共謀共同正犯の成立が認められるとされた事例

 

 

 

 富山地方裁判所判決/平成26年(わ)第84号、判決 平成27年3月25日、LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 被告人と共犯者Aとが共謀の上,Aが単独で実行行為を行った強盗事件につき,被告人はAの言動を単なるパフォーマンスと思っており,Aが実際に強盗に及ぶとは思っておらず,強盗の謀議も存在しなかったから,被告人に,強盗罪の共謀共同正犯や幇助犯は成立しない旨の弁護人の主張が排斥され,Aが本件強盗を実行する前の段階で,被告人とAとの間に本件被害店での強盗を共同して遂行する合意(共同遂行の合意)があったこと及びAのみならず被告人もまた自己の犯罪を行う意思(正犯意思)で本件強盗に加担したとして,強盗についての共同遂行の合意及び正犯意思が認められるとした上,強盗の犯意に欠けるところもないとして,共謀共同正犯の成立が認められるとされた事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  被告人を懲役2年8月に処する。

  未決勾留日数中80日をその刑に算入する。

 

        

 

 

 

理   由

 

 

(罪となるべき事実)

 

  被告人は,Aと共謀の上,平成26年1月16日午前零時40分頃,富山市(以下略)「△△」において,同店店長B(当時33歳)に対し,持っていたナイフ様の物を突き付けて,「金庫を開けろ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,同人管理の現金362万5000円を強取した。

 

 (証拠の標目)

  括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示す。

・ 被告人の公判供述

・ 証人Aの公判供述

・ Aの警察官調書(乙5,乙6(ただし,不同意部分を除く。))

・ Bの検察官調書(甲8)及び警察官調書抄本(甲7)

・ Cの警察官調書(甲17)

・ 実況見分調書抄本(甲9,甲10),実況見分調書(甲24)

・ 写真撮影報告書(甲11,甲25)

・ 捜査報告書(甲22)

 

(事実認定の補足説明)

 1 判示の強盗(以下「本件強盗」という。)の実行行為を,A(以下「A」という。)が行い,被告人がこれを行っていないことについては当事者間に争いがないところ,弁護人は,被告人はAが強盗をするつもりであるという言動を示しているのを単なるパフォーマンスと思っており,Aが実際に強盗に及ぶとは思っておらず,強盗の謀議も存しなかったから,被告人に強盗罪の共謀共同正犯や幇助犯は成立せず,したがって,被告人は無罪である旨主張する。

 

2 被告人の公判供述やAの証言など,関係各証拠に照らすと,次の各事実が明らかに認められる。

  

(1) 被告人(昭和56年○月生まれ)とA(同年○月生まれ)は,平成23年頃から親しい友人関係にあり,被告人はAを「◎◎」と,Aは被告人を「××」と呼んでいた。しかし,Aは,自動車の仕入代として平成25年10月頃に借りた10万円など,同年12月当時は,被告人に対して債務を負っており,その弁済を要望されていた。また,Aは,他にも多額の負債を抱えており,同年中,被告人に対し,強盗をして金を作るという話を何度もしていた。実際,Aは,インターネットを使うなどして,強盗の方法を研究し,強盗に及ぶ場合は閉店後間もない店舗を狙うことにしていた。Aは,同月27日頃,被告人に対し,債務の一部を弁済したが完済できず,その際,平成26年1月16日までに更に40万円を弁済する旨を約束した。

  

(2) 被告人は,平成26年1月14日(火曜日),金に窮して,元妻のC(以下「C」という。)に対し,「なにもきかんと35000かしてください」,「◎◎経由でお金はいるんだけど」,「35000は木曜の三時までにいれるよ」などというLINE(携帯電話のSNSアプリ)のメッセージを送り,Cと会って同月16日までに返還する約束で現金3万5000円を借りた。被告人は,その後この一部を費消し,後述のAが本件強盗を敢行する時点では1万円ちょっとしか所持金がなかった。

  

(3) 被告人は,同月15日午前10時頃,Aが期限までに上記債務を弁済できるかが心配になり,Aに電話等で連絡を取って,その見込みを尋ねた。すると,Aは,「今日かまそうかと思っている」,「下見に行きたい」,「Nシステムがあるか確認したい」,「運転頼めるけ」などと述べて,今日強盗を敢行するから下見や強盗の際の運転をしてほしい旨被告人に依頼し,被告人はこれを承諾した。なお,Aは,この当時,弟名義の自動車(以下「本件自動車」という。)を保有していたが,運転免許は有しておらず,被告人と行動するときは被告人が同車を運転していた。

  

(4) 被告人は,同日の日中,Aを本件自動車に乗せて,Aの要望で,Aが強盗の1番の標的と考えていた「◇◇」までの移動経路等を確認して下見をした。その後,Aは,被告人に対し,「今日はもう何が何でも絶対にやる」などと強盗の決意を述べ,標的の候補は上記店舗のほかに「■■」と「△△」(以下「本件被害店」という。)であることや,酒を飲んで勢いを付けて敢行する予定であること等を話し,さらに,自己の靴の底が特殊な形状であることなどを説明して,「捨ててもいい靴があれば持ってきてほしい」旨述べて強盗に使用する靴の提供を依頼し,被告人はこれを承諾して,同日夜に再び会うこととなった。

  

(5) 被告人は,Aから依頼された靴を用意の上,同日の夕刻頃,本件自動車を運転して,Aと再び会った。その際のAの服装は,黒色の帽子,眼鏡,濃紺のジャンパー及び同作業ズボンであり,ズボンは体毛を落とさないよう裾を靴下の中に入れ,人相を隠すための黒色タオルを所持していた。被告人は,上記靴をAに渡した。そして,被告人は,Aを本件自動車に乗せ,Aの要望で,酒屋に行ったが,Aから「防犯カメラに極力映りたくない。買ってきて欲しい」と言われて代金を渡されたので,Aに代わって酒を買った。Aはそれを飲み,その頃,靴を上記靴に履き替えた。その後,被告人は,Aを乗せた本件自動車を運転して,Aが第1の標的とした「◇◇」に向かった。同店に向かう車中で,被告人は,Aから強盗に用いるというナイフ様の物を見せられ,「おっそろしい人やねえ」と述べた。

  

(6) 被告人は,同日午後7時頃,午後7時で閉店する「◇◇」近くのAの指示した場所に本件自動車を止め,Aは,一人で閉店から間もない同店へ強盗をするために向かった。しかし,同店従業員らが予期しない場所から出てきたため,Aは強盗を諦めて被告人の待つ本件自動車に戻った。Aが諦めた理由を説明すると。被告人は,「仕方ないね」,「次はどうするか」などと述べた。その後,被告人とAは,被告人運転の本件自動車で富山市内の店舗等を見て回り,同日午後9時頃,Aが次の標的とした閉店時刻が午後9時の「■■」付近に同車を止め,Aが一人で同店に強盗に入るため向かったが,同店従業員が急に出てきたので及べず,諦めて同車に戻り,諦めた理由を説明すると,被告人は前と同様に「次はどうする」などと述べた。

  

(7) Aは,次の標的は閉店時刻が午前零時の本件被害店とする旨被告人に述べたが,閉店時刻まで時間があったので,被告人運転の本件自動車で富山市内の店舗等を見て回るなどした。同月16日午前零時頃,被告人は,本件自動車を本件被害店付近に止め,Aは,現場付近の様子を見るため同車を降りた。しかし,間もなくAが同車に戻ってきて「人に見られたかもしれない」と言うので,被告人は,同車を発進させてその場を離れ,しばらくして,同店付近に戻ると,先ほどは無かった車に人が乗って発進していくので,同人は同店関係者で売上金を持っているかもしれないという話になり,被告人の発案で同車を追跡した。しかし,同人は単に帰宅するだけの様子であったので,本件被害店方向に戻り,Aの指示で被告人は同店近くの月極駐車場に本件自動車を止めた。そして,Aは,同店に強盗に入るため,ナイフ様の物が入ったバッグを持って同車を降りて同店に向かい,被告人は同車内でAが戻るのを待った。

  

(8) Aは,同日午前零時40分頃,本件強盗を実行し,大量の紙幣の強奪と本件被害店店長B(以下「B」という。)の携帯電話機(以下「本件携帯」という。)を奪うことに成功した。

  

(9) その後,Aは,本件自動車に戻り,被告人に「やったわ」と告げると,被告人は,半信半疑の様子を示したが,上記紙幣を見せられると驚いた様子で真剣な表情に変わり,Aの言をきっかけに同車を発進させてその場からの逃走を開始した。その後,被告人とAは,被告人運転の同車で移動して,本件携帯を投棄した後,被告人の自宅で二人で手分けして強取金の紙幣を数えた。紙幣は少なくとも362万5000円分あったが,Aは399万円と認識し,その中から被告人に対し,債務の弁済金として40万円,運転の報酬として50万円と二千円札1枚を渡し,被告人は何ら躊躇の意思も不満の意思も示すことなくこれらを受領した。その後,被告人とAは,被告人運転の本件自動車で移動して,強盗に使用した靴等を投棄し,同日,被告人は,Cに上記借金を返済した。そして,同月18日以降,被告人とAは,被告人運転の本件自動車で富山を離れ,名古屋や東京等で過ごした。

 

 

3 上記2の事実によれば,被告人は,被告人に対する40万円の債務の弁済資金等を作るために店舗強盗を決意したAから強盗の下見や強盗敢行の際の移動のための車両の運転を頼まれると,これを承諾して同月15日の日中,標的の第1候補の店舗までAを乗せて本件自動車を運転し,Aから強盗に使用する靴の提供を求められるやこれに応じて靴を提供し,酒を飲んで勢いを付けて強盗を敢行したいとのAの依頼に応じて酒屋で酒を購入し,標的の第1候補及び第2候補の各店近くまで同車を運転してAを連れて行き,いずれもAが強盗を断念すると,Aの要望に応えて最後の候補である本件被害店付近まで同車を運転して連れて行き,Aが人に見られたかもしれないと言うや,同車を運転して同店から離れ,しばらくして同車を運転して戻り,更に同店関係者らしき者を追跡した後,再び同車を運転して同店近くの駐車場まで赴き,そこでAを降車させて強盗に行かせ,自らはAが戻ったら同車に乗せて現場を離れる目的で同車内で待機し,戻ってきたAが強盗に成功したことを知ると,Aの乗った同車を運転して逃走し,本件携帯や強盗に使用した物の投棄にも関与したほか,強取金の紙幣を二人で数え,その中から債務弁済分として40万円,運転の報酬として50万2000円をAから受領したものである。したがって,被告人は,運転免許のないAが店舗強盗を実行するについて,一定の重要な役割を果たし,強盗の実現に寄与したものである上,強取金から合計90万円余りという少なからぬ現金を取得し,債務弁済分を除いても50万円余りの利益を得たものといえる。

 

   さらに,上記2の事実に見られる経過からは,被告人は,Aが被告人に対する債務の弁済資金等を得る目的で店舗強盗を敢行する意図であることについて,本件当日の日中の段階から既に認識しており,その上で被告人がAの依頼に応じてAの強盗を容易にするために運転行為を行い,Aが被告人のその援助を受けて店舗強盗を実行することについて意思を相通じていたこと,「■■」での強盗を断念した後は対象が本件被害店に絞られたが,双方のその意思は変わらなかったこと,被告人が運転行為等を行ってAと長時間行動をともにしてAの強盗を援助したのは,Aの店舗強盗を労力的及び精神的に支援し,強盗を成功させてその強取金から少なくとも債権の回収を図りたいとの動機からであったことが優に認められる。

 

   以上によれば,Aが本件強盗を実行する前の段階で,被告人とAとの間に本件被害店での強盗を共同して遂行する合意(共同遂行の合意)があったこと及びAのみならず被告人もまた自己の犯罪を行う意思(正犯意思)で本件強盗に加担したことが認められる。

 

 4 ところで,Aは,当公判廷において,平成25年の暮れ頃,強盗をして金を作る話を被告人にした際,移動のため自動車の運転をしてくれれば,強取金が500万円なら100万円ぐらいを,返済分ぐらいしか取れなかったらその全部を渡すなどと,強取金の分配の話をしていた旨証言しているところ,同証言は,内容自体十分に具体的かつ自然で,前後の経緯とも整合するか,少なくとも大きな矛盾がなく(なお,被告人は結局,強取金から運転行為の報酬としては50万円余りしか受け取っていないが,債務弁済分と合わせれば90万円余りであり,分配当時,Aは強取金額を399万円と認識し,被告人も同程度の額と認識していたと推認されることや,A証言中の分配約束場面の言葉上,その分配予定額は債務弁済分込みの金額なのかも不明確な大雑把なものであったものであり,かつ,実際の分配場面で被告人が異を唱えなかったから50万円に決まった旨証言して,Aとしては被告人がもっと欲しがれば増額した可能性を示唆していることなどに照らすと,大きな矛盾があるとまではいえない。),かつ,自己が本件強盗の唯一人の実行犯であり,首謀者であることを認めた上での証言でもあるから,いわゆる引っ張り込みの危険の可能性を考慮に入れても十分に信用できる。

 

   そうすると,平成26年1月15日の午前から翌16日にAが本件強盗を実行するに至るまでの間には被告人の運転行為の報酬につき何らかの会話がなされた事実は認められないものの,強取金の紙幣を数え終わった後,Aがその報酬として50万円余りの支払を被告人に申し出たのに対し,被告人が何ら躊躇の意思を示すことなくこれを受領していること等も併せ考えれば,被告人は,運転行為の報酬の取得をも期待して本件強盗に加担したことが推認できる。

 

   この事実も加味して考察すると,上述の強盗の共同遂行の合意及び被告人の正犯意思の認定は,ますます強固なものとなる。

 

 5 以上に対し,被告人は,当公判廷において,Aの強盗に向けた言動はあくまで返済を引き延ばすための演技,パフォーマンスにすぎず,Aに真に強盗をする気持ちはないと確信していた旨供述し,その根拠として,Aは強盗をする日に下見をすると足が付くと言っていたのに下見をしたとか,使用車両がAの弟名義の車でニコイチ車でも偽造ナンバー車でもなかったとか,Aの本件強盗時の服装が普段着ている猫の毛も付いているであろうものであったとか,凶器ももっと強力なものがあったはずであるのに鋭さに欠けるナイフであったとか,本気なら以前に警察でDNA型を検査された被告人の靴を借りようとはしないと思ったなどと述べる。

 

   しかしながら,Aは,平成26年1月15日当時,借金まみれで他に確実な金策がない中で翌日までに被告人に対する債務の弁済のために40万円を用意しなければならない状況において,強盗をすることを宣言して被告人に協力を依頼し,Nシステムを気にして「◇◇」への経路を下見し,被告人に強盗に用いる捨ててもよい靴の提供を依頼し,夜には全身黒ないし黒っぽい色の格好をして体毛を落とさぬようにとズボンの裾を靴下に入れ,被告人の用意した靴を履いたこと,勢い付けの酒を防犯カメラに映ることを怖れて被告人に買いに行かせ,実際にそれを飲んだこと,強盗に用いるというナイフ様の物を所持し,バッグに入れていたこと,二か所で断念しても引き続き強盗を敢行する意思を少なくとも客観的には示していたことなど,平成25年中に示していた強盗に係る言動とは一線を画する本気度の高さがうかがわれる言動を示していたものであり,被告人の公判供述によっても,これらの事情を被告人も認識していたことが明らかである。また,被告人の公判供述によっても,被告人は「■■」付近に本件自動車を止めてAが同車を降りて同店に向かった後に,駐車場所が丁字路付近のため通行車両の運転者に見られている気がしたために自らの判断で本件自動車を少し移動させた上,Aが戻ってくるのを見逃さないように前を見ていて,Aが戻ってきた時にはすぐにパッシングで合図をしたというのであるから,自らも犯行発覚を防ぐ工夫をしていたことになる。さらに,本件強盗の前に本件被害店関係者とおぼしき人物の追跡を言い出したのは被告人であった。加えて,本件強盗後の平成26年1月18日以降のAとの逃亡中,Aに対し,「あの日(本件強盗の日)は,絶対(強盗を)やると思った」旨告げたことは,Aのみならず,被告人自身も当公判廷で認めていることである。

 

   そもそも,被告人は,上記2(2)の事実のとおり,3万5000円程度の金にも困って同月14日に元妻に懇願してこれを借り,その際,翌日にAから返済資金が入る旨伝えているのであり,さらに,Aの本件強盗時にはその金も既に相当額費消し,所持金が1万円程度に減少しており,金に窮していたのであるから,被告人がAがパフォーマンスをしているだけで端から強盗をする気がないと確信していたというのなら,日中からAの言う強盗の下見に付き合い,嘘つきのAの依頼に応えて自己の靴を用意し,酒を買い,夜も長時間にわたり,Aの演技にだまされた振りをしてこれに付き合う必要など全くなく,かつ,Aとは対等の友人関係にあったのであるから,Aを叱責等して人から借金をするなどまともな金策を考えるよう諭すなどするのが合理的な行動である。しかし,実際にはそれをしないどころか,被告人は,Aが強盗を実際に行ったと知った後も,罪証隠滅や強取金の確認,逃亡にすんなりと加担し,強取金からの分配に預かることにも躊躇する意思を示さずに合計90万円余りもの現金を受け取っているものである。

 

   以上からすると,被告人は,Aがそれまでも強盗の話を何度もしながら実行に移さなかったこと等から,怖じ気づいて結果として強盗を行えない可能性は相当程度あると認識していたとは認められるものの(それ故,Aが強盗を行ったことを知った際に被告人が示した言動も,被告人がAが強盗の意思を有することを事前に認識していたことと特に矛盾しない。),Aの言動等からAには実際に強盗をする意思があり,Aが強盗に成功すれば自分も強取金から現金を取得できると認識し,その成功を期待してAの店舗強盗に加担していたものと優に推認できるから,被告人の強盗の犯意に欠けるところはなかったものと認められる。

 

6 以上から,被告人とAとの間に本件強盗の事前共謀の事実が疑いなく認められるから,被告人には判示の強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

 

   なお,本件公訴事実における強取金品は「現金約399万円及び携帯電話機1台(時価約5000円相当)」であるが,Bは,強取金は合計で362万5000円である旨供述しており,その根拠に係る供述も具体的であること,これに対し,Aは,被告人と分担して強取金を数えて計算したところ,399万円であった旨証言しているが(なお,被告人は不自然にもAから合計金額は聞いていない旨公判で供述する。),千円札が大量にあったこと等に照らして数え違いや計算違いの可能性を否定できないことなどからすれば,362万5000円を超える部分を認定するには合理的な疑いが残る。したがって,強取金は362万5000円と認定される。

 

   また,Aは,既に認定したとおり,本件強盗の機会にBから本件携帯を奪っているが,その目的は,通報を防ぐためにその占有を奪い,隠匿・毀棄するというものであったと認められるから,Aにつき不法領得の意思を欠く上,被告人との共謀の範囲外の品でもあるから,本件携帯は強盗罪の共謀共同正犯の被害品には当たらない。

 

(累犯前科)

  被告人は,平成16年3月24日富山地方裁判所で監禁,暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により懲役2年(4年間執行猶予,平成19年1月22日その猶予取消し)に処せられ,平成21年5月20日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は前科調書(乙19)によって認められる。

 

(法令の適用)

 罰条       刑法60条,236条1項

 累犯加重     刑法56条1項,57条,14条2項

 酌量減軽     刑法66条,71条,68条3号

 未決勾留日数算入 刑法21条

 訴訟費用     刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)

 

(量刑の理由)

  本件は,被告人と共犯者(A)とが共謀の上,共犯者が単独で実行行為を行ったスーパーマーケットにおける現金強奪型の強盗事件である。

  その犯行の態様は,実行犯で首謀者である共犯者において,相手を脅すナイフ様の物等を準備の上,狙った店舗の閉店を待ち,その閉店から余り時間の経っていない時間帯を狙って,従業員が同店舗通用口から出てくるのを待ち伏せた上,被害者(B)が扉を開けたところで上記凶器を突き付けて畏怖させ,金庫を開けさせるなどして,現金を奪ったというものであり,計画的で手口も悪質である。また,その被害額も約362万円という多額である。

 

  そして,被告人は,共犯者に対する債権の回収のためと運転行為の報酬受領への期待から,共犯者の依頼に応じて強盗前後の自動車の運転を担当して共犯者と長時間行動をともにし,共犯者の移動,逃走等を援助して本件強盗の実現に寄与したものであり,共犯者の果たした役割に比べれば相当小さいものの,一定の重要な役割を果たしたといえる。さらに,被告人は,目論見どおり上記強取金から債務弁済分として40万円を回収できたほか,運転行為の報酬分として50万円余りを取得したものであり,加担して得た利益も少なくない。

 

  以上の犯情に加え,被告人が前述の累犯前科等の前科を有するのに本件に及び,現段階でも反省が十分でないこと等にも鑑みると,被告人に酌量減軽を施すべきであるとはいえ,運転行為の報酬分は将来弁償したい旨被告人が述べていることなど,他の有利な事情を斟酌しても,被告人を主文の刑に処するのが相当である。(求刑 懲役5年)

 

   平成27年3月31日

 

     富山地方裁判所刑事部

 

            裁判官  田中聖浩