遺族補償給付不支給処分決定取消請求事件

 

 

 

 

 

 東京地方裁判所判決/平成26年(行ウ)第315号 、判決 平成27年8月28日 、LLI/DB 判例秘書について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】 訴外会社の海外現地法人社員Aが急性心筋梗塞により死亡したことから,原告(亡Aの妻)が,Aの死亡は業務上の死亡であるとして労災保険法に基づく遺族補償給付・葬祭料の支給申請をしたところ,中央労基署長は,いずれの請求も不支給決定したことから,被告(国)に対し,本件不支給決定の取消しを求めた事案。裁判所は,亡Aは海外事業所の事業に属してその事業に従事していたことから海外派遣者に当たり,労災保険法上の保険関係成立には特別加入の承認を必要とするところ,同承認を得ていないことから保険関係の成立は認められないとし,本件不支給決定に違法はないとして,いずれの請求も棄却した事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        

 

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

第1 請求

  

1 中央労働基準監督署長が原告に対し平成24年10月18日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分を取り消す。

  

2 訴訟費用は被告の負担とする。

 

 

第2 事案の概要

  

 

1 事案の要旨

    本件は,株式会社A(以下「訴外会社」という。)の上海現地法人の総経理であった亡B(以下「亡B」という。)が急性心筋梗塞を発症して死亡したことについて,亡Bの妻である原告が,亡Bの死亡は業務上の死亡に当たるとして労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給請求をしたところ,中央労働基準監督署長(以下「中央労基署長」という。)は,亡Bの死亡は出張業務中の災害とは認められず,海外派遣者として特別加入の承認も受けていなかったので,労災保険法36条に基づく補償の対象にならないとして,いずれの請求に対しても不支給決定をしたことから,原告がこれらの不支給決定の取消しの訴えを提起した事案である。

  

2 前提事実

   

(後掲各証拠等により容易に認定できる事実)

   

(1) 原告は,亡Bの妻である。亡Bと原告との間には3人の子(いずれも平成15年○月○○日生)がいる。

    

【争いのない事実,乙1(5頁,34頁)】

   

(2) 亡Bの死亡に至る経緯

    

ア 亡Bは,平成元年4月1日,訴外会社に入社して海運部横浜営業所に配属され営業を担当した。

     

【争いのない事実,乙1(120頁,131頁,132頁)】

    

イ 亡Bは,平成14年10月1日,訴外会社の海運部東京営業所国際輸送課主任に異動となり,平成15年4月ころに香港でのSARSの流行によって一時帰国するまで訴外会社の香港駐在事務所において勤務した。亡Bは,香港駐在事務所に勤務した間の平成14年10月11日から平成15年12月2日まで,海外派遣者として労災保険法36条に基づく特別加入をしていた。亡Bは,その後は,香港,上海,東京の間を頻繁に行き来するようになり,平成16年1月ころまでは香港をベースに上海,東京へ出張していたが,平成16年4月から本社勤務となり,上海において上海代表処を立ち上げるための準備業務に関わった。

     

 

【争いのない事実,乙1(120頁・121頁,132頁)】

    

ウ 亡Bは,平成18年5月,訴外会社が上海に上海代表処を立ち上げたことに伴い,上海代表処の首席代表として赴任することとなり,原告を含む家族も同年8月に上海へ転居した。

      

訴外会社は,平成18年6月1日実施の「上海代表処勤務者の取り扱い規程(内規)」(以下「本件内規」という。)を定め,亡Bは,その最初の適用対象となった。本件内規は「上海代表処勤務者の取り扱いに関する基本的な事項を定めたもの」であり(1条1項),「原則として暦年度(1月から12月の間)において183日を超えて中国に滞在する者」を適用対象とし(2条1項),「上海代表処勤務者の赴任支度金は,10万円を支給する。ただし,1年未満の勤務者については,『役員,従業員海外出張旅費規程』第11条(支度料)1項の区分に基づき支給する。」旨定めている(3条1項)。

    

 

【争いのない事実,乙1(121頁・122頁,158頁・159頁,508頁ないし510頁)】

    

エ 訴外会社の上海現地法人の設立

     

(ア) 訴外会社は,上海に訴外会社100パーセント出資の現地法人を設立することとし,平成21年12月28日,中華人民共和国公司法(以下「中国会社法」という。)上の有限責任会社である有限公司としてC有限公司(以下「C」という。)を設立して営業許可証を受け,Cは平成22年4月から営業を開始した。亡Bは,平成21年7月からCの設立準備に関与し,Cの立ち上げ後は,Cの総経理に就任して,上海代表処の首席代表との兼務となった。

     

【争いのない事実,乙1(42頁,47頁,124頁,349頁,353頁,355頁,481頁)】

     

(イ) 訴外会社は,同年10月27日,中国会社法61条に基づきCの定款を制定した。また,同定款71条に基づきCに勤務する従業員に対する就業規則を定め,平成22年4月1日から施行した。

      

【争いのない事実,乙6及び7の各1・2,乙8】

    

オ 亡Bは,平成22年7月23日,上海において,急性心筋梗塞(冠状動脈前壁心筋梗塞)を発症して死亡した(以下,発症した急性心筋梗塞を「本件疾病」という。)。

      

【争いのない事実,乙1(12頁,14頁,15頁,33頁)】

   

(3) 亡Bの労災保険法の加入関係

     

 訴外会社は,亡Bが上海で勤務するにあたり,海外派遣者としての特別加入の申請手続を執らず,承認を受けていなかった。

      

【乙1(11頁,18頁,44頁)】

   

(4) 本件不支給決定

     

 原告は,平成24年5月24日,中央労基署長に対し,亡Bの死亡が業務上の死亡に当たるとして,遺族補償年金及び葬祭料の支給請求をした。

     

 中央労基署長は,同年10月18日,亡Bの死亡は,出張業務中に被った災害とは認められず,海外派遣者としての特別加入の承認も受けていなかったことから,労災保険法36条に基づく補償の対象にならないとして前記原告の各請求についていずれも不支給とする旨の決定(以下,併せて「本件不支給決定」という。)をし,同月23日付けで原告に通知した。

      

【争いのない事実,乙1(5頁,11頁,17頁,18頁)】

   

(5) 原告は,本件不支給決定を不服として同月30日付け書面により,東京労働者災害補償保険審査官に対する審査請求を行い,同月31日付け及び同年11月1日付けで受理された。

     

【争いのない事実,乙1(665頁)】

   

(6) 原告は,前記審査請求についての決定が東京労働者災害補償保険審査官による受理後3か月を経過してもないことから,労災保険法38条2項に基づき労働保険審査会に対して平成25年2月15日付けで再審査請求を行った。

     

 労働保険審査会は,平成26年1月31日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決をした。

     

【争いのない事実,甲1,乙1(1頁)】

   

(7) 原告は,平成26年7月14日,東京地方裁判所に対し,本件不支給決定の取消しを求める訴えを提起した。

     

 

 

 

 

 

【当裁判所に顕著な事実】

  

 

3 関係法令等の定め

  

(1) 労災保険法は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とし(労災保険法1条),労働者を使用する事業を適用事業とする(労災保険法3条1項)。

   

(2) 特別加入制度

     

 労災保険法第4章の2は,労災保険法の適用対象とならない場合であっても業務の実態や災害の発生状況などに照らし,労災保険法による保護を行う必要のある場合があるとの見地から特別加入制度を設けており,以下のとおり,海外派遣者をその対象としている。

    

ア 特別加入が可能な者(労災保険法33条)

     

(ア) この法律の施行地外の地域のうち開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う団体が,当該団体の業務の実施のため,当該開発途上にある地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者(6号)

     

(イ) この法律の施行地内において事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う事業主が,この法律の施行地外の地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者(当該事業が特定事業に該当しないときは,当該事業に使用される労働者として派遣される者に限る。)(7号)

    

イ 海外従事者,派遣者(6号,7号)の取扱い(労災保険法36条1項)

      

 労災保険法33条6号の団体又は7号の事業主が,同条6号又は7号に掲げる者を,当該団体又は当該事業主がこの法律の施行地内において行う事業(事業の期間が予定される事業を除く。)についての保険関係に基づきこの保険による業務災害及び通勤災害に関する保険給付を受けることができる者とすることにつき

 

申請をし,政府の承認があったときは,

 

第3章第1節から第3節まで及び第3章の2の規定の適用については,次に定めるところによる。

     

(ア) 第33条6号又は7号に掲げる者は,当該事業に使用される労働者とみなす。(1号)

     (以下省略)

   

 

(3) 解釈例規

    

ア 昭和52年3月30日基発第192号の25(海外派遣者特別加入制度の創設)

      

 「最近においては,日本国内の企業から海外の支店や合弁事業等へ出向する労働者や国際協力事業団等により海外に派遣される専門家が増加しているが,これらの労働者等については,海外出張としてわが国の労災保険制度の適用を受ける場合を除き,その労働災害についての保護は必ずしも十分とはいえない。

      

 このため,昭和51年法律第32号による労災保険法の改正により,海外で行われる事業に派遣される労働者についても特別加入制度を通じて労災保険の保護が与えられることとなった。

   

(1) 特別加入対象者

    

イ 海外派遣者として特別加入することができるのは,次の者である。

     

(イ) 省略

     

(ロ) 日本国内で行われる事業(有期事業を除く。)から派遣されて海外支店,工場,現場,現地法人,海外の提携先企業等海外で行われる事業に従事する労働者

    

ロ 上記イの海外派遣者の特別加入の取扱いについて留意すべき点は,次のとおりである。

     

(イ) 派遣元の事業との雇用関係は,転勤,在籍出向,移籍出向等種々の形態で処理されることになろうが,それがどのように処理されようとも,派遣元の事業主の命令で海外の事業に従事し,その事業との間に現実の労働関係をもつ限りは,特別加入の資格に影響を及ぼすものではない。

     

(ロ)ないし(ニ) 省略

     

(ホ) 海外出張との関係については,後記(9)を参照のこと。

   

(9) 海外出張との関係

     

 海外派遣者の特別加入制度の新設は,海外出張者に対する労災保険制度の適用に関する措置に何らの影響を及ぼすものではない。すなわち,海外出張者の業務災害については,従前どおり,特段の加入手続を経ることなく,当然に労災保険給付が行われる。

     

 なお,海外出張者として保護を与えられるのか,海外派遣者として特別加入しなければ保護が与えられないのかは,単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず国内の事業場に所属し,当該事業場の使用者の指揮にしたがって勤務するのか,海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮にしたがって勤務することになるのかという点からその勤務の実態を総合的に勘案して判断されるべきものである。」

    

イ 労災保険法における事業について

    

(ア) 昭和22年9月11日基発第36号(事業の意義)

       

 「労災保険法において事業とは,一定の場所において或る組織のもとに相関連して行われる作業の一体をいい,強制適用事業であるか否かは,その作業体即ち事業場の実態によって決定すべきものである。

      

  即ち,一の事業場における主たる作業が強制適用事業に該当する場合には,その事業場の中の任意適用に該当する部分(事務所等)をも含めて強制適用の事業場とするのである。」

     

(イ) 昭和62年2月13日発労徴第6号,基発第59号(事業の単位)

     

「一 事業の概念 省略

     

 二 適用単位としての事業

        

 一定の場所において,一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体は,原則として一の事業として取り扱う。

   

(1) 継続事業

     

 工場,鉱山,事務所等のごとく,事業の性質上事業の期間が一般的には予定し得ない事業を継続事業という。

     

 継続事業については,同一場所にあるものは分割することなく一の事業とし,場所的に分離されているものは別個の事業として取り扱う。

     

 ただし,同一場所にあっても,その活動の場を明確に区分することができ,経理,人事,経営等業務上の指揮監督を異にする部門があって活動組織上独立したものと認められる場合には,独立した事業として取り扱う。

    

  また,場所的に独立しているものであっても,出張所,支所,事務所等で労働者が少なく,組織的に直近の事業に対し,独立性があるとは言い難いものについては,直近の事業に包括して全体を一の事業として取り扱う。

   

(2) 有期事業 省略」

    

ウ 労基法における事業について

     

 昭和22年9月13日発基17号,昭和23年3月31日基発511号,昭和33年2月13日基発90号,昭和63年3月14日基発150号,平成11年3月31日基発168号

    

「(一) 個々の事業に対して労働基準法を適用するに際しては,当該事業の名称又は経営主体等にかかわることなく,相関連して一体をなす労働の態様によって事業としての適用を定めること。

     

(二) 事業とは,工場,鉱山,事務所,店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって,必ずしも経営上一体をなす支店,工場等を総合した全事業を指称するものでないこと。

     

(三)1 したがって一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので,同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし,場所的に分散しているものは原則として別個の事業とすること。

      

2 (省略)

      

3 また,場所的に分散しているものであっても,出張所,支所等で,規模が著しく小さく,組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては,直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱うこと。」【甲8,乙1(660頁・661頁),乙10】

  

 

 

 

 

4 本件の争点及びこれについての当事者の主張

   

 

(1) 亡Bは海外出張者か(国内事業場の労働者として労災保険法36条に基づく特別加入手続が不要か)

   

 

(原告の主張)

    

ア 労災保険法は,属地主義により国内で行われる事業を対象とすることから,単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず,国内の事業場に所属し,当該事業場の使用者の指揮命令に従い勤務する労働者である海外出張者は,労災保険法上の保険給付を受けるために何ら特別の手続を必要としないが,海外の事業に所属する労働者には適用がないことから,特別加入制度を設けて海外の事業場に派遣された労働者にも国内労働者と同様の保護を与えることとしている。

 

 海外派遣とは海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従い勤務する場合をいい,海外派遣者と海外出張者のいずれに当たるかはその勤務の実態を総合的に勘案して判断すべきであり,単に滞在期間の長短や所属事業場における海外勤務の取扱いのみを基準として区別されるものではなく,個々の事案について海外勤務の実態を具体的に検討して判断されなければならない。

      

 

 そして,一の事業場であるか否かは,主として場所的独立性を基準とし,場所的に分散されているものは,原則として別個の事業場となるものであるが,例外的に場所的に分散されているものであっても,規模が著しく小さく,組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては,直近上位の機構と一括して一の事業場となる。

      

 

 ここで,一の事業場という程度の独立性が認められるか否か,たとえば本件のように海外で勤務する労働者が海外派遣者又は海外出張者のいずれに当たるかは,当該労働者の勤務実態に基づき労働者に対する指揮命令権が国内と海外いずれにあるかによって判断され,海外派遣者に当たるためには海外に従事する事業が存在することが前提となるというべきである。

    

 

イ そして,上記の基準に照らして,以下のような亡Bの勤務の実態をみると,亡Bは,訴外会社東京営業所国際輸送課に所属し,その業務に上海で従事する海外出張者に当たることから,海外派遣者が労災保険法上の保険給付を受けるに当たり必要な特別加入の手続を要しないといえる。

     

 

(ア) 亡Bは,訴外会社東京営業所国際輸送課の業務に従事していた。

       

 亡Bは,平成14年に訴外会社東京営業所国際輸送課に異動後,平成18年5月に上海代表処の首席代表として上海での勤務を開始し,平成22年4月にCの総経理に就任した間も,その所属営業所や部署が変わったことはなく,その立場に実質的な変化はなかった。

       

 亡Bが上海において主として担当した業務は,訴外会社が受注した運送業務に関する運送手配であり,その遂行に当たり訴外会社の担当部署からの指示を受けて従事している。運送契約締結に当たり運送料金,運送期限等の重要事項について取引先と折衝し契約内容を確定するのは,常に訴外会社東京本社ないし東京営業所の担当者であり,これを亡Bが行い,上海代表処ないしCが運送契約を締結することはなかった。亡Bの主たる担当業務は中国での荷揚や中国国内の陸上輸送であり,これらを中国国内の業者に依頼するが,現地業者との契約も訴外会社が当事者となっていたことから,亡Bは,前記業務を訴外会社の担当者に指示を仰ぎながら進める必要があった。実際,亡Bは,訴外会社の東京営業所の担当者に対して中国側業者に支払うべき代金の見積書,輸入に係る関税金額,日本船到着予定時刻,入港状況,北京モーターショー出品貨物の納品状況など細々した点を逐一報告して訴外会社東京営業所担当者の指示を受けながら業務に従事していた。

       

 運送業務以外の業務についても,現地社員採用の際は履歴書等一式を訴外会社に送付して採用の可否について判断を求め,処遇については訴外会社側で決定していた。平成22年4月のCの設立,開業の準備も訴外会社からの具体的指示にしたがって行い,現地企業の訪問の際も予め訴外会社の東京本社ないし東京営業所から訪問すべき日系企業の指示を受けてこれにしたがっていた。

       

 亡Bの就労条件は,上海勤務開始以降も本件内規に定められた特別な取決め以外は訴外会社の就業規則が適用され,勤務管理も亡Bの報告に基づき東京営業所の出勤簿に記載されて管理されていた。賃金や在外手当,住居や水道光熱費,業務遂行に係る通信費や図書印刷費,東京での会議に出席するための旅費も,亡Bが訴外会社海運部東京営業所国際輸送課所属であるため,海運部の経費として計上されて訴外会社が負担していた。

     

(イ) 上海代表処ないしCは,海外派遣者であるための前提となる海外の事業場に該当しない。

       

 海外の事業場といえるためには組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業といえる程度の独立性を有することを要するところ,確かに,亡Bが平成18年5月から勤務した上海代表処ないし有限責任会社であるCには,中国法令上,一定の範囲での活動権限を与えられていた。

 

       

 しかし,上海代表処ないしCに勤務する訴外会社の正社員は亡Bのみであり,現地社員はいずれも訴外会社が契約した中国国内の派遣会社から派遣された者であって,上海での業務遂行に必要な事務処理について簡単なサポートをしていたにすぎなかった。収支管理,経理業務も記帳等の第一次的作業は現地社員が行うものの収支管理や董事会で使用する計算資料の作成は訴外会社経理課が行い,現地社員が第一次的作業で分からないことがある場合には訴外会社経理課に確認をしていた。それゆえ,上海代表処ないしCは,事業遂行上重要な経理業務のみ見ても訴外会社から日常的指揮管理を受ける必要があり,独立した事業場といえるだけの実質を欠き,自立的に事業を行う上で必要最低限な組織を構成するだけの人員を有していなかった。Cの設立は,取引先からの要望に応えて中国国内での領収書の発行を可能にするための会計上の理由からなされたにすぎず,上海代表処及びCは,いずれも訴外会社東京営業所の下部組織のうちの一部門の位置づけであり,契約締結や重要事項の決定は訴外会社の東京本社ないし東京営業所が行い,上海代表処ないしCが行うことはなかった。

       

 亡Bは,中国の法令上,一定の権限を有する上海代表処の首席代表,Cの総経理という地位にあったが,総経理に就任したのは,現地常駐者でなければ就任できない事情があったからにすぎず,実質的には,訴外会社東京営業所国際輸送課課員としての権限を与えられるにとどまり,その限度での裁量しか認められていなかった。

     

 

(ウ) 以上によれば,上海代表処ないしCは,訴外会社国際輸送課課員の職務権限のみを有する正社員が一人勤務するだけで,組織基盤や事業経営の観点からも,訴外会社東京本社ないし東京営業所から独立して事業遂行するだけの能力,規模を有していないことから,海外の事業所に当たらない。

    

 

 

ウ 以上のとおり,亡Bは,上海で勤務するようになってからも訴外会社の海運部東京営業所国際輸送課に所属し,その労務管理のもとで訴外会社の東京本社や東京営業所から日々の業務の指示を受けながら国際輸送課課員としての職務権限の範囲内で業務に従事していたのであり,このような実態の下では,亡Bが勤務する上海代表処ないしCは海外の事業所に当たらないから,亡Bは,国内事業所の指揮命令下で労務を提供する海外出張者に当たる。

      

 なお,訴外会社は亡Bの上海勤務中も同人に係る労災保険料の納付を継続していたのであり,その点からしても,亡Bには労災保険が適用されるべきである。亡Bの後任者については特別加入の手続が執られているが,亡Bについて特別加入手続の不存在を理由に労災補償がされなかったため,念のために手続が執られたにすぎず,このことは亡Bが海外出張者であると判断することを妨げるものではない。

    

 

 

エ なお,海外派遣者が労災保険の加入から排除される根拠は,管轄権の衝突や不明確化を回避する属地主義の観点にあると解されるところ,労働者を強く保護しようとする労災保険法の制度趣旨やその仕組みに照らせば,属地主義の原則から大きく逸脱せず,また現行法の構造を歪めない限りで,緩やかに労災保険制度への強制加入を認める方向での法解釈を行うべきであるといえるから,海外出張者であるか海外派遣者であるかの判断が困難な事案にあっては,特別加入手続の要否を判断するのは事業主であって労働者本人の意思や判断が介入する余地はなく,特別加入手続を執らなかったことに落ち度のない労働者に不利益を課すことは相当でないことにも鑑み,労働保険の強制適用の対象となる海外出張労働者であると評価すべきである。

   

 

 

 

(被告の主張)

    

 

ア 亡Bが訴外会社の海運部東京営業所国際輸送課の業務に従事する海外出張者として,国内事業場の労働者であることは,否認し,かつ,争う。

    

 

イ 上海代表処ないしCは,以下のとおり,その実態に照らし,直近上位の機構と一括して一の事業場となるものではなく,亡Bは,海外の事業場である上海代表処ないしCの業務に従事していたものであり,海外派遣者に当たる。

     

 

(ア) 事業所とは,主として場所的な独立性を基準とし,工場,鉱山,事務所,店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織の下に継続的に行われる作業の一体を単位として区分されるものであるが,子会社や支店のように,それ自体ある程度完結した会社組織の機構を有することまで要求されるものではない。代表処は,中国の法令上,中国における外国法人の分支機構で,独立した法人格を有しない駐在員事務所をいい,外国企業の製品又は役務に関連する市場調査,展示,宣伝活動及び外国企業製品の販売,役務提供,国内仕入,国内投資に関する連絡活動を取り扱うことができる上,執務・営業場所の賃借や銀行口座の開設も自己の名義ででき,一定の範囲での従業員の雇用も可能である。

      

 

 亡Bは,上海代表処の首席代表として,業務全般について自由裁量権を与えられて,中国内顧客への訪問,見積り,業者との打合せ,港での作業立会い,納入先での打合せ及び立会い,訴外会社担当者との打合せ,その他の物流業務一般や社内会議,従業員教育の日常業務のほか,営業先の開拓だけでなく,上海代表処が雇用した中国従業員の管理についても責任を負い,これらの業務全般を自己の裁量で行い,中国労働者への業務指示も自己の裁量で行っていた。本件内規も,上海代表処に1年以上勤務する者を出張者と明確に区分して格別の扱いをしている。

       

 上述の中国の法令における代表処の性質に照らし,上海代表処が訴外会社の海外における事務所として海外の事業場であることは明らかであり,その実質においても上海代表処は,亡Bのほか従業員を現地採用した上,亡Bが前記の日常業務を総括して,東京本社からの指揮命令を受けずに継続的に行っていたのであり,亡Bは本件内規上も通常の海外出張者とは別格の扱いを受けていたのであるから,上海代表処は訴外会社の海外事業場に当たり,その事業に従事する亡Bは,海外派遣者に当たるのであって,国内の事業場に所属し訴外会社の指揮にしたがって勤務していたものではない。

     

 

(イ) Cは,中国の法令上,代表処では営利活動が制限されるため設立された訴外会社100パーセント出資の子会社であり,中国会社法上の有限責任会社である。Cは海外の事業場の実質を備える上海代表処の業務を完全に移行し,中国の法令上,独立の法人格を有し,営利活動を行うことも,自己の名義で提訴,応訴し,独立して対外的に責任を負うこともできることから海外の事業場に当たることは一層明らかである。

       

 Cでの亡Bの業務内容の実質は,上海代表処での業務と変わることはなく,亡BはCの総経理に就任していた。総経理は,中国会社法上,会社の生産経営管理を主管し,会社法上の取締役会に類似する中国会社法上の董事会の決議を実施する等の権限を有し,会社の代表である法定代表者に就任することも可能であって,会社法上の執行役に類似する機関である。Cの定款上も,その27条において「本企業は,総経理に総括される経営管理機構を設置する。」と規定して総経理がCの経営管理をとりまとめることとしている。総経理の責任についても,同29条において「総経理は直接に董事会に対し責任を持ち,董事会の決定を実施し,本企業の日常的業務に責任を負う。」とし,同30条においては「本企業の日常的業務における重要な問題の決定は,総経理に決定されてから,はじめて効力を生じる。」と規定し,Cの日常業務については総経理が最終的な判断権を有することとしている。Cの法定代表者とされる董事長は訴外会社の代表取締役が兼任していることから,総経理はCにおいて実質的な責任者であったといえる。したがって,Cの総経理は,会社法上の役員等に相当する法的地位にあり,労働者として訴外会社の東京本社から指揮命令を受けるものではなく,日常業務について広範な裁量権を有し,訴外会社からの指揮命令を受けずに業務を行う地位にある。

    

 

ウ 以上によれば,亡Bは,海外の事業所である上海代表処の業務を移行して法人格を取得したCが設立される前後を通じて上海代表処の首席代表あるいはCの総経理としてこれらに属し,訴外会社東京本社からの指揮命令を受けることなく,自己の裁量により上海代表処やCの業務を行っていたのであるから海外派遣者に当たる。

      

 なお,亡Bは日常業務に属さない重要な業務については訴外会社の東京本社から指示を受けていたと推測される。しかしながら,およそ会社組織においては,何らかの上位者から指揮命令等を受ける立場にあるのが通常であり,子会社の代表取締役も親会社から指揮命令等を受けるのであって,本店からの指揮命令等を一切受けない海外事業所の存在は考え難い。亡Bは,上海代表処ないしCの実質的な責任者であったことから,訴外会社の東京本店から指揮命令を受ける立場にあったにすぎず,これにより国内の事業場に所属し,その事業場の業務をその事業場における使用者等の指揮命令にしたがって行っていたとはいえないから海外出張者には当たらない。

    

 

エ 原告は,海外出張者であるか海外派遣者であるかの認定について,現行法の構造を歪めない限りで,緩やかに法解釈を行うべきことを主張するが,当該労働者が海外出張者であるか海外派遣者であるかは,被災者がどの事業場に所属していたかの問題であり,労災保険法及び労基法の事業並びに労安法の事業場の解釈に直接影響することであり,他に影響を及ぼさずに海外出張者の該当性につき緩やかに解釈することは可能でない。原告のこの点の主張は理由がないものである。

   

 

(2) 処分理由の差し替え(業務起因性に関する主張立証)の可否

   

(原告の主張)

    

ア 労災保険法の適用がないことを理由とする労災保険法上の保険給付の不支給決定に対する取消訴訟において,被告側が新たに業務起因性について主張することは許されず,裁判所は,労災保険法の適用が肯定される場合には業務起因性についての認定判断を留保した上で当該不支給決定を取り消さなければならない(最高裁判所平成2年(行ツ)第45号平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻2号473頁。以下「平成5年最判」という。)。

      

 平成5年最判の趣旨は,労災保険給付不支給決定のような申請拒否処分の取消訴訟においては,行政庁が第一次判断権を行使した処分要件の充足,不充足のみが訴訟物となり,行政庁がおよそ第一次判断権を行使していない別の処分理由を主張することは処分の同一性を害すると判断したものと解される。

 

 しかるに,本件各不支給決定は,亡Bが特別加入を必要とする海外派遣者に当たることを理由にされたものである。再審査請求においても専ら労災保険の適用のための特別加入の要否が争点とされ,業務過重性や業務起因性が争点とされたことはなく,行政庁は業務起因性について第一次判断権を行使していないのであるから,本件訴訟でこれを主張することは処分の同一性を害するものとして許されない。

      

 仮に

 

 平成5年最判の趣旨を限定的に理解し,行政庁が実体要件の存否について第一次判断権を行使して審査,判断すべき義務に違反した場合,取消訴訟において実体要件を充足しないという新たな理由を主張して不支給処分の効力を維持することは許されないと判断したものと解しても,本件各不支給処分は,亡Bが海外派遣者に当たり,特別加入の承認も受けていなかったことから労災保険法36条に基づく補償の対象にならず,適用外であるとしてされたものであり,

 

 本件訴訟において新たに業務起因性の主張をすることは許されない。調査復命書では,なお書きで亡Bの死因,時間外労働時間など業務起因性その他実体要件に係る事実について業務過重性を認める内容の調査結果が記載されているものの,業務起因性その他実体要件の存否について中央労基署長の判断は何ら示されていないことから,本件不支給処分は処分の実体要件の存否について判断する前提を欠くという理由でされたものであり,実体要件について第一次判断権を行使すべき義務に違反したと認められる。

    

 

イ 被告は,亡Bが海外出張者に該当するか否かは,業務起因性と同様に実体要件に関する問題であるから,本件訴訟において業務起因性に関する主張を追加することは許されると主張する。しかし,亡Bが,海外出張者か否かは,実体要件の存否に関する問題ではなく,亡Bの所属する事業が施行地内にあるか否かという労災保険法の適用の有無に関する問題であるから,これを実体要件に関する問題とする被告の主張には理由がない。

      

 紛争の早期解決のためにも審理対象をむやみに広げることは許されず,本件訴訟において被告が新たに業務起因性について主張立証して請求の棄却を求めることは許されない。

   

 

(被告の主張)

    

ア 取消訴訟における訴訟物は処分の違法性一般であり,単一の処分を正当化する個々の処分理由には,その提出が当事者の自由な権能に属する攻撃防御方法としての意味しかないから,処分理由の差し替えは取消訴訟の訴訟物の同一性,すなわち処分の同一性が失われない限り,原則として許される。そして,処分の同一性の有無は,当該処分の根拠法規の個別解釈によって定まるというべきである。

 

 使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行う労災保険法に基づく保険給付の不支給決定に対する取消訴訟における訴訟物は,同保険給付の不支給決定の違法性一般であり,保険給付の個々の発生,成立,障害,消極要件の主張は原則として処分の同一性を失わせるものではなく,取消訴訟においても処分時に理由としたものに限定されず,全て主張することが許されるものと解される。

      

 平成5年最判の事案は,労災保険法施行前の業務に起因して同法施行後に発症した疾病に労災保険法が適用されるか否かという,労災保険法上の保険給付に係る業務起因性という実体要件の審査以前の手続要件類似の問題が争点であり,およそ労災保険法の適用の余地がないとしてされる不支給決定と実体要件である業務起因性を欠くとしてされる不支給決定とでは,処分庁が認定判断すべき事項も処分要件としての趣旨,性質も大きく異なることから,平成5年最判は処分の同一性を欠く別処分として理由の差し替えを許さない旨を判示したものと解される。

    

イ 本件で問題となっているのは,労災保険法3条所定の「労働者」に当たる海外出張者であるか,同法33条7号所定の保険給付を受けるために特別加入の手続を要する海外派遣者であるかであり,

 

 これらは,労災保険法7条1項1号が「労働者の…業務災害…に関する保険給付」と規定し,同一条文内で労働者性と業務起因性の両要件を列挙し,これら二つの要件がいずれも同格の実体要件であることを指示していることからも明らかなように,業務起因性と同様に実体要件と解されるものである。加えて,処分行政庁は本件疾病ないし亡Bの死亡の業務起因性についても調査しており,業務起因性について第一次判断権を何ら行使していないわけではなく,最も確実な処分理由として亡Bが海外出張者ではなく,海外派遣者であり,特別加入申請もしていないことを表明したにすぎない。それゆえ,本件は平成5年最判とは事案を異にし,本件訴訟において本件不支給決定の処分理由として本件疾病の発症及びこれによる死亡に業務起因性がないことを主張することも許される。

      

 紛争の一回的解決の観点からも,本件において処分の同一性を害さない業務起因性も争点にできると解すべきである。これを許さなければ差し替え後の処分理由により改めて同一の処分がされて取消訴訟を提起することにもなりかねず,かえって紛争の迅速な解決を害することとなる。

 

 労災保険法は審査請求前置主義を採用し,労働保険審査官に対する審査請求と労働保険審査会に対する再審査請求の二段階の審査請求手続を経なければ訴えを提起できないものとしているが,審査請求前置主義は行政過程において専門的判断を行うことが望ましいことや裁判所の負担軽減の観点から行政過程において可及的に紛争を解決する要請が高いことを根拠としているところ,これらの要請を迅速な紛争解決を犠牲にしてまで追求すべきものとは解されない。

  

 

 

 

 

 

 

 

(3) 亡Bの本件疾病の発症及びこれによる死亡の業務起因性の有無

   

(原告の主張)

    

 亡Bの時間外労働は発症前1か月目が103時間56分,同2か月目が89時間08分に上り,量的に過重な業務に従事していたことは明らかであるから,亡Bの本件疾病の発症及びこれによる死亡には業務起因性が認められ,業務上の死亡に該当する。

   

 

(被告の主張)

     

 否認し,かつ,争う。

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

  

1 争点(1)に関する認定事実

    後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

   

(1) 上海代表処について

   

ア 上海代表処は,中国の法令上の代表処に該当する組織であり,独立した法人格を持たない外国法人の分支機構である。代表処は,通常,自己の名義で提訴,応訴することができず,また,独立して対外的に責任を負うこともできず,その責任は外国法人が負担する。経営範囲としては,外国企業の製品又は役務に関連する市場調査,展示,宣伝活動及び外国企業製品の販売,役務提供,国内仕入,国内投資に関する連絡活動を取り扱うことができるが,一部業種の代表処を除き,営利活動を行うことはできない。執務や営業場所の賃貸借,銀行口座の開設は自己の名義で行うことができ,従業員の雇用については労務派遣機関を通した従業員雇用を行うことができる。また,納税についは自己の名義で通関申告を行い,関税を納付する。

      

 なお,訴外会社取締役管理部長のD(以下「D」という。)は,上海代表処について,中国人顧客との連絡先拠点として開設したものであり,訴外会社の海外支店である旨を説明している。

       

【乙1(45頁,47頁,535頁),乙5】

    

 

 

 

イ 亡Bが上海代表処に赴任した平成18年5月ころ,上海代表処には,通訳担当社員1名と経理担当社員1名の合計2名の現地採用の中国人社員が在籍していた。平成18年6月に採用された現地社員であるEは主として財務経理業務を担当し,これ以外に人事,総務関係の業務を行っていた。平成20年8月に採用された現地社員であるFは通訳と営業を主として担当し,亡Bと現地社員とのコミュニケーションの際や輸送現場等を回る際に同行して通訳をするとともに,自身の顧客の外回り等を行っていた。

      

 上海代表処の組織図によれば,平成22年1月1日時点において,首席代表である亡Bの下に営業担当者として首席代表助理のF,営業助理のR,営業担当のP,営業補助のQがおり,財務担当者としてEが配置されていた。

    

【乙1(121頁・122頁,348頁・349頁,353頁・354頁,513頁)】

  

  

 

ウ 訴外会社は,亡Bの上海代表処赴任に当たり,文書による辞令交付や諸手当の説明等は行っておらず,また,同人が訴外会社の東京営業所に所属し,東京営業所の指示のもと働いていたことから,長期的な出張として処理した。亡Bは,上海代表処の首席代表として,中国内顧客への訪問,見積り,業者との打合せ,港での立会作業,納入先での打合せ及び立会い,訴外会社担当者との打合せ等物流業務一般並びに社内会議,社員教育に従事し,また,貨物搬出入への立会いのため北京,福州,広州などへ出張することがあった。

      

 亡Bの任務は,将来的に上海代表処が取り扱う業務を増やすこと,すなわち,営業先を開拓して上海代表処の業績を伸ばすことであり,亡Bは上海市内での営業のみならず,中国国内の他の都市に出張することも少なくなかった。中国顧客の接待をすることもあり,週に二,三回接待で帰りが遅くなることも少なくなかった。亡Bも,日本の景気が低迷し業績が伸び悩んでいる訴外会社にとって,売上増加に結びつく新たな顧客を開拓する上で重要な位置づけだとよく原告に話していた。

      

 また,亡Bは,上海代表処において営業先の開拓だけでなく,中国人の現地社員の採用を決定するなど,現地社員の管理についても責任を負っていた。現地社員の中には採用の際に自分の経歴について虚偽を述べる者もおり,指示された仕事に全く手を付けようとしなかったり,スケジュール管理のために書類提出を指示しても従わなかったりする者も多く,また,亡Bは,仕事上明らかなミスがあった場合の顧客への謝罪や早急な改善策の提示といった顧客対応の重要性を理解させることにも困難を感じていた。

      

 これらの業務を行うに当たり,亡Bは,運搬に関することや契約に関する細かな指示を訴外会社に仰ぎつつ業務をしていたが,上海代表処やCの経理をとりまとめ,日々の営業訪問先や取引先へ出向く場所等日常業務全般は亡Bに裁量権が与えられ,現地社員に対する指示も同人がしていた。

    

 【乙1(36頁,41,44,47頁,48頁,122頁,123頁,453頁・454頁,457頁)】

   

 

 

 

(2) 現地法人の設立準備

 

 

    

ア 訴外会社は,前記のとおり,代表処が営業活動(営利活動)を行うことができないため契約を締結することができず,日本で受注した輸送業務につき日本から中国への輸入手続を行うことはできても中国国内での輸送業務を行うことができなかったことから,平成21年7月頃,営業権を有し,契約締結が可能な現地法人を設立することとし,その設立準備に入った。

       

【乙1(45頁,47頁,349頁)】

    

 

 

イ 亡Bは,C設立にあたって,まず現地法人を上海市の何区に設立するか,いずれの会社と設立に関するコンサルティング契約を締結するかの調査をFと開始した。このコンサルティング会社との契約締結にはEが当たった。また,平成21年9月頃からは,現地法人設立に必要な申請書類の準備や役所訪問等のほか,現地法人設立後には上海での輸送業務を受注する営業活動が可能となり,上海での事業成長が見込めるようになることから,現地法人設立後に見込まれる新しい輸送業務の受注やその売上げに関する計画立案を開始した。この計画を作成するに当たっては,現地法人の受注見込みを具体的に調査する必要があったことから,設立準備中から既存の具体的顧客のみならず,中国系企業には現地社員が,日系企業には亡Bが新規顧客にも足を運んで新規開拓をしながら発注意思の調査等を行った。また,現地法人設立にあたり,新たに現地社員を採用する必要があり,平成22年2月にSを採用した。

       

【乙1(349頁,350頁,354頁,357頁)】

   

 

 

(3) 現地法人であるCの設立

    

 

ア 訴外会社100パーセント出資の子会社であるCは,平成21年12月28日に営業許可証の発行を受けて成立し(中国会社法7条),平成22年4月に営業を開始した。営業開始後,上海代表処に所属していた現地社員はCにおいて勤務している。Cについて独立の組織図が作成され同月1日現在,董事会の下に総経理である亡Bが位置し,その下に営業担当の現地社員4名と財務担当の現地社員1名が配置されていた。Cは,訴外会社の会社案内においても海運部の営業拠点の一つとして掲げられている。Cの事務所は上海代表処と同一の場所にあり,C設立後も上海代表処は存続しているが,その理由は,亡Bの人件費が訴外会社から上海代表処に出されているという,専ら経理上の理由によるものであった。Dは,亡Bは,組織上,上海代表処に身分を有し,現地法人であるCの業務を行っていたことから「出向」に当たると判断していることを説明している。

    

【乙1(42頁,46頁,47頁,165頁ないし171頁,348頁ないし350頁,353頁ないし355頁,358頁,456頁,481頁,634頁),6の1・2】

    

 

 

イ 亡Bは,C設立後,Cの総経理に就任し,上海代表処の首席代表と兼務した。

     

(ア) 中国会社法上,有限責任会社は,原則として,我が国の会社法上の株主総会に相当する株主会(中国会社法37条),会社法上の取締役会に類似する董事会又は執行董事(中国会社法45条,47条,51条),会社法上の監査役会に類似する監事会(中国会社法52条)を必要的機関とするほか,総経理を設置することができる(同法50条)。なお,一人会社において株主会は設けられず(同法62条),小規模の会社においては董事会に代えて執行董事を(同法51条),監事会に代えて監事を設置することができる(同法52条)。また。執行董事は総経理を兼任することができる(同法51条)。

     

(イ) 総経理は,会社の生産経営管理を主管し,董事会決議を実施するなどの権限を有し(同法50条),会社の代表である法定代表者に就任することも可能であるなど(同法13条),我が国の会社法における執行役類似の機関であるといえる。

       Cの定款は,Cに総経理1名を置くこととし(同定款20条,28条〔Cの定款の訳文は,原文の8条が欠条となっているところ,原文9条を8条と訳しており,条の番号にずれがある。挙示した定款の条の番号は乙7号証の1の記載による。以下同じ。〕),また,同27条は「本企業は,総経理に総括される経営管理機構を設置する。」と定め,同30条は「本企業の日常的業務における重要な問題の決定は,総経理に決定されてから,はじめて効力を生じる。」と定めている。Cの法定代表者は董事長とされ(同18条),訴外会社代表取締役Gが兼任している(同3条)。

        

【乙1(46頁),6及び7の各1・2,乙9】

   

 

 

ウ Cの業務は,上海代表処の業務を移行したものであり,Cの設立前後を通じて,亡Bの日常業務に大きな変化はない。

     

(ア) 亡Bが本件疾病を発症して死亡する前6か月間に従事した業務としては,H株式会社(以下「H」という。)に関し,平成22年2月2日の同社輸入鋼板倉庫でデバンの立会い,同年6月2日,同月9日,同月18日,同年7月8日の同社訪問,同年6月23日の同社梱包作業立会い,I(昆山)に関し,同年2月9日の同社訪問及び輸入設備の打合せ,同年3月8日の輸入設備デバン搬入立会い,Jに関し,同年4月7日から9日の北京でのJ展示品梱包積替え(移動日を含む。),同月20日の北京でのJ展示車車輌開梱立会い,同月21日の北京から天津へJ試験車輌デバン立会い,同月5月2日の北京でのJコンセプトカー撤収作業立会いのほか,同年3月17日の上海虹口区人民政府への訪問,同月18日のK訪問,同年6月21日のL(上海)訪問,同年7月5日のM有限公司での採寸作業立会い,同月7日のN上海への訪問及び設備搬入打合せがあった。

     

(イ) Hに関連する業務については,同年6月ころ,Hから受注したミルクを乳化するための機械の輸送業務に関し,現地社員のミスにより輸送が予定どおり行われず,毎日のようにクレームが申し入れられるトラブルを生じ,亡Bは,現地社員全員と頻繁に対策会議を開き,具体的な方針を話し合った。このトラブルについては,現地社員2名が対応のためにHの事務所での打合せや工場見学等をして対応し,収束した。

     

【乙1(44頁,47頁,351頁・352頁,355頁,359頁,362頁,477頁)】

   

 

 

 

(4) 亡Bの後任者Oの業務内容や訴外会社内での身分は亡Bと同じである。後任者のOは,上海代表処代表及びC董事・総経理として経理関係,総務関係,人事関係を含めた全業務を管理し,また,輸送業務について新規開拓をしなければならないとの自覚をもって実務に当たっていることを供述している。

     

【乙1(44頁,45頁,343頁,345頁)】

  

 

 

 

2 海外出張者・海外派遣者の認定基準

    

 

 労災保険法3条1項,労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条によれば,労災保険法上の保険関係は,労働者を使用する事業について成立するものであり,その成否は当該事業ごとに判断すべきものである。

 

そして,

 

同法4条の2第1項において,保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれることなどに鑑みれば,保険関係の成立する事業は,主として場所的な独立性を基準とし,当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される(最高裁判所平成7年(行ツ)第24号平成9年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事181号25頁,最高裁判所平成22年(行ヒ)第273号平成24年2月24日第二小法廷判決・民集66巻3号1185頁参照)。

    

 ところで,

 

労災保険法33条7号,36条は,この法律の施行地内において事業を行う事業主が,この法律の施行地外の地域において行われる事業に従事させるために派遣する者についての特別加入制度を設けているところ,

 

その趣旨は,

 

労災保険法が属地主義によることから,労災保険法3条1項にいう「適用事業」とは日本国内の事業に限られるものであるが,

 

日本国内の企業から海外の支店や合弁事業等へ出向する労働者等が増加する中,国外における労働災害保護制度が十分でない現状に鑑み,

 

日本国内で事業を行う事業主が国外で行う事業に従事させるため労働者を派遣する場合に特別加入を認め,

 

これを通じて国内の事業に従事する労働者と同様の労災保険の保護を与えるのが相当であることにある。

 

前記のとおり,労災保険法上の保険関係が事業ごとに成立することに照らせば,労働者等が国内の事業に属し,その事業に従事するための労働提供の場が単に海外にあるにすぎない海外出張者は特別加入の手続を経ることなく保険関係の成立が認められるが,海外の事業に所属し,その事業に従事する労働者等については,海外派遣者であって特別加入手続を経なければ保険関係の成立が認められないと解するのが相当である。

 

そして,

 

このような特別加入手続を経ずに保険関係の成立が認められる海外出張者と海外派遣とのいずれに当たるかは,期間の長短や海外での就労に当たって事業主との間で勤務関係がどのように処理されたかによるのではなく,当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ,いかなる労働関係にあるかによって総合的に判断すべきである。

  

 

 

3 亡Bの海外出張者としての地位の存否

    

本件における前記1において認定した上海代表処ないしCの性格,活動,亡Bの勤務実態を上記2に説示した基準に照らし検討する。

   

(1) 上海にある上海代表処ないしCが亡Bの所属する訴外会社東京営業所国際輸送課と場所的な独立性を有することは明らかである。

   

(2) そこで,上海代表処ないしCの法的地位ないし権能,活動の実態が独立した事業場として評価するに値するものであったかをみる。

     

 まず,上海代表処ないしCの法的地位ないし権能については,前記1において認定のとおり,代表処は,中国の法令上,営利活動等は制限されているが,外国企業の製品又は役務に関連する市場調査,展示,宣伝活動及び外国企業製品の販売,役務提供,国内仕入,国内投資に関する連絡活動を取り扱うこと,執務や営業場所の賃貸借,銀行口座の開設等は自己の名義で行うこと,従業員の雇用についても労務派遣機関を通じてではあるが行うことができるだけでなく,納税についても自己の名義で通関申告を行い,関税を納付するなど,中国の法令上,一定の組織化された独立の活動単位であることが予定されており,その営む活動は一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体ということができる。そして,Cは,中国会社法上の有限責任会社であって独立の法人格を有し,営業活動として契約の締結を行うこともできるなど上海代表処以上に法的地位ないし権能における独立性は高い。

     

 このような上海代表処ないしCの法的地位ないし権能に加え,活動の実態をみるに,上海代表処は,首席代表である亡Bのほか,主として財務経理業務を担当し,人事,総務関係を取り扱う現地社員,営業活動を行う現地社員が存在し,独立した事業場としての最低限の組織を有しており,現地社員の管理は首席代表である亡Bが管掌している。亡Bの上海勤務は,営業先を開拓して上海代表処の業績を伸ばすことに重要な狙いの一つがあり,中国人顧客の対応や日本から輸送される貨物への対応のほか顧客への営業活動を行っている。そうすると,上海代表処は,その組織面においても活動面においても独立した活動単位としての実質を有しているといえる。訴外会社においても,独立した組織図を作成しており,訴外会社の取締役管理部長の地位にあるDも,上海代表処について,中国人顧客との連絡先拠点として開設したものであって,訴外会社の海外支店である旨を説明している。

     

 また,Cについても,その設立前の平成21年7月には独立した法人格を持って営利活動を行い契約締結の可能なCの設立に向けた準備がされ,その一環としてのコンサルティング契約の締結は上海代表処において対応しており,また,C設立後に見込まれる新しい輸送業務の受注やその売上げに関する計画立案を開始して中国の現地企業を訪問し,発注意思の確認を行うなど訴外会社の上海における拠点として独立して業務を行う準備を進めている。C設立後に生じたHとのトラブルについてもC内部で対策会議を開くなどして方針を検討し,これに従い対応するなど活動の実体も存在する。訴外会社の会社案内ではCを訴外会社の海運部の営業支店の一つとして掲げており,Dも亡Bについていわゆる「出向」に当たると思う旨の説明をしている。

     

以上によれば,上海代表処ないしCは,単に中国の法令上一定の組織化された独立の活動単位として予定されているにとどまらず,訴外会社の上海における活動拠点としての実体を有し,C設立後はその業績拡大のため営業先を開拓するなどしており,訴外会社においても独立した事業所として位置づけていたものである。

     

 この点,原告は,上海の業務に関する契約締結や重要事項の決定は訴外会社の東京本社ないし東京営業所が行っており,上海代表処ないしCは,その活動に当たり訴外会社から日常的指揮管理を受ける必要があるなど独立した事業場といえる実質を欠いていると主張する。しかしながら,上記のような上海代表処ないしCの法的地位ないし権能,活動実態の実態に鑑みると,原告の主張を採用することはできないといわざるを得ない。

 

また,

 

上海代表処にあっては,法令上営利活動が制限されており,契約締結ができないものであり,それゆえに訴外会社が契約締結の当事者となっているものであるが,このことが直ちに上海代表処の事業所性を否定する事情ともならない。

 

重要事項の決定を訴外会社本社が行っていることも,独立した国内の事業所であっても,その決裁権限には内部的制約があり得ることにかんがみれば,上海代表処が独立した事業所であることを直ちに否定すべき事情とはならない。

   

(3) 上海代表処及びCにおける亡Bの地位についてみるに,亡Bは,上海代表処の唯一の日本人正社員として,中国内顧客への訪問,見積り,業者との打合せ,港での立会作業,納入先での打合せ及び立会い,訴外会社担当者との打合せ等物流業務一般並びに社内会議,社員教育に従事して組織図上も現地社員を統括する立場にあり,Cにおいても業務内容に変化はなかった上に総経理として実質的責任者の地位にあったのであるから,前記独立した海外の事業所である上海代表処ないしCに属し,その業務に従事していたことは明らかである。

     

この点,亡Bが訴外会社東京営業所海運部国際輸送課に籍を置き,訴外会社の労務管理等に服し,賃金等の支払も訴外会社が負担していたものであり,亡Bの上海勤務に当たっては正式な辞令交付などはされていなかったことも認められるが,上海代表処は独立した法人格を持たない事業所にすぎず,また,Cは独立した法人格を有するものの訴外会社の100パーセント子会社であって,同社における亡Bの地位はDが説明するようにいわゆる出向に近いと訴外会社において認識されていたといえることに照らすと,上記のような労務管理等が採られたことは訴外会社の会社内部における処理の問題にすぎないといわざるを得ないのであって,亡Bが上海代表処ないしCの事業に従事することを否定する事情とはならない。

   

(4) ところで,

 

 

原告は,特別加入の手続主体が事業主であって,個々の労働者には特別加入手続の要否を判断し,あるいはその意思を介在させる余地がないこと,

 

本件では訴外会社が亡Bの上海勤務中も,国内事業場の事業に属する労働者である海外出張者として同人に係る労災保険料の納付を継続していたという特段の事情のあることを採り上げて,このような場合には,労働者を可能な限り広く保護すべく保険関係の成立を認めるべきであることを主張しているので,この点についても検討する。

 

     

 前記2に説示のとおり,

 

労災保険法上の保険関係は労働者を使用する事業ごとに成立するものであり,個々の労働者ではなく事業主が特別加入手続の要否を選択するという原告主張の事態は国内の事業について特別加入手続が必要となる場合も生じ得るところであって,

 

海外派遣の場合にのみ,独立した事業か否かの判断において曖昧さがあり,特別加入手続の要否の判断が困難であるということもできないから,海外派遣の場合にのみ国内の場合と別異に解すべき理由はない。

 

 また,

 

労災保険法は属地主義により,この日本国内において事業を行う事業主が日本国外において行う事業は適用事業に当たらないことから,特別加入の制度を設けているところ,

 

海外派遣者については,災害の業務上又は業務外の認定に困難を生じる場合が少なくないこと,賃金が国内の労働者に比して高い場合が多く,実賃金額に基づいて保険給付を行う国内の労働者との均衡上の問題や外国通貨で賃金が支給されている場合における国内通貨への換算の問題など国内事業場における事業についての保険関係とは同列に考えることができないことを踏まえ,

 

特別加入をする為には政府の承認を要するとされていると考えられること(労災保険法36条1項)に鑑みると,

 

 適用事業に係る保険制度と海外派遣者の特別加入に係る保険制度は並列する別個の制度であり,

 

保険事業者において特別加入手続を取らず,政府の承認を経ていない場合にまでも,当然に国内事業場の事業に属する労働者としての範囲で労災保険法上の保険関係が成立しているということはできないと解すべきであり,

 

原告の主張は,現行の労災保険法上の解釈としては理由がない。

 

そして,

 

この帰結は,本件における訴外会社が亡Bの上海勤務中も,国内事業場の事業に属する労働者である海外出張者として同人に係る労災保険料の納付を継続していたという事情を考慮しても左右されるものではないと解する。

  

 

4 以上のとおり,亡Bは,海外事業所である上海代表処ないしCの事業に属してその事業に従事していたことから海外派遣者に当たり,労災保険法上の保険関係の成立には特別加入の承認を得ることを必要とするところ,亡Bは特別加入の承認を得ていないことから,亡Bについて保険関係の成立は認められず,亡Bの死亡に係る遺族補償年金及び葬祭料を不支給とした本件不支給決定に違法はないものである。

 

第4 結論

    

 以上によれば,その余の点(争点(2),(3))について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

     

東京地方裁判所民事第11部

         

裁判長裁判官  佐々木宗啓

            

裁判官  湯川克彦

            

裁判官  杉山文洋