ログイン日時の契約者に関する情報の開示を命じた事例

 

 

 

 

 東京地方裁判所判決/平成26年(ワ)第22903号 、判決 平成27年4月16日 、LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 フェイスブックにおいて,氏名不詳者が名誉を毀損する記事や脅迫する記事を投稿したと主張する原告が,被告に対し,発信者情報の開示を求めた事案。裁判所は,本件各記事は,原告がフェイスブックの不正利用,偽造という違法行為を行い,他人を攻撃しているとの印象を抱かせ,また,原告に攻撃を加える意思を表明しているもので,原告の権利が侵害されたことは明らかであり,本件ログイン者と本件各記事を投稿した者は同一人物と認められるから,本件ログイン者は,本件各記事の「発信者」に該当するとし,原告には発信者情報の開示を受ける正当な理由があると認め,本件記事1が行われた直近のログイン日時の契約者に関する情報の開示を命じた事例 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  

 

1 被告は,原告に対し,IPアドレス「○○○.○○○.○.○○」を平成26年6月14日午後8時08分09秒頃に使用して被告の管理する特定電気通信設備に接続した電気通信回線の同日時における契約者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスを開示せよ。

  

 

2 原告のその余の請求を棄却する。

  

 

3 訴訟費用は,これを12分し,その11を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 

        

 

事実及び理由

 

 

 

第1 請求

    被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。

 

 

第2 事案の概要

  

 

1 事案の要旨

    

 原告は,フェイスブック(インターネットで閲覧可能なソーシャルネットワーキングサービスである。)において,氏名不詳者が原告の名誉を毀損する記事や原告を脅迫する記事を投稿したと主張して,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めている。

 

 

 

 

 

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 

平成十三年十一月三十日法律第百三十七号 

 

 

第四条   特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。 

 

一   侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。 

 

 

二   当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 前提となる事実(証拠を付記したものを除き,当事者間に争いがないか,又は弁論の全趣旨により認定できる。)

   

(1) 被告は,移動体通信事業等を目的とする株式会社である。

   

(2) 原告は,平成22年10月から,フェイスブックのアカウントを取得し,利用していた。

   

(3) 平成26年6月17日及び同月18日,別紙投稿記事目録記載の各記事(以下「本件各記事」という。)がフェイスブックに投稿された(甲2の1から3まで)。

   

(4)

 

ア 原告は,フェイスブックアイルランドリミテッドを債務者として,本件各記事の投稿に使用された別紙投稿記事目録のユーザーアカウント欄に記載のユーザーアカウント(以下「本件アカウント」という。)について,ログインに関する年月日,時刻及びIPアドレスの開示を求める仮処分命令の申立てをしたところ,東京地方裁判所は,これらを仮に開示することを命ずる決定をした(当庁平成26年(ヨ)第2257号)(甲3)。

    

イ フェイスブックアイルランドリミテッドは,平成26年8月22日,別紙IPアドレス目録記載の各IPアドレス(以下「本件各IPアドレス」という。)を原告に開示した(甲4)。

    

ウ 本件各IPアドレスは,被告が保有するIPアドレスであり,氏名不詳者が被告を経由プロバイダとしてフェイスブックにログインする際に用いられたものである(甲5の1から13まで,甲6)。

  

 

 

3 争点及びこれに関する当事者の主張

   

 

(1) 本件各記事によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号)

   

 

(原告の主張)

    

 

ア 本件各記事の直前に本件アカウントから投稿された記事には,原告の氏名とともに原告の使用するアカウントから送信されたメッセージの画像が引用され,原告の顔写真も表示されている。したがって,本件各記事は,原告に関する記載である。

    

 

イ 別紙投稿記事目録記載1の記事(以下「本件記事1」という。)には,原告について「中傷嫌がらせの犯人です。」,「自分たちの犯行を隠蔽するため」,「中傷被害者を装ってますが偽装工作と嘘がバレて自爆」との記載があるところ,これらは,原告が犯罪行為又は迷惑行為を行い,それを隠すために偽装工作を行っているとの事実を摘示している。

      

 また,本件記事1には,「釣りアカ」との記載があるところ,これは,原告の用いるアカウントが,アカウントの乗っ取りやスパム行為などを行うために開設されたアカウントであり,このアカウントを用いる原告がフェイスブック上でそのような行為を行っている人物であるとの事実を摘示している。

      

 そして,これらの記載は,原告の社会的評価を低下させるものであり,虚偽の事実を摘示したものであって,違法性阻却事由はない。

      

 したがって,本件記事1は,原告の名誉を侵害することが明らかである。

    

 

ウ 別紙投稿記事目録記載2の記事(以下「本件記事2」という。)には,「私もX1を名指しで攻撃しまくるからね」との記載があるところ,これは,原告に対する中傷を今後も継続して行うという宣言であって,原告に対する害悪の告知である。

      

 そして,このような害悪の告知について,違法性阻却事由はない。

      

 したがって,本件記事2は,原告の人格権を侵害することが明らかである。

    

 

エ 別紙投稿記事目録記載3の記事(以下「本件記事3」という。)には,原告が「診断書を捏造してAを名指しで犯罪者扱いして中傷する記事を投稿しました。」との記載があるところ,これは,原告が診断書を捏造したとの事実を摘示している。

      

 そして,診断書の捏造は,文書偽造罪等の犯罪に当たり得る行為であるから,上記の記載は,原告の社会的評価を低下させるものであり,虚偽の事実を摘示したものであって,違法性阻却事由はない。

      

 したがって,本件記事3は,原告の名誉を侵害することが明らかである。

   

 

 

 

(被告の主張)

    

ア 「X1」という氏名の者は原告以外にも多数存在すると考えられ,また,本件記事1及び本件記事3には「X1」以外の人物の氏名と思われる記載も複数存在し,特に「B」を対象とする記載が中心となっていると読み取れるから,「X1」との記載があることのみをもって,本件各記事が原告に関する記載であるとは読み取れない。

    

イ 本件記事1の「中傷嫌がらせの犯人」,「自分たちの犯行を隠蔽」,「偽装工作と嘘」との記載は,その具体的内容が明らかではないから,原告が犯罪行為や迷惑行為を行ったとの事実が摘示されているとはいえない。

    

ウ 本件記事2の「私もX1を名指しで攻撃しまくるからね」との記載は,投稿者が自らの意見や決意を述べたものとしか読み取れない。

    

エ 本件記事3の「診断書を捏造」との記載は,「捏造」の具体的な内容が明らかではないから,原告が犯罪行為を行ったとの事実が摘示されているとはいえない。

    

オ 仮に,本件記事1及び本件記事3が名誉を侵害するものであるとしても,犯罪又は不正行為を摘示するものであるから,公共の利害に関するものでないことが明らかでなく,専ら公益を図る目的でされたものでないこと及び本件各記事の内容が真実でないことも明らかでない。したがって,本件記事1及び本件記事3に違法性阻却事由がないことが明らかであるとはいえない。

   

 

(2) 本件各IPアドレスを使用して被告の管理する特定電気通信設備に接続した電気通信回線の契約者(以下「本件ログイン者」という。)の情報が開示請求の対象となるか

  

(原告の主張)

    

ア 原告は,本件アカウントにログインした際に用いられたIPアドレスを使用した者の情報の開示を求めており,直接的には,本件各記事を投稿した際に用いられたIPアドレスを使用した者の情報の開示を求めるものではない。

      

 しかし,本件アカウントにログインしなければ,本件各記事を投稿することができない上,ログインするのは通常は1人のみであり,本件各記事を投稿した者と本件ログイン者は同一人物であるとの高度の蓋然性があるから,本件ログイン者は「発信者」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(以下「省令」という。)1号,2号)に当たる。

      

 仮に,同一人物とはいえず,「発信者」に当たらないとしても,法が開示対象としているのは「侵害情報の発信者の特定に資する情報」(法4条1項)であり,本件ログイン者の情報は,本件各記事を投稿した者を特定するのに資する情報であるから,本件ログイン者は,「その他侵害情報の送信に係る者」(省令1号,2号)に該当するというべきである。したがって,本件ログイン者の情報も開示の対象となる。

    

イ 以上のことは,ログインの日時が本件各記事が投稿された前か後かによって左右されない。また,フェイスブックにおいては記事の編集や削除も可能であるところ,本件記事1は,投稿後に内容が編集されているから,投稿日時以後のログインも侵害情報の流通と関わりがあり,「侵害情報の発信者の特定に資する情報」であって,開示の対象となる。

   

 

(被告の主張)

    

ア フェイスブックでは,同一のアカウントを複数の人物が管理・運営することもできること,パスワード等を共有すれば,アカウント作成者以外の者でも投稿できること,本件各記事の投稿と最も近接した日に行われたログインが本件各記事の投稿よりも3日も前であることからすれば,本件各記事を投稿した者と本件ログイン者が同一人物とは限らない。

      

 法が「当該権利の侵害に係る発信者情報」を開示の対象としていること(4条1項),省令1号及び2号が「侵害情報の送信に係る者」との限定を付していることからすれば,開示の対象は,開示請求者の権利を侵害したとされる情報の発信者についての情報に限られるというべきである。そして,本件ログイン者は,本件アカウントにログインしたにすぎず,ログインによって原告の権利を侵害するわけではないから,そのような者の情報は,「当該権利の侵害に係る発信者情報」ということはできない。

    

イ 本件各記事が投稿された日よりも後の日である平成26年7月5日以降のログインに用いられたIPアドレスの使用者の情報は,開示の対象にならない。

   

 

 

 

(3) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(法4条1項2号)

   

 

(原告の主張)

    

 原告は,本件各記事の発信者に対し,不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であるが,この権利を行使するためには,被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受ける必要がある。

   

 

(被告の主張)

    

 本件各IPアドレスを利用した者の氏名又は名称及び住所を知れば損害賠償等を請求することは可能であるから,これらに加えて,電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由は存在しない。

 

 

 

  

 

(4) 被告が開示関係役務提供者(法4条1項)に当たるか

  

(原告の主張)

     

 本件各記事は,インターネットを通じて不特定の者が自由に閲覧することができるから,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信であって,特定電気通信(法2条1号)に当たる。

     

 また,本件各記事は,被告を経由プロバイダとして,被告のリモートホストを経由して投稿されたところ,そのようなリモートホストは特定電気通信の用に供される電気通信設備であり,特定電気通信設備(法2条2号)に当たる。

     

 そして,被告は,特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する者であるから,特定電気通信役務提供者に当たる(法2条3号)。

     

 本件各記事は,(1)に記載のとおり,原告の名誉を毀損し,原告を脅迫するものであって,原告の権利を侵害するところ,被告は,原告の権利を侵害する特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であるから,開示関係役務対象者(法4条1項)に当たる。

   

 

 

(被告の主張)

     

 被告は,(3)に記載のとおり,本件ログイン者とフェイスブックアイルランドリミテッドとの間のフェイスブックへのログインのための電気通信を媒介したにすぎないところ,これは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信ではなく,特定電気通信(法2条1号)に当たらないから,特定電気通信役務提供者に当たらない。

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

  

 

1 本件各記事によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(法4条1項1号)(争点(1))

   

 

(1) 前提となる事実に加えて,証拠(甲2の1から4まで,甲7,甲8,甲10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

    

ア 原告は,原告が写っている写真の削除を求めるメッセージをフェイスブック上で本件アカウントに送信したところ,平成26年6月15日午後9時51分頃,本件アカウントから,原告のメッセージを引用した上,「釣りバカC親衛隊のX1が釣れました」との記事が投稿された。なお,上記記事に引用されている原告のメッセージには,原告と原告の妹が写っている写真が表示されている。

    

イ 原告は,同月16日,警視庁玉川警察署に診断書を提出した上,「A」によって投稿された記事についての被害申告をしたとの内容の記事を投稿し,「うつ状態」との記載のある診断書(甲8)の画像を投稿した。

    

ウ 本件アカウントから,同月17日午前9時28分頃に本件記事1が,同日午後5時01分頃に本件記事2が,同月18日午前10時49分頃に本件記事3が,それぞれ投稿された。

   

 

(2) 上記認定事実によれば,本件各記事を投稿した者は,これに先立ち,原告が本件アカウントに送信したメッセージを引用した上で,原告の氏名を挙げて投稿を行っており,また,引用された原告のメッセージには原告の顔写真も写っているから,本件各記事の一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,本件各記事における「X1」が原告を指すことは明らかである。

   

 

(3) 本件記事1に記載の「釣りアカ」とは,女性の写真を添付するなどして閲覧者の興味を引く架空のアカウントを指す(甲9の1,2)ところ,本件各記事は,その一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,原告がフェイスブックで用いているアカウントは上記のような架空のアカウントであるとの事実及び原告がうつ状態であるとの診断書を偽造し,これに基づいて「A」を犯罪者扱いして誹謗中傷したとの事実を摘示するものと解される。

 

 かかる事実は,原告がフェイスブックの不正利用を行い,また,偽造という違法行為を行った上,これに基づいて他人を攻撃しているとの印象を抱かせ,原告の社会的評価を低下させるものである。

     

 

 また,本件記事2は,原告の社会的評価を低下させるにとどまらず,原告に攻撃を加えるとの意思を表明しているものであり,脅迫に当たる。

   

 

(4) 本件各記事の記載内容を見れば,単に原告を攻撃するにとどまり,公益を図る目的に基づいて本件各記事が投稿されたことはうかがわれない。

     

 また,本件記事2のような脅迫行為を正当化する事情は見当たらない。

     

 そうすると,本件各記事について,違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情はないというべきである。

   

(5) したがって,本件各記事により,原告の権利が侵害されたことは明らかである。

  

 

 

 

2 本件ログイン者の情報が開示請求の対象となるか(争点(2))

   

 

(1)

 

ア 前提となる事実(4)ア,証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,本件アカウントは,「A」という個人名で使用されていること,フェイスブックのアカウントにログインしなければフェイスブックに投稿できないこと,本件各IPアドレスを使用して本件アカウントにログインしたのはいずれも同一人物であること,以上の事実が認められる。

      

 フェイスブックのようなソーシャルネットワーキングサービスは,会社その他の団体が使用するアカウントであれば格別,個人のアカウントは,当該個人のみが使用するのが通常であって,他人にパスワードやIDを教えてアカウントを共有することは考え難い。そして,本件アカウントの記事内容を見ても,アカウントを複数人が共有していることをうかがわせる事情は見当たらず,同一人物が投稿していると考えるのが自然である。

      

 

 そうすると,本件各IPアドレスを使用して本件アカウントにログインしたのは同一人物であり,フェイスブックに投稿するためにアカウントにログインすることが必要である以上,本件ログイン者と「A」を名乗って本件各記事を投稿した者は同一人物であると認められる。

    

 

イ 被告は,本件各記事と最も近接した日に行われたログインが,本件各記事が投稿された日から3日も前であることからすれば,本件ログイン者と本件各記事を投稿した者が同一人物とは限らないと主張する。

      

 しかし,ログインと投稿の間に日時が空いているからといって,直ちに本件ログイン者以外の者が本件各記事を投稿した可能性が生ずるとはいえないし,アカウントを複数人が共有していることをうかがわせる事情が見当たらないことは前記説示のとおりである。

      

 したがって,被告の主張するような事情は上記判断を左右しない。

    

 

ウ なお,証拠(甲4)によれば,本件記事1と本件記事2の間の平成26年6月17日午後3時38分47秒頃(日本時間),本件アカウントにIPアドレス「○○○.○○○.○○○.○○○」を用いてログインがあったことが認められる。

 

しかし,証拠(甲23,24)によれば,上記IPアドレスは,D株式会社の管理するネットワーク「△△」のIPアドレスであると認められ,上記IPアドレスによるログインは,携帯電話以外の端末からのログインであることが推認される。

 

そして,本件ログイン者が携帯電話以外の端末から本件アカウントにログインをすることも不自然ではないから,上記のログインがあったことは,上記判断を左右しない。

   

 

(2) 上記判断を前提とすると,本件ログイン者は,本件各記事の「発信者」(省令1号から3号まで)に該当するから,別紙発信者情報目録に記載の各情報は,「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)として,原告はその開示を求めることができるというべきである。

     

 

 ところで,本件記事1が行われたのが平成26年6月17日午前9時48分であるところ,本件記事1は,その直近のログインである別紙IPアドレス目録記載の同月14日午後8時08分09秒頃のログインによって投稿されたことが推認される。

 

 そうすると,同ログイン日時における契約者に関する情報を開示すれば,本件各記事の発信者を特定するのに十分であるから,その開示を命ずるにとどめるのが相当である。

  

 

3 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(法4条1項2号)(争点(3))

   

 

(1) 原告が,本件各記事を投稿した者に対して損害賠償等の請求を行うためには,本件ログイン者の氏名又は名称及び住所を知る必要があるから,その開示を受けるべき正当な理由があると認められる。

   

 

(2) 原告は,これに加えて,電子メールアドレスの開示も請求しているところ,被告は,氏名又は名称及び住所を知れば損害賠償等を請求することは可能であるから,これらに加えて,電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由は存在しないと主張する。

     

 しかし,原告が損害賠償等の請求を行う上で,本件ログイン者に連絡を取って事実関係を確認したり,裁判手続によらず任意に損害賠償を求めたりするためには,その連絡先を知る必要があり,連絡先として電子メールアドレスの開示を受ける必要があるといえるから,これについても,発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。

  

 

4 被告が開示関係役務提供者(法4条1項)に当たるか(争点(4))

    

 被告は,本件ログイン者とフェイスブックアイルランドリミテッドとの間のフェイスブックへのログインのための電気通信を媒介したにすぎないところ,これは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信ではなく,特定電気通信(法4条1項,2条1号)に当たらないから,被告は特定電気通信役務提供者に当たらないと主張する。

    

 しかし,前記認定のとおり,本件ログイン者と同一の人物により本件各記事が投稿されたと認められるところ,そうであれば,本件各記事を投稿した者は,被告を経由して本件各記事を投稿したことが推認される。

 

 そして,本件各記事の投稿自体は,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信に当たるから,被告は,特定電気通信役務提供者に当たると認められる。

 

 

第4 結論

    

 以上の次第で,原告の請求は,主文第1項の限度で理由がある。

     

 

東京地方裁判所民事第37部

 

         裁判長裁判官  村上正敏

            裁判官  伊藤健太郎

   裁判官北嶋典子は,転補のため,署名押印することができない。

         裁判長裁判官  村上正敏

 

 

(別紙)

        

発信者情報目録

 

  別紙IPアドレス目録記載の各IPアドレスを同目録記載のログイン日時頃に使用して被告の管理する特定電気通信設備に接続した電気通信回線の同時刻における契約者に関する下記情報

          

 

 

 

① 氏名又は名称

② 住所

③ 電子メールアドレス

                                 以上