非上場株式の評価(6)

 

 

 

 名古屋高等裁判所金沢支部/平成13年(行コ)第4号、判決 平成14年5月15日、 税務訴訟資料252号順号9121について検討します。

 

 

 

【判示事項】

 

 

1 控訴人が,法人税の確定申告に対する法人税更正処分には判断を誤った違法があり,同更正処分を前提とする過少申告加算税賦課処分及び重加算税賦課処分も違法であるとして,各処分の取消を請求した事案であり,原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。 

 

      

2 本件更正処分は適法であり,同処分を前提とする本件重加算税賦課処分及び本件過少申告加算税賦課処分も適法であって,控訴人の請求はいずれも理由がないとして,本件控訴を棄却した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

        

 

事実及び理由

 

 

第1 当事者の求めた裁判

 

1 控訴人(控訴の趣旨)

  

(1)原判決を取り消す。

 

(2)被控訴人が控訴人の平成5年3月21日から平成6年3月20日までの事業年度の法人税につき,平成8年4月4日付けでした原判決別紙課税処分目録記載の課税処分のうち,申告欠損額11億3468万2359円を超える部分を取り消す。

 

(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 

2 被控訴人

  

主文同旨

 

第2 事案の概要

  

1 本件は,不動産賃貸,証券投資等を目的とする株式会社である控訴人が,控訴人の平成5年3月21日から平成6年3月20日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告に対して被控訴人が平成8年4月4日付けでした下記(1)の法人税更正処分には,控訴人の所得金額を認定するに当たって寄附金該当性についての判断を誤った違法があり,同更正処分を前提とする下記(2),(3)の同日付けの過少申告加算税賦課処分及び重加算税賦課処分も違法であるとして,これら各処分の取消しを求めた事案である。

   

(1)所得金額を500億2742万3267円,納付すべき税額を185億8272万3300円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)

   

(2)過少申告加算税額を27億6436万0500円とする賦課課税処分(以下「本件過少申告加算税賦課処分」という。)

   

(3)重加算税額を3306万1000円とする賦課課税処分(以下「本件重加算税賦課処分」という。)

  

2 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。

    

 そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴に及んだ。

  

3 本件の前提となる事実は,次の(1)ないし(4)のとおり訂正するほかは,原判決の「第二 事案の概要」の一記載のとおりであるから,これを引用する。

   

(1)原判決5頁5行目の「相互林業株式会社」を「相互林業株式会社(以下「相互林業」という。)」と改める。

   

(2)原判決6頁末行目の「A」を「a」と改める。

   

(3)原判決の7頁末行目ないし8頁1行目の「これにより、相互不動産は原告の一〇〇パーセント子会社となった。」の次に,「なお,相互不動産は,後記5の新株発行及び増資払込みの時点でも,控訴人の100パーセント子会社であったものであり,この状態は,控訴人がフォーエスキャピタル株式会社へ相互不動産株式合計50万2900株を売却した平成5年12月20日(後記6参照)まで続いた。」と付加する。

   

(4)原判決34頁3行目の「所得金額の認定のうち」の次に,「前記10(一)の(1)有価証券売却損計上誤り,(11)寄附金の損金不算入額,及び(12)寄附金の損金算入額の各金額のみを争っており,」と付加する。

 

 

 第3 本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張

  

1 本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張は,2項において,当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の「第二 事案の概要」の二,三記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決46頁3行目の「基本通達九ー六ー一の一ないし三」を「基本通達9-6-1の(1)ないし(3)」と改める。

  

2 当審における控訴人の主張

   

(一)本件更正処分の理由付記に矛盾・齟齬があることについて(当審における新主張)

     

 被控訴人は,本件更正処分において,相互不動産(控訴人の完全子会社)が行った額面普通株式(1株の額面金額50円)5万2900株の新株発行を控訴人が1株当たり100万円ですべて引き受け,増資払込金として払い込んだ総額529億円(以下,この払込みを「本件増資払込み」といい,これに係る増資払込金を「本件増資払込金」という。)のうち,額面金額を超える528億9735万5000円を寄附金と認定し,本件更正処分に係る通知書の中で,「時価が発行価額を下回るような増資法人の株式を発行価額を超える金額で引受け払い込むことは,結果として自己の負担において増資法人の他の株主に利益を移転させる行為であり,正常な経済取引では到底行われないものです」と述べている。

  

 しかし,その一方で,本件更正処分に係る通知書は,控訴人が本件増資払込み前である平成5年11月24日の時点において,「相互不動産の発行済株式のすべてである45万株を所有するに至っていた」とも述べているのである。

     

 そうすると,相互不動産の株主は控訴人一人であるから,本件増資払込みが「控訴人の負担において相互不動産の他の株主に利益を移転させる」などという事態を発生させる余地は全く存しないこととなる。

     

 してみれば,本件更正処分の理由付記には,矛盾・齟齬を生じていることが明らかである。

   

(二)本件増資払込金のうち,額面金額かつ発行価額でもある1株50円を超える部分は法人税法37条の寄附金に当たるか(原判決の争点1)についての補充主張

   

(1)法人税法37条の「寄附金」の解釈について

   

ア 法文の規定からも明らかなように,法人税法37条6項の「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」とは,「金銭その他の資産の贈与」又は「経済的な利益の無償の供与」を意味するものと解される。また,「金銭その他の資産の贈与」とは,「民法上の贈与」を指すものであることも疑問の余地のないところである。このように解してこそ,同条が規定する寄附金の意義を通常人や正常な経済人が理解し得るのである。

    

イ そうだとすれば,増資のために支出された本件増資払込金が寄附金に該当しないのは明らかである。

      

 これに対して,被控訴人は,控訴人が出資した本件増資払込金を増資払込金とは認めず,寄附金に該当する旨主張するが,一個の金銭の出捐行為について,その受入れ側にとって増資払込金であるとされるものが,その支払者側にとっては増資払込金に当たらないなどということは,通常人の行う経済取引においては絶対に有り得ないことである。この点で被控訴人の認定判断は,正常な経済人の常識と乖離したものである。

    

ウ 被控訴人は,法人税法37条に規定する寄附金をとらえて,「寄附金とは,民法上の贈与である必要はなく,資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りる」と主張しているが,このような解釈は,明文の規定と著しく乖離するものであり,課税要件明確主義を損なうものである。

   

 

(2)控訴人の純資産価額の減少がないことから寄附金認定は許されないことについて

   

ア 寄附金の損金不算入の制度の趣旨

      

 法人税法37条に定める寄附金の損金不算入の制度の趣旨は,寄附金もまた法人の純資産額の減少ではあるが,法人が支出した寄附金の全額が無条件で損金となるものとすると,その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し,その寄附金は国において負担したのと同様の結果となることから,これを排除することにある。

   

 このような制度の趣旨からすると,寄附金の損金不算入制度は,法人税法22条3項が損金と規定する「原価」,「費用」若しくは「損失」などと同じく,純資産減少の事実が当該法人に発生していることを当然の前提としている筈である。換言すれば,純資産額減少の事実の発生のないところに,寄附金を認定する余地などは全くないのである。

    

イ 控訴人の純資産価額の減少が実際にないことについて

    

(ア)控訴人の純資産価額は,本件増資払込みの直前とその直後及び貸付金回収後とを比較すると,後記(イ)ないし(エ)のとおり,いずれも453億2198万7000円のままで,変化していない。換言すれば,本件増資払込みの後で,控訴人の純資産額が減少した事実は何ら存しないのである。

   

 したがって,本件増資払込みによって寄附金が発生したとする被控訴人の認定は,その前提要件を欠いたものであって,もとより違法というべきである。

 

     (イ)本件増資払込み直前における控訴人の純資産価額

   ① 資産の合計額         633億1580万5000円

   ② 負債の合計額         179億9381万8000円

   ③ 差引純資産価額(①-②) 453億2198万7000円

     (ウ)本件増資払込み直後における控訴人の純資産価額

   ④ 資産の合計額        1162億1580万5000円

   ⑤ 負債の合計額         708億9381万8000円

   ⑥ 差引純資産価額(④-⑤) 453億2198万7000円

    

 上記④の資産の合計額が1162億1580万5000円と上記①より529億円増加したのは,相互不動産の額面劣後株式110万株の取得代金5500万円は自己資金により賄ったので,資産の増減に関係しなかったものの,相互不動産の額面普通株式5万2900株の取得代金529億円は,銀行からの借入金によって調達したため,資産の部の「有価証券勘定」の金額が529億円だけ増加したことによるものである。

      

 上記⑤の負債の合計額が708億9381万8000円と上記②よりも529億円増加したのは,相互不動産の額面普通株式5万2900株の取得代金529億円をシティバンク・エヌ・エイ大手町支店から借り入れたためである。

    

 なお,本件事業年度の控訴人の法人税の確定申告を担当したC税理士の計算によれば,相互不動産は,本件増資払込み前は527億4851万6000円の債務超過の状態であったが,控訴人が増資に応じたことから,債務超過を解消し,2億648万4000円の純資産額を有するに至った。そして,これにより,控訴人の相互不動産に対する貸付金は全額回収可能になったが,その反面,控訴人が本件増資払込みによって取得した相互不動産株式については,その取得価額529億5500万円と相互不動産の純資産価額2億648万4000円との差額527億4851万6000円の含み損を生じることとなった。

  

 これは,控訴人の本件増資払込みによって,控訴人の相互不動産に対する「貸付金に係る回収不能額」が「相互不動産株式の含み損」に転化したことを意味するものである。

     

(エ)貸付金529億円回収後における控訴人の純資産価額

 

⑦ 資産の合計額         633億1580万5000円

⑧ 負債の合計額         179億9381万8000円

⑨ 差引純資産価額(⑦-⑧) 453億2198万7000円

 

       

 上記⑦⑧が上記④⑤よりもいずれも529億円減少しているのは,控訴人が相互不動産に対する貸付金941億6214万5873円のうち529億円を回収し,これをもってシティバンクからの借入金529億円を返済したために,貸付金残高が529億円減少し,その反面で負債の額が529億円減少したからである。

    

ウ 完全親会社であるから本件増資払込みにより純資産は減少しないことについて

     

 被控訴人は,「控訴人が本件増資払込みにおいて,1株当たり100万円を払い込んでも,それは相互不動産の債務超過額を減少させるにとどまり,取得した新株の時価に何ら反映されるものではないから,本件増資払込金のうち,その額面金額であり発行価額でもある1株50円を超える99万9950円の部分は何ら直接の対価はなく,その分だけ控訴人の純資産は減少している。」と主張する。

      

 しかしながら,本件増資払込みが行われた時点において,控訴人は,相互不動産の発行済株式の全部を所有する完全親会社であり,しかも,本件増資払込みを行ったのは控訴人だけであるから,本件増資払込みが行われた後においても,控訴人は,相互不動産の完全親会社であったのである。被控訴人の上記主張は,この明白な事実を無視したものであって,失当というほかない。

  

 すなわち,株式は,会社財産に対する割合的持ち分の性質を有し,株主は会社の純資産を株式保有割合に応じて間接的に保有するものであるから,控訴人が529億円の増資払込みを行ったとしても,控訴人は,当該529億円の増資払込金を含む相互不動産の全財産を,相互不動産の100パーセント株主として間接的に保有しており,控訴人が本件増資払込みを行ったことによって,529億円の財産を失ったとする事実は,何ら生じていないのである。

  

 したがって,「本件増資払込金のうち,その額面金額であり発行価額でもある1株50円を超える99万9950円の部分につき,控訴人の純資産は減少している」旨の被控訴人の主張は,事実に反し,失当である。

    

エ 貸付金の弁済により529億円が返還されているから純資産は減少しないことについて

     

 控訴人が相互不動産に増資払込金として払込んだ529億円の金員は,その払込みの翌日には,控訴人の相互不動産に対する貸付金の返済金として,再び控訴人に返還されているのであり(その貸付金の返済については,当初から本件増資払込みの条件とされていた。),この点からいっても,控訴人の純資産の減少は生じていない。

      

 控訴人は,相互不動産の債務超過の解消を図るために,相互不動産に対して増資払込みをして,控訴人の貸付金の返済を受けるという手法を採用したのであって,このような手法を採用することは,正常な経済人として合理的,かつ,正当な行為である。

      

 上記のように,ある者がある者に対して金銭の交付をしたが,その交付の直後において,当該金銭がその受領者からその支出者に返還されている場合に,「金銭の贈与があった」などとは,正常な経済人や一般社会人は認識しないのである。

    

オ まとめ

     

 以上のとおりであるから,「本件増資払込金のうち,その額面金額であり発行価額でもある1株50円を超える99万9950円の部分は何ら直接の対価はなく,その分だけ控訴人の純資産は減少している。」とする被控訴人の主張は,控訴人と相互不動産との間の本件増資払込行為を歪曲したものであり,正常な経済人の認識に著しく反するものであって,失当というほかはない。

   

(3)控訴人のした本件増資払込行為は,「債務の株式化」であり,合理的経済取引であることについて

   

ア 控訴人は,本件増資払込みの直前である平成5年12月9日現在において,相互不動産に対して,941億6214万5873円の貸付金を有していた。

    

イ 他方,平成5年12月9日における相互不動産の資産状況は,次のとおり,577億5202万1531円(時価評価額によるもの)の債務超過であった。

 

 

  Ⅰ 時価評価額による所有資産の合計額 427億3224万0404円

  Ⅱ 負債の合計額          1004億8426万1935円

     (負債の内訳)

   ① 控訴人からの借入金       941億6214万5873円

   ② 福井銀行からの借入金       58億円

   ③ マンションの賃借人から

   の預り保証金             2億5728万2254円

   ④ 未払金(清水建設ほか16件)  1億6606万2711円

   ⑤ 貸付金に係る前受利息及び業務受託

    に係る前受金(Bほか1件)      6442万2437円

  ⑥ 消費税等の租税債務            3331万8759円

   ⑦ 預り金(aほか21件)         79万7501円

   ⑧ 前受金(田中実業株式会社ほか1件)   23万2400円

  Ⅲ 差引債務超過額(Ⅰ-Ⅱ)   577億5202万1531円

 

 

    

ウ 相互不動産の上記負債総額1004億8426万1935円のうちの93.7パーセントを占める941億6214万5873円が控訴人からの借入金であり,福井銀行からの借入金58億円については控訴人所有の上場有価証券が担保に供されていたという状況にあった。

      

 このような状況下では,平成5年12月9日時点における相互不動産の財政状態が577億5202万1531円の債務超過の状態にあったことによって,少なくとも,控訴人の相互不動産に対する貸付金941億6214万5873円のうちの577億5202万1531円については,回収不能の状態,すなわち,貸倒損失の発生が客観的に確認できる状況にあったというべきである。

  

 ただし,当時において,控訴人としては,控訴人が依頼したC税理士が計算した平成5年12月9日現在の相互不動産の債務超過額527億4851万6000円(千円未満切り捨て)に基づいて,控訴人の相互不動産に対する貸付金941億6214万5000円(千円未満切り捨て)のうちの527億4851万6000円が回収不能となっている金額(貸倒損失の額)であると認識していた。

    

エ このように上記貸付金941億6214万5873円のうち少なくとも527億4851万6000円(C税理士計算額)は,回収不能の状態にあって,客観的に貸倒損失の発生が確認できる状況にあったのであるから,これにつき,法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の(4)に定めるところに従って,貸倒損失を計上した場合には,上記527億4851万6000円を損金の額に算入することができたのである。

  

 これに対して,原判決は,平成5年12月9日現在における相互不動産の財政状態が577億5202万1531円の債務超過の状態にある事実を認定しながら,控訴人の相互不動産に対する貸付金941億6214万5873円について,「回収不能が客観的に確認できるとは到底いえない」として,

 

① 相互不動産の平成5年3月期末における債務超過額は,本件増資払込金のうち1株50円を超える部分である528億9735万5000円をはるかに下回る286億8652万9397円であったこと,

 

② 相互不動産が平成6年3月期中に事業を閉鎖あるいは廃止して休業した事実はないこと,

 

③ 平成6年3月期中に,控訴人以外の債権者が相互不動産に対して債務免除をした事実はない上,かえって,福井銀行勝山支店は,本件増資払込み直前である平成5年12月1日,6億5000万円の貸付けを行っていること,

 

④ 控訴人は,本件増資払込み以降である平成6年1月10日及び同年2月28日,1億8000万円の貸付けを行い,さらに平成7年3月期中には合計12億5000万円の貸付けを行っていること,

 

⑤ 相互不動産は,平成7年2月22日,福井銀行勝山支店に対し,上記③の債務を含め,13億4000万円を返済していることを挙げているが,

 

これらの事柄は,いずれも回収不能の事実を否定する根拠となるものではなく,この点において原判決の認定判断は,失当というべきである。

  

 なお,被控訴人は,

 

(ア)控訴人の相互不動産に対する貸付金の一部が回収不能であったということはできないと主張する一方で,

 

(イ)本件増資払込みにおいて,1株当たり100万円を払い込んでも,それは相互不動産の債務超過額を減少させるにとどまり,控訴人の取得した新株式の時価に何ら反映されるものではなく,本件増資払込金額のうち発行価額1株当たり50円を超える99万9950円の部分(総額528億9735万5000円)は何ら直接の対価はなく,寄附金に該当すると主張するが,この(ア),(イ)の主張は二律背反であり,被控訴人の主張は矛盾している。

    

 

オ ところで,上記回収不能損の額527億4851万6000円(C税理士計算による債務超過額)を損失の額に計上するには,相互不動産に対する貸付金941億6214万5873円のうちの527億4851万6000円について,債務の株式化を図って,相互不動産の発行する新株式(増資払込金額527億4851万6000円)に変換した上で,当該新株式を時価評価額零円(純資産価額方式によって算定される評価額)で第三者に譲渡して,株式譲渡損の額527億4851万6000円(譲渡収益の額零円から譲渡原価の額527億4851万6000円を控除した金額)を計上する,という方法が存在する。

  

 

 この「債務の株式化」の方法は,自己の有する債権を株式に変換して,当該株式を第三者に譲渡することによって,当該債権に係る回収不能損の額を顕在化しようとする方法であり,もとより,当該損失の額は,税法上も当然に損金の額に算入されるべきものである(法人税法22条3項)。

 

 

カ 本件増資払込行為によってもたらされた経済的効果は,控訴人が相互不動産に対して有していた貸付金のうちの529億円が消滅して,相互不動産の発行した新株式5万2900株(払込み価額529億円)を控訴人が所有することになったということであるから,その実質は,貸付金の現物出資が行われたのと全く同様のものであり,かつ,一般経済社会で行われている「債務の株式化」そのものがなされたものである。

  

 

 そして,控訴人は,相互不動産に対する貸付金941億6214万5873円のうちの527億4108万3600円について,「相互不動産株式売却損」の形をもって,これを損失の額に計上したものである。

キ したがって,本件増資払込みは,一般経済社会において,合理的な経済行為として是認あるいは推奨されている「債務の株式化」を図ったものであって,まさに合理的な経済取引というべきである。これを捉えて,「何ら経済的合理性もない」とする被控訴人の主張は,一般経済社会の常識と著しく乖離するものであって,まさに不当というべきものである。

   

 

(4)寄附金認定に関する被控訴人の主張及び原判決の判断の不当性について

   

ア 本件増資払込みの対価について

     

 被控訴人は,本件増資払込みによって得られる直接的な対価はないと主張する。しかしながら,控訴人は,本件増資払込みに対する対価として,相互不動産が発行した普通額面新株式の全部(5万2900株)を取得して,相互不動産の100パーセント株主の地位を保持しているのである。

 本件増資払込みを行ったことによって,控訴人が得た相互不動産の額面普通株式5万2900株こそ本件増資払込みによる直接的な対価そのものにほかならない。

    

イ 被控訴人及び原判決の論理矛盾について

     

 被控訴人及び原判決は,「本件増資払込みによっても,相互不動産の債務超過の状態は解消していないから,本件増資払込みによって控訴人が取得した新株式は無価値である」との認定判断しているが,この認定判断によれば,本件増資払込金の全額,つまり,控訴人が本件増資払込みによって取得した新株式の全部が経済的に無価値であるということになる。

そうだとすれば,本件増資払込金の全額を寄附金と認定するのでなければ,論理一貫しないこととなる。しかるに,被控訴人及び原判決は,「本件増資払込金のうち発行価額(1株当たり50円)を超える部分(528億9735万5000円)のみについて,金銭の無償の移転があった」と認定しており,この認定判断は,上記の「本件増資払込みによって控訴人が取得した新株式は無価値である」とする認定判断と明らかに矛盾するものである。

  

(三)本件増資払込金のうち,その額面金額であり発行価額でもある1株50円を超える部分を法人税法132条1項1号により否認し贈与と認めることはできるか(原判決の争点2)についての補充主張

   

(1)控訴人が相互不動産の額面普通株式5万2900株を取得したことによって,控訴人自体に何らの損失も発生していないことは,前記(二)の(2),(3)で主張したとおりである。したがって,本件増資払込み行為によって,控訴人の法人税の負担が不当に減少したいう事実は全く存しない。

     

 また,本件増資払込み前において,控訴人は,相互不動産に対する貸付金の含み損527億4351万6000円を有していたのであるから,控訴人がフォーエスキャピタル株式会社に対して,aらから贈与を受けていた45万株を含む相互不動産の額面普通株式50万2900株を代金1億5891万6400円(1株当たり316円)で売却したことは,適正な価額による売却行為ということになる(売却代金1億5891万6400円が適正な価額であることは,被控訴人においても積極的に認容しているところである。)。すなわち,控訴人が,フォーエスキャピタル株式会社に対して相互不動産の額面普通株式50万2900株を代金1億5891万6400円で売却したことによって,法人税の負担を不当に減少させたなどという事実は全く存しないということになる(適正価額による株式の売却行為を捉えて,法人税の負担を不当に減少させたなどということのできないことは,論ずるまでもないところである。)。

  

(2)以上のとおりであるから,本件増資払込行為及び相互不動産株式50万2900株の売却行為について,法人税法第132条(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定を適用する余地は,全く存しないというべきである。

 

 

 

 

 

 

第4 当裁判所の判断

 1 本件更正処分の理由付記に矛盾・齟齬があるとの主張について

  

(一)証拠(甲19)によれば,本件更正処分に係る通知書には,控訴人が指摘するように,「時価が発行価額を下回るような増資法人の株式を発行価額を超える金額で引受け払い込むことは,結果として自己の負担において増資法人の他の株主に利益を移転させる行為であり,正常な経済取引では到底行われないものです」との記載があることが認められるところ,

 

 前記(原判決の「第二 事案の概要」の一の4,当審において一部訂正)のとおり,本件増資払込みがあった時点において,相互不動産は,控訴人の100パーセント子会社であったのであるから,上記の記載のうち,「自己の負担において増資法人の他の株主に利益を移転させる行為」との部分は,本件事案の下では妥当しないものであり,この点に関する限り,控訴人の主張はもっともである。

   

 

(二)しかしながら,本件更正処分に係る通知書(甲19)には,

 

「甲社(相互不動産)の額面普通株式に対する経済合理性を著しく欠いた高額での増資払込金額のすべてを資本等取引として支出されたものと認めることはできません。」との記載や

 

「甲社(相互不動産)の増資時における額面普通株式の払込金額のうち,発行価額を超える金額は甲社に対する寄付金と認められます」との記載もあることが認められるのであるから,

 

これらの記載を総合すると,本件増資払込金のうち発行価額(50円)を超える部分については,その払込みに何ら経済的合理性もない行為であることを理由として,

 

当該部分を法人税法37条の寄附金に該当すると判定して,本件更正処分をしていることが明らかである。

 

したがって,控訴人が指摘する上記の部分は,措辞適切を欠くものであっても,通常の取引価格よりも高額な増資払込みをした場合に生じる一般的な経済効果を説明したにすぎないと解され,本件更正処分の実質的な根拠を構成するものではないと認められる。

 

  そうすると,本件更正処分の理由付記に矛盾・齟齬があるとまでは認められず,控訴人の主張は採用できない。

 

 

 2 本件増資払込金のうち,額面金額かつ発行価額でもある1株50円を超える部分は法人税法37条の寄附金に当たるか(原判決の争点1)について

 

 

(一)当裁判所も,原判決と同様に,本件増資払込金のうち,額面金額かつ発行価額でもある1株50円を超える部分は法人税法37条の寄附金に該当すると判断するが,その理由は,(二)項において,原判決を訂正し,(三)項において,当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか,原判決の「第三 争点に対する判断」の一の1,2記載(原判決の76頁2行目から99頁2行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

  

(二)原判決の訂正

    

(1)原判決83頁8行目の「前記前提事実(3ないし6、8)」を「前記前提事実(2ないし6,8)」と改める。

    

(2)原判決の83頁9行目ないし同10行目の「原告ら相互タクシーグループは、」の次に,「aが多額の相続税を納付する必要があったことを契機として,」と付加する。

    

(3)原判決84頁2行目の「平成五年一一月当時、」の前に,「亡Dが平成3年7月19日に死亡したことにより,aは,最終的に,195億9141万4900円もの多額の相続税を納付する必要が生じた。そして,」と付加する。

    

(4)原判決84頁2行目の「原告株式と相互林業株式」を「控訴人株式と相互林業株式(いずれも非上場株式)」と改める。

    

(5)原判決85頁1行目の「株式」を「上場株式」と改める。

    

(6)原判決の85頁3行目ないし同4行目の「aの京都相互林業に対する株式の売却に対する課税は、同人に新たな債務を負担させることとなるので、」を「aが京都相互林業に対して控訴人株式と相互林業株式を売却すると,売却益に課税されて,aに新たな負担を生じさせることになるので,」と改める。

    

(7)原判決85頁末行目の「原告の京都相互林業に対する上場株式の売却」を「控訴人が京都相互林業に対して行う上場株式の売却」と改める。

    

(8)原判決86頁10行目の「原告の京都相互林業に対する上場株式の売却が時価で行われれば、」を「控訴人が京都相互林業に対して,時価で上場株式を売却すれば,」と改める。

    

(9)原判決87頁2行目の「相互不動産株式」を「相互不動産株式(非上場株式)」と改める。

    

(10)原判決の88頁5行目の「右上場株式」から同7行目の「価額を下げ、」までを,「控訴人が保有する上場株式を京都相互林業に売却して,売却益が発生すると,控訴人株式の1株当たりの純資産価額は上昇することになるから,控訴人株式の売却価額を低く設定するためには,まず貸付金の減少と株式売却損を発生させて,控訴人株式の1株当たりの純資産価額を下げ,」と改める。

    

(11)原判決94頁9行目の「基本通達九ー六ー一の一ないし三」を「基本通達9-6-1の(1)ないし(3)」と改める。

    

(12)原判決95頁1行目の「法二三条二項」を「法33条2項」と改める。

  

(三)当審における控訴人の補充主張に対する判断

    

(1)法人税法37条の「寄附金」の解釈について

  

ア 控訴人は,法人税法37条6項に規定する「金銭その他の資産の贈与」とは,「民法上の贈与」を指すものであり,株式増資の際の増資払込金が寄附金に該当しないのは明らかであると主張する。

   

イ しかしながら,次に述べる寄附金の損金不算入の制度趣旨並びに法人税法37条6項,7項の規定の文言に照らせば,法人税法37条の「寄附金」と認められるものは,民法上の贈与という法形式が採用された場合に限られるものではないと解すべきである。

    

(ア)法人税法37条に定める寄附金の損金不算入の制度の趣旨は,寄附金は,対価を伴わないから法人の資産を減少させるものではあるが,法人が支出した寄附金の全額を無条件で損金に算入するとすれば,国の財政収入の確保を阻害するばかりではなく,寄附金の出捐による法人の負担が,法人税の減収を通じて国に転嫁され,課税の公平上適当ではないことから,これを是正することにあると解される。しかし,法人が支出する寄附金には,それが法人の収益を生み出すのに必要な費用としての側面を有するものもあり,それがどれだけ費用の性質をもち,どれだけが利益処分の性質をもつのかを客観的に判定することはすこぶる困難である。そこで,法人税法は,行政的便宜並びに公平の維持の観点から,統一的な損金算入限度額を設け,寄附金のうちその限度額の範囲内の金額は費用として損金算入を認め,それを超える部分の金額は損金に算入しないことにしたのである。

    

(イ)法人税法37条6項は,寄附金の額につき,「寄附金,拠出金,見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず,内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらの費用に類する費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。以下この条において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額による」と規定して,寄附金と認定されるものは,名義のいかんを問わないことを明らかにしている。

    

(ウ)また,法人税法37条7項は,「内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において,その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは,当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は,前項の寄附金の額に含まれるものとする。」と規定している。それ故,この規定によれば,例えば,資産の譲渡が行われ,それが私法上は売買契約であったとしても,その売買代金が売買当時の資産の時価との間に較差があり,その較差が通常の取引を前提にすれば合理的理由がないと認められるときは,法人税法上では,その売買代金額と資産の時価との差額を寄附金と認定できるものと解される。

   

ウ 上記の寄附金の損金不算入制度の趣旨並びに法人税法37条の規定の内容からすれば,法人税法37条の「寄附金」は,民法上の贈与に限らず,経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与であれば足りるというべきである。

 

 そして,ここにいう「経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与」とは,資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって,その行為について通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しないものを指すと解するのが相当である。

     

 よって,控訴人の主張は採用することができない。

   

エ 控訴人は,一個の金銭の出捐行為について,その受入れ側にとって増資払込金であるとされるものが,その支払者側にとっては増資払込金に当たらないなどということは,通常人の行う経済取引においては絶対に有り得ないことである,と主張する。しかし,ここで問題なのは,私法上(商法上)有効な増資払込みであっても,法人税法上,それを「寄附金」と認定することの妥当性なのである。要するに,相互不動産の額面50円の株式5万2900株を控訴人が1株当たり100万円ですべて引き受け,増資払込金として総額529億円を払い込んだ行為が,たとい私法上(商法上)の増資払込みとして有効なものであっても,法人税法の上で,額面50円を超える増資払込金が対価を伴わない実質的な贈与と認定できるかどうかが問題なのである。したがって,同じ増資払込行為を,受入側では増資払込と認定しながら,払込側では寄附金の支出と認めることは,法人税法上では,何ら異とするに足りないのである。これを正解しない控訴人の主張は,失当というほかない。

  

オ また,控訴人は,上記のような解釈が課税要件明確主義を損なう結果となる旨も主張しているが,寄附金該当性の有無は,私法上の法形式にとらわれことなく実質的に判断されるべきものであって,このことは,法人税法37条6項,7項の規定の文言からも明らかであり,上記のような解釈は,何ら課税要件明確主義に反するものではない。

  

(2)控訴人の純資産価額の減少がないことから寄附金認定は許されないとの主張について

  

ア 控訴人は,本件増資払込みの直前と直後とを比較しても,控訴人の純資産価額はいずれも453億2198万7000円であって,純資産価額の減少は生じていないと主張している。

     

 しかし,控訴人の上記主張は,控訴人が取得した相互不動産の額面普通株式(新株)5万2900株を取得価額529億円で資産に計上して計算しているのであるから,本件増資払込みの前後で,控訴人の純資産価額に変動を生じないは当然である。問題は,相互不動産の額面普通株式(新株)5万2900株がどれだけの資産価値を有しているか否かである。

     

 そこで,これを検討すると,前記第2の3の前提事実(原判決引用)のように,平成5年12月9日時点における相互不動産の資産状況は,帳簿価額で551億4977万2749円,時価評価で577億5202万1531円の債務超過であったから,控訴人が本件増資払込金529億円(1株当たり100万円)を払い込んでも,それは相互不動産の債務超過額を減少させるにとどまり,相互不動産が依然として債務超過であることには変わりがなかったのである。したがって,控訴人が本件増資払込みにより取得した相互不動産の額面普通株式(新株)5万2900株の価格は,理論的には零円であって経済的価値はないに等しいものである(ただし,被控訴人は,額面50円の分については,価値を否定していない。)から,相互不動産の額面普通株式(新株)を取得したからといって,これにより控訴人の資産が少なくとも新株の額面金額合計264万5000円を超えて増加することはなく,逆にその取得のための借入金529億円の負債が発生し,その分だけ,控訴人の純資産は減少したと認められる。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

   

イ 次いで,控訴人は,本件増資払込みの前後を通じて,相互不動産が控訴人の完全子会社であることを理由に,本件増資払込みにより純資産は減少しないと主張する。

     

 しかし,控訴人が相互不動産の100パーセント株主として,相互不動産の純資産のすべてを間接的に保有し,それ故に,控訴人の払い込んだ529億円も控訴人が間接的に保有する関係にあるとしても,その実体を吟味しなければならない。

 

 そこで按ずるのに,控訴人の本件増資払込金529億円は控訴人に対する債務の返済に充てられ,資産として残っておらず,しかも,前記のとおり,本件増資払込金によっても,相互不動産の債務超過は解消しなかったのであるから,相互不動産には正(プラス)の純資産は存在していない。

 

 したがって,控訴人が完全親会社として相互不動産の純資産を間接的に保有しているとしても,本件増資払込金は相互不動産の純資産の形成に何ら寄与することはなかったのであるから,本件増資払込みによって控訴人に純資産の減少がなかったということはできない。

 

 このことは,被控訴人が主張するように,増資払込金が,増資会社の純資産を増加させる場合は,その増加分は増資後の株式保有割合に応じた間接所有の対象になることによって取得する新株の時価に反映され,時価を超える払込みがされれば株式の時価は上昇するが,

 

 少なくとも,本件のように,増資払込みが増資会社の債務超過額を減少させるにとどまる場合には,時価を超える払込みがなされても,それが新株に反映されるような関係は存在しないことからも明らかである。

   

 よって,控訴人の上記主張も採用できない。

  

ウ さらに,控訴人は,相互不動産に増資払込金として払込んだ529億円は,その払込みの翌日に控訴人の相互不動産に対する貸付金の返済金として控訴人に返還されていることをもって,控訴人の純資産の減少は生じていない,と主張する。

    

 しかしながら,控訴人のこの主張は,貸付金(資産)の減少を無視するものであって,失当である。すなわち,控訴人が自己の払い込んだ529億円をもって,相互不動産から貸付金の返済を受けたということは,その返済に係る控訴人の貸付金が消滅して,その分だけ資産が減少したことを意味するものであり,控訴人の純資産が減少していないということはできない。

    

(3)控訴人のとった本件増資払込行為は,「債務の株式化」であるとの主張及びこれに関連する主張について

 

ア 「債務の株式化」の主張について

  

(ア)控訴人は,本件増資払込行為の実質は貸付金の現物出資が行われたのと全く同様のものであり,かつ,一般経済社会で行われている「債務の株式化」そのものがなされたものであると主張して,これを前提に,本件増資払込行為は合理的な経済行為であって,寄附金認定は不当である旨主張する。

     

 しかしながら,控訴人が提出する証拠(甲33,甲34,甲35の1,2)によっても窺われるように,企業の再建策として近時注目され,世上行われている「債務の株式化」とは,会社債権者の貸付金など(債務者会社にとっての債務)を現物出資するなどの方法をとることにより,債権を債務者会社の株式に振り替えることをいうものと解される。

 

 そして,この「債務の株式化」により,債務者会社は,借入金債務が自己資本に振り替わり,支払利子の負担が減ることになり,業績回復の可能性が出てくる利益(メリット)を受け,反面,債権者(金融機関など)は,不良債権を処理できるとともに,債務者会社の業績が回復し,再建が軌道に乗れば,配当や株式売却益も期待できるという利益(メリット)があるといわれている。

   

(イ)しかるに,本件においては,控訴人は,相互不動産に対する貸付金を直接株式に振り替える方法ではなく,平成5年12月9日から同月16日までの間に,シティバンク・エヌ・エイ大手町支店から本件増資払込みに係る資金として総額529億円の金員を順次借り入れて,本件増資払込金529億円を現実に相互不動産に振り込む方法を採り,その振り込んだ資金によって貸付債権の回収を受けているのである。

 

 しかも,証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,

 

 控訴人は,上記借入れの際に,利息(各融資を受けた翌日に返済しているので1日分の利息)の他に,融資に係る手数料として1億4420万円もの多額の金員をシティバンク・エヌ・エイ大手町支店に支払って,新たな負担までしていることが認められるのであって,かかる手法が世上行われている「債務の株式化」と異なるものであることは,明らかである。

   

(ウ)控訴人は,上記(イ)の手法が実質的な「債務の株式化」であるとして,本件の一連の経済行為と経理処理の合理性を主張しているとも解されるが,証拠(乙25の1ないし7)によれば,控訴人は,別件訴訟(控訴人が相互不動産等を相手方として提起した大阪地方裁判所平成8年(ワ)第7682号貸金等請求事件)において,控訴人が相互不動産から発行価額をはるかに超える金額で新株を引き受けて,相互不動産に本件増資払込金を払い込んだ動機は,後に控訴人が京都相互林業に対して上場株式を売却する際に生じる有価証券売却益を消去するために,その売却益に見合う株式譲渡損を発生させ,もって法人税の課税を受けずに上場株式を処分することにあったと主張し,かつ,控訴人代表者(a)も,本人尋問や陳述書において,同様の供述をしていることが認められ,これによれば,本件増資払込みが実質的にも「債務の株式化」を目的として行われたものでないことは明らかである。

 

(エ)以上によれば,控訴人の「債務の株式化」に関する主張は,本件増資払込みの実態を無視するもので,採用に由ないものである。

     

イ 控訴人のその余の主張について

   

 控訴人は,本件増資払込み当時,控訴人の相互不動産に対する貸付金のうち,少なくとも527億4851万6000円は回収不能であったと主張し,これを理由に本件の一連の取引行為と経理処理の合理性,正当性を主張する。

    

 なるほど,前記のとおり,本件増資払込み当時の相互不動産は,帳簿価額で551億4977万2749円,時価価額で577億5202万1531円の債務超過の状態にあったと認められる。しかし,債務超過の企業であっても,その企業が倒産もしくは休業することなく,営業を継続している限り,当該企業の債務超過額が当然に債権の回収不能(貸倒)額に結び付くものではない。

 

 確かに,相互不動産の債務超過額は巨額であるけれども,弁論の全趣旨によれば,相互不動産は,相互グループの中核である控訴人の信用と支援によって存続維持されていると認められる。

 

 そして,本件増資払込み当時の控訴人の相互不動産に対する貸付金は941億6214万5873円にものぼり,相互不動産の負債総額の93.7パーセントを占めていたこと,また,相互不動産の銀行に対する債務の弁済は,専ら控訴人の資金や控訴人の提供した担保の処分によって賄われていることは,控訴人の自認するところである。

 

 このようなことからすれば,相互不動産の企業としての存亡は,控訴人の意思一つに係っており,控訴人が倒産させると決断すれば直ぐにも倒産し,そうでなければ存続可能と認められる。

 

 しかし,控訴人において相互不動産を倒産させる意思のないことは,本件増資払込みの事実に加え,引用した原判決が認定するように,その後の平成6年1月10日と同年2月28日に1億8000万円の貸付を行い,さらに平成7年3月期中に合計12億5000万円の貸付を実行していることからも明らかである。

    

 

 そうであるとすれば,控訴人に相互不動産を倒産させる意思がない以上,相互不動産は,本件増資払込み当時,倒産の危険はなく,その後も企業として存続しているのであるから,相互不動産に上記のような債務超過が存在していたとしても,それに対応する債権が直ちに回収不能であったと即断することはできない。

 

 例えば,控訴人が相互不動産に対し繰り返し資本注入を行えば,相互不動産の債務超過を解消することは可能である。本件においても,控訴人は529億円の増資に応じたのであるが,額面50円の普通株式を1株100万円という著しく高額な価額で引き受けるという異常な資本取引をしたため,寄附金認定の問題が生じたのである。

    

 したがって,本件増資払込み当時,控訴人の相互不動産に対する貸付債権が回収不能であったとする控訴人の主張は採用できず,これを前提とする主張(法人税基本通達9-6-1の(4)に基づく主張など)は,その余を論ずるまでもなくすべて理由がない。

    

(4)控訴人の批判(寄附金認定に関する被控訴人の主張及び原判決の判断の不当性)について

   

ア 控訴人は,本件増資払込みに対する対価として,相互不動産が発行した額面普通新株式の全部(5万2900株)を取得して,相互不動産の100パーセント株主の地位を保持したことをもって,控訴人が本件増資払込みによって経済的な対価を得ている旨主張している。

      

 しかしながら,前記認定(原判決引用,当審において一部訂正)のように,控訴人は,本件増資払込み前の時点で,既に相互不動産の100パーセント親会社の地位を有していたのであるから,相互不動産が発行した新株の引受によって,その地位に変動が生じたわけではない。そして,控訴人が本件増資払込みをしたのは,前記のとおり,後に控訴人が京都相互林業に対して上場株式を売却する際に生じる有価証券売却益を消去することを目的にしていたものであり,子会社支配の維持,強化を図るためではなかったことは明らかである。

      

 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

    

イ 控訴人は,被控訴人と原判決が,本件増資払込みによって控訴人が取得した額面普通株式(額面50円)は無価値であるとの認定をしながら,本件増資払込金のうち額面(発行)価額(1株当たり50円)を超える部分のみを寄附金と認定したのは矛盾している旨主張する。

      

 確かに,前記認定のように,本件増資払込みによっても,相互不動産の債務超過の状態は解消していないのであるから,本件増資払込みによって控訴人が取得した額面普通株式は,理論上無価値であると認められる。したがって,こうした点のみに着目すると,被控訴人としては,本件増資払込金全体(529億円)を寄附金と認定することも可能であったといえる。

      

 しかしながら,上記額面普通株式(額面50円)は理論上は無価値であるものの,本件増資払込み当時の商法の規定(平成13年法律第79号による改正前の商法202条2項)によれば,額面株式の発行価額はその券面額を下回ることができないと定められていたのであるから,かかる商法の規定を尊重して,被控訴人が,上記額面株式の価値を券面額(額面額)に従って50円であるとして,これに基づき,本件増資払込金のうち発行価額(1株当たり50円)を超える部分(528億9735万5000円)のみを寄附金と認定したとしても,不合理であるということはできない。

      

 したがって,控訴人の上記主張は失当である。

 

(四)小括

  

 以上によれば,本件増資払込みに通常の経済取引として是認できる合理的理由があるとは認められない。

    

 したがって,本件増資払込金のうち1株50円を超える部分は,対価がなく,「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当するとして,法人税法37条の寄附金に当たるというべきである。

  

 

3 控訴人の所得金額の計算等

    

 以上の事実を前提にして,本件事業年度における控訴人の所得金額を計算すると500億2742万3267円となるが,その理由は,原判決の「第三 争点に対する判断」の二(原判決の99頁6行目から102頁末行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

    

 そうすると,被控訴人が本件更正処分においてした,前記前提事実10の(一)(原判決引用)の

 

「(1)有価証券売却損計上誤り」527億4108万3600円,

 

「(11)寄附金の損金不算入額」524億8709万4325円,及び

 

「(12)寄附金の損金算入額」531億2996万6212円の各認定は,いずれも相当であることになる(控訴人は,本件更正処分の他の認定についてはその違法性を争っていない。)。

  

4 結論

    

 以上によれば,その余の点(原判決の争点2)を検討するまでもなく,本件更正処分は適法であり,同処分を前提とする本件重加算税賦課処分及び本件過少申告加算税賦課処分も適法であって,控訴人の請求はいずれも理由がない。

   

 よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

 

    名古屋高等裁判所金沢支部第1部

      裁判長裁判官    川崎和夫

         裁判官    源 孝治

         裁判官    榊原信次