引き続き最高裁判所大法廷判決/平成25年(オ)第1079号 、判決 平成27年12月16日 、裁判所時報1642号9頁、補足意見について検討します。
裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
第1 100日の再婚禁止期間を設けることの合理性
現行の父性の推定の規定を前提とすると,100日の再婚禁止期間を設けなければ父性の推定の重複が生じる状態での子の出生があり得る。この場合,子の法律上の父は,父を定めることを目的とする訴え(ないし家事事件手続法277条の合意に相当する審判)を経ない限り決定できない。
近時のDNA検査など,生物学上の父子関係の有無を確認する技法の発達により,父を定めることが困難であることはほとんどないものの,上記の法的手続をとらなければならないという負担は軽視できない。
父を定めることを目的とする訴えでは,前夫は生存している限り当事者とする必要があり(人事訴訟法43条),前夫の嫡出推定が及んでいる以上,後夫による認知はできない。母,後夫,前夫のいずれもが法的手続をとろうとしない場合,子は,訴訟能力の制限は受けない(人事訴訟法13条)ものの,意思能力が備わらない限り自ら提訴はできず,意思能力のある年齢に達したからといって,実際上,自分で父を定めることを目的とする訴えを提起することは期待し難い。
すると,前夫はもちろん,母ないし後夫が法的手続をとらないままにするケースが多数生じることが予想される。そのような場合,出産の時点で父が定まらないだけにとどまらず,父が決まらないままの状態に子が長期間置かれることになるが,これは,子の利益を著しく損なうものである。
なお,私も,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分の適用除外については共同補足意見のような解釈が妥当であると考えており,それを前提とすると,100日の再婚禁止期間が設けられても,その適用を受ける事案は限られてくる。
このように,生まれてくる子の利益と再婚する女性にとっての不利益の双方を考えれば,100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項及び24条2項に違反するものでないということができる。
第2 100日を超える再婚禁止期間を設けることの合理性
多数意見は,本件規定のうち100日超過部分の合理性を検討するについて,婚姻後に前夫の子が生まれる可能性を減らすという観点,婚姻後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすという観点からも正当化し得ないとしている。
これを具体的に考えると,100日の再婚禁止期間を維持して嫡出推定の重複が生じないことが前提となるので,次のような事態が考えられる。
① 前夫の子と推定され,それが事実であるが,婚姻後に前夫の子が出生すること自体により家庭の不和
(紛争)が生じる。
② 前夫の子と推定されるが事実は後夫の子なので,紛争を生じる。
③ 後夫の子と推定されるが事実は前夫の子なので,紛争を生じる。
①についていえば,これを回避するためには再婚禁止期間は6箇月では足りず300日とする必要がある。また,これは,妻が再婚かどうかにかかわらず,夫の子と推定されない子(婚姻後200日以内に生まれた子)が婚姻後に出生して,事実としても夫の子でない場合に生じ得る紛争の一類型であり,妻が再婚の場合に限って回避しようとすることになる。つまり,本件規定のうち100日超過部分は,再婚でなくても生じ得る紛争について,それを防止するために,再婚する女性に限って,紛争回避のために不十分な措置を設けたものであり,紛争防止のためとはいえ,これに合理性を認めることはできない。
②としては,前夫と事実上の離婚をし,その後,後夫との事実婚が始まり,その後に前夫との離婚が成立し,後夫との婚姻届という事案が想定され,実際上も例が多いと思われる。再婚禁止期間を設けることは,後夫との事実婚を阻止できるものではなく,この類型の紛争防止に無力である。
③としては,前夫との交際が,離婚後も後夫との婚姻に近い時期以降まで続いていたという事案が想定される。実際上は,まれなものと思われるが,前夫との交際が続くことと再婚禁止期間を設けることは無関係である。
②③のいずれも,父性の推定とそれを覆す方法の合理性の問題であって,再婚禁止期間を100日を超えて設けることによって紛争を回避できるものではない。
このように,再婚禁止期間を設けるについて,100日間については,父性の推定の重複を回避するという合理性があるが,100日を超える部分については,父子関係をめぐる紛争の防止の方策としては合理性が認められないのである。