

  以上によれば,被告人には,罪となるべき事実記載のとおり,火薬類取締法違反および威力業務妨害の各事実が優に認められる。弁護人の主張は採用できない。

 

 (公訴棄却を求める申立てに対する判断)

 

  弁護人は,本件公訴提起が平等原則(憲法14条)に違反する不平等起訴であることを理由に公訴棄却すべきと主張する。しかし,被告人に,上記のとおり火薬類取締法違反および威力業務妨害罪に該当する事実が認められること,違法性が阻却される事由もないことは明らかであって,本件公訴提起が起訴の裁量を逸脱していたという事実は何ら認められない。

 

(法令の適用)

 

罰条

  判示第1の所為      火薬類取締法58条2号,4条

  判示第2の所為      刑法234条

 

 刑種の選択

  判示第1および第2の各罪 いずれも所定刑中懲役刑を選択

 

併合罪の処理        刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)

 

未決勾留日数の算入     同法21条

 

執行猶予          同法25条1項

 

 没収

  緊急保安炎筒2本(平成27年東地領第6230号符号2および3)

               

 同法19条1項1号,2項本文(判示第1の火薬類取締法違反の犯罪行為を組成したもので,犯人が所有するもの)

  小型無人飛行機1台(平成27年押第138号符号1)

               

 刑法19条1項2号,2項本文(判示第2の威力業務妨害の犯罪行為に供したもので,犯人が所有するもの)

 

 

(量刑の理由)

 

  被告人は,あらかじめ着陸目標であった総理大臣官邸の状況を下見したり,ドローンの飛行実験を行ったりしたのみならず,緊急保安炎筒を遠隔操作により自動着火できるよう改造するとともに放射性物質を含有する土砂を採取しこれらをドローンに搭載して,本件威力業務妨害行為に及んだのであって,本件犯行には高い計画性が認められる。

 

 用いられたドローンは小さくなく,発火の可能性がある緊急保安炎筒なども搭載されていたことからすれば,ドローンの落下によって,官邸職員の業務に支障をもたらすのみならず,その身体に危害を加える危険もあったといえる。

 

 もっとも,搭載されていた緊急保安炎筒は市販されていたものであり被告人により施された改造も引火などの被害を拡大するものではなかったこと,土砂に含まれていた放射線量が人の生命に直ちに支障をもたらすものとまではいえないことからすれば,

 

 人の生命や身体に及ぼす危険性が高かったとまではいえない。

 

 本件威力業務妨害行為の結果,官邸職員は実際に異常事態への対応を迫られ,現に業務を妨害されたことに加え,総理大臣官邸に搭載物を積んだドローンを墜落させるという行為は模倣性が高いものであって,

 

 一般予防の見地からもその結果は軽視できない。

 

 これに加え,本件威力業務妨害行為に及んだ動機は,原発の再稼働を阻止するためというものであるが,

 

 どのような主張であれ,合法的な政治的言論によるべきであることからすれば,その目的を達成するために本件犯行に及んだという動機に酌量すべき点は乏しいといえる。

 

 これらの犯情に照らせば,本件は懲役刑を選択すべき事案といえる。

 

  これに加え,被告人に前科がないこと,被告人が捜査機関に発覚する前に自首をし,その後事実関係については素直に供述していることなど,被告人に有利な情状事実が認められることに照らせば,被告人には社会内で自力更生する機会を与えるのが相当であると考え,主文掲記の刑に処した上,4年間執行猶予を付すこととした。

 

 (求刑 懲役3年,主文同旨の没収)

 

   平成28年2月16日

     東京地方裁判所刑事第10部

         裁判長裁判官  田邊三保子

            裁判官  高森宣裕

            裁判官  高田浩平