動機に関する錯誤が要素の錯誤となるための要件

 

 

 

 

 最高裁判所第2小法廷判決/昭和44年(オ)第829号、判決 昭和45年5月29日、 最高裁判所裁判集民事99号273頁について検討します。

 

 

 

 

【判決要旨】 動機に関する錯誤が要素の錯誤となるためには、動機が明示されて意思表示の内容をなしていることおよびその動機の錯誤がなかつたならば通常当該意思表示をしなかつたであろうと認められる程度の重要性が認められることを要する。 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

理   由

 

  

 

 上告代理人岡田実五郎、同復代理人赤池基輝の上告理由第一点ならびに上告代理人杉田伊三郎の上告理由第一ないし第三点について。

  

 

 本件契約が準消費貸借契約と抵当権設定契約の二箇の契約よりなり立つている旨の原審の認定・判断は、挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができる。

 

 そうだとすれば、右両契約について各別にその効力を判断したこと自体に理由齟齬その他所論のような違法はない。

 

 一般に、錯誤が意思表示の要素に関するものであるというためには、その錯誤が動機の錯誤である場合には動機が明示されて意思表示の内容をなしていること及びその動機の錯誤がなかつたならば通常当該意思表示をしなかつたであろうと認められる程度の重要性が認められることを要するものと解すべきであり、

 

 この点に関する原審の判断は正当である。

 

 そして、本件の両契約の締結された主たる目的が抵当権の設定にあつたものではあるが、

 

 しかし本件準消費貸借契約が上告人の従来の手形債務の弁済期を延期し、経済前には上告人にとつて有利なものとなつた旨の原審の認定・判断は、挙示の証拠関係に照らしてこれを肯認しうるところであり、

 

 右事実関係に照らせば、上告人について錯誤がなかつたならば本件準消費貸借契約を締結しなかつたであろうという関係は到底これを認めることができないとした原審の認定・判断は正当であり、原判決には所論のような違法はない。それ故、論旨は理由がない。

  

 

 

 

 上告代理人岡田実五郎、同復代理人赤池基輝の上告理由第二点(一)について。

  

 原審の確定する事実、すなわち、上告会社の代表者加藤らの融資の要請に対して、広井、宇治田らは、確定的な返答は避けたが、確実な手形なら割り引いてもよいといい、また、その間給料の不払いで動揺している従業員をしずめるため、広井が従業員の会合に出席して会社を潰すようなことはしないから安心して働くよう話したというのであり、融資を期待しうるような印象を与える言動があつたというのであるから、これらの事実関係によれば、上告人側が融資を受けうると信じることはありえないことではない。したがつて、原判決には所論のような理由不備、審理不尽の違法はない。それ故、論旨は理由がない。

  

 

 

 同第二点(ニ)について。

  

 民事訴訟法は、証拠の採否については裁判所の自由なる判断によるべきものとしているのであり、この理は控訴審における手続についても同様である。したがつて、第一審において取り調べた証拠について控訴審が第一審と異なる心証に達することを妨げるものではない。所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであり、採用することができない。

  

 

 上告代理人杉田伊三郎の上告理由第四点について。

  

 原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人が意思表示の有効を主張しえないとする理由はない。所論は、独自の見解であつて採用することができない。

  

 

 同第五点について。

  

 被上告会社側の広井、宇治田らにおいて上告会社代表者らをして融資を期待しうるような印象を与える若干の言動のあつたこと、上告会社が融資を受けうるものと信じているのを右広井、宇治田らにおいて打ち消さないで契約を締結した事実は原審の確定するところである。

 

 しかし、債権者たる被上告人としては、多額の債権の履行確保のために上告人に対して担保の提供を要求することは当然の権利擁護の措置であり、原審の確定した事実関係のもとにおいては被上告人の行為をもつて社会的に許容しえない違法な行為であるとすることはできない。したがつて、この点に関する原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

     

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