粉飾決算にかかる役員の責任

 

 

 

 損害賠償請求権査定申立事件、 神戸地方裁判所姫路支部決定/昭和40年(モ)第454号、判決 昭和41年4月11日、 下級裁判所民事裁判例集17巻3~4号222頁について検討します。

 

 

 

 

【判決要旨】 山陽特殊製鋼株式会社(更生手続中)の元取締役、監査役ら(本件被申立人)の違法配当、違法役員賞与支給により更生会社がこれらの者に対して有する損害賠償請求権を本決定主文のとおり査定する。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

一、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第四九期分の違法配当による損害賠償額を金二五〇、五九五、三四六円と

 

二、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第五〇期分の違法配当による損害賠償額を金二三九、四四四、四八七円と

 

三、被申立人等(ただし藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第五一期分の違法配当による損害賠償額を金二四五、五七八、八一〇円と

 

四、被申立人等(ただし芹沢、益田を除く)が連帯して負担すべき第五二期分の違法配当による損害賠償額を金三七九、九二五、七四四円と

 

五、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田を除く)が連帯して負担すべき第五三期分の違法配当による損害賠償額を金三六七、三四二、三五四円と

 

六、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第四九期分の違法役員賞与支給による損害賠償額を金一八、六五〇、〇〇〇円と

 

七、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第五〇期分の違法役員賞与支給による損害賠償額を金二一、四三〇、〇〇〇円と

 

八、被申立人等(ただし藤井、平木、芹沢を除く)が連帯して負担すべき第五一期分の違法役員賞与支給による損害賠償額を金二二、四八〇、〇〇〇円と

 

九、被申立人等(ただし芹沢、益田を除く)が連帯して負担すべき第五二期分の違法役員賞与支給による損害賠償額を金二五、四八〇、〇〇〇円(ただし藤井においては金八、五〇〇、〇〇〇円、平木においては金八、一〇〇、○○○円)と

 

一〇、被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田を除く)が連帯して負担すべき第五三期分の違法役員賞与支給による損害賠償額を金二七、六八〇、〇〇〇円(ただし芹沢においては金八、二〇〇、〇〇〇円)乏それぞれ右に対する昭和四〇年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員と確定する。

 

        

 

 

 

 

 

理   由

 

 

(申立の要旨)

 

一、山陽特殊製鋼株式会社(以下単に「会社」という。)は、毎年四月一日から九月三〇日までおよび一〇月一日から翌年三月三一日までをそれぞれ決算期としていたが、同会社において第四九期(昭和三七年四月一日から同年九月三〇日まで)から第五三期(昭和三九年四月一日から同年九月三〇日まで)までの間、各期とも商法第二九〇条第一項の規定により配当することができる利益がないのに拘らず、株主に対し別表一記載のとおり各期違法な利益配当が行われ、会社は同表中現実社外流出額と同額の損害を蒙つた。

 

二、被申立人等は、別表二記載のとおり、右違法配当の議案が同表中各該当決算期の定時株主総会に提出された当時、右会社の取締役又は監査役であつた。

  

 しかして右各期において取締役であつた被申立人等(ただし第五二期における益田、第五三期における藤井、平木、南部、舟田を除く)は、右違法配当を行うにつき共謀し、あるいは取締役会においてこれに賛成してその議案を各期の定時株主総会に提出したものであり、また監査役であつた被申立人浅野は、右違法配当の議案につき該事情を知りながら各期の定時株主総会において適正妥当である旨の報告をしたものである。

  

 以上の如く取締役が違法配当に関する議案を株主総会に提出したときは、その違法配当額につき会社に対し連帯して損害賠償の責に任ずべきであり(商法第二六六条第一項第一号)、また監査役がその任務を怠り会社に損害を生ぜしめたときは、責任ある取締役と連帯して損害賠償の責を負担すべきものである(同法第二七七条、第二七八条)。

 

  そこで申立人は、被申立人等(ただし第四九期および第五〇期につき浜田、藤井、平木、芹沢、第五一期につき藤井、平木、芹沢、第五二期につき芹沢、益田、第五三期につき浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田をそれぞれ除く)に対し、第四九期ないし第五三期の違法配当による別表一記載の各期現実社外流出額およびこれに対する右損害発生の後である本件会社更生手続開始決定の日である昭和四〇年三月二三日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の損害賠償請求権を有するごとの査定を求める。

 

 三、また右会社において第四九期から第五三期までの間、前記のとおり各期とも利益をあげることができなかつたに拘らず、別表三記載のとおり取締役および監査役等の役員に対し各期賞与の支給が行われ、会社は右支給額と同額の損害を蒙つた。

 

  これら賞与の支給には、別表三記載のとおり株主総会の承認を得て行われたもののほか、株主総会の承認を得ることなく行われたものがあるが、いずれにしても会社役員に対する賞与の支給は、利益金処分の一方法であるから、会社が利益をあげることができなけれぱこれを行い得ないものであり、更に右のうち株主総会の承認を得ることなく行われた分は商法第二八三条第一項にも違反するものである。

 

  被申立人等は、別表二記載のとおり、右の違法な利益金処分案が同表中各該当決算期の定時株主総会に提出された当時、右会社の取締役又は監査役であつたが、右各期において取締役であつた被申立人等(ただし第五二期における益田、第五三期における藤井、平木、南部、舟田を除く)は、右違法な役員賞与の支給を行うにつき共謀し、あるいは取締役会においてこれに賛成しでその議案を各期の定時株主総会に提出したものであり、また監査役であつた被申立人浅野は、その任務を怠り右違法な利益金処分案が各期の定時株主総会に提出された際、右事情を知りながら、これが適正妥当である旨の報告をしたものである。

 

  以上の如く取締役および監査役が、その任務を怠り法令に違反する行為をなしたときは、それにより会社が蒙つた損害につき連帯して賠償の責に任ずべきものであるから、申立人は被申立人等(ただし第四九期および第五〇期につき浜田、藤井、平木、芹沢、第五一期につき藤井、平木、芹沢、第五二期につき芹沢、益田、第五三期につき浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田をそれぞれ除く)に対し、第四九期ないし第五三期の違法役員賞与支給による別表三記載の各期役員賞与支給合計額およびこれに対する右損害発生の後である本件会社更生手続開始決定の日である昭和四〇年三月二三日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の損害賠償請求権を有することの査定を求める。

 

 

(証拠関係) (省略)

 

 

 

(当裁判所の判断)

 

一、本件会社が昭和四〇年三月二三日当裁判所において更生手続開始の決定を受け、申立人がその管財人に選任されたことは、当裁判所に顕著な事実である。

 

二、疎甲第三号証、第四号証の二、第五号証の三、第六ないし第八号証の各二および第九ないし第一四号証並びに各利害関係人審尋の結果を総合すれば、会社は決算期を毎年二回に分ち、四月一日から九月三〇日までを上半期とし、一〇月一日から翌年三月三一日までを下半期とし、各その末日をもつて決算日としていたが、右会社において、

 

(一) 昭和三七年一一月三〇日第四九回定時株主総会が開催され、第四九期(昭和三七年四月一日から同年九月三〇日まで)の決算において、当期純利益として金四五一、七五五、〇九一円が計上されたうえ、株主に対して年一割二分の割合による利益配当をなすべき利益金処分案を含む計算書類が右総会に提出されたこと、

 

(二) 昭和三八年五月三〇日第五〇回定時株主総会が開催され、第五〇期(昭和三七年一〇月一日から昭和三八年三月三一日まで)の決算において、当期純利益として金四六一云八五三、五〇九円が計上されたうえ、株主に対して年一割の割合による利益配当をなすべき利益金処分案を含む計算書類が右総会に提出されたこと、

 

(三) 昭和三八年一一月三〇日第五一回定時株主総会が開催され、第五一期(昭和三八年四月一日から同年九月三〇日まで)の決算において、当期純利益として金五七一、二八一、三四九円が計上されたうえ、株主に対して年一割の割合による利益配当をなすべき利益金処分案を含む計算書類が右総会に提出されたこと、

 

(四)昭和三九年五月三〇日第五二回定時株主総会が開催され、第五二期(昭和三八年一〇月一日から昭和三九年三月三一日まで)の決算において、当期利益として金四二七、六三三、一七九円が計上されたうえ、株主に対して年一割二分の割合による利益配当をなすべき利益金処分案を含む計算書類が右総会に提出されたこと、

 

(五) 昭和三九年一一月三〇日第五三回定時株主総会が開催され、第五三期(昭和三九年四月一日から同年九月三〇日まで)の決算において、当期利益として金四〇一、三九二、七二七円が計上されたうえ、株主に対して年一割の割合による利益配当をなすべき利益金処分案を含む計算書類が右総会に提出されたこと、がそれぞれ疎明される。

 

 

三、しかるに疎甲第九ないし第一四号証および洛利害関係人審尋の結果に、本件会社が会社更生法の適用を受けるに至つた経緯を併せ考えると、右会社における実際の右各期の損益計算は、第四九期においては約四億七五〇〇万円、第五〇期においては約七億一七〇〇万円、第五一期においては約一一億三二〇〇万円、第五二期においては約八億二四〇〇万円、第五三期においては約一七億二八〇〇万円のそれぞれ欠損であつて、株主に配当すべき利益は皆無であつたにも拘らず、一定の利益配当を実行するため、右各期とも貸借対照表や損益計算書等につき大幅な粉飾がほどこされ、前記の如き利益が架空に計上されていたこと、したがつて右各期の定時株主総会に提出された利益配当の議案は、いずれも商法第二九〇条第一項の規定に違反するものであることが疎明される。

 

四、しかして疎甲第四号証の二、第五号証の三、第六ないし第八号証の各二、第九ないし第一三号証、第一五ないし第二〇号証および各利害関係人審尋の結果を総合すると、右会社は、右各期とも前記定時株主総会に提出された計算書類がいずれも総会において原案どおり承認可決されたので、その決議にしたがいそれぞれ当時の株主に対し別表一記載のとおり利益配当をなし、会社は同表中現実社外流出額と同額の損害を蒙つていることが疎明される。

 

五、ところで疎甲第二、三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六ないし第八号証の各一、二、第九ないし第一三号証、第三九号証、第四一号証および各利害関係人審尋の結果を総合すると、被申立人等は、別表二記載のとおり、前記違法配当の議案が同表中洛該当決算期の定時株主総会に提出された当時、右会社の取締役又は監査役であつたこと、しかして被申立人荻野は、右会社の代表取締役として、右各期の違法配当議案を作成したうえ右各期の定時株主総会に提出し、その余の取締役である被申立人等(ただし第五二期における益田、第五三期における藤井、平木、南部、舟田を除く)は、右各期の定時株主総会に提出すべき計算書類を審議すべき取締役会において、前記各期の違法配当議案の作成並びにその定時株主総会への提出を承認する決議をなすに際し、いずれも議事録に異議を止めず、原案どおりこれに賛成し(よつてこれらの被申立人等は、商法第二六六条第二項により右違法配当議案を総会に提出したものと看做される)

 

 また第五〇期ないし第五三期において監査役であつた被申立人浅野は、監査役としての任務を怠り、右各期の定時株主総会に提出すべき計算書類につき果すべき調査義務を尽さず、右各期の違法配当議案がいずれも監査の結果適正妥当である旨各期の定時株主総会において報告し、よつて総会において右違法配当議案はいずれも原案どおり承認可決され、その結果会社は前記の如き損害を蒙つていることが疎明される。

  

 

 以上の如く取締役が違法配当に関する議案を株主総会に提出したときは、その違法に配当せられた額につき会社に対し連帯して損害賠償の責を負担すべく、また監査役がその任務を怠り会社に損害を蒙らせたときは、責任ある取締役と連帯して損害賠償の責に任ずべきことは、商法第二六六条第一項第一号、第二七七条、第二七八条が明定するところである。

 

 

六、そうすると被申立人等(ただし第四九期、第五〇期につき浜田、藤井、平木、芹沢、第五一期につき藤井、平木、芹沢、第五二期につき芹沢、益田、第五三期につき浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田をそれぞれ除く)は、第四九期ないし第五三期の違法配当議案を定時株主総会へ提出したことに基く取締役としての損害賠償責任として、なお被申立人浅野は、第五〇期ないし第五三期については、右議案に関する監査役としての任務懈怠に基く損害賠償責任として、いずれも連帯して本件更生会社に対し、右各期の違法配当による別表一記載の現実社外流出額およびこれに対する右損害発生の後であることが明らかな本件会社更生手続開始決定がなされた日である昭和四○年三月二三日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の賠償をなす責任があるといわなければならない。

 

 

 七、次に疎甲第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六ないし第八号証の各一、二、第九ないし第一四号証、第二一ないし第三八号証および各利害関係人審尋の結果を総合すると、右会社において前記のとおり第四九期ないし第五三期の間、各期とも全く欠損であつて、取締役および監査役等の役員に賞与として支給すべき利益をあげることができなかつたに拘らず、別表三記載のとおり各期とも取締役および監査役等の役員に賞与の支給が行われ、会社は右支給額と同額の損害を蒙つていること、これら各期の役員賞与の支給額は別表三記載のとおりであるが、そのうち各期とも金七〇〇万円宛については、利益金処分案の中に計上して、その支給につき定時株主総会の承認を得ているものの、別表三中株主総会の承認なくして支給した役員賞与の額欄記載の金額については、各期とも会社の費用中に計上して何ら右総会の承認を得べき手続をとることなく、各役員に賞与として支給されたことがそれぞれ疎明される。

   

 

 およそ会社役員に対する賞与の支給は、利益をあげ得てはじめてなし得るものであり、しかも本来は株主に帰すべき利益を、その働きによつて利益をあげ得た役員の功労に酬いるため、株主の意思によりとくにその一部を分与されるものであるから、その性質上当然に株主総会の決議によつてのみ行い得るものと解すべきであるところ、右各期における役員に対する賞与の支給は、毎期欠損であるにも拘らずなされた点において違法であるのみならず、

  各期株主総会の承認を得ることなく行われた分については、すでにこの点において商法第二八三条第一項の規定に違反するものといわなければならない。

 

 

八、ところで前掲各疎明書類に各利害関係人審尋の結果を総合すると、前記の如く被申立人等は別表二記載のとおり、右各期金七〇〇万円宛を役員賞与金として処分することを含む違法な利益金処分案が同表中各該当決算期の定時株主総会に提出された当時、右会社の取締役又は監査役であつたこと、しかして被申立人荻野は、右会社の代表取締役として、右各期の違法な利益金処分案を作成したうえ右各期の定時株主総会に提出し、その余の取締役である被申立人等(ただし第五二期における益田、第五三期における藤井、平木、南部、舟田を除く)は、右各期の定時株主総会に提出すべき計算書類を審議すべき取締役会において、前記各期の違法な利益金処分案の作成並びにその定時株主総会への提出を承認する決議をなすに際し、いずれも議事録に異議を止めず、原案どおりこれに賛成し(よつてこれらの被申立人等は商法第二六六条第二項により右違法な利益金処分案を総会に提出したものと看做される)、

 

 また第五〇期ないし第五三期において監査役であつた被申立人浅野は、監査役としての任務を怠り、右各期の定時株主総会に提出すべき計算書類につき果すべき調査義務を尽さず、右各期の違法な利益金処分案がいずれも監査の結果適正妥当である旨各期の定時株主総会において報告し、よつて総会において右違法な利益金処分案はいずれも原案どおり承認可決され、その結果会社は右各期金七〇〇万円宛の損害を蒙つていることが疎明される。

 

 会社役員に対する賞与の支給は、株主に対する利益配当と同様利益金処分の一方法にほかならず、利益なきに拘らず役員に賞与を支給することは、商法第二九〇条第一項の規定に違反し利益なきに拘らず株主に利益配当を行うのと全くその軌を一にし、いずれも不当に会社の資産を減損するものであるから、取締役が右の如く違法な役員賞与支給に関する利益金処分案を株主総会に提出したときは、これにより違法に支給された役員賞与の額につき会社に対し連帯して損害賠償の責に任ずべきことは、商決第二六六条第一項第一号の規定の趣旨とするところと解するのが相当である。

 

 

九、更に前掲各疎明書類に各利害関係人審尋の結果を総合すると、

   被申立人荻野は、右会社の代表取締役として、各期別表三中株主総会の承認なくして支給した役員賞与の額欄記載の金額を、いずれも株主総会の承認を得る手続をとることなく違法に各役員に賞与として支給したこと、

 

  第四九期以前における役員賞与の支給額中にも、右同様株主総会の承認を得た金七〇〇万円のほか、総会の承認を得ない分も含まれていたこと、

 

  代表取締役荻野を除くその余の取締役である被申立人等(ただし浜田、藤井、平木、芹沢を除く)は、いずれも第四九期以前から会社の取締役として在任しており、これらの被申立人等においては、その当時において既に、株主総会における役員賞与の承認額と各自の受ける賞与額、役員の数並びに各自の会社における地位等を比較考慮すれば、容易に株主総会の承認を得ない役員賞与が支給されていた事実を発見し得たところであり、また被申立人浜田は、昭和三八年五月三〇日取締役に選任された後第五〇期分の役員賞与の支給を受けており、しかも取締役に選任される以前においては会社の経理部長の職にあつて、同様右の事実を知り得たところであるから、以上の被申立人等(ただし、第四九期、第五〇期における浜田、第五二期における益田、第五三期における浜田、南部、舟田、益田を除く)は、第四九期ないし第五三期の定時株主総会に提出すべき計算書類を審議すべき取締役会において、代表取締役荻野が行う前記株主総会の承認を得ない違法な役員賞与の支給を防止すべき取締役としての注意義務があるにも拘らず、これを怠つていたこと、

 

  被申立人藤井、同平木は、いずれも第五二期以降、被申立人芹沢は、第五三期以降それぞれ外部から取締役として入社し、各自代表取締役荻野から右各期分の役員賞与の交付を受けたものであるが、その際株主総会における役員賞与の承認額と各自の交付された賞与額、役員の数並びに各自の会社における地位等を比較考慮すれば、容易に株主総会の承認を得ない役員賞与が交付されている事実を発見し得るところであるから、取締役としては相当の注意をはらい株主総会の承認を得ない賞与は取得してはならない義務があるにも拘らず、これを怠り

 

被申立人藤井は第五二期において金一五〇万円、同平木は同期において金一一〇万円、同芹沢は第五三期において金一二〇万円のそれぞれ株主総会の承認を得ない役員賞与を違法に取得したこと(右各期における株主総会の承認を得ない役員賞与全額について、これらの被申立人等が賠償責任を負うべき点については、疎明がない)

  

 また第五〇期ないし第五三期において監査役の職にあつた被申立人浅野は、右各期以前は会社の取締役の職にあり、しかも経理部を担当していたものであつて、代表取締役荻野が株主総会の承認を得ない役員賞与を支給している事実を知りながら、監査役としての任務を怠り、右各期の定時株主総会に提出すべき計算書類につき果すべき調査義務を尽さず、右各期の株主総会の承認を得ない違法な役員賞与の支給が行われることを各期の定時株主総会に報告しなかつたこと、

  以上のような被申立人等の取締役又は監査役としての義務懈怠により、会社は別表三中株主総会の承認なくして支給した役員賞与の額欄記載の金額と同額の損害を蒙つていることがそれぞれ疎明される。

 

 

 およそ取締役たるものは、株主の信託に応ずべきその職責に鑑み、法令、定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を遂行する義務を負い、ことにその地位を利用して個人的な利益を得、会社に損失を与えてはならないものであるところ、被申立人荻野のなした右株主総会の承認を得ない役員賞与の支給は、右取締役の会社に対する忠実義務に違反することは勿論、商法第二八三条第一項の規定に違反するものであり、またその徐の取締役である被申立人等の前記義務懈怠は、いずれも右同様取締役の会社に対する忠実義務に違反するもの「ほかならない。

 取締役が右の如く忠実義務に違反し、法令に違反する行為をなして、会社に損害を蒙らせたときは、その損害額につき会社に対し連帯して損害賠償の責に任ずべきことは、商法第二六六条第一項第五号が規定するところである。

 

 

一〇、そうすると被申立人等(ただし第四九期、第五〇期につき浜田、藤井、平木、芹沢、第五一期につき藤井、平木、芹沢、第五二期につき芹沢、益田、第五三期につき浜田、藤井、平木、南部、舟田、益田をそれぞれ除く)は、第四九期ないし第五三期の違法な役員賞与を支給したことに関する前記取締役としての損害賠償責任として、なお被申立人浅野は、第五〇期ないし第五三期については、右違法役員賞与支給に関する監査役としての任務懈怠に基く損害賠償責任として、いずれも連帯して本件更生会社に対し、別表三記載の右各期の違法な役員賞与支給合計額(ただし第五二期における藤井は、金八、五〇〇、〇〇〇円、同期における平木は、金八、一〇〇、〇〇〇円、第五三期における芹沢は、金八、二〇〇、〇〇〇円)およびこれに対する右損害発生の後であることが明らかな本件会社更生手続開始決定がなされた日である昭和四〇年三月二三日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の賠償をなす責任があるといわなければならない。

 

  よつて本件申立は、以上の限度において理由があるからこれを認容し、主文のとおり決定する。

 

 

 (裁判官 庄田秀麿 浜田武律 内匠和彦)