特殊詐欺(4)

 

 

 

 

 東京家庭裁判所決定/平成27年(少)第408号、判決 平成27年4月2日、判例タイムズ1418号397頁 について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 現金受取型特殊詐欺にいわゆる受け子を紹介するなどして関わった少年について,詐欺の共謀を認定して中等少年院に送致した事例 

 

 

 

  

 

 

主   文

 

  少年を中等少年院に送致する。

 

        

 

理   由

 

 

(罪となるべき事実)

  

 少年は,B及び氏名不詳者らと共謀の上,他人の親族らになりすまし,その親族が現金を必要としているかのように装って現金をだまし取ろうと考え,氏名不詳者において,平成26年×月○日午後1時頃から同日午後4時30分頃までの間,○○市○○×番地所在のC方又はその周辺にいた同人の携帯電話機に数回にわたり電話をかけるなどし,同人に対し,

 

同人の息子になりすまし,

 

「投資に失敗して700万円の負債を背負ってしまったんだ。弁護士と話したら,弁護士から取り返してあげると言われたんだ。弁護士を頼むのに今すぐ140万円必要なんだ。出してくれるかい。」

 

「代理人を行かせるから。同僚だから。」

 

「○○○○という人が行くんだけど。」

 

などとうそを言い,Cに,電話の相手が息子であり,同人が現金を必要としているものと誤信させるとともに,同日午後4時30分頃,同市○○×番×号○○ビル北側路上で,Bにおいて,Cに対し,前記○○○○を装うなどし,

 

Cをして,BがCの息子のために現金を預かるものと誤信させ,

 

よって,その頃,同所で,Cから現金140万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。

 

 

 

 

(補足説明)

  

1 付添人の主張

  付添人は,少年には詐欺の故意も共謀もなかったと主張し,少年もこれに沿う供述をする。

  

 

2 当裁判所の判断

  

 

(1) 本件詐欺の発生

  

 関係証拠によれば,判示のとおり,氏名不詳者が被害者Cに電話でうそを言ってだまし,同人からBが140万円の交付を受けたという本件詐欺の犯行があったことは明らかである。

  

(2) 少年が認めている事実

  

 少年及びBの各供述調書(謄本を含む。以下同様。)や少年の審判供述によれば,少年の前歴,犯行に至る経緯,少年の認識及び果たした役割について,以下の事実が認められ,少年もこれを自認している。

  

 

 

ア 前歴

  

 少年は,平成25年に架け子の仕事を1か月程やった後,受け子として活動し,最後は同年×月に受け子として赴いた○○県内で詐欺未遂で逮捕された(前件)経歴があったため,本件当時,受け子や架け子という言葉の意味をよく知っていた。

  

 

イ 本件犯行に至る経緯

  

 少年は,平成26年×月中頃,友人を通じて先輩に当たるDを紹介され,同人から○○の風俗店紹介所の仕事を紹介してもらうなどして付き合うようになった。同年×月中旬かそれを過ぎた頃,少年は,Dから,受け子や架け子の仕事をやらないかと誘われたが,これを断った。その数日後,今度は,Dから,短期で昼間のバイトをできる奴を探している,探さなかったらお前がやれ,組織から金を受け取って逃げる仕事だなどと言われた。

  

ウ 少年の認識(Dの仕事をBに紹介する頃まで)

  

 少年は,受け子や架け子をやらないかと誘ってきたことで,Dが詐欺グループにつながりがある人物と思った。また,仕事の内容を説明した際に「組織」という言葉を使われていたことから,Dのさせようとしている仕事は犯罪に関わる仕事かもしれないとも思った。しかし,Dの言い方が威圧的であり,Dとの関係を壊したくないという気持ちもあり,友人のBを紹介することに決めた。

  

 

エ 少年の果たした役割

  

①平成26年×月○日から○日にかけて,少年は,Bに先輩が昼間の仕事をする奴を探しているなどとして連絡を取る一方,その承諾を得てBの電話番号をDに教えたところ,同日中に詐欺グループの者がBに電話をかけてくるようになり,以後,Bはその指示に従って動くようになった。

 

②同月○日夜から翌○日未明にかけて,少年は,Dから,Bに交通費を渡すよう頼まれ,一旦は断ったものの,Bに渡す交通費を少年方郵便受けに入れておくからBに渡すよう言われて了承し,Bと会う約束をした。実際は郵便受けに金が入っていなかったが,少年は同月○日午前4時頃,自宅近くのスーパーマーケット(甲)でBと会い,Bと話をするとともに,自分の携帯を使ってBとDに話をさせた。また,その際,少年は,Bから,自分が紹介した仕事の関係で○○に行くことを聞いた。

 

③同月○日午後2時29分頃,少年は,Dから,Bが電話に出ないので,出るように伝えるよう指示され,Bに電話をかけて,その指示を伝えた。

 

④同年×月○日から○日にかけて,少年は,Dから頼まれてBに現金7万円を渡し,Bはこれを本件で金を受け取りに行った報酬として受け取った。

  

 

(3) 本件当日未明の甲におけるBとの会話等の内容

  

 Bは,平成△年×月○日付け検察官調書において,平成26年×月○日午前4時頃,甲で少年と会ったとき,当日○○へ行くことになっている事のほか,少年との会話について,次のとおり供述する。すなわち,「自分は,前日(×月○日),○○へ行かされたが,指示役から,弁護士を名乗り,スーツを着用するよう言われていた,○○では6時間待機したが何もすることなく帰ってきた,その間,指示役から誰かついてきていないかと尋ねられた旨説明した上,黒い(犯罪に関わる)仕事ではないかと尋ねた。少年は,先輩から,お金を対象者から受け取って,その金を指示された場所に持って行って置く仕事だと聞いている,たまに逃げたふりをする仕事だとも聞いている,捕まるリスクは少ないなどと言っていた。」というのである。このB供述は,仕事の内容を明確に伝えられておらず不安に感じでいた当時のBの心情に照らし,自然な内容であること,少年も,その大部分について覚えていない旨述べるものの,弁護士役とか,スーツのことを言ったかもしれない(第1回審判調書別紙反訳書12頁)と述べていること,Dから聞かされた仕事の内容は,「組織の金を運ぶ仕事」(少年の平成△年×月○日付け検察官調書,2枚綴りのもの)という少年の捜査段階の供述に符合すること,「金を持って逃げるふりをする」という意味不明ながらも少年が捜査審判を通じて供述している特徴的な言い方にも符合していることに照らし,信用できる。したがって,Bと少年との間で,前述のB供述のような会話がなされたことが認められる。さらに,その会話内容から,少年は,Dから,Bに紹介する仕事の内容として,「組織の金を運ぶ仕事」ということも聞いていたことも認められる。

  

 

(4) 結論

  

 前記(2)の少年が認めている事実からだけでも,少年は,BにDの仕事を紹介する時点で,既にDがオレオレ詐欺のグループとつながる者であり,Dのさせようとしている仕事は犯罪(その中には当然オレオレ詐欺も含まれるというべきである。)に関わる仕事かもしれないと思っていたことは明らかである。

 

 加えて,前記(3)で認定したように,少年は,Dがやらせようとしている仕事について,組織の金を対象者から受け取り,指示された場所に置くと聞かされていたことや,本件詐欺に先立つ甲におけるBとの会話の中で,弁護士を名乗るなど自己の属性を偽るよう指示されたとか,スーツを着用するよう指示されたなどと聞かされ,受け子の経験のある少年(なお,少年の審判供述によれば,少年は,受け子をしていたときにスーツを着用するよう指示されていたことも認められる。)であれば,当然仕事の内容が受け子の仕事と容易に察することができたと認められる。

 

 以上の次第で,少年は,少なくともBにDの仕事を紹介した時点では,その仕事がオレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思っていたことは明らかであり,その後,本件に先立つ甲でのBとの会話により,受け子の仕事という認識を十分有していたと認められる。

  

 このように,少年は,Dがさせようとしている仕事はオレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思いながら,前記(2)のとおり,BにDの仕事を紹介してBをDら詐欺グループの者に紹介し,交通費の受け渡しに関わり,受け子であるという認識を十分持った後にも,BとDら詐欺グループの者との連絡が維持されるよう仲介したり,受け子の仕事に関わる金のやりとりの仲介をするなど,詐欺グループの者と受け子のBとの間を取り持ち,犯罪遂行上重要な役割を果たした。したがって,少年には,詐欺の故意も本件についての共謀もあったことは優に認定できる。

 

 

(適用法令)

  刑法60条,246条1項

 

(処遇の理由)

  本件は,詐欺グループの者らが,子を思う高齢者の心情につけ込んでだまし,140万円もの多額の現金を詐取した組織的,計画的な悪質重大事案である。少年には,本件と同様の組織的ないわゆる特殊詐欺未遂事案で受け子として活動し,観護措置をとられた上,試験観察を経て平成25年×月に保護観察となり,本件当時も保護観察中であったのに,オレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思いながら友人にその仕事を紹介し,遅くとも本件直前には受け子の仕事をしているとの十分な認識を有していたのに,安易にその友人と詐欺グループの者との間を仲介する重要な役割を果たしたにもかかわらず,詐欺の犯意を否認しており,規範意識が欠如しているばかりか,自己の問題や責任と十分向き合おうとする姿勢も欠いている。心身鑑別や社会調査によれば,本件につながった少年の資質等の問題として,物事を楽観的に軽くとらえがちなところや,自分の弱い部分は隠し,表面を取り繕おうとしがちな性格,不良な先輩からの誘いに十分な危機意識を持てなかったことが指摘されている。家庭での監督に加え,保護観察の枠組の中でも,少年が,安定した仕事につけず,本件に至ったことを見れば,家庭の監督力の弱さは明らかであって在宅での監護では限界があるといわねばならない。

 

  以上のような本件の悪質重大性,少年の果たした役割,保護処分歴,規範意識の欠如及び犯行後の姿勢,資質上の問題,家庭の監督力の弱さに鑑みれば,少年の再非行を防止し,健全な社会生活を営むことができるようにするためには,少年を施設に収容し,規律正しい生活を送る中で規範意識を涵養するとともに,専門家による矯正教育を行ってその特性に応じた性格等の問題の改善,克服を図ることが是非とも必要であるから,少年を中等少年院に送致することとして,主文のとおり決定する。

 

 (少年法24条1項3号,45条の3第1項,刑訴法181条1項ただし書,少年審判規則37条1項適用)

   平成27年4月2日

 

     東京家庭裁判所

            裁判官  井上 豊