個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定の期間制限

 

 

 

 

 市県民税変更決定処分取消請求事件、 最高裁判所第3小法廷判決/平成24年(行ヒ)第368号、判決 平成27年5月26日、 最高裁判所裁判集民事250号1頁

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 個人住民税の所得割に係る賦課決定の期間制限の特例を定める地方税法(平成25年法律第3号による改正前のもの)17条の6第3項3号にいう決定,裁決又は判決があった場合の意義 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  

1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

  

2 飯塚市長が上告人に対し平成22年8月23日付けでした平成16年度分から同18年度分までの各市民税及び各県民税に係る賦課決定をいずれも取り消す。

  

3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

        

 

 

理   由

 

  

 上告代理人橋本吉文ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 

1 本件は,福岡県飯塚市内に住所を有する上告人が,平成16年度分から同18年度分までの各市民税及び各県民税につき,飯塚市長から平成22年8月23日付けで所得割を増加させる賦課決定(以下「本件各処分」という。)を受けたため,本件各処分が法定の期間制限に違反してされたものであるとして,被上告人を相手に,その取消しを求める事案である。

  

 

 

2 地方税法(平成23年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)17条の5は,

 

 地方税に係る更正,決定又は賦課決定の期間制限を定めているところ,

 

 個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増加させる賦課決定については,同条1項により,

 

 法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日以後においてはすることができないこととされている。

 

 一方,同法17条の6は,地方税に係る更正,決定又は賦課決定の期間制限の特例を定めているところ,

 

 個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定については,同条3項により,

 

 国税である所得税につき更正や裁決等の一定の事由があった場合においてするものにつき期間制限の特例が定められており,

 

 所得税について更正又は決定があった場合においてするものについては,当該更正又は決定の通知が発せられた日の翌日から起算して2年間においてもすることができるものとされ(同項1号),

 

 所得税に係る不服申立て又は訴えについての決定,裁決又は判決があった場合(当該決定,裁決又は判決に基づいて当該所得税について更正又は決定があった場合を除く。)においてするものについては,

 

 当該決定,裁決又は判決があった日の翌日から起算して2年間においてもすることができるものとされている(同項3号)。

  

 

 

3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

  

(1) 上告人が飯塚税務署長に対し平成15年分から同17年分までの所得税について確定申告をしたところ,飯塚税務署長は,上記確定申告には誤りがあるとして,平成19年3月14日付けで,平成15年分から同17年分までの所得税につきそれぞれ課税標準及び税額を増額する更正及び過少申告加算税賦課決定をした。

  

 

 上告人が上記各更正及び各過少申告加算税賦課決定の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成20年4月22日付けで,平成15年分及び同16年分の各更正及び各過少申告加算税賦課決定の一部を取り消し,同17年分に係る審査請求を棄却する旨の裁決をした。

  

 

 その後,上告人が上記各更正のうち上告人が主張する総所得金額を超える部分及び上記各過少申告加算税賦課決定(ただし,平成15年分及び同16年分については,上記裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める訴訟(以下「前訴」という。)を提起したところ,前訴の第1審は,平成21年10月6日,前訴に係る上告人の請求をいずれも棄却する旨の判決(以下「前訴判決」という。)をし,同判決は同22年7月2日に確定した。

  

 

(2) 飯塚市長は,前訴判決が確定したのを受けて,上告人に対し,平成16年度分から同18年度分までの各市民税及び各県民税につき,いずれの年度分についても平成22年8月23日付けで本件各処分をした。

 

 同日は,上記各市民税及び各県民税の法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日(地方税法17条の5第1項)以後の日であり,

 

 また,所得税に係る前記(1)の各更正の通知が発せられた日の翌日から起算して2年を経過した日(同法17条の6第3項1号)以後の日である一方で,

 

 前訴判決が確定した日の翌日から起算して2年を経過する日(同項3号)より前の日であった。

  

 

4 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各処分については,地方税法17条の6第3項3号の規定による期間制限の特例が適用され,所定の期間内にされた適法なものであるとして,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。

  

 地方税法17条の6第3項3号の文言からは,所得税の更正に対する不服申立てとして提起された前訴も同号にいう「訴え」に該当するものと解釈するのが自然であるところ,

 

 同項柱書きには不服申立てや訴えの結果として所得税等の課税標準又は税額に異動が生じた場合にのみ同項の規定を適用する旨を明示し又は示唆するような文言は含まれておらず,

 

 また,このような限定を付して解釈すべき合理的理由も認められない。

 

 そして,本件各処分については同項1号の規定による期間制限の特例も適用され得るところ,同項3号又は1号のいずれの規定によったとしても,それぞれ納税義務者にとって利益となる点及び不利益となる点が認められ,本件において,同項3号の規定ではなく同項1号の規定によるべき必要性は認められず,本件各処分については同項3号の規定による期間制限の特例を適用することができるものと解される。

  

 

5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  

 

(1) 個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の課税標準は,前年の所得について算定した総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額とされ(地方税法32条1項,313条1項),

 

 これらの総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額は,原則として所得税法における計算の例によって算定するものとされ(同法32条2項,313条2項),

 

 所得税の課税標準(所得税法22条1項)を基準としていることから,所得税の課税標準に異動があったときは,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべきこととなる。

 

 しかるところ,所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等が地方税法17条の5の規定に定める期間を経過した後にされることもあり得ることから,同法17条の6第3項は,課税の適正を期するため,上記の所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等がされる一定の場合においてすべきこととなる個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定について,それぞれの場合につき定められた一定の日の翌日から起算して2年間においてもすることができる旨を定めたものであると解するのが相当である。

  

 

 したがって,個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定の期間制限につき,その特例を定める同項3号にいう所得税に係る不服申立て又は訴えについての決定,裁決又は判決があった場合とは,当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべき必要を生じさせる決定,裁決又は判決があった場合をいうものと解するのが相当である。

  

 

(2) これを本件についてみるに,前記3(1)のとおり,上告人の平成15年分から同17年分までの所得税については,それぞれ更正によってその課税標準が増加されるという異動が生じ,

 

 これに応じて,上告人の平成16年度分から同18年度分までの各市民税及び各県民税につきその所得割を増加させる賦課決定をすべきこととなったものであるが,

 

 前訴においては上告人の平成15年分から同17年分までの所得税の更正等につきその取消しを求める請求を棄却する旨の前訴判決が確定しており,同判決は上記更正により増加された所得税の課税標準(ただし,平成15年分及び同16年分については審査請求に対する裁決により一部取り消された後のもの)に異動を生じさせるものではなく,同判決があったことをもって地方税法17条の6第3項3号にいう所得税に係る訴えについての判決があった場合に当たるということはできない。

 

 したがって,本件各処分は,同号に掲げる場合においてするものに該当しないから,同号の規定による期間制限の特例を適用することはできない。

 

 そして,前記3(2)のとおり,本件各処分は,同法17条の5第1項の規定による期間を経過した後にされたものであり,かつ,同法17条の6第3項1号の規定による特例の期間も経過した後にされたものであるから,違法なものというべきである。

  

 

6 以上と異なる見解の下に,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求はいずれも理由があるから,これらを棄却した第1審判決を取り消し,これらをいずれも認容すべきである。

 

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)