預金債権に対する共有物分割請求

 

 

 

  東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第28267号、判決 平成27年12月18日、 LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】 共同相続人の1人である被告が被相続人A保有のA名義の預金を相続開始後に払い戻しを受けて保管する本件金銭について,他の共同相続人の1人である原告が,共有物分割請求権を有しており,被告には本件金銭を分割した金銭の支払義務があるとして,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償として同金員の請求をした事案において,本件金銭の所有者は占有者である被告であり,原告が共有するとは認められず,また,A名義の預金債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人に帰属し,共有関係に立たないから,上記預金債権に対しても共有物分割請求をすることはできないなどと判示して,原告の請求を棄却した事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 原告の請求を棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        

 

 

 

事実及び理由

 

 

第1 請求

    

 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成26年4月16日(又は平成26年9月18日,又は平成27年9月17日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

 

 第2 事案の概要

 

    本件は,被相続人A(以下「A」という。)の相続人の1人である原告が,Aの相続人の1人である被告に対し,被告がA名義の預金口座から払戻しを受けて保管する金銭(以下「本件金銭」という。)に対して原告が分割請求権を有しており,被告は原告に対して本件金銭を分割した金銭の支払義務を負うにもかかわらずこれを履行しないとして,債務不履行に基づき,損害の一部である50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

 

 

 

  1 以下の事実は,当事者間に争いがない。

 

   (1) 原告は,Aの弟である。

   (2) 被告は,A及び原告の弟である。

   (3) Bは,A,原告及び被告の姉である。

   (4) Aの相続人は,B,原告及び被告の外にはない。

   (5) Aは,平成26年1月16日に死亡した。

   (6) Aは,死亡当時,別紙記載のA名義の預金口座に,1406万3837円の預金を保有してい

      た。

 

 

  2 主な争点は,本件金銭に対する分割請求権の有無であり,これに対する当事者の主張は以下のとおりである。

 

 

 

 

   (1) 原告の主張

     本件金銭は,原告,被告及びBの三人の共有財産(準共有)となっており,原告は,本件金銭に対し

    て分割請求権を有している(民法900条4号,同法898条,同法899条,同法250条,同条を

    準用する民法264条)。

 

   (2) 被告の主張

     争う。

 

 

 

 

 

 第3 当裁判所の判断

  

 

 

1 原告は,被告がA名義の預金口座から払戻しを受けて保管する金銭そのもの(本件現金)が物権の対象になるとして,これ対する分割請求を主張する。

    

 しかし,金銭は,特別の場合を除いては,物としての個性を有せず,単なる価値そのものと考えるべきであり,価値は金銭の所在に随伴するものであるから,金銭の所有権者は,特段の事情のないかぎり,その占有者と一致すると解すべきであり,また金銭を現実に支配して占有する者は,それをいかなる理由によって取得したか,またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく,価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきところ(最高裁判所昭和29年11月5日第二小法廷判決・刑集8巻11号1675頁,最高裁判所昭和39年1月24日第二小法廷判決・裁判集民事71号331頁)

 

 

 原告の主張からも明らかなとおり,原告は上記現金を支配して占有していないのであるから,上記現金の所有権者ではなく,したがって,被告と上記現金を共有する関係にあると認めることはできない。

 

 よって,上記現金に対する民法256条所定の共有物分割請求ないし準共有であることを理由とする同条の準用(民法264条)を求める原告の請求は,理由がない。

  

 

2 なお,A名義の預金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人に帰属し,共有関係に立たない。

 

 よって,上記預金債権に対しても,民法256条所定の共有物分割請求ないし民法264条が準用する民法256条所定の分割請求をすることはできない。

  

 

3 そして,そもそも,共有物分割請求は,共有者から他の共有者に対する債権債務を生じさせるものではない。よって,同請求に係る分割に応じないことを理由とする債務不履行責任を主張する原告の請求は,理由がない。

  

 

4 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

     

 

 

東京地方裁判所民事第37部

            裁判官  辻 由起

 

 (別紙)

  金融機関及び支店名 △□△銀行一関支店

  預金の種類     普通預金

  口座番号      ○○○○○○○

                         以上