相続の開始後認知によって相続人となった者

 

 

 

 

 

 

 

 最高裁判所第2小法廷判決/平成26年(受)第1312号、平成26年(受)第1313号 、判決 平成28年2月26日 、LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

1 相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時である 

 

      

2 民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  本件上告及び附帯上告を棄却する。

  上告費用は上告人の,附帯上告費用は附帯上告人らの負担とする。

 

        

 

 

理   由

 

  上告代理人村田敏の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)及び附帯上告代理人森田健二ほかの附帯上告受理申立て理由について

 

 

1 本件は,Aの相続開始後認知によってその相続人となった上告人・附帯被上告人(以下単に「上告人」という。)が,Aの子であり,Aの遺産について既に遺産の分割をしていた被上告人・附帯上告人ら(以下単に「被上告人ら」という。)に対し,民法910条に基づく価額の支払を求める事案であり,同条の定める価額の支払請求をする場合における遺産の価額算定の基準時及び価額の支払債務が遅滞に陥る時期が争われているものである。

  

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  

(1) Aは,平成18年10月7日に死亡した。Aの妻であるB及び子である被上告人らは,平成19年6月25日,Aの遺産について,遺産の分割の協議を成立させた。Aの遺産のうち積極財産の評価額は,同日の時点において,総額17億8670万3828円であった。

  

(2) 上告人は,平成21年10月,上告人がAの子であることの認知を求める訴えを提起したところ,上告人の請求を認容する判決が言い渡され,同判決は平成22年11月に確定した。

  

(3) 上告人は,平成23年5月6日,被上告人らに対し,民法910条に基づく価額の支払を請求した。Aの遺産のうち積極財産の評価額は,同日の時点において,総額7億9239万5924円であった。

  

(4) 上告人は,平成23年12月,本件訴訟を提起した。第1審は平成25年9月30日に,原審は平成26年2月3日に,それぞれ口頭弁論を終結した。Aの遺産のうち積極財産の評価額は,第1審の口頭弁論終結日の時点において,総額10億0696万8471円であった。

  

 

3(1) 相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。

 

  なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,

 

 他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,

 

 他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,

 

 認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,

 

 その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。

 

 

  そうすると,本件の価額の支払請求に係る遺産の価額算定の基準時は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日である平成23年5月6日ということになる。

  

 

(2) また,民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。

 

  そうすると,本件の価額の支払請求に係る遅延損害金の起算日は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日の翌日である平成23年5月7日ということになる。

 

  4 所論の点に関する原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。

 

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 千葉勝美 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)