海洋掘削の作業の用に供する「リグ」の賃借料

 

 

 

 東京地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第294号、判決 平成25年9月6日 LLI/DB、 判例秘書

について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 海洋掘削等の事業を行う株式会社に対し,海洋掘削の作業の用に供する「リグ」の賃借料が,所得税法161条3号が国内源泉所得と定める「船舶」の貸付けによる対価に該当し,同法212条1項により源泉徴収の対象になるとしてされた所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分が,適法とされた事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  

1 原告の請求をいずれも棄却する。

  

2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        

 

 

事実及び理由

 

 第1 請求

  

1 麻布税務署長が原告に対し平成22年5月31日付けでした,平成17年5月分から平成17年8月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及びこれらに係る不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

  

2 日本橋税務署長が原告に対し平成22年5月31日付けでした,平成17年9月分から平成20年10月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及びこれらに係る各不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

  

3 日本橋税務署長が原告に対し平成23年3月28日付けでした,平成20年11月分から平成23年1月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及びこれらに係る各不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 

 

 

 

 第2 事案の概要等

    

 本件は,石油・天然ガスの探鉱・開発に係る海洋掘削等の事業を行う株式会社である原告が,パナマ共和国(以下「パナマ」という。)内に主たる営業所がある法人であるA Inc.(以下「A社」という。)及びB Inc.(以下「B社」といい,A社と併せて「本件各パナマ法人」という。)から,それぞれ海洋掘削の作業の用に供する「リグ」であるC(以下「本件リグ1」という。)及びD(以下「本件リグ2」といい,本件リグ1と併せて「本件各リグ」という。)の貸付けを受けていたところ,その対価(以下「本件賃借料」という。)は所得税法161条3号が国内源泉所得と定める船舶の貸付けによる対価に該当するから,その支払の際に所得税の源泉徴収をして国に納付しなければなければならなかったのに,これを怠ったとして,麻布税務署長から平成22年5月31日付けで平成17年5月分から同年8月分までについて,日本橋税務署長から平成22年5月31日付けで平成17年9月分から平成20年10月分までについて及び平成23年3月28日付けで平成20年11月分から平成23年1月分までについて,それぞれ源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税の告知の処分(以下,これらの処分を総称して「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定の処分(以下,これらの処分を総称して「本件各賦課決定処分」といい,本件各納税告知処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことに対し,原告に対する本件各リグの貸付けは同号の船舶の貸付けには該当しないなどと主張して,本件各処分の各取消しを求める事案である。

  

1 関係法令等の定め

   別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである。

  

2 前提事実

    証拠(各認定事実の後に掲げる。証拠を掲げない事実は,当事者間に争いがない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

   

(1) 原告

     

 原告は,石油・天然ガスの探鉱・開発に係る海洋掘削等の事業を行う株式会社であり,所得税法2条1項6号の内国法人に該当する。

     

 原告は,平成17年8月29日に,その本店を東京都港区α×番16号から東京都中央区β×番3号(肩書住所地)に移転した(弁論の全趣旨)。

   

(2) 本件各リグ

   ア 本件リグ1

     (ア) 構造等

       

 リグは,洋上から海底下数千メートルに賦存する石油・天然ガスの貯留層まで掘進するための構造物であり,ジャッキアップ型(甲板昇降型),セミサブマーシブル型(半潜水型)及びドリルシップ型(船型)の3つの型に大別される(甲12,24,弁論の全趣旨)。

       

 本件リグ1は,ジャッキアップ型のリグであり,掘削機器や居住用の施設等を搭載したハル(胴体)にジャッキ装置で上下に動く3本のレグ(脚)を取り付けた構造をしている。本件リグ1のハルは,全長59メートル,全幅56メートル,深さ(高さ)6.58メートルの台状の構造体で,上から見ると三角形様の形状をしている。本件リグ1の各レグは,いずれも鉄骨等をはしご状に組んだ長さ(高さ)128.380メートルの三角柱様の構造体で,それぞれハルの各角にこれを貫通するように取り付けられている(甲13,弁論の全趣旨)。ハルを洋上に浮かせた場合の本件リグ1の排水量は,9228トンである。

       

 本件リグ1を用いた掘削作業は,各レグを下げて海底に着底させ,これらを支えにしてハルを波浪の影響を受けない高さまで上昇させた状態で行われる。本件リグ1が掘削作業を行う場合の最大稼働水深は92メートルであり,最大掘削深度は6000メートルである。

       

 本件リグ1には,自航を可能とする推進機関が備えられていない。本件リグ1を海上で移動させる手段としては,いずれもレグを上げた状態で本件リグ1を海上に浮かせて曳航船で牽引する「ウェットトウ」と本件リグ1を台船に搭載し溶接及び固定をして運搬する「ドライトウ」がある。

     

(イ) 貸付けに至る経緯等

      

a 本件リグ1は,昭和59年8月にE株式会社により製造され,原告が所有権を取得した。

      

b 原告は,平成9年3月5日に,パナマ国内において,原告がその発行済株式の全てを保有する子会社として,海洋掘削リグの賃貸を目的とするA社を設立した。A社は,パナマ国内に主たる営業所がある法人であり,所得税法2条1項7号の外国法人に該当する。

      

c 原告は,平成9年12月1日に,本件リグ1をA社に譲渡した。

      

d 原告は,平成15年5月29日に,A社との間で,本件リグ1に係る「裸用船契約」を締結した。

      

e その後,本件リグ1は,平成15年7月18日に,原告がイラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)内に設立した子会社であるF Co.Ltd.(以下「本件イラン法人」という。)に転貸され,本件イラン法人においてペルシャ湾での海洋掘削作業に用いられている(乙4の1,4の2,29,弁論の全趣旨)。

    

イ 本件リグ2

     

(ア) 構造等

       

 本件リグ2もまた,ジャッキアップ型のリグであり,ハルを洋上に浮かせた場合の排水量が8720トンであることなどを除いて,その構造等は前記ア(ア)記載の本件リグ1の構造等と同様である。

     

(イ) 貸付けに至る経緯等

      

a 本件リグ2は,昭和56年3月にE株式会社により製造され,原告が所有権を取得した。

      

b 原告は,平成14年12月13日に,パナマ国内において,原告がその発行済株式の全てを保有する子会社として,海洋掘削リグの賃貸を目的とするB社を設立した。B社は,パナマ国内に主たる営業所がある法人であり,所得税法2条1項7号の外国法人に該当する。

      

c 原告は,平成15年3月5日に,本件リグ2をG株式会社に譲渡した。同日,B社は,G株式会社(幹事会社)及びH株式会社(参加会社。なお,同社は平成19年4月1日に商号をI株式会社に変更している。)との間で割賦販売契約を締結して,本件リグ2を譲り受けた。

      

d 原告は,平成15年3月14日に,B社との間で,本件リグ2に係る「裸用船契約」(以下,前記(ア)dの本件リグ1に係る裸用船契約1と併せて「本件各裸用船契約」という。)を締結した。

      

e その後,本件リグ2は,平成15年7月18日に本件イラン法人に転貸され,本件イラン法人においてペルシャ湾での海洋掘削作業に用いられている(乙4の1,4の2,30,弁論の全趣旨)。

    

ウ 本件賃借料の支払等

      

 本件各裸用船契約では,本件賃借料の支払について,原告は本件各パナマ法人から提出された請求書に記載された金額を本件各パナマ法人の指定する銀行口座に電信送金の方法により支払うものと定められている(乙20,23)。平成17年5月分から平成23年1月分までの各月に原告が本件各パナマ法人に支払った本件賃借料の額は,別表B-1,B-2,B-3の各「賃借料」欄記載のとおりである。原告は,本件賃借料を支払う際,源泉所得税の徴収及び納付をしていなかった。

   

(3) 課税処分の経緯

     

 本件各処分,本件各処分についての原告の異議申立て並びにこれらに対する麻布税務署長及び日本橋税務署長の決定,これらの決定を経た後の本件各処分についての原告の審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は,別表A-1,A-2,A-3記載のとおりである。

   

(4) 本件訴えの提起

     

 原告は,平成24年5月1日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

  

 

 

3 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張

    

 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記4において引用する別紙3「争点に関する当事者の主張の要旨」第1(被告の主張の要旨)記載のほか,別紙2「本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」記載のとおりである。

  

4 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨

    

 本件の争点は,本件各処分の適法性であり,具体的には,原告に対する本件各リグの貸付けが所得税法161条3号の「船舶」の貸付けに該当するか否かが争われている。

    

 これに関する当事者の主張の要旨は,別紙3「争点に関する当事者の主張の要旨」記載のとおりである(なお,同別紙で定める略称は,以下においても用いる。)。

 

 

 第3 当裁判所の判断

  

1 所得税法161条3号の「船舶」の貸付けの意義

   

(1) 所得税法は,同法161条3号のほか,同法2条1項19号,同法15条5号,同法26条1項,同法58条1項4号及び同法225条1項9号において「船舶」という用語を用いているが,これを定義する規定は置いていない。

   

(2) 所得税法161条3号は,「国内にある不動産,国内にある不動産の上に存する権利若しくは採石法(昭和25年法律第291号)の規定による採石権の貸付け(括弧内省略),鉱業法(昭和25年法律第289号)の規定による租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する船舶若しくは航空機の貸付けによる対価」を国内源泉所得として定めている(別紙1・1(6))。

 

 このように居住者又は内国法人に対する船舶の貸付けによる対価を国内にある不動産の貸付けによる対価と並べて国内源泉所得として規定した趣旨は,昭和37年法律第44号による改正前の旧所得税法1条2項1号の規定の下において船舶の貸付けによる対価が国内源泉所得に該当するかどうかが不明確であったので明確にする必要があったこと,上記の改正によりその点が明確にされた後においてもなお既に所得税の源泉徴収の対象とされていた国内にある不動産の貸付けによる対価とのバランスを図る必要があったことなどにあると解されるが(甲26,乙14,15,16参照),このようにして定められた現行の所得税法161条3号の規定の文言や既に述べたようなその規定の設けられた経緯等をもって,同号の「船舶」の意義を直ちに明らかにすることができるものとはいい難いし,これが他の特定の法律からのいわゆる借用概念であると解すべき根拠も見いだし難い。

 

 同号の規定の運用に関しては,所得税基本通達161-12が,「法第161条第3号に掲げる『船舶若しくは航空機の貸付けによる対価』とは,いわゆる裸用船(機)契約に基づき支払を受ける対価をいい,乗組員とともに利用させるいわゆる定期用船(機)契約又は航海用船(機)契約に基づき支払を受ける対価は,これに該当しない」と定めているが(甲30,弁論の全趣旨),これは,同号の規定の文理に従い,同号にいう「船舶……の貸付け」が専ら物である船舶の貸付け,すなわちいわゆる裸用船契約に係るものをいうことを明らかにしたにとどまるものである。

   

(3) そこで,所得税法における「船舶」という用語を用いている他の規定について見てみると,同法2条1項19号は,同法における「減価償却資産」について,「不動産所得若しくは雑所得の基因となり,又は不動産所得,事業所得,山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物,構築物,機械及び装置,船舶,車両及び運搬具,工具,器具及び備品,鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう」と定め,同号の規定による委任に基づき,

 

 所得税法施行令6条4号は,所得税法2条1項19号に規定する政令で定める資産の一つとして「船舶」を掲げている。

 

 そして,所得税法施行令129条の規定による委任に基づき定められた耐用年数省令1条1項1号は,所得税法施行令6条4号に掲げる資産の耐用年数は耐用年数省令別表第1に定めるところによる旨を定めているところ,

 

 耐用年数省令別表第1は,

 

 「船舶」を「船舶法(明治32年法律第46号)第4条から第19条までの適用を受ける鋼船」,「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける木船」,

 

 「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける軽合金船(他の項に掲げるものを除く。)」,

 

 「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける強化プラスチック船」,

 

 「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける水中翼船及びホバークラフト」及び「その他のもの」に大別して,その耐用年数を定めている。

 

 その運用に関して,耐用年数通達2-4-4は,

 

 「サルベージ船,工作船,起重機船その他の作業船は,自力で水上を航行しないものであっても船舶に該当するが,いわゆるかき船,海上ホテル等のようにその形状及び構造が船舶に類似していても,主として建物又は構築物として用いることを目的として建造(改造を含む。)されたものは,船舶に該当しないことに留意する」と定めている(乙13)。

     

 

 他方,所得税法26条1項は,「不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう」と定めている。

 

 その運用に関して,所得税基本通達26-1は,

 

 「法第26条第1項に規定する船舶には,船舶法第20条《小型船舶及び櫓擢船に対する適用除外》に規定する船舶及び舟は含まれないものとする。

 

 したがって,総トン数20トン未満の船舶及び端舟その他ろかいのみで運転し,又は主としてろかいで運転する舟の貸付けによる所得は,事業所得又は雑所得に該当する」と定めている(乙12)。

     

 これらの定めの内容等によっても,それらにいう「船舶」,ひいては所得税法の規定における「船舶」の意義を直ちに明らかにすることができるものとはいい難い。

   

 

(4) さらに,「船舶」という用語を用いている他の法令について見てみると,海上企業関係を関係主体の利益を調整する立場から規整するものとして(乙7参照)商法第3編(海商)に置かれた商法684条1項は,同法における船舶について,商行為をする目的をもって航海の用に供するものをいう旨を定めているのに対し,船舶の国籍,総トン数その他の登録に関する事項及び船舶の航行に関する行政上の取締り等を定めた特別法である(乙10参照)船舶法は,35条本文において,商行為をする目的を有さずに航海の用に供するものも同法における船舶に含まれることを前提に,これに商法第3編(海商)の規定が準用される旨を定めている。他方,船舶法施行細則2条は,推進器を有しないしゅんせつ船は船舶法における船舶とはみなさない旨を定めている。

     

 「船舶」という用語を用いている法令は多数あるが,以上のとおり,その中でも主要な法令というべき商法と船舶法との間ですら「船舶」という用語が異なる意義で用いられており,やはり主要な法令というべき船舶安全法においてを含め,「船舶」という用語について定義する規定は置かれていないのであって,「船舶」という用語を用いている他の法令の規定を参照して,所得税法の規定における「船舶」の意義を明らかにすることも困難であるというべきである。

   

 

(5) 以上に述べたところからすると,所得税法上の外国法人が居住者又は内国法人に対してした特定の物の貸付けが同法161条3号の「船舶」の貸付けに当たるか否かについては,当該物の貸付けに関係する各般の事情を社会通念に照らして検討して決するほかはないというべきである。

   

(6) これに対し,原告は,所得税法161条3号の「船舶」は,同法2条1項19号の「船舶」及び同法26条1項の「船舶」と統一的に解釈されるべきであるとした上で,同法161条3号の「船舶」とは,船舶法4条から19条までの規定の適用があるもので,航海の用に供する船舶ないし国際運輸の用に供する船舶に限られると主張する。

     

 しかし,前記(3)で判示したとおり,所得税法2条1項19号の「船舶」には,船舶法4条から19条までの規定の適用を受けるもののほか,「その他のもの」も含まれるとされていること等からすると,原告の上記主張はその前提において問題があり,直ちには採用し難いものというべきである。

     

 なお,原告は,所得税法161条3号の趣旨,所得税基本通達161-12及び法人税基本通達20-1-15の定め,旧租税特別措置法42条の規定,OECDモデル条約8条1項等の規定を挙げて,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」について,それにいう「船舶」とは船舶法4条から19条までの規定の適用があるもので航海の用に供する船舶ないし国際運輸の用に供する船舶に限られると解すべきであるとか,それにいう「対価」とは船舶を国際運輸の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価ないし船舶を航海の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価と解すべきであると主張するが,いずれも規定の文言からは当然には読み取ることのできない限定を加えることをいうものであって,前記(2)に述べたところのほか,その挙げる法令等の規定の内容に照らすと,いずれも直ちには採用することができないというべきである。

  

 

 

2 本件各リグの船舶性

   

(1) 本件各リグの構造や機能,船舶としての取扱いに関する事情等については,前記前提事実,証拠(各認定事実の後に掲げる。証拠を掲げない事実は,当事者間に争いがない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

    

ア 本件各リグは,いずれもジャッキアップ型のリグであり,掘削機器や居住用の施設等を搭載したハルにジャッキ装置で上下に動く3本のレグを取り付けた構造をしている(前記前提事実(2)ア(ア))。本件各リグを用いた掘削作業は,各レグを下げて海底に着底させ,これらを支えにしてハルを波浪の影響を受けない高さまで上昇させた状態で行われるが,ハルを着水させ,各レグを上げると,本件各リグは洋上に浮揚する(前記前提事実(2)ア(ア),イ(ア),甲15の1)。

    

イ 本件各リグには,自航を可能とする推進機関が備えられていないことから,本件各リグを海上で移動させるには,本件各リグを海上に浮揚させて曳航船で牽引するウェットトウによるか,本件各リグを台船に搭載し溶接及び固定をして運搬するドライトウによるほかない(前記前提事実(2)ア(ア),イ(ア))。

      

 本件リグ1は,製造直後の昭和59年8月から平成3年5月までの間に広島から中華人民共和国,シンガポール共和国及びインド共和国を経てオーストラリア連邦に至るまでウェットトウによって移動し,平成6年12月から平成7年1月までの間にオーストラリア連邦からにカタール国に至るまでドライトウによって移動して,その後のペルシャ湾内の掘削場所の変更などに際してはウェットトウによって移動している(甲17,弁論の全趣旨)。

      

 また,本件リグ2は,製造直後の昭和56年3月から同年5月までの間に広島からアラブ首長国連邦に至るまでウェットトウによって移動し,昭和61年7月から同年11月までの間にアラブ首長国連邦からインドネシア共和国に至るまでドライトウとウェットトウの併用によって移動し,出発時期は不明であるがシンガポール共和国から平成5年1月にアラブ首長国連邦に至るまで,同年7月から同年8月までの間にアラブ首長国連邦からオーストラリア連邦に至るまで,平成9年2月から同年3月までの間にオーストラリア連邦からシンガポール共和国に至るまで,それぞれドライトウによって移動し,平成11年1月にシンガポール共和国からイランに至るまでドライトウとウェットトウの併用によって移動して,その後のペルシャ湾内の掘削場所の変更などに際してはウェットトウによって移動している(甲17,弁論の全趣旨)。

    

ウ 本件リグ1については,昭和59年8月に製造されたところ,それについて船舶法所定の登記等はされていない一方,同月16日に,建設機械抵当法3条1項の規定に基づき,原告を所有者とする所有権保存の登記がされた(甲28,弁論の全趣旨)。その際,本件リグ1に係る建設機械登記簿(甲28)の表題部には,名称として「作業台船」,形式として「非自航式甲板昇降型」などと登記された。

      

 また,本件リグ2については,昭和56年3月に製造されたところ,それについて船舶法所定の登記等はされていない一方,同年4月7日に,建設機械抵当法3条1項の規定に基づき,原告を所有者とする所有権保存の登記がされた(乙3,弁論の全趣旨)。その際,本件リグ2に係る建設機械登記簿(乙3)の表題部には,名称として「作業台船」,形式として「非自航式甲板昇降型」などと登記された。

    

エ 本件リグ1については,平成8年5月11日に,船舶安全法9条1項の規定に基づき,関東運輸局長から,船舶検査証書(乙1)が交付された。この船舶検査証書には,船種として「非自航船」,船名として「J」,航行区域又は従業制限として「遠洋区域(国際航海)」,用途として「海底資源掘削船」などと記載されていた。

      

 また,本件リグ2については,平成14年8月12日に,船舶安全法9条1項の規定に基づき,関東運輸局長から,船舶検査証書(乙2)が交付された。この船舶検査証書には,船種として「非自航船」,船名として「D」,航行区域又は従業制限として「遠洋区域(国際航海)」等,用途として「海底石油掘削船」などと記載されていた。

    

オ 本件リグ1については,

 

①昭和59年8月7日,K協会による船級登録のための検査がされて船級が付与されたこと(甲19),

 

②平成9年8月27日,社団法人(当時)L協会による「船舶の船価」の鑑定がされたこと(乙22),

 

③同年12月1日,A社に譲渡されたが(前記前提事実(2)ア(イ)c),当該譲渡に係る合意覚書には,当該譲渡に先立ってカタール国において船級検査がされたものと記載されていたこと(乙5),

 

④平成15年5月29日,原告との間で裸用船契約が締結され(前記前提事実(2)ア(イ)d),また,同年7月18日,本件イラン法人との間で「裸用船契約」が締結されたこと(乙29),

 

⑤2006年(平成18年)4月21日,「船舶名」をCとする「船舶」についてのパナマ海運庁による法定登録がされたこと(乙20),

 

⑥2008年(平成20年)3月31日付けで,M協会による船級証書が発行されたこと(乙31),

 

⑦2012年(平成24年)6月25日付けで,パナマ政府の権限の下におけるK協会により同年5月25日の検査の結果に基づく移動式海洋掘削装置安全証書が発行されたこと(甲33)が認められる。

    

カ 本件リグ2については,

 

①昭和56年3月27日,K協会による船級登録のための検査がされて船級が付与されたこと(甲21),

 

②平成10年11月18日付けで,関東運輸局東京海運支局長により船名を「D」,航行区域を「遠洋区域(国際航海)」とする「日本船舶であることの証明書」が発行されたこと(甲27の1,27の2),

 

③平成15年3月5日,B社に譲渡されたが(前記前提事実(2)イ(イ)c),同日付けの使用者である原告,所有者であるB社及び販売者であるG株式会社等の間における協定書には,本件リグ2につき「作業台船」と記載されていたこと(乙6の3),

 

④同年3月14日,原告との間で裸用船契約が締結され(前記前提事実(2)イ(イ)d),また,同年7月18日,本件イラン法人との間で「裸用船契約」が締結されたこと(乙30),

 

⑤2005年(平成17年)9月28日付けで,M協会による船級証書が発行されたこと(乙33),

 

⑥2008年(平成20年)1月18日,「船舶名」をDとする「船舶」についてのパナマ海運庁による法定登録がされたこと(乙21),

 

⑦2011年(平成23年)6月16日付けで,パナマ政府の権限の下におけるK協会により同年4月12日の検査の結果に基づく移動式海洋掘削装置安全証書が発行されたこと(甲32)が認められる。

   

 

(2) 上記(1)の各事実に基づき検討する。

    

ア 上記(1)ア及びイのとおり,本件各リグは,いずれも,掘削機器や居住用の施設等を搭載したまま洋上に浮揚することができ,しかも,その状態で曳航船に牽引されて(ウェットトウ),ペルシャ湾内を移動するのみならず,広島からオーストラリア連邦ないしアラブ首長国連邦まで移動したりすることもできるものであるところ,自力で水上を航行しないサルベージ船,工作船,起重機船が所得税法2条1項19号の規定の運用上同規定にいう「船舶」に含まれるものとして取り扱われていること(前記1(3))との対比からしても,以上のような水上に浮揚しての移動及び積載に係る特徴を備えた本件各リグをもって,「船舶」に含まれるとみることが格別不自然であるとはいい難い。

    

イ また,上記(1)ウのとおり,本件各リグは,いずれも,建設機械抵当法3条1項の規定に基づき,原告を所有者とする所有権保存の登記がされ,その際に,建設機械登記簿の表題部には,名称として「作業台船」,形式として「非自航式甲板昇降型」などと登記されたものである。

      

 建設機械抵当法3条1項の規定に基づき所有権保存の登記をすることができる建設機械は,同法2条及び建設機械抵当法施行令1条の規定に基づき,同令別表に掲げられているところ,同別表12項には,種類として「船舶」が掲げられ,そこには,名称を「作業台船」,範囲を「鋼製で,独航機能を有しないもの」とするものが掲げられている。そうすると,本件各リグは,いずれも,建設機械抵当法の適用に関しては「船舶」として取り扱われていたものと認められる。

      

 なお,本件各リグについては船舶法所定の登記等はされていないところ,この点に関し,原告は,昭和55年当時の所管官庁の見解として同法4条から19条までの規定の適用がないものとされる同条20条の「端舟」と同様であるとされていたためである旨を主張するが,そうであるとすると,本件各リグについては,当時の所管官庁の見解によっても同法に規定する「船舶」から排除されるものではないとされていたものとみるのが相当というべきこととなる。

    

ウ さらに,上記(1)エのとおり,本件各リグは,いずれも,船舶安全法9条1項の規定に基づき,関東運輸局長から,船舶検査証書の交付を受け,その船舶検査証書には,船種として「非自航船」,用途として「海底資源掘削船」ないし「海底石油掘削船」と記載されたものである。

      

 同項の船舶検査証書は,同法5条1項1号の定期検査に合格した「船舶」に交付されるものであるところ,この「船舶」とは,同法1条の「日本船舶」をいい,これは,船舶法1条の「日本船舶」をいうものと解される(乙8参照)。そうすると,本件各リグは,いずれも,船舶安全法及び船舶法の適用に関しては「日本船舶」として取り扱われていたものと認められる。上記イと同様に,このような取扱いがされていたことからしても,本件各リグをもって「船舶」に含まれるとみることが格別不自然であるとはいい難い。

    

エ 上記(1)オ及びカの各事実についても,細部の法律上の意味等については原告の主張するようになお検討すべき問題が残るとしても(なお,甲34,乙33,34等参照),本件各リグについて,それらが「船舶」に含まれ得るものとして各種の取扱いがされていたという限りにおいては,既に述べたところを覆すに足りる事情であるとはいい難い。

   

(3) 以上によれば,原告に対する本件各リグの貸付けは,いずれも,それらに関係する各般の事情を社会通念に照らして検討すると,原告が本件において指摘する他の事情(本件各リグの本質的な収益の源泉たる活動は,海底に固定されて行う海洋掘削の作業であり,その作業は,各レグを下げて海底に着底させ,これらを支えにしてハルを波浪の影響を受けない高さまで上昇させた状態で行われるものであって,本件各リグがこのような状態で掘削作業に供される時間は,その移動時間をはるかに上回るものであったこと等)を考慮しても,所得税法161条3号の「船舶」の貸付けに該当するものと認めるのが相当である。このように認定しても,上記の各般の事情に照らし,原告が本件で主張するような法的安定性や予測可能性に関する問題が生ずるとはいい難いものと考えられる。

  

3 本件各処分の適法性について

   

 これまで判示してきたところ及び弁論の全趣旨によれば,原告の源泉所得税の納税地については,別紙2「本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」のとおりと認められ,また,原告が納付すべき源泉所得税の額及びこれらに係る不納付加算税の額もまた,同別紙のとおりであって,本件各処分におけるそれと同額と認められる。

    

 したがって,本件各処分は,いずれも適法である。

 

 

第4 結論

    よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

     東京地方裁判所民事第3部

         裁判長裁判官  八木一洋

            裁判官  田中一彦

            裁判官  川嶋知正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (別紙1)

        関係法令の定め

 1 所得税法

   (1) 定義

     所得税法2条1項6号は,内国法人について,「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう」と定め,同項7号は,外国法人について,「内国法人以外の法人をいう」と定めている。

   (2) 納税義務者

     所得税法5条4項は,外国法人は,国内源泉所得のうち同法161条3号等に掲げるものの支払を受けるとき等は,同法により,所得税を納める義務がある旨を定めている。

   (3) 源泉徴収義務者

     所得税法6条は,同法212条等に規定する支払をする者等は,同法により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある旨を定めている。

   (4) 課税所得の範囲

     所得税法7条1項5号は,外国法人に対し,国内源泉所得のうち同法161条3号等に掲げるものについて所得税を課する旨を定めている。

   (5) 源泉徴収に係る所得税の納税地

     平成23年法律第82号による改正前の所得税法17条本文は,同法212条等に規定する支払をする者等のその支払につき源泉徴収をすべき所得税の納税地は,その者の事務所等のその支払の日における所在地とする旨を定めている。

   (6) 国内源泉所得

     所得税法161条3号は,国内源泉所得として,「国内にある不動産,国内にある不動産の上に存する権利若しくは採石法(昭和25年法律第291号)の規定による採石権の貸付け(括弧内省略),鉱業法(昭和25年法律第289号)の規定による租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する船舶若しくは航空機の貸付けによる対価」を定めている。

   (7) 外国法人に係る所得税の課税標準

     所得税法178条は,外国法人に対して課する所得税の課税標準は,その外国法人が支払を受けるべき同法161条3号等に掲げる国内源泉所得の金額とする旨を定めている。

   (8) 外国法人に係る所得税の税率

     所得税法179条1号は,外国法人に対して課する所得税の額は,同法161条3号等に掲げる源泉所得については,その金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨を定めている。

   (9) 源泉徴収義務

     所得税法212条1項は,外国法人に対し国内において同法161条3号等に掲げる国内源泉所得の支払をする者等は,その支払の際,これらの国内源泉所得について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない旨を定めている。

   (10) 徴収税額

     所得税法213条1項は,同法212条1項の規定により徴収すべき所得税の額は,同法161条3号等に掲げる源泉所得については,その金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨を定めている。

  2 国税通則法

   (1) 納税の告知

     国税通則法36条1項2号は,税務署長は,国税に関する法律の規定により源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかつたものを徴収しようとするときは,納税の告知をしなければならない旨を定めている。

   (2) 不納付加算税

     国税通則法67条1項は,源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかつた場合には,税務署長は,当該納税者から,同法36条1項2号の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収するが(本文),当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は,この限りでない(ただし書)旨を定めている。

   (3) 国税の課税標準の端数計算等

     国税通則法118条3項は,附帯税の額を計算する場合において,その計算の基礎となる税額に1万円未満の端数があるとき,又はその税額の全額が1万円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てる旨を定めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(別紙2)

        本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張

  1 原告の源泉所得税の納税地

    原告は,平成17年8月29日に,その本店を東京都港区α×番16号から東京都中央区β×番3号(肩書住所地)に移転しているところ(前記前提事実(1)),原告が本店を移転する前に支払った本件賃借料については,麻布税務署長が所轄する東京都港区α×番16号が源泉所得税の納税地となり,原告が本店を移転した後に支払った本件賃借料については,日本橋税務署長が所轄する東京都中央区β×番3号が源泉所得税の納税地となる(平成23年法律第82号による改正前の所得税法17条本文)。

  2 本件各納税告知処分の根拠及び適法性

    原告が本件各裸用船契約に基づき本件各パナマ法人に支払う本件賃借料は,所得税法161条3号の内国法人に対する船舶の貸付けによる対価(国内源泉所得)に該当するから,原告は,国内において本件各パナマ法人に本件賃借料を支払う際に,同法212条及び213条の規定に基づき,その金額に100分の20の税率を乗じて計算した額の所得税を徴収(源泉徴収)し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付する義務を負う。

    原告が納付すべき本件賃借料に係る各月分の源泉所得税の額を計算すると,別表B-1,B-2,B-3の各「納付すべき税額」欄記載のとおりとなるところ,本件各告知処分の金額は,いずれも上記「納付すべき税額」欄の金額と同額であるから,本件各告知処分は適法である。

  3 本件各賦課決定処分の適法性

    前記2のとおり本件各納税告知処分は適法であるところ,原告が納付すべき源泉所得税額を法定納期限までに納付しなかったことについて,国税通則法67条1項ただし書の「正当な理由があると認められる場合」に該当するとは認められないから,原告に課されるべき不納付加算税の額は,各月分の納付すべき源泉所得税額(ただし,同法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて計算した金額である(同法67条1項)。

    原告に課されるべき各月分の不納付加算税の額を計算すると,別表B-1,B-2,B-3の各「不納付加算税の額」欄記載のとおりとなるところ,本件各賦課決定処分における不納付加算税の金額は,いずれも上記「不納付加算税の額」欄の金額と同額であるから,本件各賦課決定処分は適法である。

 

 

 

 

 

 

 

(別紙3)

        争点に関する当事者の主張の要旨

 第1 被告の主張の要旨

  1 所得税法161条3号の「船舶」の意義

   (1) 租税法中に用いられた用語が法文上明確に定義されておらず,他の特定の法律から借用した概念であるともいえない場合,その用語は,特段の事情がない限り,言葉の通常の用法に従って解釈されるべきであるところ,所得税法161条3号の「船舶」については,その定義が所得税法その他の租税法に規定されておらず,また,他の特定の法律から借用した概念であるとする根拠もうかがえないから,言葉の通常の用法に従って解釈されるべきである。そして,通常の用法として用いられている「船舶」とは,社会通念上の一般的な「船舶」のことを示すのであるから,所得税法161条3号にいう「船舶」とは,社会通念上の船舶をいうものと解される。

   (2) 上記(1)のように,所得税法161条3号にいう「船舶」を社会通念上の船舶をいうものと解することは,立法の経緯にも整合する。

     すなわち,昭和37年法律第44号による改正前の旧所得税法(昭和22年法律第27号)の下では,船舶の貸付けによる対価が非居住者又は外国法人の課税所得である国内源泉所得に該当するか否かは,それが同法1条2項1号の「この法律の施行地にある資産……の所得」に該当するか否かにより判定されていたが,その具体的な内容は不明確であったところ,同規定は昭和37年に改正され,同年政令第94号による改正後の旧所得税法施行規則(昭和22年勅令第110号)1条2項2号の「居住者又は内国法人に対する船舶又は航空機の貸付け」が,同条1項1号の「法施行地にある資産の運用又は保有」に当たり,同号の規定により,それにより生ずる全ての所得が,昭和37年法律第44号による改正に伴い国内源泉所得の範囲について定めるものとされた旧所得税法1条3項1号の「この法律の施行地にある資産……の所得」に当たることが明確となった。この同年の改正に際して,船籍,規模,種類,用途,使用地といった船舶の要素による限定が何ら設けられなかったことからすると,船舶の貸付けについては,その船籍,規模,種類,用途,使用地といった要素を一切考慮することなく,貸付けを受けた者が居住者又は内国法人であれば,その貸し付けることにより生じた所得は,我が国にある資産の運用又は保有により生じた所得として課税対象とする,いわゆる債務者主義が採用されたものと解される。

     そして,旧所得税法においては,同じく国内源泉所得である居住者又は内国法人に対する不動産や機械等の貸付けによる対価が源泉徴収の対象とされていた一方で,船舶又は航空機の貸付けによる対価は源泉徴収の対象とはされていなかったところ,昭和40年法律第33号による旧所得税法の全部改正により,船舶又は航空機の貸付けによる対価の支払は定型的,定期的であって源泉徴収の対象となりやすいこと,不動産や機械等とのバランスを図ることなどの趣旨から,これについても源泉徴収の対象とするものと改められ,それに併せて国内源泉所得に関する規定の整備が図られ,不動産の貸付けと船舶又は航空機の貸付けとが同一の法条である所得税法161条3号において規定されるに至ったものであるが,上記の全部改正の際にも,船舶の貸付けの範囲についての見直しは一切行われていない。さらに,この改正の後においても,これを見直すような改正は行われていない。

     以上のような立法の経緯からすれば,所得税法161条3号は,専ら船舶の貸付けを受けた者が居住者又は内国法人であるか否かを問題としているのであって,船舶の種類等の概念にこだわるものではないことが明らかであるから,同号にいう「船舶」を社会通念上の船舶をいうものと解することが整合的なのである。

  2 社会通念上の船舶の概念

    社会通念上の船舶の概念については,一般に,以下のとおり解説されていることから,水上において「浮揚性」,「移動可能性」及び「積載性」を有する構造物と解することが相当である。

   (1) 石井照久『海商法』(乙9)では,「船舶がなんであるかについては,商法ないし船舶法にも一般的な規定はなく(その必要もないが),それは常識をもって決するほかなく,一般的には『水を航行する用に供する構造物』とでも定義すべきであ」り,この場合の水とは「水上のほか水中(たとえば潜水艦)を含む」と解説されている。

   (2) 『行政百科大事典3』(乙17)では,「学説等において,船舶の要件として挙げられている事項は,おおむね,次のとおりである。(1)浮揚性,(2)移動性,(3)積載性,(4)一定の構造性又は形状性。このうち,浮揚性については,すべての学説に共通してとりあげられる。移動性については,『移動せず一か所に静止しているのが役目の船もある。』すなわち,移動性までは必要でなく,移動可能性を具備していればよい,とする説もある。積載性は,特にとりあげていない例が多い。一定の構造物又は形状性については,ほとんどとりあげていないのみならず,積極的に否定している例もある。したがって,最小限,船舶というためには『浮揚性』と『移動可能性』の2要件を具備していればよいということができる。現在では,船舶法及び船舶安全法の運用上,上述の2要件を備えるものを船舶としている」と解説されている。

   (3) 有馬光孝ほか『船舶安全法の解説』(乙18)では,「船舶安全法及び関係省令において船舶についての明確な定義は設けられていないが,一般的な概念として,水上に浮かび得る性質を有するもので水上を移動すること又は物もしくは人を積載することにより何らかの社会的,経済的使命を果たすために特別に建造された工作物を船舶としてとらえている」と解説されている。

   (4) 坂井保也監修・池田宗雄『全訂船舶知識のABC』(乙19)では,「船についてのはっきりした定義はなく,船舶法,船舶安全法,海上衝突予防法などの海事法規でも定義はそれぞれ異なっています。世間一般の概念では,次の3要素を備えたものを船舶としています。①水上に浮揚することができる。②移動することができる。③人または物を積載することができる」と解説されている。

   (5) 運輸省海事法規研究会編著『最新海事法規の解説』(乙8)では,「船舶法上の船舶の意義については,法律上に特別の規定はないが,日本船舶の国籍取得の趣旨又は船舶法20条の小型船舶の例示から考えて,社会通念上の船舶を指すものであるということができる。社会通念上の船舶とは,物の浮泛性を利用して,水上を航行する用に供される一定の構造物をいう。」,「浚渫船は,社会通念上の船舶ではあるが,推進器を有しない限り,船舶法上の船舶ではない」と解説されている。

  3 本件各リグが社会通念上の船舶と認められること

   本件各リグは,一定の場所に固着することなく,一定の海域にあるガス田において海底資源の掘削作業等を行うため,作業員や機械装置等を積載し,曳航されて(ウェットトゥ),ガス田への移動又は造船所への回航を行っていることが認められる。

    したがって,本件各リグが水上における浮揚性,移動可能性及び積載性を有していることは明らかであるから,本件各リグは,前記2の社会通念上の船舶と認められる。

  4 租税法以外の分野における本件各リグの船舶としての取扱い

   本件各リグについては,以下のとおり,租税法以外の分野においても船舶としての取扱いを受けているのであるから,本件各リグが所得税法161条3号の「船舶」に該当するとしても,法的安定性や予測可能性は何ら害されるものではない。

   (1) 本件各リグがパナマ船籍を有していること

    本件リグ1については2006年(平成18年)4月21日付けで,本件リグ2については2008年(平成20年)1月18日付けで,それぞれパナマ海運庁からパナマ船籍としての登録証明書(乙20,21)が発行されている。

     また,本件各裸用船契約においては,本件各リグが本件各パナマ法人により所有され,パナマ船籍を継続することが要件とされている。

     このとおり,本件各パナマ法人が所有する本件各リグは,パナマ船籍を有する船舶として登録され,また,それが本件各裸用船契約の要件とされているのであるから,本件各リグがパナマにおいて船舶と取り扱われていること,原告及び本件各パナマ法人が本件各リグを船舶として取り扱っていることは,明らかである。

   (2) 本件各リグが船舶検査証書の交付を受けていたこと

    本件リグ1については平成8年5月11日付けで,本件リグ2については平成14年8月12日付けで,それぞれ船舶安全法9条1項に基づき,関東運輸局長から船舶検査証書(乙1,2)が交付されている。

     したがって,本件各リグは,船舶安全法9条1項の「船舶」,すなわち同法5条1項,2条1項の「船舶」に該当する(海底資源掘削船は,船舶安全法施行規則1条4項(定義)において,特殊船として定められ,船舶安全法2条1項の適用除外を定めた船舶安全法施行規則2条2項3号から除外されていることから,船舶安全法2条1項の規定の適用を受ける船舶に該当する。)。そして,同法2条1項の「船舶」に該当するということは,同法1条の「日本船舶」に該当するということであり,この「日本船舶」は船舶法1条の「船舶」をいうものと解されているから(乙8),本件各リグは,船舶法上の船舶に該当するといえる。

     なお,本件各リグについては,その船舶検査証書の「船種」欄に「非自航船」と記載されていることから,自航船ではないことを前提に,船舶安全法2条1項の適用のある「船舶」と認められていることが明らかであり,また,「航行区域又は従業制限(国際航海に従事する船舶にあっては,その旨)」欄に「遠洋区域(国際航海)」と記載されていることから,国際航海に従事する船舶として船舶の検査を受け,合格したことがうかがえる(乙8)。

   (3) 本件リグ1が船舶として船価を評価されていたこと

    平成9年8月27日付けで社団法人L協会が作成した鑑定書(乙22)では,本件リグ1は,船舶として船価が評価算定されているから,本件リグ1が,第三者評価機関である同協会において,船舶として取り扱われていることは明らかである。

   (4) 本件各リグが日本標準商品分類において船舶に分類されること

    総務省統計局が設定する「日本標準商品分類(平成2年6月改定)」(乙23)は,「統計を商品別に表示する場合における標準として,市場において取引され,かつ移動できるすべての価値ある有体的商品について分類しているもの」であるところ,統計の国際比較可能性を図る必要から,主要な国際的商品分類である「商品の名称及び分類についての統一システム」(HS)との対応付けが行われている。そして,日本標準商品分類における標準分類番号は,大分類,中分類,小分類等の順に配列されているところ,船舶については,大分類4(輸送用機器)の中に中分類50(船舶)が設けられ,その中に,商品項目名「海底資源掘削船」が,分類番号50235,HS番号890520として掲げられている。「海底資源掘削船」は,さらに,「船舶形(Drillship)」,「着底形(Submergible)」,「甲板昇降形(Jack-up)」及び「半潜水形(Semisubmergible)」に区分されている。

     本件各リグは,その船舶検査証書の「用途」欄に「海底資源掘削船」又は「海底石油掘削船」と記載されているジャッキアップ型(甲板昇降型)のリグであるから,日本標準商品分類においては,「甲板昇降形」の「海底資源掘削船」に該当し,船舶に分類されるものと認められる。

     なお,商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(乙24)においても,上記のHSと同じ分類が採用されており,海底資源掘削船は,第89分類の「船舶及び浮き構造物」のうち,分類番号890520に属すものとされ,これとは別に「その他の浮き構造物」が分類番号8907に掲げられていることからすると,国際的に見ても,船舶に分類されるものということができる。

  5 小括

    以上のとおり,所得税法161条3号の「船舶」とは,社会通念上の船舶をいうものと解されるところ,本件各リグは,社会通念上の船舶に該当するから,同号の「船舶」に該当することは明らかであるところ,本件各リグが租税法以外の分野においても船舶としての取扱いを受けていることからしても,この結論の妥当性が裏付けられるというべきである。

  6 原告の主張に対する反論

    原告は,所得税法161条3号の「船舶」とは,船舶法4条から19条までの規定の適用があるもので,航海の用に供する船舶ないし国際運輸の用に供する船舶に限られると解されるなどと主張した上で(後記第2・1(6)),本件各リグが所得税法161条3号の「船舶」には該当しないなどと主張するが(後記第2・2(6)),以下のとおり,原告の主張には理由がない。

   (1) 原告は,所得税法における「船舶」の位置付けという観点から,所得税法161条3号の「船舶」は,船舶法4条から19条までの規定の適用を受ける船舶と解するべきであるなどと主張する(後記第2・1(1))。

     しかし,減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」という。)別表第1(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数)においては,「船舶」を「船舶法4条ないし19条の適用を受けるもの」と「その他のもの」とに区分して,そのいずれもが,所得税法2条1項19号にいう「船舶」に該当するとしているのであるから,原告の上記主張は前提において誤ったものである。

     なお,ここでの「その他のもの」には,船舶法上の船舶に該当しない船舶法施行細則2条にいう推進器を有しないしゅんせつ船と,船舶法上の船舶に該当するが同法4条から19条までの適用のない船舶が想定される。本件各リグは,耐用年数省令別表第1の「船舶」のうち,「その他のもの」の「鋼船」の「その他のもの」に該当すると解される。

   (2) 原告は,所得税法161条3号の趣旨という観点から,同号の「船舶」は,国際間を移動することが可能であり,かつ自ら移動することが可能な推進器を有しているという要件を備えている船舶であると解され,また,登記・登録等の船舶法上の基本的義務が課されないものについては,同号の「船舶」には当たらないなどと主張する(後記第2・1(2))。

     しかし,前記1(2)のとおり,所得税法161条3号の立法経緯等からすれば,船舶の貸付けにより生じた所得が国内源泉所得に該当するかどうかの判定において,船舶の船籍,規模,種類,用途,使用地といった要素は一切問われていないのであって,国内源泉所得の対象となる船舶が,原告の主張するような国際間を移動することが可能である,自ら移動することが可能な推進器を有している,登記・登録がされるといった要素により限定されると解すべき理由はない。同号が債務者主義を採用したものであるからといって,同号の船舶として,国際間を移動することが可能であること,自ら移動することが可能な推進器を有していることといった限定が付されるとする論理関係があるものではなく,例えば,国際間の移動に使われず,日本領海外に出ずに日本国内で使われるだけの船舶であっても,また,全く日本国内に停泊などせず,専ら国外で使われるだけの船舶であっても,当然,同号の「船舶」として,その貸付けの対価は国内源泉所得となるのである。したがって,原告の上記主張には理由がない。

   (3) 原告は,所得税基本通達(昭和45年7月1日付け直審(所)30国税庁長官通達)及び法人税基本通達(昭和44年5月1日付け直審(法)25国税庁長官通達)との関係という観点から,所得税法161条3号の「船舶」とは,国際運輸業に供すべき船舶であることが前提となっているものと解されるなどと主張する(後記第2・1(3))。

     しかし,法人税基本通達20-1-15の(注)1のいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に基づく用船は,単純な船体の貸付けのほかに,運航役務の提供を行うものであり,その用船料は,運送の事業により生ずる所得として法人税法138条1号(所得税法161条1号に対応するもの)に該当するものにほかならないから,当該所得のどの部分を国内業務について生じたものとするかの区分は,法人税法施行令176条1項4号に従うことされているのであり,法人税基本通達20-1-15の(注)1は,法人税法138条1号に関する至極当然のことを留意的に明らかにしたにすぎない。このような法人税基本通達20-1-15の(注)1の定めから,所得税法161条3号の「船舶」の解釈が,しかも,「国際運輸業に供すべき船」との限定解釈が導かれるはずがない。したがって,原告の上記主張は,法人税基本通達を正解しないものであり,失当である。

   (4) 原告は,租税特別措置法との関係という観点から,所得税法161条3号の「船舶」とは,国際運輸業に供される船舶であることが前提となっているものと解されるなどと主張する(後記第2・1(4))。

     しかし,平成元年法律第12号による改正前の租税特別措置法42条(以下「旧租税特別措置法42条」という。)は,「所得税法161条3号に掲げる国内源泉所得のうち,外航海運をめぐる経済事情の変化により離職を余儀なくされた船員の雇用を促進するために設立されたものとして運輸大臣の証明を受けた内国法人に対する船舶の貸付けによる対価」については,一定の場合を除き,所得税の源泉徴収を不適用とする旨を定めていたものであって,所得税法161条3号の国内源泉所得の対象となる船舶の貸付けのうち,一定のもののみが,上記の政策目的を有する旧租税特別措置法42条の対象とされていたにすぎないのであるから,同条をもって,所得税法161条3号の「船舶」の意義・解釈に何らかの限定が加えられるものではない。それに,旧租税特別措置法42条による上記の措置は,離職船員を配乗させるために外国から裸用船を行う場合の用船料の支払を対象としていたのであって,その船舶が国際運輸業に供されるか否かは問題とされていなかったのであるから,この点においても,同条をもって,所得税法161条3号の「船舶」が国際運輸業に供される船舶に限定されることはない。したがって原告の上記主張は,旧租税特別措置法42条を正解しないものであり,理由がない。

   (5) 原告は,OECDモデル条約及び外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律との関係という観点から,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」に関する規定は,国際運輸業に供される船舶の貸付けに関する規定などと主張する(後記第2・1(5))。

     しかし,OECDモデル条約8条1項は,船舶又は航空機による国際運輸業から生じる利得について,船舶又は航空機を国際運輸に運用する企業の実質的管理の場所が所在する国に排他的課税権を認めることで二重課税を排除するものであり,そもそも,国際運輸に供している船舶を対象としているものである。また,外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律も,国際運輸について規定するOECDモデル条約8条1項を前提に,国際運輸業を営む非居住者又は外国法人で一定の外国に住所又は本店若しくは主たる事務所を有するものが支払を受ける船舶又は航空機の貸付けによる対価について,所得税が非課税になることを規定するものであるから,当然,国際運輸に供している船舶を対象としているものである。すなわち,OECDモデル条約8条1項及び外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律は,いずれも,国際運輸に供している船舶を対象としているものであるから,当然,そこで規定されている「船舶」とは,国際運輸に供されている船舶ということになる。一方,所得税法161条3号は,国際運輸業を前提とするものではない上に,国際運輸業に供される船舶又は航空機の貸付けのみを射程とする規定ではないから,OECDモデル条約8条1項及び外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律が国際運輸業を対象としているからといって,所得税法161条3号の「船舶」の意義・解釈について何らの限定が付されるはずがない。したがって,原告の上記主張は,明らかに対象を異にする条約及び法令の規定を根拠に所得税法161条3号の「船舶」を限定して解するものであり,およそ理由がない。

   (6) 原告は,本件各リグは,自航能力を欠くことなどから,およそ航海の用に供するものとはいえないとして,所得税法161条3号の「船舶」には該当しないなどと主張する(後記第2・2(2))。

     しかし,前記4(2)のとおり,本件各リグは,自航能力を欠くことを前提に,船舶検査証書の交付を受けており,その船舶検査証書の記載によれば,本件各リグが,国際航海に従事する船舶として船舶の検査を受け,合格したことがうかがえるのであるから,本件各リグが自航能力を欠くことなどから航海の用に供するものとはいえないという原告の主張は,理由がない。

     なお,社団法人海事代理士会『船舶法及び関係法令の解説』(乙10)では,「ここにいう航行の能力は,機械力あるいは自力によって航行する能力のみをさすものではないのであって,櫓櫂(ママ)船や独航機能を有しない艀(被曳船)なども船舶である」と解説されており,前記2(5)に掲げた『最新海事法規の解説』(乙8)では,「浚渫船は,社会通念上の船舶ではあるが,推進器を有しない限り,船舶法上の船舶ではない」と解説されていることに照らせば,自航能力を有していない本件各リグであっても,船舶法上の船舶ないし社会通念上の船舶に該当することは明らかである。

   (7) 原告は,本件各リグは,船舶登記がないため,建設機械抵当法及び建設機械登記規則に従い,建設機械として登記をした上で,担保権の設定をしていたことなどを根拠に,所得税法161条3号の「船舶」には該当しないなどと主張する(後記第2・2(4))。

     しかし,建設機械抵当法の建設機械類の範囲は,建設機械抵当法施行令別表に定められているところ(建設機械抵当法2条2項,建設機械抵当法施行令1条),この機械類とは,いわゆる機械のみならずこれに準ずるもの,例えば,機械と機械でない物が一体となっているようなものをも含める趣旨であるとされ,自航能力を有しないしゅんせつ船等の船舶も含まれると解されている。そして,現に,本件各リグは,建設機械抵当法施行令別表の「船舶」の中の「作業台船」として登記されている。したがって,本件各リグが建設機械抵当法に基づいて登記されたことをもって所得税法161条3号の「船舶」には当たらないという原告の主張は,理由がない。

   (8) 原告は,耐用年数の適用等に関する取扱通達(昭和45年5月25日付け直法4-25(例規)ほか国税庁長官通達。以下「耐用年数通達」という。)2-5-5(特殊自動車に該当しない建設車両等)が,トラッククレーンやブルドーザーのような建設用車両は車両及び運搬具には該当せず,機械及び装置に該当すると定めていることとの対比から,本件各リグは,船舶ではなく,耐用年数省令別表第2(機械及び装置)のうちの「掘さく設備」に該当するなどと主張する(後記第2・2(5))。

     しかし,耐用年数省令別表第1並びに耐用年数通達2-4-3及び2-4-4においては,しゅんせつ船,砂利採取船,サルベージ船,工作船,起重機船等の作業船が船舶に該当することが明らかにされているところ,これらの作業船が,作業することを目的としているという点においては,建設車両等と同様であるにもかかわらず,耐用年数省令別表第1及び耐用年数通達自体がこれら作業船を船舶として取り扱っているのであるから,耐用年数通達2-5-5の考え方をもって本件各リグが耐用年数省令上「機械及び装置」である「掘さく設備」に分類されるという原告の主張は,理由がない。

   (9) 原告は,楢崎隆章(編)『平成21年版源泉所得税取扱いの手引き』(甲30)の記載を根拠に,本件各リグのような推進器を持たない船舶は所得税法161条3号の「船舶」には該当しないと解釈することが一般的であるなどと主張する(後記第2・2(6)ア)。

     しかし,原告が掲記する文献が,「『船舶』には,推進器を持たないしゅんせつ船,工作船,砂利採取船等は含まれず(船舶法施行規(ママ)則第2条参照)」と,船舶法施行細則2条を参照条文として掲げていることからすると,上記文献においては,船舶法上の船舶ではない船舶が,所得税法161条3号の「船舶」から除外されると解しているものと思われる。これに対し,前記4(2)のとおり,本件各リグは,船舶安全法2条1項の船舶に該当し,これは,船舶法1条の船舶に該当するのであるから,本件各リグは,船舶法上の船舶である。したがって,上記文献の記載を根拠に,本件各リグが所得税法161条3号の「船舶」には該当しないとする原告の主張は,理由がない。

   (10) 原告は,本件各裸用船契約は,いわゆる裸用船契約の名称で締結されたが,これは,他に例がない契約であったため,当該設備以外の人員等の提供を伴わない純然たる掘削機械のみの借受けという趣旨を分かりやすく示す意味で,商法における講学上の概念を借用したにすぎないなどとして,本件賃借料が所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」には当たらないなどと主張する(後記第2・(6)イ)。

     しかし,法令用語としての裸用船契約とは,船主から船舶だけを借り受ける船舶賃貸借を行う場合に用いる契約であるところ,原告は,本件各裸用船契約により用船した本件各リグを,更に本件イラン法人に貸し出すために,本件各裸用船契約と同様の文言を用いた裸用船契約をそれぞれ締結しており,本件各リグについて一貫して裸用船契約の契約形式を用いている。仮に,本件各リグが掘削機械であり,その旨を認識していたというのであれば,原告は,本件各パナマ法人や本件イラン法人との間で「掘削機の賃貸借契約」を締結すればよいのであって,裸用船契約を締結することは不自然である。更に付言すると,原告は,自身のウェブサイト(乙28)において,「裸傭船契約」の用語説明として,「リグ等の船舶のみを貸し出すリース契約をいいます」と記載して,裸用船契約の対象であるリグが船舶であることを自認している。したがって,本件各裸用船契約がいわゆる裸用船契約の名称で締結されているからといって,本件賃借料が所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」には当たらないという原告の主張は,理由がない。

  7 結論

    以上によれば,本件各リグが所得税法161条3号の「船舶」に該当するとしてされた本件各処分は,いずれも適法である。

 第2 原告の主張の要旨

  1 所得税法161条3号の「船舶」の意義

   (1) 所得税法における「船舶」の位置付け

   ア 所得税法は,「船舶」について,161条3号の規定のほかに,2条1項19号(減価償却資産)及び26条1項(不動産所得)の各規定を設けているところ,租税法が備えるべき客観性,法的安定性,予測可能性を確保するには,これらの「船舶」については,統一的に解釈されるべきである。

    イ 所得税法2条1項19号,所得税法施行令6条4号は,「船舶」が減価償却資産であることを規定している。減価償却資産としての「船舶」については,耐用年数省令別表第1において具体的かつ詳細に列挙されているところ,ここでの「船舶」は,「構造又は用途」欄の「その他のもの」に区分された船舶を除き,船舶法4条から19条までの規定の適用を受けるものとされている。

      所得税法の総則規定である2条1項19号が船舶を船舶法の基準を採り入れて減価償却資産として定義しているのであるから,所得税法161条3号の「船舶」も,減価償却資産としての船舶を意味することになる。

    ウ 所得税法26条1項は,「船舶……の貸付けによる対価」が不動産所得であることを規定している。これについて,所得税基本通達26-1は,船舶法20条が同法4条から19条までの規定の適用除外の対象と定める総トン数20トン未満の船舶及び端舟その他ろかいのみをもって運転し又は主としてろかいをもって運転する舟は所得税法26条1項の「船舶」には含まず,その貸付けによる所得は,事業所得又は雑所得に該当すると定めているから,同項の「船舶」は,船舶法4条から19条までの規定の適用を受けるものということになる。

      所得税法26条1項と161条3号は,いずれも船舶の貸付けによる対価を不動産と同様に取り扱うものであるから,「船舶」の意義について別異に解するべき理由はない。

    エ 以上からすれば,所得税法161条3号の「船舶」は,船舶法4条から19条までの規定の適用を受ける船舶と解するべきである。そして,このような解釈によってこそ,課税要件が一義的に明確となり,国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を与えることとなるのである。

   (2) 所得税法161条3号の趣旨

     所得税法161条3号が居住者又は内国法人に対する船舶又は航空機の貸付けによる対価を国内にある不動産等の貸付け等による対価と並べて国内源泉所得と定める趣旨は必ずしも明確ではないが,船舶又は航空機は不動産等と同様に登記・登録が可能であることや,船舶又は航空機は日本国内に存在することも可能であることから,船舶又は航空機が国内にある不動産等とみなされることにあるようである。そして,国際間を移動する可能性のある船舶又は航空機の貸付けによる対価については,その課税権の行使の実効性を確保するため,支払者の居住地に着目して,居住者又は内国法人に対する貸付けの対価を国内源泉所得とする債務者主義を採用したものと考えられる。すなわち,船舶及び航空機は移動手段であり,その使用地が時々刻々と移動していくのが常態であるから,使用地を基準とすると所得の帰属の判定が事実上不可能となりかねないので,債務者主義を採用したものと解されるのである。

     所得税法161条3号の趣旨が以上のとおりであるとすれば,同号の「船舶」とは,その使用地が時々刻々と移動していくのが常態であることを前提としているのであるから,国際間を移動することが可能であり,かつ自ら移動することが可能な推進器を有しているという要件を備えている船舶であると解される。船舶の本来的機能は移動手段であり,移動手段の本質は自ら移動することができる推進器を有していることにあるのであるから,このように所得税法161条3号の「船舶」を自ら移動することが可能な推進器を有している船舶であると解釈することは,極めて自然なことである。また,上記の趣旨からすれば,登記・登録等の船舶法上の基本的義務が課されないものについては,同号の「船舶」には当たらないと考えられる。

   (3) 所得税基本通達及び法人税基本通達との関係

     所得税法基本通達161-12は,所得税法161条3号に掲げる「船舶……の貸付けによる対価」とは,いわゆる裸用船契約に基づき支払を受ける対価をいい,乗組員とともに利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に基づき支払を受ける対価は,これに該当しない旨を定めている。

     また,法人税基本通達20-1-15は,所得税法161条3号と同様の規定である法人税法138条3号に掲げる「船舶……の貸付けによる対価」とは,船体の賃貸借であるいわゆる裸用船契約に基づいて支払を受ける対価をいい,乗組員とともに船体を利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に基づいて支払を受ける対価は,これに該当しない旨を定めて,所得税法基本通達161-12と全く同様の取扱いをしているところ,この法人税基本通達20-1-15の(注)1は,いわゆる定期用船契約又は航海用船契約に基づいて支払を受ける用船料は,運送の事業により生ずる所得に該当するものとし,当該用船料に係る所得のうち国内業務について生ずべき所得の区分は,法人税法施行令176条1項4号(国際運輸業の所得の源泉地)の規定によるものと定めている。

     以上からすれば,「船舶……の貸付け」には,裸用船契約に基づくものと乗組員とともに利用させる定期用船契約又は航海用船契約に基づくものとの2種類があること,逆に言えば,それ以外にはないことが明確であるところ,そのうち乗組員とともに利用させるいわゆる定期用船契約又は航海用船契約に基づくものについては国際運輸業の所得の源泉地の規定が適用されるとされていることからすれば,他の一方である裸用船契約に基づくものとは,国際運輸業に供すべき船舶の裸用船契約を意味するものと解される。したがって,上記の基本通達によれば,所得税法161条3号の「船舶」とは,国際運輸業に供すべき船舶であることが前提となっているものと解される。

   (4) 租税特別措置法との関係

     所得税法161条3号の「船舶……の貸付けの対価」に関しては,昭和63年度税制改正において,外航海運事業からの離職船員の雇用対策として,こうした離職船員を配乗させるために外国から裸用船を行う場合の用船料の支払については,昭和63年4月1日からの2年間に限り(その後,この期間は平成6年3月31日にまで延長された。),源泉徴収に関する規定を適用しない旨の措置が講じられた(旧租税特別措置法42条)。

     この措置は国際運輸業の離職船員対策であったのであるから,所得税法161条3号の「船舶」とは,国際運輸業に供される船舶であることが前提となっているものと解される。

   (5) OECDモデル条約及び外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律との関係

     OECDモデル条約8条1項は,国際運輸業所得に関して,「船舶又は航空機を国際運輸に運用することによって取得する利得に対しては,企業の実質的管理の場所が存在する締約国においてのみ租税を課することができる」と定めている。これを受けて,我が国では,外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律1条が,所得税法2条1項3号に規定する居住者又は法人税法2条3号に規定する内国法人で国際航路又は国際航空路における船舶又は航空機の運航の事業(国際運輸業)を営むものの当該事業に係る所得で外国において生じたものについて当該外国が所得税又は法人税に相当する税を課さない場合には,当該外国の居住者たる個人又は法人で国際運輸業を営むものの当該事業に係る所得で所得税法又は法人税法の施行地に源泉があるものに対しては,その所得税又は法人税に相当する税を課さない条件に応じて,所得税又は法人税を課さない旨を定めているところ,外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律施行令1条1号は,同法1条に規定する国際運輸業を営む者の同条に規定する所得には,その者が当該事業に附随して「船舶又は航空機の貸付け」の業務を行う場合における当該業務に係る所得を含むものとする旨を定めている。

     これに対し,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」に関する規定は,相互主義に基づく条約締結国間ではない場合に適用されるものということになるが,その解釈は,相互主義に基づく条約締結間において船舶の貸付けによる対価が国際運輸業に係る所得になるとされていることと整合的にされる必要がある。

     したがって,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」に関する規定は,国際運輸業に供される船舶の貸付けに関する規定ということになる。

   (6) 小括

     以上からすれば,所得税法161条3号の「船舶」とは,船舶法4条から19条までの規定の適用があるもので,航海の用に供する船舶ないし国際運輸の用に供する船舶に限られると解される。

     これに加えて言えば,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」とは,船舶を国際運輸の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価ないし船舶を航海の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価と解すべきである。

  2 本件各リグが所得税法161条3号の「船舶」には該当しないこと

  (1) 本件各リグの構造,機能等

     本件各リグは,ジャッキアップ型のリグであり,石油又は天然ガスを採掘するための海洋掘削作業を行う目的で製造され,現に海洋掘削作業において掘削設備として使用されているものである。本件各リグのハルの底面は台船に載せやすくするためにフラットで,移動方向を制御するフィンや舵がないことなどから,外洋の航行にも被曳航にもおよそ適さない構造となっている。三角形様のハルの各角には,それぞれレグが通されており,掘削作業を行うときには,レグを海底まで下げて海底に着底させ,これによりハルを海面より上に持ち上げて,ハルに掘削作業の基地としての機能を果たさせている。ハルに設置されたデリック(櫓)は,鉄骨で組まれた高さ約55メートルのタワー状の構造物であり,海洋掘削設備として掘削作業を行う場合の中心的な装置である。デリックの台は,ハルの前後左右に一定の範囲で可動するものとなっており,掘削作業を行う際にはデリックがハルの外側の海上に突き出された位置に固定される。デリックの中心部には,掘削のための強力な電動モーターが設けられており,これにドリルパイプ(掘管)等を介して海底下を掘り進む掘削ビットが接続されて,デリックの直下を起点とした海底の掘削が行われる。このような構造と機能を備えた全ての設備が一体となって海洋掘削設備を形成しているのである。

   (2) 本件各リグは航海の用に供するものではないこと

    本件各リグは,水上に浮くことができる構造にはなっているため,近距離の移動には,3本のレグを上げて海上に浮き,曳航船に曳航されて移動するウェットトウが利用される。しかし,この場合であっても,本件各リグには推進装置や舵は装備されておらず,移動の方向や曳航速度などのコントロールはすべて曳航船において行うのであるから,本件各リグは,自航能力の全くない,曳引される貨物にすぎない。

     また,曳航船に曳航される場合には,速度はせいぜい2ノットから4ノット程度と極めて遅い上,海上がしけたときにはデッキ上にも海水が浸入するため,非常に危険を伴う。そこで,遠距離の移動には,本件各リグを台船に積載して溶接固定して目的地まで運搬するドライトウが利用されることが多い。この場合には,本件各リグは,台船の積戴物にすぎない。

     このように,本件各リグは,およそ航海の用に供するものとはいえないのである。

   (3) 本件各リグは国際運輸の用に供するものではないこと

    本件各リグが積載するのは,海洋掘削をするために必要な設備,機械,工具,作業員とその生活必需品のみである。すなわち,本件各リグは,人や物の運送を予定していないのである。

     また,本件各リグは,遠距離の移動の際には台船に積載されて移動するものであるから,国際運輸に供することは不可能であるし,曳航船に曳航されるウェットトウの場合にはせいぜい2ノットから4ノット程度の速度しか出せないのであるから,国際運輸には不適当である。

     このように,本件各リグは,およそ国際運輸の用に供するものとはいえないのである。

   (4) 本件各リグには船舶法4条から19条までの規定の適用がないこと

    一般に,船舶法上の「船舶」については,いかだは構成するもの自体の輸送を目的とするものであるから船舶ではないとされている(乙10)。例えば,ケーソン工法におけるケーソン(防波堤などの水中構造物として使用され,あるいは地下構造物を構築する際に用いられるコンクリート製又は鋼製の大型の箱)は,造船所で製作された巨大な鉄製の構造物で水に浮かべて曳航船に牽引されて工事サイトまで移動させられるが,これは構成するもの自体の輸送を目的とするものであるから船舶ではないと認定されることになるものと思われ,そうであるなら,海洋掘削装置である本件各リグについても,構成するもの自体の輸送を目的とするものであるから船舶ではないという結論が導かれるはずである。また,海底資源掘削船は船舶法の船舶であるとされているが(乙10),ここでいう「海底資源掘削船」は,しゅんせつ船,燈船,起重機船,砕岩船等と同じように船に掘削装置を取り付けたシップ型ないしドリルシップ型と呼ばれるリグに限られる。本件各リグは,ジャッキアップ型リグであり,高移動性という船舶機能を備えたドリルシップ型リグとはその形状・構造・機能面等において異なっているのであり,「海底資源掘削船」として一律に取り扱うことは誤りである。

     商法684条1項は,商法において船舶とは商行為をなす目的をもって航海の用に供するものをいう旨を定め,同条2項は,商法第3編(海商)の規定は端舟その他ろかいのみをもって運転し,又は主としてろかいをもって運転する舟には適用しない旨を定めているところ,船舶法35条本文は,商法第3編の規定は商行為をなす目的をもったものでなくても航海の用に供する船舶に準用する旨を定めているから,商行為の目的の有無にかかわらず,航海の用に供する船舶には商法第3編が適用ないし準用されることになる。そして,商法686条1項は,船舶所有者は特別法の定めるところに従って登記をし,かつ,船舶国籍証書を受けることを要する旨を定め,同条2項は,同条1項の規定は総トン数20トン未満の船舶には適用しない旨を定めているから,結局,航海の用に供する船舶で,総トン数20トンを超えるものについては,登記をして,船舶国籍証書を受けなければならないことになる。

     しかし,本件各リグについては,原告がこれらを所有していたときにも,船舶法5条の船舶登記及び船舶原簿登録はされておらず,船舶国籍証書も受けていない。これについて,昭和55年当時の管轄官庁である運輸省の考えは,本件各リグは推進器を特たないことから船舶法20条の端舟と同様であり,同条の規定により同法4条から19条までの規定の適用はなく,船舶の登記・登録は不要で,また,船舶国籍証書も発行しないというものだった(なお,推進器を有しないしゅんせつ船は船舶とみなされない旨を定める船舶法施行細則2条を例示規定と解すると,本件各リグも,同様に船舶法上の船舶ではないこととなる。)。もっとも,船舶国籍証書が未交付であると国旗掲揚ができないことになり,海外での操業の安全上問題となること,海外の港に入港するときに何らかの証書が必要であったことから,運輸省と交渉し,便宜上,船舶国籍証書に代えて,「日本船舶であることの証明書」(甲27の1,27の2)の交付を受けたものである。この日本船舶であることの証明書は,法令上に根拠があるわけではなく,ひな型もなかったことから,原告が書面を作成して,運輸省に証明してもらったものである。表題の「船舶」というのは,正確には「日本国民の所有物であることの証明書」とすべきであったが,入港する際の証明書として使用するために便宜的に使用したものである。その後,今日に至るまで,原告は,本件各リグを含む同型の海洋掘削装置について,船舶法4条から19条までの規定の適用がある旨の指導や助言等を受けたことは一度もない。なお,原告が所有していた当時,本件各リグについては,船舶登記がないため,建設機械抵当法及び建設機械登記規則に従い,建設機械として登記をした上で,担保権の設定をしていた。

     このように,本件各リグは,商法の規定によっても「船舶」ではなく,船舶法上の基本的な規定である4条から19条までの規定の適用もないのである。

   (5) 本件各リグは減価償却資産としての「機械及び装置」であること

   ア 前記(1)のような本件各リグの構造,機能等からすれば,本件各リグは,耐用年数省令別表第2(機械及び装置の耐用年数表)番号29の「鉱業,採石業又は砂利採取業用設備」のうちの細目「石油又は天然ガス鉱業用設備」の「掘さく設備」(平成20年財務省令第32号による改正前は番号330の「石油又は天然ガス鉱業用設備」のうちの細目「掘さく設備」)に該当するというべきである。本件各リグが「船舶」か「機械及び装置」かは,「船舶」又は「機械及び装置」それぞれがどうした点を要素とし,どの点が重視される要素なのかということを確認した上,それらがいずれの要素を備えているものか,また,備えていることを確認された要素がどれほど本質的なものか,そして,本件各リグはそれぞれ「船舶」又は「機械及び装置」の本質的要素のうちのどれほどのものを実際備えているのかという実体,実質論と,それぞれの要素の比較考量を経て,初めて判断できるものであり,原告は,本件各リグが「機械及び装置」か「船舶」かについて,総合的に見て「船舶」よりも「機械及び装置」に当たると主張しているものである。

      なお,建設用車両に関しては,耐用年数通達2-5-5は,「トラッククレーン,ブルドーザー,ショベルローダー,ロードローラー,コンクリートポンプ車等のように人または物の運搬を目的とせず,作業場において作業することを目的とするものは,『特殊自動車』に該当せず,別表第二の『334 ブルドーザー,パワーショベルその他の自走式作業用機械設備』に該当することに留意する」と定めている。これらの建設用車両は,人又は物を搭載して目的地まで移送するものではなく,作業現場で作業を行うものであり,機械が移動しやすいように車輪を付けたと見られるので,車両及び運搬具には該当せず,機械装置に該当するとされているのである。これと対比してみても,本件各リグが石油・天然ガスの掘削作業に従事する目的で製造されたものである以上,たとえその掘削作業に従事させる目的で移動させやすいように浮揚性を備えていたとしても,それは人又は物の運搬手段としての「船舶」ではないと解するのが自然である。

    イ このように,本件各リグが減価償却資産としての「機械及び装置」であることは明らかであるから,本件賃借料が源泉徴収の対象となる国内源泉所得に当たるか否かは,所得税法161条7号の定めによって判断されることになる。同条7号ハは,国内において業務を行う者から受ける機械,装置その他政令で定める用具の使用料で当該業務に係るものを国内源泉所得として定めているところ,所得税基本通達161-21は,この「当該業務に係るもの」とは,国内において業務を行う者に対し提供された同号ハ等に規定する資産の使用料又は対価で,当該資産のうち国内において行う業務の用に供されているものをいう旨を定めている。本件各リグは,国内において行う業務の用に供されたことはなく,専ら国外において行う業務の用に供されていたのであるから,本件賃借料は所得税法161条7号ハが定める課税要件を充足しない。したがって,本件賃借料は,源泉徴収の対象となる国内源泉所得には当たらない。このような考え方に基づいて,原告は,本件各処分に係る当時,本件各パナマ法人に対して本件賃借料を源泉徴収をすることなく支払っていたものである。

   (6) 小括

    ア 以上からすれば,本件各リグは,船舶法4条から19条までの規定の適用がなく,航海の用に供するものでもなければ,国際運輸の用に供するものでもないので,所得税法161条3号の「船舶」には該当しない。

      なお,楢崎隆章(編)『平成21年版源泉所得税取扱いの手引き』(甲30)では,所得税法161条3号について,「『船舶』には,推進器を持たないしゅんせつ船,工作船,砂利採取船等は含まれず(船舶法施行規(ママ)則第2条参照)」と解説されており,本件各リグのような推進器を持たない船舶は所得税法161条3号の「船舶」には該当しないと解釈することは一般的であるといえる。

    イ さらに,本件賃借料は,本件各リグを国際運輸の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価ないし船舶を航海の用に供する目的で貸付けを行ったときの対価とはいえないから,所得税法161条3号の「船舶……の貸付けによる対価」には当たらない。

      すなわち,原告は,本件各リグを国際運輸の用に供したり航海の用に供したりするために借りたのではなく,飽くまでも海洋掘削の用に供するために借りたのである。本件リグ1の移動日数は,12年間で延べ31日にすぎず,その移動も,ペルシャ湾内のガス田鉱区の移動又は検査・改造・整備工事のために港に回送しただけのものであり,およそ国際輸送や航海の用に供したといえるものではない。また,本件リグ2の移動日数は,12年間で延べ41日にすぎず,その移動も,本件リグ1と同様に,ペルシャ湾内のガス田鉱区の移動又は検査・改造・整備工事のために港に回送しただけのものであり,およそ国際輸送や航海の用に供したといえるものではない。この間,本件各リグについては,圧倒的な期間,ハルは,地面(海底面)に下ろしたレグによって支えられて自立し,空中(海面の上空)にあって,海面に浮くこともなく,移動することもない状態で,数か月から数年間にわたり同じサイトに留まり,石油又は天然ガスの坑井の掘削作業に従事してきており,このような構造と機能並びに環境にあるものを船舶と呼ぶとしたら,それこそが,社会常識に反するものである。本件各リグの本質的な収益の源泉たる活動は,正に海洋掘削装置として海底に固定されて行う海洋掘削の作業であって,ここに原告が本件賃借料を支払う理由がある。本件各リグが移動するためには,他の船舶の積荷となるか(ドライトウ),他の船舶に牽引されるか(ウェットトウ)しかないのであって,むしろ運搬料を支払わなければならないのである。本件各リグのようなジャッキアップ型リグについては,全て例外なしに,自航できないリグとして,船長等の海技資格を持った船員の乗船は要求されず(代わりに作業監督者の乗船が義務付けられている。),自航できるリグ,つまり,一般の船舶とは異なった取扱いを受けている。このようなことから,自航できるリグが他の国に入国する際は,船舶として通関されるのが一般的であるが,ジャッキアップ型リグが曳航されてあるいは台船に載せられて他の国に移動する際は,全てのケースにおいて,貨物として通関され,通関後も同国内では貨物として取り扱われるのが一般的である。

      なお,本件各裸用船契約は,いわゆる裸用船契約の名称で締結されたが,これは,他に例がない契約であったため,当該設備以外の人員等の提供を伴わない純然たる掘削機械のみの借受けという趣旨を分かりやすく示す意味で,商法における講学上の概念を借用したにすぎず,その実質においては,いわゆる裸用船契約とはおよそ類似性がない。海洋掘削業界では,リグを所有者から賃借して掘削の用に供することがごく一般的に行われているが,その際には,ジャッキアップ型であれば掘削機の賃貸借契約として,ドリルシップ型であれば船舶の賃貸借契約とするというような使い分けは全くされていないのである。「裸用船」という文言及び法形式が採用されていることをもって,直ちに所得税法161条3号に規定する課税要件としての「船舶」を意味するなどという主張自体が,論理の飛躍であり,課税要件事実の認定手続をないがしろにするものである。

  3 被告の主張に対する反論

   (1) 被告は,租税法中に用いられた用語が法文上明確に定義されておらず,他の特定の法律から借用した概念であるともいえない場合,その用語は,特段の事情がない限り,言葉の通常の用法に従って解釈されるべきであるとして,所得税法161条3号にいう「船舶」とは,社会通念上の船舶をいうものと解されるなどと主張した上(前記第1・1(1)),社会通念上の船舶の概念について,水上において「浮揚性」,「移動可能性」及び「積載性」を有する構造物と解することが相当であるなどと主張する(前記第1・2)。

     しかし,被告の上記主張は,租税法が船舶について一般的かつ抽象的な定義規定を置いていないことを奇貨として,条文上明確であるべき課税要件について課税庁が法律の規定から離れて,社会通念上の概念と称して独自に文言の定義付けを行い,課税要件そのものを課税庁自らが実質的に決定することを意味するものであり,租税法律主義にのっとった正しい租税法の解釈とはいえないものであって,全く不当である。法文中の用語の意味が一義的に明確でない場合には,立法の目的及び経緯,法を適用した結果の公平性,相当性等の実質的な事情を検討の上,用語の意味を解釈するべきであり,また,本件各リグが社会通念上の船舶に当たるかどうかは,構造物の使用目的,構造,性能等を総合して判断するべきである。

     また,被告の上記主張は,「社会通念上の船舶」を水上において「浮揚性」,「移動可能性」及び「積載性」を有する構造物と解する根拠を全く示していない。被告が引用した文献の内容は千差万別であるのに,被告は本件各リグを「社会通念上の船舶」とするのに都合のよい部分を引用したのであって,これは被告の恣意による不当な解釈である。

   (2) 被告は,本件各リグがパナマ船籍を有していること,船舶検査証書の交付を受けていたこと,船舶として船価を評価されていたことをもって,船舶としての取扱いを受けているなどと主張する(前記第1・4(1)~(3))。

     しかし,被告の上記主張は,船級登録等に関する誤解に基づくものである。船級証書とは,各種国際条約における検査機関として各国により公正な第三者機関として認定された国際船級協会の一つである財団法人K協会(以下「K協会」という。なお,K協会は,平成23年4月1日に一般財団法人に移行している。)が,その構造規定,造船規則などに定める,設計,材質,設備,機関,機器等詳細にわたる堪航性及び安全性の基準をクリアーした船舶等に対して,船級を付与し原簿に登録したことの証明として交付されるものであるが,その対象は,船舶に限らず,海洋構造物も含まれる。そして,本件各リグに交付されたのは,正しくこの海洋構造物としての船級証書なのであって,その交付を受けたのは,実務上の必要によるものである。このことは,K協会が発行した本件各リグの船級証書(甲19,21)に「NS* Self Elevating Drilling Unit」と,M協会が発行した本件各リグの船級証書(乙31,33)に「□A1 Self Elevating Drilling Unit」とそれぞれ明記されていることから明らかである。パナマにおける船舶登録に関しても同様で,本件各リグは,主要サービスが掘削作業である「MODU(Mobile offshore Drilling unit)」として登録されている(甲32,33)。

     また,本件各リグが船舶検査証書を受けた経緯は,本件各リグが船舶安全法の適用を受ける機器を搭載しているために,監督官庁から船舶安全法上の一部の船舶検査を受けるよう指導されたためであり,その交付を受けたのは,やはり実務上の必要によるものである。その際に発行された船舶検査証書(乙1,2)には,船舶安全法上の規定に準じて,本件各リグの用途が「海底資源掘削船」又は「海底石油掘削船」と記載されているものの,最大とう載人員数の欄の船員は,1名と記載されているのであって,これは,本件各リグが船舶として取り扱われていないことを示すものである。本件各リグと同等の総トン数を有する船舶にあっては,船員法の定める安全最少定員の基準によると,最低9名の船員が必要とされているのであるから,監督官庁が本件各リグを真に船舶であると理解しているのであれば,このようなことはあり得ない。

     したがって,被告の上記主張は,理由がない。

   (3) 被告は,本件各リグが日本標準商品分類において船舶に分類されることをもって,船舶としての取扱いを受けているなどと主張する(前記第1・4(4))。

     しかし,耐用年数通達1-4-2等によれば,減価償却資産の「機械及び装置」が耐用年数省令別表第2に掲げる「設備の種類」のいずれに該当するかを判定するに当たり,その最終製品を製造する設備が業用設備のいずれに該当するかは,原則として,「日本標準産業分類」の分類によるものとされているが,「日本標準商品分類」については,そのような規定は存在しない。総務省の説明によれば,「日本標準商品分類」は,公的統計において統一的に使用が求められる統計基準ではなく,任意に使用される標準分類として位置づけられており,現時点でこれを利用しているのは,内閣府の機械受注統計並びに厚生労働省の薬事工業生産動態統計,社会医療診療行為別調査及び医薬品価格調査の4統計にとどまっており,これらの統計において調査の対象とされている商品の範囲についても,「日本標準商品分類」のうちのごく一部に限られているとされている。このような分類をもって本件各リグが船舶としての取扱いを受けているとする被告の上記主張は,理由がない。

   (4) 被告は,本件各リグは,耐用年数省令別表第1の「船舶」のうち,「その他のもの」の「鋼船」の「その他のもの」に該当するなどと主張する(前記第1・6(1))。

     しかし,耐用年数省令別表第1の「船舶」の「構造又は用途」欄に具体的に明示されているのは,漁船,油そう船,しゅんせつ船等であり,これらの船舶を船舶たらしめている要素は,漁ろう並びに人又は物の運送手段として船舶本来の用途に従事するもの,あるいは各種作業船のように水上に浮いていることを常態として機能(作業)することであると認められる。そうであれば,「その他のもの」は,上記に具体的に明示されている各種船舶と同列に規定されているのであるから,その名称はともかく,上記各要素のどれか一つを持つべきであると解釈するのが自然であり,正当である。ところが,本件各リグは,上記各要素をどれ一つとして有していない。したがって,本件各リグは,耐用年数省令別表第1の「船舶」のうち,「その他のもの」の「鋼船」の「その他のもの」には該当せず,減価償却資産としての「船舶」ではないと解されるから,被告の上記主張は,理由がない。耐用年数通達において自力で航行できなくても船舶に当たるとされているサルベージ船等の作業船は,船舶そのものに機械及び装置を取り付け,あるいは積載したもので,構造上,船舶部分と機械及び装置部分とを区分することができる。また,これらの作業船は船舶であることから船員等の船舶要員が乗船している。一方,本件各リグは,構造上,船舶に機械及び装置を取り付けたものではなく,海洋掘削装置の一部を構成(構造上も,機能上も)するハルが水密構造になっていることから海上に浮かべることができるというにすぎず,船舶には当たらないことから船員等の船舶要員は一人も乗っていない。本件各リグは,海洋掘削装置それ自体を移動させるために,自らを浮かべ,客体となって移動させられるものであって,自らが主体となって人又は物を移動させたり,運搬したりするものではない。さらに,本件各リグは,地面(海底面)に下ろしたレグに支えられて空中(海面の上空)にあって静止して掘削作業に従事することを常態としている。

     また,かき船,海上ホテル等について耐用年数通達が主として建物又は構造物として用いることを目的として建造(改造を含む。)されたものは船舶に該当しないことに留意すると規定したのは,減価償却資産の種類の判定においても,その用途が何であるのか,現実にどのように使用されているのかということが大切なポイントであることを明らかにしたものである。本件各リグは,もともと海洋掘削装置として建造されたもので,「船舶」として建造されたものではなく,専ら石油・天然ガス等の試掘井あるいは生産井の掘削作業に従事するもので,その構造,機能並びに用途等の全てにおいて船舶とは異なるものである。

  4 結論

    以上によれば,本件各リグは所得税法161条3号の「船舶」には該当しないのであるから,本件各リグがこれに該当するとしてされた本件各処分は,いずれも違法であり,原告はその各取消しを求めるものである。