同族会社に対して関係者が経費を過大に支払う行為

 

 

 

 

 広島地方裁判所/平成9年(行ウ)第25号、判決 平成13年10月11日、 税務訴訟資料251号順号9000について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】 所得税の確定申告のうち,事業所得の金額の計算上,必要経費として計上した金額について,税務署長が否認し,更正及び過少申告加算賦課決定がされた場合につき,右決定の取消請求が認められなかった事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        

 

 

事実及び理由

 

 第1 請求

 

 

(主位的請求)

 

 1 被告広島西税務署長が,平成9年3月12日付けでなした原告の所得税の各更正のうち,

 

(1)平成5年分につき,総所得金額1246万9164円,申告納税額20万7000円をそれぞれ超える部分

 

(2)平成6年分につき,総所得金額1009万8232円,申告納税額-27万2980円をそれぞれ超える部分

 

(3)平成7年分につき,総所得金額1560万6755円,申告納税額99万5800円をそれぞれ超える部分

 及び上記各年分の過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

 

2 被告国は,原告に対し,450万円及びこれに対する平成9年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

 

(予備的請求)

 

  被告国は,原告に対し,1594万6800円及びこれに対する平成9年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

 

 

第2 事案の概要

  本件は,原告がした平成5年ないし平成7年分の所得税の確定申告のうち,上記各年分の事業所得の金額の計算上,必要経費として計上していた金額の一部について,被告広島西税務署長(以下「被告税務署長」という。)が否認し,更正及び過少申告加算税賦課決定をしたため,原告が上記否認は違法であるとして,被告税務署長に対し,上記更正の一部及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求め,被告国に対し,違法な課税処分によって原告は精神的苦痛を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求め,さらに,原告は上記更正及び賦課決定にしたがって税額を納付したところ,その一部は上記のとおり違法な課税処分によって徴収されたものであるから不当利得であるとして,(予備的に)被告国に対し,その返還を求めた事案である。

 

 

 

1 争いのない事実

 (1)原告は,司法書士であり,広島市中区α2-4-14においてP1司法書士事務所を営む青色申告事業主である。

 (2)有限会社エスフォー(以下「エスフォー」という。)は,平成4年3月2日,原告が受任した司法書士業務の一部を更に委託する目的で,原告及びその妻であるP2が全額出資して設立した有限会社であって,法人税法2条10号に規定する同族法人に該当するものである。なお,エスフォーの事業目的は,その定款によれば,①ワードプロセッサーによる文書の委託作成業務,②ワードプロセッサーによる情報の収集処理並びに販売に関する業務,③配送業務の請負,④その他各号に附帯する一切の業務とされていた。

 (3)原告は,エスフォーを設立した平成4年,自己の受任した司法書士業務の一部を,受任報酬額の6割の委託料でエスフォーに委託し,それ以来,委託手数料を支払ってきた(業務委託に関する契約書は作成されていない。)。

 (4)エスフォーは,平成9年2月28日をもって解散し,同年3月31日にその旨の登記がなされた。

 (5)原告は,平成5年ないし平成7年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税につき,別表1の各「確定申告」欄記載のとおり,確定申告期限に確定申告をした。

 (6)被告税務署長は,本件各係争年分の所得税につき,別表1の各「更正処分等」欄記載のとおり,更正処分(以下,それぞれ「平成5年分更正処分」,「平成6年分更正処分」,「平成7年分更正処分」といい,これらをあわせて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下,それぞれ「平成5年分賦課決定処分」,「平成6年分賦課決定処分」,「平成7年分賦課決定処分」といい,これらをあわせて「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と本件各賦課決定処分をあわせて,以下「本件各処分」という。)をした。

 (7)本件各係争年分の事業所得に係る原告の収入金額は,別表2の「原告の申告」「①収入金額」欄記載のとおりであった。

  原告は,(5)の各確定申告に当たり,本件各係争年分の事業所得の計算上,別表2の「原告の申告」欄の「②租税公課」欄ないし「●青色申告特別控除額」欄各記載の金額を必要経費等として計上していたが,被告税務署長は,これらについて,同表の各「否認額」欄記載のとおりの金額を否認し,必要経費として控除することを認めなかった。

 (8)原告は,平成9年4月14日及び平成10年7月1日,本件各処分にしたがって,各税額を納付した。

 (9)原告は,(6)の各処分を不服として,平成9年5月9日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたが,国税不服審判所長は,同年8月9日を経過しても前記審査請求に対し,裁決をしなかった。

 

 

 

 

 

 

2 争点及び当事者の主張

 

(1)本件各更正処分の適法性(主位的請求)

ア 支払手数料の否認の適法性

 (被告らの主張)

 (ア)支払手数料の否認の経緯

  原告は,本件各係争年分の事業所得の金額の計算上,原告が司法書士業務の一部をエスフォーへ委託した対価として,エスフォーへ支払った次のとおりの金額(以下「本件支払手数料」という。)を,必要経費であるとして,別表2「原告の申告」欄の「⑮支払手数料」欄に各記載の金額に算入し,確定申告をした。

 平成5年分            3090万8639円

 平成6年分            3137万0607円

 平成7年分            4450万1328円

  しかしながら,エスフォーは,所得税法157条1項1号に規定される「内国法人である法人税法第2条第10号(定義)に規定する同族会社」に該当するところ,上記本件支払手数料のうち,次の金額については,以下のとおり,原告からエスフォーへ著しく高額な支払手数料を支払うことにより,原告の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるから,所得税法157条の規定により必要経費に算入することはできない。

 平成5年分            1319万8349円

 平成6年分            1385万8023円

 平成7年分            2303万5129円

  すなわち,エスフォーが原告の同族会社であることから,原告のエスフォーに対する支払手数料の額は,同じ文書作成業務を同族会社以外の事業者に委託する場合に比して原告が自由に設定し得る。そこで上記支払手数料が通常の取引に比べ著しく高額か否かを検討する必要があるところ,その検討に当たり,エスフォーの業務が主として書類作成,タイプ印刷,謄写及び印刷等であることから,これに類する業務につき労働者を派遣し従事させている労働者派遣会社における派遣社員の給料賃金の額に対する派遣会社の収入金額の倍率を算出し,エスフォーの場合と比較することにした。

  エスフォーは,原告からの受取手数料として,上記本件支払手数料のとおりの収入を得ており,エスフォーが各年中に支払った給料賃金の額は次のaのとおりであるところ,エスフォーに係る給料賃金の額に対する収入金額の倍率を計算してみると,次のbのとおり平成5年分は2.78倍,平成6年分は2.82倍,平成7年分は3.36倍となる。

 a エスフォーが支払った給料賃金の額(別表4)

① 平成5年分          1113万8547円

② 平成6年分          1115万4512円

③ 平成7年分          1325万0740円

 b エスフォーの給料賃金の額に対する収入金額の倍率

① 平成5年分             2.78倍

 (平成5年分の本件支払手数料3090万8639円÷aの①)

② 平成6年分             2.82倍

 (平成6年分の本件支払手数料3137万0607円÷aの②)

③ 平成7年分             3.36倍

 (平成7年分の本件支払手数料4450万1328円÷aの③)

  これを別表3の1ないし3に掲げる労働者派遣会社(以下「比準会社」という,)の派遣労働者の給料賃金の額に対する収入金額(派遣社員の給料賃金に対応するもの)の倍率の平均値(以下「人件費倍率」という。)と比較すると異常に高率であることが判明した。

  そこで,本件各係争年分における,原告のエスフォーに対する適正支払手数料の額は,別表4のエスフォーの給料賃金の額を基礎として,別表3の1ないし3の人件費倍率(平成5年分1.59倍,平成6年分1.57倍,平成7年分1.62倍)をそれぞれ適用して算定すると,次のとおりとなる(上記のとおり,被告税務署長が比準会社の人件費倍率を用いて適正価額を求めた方法を,以下「人件費倍率比準法」という。)。

① 平成5年分

   1113万8547円(上記a①)×1.59(別表3の1の人件費倍率)=1771万0290円

② 平成6年分

   1115万4512円(上記a②)×1.57(別表3の2の人件費倍率)=1751万2584円

③ 平成7年分

   1325万0740円(上記a③)×1.62(別表3の3の人件費倍率)=2146万6199円

  原告の確定申告に係る本件支払手数料に基づいて算定した納税額と上記適正な支払手数料の金額に基づいて算定した納税額を比較すると,別表5のとおり,その差額は,平成5年分において591万6100円,平成6年分においては465万0800円,平成7年分においては955万2800円,合計2011万9700円となり,本件支払手数料の価額が上記適正価額に比して著しく高額であると認められた。

 

  さらに,上記事情に加え,エスフォーは原告の同族会社であり,原告が行う司法書士業務に付随する文書作成等のみを業務としていたこと,エスフォーから原告に対する支払手数料の請求が数か月分まとめてなされ,原告の支払も不定期に,しかも請求額を超えて支払うなど,通常の取引では考えられない処理がなされていたことなどの事情も考慮し,本件支払手数料をそのまま原告の経費として容認するときは,原告の所得税の負担を不当に減少させるものと認め,原告の申告に係る本件支払手数料の価額から,本件各係争年分の適正支払手数料の価額を控除した金額(算出の計算過程は次のとおり)を必要経費に算入することを否認したものである。

① 平成5年分

 3090万8639円-1771万0290円=1319万8349円

② 平成6年分

 3137万0607円-1751万2584円=1385万8023円

③ 平成7年分

 4450万1328円-2146万6199円=2303万5129円

 (イ)所得税法157条の適用の可否

 a 所得税法157条の適用範囲

 (a)所得税法157条に規定する行為又は計算の否認の目的が,株主等の所得税の不当な減少を防ぐことにあることからすれば,否認されるべき同族会社の行為又は計算とは,同族会社を当事者とする株主等の所得計算上の行為又は計算であることは明らかであるというべきである。すなわち,同条の適用に当たっては,株主等と同族会社との間の取引行為を全体として把握し,その両者間の取引が客観的にみて,株主等の税負担の不当な減少の結果を生ずると認められるかどうかという観点から判断するのであって,同族会社のみの行為又は計算に着目して判断するのではないというべきである。

  したがって,本件支払手数料が,原告からエスフォーに支払われたものであるといっても,そのことが所得税法157条の適用に何らの妨げになるものではない。

 (b)また,原告は,所得税法157条は,個別規定に対する補完的・補充的規定であり,過大経費の場合には,まず所得税法37条1項により必要経費に該当するか否かを判断すべきであって,それをせずにいきなり所得税法157条を適用したのは,同条の解釈適用を誤ったものであると主張する。

  しかしながら,所得税法157条は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されていることから,当該会社の株主等の税負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われ,課税上の弊害が生じやすいことに鑑み,税負担の公平を維持するため,そのような行為や計算が行われた場合に,それを正常な行為や計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めた規定であるところ,本件については,前記(ア)のとおり,同族会社であるエスフォーの行為によってまさに原告の所得税の負担が不当に減少させる結果と認められる事案なのであって,所得税法157条を適用することは同条の趣旨にかなうものであり,ことさら所得税法37条1項の適用を検討する必要はない。

 (c)以上より,原告の本件には所得税法157条の適用の余地がないとする主張は失当である。

 b 本件支払手数料価額の不合理性

  原告は,本件支払手数料は,原告の受任報酬額の6割と決め,その算定には合理的根拠があり,本件支払手数料を必要経費に算入しても,原告の所得税の負担を不当に減少させることにならないと主張する。

  しかしながら,次のとおり,原告の上記主張は失当である。

 

  すなわち,原告は,被告税務署長のP3係官の調査において,P3係官に対し,原告とエスフォーとの間で業務委託に関する契約書を作成していない旨回答し,また,本件支払手数料算出根拠についての具体的な説明及び資料の提出をしなかった。さらに原告は,平成3年分の原告の確定申告内容を基礎としてその算定の合理性を主張するものであるが,

 

①委託可能業務に対応する経費を個別に引き出したとする点については,経費の大部分が原告が顧客から得る報酬に対応するものであり,エスフォーの委託可能業務に直接に対応するものではないこと,

 

②一部の経費については,法人に帰属する部分と個人に帰属する部分を按分しているが,法人が設立される前であり,その段階においてはすべて個人の経費であって,法人に帰属することを合理的に算定し得ないはずであること,また,

 

③按分した費目も一部であり按分割合も費目によりまちまちであって,按分割合自体が原告の恣意によるものと認められること,④事業収入6147万8873円から他の司法書士へ委託手数料として支払った金額は,原告の平成3年分の確定申告によると762万2825円であり,原告が主張する1009万9550円とは相違することなどの点で不合理な点が多く,結局,原告が,支払手数料率が6割となるよう辻褄をあわせるために後から適当に数字を組み合わせて主張しているものにすぎないことは明らかである。しかも,原告自身においても,「…不適当な個所等がある」と自認しているのであるから,まさに,支払手数料割合6割なるものは,その金額に何ら合理的根拠がないものである。

 

  したがって,本件支払手数料が,原告の受任報酬額の6割を以て算定されていたことをもって,本件支払手数料が原告の所得税の負担を不当に減少させることはないと認めることはできないというべきである。

 

 

 (ウ)人件費倍率比準法の適切性

 a 人件費倍率比準法採用の必要性について

 所得税法157条は,納税者の採った行為又は計算が「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」と税務署長が判断した場合に,課税の計算上,当該行為計算と異なる行為計算を想定して(収入金額の発生が擬制され,又は経費の控除を否定される。),当該納税者の課税標準,欠損金額又は所得税額等を計算するものである。

 

  この計算方法には,納税者の採った行為又は計算が「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かを客観的に判断するための方法の一つとして,比準会社を用いて比較する方法があり,この方法で比較した結果,納税者の採った行為又は計算が不合理,不自然なものと認められる場合には,「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるのであり,その場合には,その納税者の採った行為又は計算に比準会社を基にして算定した標準値・適正値を適用して,適正とされる額を計算するのである。このように,課税庁が納税者の採った行為又は計算が不合理,不自然なものと認められるか否かを判断するために比準会社と比較することは,その必要性がある場合に限って認められるというものではなく,同条が当然に予定していることであり,また,比較の結果,納税者の採った行為又は計算が不合理,不自然なものと認められるときは,比準会社を基にして算定した標準値・適正値を適用して,適正とされる額を計算することも同条が当然に予定していることである。

 

  さらに,本件の場合,原告自身がもともと支払手数料率6割を適用して支払手数料を算出しているのであるから,被告税務署長は,原告の計算した方法,計算について,すなわち原告の採った行為又は計算が「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かを客観的に判断するための方法として比準会社を用いて比較検討したものであって,その結果,「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認めたため,所得税法157条を適用して本件各更正処分を行ったものであるから,本件適正支払手数料の算定方法自体がまさに最善の方法であって,次善の方法なるものは存在しない。

 

  したがって,あえて原告主張のように帳簿の記載内容等を調査して,適正な委託手数料価額を算定する必要性はなかったというべきである。

 

 b 人件費倍率比準法の合理性

 (a)比準会社選定の経緯について

 被告税務署長は,原告からエスフォーへの適正支払手数料価額の算定に当たり,エスフォーのような業務を一つの委託先(特殊の関係がない)から専属的に一括して受託している比準会社が見あたらなかったため,エスフォーの業務実体に着目したところ,エスフォーが原告のみに役務を提供していること,原告からの委託業務を処理するに当たっては司法書士である原告の指揮命令を受けていることなどから,原告とエスフォーとの間の業務委託契約は労働者派遣契約に類似していると認め,比準会社として労働者派遣会社を採用することが合理的であると認めたものである。

  そして,エスフォーの行う業務が,原告の本業である司法書士業務に付随する業務の処理であり,その具体的な業務が,原告が自認するとおり,各種申請書類の作成などの事務的な作業であると認められたため,比準会社においても主にオフィス業務に係る労働者を派遣している会社を採用したものである。

  原告は,被告税務署長が選定した比準会社である労働者派遣会社における派遣労働者がエスフォーの従業員ほど高度の専門的知識を持ちあわせていないかのような主張をするが,本件各係争年度当時の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(平成11年法律第84号による改正前のもの)及び同法施行令(平成8年政令334号による改正前のもの)所定の,派遣労働者に従事させることができる業務はいずれも専門的知識を要するものであり,また,実際にも,派遣先企業においても,比較的短期間において,収益の向上及び業務処理の効率化等を図るために即戦力となる者(いわゆるスペシャリスト)の派遣を依頼するのが通常であり(長期安定的な収益の向上及び業務処理の効率化等を図るのであれば,従業員を雇用するはずであり,何ら専門性を有しない短期の労働力需要に対しては,パート及びアルバイトが活用されるのが通常である。),派遣元にあってもそのような有能な労働者を派遣するのでなければ,派遣先の要望する目的に答えられないのであるから,派遣労働者が各業務によって派遣先の一従業員以上あるいは同等の専門的知識を有していることは明らかである。

 

 (b)人件費の点について

 被告税務

 署長は,本件支払手数料の適正価額を算定するに当たり,人件費倍率を乗ずべきエスフォーが支払った給料賃金の金額に,エスフォーが原告及びP2に対して支払った役員報酬は算入していない。

  それは,従業員に対する給料賃金と役員に対する役員報酬は,それぞれ会社との法律的関係により生じる対価の性質の違いや,労働者派遣業に類似する業種にあっては,その収入金額との相関関係が最も強いのは業務関連費用の中では給料賃金とされていることから,被告税務署長が算定した比準会社の人件費倍率は,派遣労働者の給料賃金の額に対する収入金額(派遣労働者の給料賃金に対応するもの)の倍率の平均値としていたところ,上記のようにもともと役員報酬を含めない形で人件費倍率が算出されているのであるから,エスフォーの支払った給料賃金に役員報酬を加算したうえで,人件費倍率を乗じてみても,適正な委託手数料価額が算定できる道理はないのである。

  さらに,原告及びP2の労働実態に照らしてみても,両名はエスフォーにおいて原告からの委託業務の処理のみに専属したわけではなく,エスフォーから支払われた役員報酬も,その全てが原告からの委託業務の処理に対する対価とみることはできないのであり,この点からみても,原告及びP2に対して支払われた役員報酬を人件費倍率を乗ずべき給料賃金の額に含めることはできないというべきである。

 

 (c)以上のとおり,人件費倍率比準法の算定過程には何ら問題はなかったというべきである。

 c 以上より,本件において,人件費倍率比準法を用いて,適正な支払手数料価額を算定し,本件支払手数料を否認した被告税務署長の処分には,所得税法157条の適用を誤った点は存在しない。

 

 (エ)二重課税の点について

 原告は,被告税務署長の行った本件各更正処分は,原告の所得税とエスフォーの法人税の二重課税を招くだけでなく,原資が否定されたエスフォーからの給与所得と事業所得との二重課税を招くものであり,違法であると主張する。

  しかしながら,個人と法人では適用される税法を異にし,それぞれ別個の課税主体として規定されていることから,所得税法と法人税法の間で二重課税の問題が生ずる余地はないし,また,原告及びP2に係る役員報酬(給与所得)については,原告がエスフォーに支払った本件支払手数料がその原資の一部に充てられるという関係にあったとしても,経済的に異常な行為として否認したところの本件支払手数料(事業所得の必要経費不算入部分)とはその発生の源泉を異にするものであるから,所得税法157条の規定を適用して本件各更正処分を行うに当たり,上記役員報酬を考慮する必要はない。

  また,所得税法157条に基づく法人の行為計算を否認するに当たり,当該法人の法人税の負担を総合し,ないしこれを斟酌して総合的税負担を不当に減少させる結果となるかどうかまでも要件としていないことは,同条の規定上明らかである。

  さらに,所得税法157条によって生ずるそのような結果は,同条が同族会社の組織,運営を利用した租税負担回避のための恣意的な行為計算を防止・是正する趣旨のものであり,これによって生ずる警告的,予防的機能を考慮することなくとられた行為計算に起因するものであることからしても,同条の予定しているところであり,何ら不当とはいえないのである。

 

 

 

 

 

 

 (原告の主張)

 (ア)本件支払手数料を,必要経費として,別表2「原告の申告」欄の「⑮支払手数料」欄に各記載の金額に算入し,確定申告をしたこと及びエスフォーが,所得税法157条1項1号に規定される「内国法人である法人税法第2条第10号(定義)に規定する同族会社」に該当することは認める。また,被告税務署長が,本件支払手数料の適正価額につき,その主張に係る方法で算出したことは認めるが,後述のとおり,その合理性は争う。

  そもそも,次のとおり,本件支払手数料について,所得税法157条を適用して否認する余地はなく,仮に同条を適用することができたとしても,被告税務署長はその適用方法を誤っており,いずれにせよ,被告税務署長が本件支払手数料を157条により否認したことは,同条の解釈適用を誤った違法がある。

 

 (イ)所得税法157条の適用の可否

  本件においては,次のとおり,所得税法157条の適用要件を欠いていて,同条を適用する余地はない。

 a 所得税法157条の適用範囲

 (a)所得税法157条は「…法人の行為又は計算で…所得税の負担を不当に減少させる…」と規定していることから,同条により否認の対象となるのは法人の行為又は計算であることは,文理上明らかである。したがって,原告個人の支出を所得税法157条で否認することは許されない。

  また,上記「不当に」減少させるか否かの判断基準については,「純経済人の行為として不合理・不自然か」とされているところ,上記のとおり,所得税法157条は,同族会社という主体に着目して規定されているのだから,「同族会社の行為計算が,純経済人の行為計算として不合理・不自然な場合に,同族会社の行為計算を否認できるもの」と解釈されるべきである。

  ところで,個人株主等と同族会社の取引により株主等の所得税が不当に減少するという場合の多くは,一方で,同族会社の法人税の負担が増加する行為である。このように,同族会社の利益を増加させる行為は営利法人として経済的合理性のある行為であり,非同族会社においても当然に行われる行為であるから,所得税法157条により合理的な同族会社の行為を否認するという結果になり,かかる行為を所得税法157条の否認の対象とするのは,上記解釈に矛盾することとなる。

  したがって,もし,原告からエスフォーへの本件支払手数料が被告税務署長の主張のように過大であるとしても,それは上記のとおり,同族会社にしてみれば,極めて経済的合理性を有する行為であって,所得税法157条によって否認される余地はないのである。

 (b)さらに,所得税法157条は,個別規定に対する補完的・補充的規定であり,過大経費の場合には,まず所得税法37条1項により必要経費に該当するか否か,すなわち「事業に関連した通常且つ必要な経費」といえるか否かを判断すべきである。

  所得税法157条は,納税者が経済的目的を達成し,あるいは経済的成果を実現するために用いた私法上の法形式を異常な法形式の選択として,租税法上はこれを無視し,通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されるものとして取り扱うことを意味するから,税務署長のこの権限は,他方で認められている私的自治の原則,契約自由の原則を侵害するものであり,例外的な場合に制限的に行使されるべきである。

  したがって,個別的規定の解釈により過大経費を否認できる場合には,個別的規定を適用すべきなのであり,その意味において所得税法157条は補完的・補充的規定なのである。

  本件においても,被告税務署長は,本件支払手数料が過大であるならば,かかる支出が所得税法37条1項の必要経費に該当するか,すなわち「通常かつ必要な費用」の範囲内かどうかを判断すべきであり,それをせずに所得税法157条を適用して本件支払手数料の必要経費への算入を否認した本件各更正処分は所得税法157条の解釈適用を誤った違法な処分である。

 b 本件支払手数料価額の適正性

  原告は,エスフォーの設立の際,エスフォーとの間で,原告の業務のうち,司法書士として他へ委託できない基本業務を除く,手続的業務・付随的業務をエスフォーへ委託し,その委託料を原告の受任報酬額の6割と決定した。6割と決定したのは,次のような経緯からである。

  すなわち,エスフォー設立の前年である平成3年の原告の総経費中,委託可能業務に対応する経費を個別に引き出し,それを合算した。このようにして算出した委託可能業務に対応する経費は3039万3029円であった(具体的内容については別表6のとおり。)。

  次に,上記経費額が原告の平成3年の事業収入6147万8873円から他の司法書士等へ支払った委託手数料1009万9550円を引いた実質事業収入5137万9323円に占める割合を出すと約59パーセントとなった。

  これにエスフォーの利益を上乗せすることも可能であったが,当面6割で経過を見ることとしたものである。

  このように,原告がエスフォーに支払った委託手数料は合理的な根拠に基づいて算定されたものであって,何ら原告の所得税の負担を不当に減少させるものではないから,所得税法157条を適用して,本件支払手数料を否認することはできない。

 

 (ウ)人件費倍率比準法について

 仮に,本件支払手数料について,所得税法157条の適用があるとしても,被告税務署長が適正な支払手数料額算定の際に使用した人件費倍率比準法は,次のとおり,それを使用する必要性はないし,算定方法としての合理性も欠いている。

  したがって,上記人件費倍率比準法を用いて行われた,本件支払手数料の否認は,所得税法157条の適用を誤っており違法である。

 a 推計の必要性

  所得税法157条の「税務署長の認めるところにより」とは,適正価額の認定手続につき,税務署長に無条件の裁量権を与えたものではなく,適正価額算定に最も適した方法の採用を求めたに過ぎない。したがって,適正価額算定につき,最善の方法があるにもかかわらず,次善の方法をとることは許されないというべきである。

  被告税務署長が,本件支払手数料の適正価額算定に用いた人件費倍率比準法は,労働者派遣会社の人件費倍率と比較することによって,原告のエスフォーに対する支払手数料の適正価額を推計するものであるが,推計という方法が,いわゆる推計課税の場合だけではなく,所得税法157条の適正価額を認定する場合においても,次善の方法であることは論を待たない。実額による適正価額の算定が可能であれば,実額によって算定すべきである。特に本件においては,不動産管理料のごとく,客観的相場が確立されているわけではなく,非同族の同業他社が存在せず,被告税務署長の主観における類似業種他社としか比較し得ないケースなのだから,推計以外に適正価額を求める方法がないのか慎重に検討されるべきであった。

  そうであれば,被告税務署長は,安易に労働者派遣会社を比準会社とするのではなく,原告の算定した委託料率6割の根拠の正当性を検討すべきであったし,平成5年ないし平成7年までのエスフォー提供商品の生産原価,具体的には受託業務処理に向けられた原告とP2の労働実態を調査すべきであった。本件においては,帳簿の記載内容に誤りがないのであるから,調査は可能であり,調査によって実額による支払手数料の適正価額の算定は当然可能であったというべきである。

  しかるに,被告税務署長は,前記のような調査をほとんどなさず,推計の方法によることの必要性が明らかでないまま,一方的に人件費倍率比準法なるもので適正価額を推計したものであって,被告税務署長による本件支払手数料の否認には,所得税法157条の裁量権を逸脱した違法がある。

 b 人件費倍率比準法による適正価額算定の合理性

  さらに,被告税務署長が用いた人件費倍率比準法による適正価額の算定には,次の点で問題があり,合理性を欠くというべきである。

 (a)比準会社選定上の問題

  被告税務署長は,比準会社として,オフィス業務に係る労働者派遣会社を選択した。被告税務署長がその根拠としてあげるのは,エスフォーが原告のみに役務を提供していること,原告からの委託業務の処理をするに当たり,原告の指揮命令を受けていることから,原告とエスフォーとの間の業務委託契約は労働者派遣契約に類似しており,委託業務の具体的内容が各種申請書類の作成などの事務的作業であったことである。

  しかしながら,労働者派遣会社の場合,派遣先に人材のみが手ぶらで行って就労するのに対し,エスフォーの場合,自らが事務所を賃借して賃料を支払い,事務機器を備え,消耗品も負担しているし,車2台を所有し業務に使用している。

  エスフォーは,原告に対し,人材を提供するのではなく,原告から委託された仕事を処理するものであって,委託業務処理のため人的物的生産手段を備えた,いわゆる専属下請的な会社である。しかも,原告から委託される業務の処理には,高度の法的専門知識が要求されるのであって,そのような人材を保有する労働者派遣会社など存在しない。

  したがって,エスフォーは,被告税務署長が認定したような労働者派遣会社とその本質を全く異にしているのである。

 (b)人件費の問題

  仮に,適正な委託手数料の価額を人件費に人件費倍率を乗ずる方法によって算定する方法によったとしても,原告からの委託業務の処理には,原告及びP2も当たっているのであるから,計算の基礎とすべき人件費には,従業員らに支払われた給料だけではなく,原告及びP2に支払われた役員報酬をも加えるべきである。

  被告らは,給料賃金と役員報酬の性質の違いを強調し,人件費倍率はもともと,役員報酬を含めた形で算出されていないから,エスフォーへの委託料の適正価額算定に当たって,原告及びP2に支払われた役員報酬を含めると適正な価額が算出されないと主張する。

  しかし,エスフォーへの委託手数料の適正価額を算定するに当たって問題とすべきは,何が適正な生産原価と利益であるかである。

そして,生産原価を考えるに際しては,提供された役務に対して支払われた金員の名目は問題とすべきではなく,実質的に,当該業務を処理するに当って提供された役務に対する対価と捉えるべきである。

  そうすると,原告からの委託業務の処理には上記のとおり,原告及びP2も当たっているから,これらの者の役務の提供に対する対価も当然,生産原価として人件費に含めるべきである。

  以上のようにして,原告及びP2に支払われた役員報酬も,人件費に加算して,上記適正価額算定方法の方式にしたがって,適正価額を算出すると次のとおりとなる。

 平成5年             3886万5239円

 平成6年             3851万9183円

 平成7年             4314万1798円

  上記のとおり,原告がエスフォーに対し支払った本件支払手数料は,平成7年において適正価額,平成5年及び平成6年においては適正額よりも少額であるから,これを必要経費に算入しても,原告の所得税の負担を不当に減少させるものとはいえず,被告税務署長に否認される理由はない。

 (エ)二重課税の問題

  本件支払手数料を所得税法157条により否認することは,原告の所得税とエスフォーの法人税の二重課税を招くだけでなく,原資が否定されたエスフォーからの給与所得(P2の給与所得を含む)と事業所得との二重課税を招くことにもなり,所得のないところに課税をするものであって,違法である。

 

 

 

 

 

 

 

 

イ 支払手数料以外の費用の否認の適法性

 

 (ア)被告らの主張

 a 必要経費の意義と範囲

  所得税法37条に規定する事業所得における必要経費に該当するというためには,当該事業の業務と直接関係をもち,かつ,業務遂行上通常必要な支出であることを要し,更にその必要性の判断においても,単に事業主の主観的判断のみによるのではなく,客観的に必要経費として認識できるものでなければならない。さらに,必要経費については,家事上の経費及びこれに関連する経費に該当するもののうち,「主たる部分が業務の遂行上必要であり,かつ,その必要である部分が明確に区分することができる場合における当該部分に相当する経費」,または取引の記録等に基づいて,…業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分に相当する経費」以外のもの(以下「家事関連費」という。)は,所得税法45条1項1号及び同法施行令96条の規定により,必要経費の額に算入することはできないとされているところ原告が確定申告した事業所得の金額の計算上必要経費に算入した支出のうち,次のものは,所得税法37条1項に規定する「所得を生ずべき業務について生じた費用」として当該事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないもの,家事上の経費と認められるもの,あるいは家事関連費と認められるもので,事業所得の金額の計算上必要経費として認められないものであることは明らかである。

 

 b 接待交際費

  原告が事業所得の金額の計算上,必要経費の額に算入した接待交際費の額,平成5年分504万4936円,平成6年分489万4037円及び平成7年分415万3844円のうち,次の金額については,必要経費に算入できない。

 

 

 (a)平成5年分接待交際費否認額 154万9697円

  別表7の1の(1)ないし(3)の合計額146万4697円は,支出の目的または接待した相手先が明らかでなく,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

  原告は,原告が主催したP1杯ゴルフコンペに係る費用の全部を必要経費に算入しているが,上記費用のうち,別表7の2の額8万5000円を参加者から会費として徴収しているから,同額を必要経費に算入することはできない。

 

 

 (b)平成6年分接待交際費否認額 177万1208円

  別表7の3の(1)ないし(3)の合計額166万9208円は,支出の目的または接待した相手先が明らかでなく,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

  原告は,原告が主催したP1杯ゴルフコンペに係る費用の全部を必要経費に算入しているが,右費用のうち,別表7の4の合計額10万2000円を参加者から会費として徴収しているから,同額を必要経費に算入することはできない。

 

 

 (c)平成7年分接待交際費否認額166万8940円

  原告は,別表7の5の合計額4万2722円は,大和ハウス工業株式会社(以下「大和ハウス」という。)が行った杵築リゾート開発事業(以下「杵築リゾート開発」という。)に係る支出であるとしているが,原告が平成7年中に同事業に係る業務の正式受注をしておらず,したがって,その支出の目的または接待した相手先が明らかでなく事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,その支出を必要経費に算入することはできない。

 

  別表7の6の(1)ないし(3)の合計額140万1218円は,支出の目的または接待した相手先が明らかでなく事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

  原告は,原告が主催したP1杯ゴルフコンペに係る費用の全部を必要経費に算入しているが,右費用のうち,別表7の7の合計額22万5000円を参加者から会費として徴収しているから,同額を必要経費に算入することはできない。

 

 

 c 損害保険料

  原告が事業所得の金額の計算上,損害保険料として必要経費に算入した平成5年分38万5410円,平成6年分29万2450円,平成7年分26万4410円のうち,次の金額については,必要経費に算入できない。

 

 (a)平成5年分損害保険料否認額 19万9640円

  原告には従業員がいないところ,別表8の1のうち広島県中小企業団体中央会に支払われた合計額3万6000円は,従業員の退職金共済に係る保険料であり,これはエスフォーの従業員に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

  別表8の1のうち大東京火災海上保険株式会社(以下「大東京火災」という。)に支払われた合計額8万5030円は,エスフォー所有の車両に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

  別表8の1のうち国民年金基金の掛金の額2万2000円及び千代田火災海上保険株式会社(以下「千代田火災」という。)に支払われた保険料の額の計5万6610円の合計額7万8610円は,同表「保険内容」欄記載のとおり,家事費に該当するから,原告の必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成6年分損害保険料否認額 10万1790円

  別表8の2のうち広島県中小企業団体中央会に支払われた合計額3万6000円は,前記(a)と同様に,従業員の退職金共済に係る保険料であり,これはエスフォーの従業員に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

  別表8の2のうち大東京火災に支払われた合計額3万6080円は,エスフォー所有の車両に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

  別表8の2の千代田火災に支払われた保険料の合計額2万9710円は,同表「保険内容」欄記載のとおり,家事費に該当するから,原告の必要経費に算入することはできない。

 

 (c)平成7年分損害保険料否認額 6万9670円

  別表8の3のうち広島県中小企業団体中央会に支払われた合計額3万6000円は,前記(a)と同様に,従業員の退職金共済に係る保険料であり,これはエスフォーの従業員に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

  別表8の3のうち大東京火災に支払われた合計額3万3670円は,エスフォー所有の車両に係る保険料と認められるので,原告の必要経費に算入することはできない。

 

 d 利子割引料

  原告が事業所得の金額の計算上,必要経費の額に算入した利子割引料の額,平成5年分95万7395円,平成6年分89万3255円及び平成7年分64万3620円のうち,次の金額については,原告の必要経費に算入することはできない。

 

 (a)平成5年分利子割引料 否認額15万8040円

  原告は,株式会社富士銀行(以下「富士銀行」という。)広島支店から200万円を借り入れ,別表9の1のとおりそれに対する利子割引料の額19万5119円を支払い,同額を必要経費に算入しているが,そのうち15万8040円に相当する部分は,原告が平成3年8月29日にした修正申告により納付すべき所得税に充てるための借入金に係るものであり,家事費に当たるから,必要経費に算入することはできない(借入金額に対する納税金額の割合は別表9の参考事項のとおり0・81となるので,別表9の1のとおり利子割引料の支払金額に否認割合を乗じて算出した否認金額の合計額は15万8040円となる。)。

 

 (b)平成6年分利子割引料否認額 11万3518円

  原告は,富士銀行広島支店から200万円を借り入れ,別表9の2のとおりそれに対する利子割引料の額14万0153円を支払い,同額を必要経費に算入しているが,そのうち11万3518円に相当する部分は,原告が平成3年8月29日にした修正申告により納付すべき所得税に充てるための借入金に係るものであり,家事費に当たるから,必要経費に算入することはできない(借入金額に対する納税金額の割合は別表9の参考事項のとおり0.81となるので,別表9の2のとおり利子割引料の支払金額に否認割合を乗じて算出した否認金額の合計額は11万3518円となる。)。

 

 (c)平成7年分利子割引料否認額 7万7027円

  原告は,富士銀行広島支店から200万円を借り入れ,別表9の3のとおりそれに対する利子割引料の額9万2436円を支払い,同額を必要経費に算入しているが,そのうち7万4867円に相当する部分は,原告が平成3年8月29日にした修正申告により納付すべき所得税に充てるための借入金に係るものであり,家事費に当たるから,必要経費に算入することはできない(借入金額に対する納税金額の割合は別表9の参考事項のとおり0.81となるので,別表9の3のとおり利子割引料の支払金額に否認割合を乗じて算出した否認金額の合計額は7万4867円となる。)。

 

  また,別表9の3のうち,原告が株式会社広島銀行δ支店に支払った2160円は,積立式の損害保険に係る保険ローンに対する利子割引料であり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 e 組合費

 (a)平成5年分組合費否認額 1万3500円

  事業所得の金額の計算上,組合費として必要経費に算入された平成5年分51万7405円のうち別表10の1の合計額1万3500円は,同表「支払先」欄記載の支払先へ支払われたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかにされていないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成6年分組合費否認額 2万1000円

  事業所得の金額の計算上,組合費として必要経費に算入された平成6年分81万7730円のうち別表10の2の合計額2万1000円は,同表「支払先」欄記載の支払先へ支払われたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかにされていないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (c)平成7年分組合費否認額 1万5000円

  事業所得の金額の計算上,組合費として必要経費に算入された平成7年分60万3754円のうち別表10の3の合計額1万5000円は,同表「支払先」欄記載の支払先へ支払われたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかにされていないから,必要経費に算入することはできない。

 

 f 雑費

 (a)平成5年分雑費否認額 2万9500円

  事業所得の金額の計算上,雑費として必要経費に算入された61万2871円のうち別表11の1の合計額2万9500円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成6年分雑費否認額 1000円

  事業所得の金額の計算上,雑費として必要経費に算入された54万3616円のうち別表11の2の合計額1000円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (c)平成7年分雑費否認額 14万1721円

  事業所得の金

 額の計算上,雑費として必要経費に算入された71万6461円のうち別表11の3の合計額14万1721円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

  なお,上記14万1721円のうち11万円は,雑費勘定中義援金として計上されていたが,これは所得税法78条に規定されている特定寄付金に該当するので,これを寄付金控除として総所得金額から控除した。

 

 g 消耗品費

 (a)平成6年分消耗品費否認額 8000円

  事業所得の金額の計算上,消耗品費として必要経費に算入された64万2060円のうち別表12の1の8000円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,家事関連費と認められるから,必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成7年分消耗品費否認額 8000円

  事業所得の金額の計算上,消耗品費として必要経費に算入された106万6397円のうち別表12の2の8000円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,家事関連費と認められるから,必要経費に算入することはできない。

 

 h 福利厚生費

 (a)平成5年分福利厚生費否認額 3万1588円

  事業所得の金額の計算上,福利厚生費として必要経費に算入された別表13の1の3万1588円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成6年分福利厚生費否認額 1万円

  事業所得の金額の計算上,福利厚生費として必要経費に算入された別表13の2の1万円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 i 旅費交通費

 (a)平成6年分旅費交通費否認額 9万7850円

  事業所得の金額の計算上,旅費交通費として必要経費に算入された203万6466円のうち別表14の1の合計額9万7850円は,同表「支払内容」欄記載のとおり支出されたものであり,事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 (b)平成7年分旅費交通費否認額 15万4362円

  事業所得の金額の計算上,旅費交通費として必要経費に算入された162万3773円のうち別表14の2の合計額15万4362円は,杵築リゾート開発に係る支出であるとしているが,原告は平成7年中に業務の正式受注をしておらず,したがってその支出の目的が明らかでなく事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 j ガソリン代

  平成7年分ガソリン代否認額    4950円

  原告は,事業所得の金額の計算上,ガソリン代として必要経費に算入された48万8534円のうち別表15の合計額4950円は,杵築リゾート開発に係る支出であるとしているが,原告が平成7年中に業務の正式受注をしておらず,したがって右支出の目的が明らかでなく事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから,必要経費に算入することはできない。

 

 k 租税公課

  平成6年分租税公課否認額    1400円

  平成6年分の事業所得の金額の計算上,租税公課として必要経費に算入された146万9720円のうち別表16の平成6年5月9日の1400円は,源泉徴収に係る所得税が法定納期限を過ぎて納付されたことに対する延滞税であり,所得税法(ただし,平成9年法律第5号による改正前のもの)45条1項3号に規定する附帯税に該当するので,必要経費に算入することはできない。

 

 

 

 

 

 (イ)原告の主張

 a 必要経費の意義と範囲

 (a)ある支出が,所得税法37条1項所定の必要経費に該当するというためには,その支出が事業活動と直接の関連をもち,事業の遂行上必要な費用でなければならないとされている。そして,必要経費として認められるためには,「通常かつ必要」な経費であることまでは要求されておらず,必要な経費であれば足りると解すべきである。

 (b)被告らは,ある支出が必要経費として認められるためには,それが「当該事業の業務と直接関係をも」つことを要求しており,当該業務による収入との対応関係を必要としているようにも思える。

  しかし,事業とは,自己の計算と危険において営利を目的とし,対価を得て継続的に行う経済活動のことであり,継続性が予定されている点で,単発的な業務とは区別される。そして,このことは必要経費のとらえ方にも反映しており,次の2通りが認められている。

  まず,必要経費のうち仕入のように,特定の収入との対応関係が明らかにできるものがある。この場合には,被告ら(被告税務署長)のいうように,個別の業務との直接必要関連性が要求される。

  これに対し,「販売費及び一般管理費」のように,特定の収入との対応関係が明らかにできないような支出もそれが生じた年度の必要経費として認められる(一般対応又は期間的対応)。そして,これに該当する費用としては,福利厚生費,消耗品費,保険料,旅費通信費,公租公課,交際接待費,利子割引料,雑費などが予定されている。

  このように,反復継続する事業においては,ある業務との直接関連性やそれによる収入との個別対応がなくても,必要経費として認められるものがあり,所得税法37条1項の規定や実務上の損益計算書原則もこれを前提にしている。

 (c)また,被告らは,原告の必要経費を否認する根拠として,①「事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められない」若しくは,②「事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないもの」,③「家事上の経費と認められるもの」あるいは,④「家事関連費と認められるもの」という点を挙げている。そして,個々の経費該当性の検討においては,①と②を並列的に挙げているものが多い。しかし,②と④は,同じ理由のはずであり,①とは全く異なる理由である。したがって,①と②すなわち④を並列的に理由としているものについては,いずれの理由で必要経費を否認したのかがわからない。

  このような曖昧な理由での否認自体が,不当,違法な処分といわざるをえない。

 b 接待交際費

 (a)平成5年分について

 同年分の接待交際費否認額のうちP1杯ゴルフコンペ費用を除く146万4697円のうち,別表17の1ないし6の合計額122万9904円は,同表記載のとおり,支出の目的及び接待した相手先が明らかであり,いずれも必要経費として認められるべきである。また,その余の若干の支出については,詳細が不明であるが,これらは,原告の記憶が喚起できないだけである。そもそも原告は,単純なミス(上記ゴルフコンペ費用)を除いて,事業遂行に関連性のないものは当初から接待交際費に計上しておらず,いずれも必要経費として認められるべきである。

 (b)平成6年分について

 接待交際費否認額のうちP1杯ゴルフコンペ費用を除く166万9208円のうち,別表18の1ないし5の合計額143万4504円は,同表記載のとおり,支出の目的及び接待した相手先が明らかであり,いずれも必要経費として認められるべきである。また,その余の若干の支出については,詳細が不明であるが,これらは,原告の記憶が喚起できないだけである。そもそも原告は,単純なミス(上記ゴルフコンペ費用)を除いて,事業遂行に関連性のないものは当初から接待交際費に計上しておらず,いずれも必要経費として認められるべきである。

  なお,被告税務署長が否認している平成6年12月31日付支出(P41万9879円及びP51万4000円)については,調査の結果,いずれも平成7年1月31日付支出(P4分:別表18の5,P5分:別表18の2)であったことが判明した。これらは,本来平成7年分の接待交際費とすべきところを,あやまって平成6年分に計上したものである。

 (c)平成7年分について

 接待交際費否認額のうちP1杯ゴルフコンペの費用を除く140万1218円のうち,別表19の1ないし5の合計額126万6614円は,同表記載のとおり,支出の目的及び接待した相手先が明らかであり,いずれも必要経費として認められるべきである。また,その余の若干の支出については,詳細が不明であるが,これらは,原告の記憶が喚起できないだけである。そもそも原告は,単純なミス(上記ゴルフコンペ費用)を除いて,事業遂行に関連性のないものは当初から接待交際費に計上しておらず,いずれも必要経費として認められるべきである。

  なお,被告税務署長は,これ以外に,杵築リゾート開発にかかる合計4万2722円の支出を,原告が平成7年中に同事業にかかる業務の正式受注をしていないという理由から否認している。しかし,同事業は,コンサルタント業務を複数年にわたって継続的に行ったものであり,これに関する支出は,前述の一般対応または期間的対応に相当するものである。したがって,その支出は,それが生じた年度の必要経費として認められるべきである。よって,これを否認した処分は失当である。

 c 損害保険料(ゴルファー保険)

  被告税務署長は,原告の支払った損害保険料のうち,平成5年分1万0090円,平成6年分1万0090円のゴルファー保険料を家事費に該当するものとして否認している。

  しかし,原告のゴルフは,顧客又は他の顧客を紹介してくれる人との重要な接点であり,原告の営業行為として職務遂行上不可欠な接待交際の一部である。そして,ゴルファー保険は,ゴルフをする際の不慮の事故に備えて入るものであり,その支払保険料は原告の事業遂行上必要な行為と密接不可分なものであり,必要経費とされるべきものである。

 

 d 組合費

  被告税務署長は,原告の支払った組合費のうち,平成5年分1万3500円,平成6年分2万1000円,平成7年分1万5000円分を「事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないから」という理由で否認している。

  しかし,上記組合費の支払先は,日独協会,道路交通民主化の会,日米協会,ひろしま南太平洋協会,γ倶楽部である。原告が営んでいる司法書士業務は,知人が顧客を紹介し,その顧客がさらにまた次の顧客を紹介するという人的ネットワークに負うところが大きい職種であり,原告が上記組合費を支払っていた組織は,いずれも原告がその人的ネットワークを拡大し,将来の顧客を開拓することに資するものである。ちなみに,法人の場合には,これらの組合費等の会費はいずれもその必要経費としての処理が認められている(法人税基本通達第9章第3款「会費及び入会金等の費用」)。これとの対比においても,人的ネットワークの拡大が事業遂行に不可欠な原告の司法書士業務では,その経費性が肯定されるべきである。

 

 e 雑費及び消耗品費

  被告税務署長は,原告の支払った雑費のうち,平成5年分2万9500円,平成6年分1000円,平成7年分14万1721円(ただし,うち金11万円の義援金については,特定寄付金として総所得金額から控除されていることは認め,この点は争わない。)を「事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性がある部分が明らかでないから」という理由で否認している。また,平成6年分と7年分については,原告が支払った消耗品費のうち,熊手購入費用8000円ずつを家事関連費として否認している。

  しかし,平成7年の721円を除く上記各支出は,いずれも広島護国神社への玉串料,胡神社への祈祷料,熊手の購入費用であるところ,これらの支出は,原告の個人的な信仰や精神的安寧のためではなく,あくまでも司法書士としての「商売繁盛,売上向上」や従業員の交通安全を目的としたもので,原告の事業遂行上必要な経費である。ちなみに,法人の場合には,これらは当然,必要経費として処理されており(租税特別措置法61条の4(1)-2),これとの対比上も必要経費性が認められるべきである。

  したがって,上記雑費及び消耗品費の否認額は,いずれも雑費として認められるべきものである。

  また,上記721円は,特定寄付金の送料であり,支払手数料として経費性が認められるべきものである。

 

 f 福利厚生費

  被告税務署長は,原告が支払った福利厚生費のうち,平成5年分3万1588円,平成6年分1万円を「事業との関連性または事業遂行上の必要性が認められないか,若しくは,事業の遂行上の必要性がある部分が明らかでないから」という理由で否認している。

  しかし,これらの中で,平成5年9月28日付検診費用を除く飲食費は,いずれも取引先の従業員への差し入れなどであり,本来交際費として計上すべきものを科目間違いで福利厚生費として計上したものである。

  したがって,いずれも原告の必要経費として認められるべきものであることに変わりはない。

 

 g 旅費交通費及びガソリン代

  被告税務署長は,原告が支払った旅費交通費のうち,平成7年分15万4362円と,同じくガソリン代のうち,平成7年分4950円を「原告が平成7年中に業務の正式受注をしていない」という理由で否認している。

  しかし,これらはいずれも,原告の行った継続的事業に関する支出であり,当該年度の必要経費となる。

  被告らの指摘する杵築リゾート開発は,原告の,重要な顧客である大和ハウスの依頼に基づき,司法書士としての立場から開発予定区域の土地の分筆,合筆,所有権移転登記手続等について,原告が複数年にわたって継続的にコンサルタント業務を行ってきた事業であり,これに関する費用は,前記a(b)の「一般対応又は期間的対応」に相当するものであり,当該年度の必要経費として,算入されるべきものであることは明らかである。

 

 

 

 

 

 (2)国家賠償の成否(主位申請求)

ア 原告の主張

 (ア)被告税務署長がなした本件各更正処分は,(1)において主張のとおり,違法な処分であり,かつ同処分は,被告税務署長が原告の業務に関する予断と偏見に基づいて調査を行った結果,その判断を誤ったものであり,故意又は過失によることは明白である。

 (イ)よって,被告国は,国家賠償法1条1項に基づき,公権力の行使に当たる被告国の公務員である被告税務署長が,その職務を行うについて,原告に与えた次の損害を賠償すべき責任がある。

 (ウ)原告の損害         合計   450万円

 a 慰謝料                 300万円

  原告は,本件各更正処分によって,大きな精神的ショックを受けるとともに,納税資金の調達などに苦慮した上,更正処分にかかる税金をとりあえず支払うために,多額の借入を起こさざるを得なくなり,その信用も失っており,その精神的苦痛をいやす慰謝料の額は300万円を下らない。

 b 弁護士費用               150万円

 

 

イ 被告国の主張

  争う。

  本件各更正処分は,(1)において被告税務署長が主張したとおり,いずれも適法になされたものである。また,被告税務署長は,原告の業務について予断と偏見に基づいて調査を行ったこともない。

  税務署長が課税処分を行うに当たっては,納税者の確定申告の内容及び税務調査等により収集した証拠資料を基礎とし,これらを総合勘案して課税要件事実の存否を認定し,これに関係法規を解釈適用して処分を行うのであるから,税務署長が,当該処分をなすにつき,証拠資料の収集及びこれに基づく課税要件事実の認定,判断において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と課税処分をしたと認められるような事情がある場合に限り,国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものと解されている。これを本件についてみると,本件各処分は,国税通則法24条及び同法65条に基づくものであるところ,被告税務署長が本件各処分を行ったのは原告の所得税について具体的に調査・審理した結果,原告の過少申告の事実を認めたからであり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしているところ,同人の職責としてはその処分をなすことが当然であるから,故意又は過失をもって論難する原告の主張は失当である。

 

 

 

(3)不当利得の成否(予備的請求)

ア 原告の主張

 (ア)(1)ア(原告の主張)(エ)において主張のとおり,本件各更正処分により,本件支払手数料が否認された結果,エスフォーが原告及びP2に支払っていた役員報酬の原資がエスフォーにないこととなる。言い換えれば,上記役員報酬は,本件各更正処分により必要経費への算入を否認され,原告の事業所得であると認定された額に含まれているのである。

  それにもかかわらず,更正処分により増額された事業所得に原告がエスフォーから得た給与所得をさらに加えて原告の総所得とし,これに税率をあてはめて課税することは,給与所得部分について二重に課税していることにもなるし,所得のないところにも課税することになって,所得税の本質に反するものであり,著しく不当であるといわざるを得ない。

 (イ)エスフォーが原告からの支払手数料のみを収入源としていたことは被告税務署長も把握していたところであり,上記のような本件各更正処分の不合理さは明白である。

  したがって,課税庁たる被告税務署長は,本件各更正処分を行う際に,各年度の税額のうち給与所得部分の税額について是正措置を講ずるか,若しくは,更正処分の際の原告の総所得金額の算出において,原告がエスフォーから得たとされる給与所得を含めない等の是正措置を講じなければならなかったものであるが,被告税務署長が同是正措置を怠って課税したことは,所得税の本質に反するものであって,著しく正義に反し公正にももとる課税処分であり,違法であるといわざるを得ず,このような違法な課税処分によって徴収した税額を被告国が保持すべき法的根拠はなく,不当利得を構成するものである。

 (ウ)上記給与所得部分について原告が違法に徴収された税額は

  平成5年分           572万7000円

   平成6年分           533万5000円

   平成7年分           488万4800円

である。

  したがって,被告国は,上記合計額である金1594万6800円を不当に利得していることになるのであり,原告は,被告国に対して上記同額の不当利得返還請求権を有することとなる。

 

 

 

 

イ 被告国の主張

  争う。

  本件各処分は適法であって,原告が本件各処分に従って納付した税額について,国はこれを保持すべき法律上の原因がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(本件各更正処分の適法性)について

(1)本件支払手数料の否認について

 ア 所得税法157条の適用範囲及び適用基準

 (ア)所得税法157条は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社の株主等の関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑み,税負担の公平を維持するため,そのような行為や計算が行われた場合に,それを正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限を税務署長に認めた規定である。

  すなわち,同規定は,同族会社における株主,社員等の関係者(以下「関係者」という。)は,同族会社に対して支配的地位に立っているために,非同族会社との間では通常なしえないような行為をすることが可能であり,これによってしばしば,関係者の所得税の負担が不当に減少させられるという経験則に基づき,同族会社と関係者との間で行われた行為ないし計算につき,関係者の所得税の負担を不当に減少させるものと認められた場合,非同族会社との間において通常なされるべき行為または計算に引き直して,所得税を課税するものである。

  したがって,所得税法157条は,同族会社と関係者との間においてなされた行為または計算につき,それが関係者の所得税の負担を不当に減少させるものと認められる場合に適用されるものであり,その適用の対象となるべき同族会社と関係者との間の行為または計算は,典型的には関係者の収入を減少させ,または経費を増加させる性質を有するものということができる。

  また,所得税法157条は,前示のとおり,同族会社と関係者の特殊な関係に着目して規定されていることから,当該行為または計算が関係者の収入を減少させ,または経費を増加させるものか否かは,関係者に関する上記収入の減少または経費の増加が,少数の株主等によって支配される同族会社でなければ通常行われないものであるか否か,換言すれば,同族会社以外の独立かつ対等の関係に立つ会社との間における通常の経済活動と比較して考えた場合,不合理または不自然であるか否かの点において判断すべきである。したがって,上記のように経済活動として不合理,不自然であり,独立かつ対等で相互に特殊な関係にない当事者間で通常行われるべき取引と比較して,あまりに乖離した取引によって,関係者の所得税の負担が減少するときは,特段の事情がない限り,所得税の負担の不当な減少と評価され,当該行為または計算は所得税法157条による否認の対象となる。そして,上記評価判断は,前示の所得税法157条の趣旨や同条の文理に徴してみれば,行為または計算の態様から客観的に行われるべきものであり,当該行為または計算に係る関係者が租税回避等の目的あるいは不当性に関する認識を有していることを要件とするものではないことは明らかである。

 

 

 (イ)原告は,所得税法157条によって否認されるべき行為又は計算は同族会社のそれをいうものであって,個人の行為又は計算は所得税法157条による否認の対象とはならないとし,その上で原告からエスフォーへ支払った本件支払手数料は,それが高額であったとしてもエスフォーからみれば経済的に極めて合理的な行為であるから所得税法157条によって否認されることはないと主張する。

  なるほど,確かに,同条の文理を見ると,「法人の行為又は計算で」と規定されており,同条による否認の対象となる行為は,同族会社のそれをいうようにも思える。

  しかしながら,所得税法157条の適用の対象が専ら同族会社の単独行為に限られ,同族会社と個人との間の取引行為が適用対象とならないとすれば,同条の適用される場面は容易に想定し難く,かかる解釈は同条の適用範囲を不当に狭め,その趣旨にもとる結果をもたらすものといわなければならない。そもそも,所得税法157条の上記文理は,立法上の沿革によるものにすぎないのであって,同条の趣旨が,同族会社と関係者との特殊な関係により,経済的に通常とは異なった行為又は計算がなされ,その結果所得税の負担が不当に減少したと認められる場合には,通常あるべき行為計算に引き直して,租税負担の公平を図るという点にあることからすれば,同族会社と関係者との間で取引行為がなされた場面において,まさに同条の趣旨が実現されるというべきであり,適用場面を同族会社が単独行為をなした場面に限定する理由はない。

 

  したがって,所得税法157条にいう「法人の行為又は計算」とは,同族会社と関係者との間の取引行為を全体として指し,その両者間の取引行為が客観的にみて経済的合理性を有しているか否かという見地から,その適用の有無及び効果を判断すべきものと解すべきであって,同条による否認の対象を,同族会社の行為又は計算と限定し,その上で本件支払手数料の合理性を論ずる原告の主張は採用する余地はないといわなければならない。

 

 (ウ)次に原告は,所得税法157条は,個別規定に対する補完的・補充的規定であり,過大経費の場合には,まず同法37条1項により必要経費に該当するか否かを判断すべきであると主張する。

 確かに,所得税法37条の必要経費に関する規定は,同法36条の規定と相俟って所得金額の計算の通則を定めた規定であって,経費の支出の相手方が同族会社,非同族会社の区別なく適用される規定であることは,原告指摘のとおりである。そして,本件においては,原告からエスフォーに支払われた支払手数料の適正価額を超えた過大な経費の支払か否かが問題となっているのであるから,適正価額を超えた分については,端的に過大な経費の支払として,所得税法37条1項により否認すべきとも考えられる。

 

  しかしながら,所得税法157条は,前示のとおり同族会社と関係者との間においてなされた取引等の行為又は計算が,関係者の所得税の負担を不当に減少させるものと認められる場合,当該取引等の行為又は計算を正常なそれに置き換えて,所得税額を算定し,租税負担の公平を図る規定であって,単なる必要経費計算の通則的規定にすぎない所得税法37条1項とは,その趣旨や適用要件を異にするものであるから,必要経費が過大であるとして否認する場合においても,それが所得税法157条所定の要件を充足する場合には,その適用を否定すべき理由は何ら存在しない。すなわち,前示のとおり,本件のような関係者が同族会社に対して経費を過大に支払う行為は,まさに所得税法157条の適用の対象の典型例なのであって,同条はかような同族会社と関係者の不合理・不自然な行為を否認することを想定して規定されたものということができる。かかる所得税法157条の趣旨からすれば,関係者の同族会社に対する過大な経費の支払を否認する場面においては,むしろ所得税法157条が同法37条1項に優先して適用すべきと解する余地がありこそすれ,反対に所得税法37条が必要経費に関する一般的規定だという理由のみで同条の適用を優先させ,同法157条の適用を全く認めないという解釈は説得力に欠けるものといわなければならない。

 

  さらに,原告は,所得税法157条は,納税者が選択した私法上の法形式を異常な法形式の選択として,租税法上はこれを無視するものであって,私的自治の原則,契約自由の原則を侵害するものであるから,例外的な場合に制限的に行使されるべきであるとして,これを所得税法37条1項が優先的に適用されるべき理由の一つとする。

 

  しかし,同条によって経費を否認する場合も,必要性及び通常性の観点から,納税者の選択した法形式を租税法上,無視するものであって,その効果においては所得税法157条と何ら異なることはないのだから,所得税法157条を同法37条と効果において比較し,所得税法157条の適用範囲を限定すべきとする原告の主張は失当というべきである。

 

  したがって,所得税法157条が同法37条1項の補充・補完的規定とする解釈はとりえず,原告の主張は採用できない。

 

 (エ)以上より,本件のように関係者から同族会社に対して支払われた過大経費を,その所定の要件を満たす限り所得税法157条によって否認することは,何ら所得税法の趣旨に反するものではないというべきである。

 

 

 

イ 本件支払手数料価額の適正性(原告の所得税の負担を不当に減少させるものか)

 

  上記のとおり,本件のように関係者から同族会社に対して支払われた手数料に所得税法157条の適用があるとして,本件においてその要件が認められるか否か,すなわち,本件支払手数料が過大であり,原告の所得税の負担を不当に減少させるものか否か,以下検討する。

 

 (ア)証拠(甲72,78,乙5,6の1,2,乙7,証人P6,同P2,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

 

 a エスフォーの業務状況

 (a)原告及びP2はエスフォーの社員であり,かつ原告は取締役,P2は代表取締役であった。平成5年当時,エスフォーにおいて稼働していた人員は,役員である原告及びP2,外部から雇用した2名,その他P2の父親にも手伝いに来てもらっており,合計5名で業務を処理していた。さらに,平成7年にはもう1名外部から雇用し,合計6名となった。

 

 (b)エスフォーは,原告の本業である司法書士事務所の所在地である広島市中区β4番14号と同一の場所に本店を置いていた。エスフォーの従業員は,原告と同一室にて机を並べて司法書士業務に付随する業務の処理に当たっていた。

 

 (c)顧客からの事件の依頼があった場合,まず,原告が,顧客より事情を聴取し,事件をどのように処理すべきか,事件の処理に当たってどのような申請が必要かを法的知識をもとに判断した。

  その後,原告は,エスフォーの従業員に対し,申請書等作成までに至る過程,すなわち,申請書等の作成に必要な資料の収集,事実関係の確認や調査及び添付書類の収集等を指示した上で,申請書等を起案させた。そして,起案された申請書等について原告が目を通し問題がなければ,必要なものについては印紙等を貼付した上で,その提出を指示した。

 

  原告も,特に複雑困難な事案については,自ら申請書等を作成するとともに,司法書士の資格を持っていなければできない業務,すなわち法的判断を要求される相談業務や取引等の立会業務については,自ら行っていた。P2は,申請書等の作成業務に携わることはなかったが,申請書等の書類の役所への提出及び回収業務のほか事件の管理,またエスフォーの金銭管理や帳簿書類等の記帳業務等の経理及び従業員の人事管理,その他庶務的業務に従事していた。

 

 

 

 

 b エスフォーの経理状況

 

 (a)原告は,エスフォーから本件支払手数料に係る請求書を受け取り,その時点で,支払をしない場合であっても,請求書に基づく請求額を毎月帳簿(総勘定元帳)の未払金勘定に計上せず,原告がエスフォーに現金を支払った時点で,現金出金の記帳と支払手数料を支払ったという記帳をしていた。そして,決算時(12月31日)においてのみ,その年分の期首と期末における原告のエスフォーに対する支払手数料の未払金を計算し,それを未払金勘定に計上していた。

 

 (b)エスフォーヘの支払については,予め決済日を決めて,当該決済日に支払をすることをせず,本件支払手数料の決済日は,原告が任意に決め,別表20のとおり不定期に支払を行っていた。

 

 (c)エスフォーは,本件支払手数料に関する請求書を数か月分まとめて発行するとともに,会計帳簿には,相手勘定を未収金として収入計上していた。

 

 (d)エスフォーは,原告に対し,受託業務に対する対価としての受取手数料を請求した時点では,未収金の受取手数料として記帳し,原告から現金を受け取った時点で未収金を減算するという会計処理をしていたが,エスフォーは,原告から未収金額を超える現金を受け取ることもあり,総勘定元帳の未収金勘定が期中にマイナスとなる期間があった。

 

 c 比準会社選定の経緯等

 (a)被告税務署長は,原告に対し,平成8年12月6日を始めに,平成9年3月上旬までの間に,原告及びエスフォーの事務所に赴いたり,原告の関与税理士であったP7に事情聴取をするなどして税務調査を実施した。その結果,前記争いのない事実のとおりエスフォーが法人税法に規定される同族会社であること,上記a及びbの各事実が判明した。

 

 (b)被告税務署長は,上記のとおり原告に対する税務調査の結果判明した事実を踏まえ,原告が本件支払手数料の額を自由に設定し得るものと考え,本件支払手数料の価額が通常の取引に比べ著しく高額か否か検討する必要があると認めた。

  そこで,被告税務署長は,いわゆる人件費倍率比準法を用いて,エスフォーと業種,業態の類似する業務につき労働者を派遣し,業務に従事させている労働者派遣会社の人件費倍率をエスフォーのそれと比較することとした。

 

 (c)人件費倍率比準法によって,エスフォーに支払われた本件支払手数料を比較する場合において,比準会社は,エスフォーと業種,業態,事業規模等が類似する同業者であり,しかも,原告とエスフォーとの取引と同様の条件の下で,その業務を受託している業者が望ましかったが,調査の結果,そのような同業者を把握することができなかった。そこで,被告税務署長は,エスフォーの定款による業務内容(法務局等への申請書類の作成,申請書類に添付する書類のタイプ印書,謄写,印刷等の業務)に着目し,エスフォーが原告の事務所において原告からの委託業務を処理している事業形態が,派遣元が雇用する労働者を,派遣先の指揮命令を受けて,派遣先のために労働に従事させることを業として行う労働者派遣業に類似するものであるものであって,原告とエスフォーとの間の業務委託契約は労働者派遣契約に類似するものであると考え,比準会社に労働者派遣会社を選定することとした。

 

 (d)被告税務署長は,比準会社を抽出するに当たり,原告の納税地(事務所所在地)である広島市内で労働者派遣業を営んでいる法人事業者のうちから,以下の条件を付けて,比準会社を抽出した。

 

① 本件各係争年度を通じて,労働者派遣業を営んでおり,その年度の中途において開廃業,休業又は業態の変更をしていない者

② 事業内容は,オフィス業務に係る労働者派遣を主体にし,一括請負により役務を提供していない者

③ 本件各係争年分を通じて,青色申告につき税務署長の承認を受けている法人

④ 更正又は決定の各処分を受けた者にあっては,国税通則法若しくは行政事件訴訟法の規定による不服申立期間若しくは出訴期間が経過している者又はこれらの訴訟が係属していない者

⑤ 労働者派遣先が複数ある者

 

  なお,上記①及び②の条件を付したのは,エスフォーの業務が,オフィス業務に係る労働者派遣業と同様の業務をしており,エスフォーと業務を同じくする会社の抽出を目的としていたからであり,年度の中途において開廃業,休業又は業態の変更をした者を除いたのは,一定期間同種事業を継続した状態で得られた資料でなければ収支の実績が確実であるとはいえないからであり,一括請負により役務を提供している者を除いたのは,一括請負の場合,支払基準が明確ではないとの理由からであった。

 

  上記③の条件を付したのは,青色申告者は大蔵省令で継続的な記帳と,その記帳に基づく帳簿書類の保存が義務付けられており,そこから得られる資料は一応正確なものであると考えられるとの理由からであった。

  上記④の条件を付したのは,これら以外の者は,所得金額に争いがあり,所得が確定していないとの理由からであった。

  上記⑤の条件を付したのは,特定の取引先のみと取引している者は,その利益率が一般の労働者派遣会社と相違する場合があるとの理由からであった。

  被告税務署長が,比準会社の抽出に当たり,具体的にとった方法は,次のとおりであった。

  すなわち,広島市内の電話帳のタウンページの労働者派遣業欄から,労働者派遣業者を全件抽出し,その名称,広告欄等から上記①ないし⑤の抽出条件に該当しない業者を除外した。次に,除外後の業者について,実地に臨場するか,電話,文書等の照会により,派遣の業務内容等を確認し,上記①ないし⑤の抽出条件に適合する業者を選定した。

 

  その結果,抽出条件に該当する業者は7社であった。

 

  選定した上記7社につき,さらに実地に臨場するなどして,それら7社の人件費の価額と収入金額の額を把握した。

 

 d 本件支払手数料否認の経緯

  第2の2(1)(被告らの主張)(ア)のとおりである。

 (イ)同族会社の行為又は計算を否認する際の適正価額の算定方法

  前示のとおり,同族会社と関係者との間の行為又は計算が「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かは,同族会社以外の独立かつ対等の関係に立つ会社との間における通常の経済活動と比較して考えた場合,不合理または不自然であるか否かの点において判断すべきである。したがって,上記,通常か否かは,非同族会社との間においての行為又は計算と比較して初めて明らかになるものであるから,関係者及び同族会社間の内部的な資料をいくら検討しようと,それだけでは対外的に,一般的な客観性や相当性は検証しようがない。

 

  そうすると,被告税務署長が,本件支払手数料が適正価額か否かを判断する際に用いた,エスフォーの人件費倍率を,類似業種の比準会社のそれとを比較する方法(人件費倍率比準法)は,所得税法157条の適用に当たり,同族会社と関係者との間の行為又は計算の適正価額を判断する方法としては合理的な手段であったというべきである。

 

  以上の説示に照らせば,被告税務署長が内部的資料を調査せず,同業会社の比準法によったのは,所得税法157条の適用上,当然の措置であったというべきである。

  これに対して,原告は,まず,原告の帳簿類を調査し,原告の委託手数料算定根拠の合理性について検討すべきであったと主張する。

 

  確かに,本件支払手数料の実質は,原告の受任業務処理に当たって発生する必要経費の原告個人から法人への付け替えであり,必要経費という点に着目すれば,原告の帳簿を調査した上で,その主張する算定根拠の合理性を検討すべきであり,そうであれば所得税法157条ではなく同所得税法37条1項による否認を検討すべきであったとも思われる。

 

  しかしながら,上記必要経費が,エスフォーに対する委託手数料という法形式で原告から支払われており,それに対して,被告税務署長が所得税法157条を適用しようとする以上,内部的な資料のみに基づいて合理性を判断できないのは,上記のとおり所得税法157条の趣旨に照らしやむを得ない結果といわざるを得ないし,本件において必ずしも所得税法37条1項が優先的に適用されるべきものではないことは前示のとおりである。さらに,受任業務の処理に当たり生じる費用を,その実態に反して,エスフォーに対する委託手数料の支払という法形式に置き換えたのは原告自身なのであって,被告税務署長において本件支払手数料の趣旨を斟酌して,所得税法157条の適用の可否を判断しなければならないということはできない。

 

  以上より,予め原告の算定根拠の合理性について検討する必要性はなかったというべきで,原告の主張は採用できない。

 

 

 (ウ)本件人件費倍率比準法の合理性

  人件費倍率比準法によって,同族会社と関係者との間の行為又は計算の適正価額を判断する際に,選定すべき比準会社は,業種,業態,事業規模,その他取引条件が,当該同族会社と類似し,また計算の基礎とすべき資料が正確であることは,当該方法による検討結果の信用性,合理性を担保するために必要であることはいうまでもない。特に,比準会社の選定については,当該同族会社との類似性が高ければ高いほど,その検討結果の信用性,合理性も高まることとなる。

 

  しかしながら,当該同族会社と全く同一ないし類似性が高い同業者が常に存在するとは限らず,そのような同業者が把握できない限り,常に比準すべき同業者が存在しないとして,所得税法157条の適用ができないとするのは,租税負担の公平,適正さの観点から妥当とはいえない。

  かかる場合には,税務署長は,できるだけ類似性が高い同業者を把握するように努めるべきであろうし,それが不可能な場合には,比準法以外の適正価額の算定方法についても検討すべきである。もっとも,比準会社の選定に固執して,当該同族会社と経済的,取引的観点から,一般通念上,類似性を肯定することができないような業者を比準会社として選定し,これを用いて人件費倍率比準法を適用することは許されないことはいうまでもない。

 

  本件において,原告からエスフォーに,法的判断を伴う業務以外の申請書の作成,参考資料及び申請書添付書類の収集,検討などの関連業務が委託されており,エスフォーの従業員は,その業務の処理に当たっていたこと,被告税務署長が,上記のような業務を司法書士から受託している業者を調査したが,そのような業者は把握できなかったことは前記のとおりである。

 

  以上のような経緯により,被告税務署長は類似同業者として,主としてオフィス業務に係る労働者を派遣する労働者派遣会社を比準会社として選定したものであるが,前記認定のとおり,原告から受託したエスフォーの業務の核心的部分は,申請書類等の作成業務にあると考えられ(物理的には,申請書類の提出,回収や添付書類の収集業務も一定程度の時間を要すると考えられるが,委託の趣旨からみて,それがエスフォーの受託業務の核心部分と考えることはできない。),それと被告税務署長が比準会社として選定した労働者派遣会社の受託業務であるオフィス業務は,オフィスワーク(基本的には机に座って,調べものをしたり,パソコンで書式を打ったりしたりする頭脳労働)である点では共通であり,経済的,取引的観点からみて,一般通念上,両者の業務に類似性がないとはいえない。

 

  原告は,ことさらエスフォーの受託業務の専門性を強調するが,人材派遣業の特徴からみて,派遣労働者においてはオフィス業務一般に関する専門的知識・技術(パソコン等OA器機の操作に関する知識・技術,ファイリング,経理等の一般事務に関する知識・技術)を有しているのが通常であって,エスフォーの受託業務との差異は,登記手続等に関する法的知識・技術であるか,それ以外の知識・技術であるかにすぎず,両者に比準会社の選定上考慮しなければならないほどの格段の差異があるとは考えられない。両者の業務について要求される専門性の差異は,結局,人件費倍率の中に捨象される程度のものというべきである。

 

  よって,エスフォーの受託業務の専門性を理由に,比準会社の選定の誤りをいう原告の主張は採用できないというべきである。そして,前記認定の比準会社選定の経緯及び証人P6の証言によれば,比準会社の選定は恣意的になされたものではなかったことが認められ,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

 

  以上より,被告税務署長による比準会社の選定には誤りがあるということはできないというべきである。

 

  また,原告は,原告及びP2の役員報酬を含めないで,エスフォーの従業員の給与賃金の合計額のみに,人件費倍率を乗じて,支払手数料を算出した被告税務署長の計算方法は合理性を欠くと主張する。

 

  そこで,まず原告の役員報酬を人件費倍率を乗ずべきエスフォーの給与賃金の額に含めるべきか否か検討するに,原告が行っていた業務については,本来原告がなすべき業務であって,エスフォーへの業務委託がなされなかったとみるべきであり,また,そうしなければならないというべきである。けだし,前記のとおり,原告が担当していたのは高度な法的知識が必要とされる業務ないし法的判断を伴う業務であって,他の従業員と全く同じ業務に従事していたわけではない。このことは,原告の報酬が他の従業員に比べて著しく高額なことからも理解され得る(原告の主張によれば,原告のエスフォーにおける役員報酬決定に際し,年齢,経験,資格,役員としての責任を考慮し,補助者であるP8に比し,300万円程度上積みされており,そのうち年齢,経験,資格による上積み部分が全体の6割以上にのぼる。)。すなわち,原告が実際に担当していた業務は,そもそもエスフォーへ委託し得ない司法書士固有の業務がほとんどであって,それ故,上記のとおり原告自らが自認するように,同人に対しては高額な報酬が支払われていたのである。したがって,原告が担当していた業務については最初からエスフォーの委託業務にもなっていなかったとみるべきである。

 

  そうすると,原告の役員報酬の算入を認めた場合,実質的に存在していない業務について対価を生じさせることとなり,エスフォーによって純粋になされた委託業務,すなわち原告以外の他の従業員によってなされた部分についてまで,原告分の本来エスフォーの業務の遂行に対する対価とは釣り合わない高額な報酬を生産原価としてみなければならなくなる不合理な結果となる。

 

  したがって,原告の役員報酬を人件費倍率を乗ずべきエスフォーの給与賃金の額に含めることはできないというべきである。

 

  次いで,P2の役員報酬を人件費倍率を乗ずべきエスフォーの給与賃金の額に含めるべきか否か検討するに,前記のとおり,P2が担当していた業務は,申請書等の書類の役所への提出及び回収業務,事件の管理,またエスフォーの金銭管理や帳簿書類等の記帳業務等の経理及び従業員の人事管理,その他庶務的業務であったところ,申請書等の書類の役所への提出及び回収業務のほかは直接には委託業務処理のものではなく,これらの事情に照らしてみれば,P2は直接委託業務の処理に当たっていた者というよりは,むしろ委託業務について直接処理にあたる他の従業員の下支え的存在であったと認められる。

 

  上記P2のように内部的事務を主として担当する者の人件費は,比準会社における派遣労働者の人件費と同一視することはできず,人件費倍率比準法における人件費倍率は,労働者派遣会社の派遣先からの収入金額の派遣労働者の給与賃金額に対する倍率によって計算されているものであるから,内部的事務に従事する者の人件費は,人件費倍率比準法の計算上,計算の基礎とすべき「人件費」には予定されていないというべきで,むしろ,本件人件費倍率比準法にいう「人件費」以外の費用に入れるべき性質の費用であるというべきである。

 

  したがって,P2の役員報酬を人件費倍率を乗ずべきエスフォーの給与賃金の額に含めることはできないというべきである。

 

  以上より,原告及びP2の役員報酬を含めず,エスフォーの従業員の給与賃金の合計額のみに,人件費倍率を乗じて,支払手数料を算出した被告税務署長の計算方法は合理性を欠くものとはいえず,これを欠くとする原告の主張は採用できない。

 

 

 

 (エ)委託料率6割算定根拠の合理性

  前示のとおり,本件各処分は所得税法157条に基づいた否認処分であるから,原告の内部的資料に基づいて本件支払手数料の適正さを検討する余地はなく,その算定根拠の合理性をもって,所得税法157条の「所得税の負担を不当に減少」させる要件を欠くとする原告の主張は失当である。

 

 

 (オ)結論

  以上によれば,原告の主張はいずれも採用できず,被告ら主張のとおり,所得税法157条の適用上は,本件支払手数料は過大であり,原告の所得税の負担を不当に減少させるものといわざるを得ない。

 

 

ウ 二重課税の問題について

 原告は,本件支払手数料を所得税法157条により否認することは,原告の所得税とエスフォーの法人税の二重課税を招き,さらには原資が否定されたエスフォーからの給与所得(P2の給与所得を含む)と事業所得との二重課税を招くことにもなり,所得のないところに課税をするものであって,違法である旨主張する。

 

  そこで,検討するに,前示のとおり,所得税法157条は,同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため,当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑み,税負担の公平を維持するため,そのような行為や計算が行われた場合にそれを通常の行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。したがって,同条は,税負担の公平を図るのがその目的であって,租税負担を回避しようとした者に対して,通常以上の税を負担させるといったような制裁的な目的はない。

 

  しかしながら,租税法上個人と法人では,適用される法律が異なり,それぞれが別個の課税主体として規定されていること,所得税法157条の文理上,「不当に減少させる結果」となるかどうかを問題としているのは,関係者の所得税だけであることから,同条の適用に当たっては関係者と同族会社を通じた総合的税負担の減少を考慮する必要はなく,個人たる所得税の課税主体を単位とした税負担の減少の結果を考えれば足りるものと解される。

 

  また,原告の事業所得と給与所得(P2の給与所得も含む)の関係についても,仮に原告がエスフォーに支払った本件支払手数料が,エスフォーが原告及びP2に支払った給与(役員報酬)の原資に充てられていたという関係にあったとしても,それは事実上の関係にすぎないのであって,原告の事業所得とはあくまで法的発生根拠を異にするものであるし,また,所得税法157条は,同族会社と関係者との間の行為又は計算を通常の行為に置き換えて,所得税の計算を行うだけのことであり,同条による否認の対象となった行為又は計算の私法上の効力を何ら否定するものではない。さらに,P2については,そもそも原告とは,所得税法上別個の課税主体でもある。以上のことからすれば,本件支払手数料につき所得税法157条を適用するに当たり,原告及びP2の給与所得(役員報酬)を斟酌する必要はないというべきである。

 

  以上より,本件支払手数料に所得税法157条を適用するに当たり,エスフォーの法人税や原告及びP2の給与所得を斟酌する必要はなく,原告の主張は採用できない。

 

エ 以上によれば,本件支払手数料を所得税法157条により否認した被告税務署長の処分は適法であったと認められる。

 

 (2)支払手数料以外の必要経費の否認について

 

 ア 必要経費の意義,範囲

  所得税法37条1項によれば,事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は,「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とされているところ,同規定からも明らかなとおり,ある支出が必要経費として控除されるためには,それが事業活動と直接の関連性を有し,事業の遂行上必要な費用でなければならない。そして,必要経費を収入金額から控除して,投下資本の回収に該当する部分については課税しないという法の趣旨からすれば,利益の実現した部分と投下資本の回収部分とは明確に区別されなければならないのであって,前記必要性及び関連性の判断は,関係者の主観的判断を基準とするものではなく,客観的になされなければならないことはいうまでもない。

 

  原告は,販売費や一般管理費のように特定の収入に結びつけて考えることのできない費用があり,それらについては直接的な関連性は要求されないと主張する。

 

  確かに,販売費や一般管理費など一般対応の費用は,その支出の性質上,特定の収入に対応させて考えることはできず,直接性の要件は不要とも思われる。

 

  しかし,上記のとおり,必要経費において,直接的な関連性が要求されるのは業務に対してであって,常に特定の収入に関連性が要求されるわけではない。上記のような必要経費控除の趣旨からすれば,販売費や一般管理費のような一般対応の費用についてだけ,業務との関連性を緩和し,単に業務と関連ないし付随した支出を必要経費として認め,これを控除の対象とするのは相当ではなく,所得税法37条1項の「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」にいう「業務について」とは,直接に関連しての意味に限定して解するのが相当である。

 

  したがって,販売費や一般管理費のような一般対応の費用には,直接関連性の要件が不要であるとの原告の主張は採用できない。

 

  以上の観点に従って,本件各係争年分の所得税の事業所得の金額の計算上,原告が必要経費として計上した支出が必要経費として控除の対象となるか否か検討することとする。

 

 

イ 接待交際費

 (ア)必要経費に算入すべき接待交際費の範囲

  接待交際費(以下,この項においては「交際費」という。)とは,得意先,仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待,供応,慰安,贈答その他これらに類する行為のため支出するものをいう(租税特別措置法(以下「租特法」という。)61条の4第3項参照)。

  ところで,交際費は,その支出の性質上,前記販売費,一般管理費と同じように一般対応的な支出であって,特定の収入と関連づけて考えることができないほか,個人的な支出の色彩をも持つものであって,そのような個人的支出の部分と事業と関連する部分とを厳密に区別するのは困難な性格を有するものである。

  したがって,法人税上は,資本金等の額が一定金額(5000万円)を越える法人については,交際費の損金算入を一切認めず,資本金等がそれ以下の法人についてのみ2段階の定額の範囲内で損金算入を認めているに過ぎないのである(租特法61条の4第1項)。

  所得税については,上記のような規定は存しないものの,それだからといって,所得税法上,交際費の必要経費算入を無限定に許容しているとは到底解されず,原則どおり,これを所得税法上の必要経費として控除するには,事業活動と直接の関連性を有し,事業の遂行上必要な費用であることが客観的に認められなければならないというべきである。すなわち,上記のとおり交際費は個人的な支出の性格をも持つものであるから,家事費ないし家事関連費(所得税法45条1項1号)の性格も持つものということができるところ,個人的な支出である家事費は勿論のこと,家事関連費においても,その支出の主たる部分が業務遂行上必要であって,かつその必要な部分が明らかにできる場合に限り,必要経費として控除が認められているにすぎない(所得税法施行令96条1項)のであるから,このことからも,所得税法上,交際費は業務との直接の関連性を要求されていると理解すべきである。

 

 (イ)本件各係争年分の接待交際費の必要経費算入の可否

  被告税務署長が否認した本件各係争年分の接待交際費につき,原告は,別表7「接待交際費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「摘要」欄記載の相手方に支出したことについては当事者間に争いがない。

  上記各支出における接待の目的及び相手方について,原告は別表17ないし19の「目的及び相手」欄記載の目的及び相手方に接待をしたと主張し,原告本人もその主張に副う供述をする。

  しかしながら,その供述は,費用支出の事実を明らかにするために提出されている領収書(甲1,乙13の1ないし乙16の1)や,原告が税務調査の際,被告税務署長より,接待の目的及び相手方を明らかにするよう求められて作成した書面(乙12)の記載と一部矛盾する部分があり,また,その供述を裏付けるような客観的証拠もほとんど存在せず,これをたやすく信用することはできないというべきであり,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

  したがって,被告税務署長の否認に係る本件各係争年分の接待交際費の支出における接待の目的及び相手方については明らかにされていないというべきであるが,その点を置くとしても,原告が主張する接待の目的及び相手方は,大別すると,①実際の取引とは直接関係のない者に対し,将来の受注ないし顧客の紹介を期待してのもの,②同業者等の情報交換の場を設定するためのものになるところ,これらいずれもが,その目的及び相手方に照らし,原告の業務遂行に直接関係を有し,必要な支出と認めることはできないものであるか又は一部そのような関連性,必要性を具備するものであっても,主たる部分において関連性,必要性を有し,かつその部分が明らかであるとはいえない。

  したがって,いずれにせよ,被告税務署長の否認に係る本件各係争年分の接待交際費は,必要経費として控除することはできないというべきである。

 

 (ウ)損害保険料

  被告税務署長が否認した本件各係争年分の損害保険料につき,原告は,別表8「損害保険料否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払保険会社」又は「支払保険会社等」欄記載の相手方に支出したこと,および前記支出のうち,「千代田火災海上保険」に対し,平成5年5月24日及び平成6年5月27日にそれぞれ支出した1万0090円ついてゴルファー保険であったことは当事者間に争いがない。

  原告は,上記ゴルファー保険の保険料支払につき,保険の前提となるゴルフは原告の事業遂行上必要な接待行為であり,保険の加入とそれに伴う保険料の支払は,上記接待行為と密接不可分の関係にあるから必要経費となると主張する。

  しかしながら,前提となるゴルフ接待行為が,原告の事業遂行に直接関連があり必要な接待であると認めるに足りる証拠はなく,したがって,ゴルファー保険による保険料を必要経費と認めることはできない。

  なお,他の被告税務署長の否認に係る損害保険料について,原告は必要経費該当性を特に争わない。

 

エ 利子割引料

  被告税務署長が否認した本件各係争年分の利子割引料について,原告は必要経費該当性を特に争わない。

 

オ 組合費

  被告税務署長が否認した本件各係争年分の組合費につき,原告は,別表10「組合費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払先」欄記載の相手方に支出したことについては当事者間に争いがない。

  原告は,上記組合費の支払につき,原告のような司法書士業を営んでいくためには,人的繋がりを構築していき,顧客を開拓していくことが必要であり,そのために,前表「支払先」欄記戴の各団体に加入し,会費を支払ってきたものであり,これは広告宣伝費的な性格を持つものであるし,法人税上も組合費等の会費は必要経費として認められていることとの均衡からも,これを必要経費として認めるべきであると主張し,甲第78号証(原告本人の陳述書)には,それに副う記載がある。

 

  確かに,司法書士の業務が原告主張のような性格を有することは理解できないではないものの,上記甲第78号証のみでは,未だ組合加入が原告の業務遂行に直接関連があり必要なものであったのか認めるに足らず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 

  また,法人税基本通達第9章第7節第3款「会費及び入会金等の費用」(原告の主張する「法人税基本通達第9章第3款『会費及び入会金等の費用』」は,この部分を指すものと思われる。)においても,会費故に無限定に損金算入を認める扱いはされておらず(多くは,交際費ないし給与として処理されている。),上記のように業務との関連性,必要性が認められない組合費等の会費を必要経費として認める根拠にはならない。

 

カ 雑費

  被告税務署長が否認した本件各係争年分の雑費につき,原告は,別表11「雑費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払内容」欄記載の目的,相手方等に支出したことについては当事者間に争いがない。

  原告は,上記各支払のうち,平成5年1月11日分,各11月19日分,平成6年11月18日分,平成7年1月31日分,11月20日分の神社への祈祷料等の支払や熊手の購入費用については,司法書士としての「商売繁盛,売上向上」や従業員の交通安全を目的としたもので,原告の事業遂行上必要な経費であると主張するが,これらは宗教的色彩を強く持つ行為であって,原告の業務との関連性,必要性を欠くことは明らかである。

  よって,原告の上記主張は採用できない。

 

  また,原告は,平成7年1月25日支出の義援金送金費用721円については,送金される特定寄付金の送料であるから,支払手数料として必要経費に算入されるべきであると主張するが,寄付金は事業との関連性及び必要性とはかかわりなく控除の対象になるのであるから,それに付随する送金費用が必要経費に該当するとはいえないというべきである。

  よって,上記原告の主張は採用できない。

 

  なお,平成7年12月31日支出の義援金1万円,10万円については,後記のとおり、特定寄付金として総所得金額から控除されており(原告も,この点は争わない。),この支出の必要経費該当性を,原告は特に争わない。

 

キ 消耗品費

  被告税務署長が否認した平成6年分,平成7年分の消耗品費につき,原告は,別表12「消耗品費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払内容」欄記載の目的で支出したことについては当事者間に争いがない。

  上記各支出も,カ同様熊手の購入費用であり,これが必要経費と認められないことは前記説示のとおりである。

  よって,上記各支出を必要経費に算入すべきとする原告の主張は採用できない。

 

ケ 福利厚生費

 (ア)被告税務署長が否認した平成5年分,平成6年分の福利厚生費につき,原告は,別表13「福利厚生費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払内容」欄記載の目的で支出したことについては当事者間に争いがない。

 

 (イ)飲食費用について

 上記各支出のうち,支払内容が「飲食」であるものについて,原告は,取引先の従業員への差し入れなどであり,接待交際費として計上すべきであったものと主張する。

  しかしながら,前示のとおり,接待交際費であっても,業務との直接関連性,必要性が要求されるところ,上記各支出が,原告の業務と直接に関連を有し,必要な費用であると認めるに足りる証拠はなく,これらの支出を必要経費と認めることはできず,原告の主張は採用できない。

 

 (ウ)検診費用について

 証拠(甲6の4,甲78,原告本人)によれば,上記各支出のうち,平成5年9月28日支出の検診費用2万7627円は,原告が,エスフォーの従業員らの検診費用を司法書士会に支払ったものであること,前記検診費用支払当時,原告が検診費用を支払ったエスフォーの従業員は,同時に,原告の補助者として司法書士会に登録していたことが認められる。

 

  上記事実によれば,確かに,エスフォーの従業員らは,原告の補助者でもあったのだから,原告との間には,雇用契約類似の指揮命令関係があるといえ,そうであれば,原告は,上記エスフォーの従業員を自己の補助者として使用するにつき,その安全に配慮すべき義務があるというべきではあるものの,同時に,原告が検診費用を負担した者は,エスフォーの従業員でもあって,前記認定のエスフォーの事務処理状況に照らせば,その活動のほとんどは,司法書士としての原告の補助者の活動というより,エスフォーの受託業務の処理にあてられていたと認められることから,健康検診を実施し,その費用を負担することはエスフォーの法的義務であるというべきであり,原告においてはそのような義務までは認められないというべきである。

 

  したがって,原告がエスフォーの従業員の検診費用を負担することは,畢意,贈与に過ぎないものというべく,原告の業務遂行上,直接に関連を有し,必要な費用であるとは認めることはできない。

  したがって,上記検診費用は必要経費に算入されるべきとする原告の主張は採用できない。

 

コ 旅費交通費

 (ア)被告税務署長が否認した平成6年分,平成7年分の旅費交通費につき,原告は,別表14「旅費交通費否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,「支払内容」欄記載の目的,相手方に支出したことについては当事者間に争いがない。

 (イ)平成6年分について

 被告税務署長が否認した平成6年分の旅費交通費について,原告は必要経費該当性を特に争わない。

 (ウ)平成7年分

  原告は,平成7年分の各支出は,原告が顧客の依頼に基づき継続して行ってきたコンサルタント事業に関するものであると主張,供述し,甲第78号証にもそれに副う記載があるが,本件証拠上,前記各支出が具体的にどのような業務について支出されたものなのか明らかではなく,したがって,原告の業務との直接関連性,必要性があるか否か明らかであるとは言い難い。

  よって,平成7年分の各支出を必要経費と認めることはできず,原告の主張は採用できない。

 

オ ガソリン代

  被告税務署長が否認した平成7年分のガソリン代につき,原告は,別表15「ガソリン代否認額の内訳表」の当該年度における「支払月日」欄記載の月日に,「金額」欄記載の金額を,ガソリン代として支出したことについては当事者間に争いがない。

  ガソリン代についても,原告は平成7年分の旅費交通費と同じく,原告の継続的事業に関するものであると主張するが,これが必要経費と認められないのは,前記平成7年分の旅費交通費の場合と同様である。

 

 

 

 

 

 (3)本件各更正処分の適法性

ア 平成5年分更正処分

 (ア)事業所得の金額

 a 収入金額

  平成5年分所得税の事業所得における収入金額は5793万9973円(原告の確定申告による額,別表2①)であることにつき,当事者間に争いがない。

 

 b 必要経費等

  原告が,平成5年分所得税の事業所得における収入金額から控除すべき必要経費等として計上するものは,別表2②ないし●(原告の確定申告による。合計額5171万4351円(別表2●))のとおりであり,これに対して,被告税務署長が否認した費目及びその額については,別表2「否認額」欄各記載のとおりである。

  別表2「否認額」欄に0と記載の費目については,原告の確定申告額によることにつき当事者間に争いがない。また,原告は,前記のとおり,利子割引料の否認分については,必要経費該当性を特に争わない。

  そして,上記否認金額については,前記認定説示のとおり,これを全て是認すべきものであるから,原告の平成5年分所得税の事業所得における必要経費等の合計額は,上記原告の確定申告上の額である5171万4351円から否認金額の合計1518万0314円を控除した3653万4037円と認められる。

 c よって,原告の平成5年分の所得税の事業所得の金額は,上記a(収入金額)5793万9973円から上記b(必要経費等)3653万4037円を控除した2140万5936円であると認められる。

 (イ)その他の所得の金額

  原告の平成5年分所得税の事業所得以外の所得の金額については,次のとおりで争いがない(別表1②,③参照)。

 a 不動産所得の金額        -32万1458円

 b 給与所得の金額         646万5000円

 (ウ)総所得金額

  原告の平成5年分所得税の総所得金額は,上記(ア)(事業所得の金額)及び(イ)(不動産所得の金額,給与所得の金額)の合計である2754万9478円となる。

 (エ)所得控除の合計額

  原告の平成5年分の所得税の所得控除の額は,次のとおりで争いがない(別表1⑤ないし⑧参照)。

 a 社会保険料等控除         84万1600円

 b 生命保険,損害保険料,寄付金控除 10万3000円

 c 扶養控除             70万0000円

 d 基礎控除             35万0000円

 e 合計              199万4600円

 (オ)課税総所得金額

  原告の平成5年分所得税の課税総所得金額は,上記(ウ)(総所得金額)2754万9478円から上記(エ)(所得控除の合計額)199万4600円を控除した(ただし,国税通則法118条により1000円未満の端数は切捨)額である2555万4000円となる。

 (キ)課税総所得金額に対する税額

  原告の平成5年分所得税の課税総所得金額に対する税額は,上記(オ)の額に所得税法(ただし平成6年法律第109号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を乗じた額である887万7000円となる。

 (ク)税額控除の合計額

  原告の平成5年分の所得税の税額控除の額は,次のとおりである。

 a 住宅取得等特別控除              0円

  原告は,確定申告において住宅取得等特別控除として26万9700円を計上したのに対し,被告税務署長は更正処分において,これを全額否認したが(別表1⑫),この点につき,原告は特に争わない。

 b 源泉徴収にかかる所得税の額   181万2848円

  上記金額であることにつき,当事者間に争いがない(別表1⑭参照)。

 C 合計              181万2848円

 (ケ)納付すべき税額(申告納税額)

  原告が納税すべき平成5年分所得税の税額は,上記(キ)(課税総所得金額に対する税額)から(ク)(税額控除の合計額)を控除した(ただし,国税通則法119条により100円未満の端数は切捨)額である706万4100円となる。

 (コ)以上によれば,原告が納税すべき平成5年分所得税の税額は,706万4100円であるところ,これは,本件平成5年分更正処分による額と同額であるから,本件平成5年分更正処分は適法である。

 

 

イ 平成6年分更正処分

 (ア)事業所得の金額

 a 収入金額

  平成6年分所得税の事業所得における収入金額は5411万4956円(原告の確定申告による額,別表2①)であることにつき,当事者間に争いがない。

 b 必要経費等

  原告が,平成6年分所得税の事業所得における収入金額から控除すべき必要経費等として計上するものは,別表2②ないし●(原告の確定申告による。合計額5022万8016円(別表2●))のとおりであり,これに対して,被告税務署長が否認した費目及びその額については,別表2「否認額」欄各記載のとおりである(ただし,利子割引料の否認額について被告らは11万3518円と主張するが,甲38によれば,11万3152円と認められる。)。

  別表2「否認額」欄に0と記載の費目については,原告の確定申告額によることにつき当事者間に争いがない。また,原告は,前記のとおり,租税公課及び利子割引料の否認分については,必要経費該当性を特に争わない。

  そして,上記否認金額については,前記認定説示のとおり,これを全て是認すべきものであるから,原告の平成6年分所得税の事業所得における必要経費等の合計額は,上記原告の確定申告上の額である5022万8016円から否認金額の合計1598万3423円を控除した3424万4593円と認められる。

 c よって,原告の平成6年分の所得税の事業所得の金額は,上記a(収入金額)5411万4956円から上記b(必要経費等)3424万4593円を控除した1987万0363円であると認められる。

 (イ)その他の所得の金額

  原告の平成6年分所得税の事業所得以外の所得の金額については,次のとおりで争いがない(別表1②,③参照)。

 a 不動産所得の金額        -25万3708円

 b 給与所得の金額         646万5000円

 (ウ)総所得金額

  原告の平成6年分所得税の総所得金額は,上記(ア)(事業所得の金額)及び(イ)(不動産所得の金額,給与所得の金額)の合計である2608万1655円となる。

 (エ)所得控除の合計額

  原告の平成6年分の所得税の所得控除の額は,次のとおりで争いがない(別表1⑤ないし⑧参照)。

 a 社会保険料等控除         86万9400円

 b 生命保険,損害保険料,寄付金控除 10万3000円

 c 扶養控除             70万0000円

 d 基礎控除             35万0000円

 e 合計              202万2400円

 (オ)課税総所得金額

  原告の平成6年分所得税の課税総所得金額は,上記(ウ)(総所得金額)2608万1655円から上記(エ)(所得控除の合計額)202万2400円を控除した(ただし,国税通則法118条により1000円未満の端数は切捨)額である2405万9000円となる。

 (キ)課税総所得金額に対する税額

  原告の平成6年分所得税の課税総所得金額に対する税額は,上記(オ)の額に所得税法(ただし平成6年法律第109号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を乗じた額である812万9500円となる。

 (ク)税額控除の合計額

  原告の平成6年分の所得税の税額控除の額は,次のとおりである。

 a 住宅取得等特別控除              0円

  原告は,確定申告において住宅取得等特別控除として26万9700円を計上したのに対し,被告税務署長は更正処分において,これを全額否認したが(別表1⑫),この点につき,原告は特に争わない。

 c 特別減税額           162万5900円

  原告は,確定申告において住宅取得等特別控除として25万0560円を計上したのに対し,被告税務署長は更正処分において,これを162万5900円としたが(別表1⑬),この点につき,原告は特に争わない。

 d 源泉徴収にかかる所得税の額   127万5220円

  上記金額であることにつき,当事者間に争いがない(別表1⑭参照)。

 c 合計              290万1120円

 (ケ)納付すべき税額(申告納税額)

  原告が納税すべき平成6年分所得税の税額は,

 上記(キ)(課税総所得金額に対する税額)から(ク)(税額控除の合計額)を控除した(ただし,国税通則法119条により100円未満の端数は切捨)額である522万8300円となる。

 (コ)以上によれば,原告が納税すべき平成6年分所得税の税額は,522万8300円であるところ,これは,本件平成6年分更正処分による額と同額であるから,本件平成6年分更正処分は適法である。

 

 

ウ 平成7年分更正処分

 (ア)事業所得の金額

 a 収入金額

  平成7年分所得税の事業所得における収入金額は7359万5170円(原告の確定申告による額,別表2①)であることにつき,当事者間に争いがない。

 b 必要経費等

  原告が,平成7年分所得税の事業所得における収入金額から控除すべき必要経費等として計上するものは,別表2②ないし●(原告の確定申告による。合計額6415万0510円(別表2●))のとおりであり,これに対して,被告税務署長が否認した費目及びその額については,別表2「否認額」欄各記載のとおりである(ただし,被告税務署長による接待交際費の否認額について被告らは166万8940円と主張するが,甲39によれば,166万8939円と認められる。)。

  別表2「否認額」欄に0と記載の費目については,原告の確定申告額によることにつき当事者間に争いがない。また,原告は,前記のとおり,利子割引料の否認分については,必要経費該当性を特に争わない。

  そして,上記否認金額については,前記認定説示のとおり,これを全て是認すべきものであるから,原告の平成7年分所得税の事業所得における必要経費等の合計額は,上記原告の確定申告上の額である6415万0510円から否認金額の合計2517万4798円を控除した3897万5712円と認められる。

 c よって,原告の平成7年分の所得税の事業所得の金額は,上記a(収入金額)7359万5170円から上記b(必要経費等)3897万5712円を控除した3461万9458円であると認められる。

 (イ)その他の所得の金額

  原告の平成7年分所得税の事業所得以外の所得の金額については,次のとおりで争いがない(別表1②,③参照)。

 a 不動産所得の金額        -19万7905円

 b 給与所得の金額         636万0000円

 (ウ)総所得金額

  原告の平成7年分所得税の総所得金額は,上記(ア)(事業所得の金額)及び(イ)(不動産所得の金額,給与所得の金額)の合計である4078万1553円となる。

 (エ)所得控除の合計額

  原告の平成7年分の所得税の所得控除の額は,次のとおりで争いがない(別表1⑤ないし⑧参照)。

 a 社会保険料等控除        103万5200円

 b 生命保険,損害保険料,寄付金控除 20万3000円

  前記のとおり,平成7年分の雑費において否認された寄付金(義援金)11万円中算入された10万円を含む。この点について,原告は特に争わない。

 c 扶養控除             76万0000円

 d 基礎控除             38万0000円

 e 合計              237万8200円

 (オ)課税総所得金額

  原告の平成7年分所得税の課税総所得金額は,上記(ウ)(総所得金額)4078万1553円から上記(エ)(所得控除の合計額)237万8200円を控除した(ただし,国税通則法118条により1000円未満の端数は切捨)額である3840万3000円となる。

 (キ)課税総所得金額に対する税額

  原告の平成7年分所得税の課税総所得金額に対する税額は,上記(オ)の額に所得税法89条1項に規定する税率を乗じた額である1317万1500円となる。

 (ク)税額控除の合計額

  原告の平成7年分の所得税の税額控除の額は,次のとおりである。

 a 住宅取得等特別控除              0円

  原告は,確定申告において住宅取得等特別控除として21万9700円を計上したのに対し,被告税務署長は更正処分において,これを全額否認したが(別表1⑫),この点につき,原告は特に争わない。

 b 特別減税額             5万0000円

  上記金額であることにつき,当事者間に争いがない(別表1⑬参照)。

 c 源泉徴収にかかる所得税の額   150万2850円

  上記金額であることにつき,当事者間に争いがない(別表1⑭参

 照)。

 c 合計              155万2850円

 (ケ)納付すべき税額(申告納税額)

  原告が納税すべき平成7年分所得税の税額は,上記(キ)(課税総所得金額に対する税額)から(ク)(税額控除の合計額)を控除した(ただし,国税通則法119条により100円未満の端数は切捨)額である1161万8600円となる。

 (コ)以上によれば,原告が納税すべき平成7年分所得税の税額は,1161万8600円であるところ,これは,本件平成7年分更正処分による額と同額であるから,本件平成7年分更正処分は適法である。

エ 以上より,本件各更正処分はいずれも適法である。

 

 (4)本件各賦課決定処分の適法性

  前記のとおり,本件各更正処分はいずれも適法であるとともに,原告が過少申告したことについて,国税通則法65条4項に規定する正当な理由があると認めるに足りる主張立証もないから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

 

 

 

 2 争点(2)(国家賠償の成否について)

  前記認定説示のとおり,本件各更正処分はいずれも適法であるから,同処分の違法を理由とし被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める原告の請求には理由がない。

 

 3 争点(3)(不当利得の成否について)

  前記認定説示のとおり,本件各更正処分はいずれも適法であるから,原告が本件各処分に応じ,被告国に納税した額の全てにつき,被告国はこれを保持すべき法律上の原因を有するといえる。

  以上より,不当利得に基づき,被告国に対し,納税額の一部の返還を求める原告の請求には理由がない。

 

 

 第4 結論

  以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

 

 

     広島地方裁判所民事第2部

         裁判長裁判官  渡 邉 了 造

            裁判官  谷 口 安 史

            裁判官  秋 元 健 一