民法733条1項の規定(再婚禁止期間を設ける部分)(9)

 

 

 

 

 

 

 引き続き最高裁判所大法廷判決/平成25年(オ)第1079号 、判決 平成27年12月16日 、裁判所時報1642号9頁、補足意見について検討します。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について

 

 

 

1 本件規定が違憲になった時期

 

  本件規定について,憲法違反という評価がされるに至ったのは,一つは科学技術の発展により生物学上の父子関係を容易かつ正確に判定することが可能となったことであるが,それだけではなく,第2次世界大戦後の国際的な人権活動や差別反対運動などにより地球規模で男女平等・性差別の撤廃をめざす大きな潮流があったことも影響している。したがって,再婚禁止の制度が違憲となった時期は上記の2つの要素があいまって,その成果が結実した時点であるといって差し支えない。私は,遅くとも21世紀に入った段階(平成13年)ではこれらの要素が備えられ,この時点では既に違憲になっていたと考える。

  

 

2 本件立法不作為の違法性

 

  私は,立法不作為の国家賠償法上の違法性を判断する基準については,多数意見第3の1に示されたところに異論を唱えるものではない。しかしながら,その基準を本件に適用した結論については賛同することができない。その理由は,以下のとおりである。

 

  本件規定を改廃しない立法不作為の違法性については,これを否定した先例である平成7年判決における立法不作為の判断基準時が平成元年であったのに対し,本件では上告人が前婚を解消した平成20年の時点における立法不作為の違法性が問題とされているのであって,その間には20年近くという長い期間が経過しており,妨げにはならない。

 

 平成3年以降,DNA検査技術が発達し,生物学上の父子関係を容易かつ正確に判定することができるようになったことは公知の事実である。また,その間,婚姻や家族をめぐる国民の意識や社会状況はかなり変化しており,再婚禁止期間の制度を廃止する諸外国の傾向が明らかになり,国連の委員会からも繰り返し本件規定の廃止勧告等がされているのである。

 

 

  そうすると,本件規定が,離婚等により前婚を解消した女性に一律に6箇月間再婚を禁止していることが婚姻の自由の過剰な制約であって憲法に違反するに至っていたことは,上告人が離婚をした平成20年より相当前の時点において,国会にとっては明白になっていたというべきである

 

(なお,多数意見のように本件規定のうち100日超過部分に限って違憲であると考えるとしても,平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において再婚禁止期間を100日に短縮する改正案が示されており,その際の議論において,100日超過部分を存続する必要性があることを合理的に説明できる理由が挙げられておらず,加えて憲法及び民法の研究者の本件規定についての研究をも参照すれば,その頃以降は,国会にとって,父性の推定の重複を回避するためには再婚禁止期間が100日で足りることが明白になっていたということができよう。)。

 

 

  そして,本件規定につき国会が正当な理由なく長期にわたってその廃止の立法措置を怠ったか否かについては,本件規定を改廃することについて立法技術的には困難を伴うものではないから,遅くとも平成20年の時点においては,正当な理由なく立法措置を怠ったと評価するに足りる期間が経過していたというべきである。

 

 

  以上の検討によれば,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとともに,過失の存在も否定することはできない。このような本件立法不作為の結果,上告人は,前婚を解消した後,直ちに再婚をすることができなかったことによる精神的苦痛を被ったものというべきである。

 

 

  したがって,本件においては,上記の違法な本件立法不作為を理由とする上告人の国家賠償請求を認容すべきであると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 櫻井龍子 裁判官 千葉勝美 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 山浦善樹 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 木内道祥 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕)