控訴理由書の提出・陳述による名誉毀損及び精神的損害

 

 

  長崎地方裁判所佐世保支部判決/平成22年(ワ)第631号、判決 平成23年9月5日、 LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】 原告に対する請求異議訴訟の控訴審において,相手方当事者の訴訟代理人を務めた弁護士である被告ら作成の控訴理由書が提出・陳述されたことによって,名誉が毀損され精神的損害を受けたとして,原告が被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料を求めた事案である。裁判所は,控訴理由書の各記載(一部を除く)は,いずれも原告の名誉を毀損し,争点・要証事実との関連性及びその主張の必要性も認められないこと等から,正当な弁論活動として違法性が阻却されるものではないとして,請求額の一部を認容した慰謝料の支払を被告らに命じた事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 被告らは,原告に対し,連帯して,30万円及びこれに対する平成22年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

  3 訴訟費用はこれを33分し,その1を被告らの,その余を原告の各負担とする。

  4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

        

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

第1 請求

    被告らは,原告に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する平成22年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

 

第2 事案の概要

 

  

1 本件は,原告に対する請求異議訴訟(当庁平成21年(ワ)第134号)の控訴審(福岡高等裁判所平成22年(ネ)第651号。以下,併せて「別件訴訟」ということがある。)において,相手方当事者の訴訟代理人を務めた弁護士である被告ら作成の控訴理由書が提出・陳述されたことによって名誉が毀損され精神的苦痛を受けたとして,原告が,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料の支払を求めた事案である。

 

  

2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

 

   

(1) 当事者

 

    

ア 原告

      原告は,平成11年9月1日から平成19年8月31日まで,長崎県佐世保市所在の医療法人□□会△△病院(以下「本件病院」という。)の常務理事管理部長の地位にあり,退職後は,少なくとも平成21年4月1日以降,経営コンサルタント業,投資ファンド事業等を目的とする株式会社Aの代表取締役を務め,同市内において,エステティックサロンや心療内科クリニックの経営等を行っている者である(甲6,乙43)。

 

    

イ 被告ら

     被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,長崎県弁護士会に所属する弁護士であり,被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,福岡県弁護士会に所属する弁護士である。

 

   

 

(2) 別件訴訟の経緯

 

    

ア 第一審(当庁平成21年(ワ)第134号請求異議事件)

 

     

(ア) 原告は,当時,本件病院で運転手を務めていたB(以下「B」という。)を連帯保証人とする長崎地方法務局所属公証人南新茂作成平成14年第200号債務弁済契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)を債務名義として,平成21年3月10日発令の当庁平成21年(ル)第65号債権差押命令をもって,Bの預貯金債権を差し押さえた(乙72)。

 

       本件公正証書は,原告が,本件病院の准看護師であったC(以下「C」という。)に対し,Bを連帯保証人として,平成14年5月13日付け金銭借用証書(以下「本件借用証書」という。)をもって貸し付けた300万円について,C及びBとの間で,元利金の弁済期を同年8月15日,年利15パーセント,遅延損害金年利21.9パーセントの約定でCが弁済し,BがCの上記債務を連帯保証する旨それぞれ合意したという内容のものであり,期限の利益喪失条項及び執行受諾文言も付されていた(乙26の1,28,37)。

 

       また,本件公正証書の作成等を司法書士に委任する旨の委任状の委任者欄及び本件借用証書の連帯保証人欄には,それぞれBの署名及び実印による印影があった(乙36の3・4,37,44)。

 

    

 

(イ) 原告の差押えに対し,Bは,平成21年3月23日,被告Y1を訴訟代理人として,本件公正証書の成立に異議があるなどと主張して請求異議の訴えを提起したところ,原告はこれを全面的に争った(乙12,13,56の1)。

       その後,被告Y2もBの訴訟代理人に選任され,同年9月1日の弁論準備手続期日以降,被告Y1と共に訴訟追行した(乙5,56の2)。

     

 

(ウ) 第一審は,平成22年5月27日,①本件公正証書作成に係るBの司法書士への代理権授与の有無(委任状の成立の真正等),②Cの原告に対する貸金債務の存否(要物性,通謀虚偽表示,弁済の有無),③原告・B間の連帯保証契約の成否(本件借用証書の成立の真正)及び有効性(原告による強迫行為の有無),④原告のBに対する強制執行は権利の濫用かを争点とした上,Bの請求を棄却する判決をした(乙1,11)。

       上記第一審判決に対し,Bは,被告らを訴訟代理人として,即日控訴した(乙60)。

    

 

イ 控訴審(福岡高等裁判所平成22年(ネ)第651号)被告らは,以下の記載のある平成22年7月14日付け控訴理由書(以下「本件控訴理由書」という。)を提出し,同書面は,同年9月24日の第1回口頭弁論期日において陳述された(乙58,61)。

     

(ア) 本件記載(1)

       「金銭の処理に関しては熱心の域を越えて守銭奴とも評すべき被控訴人(引用者注・原告を指す。以下同じ。)」(同3頁)

     

(イ) 本件記載(2)

       「事案の経過の奥にひそむ被控訴人の邪悪な企図の真相を明らかにすることは不可能と言わざるを得ない。」(同4頁)

     

(ウ) 本件記載(3)

       「出所を明らかにしたくない現金300万円を所持し」(同5頁)

     

(エ) 本件記載(4)

       「被控訴人は同口座を株取引という本来の目的以外にもマネーロンダリング類似行為(中略)に使用していたのではないかと考えざるを得ない。」(同6頁)

     

(オ) 本件記載(5)

       「控訴人(引用者注・Bを指す。以下同じ。)から見れば被控訴人の当り屋的行為としか考えられないような交通事故」(同8頁)

     

(カ) 本件記載(6)

       「1000万円貸借の事実が本件病院D事務長の知るところとなり,同事務長の厳命により被控訴人の邪悪な計画は挫折する結果となり,控訴人は被控訴人の毒牙から危うく逃れることができた。」(同8頁)

     

(キ) 本件記載(7)

       「被控訴人が金銭欲の追及には悪らつ,狡猾な手段を辞せない人物で」(同8頁)

     

(ク) 本件記載(8)

       「被控訴人はその強い金銭的欲求を満たすためには手段を選ばない程の人物であり,それだけに被控訴人の人物像として主張した事実(タクシーチケットの悪用,強要罪による執行猶予判決(中略))も十分に考慮されるべきであると考える」(同9頁)

     

(ケ) 本件記載(9)

       「被控訴人が控訴人に対し執拗な損害賠償請求をしたことが訴訟のきっかけとなったと推認される」(同12頁)

  

 

3 主な争点

   

(1) 本件記載(1)ないし(9)は原告の名誉を毀損又は原告を侮辱するものか(争点1)

   

(2) 被告らの行為は正当な弁論活動の範囲内のものとして違法性が阻却されるか(争点2)

   

(3) 原告の損害額(争点3)

  

 

 

4 当事者の主張

   

(1) 争点1

    

ア 原告の主張

      被告らは,本件記載(1)ないし(9)により,原告の品性,名声・信用等についての社会的評価を低下させるとともに,原告を侮辱した。

    

イ 被告らの主張

      否認又は争う。

      特に,被告らは,「守銭奴とも評すべき」(本件記載(1)),「マネーロンダリング類似行為」(同(4)),「当り屋的行為としか考えられないような交通事故」(同(5))と,いずれも断言はせず抑制的な表現をしている。また,「マネーロンダリング類似行為」については,その後に主張を撤回している。

   

 

 

(2) 争点2

    

ア 被告らの主張

      被告らは,別件訴訟において,各請求原因事実(前記2(2)ア(ウ)①ないし③)の間接事実や権利濫用(同④)を基礎づける事実として,法軽視,反社会的といった原告の性格やその行状等を一層詳しく解明する必要があると考えていたため,本件控訴理由書において,本件記載(1)ないし(9)の表現に及んだ。とりわけ,本件記載(1)(「守銭奴とも評すべき」)は,原告・C間の金銭消費貸借契約の要物性の欠如,本件記載(2)及び(6)(「邪悪な企図」,「邪悪な計画」,「毒牙」)は,同契約の通謀虚偽表示による無効,本件記載(5)(「当り屋的行為」)は,権利濫用の主張との関連においてなされたものである。

      また,本件記載(1)ないし(9)を通じて原告の人物像に種々言及したのは,もっぱらBの正当な利益を擁護するためであって,別件訴訟を離れて原告への人格攻撃,誹謗中傷を意図したものではなく,表現方法についても,前記(1)イのとおり抑制的な表現に努めたり,事実の重要性や確度に応じて表現方法を変えるなど配慮した。

      したがって,被告らの別件訴訟における訴訟活動は,訴訟行為との関連性及び必要性が認められ,主張方法も不当ではないから,正当な弁論活動として違法性が阻却される。

    

 

イ 原告の主張

      否認又は争う。

      被告らは,Bを勝訴させるため,本件記載(1)ないし(9)において,別件訴訟の争点と無関係かつ根拠のない事実を並び立てて原告に対する人格攻撃・誹謗中傷を行い,原告の人物像を反社会的であるとねつ造しようとしたものであり,被告らの訴訟活動は,正当な弁論活動の範囲を逸脱したものである。

   

 

 

(3) 争点3

    

ア 原告の主張

      原告は,被告らの前記行為により,精神的苦痛を被り,その慰謝料は1000万円が相当である。

      よって,原告は,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為後の平成22年12月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

    

イ 被告らの主張

      否認又は争う。

 

 

 

 

 

 第3 当裁判所の判断

  

1 争点1(本件記載(1)ないし(9)は原告の名誉を毀損又は原告を侮辱するものか)

   

(1) 本件記載(1)

     本件記載(1)は,その前後の文脈(乙19,61[以下同じ。])等も併せると,原告が,本件公正証書作成に当たり,本件借用証書と委任状の予備を用意したこと(乙38の1・2,39,43,55)等の事実を前提とした意見ないし評価の表明といえるところ,「守銭奴とも評すべき」と断定を避ける表現ではあるものの,「守銭奴」との字義等からして,一般人をして,原告が金銭欲の強い吝嗇な人物であるとの印象を抱かせるものであり,株式会社の代表取締役として事業を営む原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

   

(2) 本件記載(2)及び(7)

     本件記載(2)及び(7)は,その前後の文脈等も併せると,原告が,原告に従順で相当な資産を有するBから多額の遅延損害金を含む金銭を取り立てることを企て,多重債務者で経済的信用のないCとの通謀の下,300万円の貸付けを仮装した上,Bを強迫するなどして連帯保証人に引き込み,執行受諾文言のある本件公正証書を作成したとの一連の事実を摘示するとともに,これを前提にその行為の悪性を強調する意見ないし評価を表明したものといえ,一般人をして,原告が外形的には適法な契約を仮装するなどしてBから金銭を巻き上げようとしたとの印象を抱かせるものであり,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

   

(3) 本件記載(6)

     本件記載(6)は,その前後の文脈等も併せると,原告が,本件公正証書作成の約8か月後に,借入れを装ってBから1000万円を受領した上,連帯保証債務の遅延損害金が相当に多額となった段階で同債務との相殺処理等を図っていたという事実を摘示するとともに,これを前提にその行為の悪性を強調する意見ないし評価を表明したものといえ,上記(2)と同様の理由から,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

   

(4) 本件記載(5)

     本件記載(5)は,その前後の文脈等も併せると,原告が,原告を被害者,Bを加害者とする交通事故を装って,上記1000万円の借入れと損害賠償請求権との相殺処理を図ったという事実を摘示するとともに,これを前提にその行為の悪性を強調する意見ないし評価を表明したものといえ,「当り屋的行為」と断定を避ける表現ではあるものの,「当り屋」との字義等からして,一般人をして,原告が詐欺ないしは恐喝といった犯罪行為を行ったものであるとの印象を抱かせるものであり,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

   

(5) 本件記載(3)及び(4)

     本件記載(3)及び(4)は,その前後の文脈等も併せると,原告が証券会社に開設した取引口座をマネーロンダリング等の不正な用途等に使用しているとの事実を摘示するものであり,「類似」と断定を避ける表現を付加したものであっても,一般人をして,原告が何らかの犯罪行為を行っているとの印象を抱かせる内容のものであり,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

     なお,遅くとも本件控訴理由書が陳述されたことによって名誉毀損は成立しているものであり,その後の撤回は名誉毀損の成否に何ら影響を与えるものではない。

   

(6) 本件記載(8)

     本件記載(8)のうち,「被控訴人はその強い金銭的欲求を満たすためには手段を選ばない程の人物であり」との部分は,その前後の文脈等も併せると,前記(1)ないし(5)の事実を摘示するとともに,これを前提にその行為の悪性を強調する意見ないし評価を表明したものといえ,同様に原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

     また,本件記載(8)のうち,「タクシーチケットの悪用,強要罪による執行猶予判決(中略)」との部分は,その前後の文脈等も併せると,原告が,退職前に本件病院から交付されていたタクシーチケットを,退職後18回にわたり私的に利用して同病院に損害を与えた事実や,原告が,その経営するスナックの女性従業員に対する強要罪等により執行猶予付きの有罪判決を受けた事実を摘示するものであり,一般人をして,前者は,原告が横領罪等の犯罪行為を行ったとの印象,後者は,原告に前科があるとの印象をそれぞれ抱かせるものであり,いずれも原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

   

(7) 本件記載(9)

     本件記載(9)は,その前後の文脈等を併せると,前記(4)の交通事故について原告がBに執拗な損害賠償請求をしたことが,Bの債務不存在確認訴訟提起のきっかけとなった旨の事実を摘示するものであるところ,自己の権利の実現に努力するのはある意味当然であり,請求の態様について「執拗」と摘示するのみでは,一般人をして,原告の社会的評価を低下させるものとまでは認められず,また,社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものとも認めるに足りない。

   

(8) 以上より,本件記載(1)ないし(8)(以下「本件各記載」という。)については,いずれも原告の名誉を毀損するものといえる。

  

 

2 争点2(被告らの行為は正当な弁論活動の範囲内のものとして違法性が阻却されるか)

   

(1) 被告らの行為は,別件訴訟の訴訟活動の一環として本件各記載のなされた本件控訴理由書を提出・陳述したというものであるから,当該行為が訴訟活動として違法性を阻却されるかについて検討する。

 

     私的紛争を対象とする民事訴訟においては,当事者間の利害が鋭く対立し,個人的感情の対立も激しくなるのが通常であり,そのため,一方の当事者の主張・立証活動において,相手方当事者やその他の関係者の名誉や信用を損なう主張等がなされることも少なくない。しかしながら,そのような主張等に対し,相手方は直ちに反論や反対証拠を提出することが可能である上,当該主張の当否や主張事実の存否は,事案の争点に関するものである限り,終局的には当該事件についての裁判所の裁判によって判断され,これによって,損なわれた名誉や信用を回復することが可能である。

 

     このような民事訴訟における訴訟活動の性質等に照らすと,その手続において当事者が行う主張については,その中に相手方等の名誉を損なうようなものがあったとしても,それが当然に不法行為を構成するものではなく,争点ないし要証事実と関連し,主張の必要性があり,主張方法も相当であったと認められる場合には違法性が阻却されるものと解すべきである。

 

 

   (2) これを本件についてみるに,別件訴訟の争点は,前記第2,2(2)ア(ウ)のとおり,①本件公正証書作成に係るBの司法書士への代理権授与の有無(委任状の成立の真正等),②Cの原告に対する貸金債務の存否(要物性,通謀虚偽表示等),③原告・B間の連帯保証契約の成否(本件借用証書の成立の真正)及び有効性(原告による強迫行為の有無),④原告のBに対する強制執行の権利濫用該当性と多岐にわたっていたところ,被告らは,上記①ないし③に係る間接事実や④を基礎づける事実として,原告の性格やその行状等を一層詳しく解明する必要があると考え,本件各記載の表現に及んだ旨主張し,本件各記載の一部((1),(2),(5)及び(6))については,関連する争点ないし要証事実を明示する。

 

     しかし,本件控訴理由書や別件訴訟の第一審における被告ら(一部は被告Y1)作成の訴状及び準備書面(乙12,14,16,17,19,21,23,25)を子細に検討しても,被告らが明示するものも含め,本件各記載と別件訴訟の争点ないし要証事実との関連性を認めることは極めて困難であるか,あるいは一応関連性を否定できないにしても,そのような表現を用いる必要性があるとは認められず,仮にこれらを権利濫用の評価根拠事実として位置づけたとしても,当該争点との関連性は希薄であって,主張の必要性もあるとは認められない。

 

     一方,被告らは,本件各記載を通じて法軽視・反社会的といった原告の悪性格・行状等を示すことにより,別件訴訟における争点全体に関わる原告の供述の信用性を弾劾しようとしていたとも考えられ,そのような場合は,迂遠ではあるものの,上記関連性や必要性が認められなくもない。

 

     しかし,これらが認められる余地があるとしても,本件各記載には,詐欺や横領等の犯罪行為や前科内容の摘示も多く含まれている上,それ以外にも「邪悪」,「毒牙」,「悪らつ」,「狡猾」などといった苛烈な表現が用いられており,被告らが法律専門家たる弁護士であることからすれば,このような方法によらずとも,より適切かつ穏当な方法によって,原告供述の信用性を弾劾することは十分に可能であったといえる。また,証拠(乙16,18,23,25,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは,別件訴訟の第一審において被告Y1が提出した準備書面中の「タクシーチケットの不正利用」,「当たり屋とも思われる行動があった」との記載について,原告から,いずれも原告が詐欺罪を犯した旨の事実摘示であって名誉毀損に該当する旨警告を受けたにもかかわらず,その後も,原告が強姦容疑等で逮捕されたり強要罪等で起訴され有罪判決を受けた旨記載された準備書面等を提出した上,別件訴訟の控訴審において本件控訴理由書を提出したことが認められ,上記の要証事実との関連性や主張の必要性の程度に加え,かかる被告らの訴訟活動の経緯等も勘案すると,被告らが本件控訴理由書において本件各記載の表現に及んだことが,主張方法として相当であったものと認めるに足りない。

     したがって,被告らが本件控訴理由書を提出・陳述したことが,正当な弁論活動として違法性が阻却されるものとはいえない。

 

  

3 争点3(原告の損害額)

    前記1,2の認定説示のとおり,本件各記載には原告が犯罪行為を行った旨の摘示や原告の前科内容が多く示されていること,本件控訴理由書の提出・陳述は原告の警告後になされたものであること,本件訴訟提起までの間,第三者による別件訴訟記録の閲覧・謄写はなされていないこと(弁論の全趣旨),その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件各記載により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。

  

4 結論

    以上によれば,原告の請求は主文1項掲記の限度で理由がある。

    よって,主文のとおり判決する。

     長崎地方裁判所佐世保支部

         裁判長裁判官  菊地浩明

            裁判官  石井義規

  裁判官重高啓は,転補のため署名押印できない。

         裁判長裁判官  菊地浩明