非上場株式の評価(4)

 

 

 

 法人税等更正処分取消請求控訴事件、東京高等裁判所判決/平成15年(行コ)第202号、判決 平成18年4月12日、 税務訴訟資料256号順号10365について検討します。

 

 

 

 

 A株式の売買契約は、近い将来、A株式会社が解散し、清算されることを前提として行われた取引ではなく、同社の事業活動が継続することを前提に、同社の経営権を譲渡することを目的としたものと認めることができるから、A株式の評価を行うにあたっては、同社の企業継続を前提とした純資産価額を基準として、A株式の時価評価をすることが相当であるとされた事例

 

 

 

 

 

主   文

 

  

1 原判決を次のとおり変更する。

   

(1) 被控訴人が平成7年7月31日付けで控訴人に対してした平成3年8月1日から平成4年7月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額を2億2063万5112円として計算した額を超える部分及び同事業年度の法人特別税の更正処分のうち、課税標準法人税額を7486万9000円として計算した額を超える部分をいずれも取り消す。

   

(2) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

  

2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

 

        

 

 

事実及び理由

 

 

第1 控訴の趣旨

   

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

   

2 被控訴人が平成7年7月31日付けで控訴人に対してした平成3年8月1日から平成4年7月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額1億6589万8112円、納付すべき税額5315万5100円を超える部分及び同事業年度の法人特別税の更正処分のうち、課税標準法人税額5434万3000円、納付すべき税額135万8500円を超える部分をいずれも取り消す。

 

 

第2 事案の概要(略語等は、原判決に従う。)

   

1 本件は、控訴人がB株式会社の全株式(本件株式)を買い受けたことにつき、代金額と適正な時価との差額が益金として所得金額に加算されるべきであるとして、被控訴人が、平成7年7月31日付けで、控訴人の平成3年8月1日から平成4年7月31日までの事業年度(本件事業年度)の法人税及び期間を同じくする課税事業年度(本件課税事業年度)の法人特別税の各更正処分(本件各更正処分)をしたのに対し、控訴人が、本件各更正処分のうち各申告額を超える部分の取消しを求めた事案である。

   

2 原審は、本件株式の取得により控訴人に5億7751万4920円の受贈益が生じたと認め、本件事業年度における控訴人の所得金額が受贈益の額に当事者間に争いのない法人所得金額1億6589万8112円を加えた7億4341万3032円であるとして、本件法人税更正処分のうち所得金額を同額として計算した額を超える部分及び本件法人特別税更正処分のうち課税標準法人税額を2億7091万1000円(同所得金額に対する法人税額を基礎として算出される額)として計算した額を超える部分をいずれも取り消した。

     

 当裁判所は、原審と異なり、本件株式の取得により控訴人に生じた受贈益は5473万7000円であり、本件法人税更正処分のうち控訴人の所得金額を2億2063万5112円として計算した額を超える部分及び本件法人特別税更正処分のうち課税標準法人税額を7486万9000円として計算した額を超える部分をいずれも取り消すべきものと判断した。

   

3 法令の定め、前提となる事実、本件各更正処分の根拠、当事者双方の主張及び争点は、次のとおり改め、加えるほかは、原判決の事実及び理由の第2「事案の概要」1から5まで(原判決2頁13行目から86頁5行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

     

(1) 原判決7頁2行目から4行目までに「湾岸地域における平和回復活動を支援するため平成2年度において緊急に講ずべき財政上の措置に必要な財源の確保に係る臨時措置に関する法律(平成3年法律第2号)」とあるのを「法人特別税法(平成4年法律第15号)」と改める。

     

(2) 原判決17頁15行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「 本件株式につき法人税額等相当額を控除して純資産価額方式により評価するとしても、評価会社であるBの有する控訴人の株式及びCの株式の価額を純資産価額方式によって評価するに当たって法人税額等相当額を控除することは不合理である。

 

 すなわち、財産評価基本通達186-3は、純資産価額方式を適用するに当たって、

 

 評価会社が取引相場のない株式を所有しており、その所有株式の純資産価額を算定する場合には、

 

 各資産の価額(相続税評価額)から各負債の金額を控除して計算すべきこととし、

 

 同通達の注書きにおいて、その計算に当たっては法人税額等相当額を控除しないものであることに留意すべき旨を定めている。

 

 同通達は、平成3年当時においても定められており、評価会社の有する取引相場のない株式の純資産価額を算定するに当たって法人税額等相当額を控除すべきでないことは明らかだったのであり、一般の納税者にとっても容易に理解することができたと考えられるから、同通達にのっとって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、法人税基本通達9-1-14(4)にいう

 

「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たり、

 

 これによって株式の価額を評価して所得の金額を計算することは、法人税法の解釈として合理性がある。

 

 本件株式の価額を純資産価額方式によって算定するために、いずれも取引相場のないBが有する控訴人の株式及び控訴人が有するCの株式を純資産価額方式によって算定することは、まさに財産評価基本通達186-3に定められた場合に当たり、当該各株式の評価に当たって法人税額等相当額を控除することは不合理であり、通常の取引における当事者の合理的意思に合致しないから、控訴人の株式及びCの株式については、法人税額等相当額を控除しないで1株当たりの純資産価額を評価すべきである。」

     

(3) 原判決49頁6行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「よって、B、控訴人及びCのそれぞれにつき、法人税額等相当額を控除して各社の純資産価額を算出すべきである。」

     

(4) 原判決74頁5行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、H社の有する土地、建物及び附属設備等の価額につき改めて鑑定評価をしたところ、672万3008豪ドルであり、これを平成3年10月20日時点の為替レート1豪ドル100.85円により換算すると6億7801万5357円となるのに対し、負債の額は1238万3648豪ドルで、同様の換算により12億4889万0901円となる。」

     

(5) 原判決75頁2行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「その他の内装設備について資産としての価値を認めるとしても、Bの有する内装設備の評価と同様に30%の減価をすべきである。」

     

(6) 原判決75頁21行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、赤坂土地を路線価に基づいて評価する場合、その側方路線については既にセットバックが完了しており、セットバック部分を除いた面積は121.618平方メートルであるから、同面積をもって赤坂土地の地積とすべきである。」

     

(7) 原判決77頁7行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、サイパンに有する地上権は、改めてした鑑定の評価によれば、平成3年10月20日時点において、サンビセンテ所在の土地が48万米ドル、ネイビーヒル所在の土地が90万米ドルであり、これを同日時点の為替レート(1米ドル128.30円)により換算すると、それぞれ6158万4000円及び1億1547万円、合計1億7705万4000円である。」

     

(8) 原判決77頁26行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、L社の有する地上権は、改めてした鑑定の評価によれば、45万米ドルであり、これに基づき控訴人が有するL社の株式の価額を算出すると、別表1のとおり2570万3684円となり、この場合の投資有価証券(その他)の評価額は、1億7522万4234円である。」

     

(9) 原判決80頁19行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、銀座土地を路線価に基づいて評価することは、前記(3)イc(c)のとおり合理性を有するが、その場合、銀座土地の面積は43.3平方メートルと狭小であるから、個別補正として10%の減価をすべきである。」

     

(10) 原判決84頁1行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

      

「また、本件更正通知書の理由には、本件株式の価額の再計算の主旨とその結果の数値は記載されているが、再計算の過程などを記載した書類は添付されておらず、その説明もなかった。」

 

 

 

 第3 当裁判所の判断

  

 1 本件売買契約の経緯等につき、当裁判所の認定した事実は、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」1(原判決86頁7行目から89頁7行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

   

2 本件株式の評価時点(争点1)について

    

(1) 当裁判所も、本件株式の購入価額が低廉であるか否かは、本件株式の引渡しの日である平成3年10月20日時点をもって評価すべきものと判断した。その理由は、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」3(原判決90頁8行目から92頁9行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

     

(2) 控訴人は、当審においても、本件売買契約において本件株式を平成2年12月31日時点で評価して売買代金額を定めたことは合理的であり、同日を本件株式の評価時点とすべきである旨主張する。しかし、法人の収益の発生の時点については、収益の実現の時点を基準とし、原則として、財貨の移転や役務の提供などによって権利が確定したときに収益が発生すると解すべきであり、本件株式については、本件売買契約の契約書(乙1)5条及び6条により、本件株式の引渡時に売買代金残額(売買代金額の1割に当たる手付けの額を控除した残額)を支払うこととし、売買代金支払完了時に株式が移転するとされていることからすると、本件株式の引渡時に確定的に財貨の移転があり、これにより収益が生じたと解するのが相当であって、控訴人の主張は採用できない。

   

3 本件株式の評価方法(争点2)について

    

(1) 本件株式の評価は、会社財産を時価で評価して算出した純資産額に基づいて株式の評価額を算定するいわゆる時価純資産価額方式によるべきもので、かつ、本件株式の時価評価に当たっては、以下の理由により、企業を解体して資産を処分した場合に得られる経済的利益を基準とした純資産価額を基準とするのではなく、企業の事業活動の継続を前提とした純資産価額を基準とすべきである。

       

すなわち、前記認定(原判決86頁18行目から89頁7行目まで参照)の本件売買契約の経緯等によれば、

 

①控訴人は、控訴人の株式の60%を保有するBの株式が第三者に譲渡されることなどにより、控訴人の会社経営が不安定となることを防止するために本件株式を買い取り、

 

②Bが本件売買契約の前後の6事業年度において、隔年で当期利益を計上しており、本件売買契約締結前の3事業年度において営業損失を計上したものの、その後の3事業年度において営業利益を計上し、

 

③本件株式の譲渡後もBが解散することなく営業を継続しているというのであり、

 

 これらの事実に照らせば、本件売買契約は、近い将来にBが解散し、清算されることを前提として行われた取引ではなく、事業活動が継続することを前提に、経営権を譲渡することを目的としたものと認めることができ、これらの事実関係の下では、同社の企業継続を前提とした純資産価額を基準として本件株式の時価評価をすることが相当である。

     

 

(2) 控訴人は、取引相場のない株式の売却が容易でないことを考慮すると、本件株式のような取引相場のない株式につき株主が投下資本を回収するためには、会社を解散して残余財産の分配を受けるしかなく、会社の解体価値が株式の売買価額の基準となるべきである旨主張する。

       

 しかし、取引相場のない株式であっても、本件のように買主が事業を継続している会社の全株式を取得することとなる場合には、買主は、実質上、企業自体の売却として株式を譲渡することが可能であり、控訴人の主張は、理由がない。

   

 

4 清算所得に対する法人税額等相当額の控除の要否(争点3)について

    

(1) 法人税基本通達(平成12年課法2-7による改正前のもの。以下、同じ。)9-1-14は、

 

 非上場株式で気配相場のないものにつき法人税法33条2項の規定を適用する場合の事業年度終了の時における当該株式の価額は、

 

 売買実例がない株式で公開の途上になく、当該株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がないときは、

 

 当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨を定めている。

 

 もっとも、このような一般的、抽象的な評価方法の定めに基づいて株式の価額を算定することは困難であり、

 

 他方、財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は、相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しているものであるから、

 

 これと著しく異なる評価方法を法人税の課税において導入すると、混乱を招くこととなる。

 

 このような観点から、法人税基本通達9-1-15は、財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法を、原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに、

 

 この評価方法を無条件で法人税課税において採用することには弊害があることから、

 

 1株当たりの純資産価額の計算に当たって株式の発行会社の有する土地を相続税路線価ではなく時価で評価するなどの条件を付して採用することとしている。

 

 このことは、法人の収益の額を算定する前提として当該法人の保有する株式の価額を評価する場合においても合理性を有するというべきである。

 

 したがって、財産評価基本通達(平成12年課評2-4、課資2-249による改正前のもの。この項において、以下同じ。)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を法人税課税においてそのまま採用すると、

 

 相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には、これを解消するために修正を加えるべきであるが、

 

 このような修正をした上で同通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、法人税基本通達9-1-14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。

       

 

 ところで、財産評価基本通達185が、

 

 1株当たりの純資産価額の算定に当たり法人税額等相当額を控除するものとしているのは、

 

 個人が財産を直接所有し、支配している場合と、個人が当該財産を会社を通じて間接的に所有し、支配している場合との評価の均衡を図るためであり、

 

 評価の対象となる会社が現実に解散されることを前提としていることによるものではなく、営業活動を行って存続している会社の株式の相続及び贈与に係る相続税及び贈与税の課税においても、法人税額等相当額を控除して当該会社の1株当たりの純資産価額を算定することは、一般的に合理性があるものとして、課税実務の取扱いとして定着していたものである。

       

 

 法人税基本通達の平成12年課法2-7による改正により、

 

 (当該株式の価額につき財産評価基本通達の178から189-7までの例によって算定した価額によっているときは、

 

 財産評価基本通達185本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり)法人税額等相当額を控除しないことが規定されるに至ったのであって、

 

 この改正前の平成3年10月当時、財産評価基本通達185本文に定める1株当たりの純資産価額の算定方式のうち法人税額等相当額を控除する部分が、法人税課税における評価に当てはまらないことを関係通達から読み取ることは、一般の納税義務者にとっては不可能というべきである。

       

 

 したがって、企業の継続を前提とした株式の評価を行う場合であっても、法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は、

 

 平成3年10月当時、一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、法人税基本通達9-1-14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。

 

 このように解釈される上記「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によって株式の価額を評価し、これを前提に法人の収益の額を算定することは、法人税法の解釈として合理性を有するということができる(最高裁平成14年(行ヒ)第112号・平成17年11月8日第三小法廷判決、同平成16年(行ヒ)第128号・平成18年1月24日第三小法廷判決参照)。

     

 

(2) 本件においても、平成3年10月当時におけるBの株式の1株当たりの純資産価額の評価は、法人税額等相当額を控除して評価すべきである。

     

 

(3) 他方、Bの有する控訴人の株式及びCの株式の価額を純資産価額方式によって評価する場合においては、法人税額等相当額を控除すべきではない。

 

 すなわち、財産評価基本通達186-3は、

 

 純資産価額方式を適用するに当たって、評価会社が取引相場のない株式を所有しており、その株式の純資産価額を算定する場合には、

 

 当該株式の発行会社の有する各資産の価額(相続税評価額)から各負債の金額を控除して計算すべきこととするとともに、

 

 その計算に当たっては、法人税額等相当額を控除しないことに留意すべき旨を定めているところ、

 

 同通達の定めは、本件売買契約の締結された平成3年10月の時点において既に定められており、

 

 一般に株式の取引の当事者は関係通達の定める評価方法に関心を有し、その評価方法が取引の実情に影響を与え得るもので、

 

 これとかけ離れたところに取引通念があったということができないから、

 

 同通達の定める算定方式によって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、

 

 法人税基本通達9-1-14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。

 

 そうであるとすると、本件株式の価額を純資産価額方式によって算定するために、Bが有する控訴人の株式及びCの株式を純資産価額方式によって算定する場合は、財産評価基本通達186-3に定められた場合に当たるから、Bが有する控訴人の株式及びCの株式の評価に当たっては、法人税額等相当額を控除しないで1株当たりの純資産価額を評価すべきである。

   

 

5 本件株式の具体的な評価額(争点4)について

    

(1) Bの純資産価額について

     

ア Bの純資産価額についての当裁判所の判断は、次のとおり加えるほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」6(2)(原判決98頁12行目から113頁25行目まで。ただし、原判決106頁4行目に「原告」とあるのを「被控訴人」と改める。)の記載と同じであるから、これを引用する。

      

イ 原判決106頁26行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「控訴人は、銀座土地を路線価に基づいて評価する場合、その面積は狭小(43.3平方メートル)であり、個別補正として10%を減価すべきである旨主張する。しかし、路線価に基づく評価方法を定めた財産評価基本通達において、面積の狭小を理由として個別補正をすべきものとはされていない。また、平成3年度の路線価は、地下公示価格水準の70%を目途とした評価とされており(乙57「平成4年改正税法のすべて」国税庁)、これにより、路線価方式を採用すること自体により3割程度の減額補正がされていると推認され、これらの事情を考慮すると、銀座土地につき、面積の狭小を理由として個別補正をすべき必要があると認めることはできない。」

     

(2) 控訴人の純資産価額について

     

ア 控訴人の純資産価額についての当裁判所の判断は、次のとおり加えるほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」6(3)(原判決113頁26行目から136頁10行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

      

イ 原判決117頁18行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「控訴人が当審において提出したH社の有する賃貸用ビルに係る不動産鑑定評価書(甲105)は、不動産の評価方法につき、土地と建物を一体の複合不動産とみなして賃料などの現金収支を重視して評価を行うDFC法が、1990年代中期まではオーストラリアにおいてあまり用いられる手法ではなかったことを理由にこれを用いていない(甲108)。

 

  しかし、1990年代前半の著作と見られるオーストラリア不動産鑑定協会発行の「不動産鑑定の理論と実践(第1版)」(甲54)においては、オーストラリアにおける賃貸用ビルの評価の主要な手法は収益還元法とDFC法であり、両手法にはそれぞれ長所及び短所があり、その併用により各手法に基づく評価の見直しが必要であるとされており、この記述に照らすと、同評価書がDFC法を用いなかった上記理由は首肯し難い。

        

 また、同評価書は、収益還元法のほかに取引事例比較法による評価をし、取引事例比較法による評価と収益還元法による評価とが大きくは異ならないとしているが、同評価書に取り上げられた賃貸事例は、比準方法・具体的内容が全く不明である。以上の点を考慮すると、上記評価書によっては、上記判断は、左右されない。

      

ウ 原判決120頁17行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

控訴人は、その他の内装設備について資産価値を認めるとしても、Bの有する内装設備の評価と同様に30%減価すべきである旨主張する。しかし、Bの有する内装設備は、同社が所有し、第三者に賃貸している建物内にあるため、その評価において建物の評価と同様に借家権による制限を考慮して3割の減価をすることに合理性があるが、控訴人の有するその他の内装設備は、控訴人の事業の用に供されており、これについてBの有する内装設備の場合と同様に減価すべき理由はない。

      

エ 原判決123頁21行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「また、控訴人は、赤坂土地を路線価に基づいて評価するにつき、セットバック部分を除いた面積をもって同土地の地積とすべきである旨主張する。しかし、セットバックによる個別補正をすべき旨を定めた財産評価基本通達24-6の定めは、平成14年6月4日付け課評2-2外により新設されたものであって(乙60、61の1及び2)、本件売買契約の締結された当時、このような定めはなく、前記のとおり、一般に、取引の当事者は関係通達の定める評価方法に関心を有し、その評価方法が取引の実情に影響を与え得るもので、これとかけ離れたところに取引通念があったということはできないこと(前掲最高裁平成17年11月8日判決及び同平成18年1月24日判決参照)からすれば、赤坂土地を路線価に基づいて評価するに際して、セットバックによる個別補正をする必要はない。

      

オ 原判決127頁1行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「また、控訴人の有する地上権の評価に係る不動産鑑定評価書(甲102)は、取引事例比較法により評価しており、控訴人がサイパン島に地上権を有する2土地については、いずれの土地も景観の良い居住用の土地としての利用が最有効活用であることを前提として、これと比較すべき規範性の高い取引として、ネイビーヒル所在の土地の地上権につき3取引、サンビセンテ所在の土地の地上権につき4取引を選択しているところ、その選択理由として、取引時期、所在地、間口、面積、公共設備、形状、景観、臨海の程度、その他様々な要因を考慮したとするものの(甲110)、これらの要素を具体的にどのように考慮したかは明らかでない上、控訴人が地上権を有する2土地はいずれも海岸に近接し海に臨む景観の良い土地であるのに対し、比較対象とされた取引の土地はいずれも内陸よりに所在し、所在地及び景観の点で控訴人が地上権を有する土地と大きく異なる。また、サンビセンテ所在の土地の地上権の比較対象とされた4取引のうち2取引は、居住用の土地ではなく、ゴルフ場開発用地であって、用途が全く異なっており、比較の対象として適切な取引を選択したとは認められない。同評価書によっては、上記の控訴人の地上権の評価は、左右されない。

      

カ 原判決130頁8行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「また、不動産鑑定評価書(甲105)によっては、H社の有する賃貸用ビルに係る評価が左右されないことは、前記c(b)Ⅲのとおりである。」

      

キ 原判決131頁7行目の末尾に、改行の上、次のとおり加える。

        

「控訴人の有するリース権の評価に係る不動産鑑定評価書(甲102)は、ロタ島所在の土地の地上権について、取引事例比較法により評価をしているところ、比較すべき取引選択の際の考慮要素として、取引時期、所在地、間口、面積、公共設備、形状、景観臨海の程度、その他様々な要因を考慮したとするものの、これらの要素を具体的にどのように考慮したかは明らかでない上、比較対象とされた4取引のうち、控訴人が有するリース権と同じ通常のリース契約は1取引しかなく、他は、土地の売買が取引及び売主から買主への資金供給の特約がされた修正リース契約1取引であり、控訴人のリース権に係る取引とは取引内容が異なっていて、比較の対象として適切な取引を選択したかどうかが明らかではなく、これによっては、前記判断は、左右されない。

     

(3) Cの純資産価額について

      

Cの純資産価額についての当裁判所の判断は、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」6(4)(原判決136頁11行目から140頁26行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

     

(4) 本件株式の評価額

      

ア 以上によれば、Bの資産及び負債の各勘定科目の平成3年10月20日時点における評価額は、前記5(1)ア(原判決98頁12行目から113頁25行目まで参照)のとおりであり、同社の同日時点における純資産価額(ただし、1000円未満の端数を切り捨てたもの。以下本項の数額につき同じ)は、別表2のとおり、15億2079万4000円であると認められ、これと帳簿価額による純資産価額4億9574万2000円との差額10億2505万2000円に対する法人税額等相当額は5億2277万7000円であり、上記純資産価額から同法人税額等相当額を控除した9億9801万7000円がBの発行済み全株式である本件株式の適正な価額である。

      

イ 以上のとおり、本件株式の平成3年10月20日時点における時価は、9億9801万7000円と認めることができ、これと控訴人の購入価額9億4328万円との差額5473万7000円が控訴人に生じた受贈益と認めることができる。

   

6 控訴人に発生した受贈益の計上時期(争点5)、理由附記の不備の主張(争点6)、処分理由差し替えの違法の主張(争点7)及び調査義務違反の主張(争点8)について

    

(1) 争点5から8までについての当裁判所の判断は、争点6について次のとおり削るほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」7から10まで(原判決142頁12行目から145頁24行目まで)の記載と同じであるから、これを引用する。

     

(2) 原判決144頁4行目から5行目にかけて、「本件株式の評価時点については明らかにしていないものの」とあるのを削る。

   

7 まとめ

    

 以上によれば、本件売買契約による控訴人の本件株式の取得は、低廉な価額による資産の譲受けに当たり、控訴人には、本件事業年度において、時価と購入価額との差額に当たる5473万7000円の受贈益が発生したと認めることができる。

     

 本件各更正処分は、本件株式の時価が15億3104万4000円で、同額と本件株式の購入価額9億4328万円との差額に当たる5億8776万4000円の受贈益が控訴人に発生したとして行われたところ、本件株式の取得により控訴人に発生したと認められる受贈益の額は、上記のとおり5473万7000円であるから、控訴人の本件事業年度における法人税に係る所得金額は、同受贈益の額に、当事者間に争いのない法人所得金額1億6589万8112円を加えた2億2063万5112円となり、本件法人税更正処分のうち控訴人の所得金額を同額として計算した額を超える部分は違法である。

     

 また、控訴人の本件課税事業年度における法人特別税の課税標準法人税額は、上記所得金額(ただし、国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数切捨て後のもの)に対し法人税法66条の定める税率を乗じて算出した法人税額8197万8125円から、法人税額の特別控除額310万8420円及び定額控除額400万円を控除し、上記国税通則法の規定により1000円未満の端数を切り捨てた7486万9000円となり、本件法人特別税更正処分のうち課税標準法人税額を同額として計算した額を超える部分は違法である。

     

 他方、本件各更正処分に手続上の違法を認めることはできない。

     

 したがって、本件法人税更正処分のうち控訴人の所得金額を2億2063万5112円として計算した額を超える部分及び本件法人特別税更正処分のうち課税標準法人税額を7486万9000円として計算した額を超える部分は、いずれも違法であり、控訴人の請求は、同部分の取消しを求める限度でいずれも理由がある。

 

第4 結論

   

 よって、当裁判所の判断と一部異なる原判決は不当であるから、原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。

 

     東京高等裁判所第1民事部

         裁判長裁判官  江見弘武

            裁判官  植垣勝裕

  裁判官村田斉志は、差し支えのため、署名及び押印をすることができない。

         裁判長裁判官  江見弘武