罪に当たる行為を実行するための組織

 

 

 

 

 最高裁判所第3小法廷決定/平成27年(あ)第177号、判決 平成27年9月15日、 LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】 破綻状態で返還能力等がないのに預託金等を集める行為を継続したリゾート会員権販売会社の営業活動が詐欺であり,そのような行為を実行することを目的として成り立つ役員と従業員らによって構成される組織は,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成23年法律第74号による改正前のもの)3条1項にいう詐欺「罪に当たる行為を実行するための組織」に当たるとされた事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  本件上告を棄却する。

  当審における未決勾留日数中140日を本刑に算入する。

 

        

 

 

理   由

 

  弁護人松本和英,同松下勝憲の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 

  所論に鑑み,平成23年法律第74号による改正前の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)3条1項9号違反の罪(以下「組織的詐欺罪」という。)の成否につき,職権により判断する。

 

  

1 第1審判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,以下のとおりである。

 

  被告人は,

 

 株式会社A(以下「A」という。)の全株式を実質的に保有し,

 

 同社の実質オーナーとして業務全般を統括掌理していたもの,

 

 Aは,会員制リゾートクラブであるB倶楽部の会員権販売等を共同の目的とする多数人の継続的結合体であって,

 

その目的を実現する行為を組織により反復して行っていた団体であるところ,

 

 被告人は,

 

 Aの営業部門の統括責任者であるC(以下「C」という。)並びにAの役員及び従業員と共謀の上

 

 Aの活動として,Cらをその構成員とする組織により,

 

 真実はAが大幅な債務超過の状態にあり,施設利用預託金の5年後の返還及び付与された宿泊ポイントの未利用分の払戻しに応じる意思も能力もないのに,

  

 

(1) 上記B倶楽部の施設利用預託金及び施設利用料の名目で金銭を詐取しようと考え

 

 平成21年9月上旬頃から平成22年5月下旬頃までの間,合計144名の被害者に対し

 

 Aの営業員及び電話勧誘員において,

 

「預託金は5年後に戻ります。」

 

「使い切れなかったポイントは現金で換金することが可能となっています。」などと嘘を言い,

 

上記被害者らをして,

 

施設利用預託金の5年後の返還及び付与された宿泊ポイントの未利用分の払戻しが確実に受けられる旨誤信させ,よって,上記被害者らから現金合計2億6999万円余の交付又は振込入金を受け,

  

 

(2) 既に上記B倶楽部に施設利用預託金及び施設利用料を支払わせていた会員に対し,

 

 既存会員資格より上級のコースに再入会させる「グレードアップ」等を勧めて同会員らへの施設利用預託金の返還及び宿泊ポイントの未利用分の払戻しの履行期限を延期する財産上の利益を得るとともに,

 

 新たにグレードアップ等するコースの施設利用預託金及び施設利用料と既に支払済みの施設利用預託金及び宿泊ポイント未利用分との差額の金銭を詐取しようと考え

 

 平成21年9月上旬頃から平成22年5月下旬頃までの間,合計50名の被害者に対し

 

 Aの営業員及び電話勧誘員において

 

「銀行に預けるよりもお得ですし,損することはありません。」などと嘘を言い,上記被害者らをして,新たにグレードアップ等したコースの施設利用預託金の5年後の返還及び付与された宿泊ポイントの未利用分の払戻しが確実に受けられる旨誤信させ

 

 よって,上記被害者らから現金合計1億3581万円余の交付又は振込入金を受けるとともに,同被害者らから合計1億5470万円余の返還の履行期限の延期を受けた。

  

 

 

2 原判決は,弁護人らの控訴趣意を受けて,Aの末端の営業員や電話勧誘員については詐欺行為に加担している認識があったとまでは認定できないとしたものの

 

組織的詐欺罪の成立を肯定するためには,

 

「団体の構成員全員が,指揮命令系統の末端に至るまで詐欺の故意を有し

 

詐欺行為の実行を目的として結合している必要はなく

 

団体の主要な構成員が上記のような結合体を構成していれば足りる」との法令解釈を示した上,

 

本件においては,

 

Aの業務全体を統括掌理していた被告人に加えて,

 

Cを始めとするAの主要な構成員につき

 

遅くとも平成21年9月上旬には,金銭詐取の故意を共有するに至ったと認定でき,

 

それ以降に行われた本件詐欺の各行為は,

 

Aという団体の意思決定に基づき,

 

詐欺を実行するための組織により行われたと評価できるから,

 

同旨の認定をしたものと理解可能な第1審判決の認定は結論において正当であるとした。

 

 

 

 

 

 

  3 所論は,組織的詐欺罪の成立を認めるためには,「団体の構成員全員が,自らその団体の活動に参加する意思を抱き,そのような構成員全員の意思が結合することで,犯罪組織を形成する必要がある」との前提に立ち,

 

Aの一般の営業員や電話勧誘員には,詐欺行為に加担しているとの認識がなかったし,構成員全員の意思の結合は認められないから,組織的詐欺罪の成立を認めた原判決の法令の解釈適用には,判決に影響を及ぼすべき誤りがある旨主張するものである。

 

 

 

 

 

  

 

4(1) 組織的犯罪処罰法3条1項は,犯罪に当たる行為が,団体の活動として,当該行為を実行するための組織により行われる場合は,継続性や計画性が高度であり,多数人が統一された意思の下に,指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って一体として犯罪を実行するという点で,その目的実現の可能性が著しく高く,また,重大な結果を生じやすいなど,特に違法性が高いところ,

 

詐欺を含む刑法の一部の罪については,このような形態で犯されることが多いにもかかわらず,その場合の法定刑として十分ではないと考えられたことから,このような犯罪を行った行為者を適正に処罰できるようにするため,刑法各条の加重類型を設けたものである。

  

 

(2) このうち,組織的詐欺罪は,刑法246条(詐欺)の罪に当たる行為が,団体の活動として,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われたとき,その罪を犯した者について成立する。

  

 

ア 組織的犯罪処罰法において「団体」とは,共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって,その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるものをいう(同法2条1項)。

 

 リゾート会員権の販売等を目的とする会社であって,Cを始めとする役員及び従業員(営業員,電話勧誘員ら)によって構成される組織により営業活動を行うAが「団体」に当たることについては疑問の余地がない。

  

 

イ そして,B倶楽部の施設利用預託金及び施設利用料を集める行為が,Aという団体の活動に当たること(Aの意思決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益がAに帰属するものであること)は明らかである。

  

 

ウ そうすると,問題は,上記行為が,「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」ものかどうか,すなわち,詐欺罪に当たる行為を実行することを目的として成り立っている組織により行われたといえるかどうかに尽きることになる。

 

原判決の認定によれば,被告人はもとより,Cを始めとするAの主要な構成員にあっては,

 

遅くとも平成21年9月上旬の時点で,

 

Aが実質的な破綻状態にあり,集めた預託金等を返還する能力がないことを認識したにもかかわらず,

 

それ以降も,上記ア記載の組織による営業活動として,B倶楽部の施設利用預託金及び施設利用料の名目で金銭を集める行為を継続したというのである。

 

上記時点以降,上記営業活動は,客観的にはすべて「人を欺いて財物を交付」させる行為に当たることとなるから,

 

そのような行為を実行することを目的として成り立っている上記組織は,

 

「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織」に当たることになったというべきである。

 

 上記組織が,元々は詐欺罪に当たる行為を実行するための組織でなかったからといって

 

 また,

 

上記組織の中に詐欺行為に加担している認識のない営業員や電話勧誘員がいたからといって,別異に解すべき理由はない。

 

 

  

 

5 以上のとおり,本件各詐欺行為は,Aという団体の活動として,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われたと認めることができる。これと同旨の判断を示して組織的詐欺罪の成立を肯定した原判決は正当である。

 

  よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 

 

 (裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 山崎敏充)