従業員名義で経営していた店舗に係る所得の帰属先(6)

 

 

 

 

 

 争点4(請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務があるか否か。)について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 争点4(請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務があるか否か。)

 

 

 

 原処分庁

 

 

  上記(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件各店舗の事業に係る所得の帰属先は請求人であり、請求人は本件各店舗の経営者であると認められ、本件各給与の支払者は請求人であるから、請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務がある。

 

 

 

 

 

 

 請求人

 

 

 

  上記(1)の「請求人」欄のとおり、請求人は、P11に雇われて本件各店舗の経営を任されていただけであり、本件各店舗の経営者は請求人ではなく、請求人は本件各給与の支払者でないから、請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務はない。

 

 

 

 

 

 

 争点4(請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務があるか否か。)

 

 

イ 争点について

 本件給料支払明細書によれば、K店の店長P4及び新Q店の店長P3は、平成22年12月から平成25年6月までの間、別表6のとおり本件各給与の支払を受けたことが認められる。

  

所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項は、給与等の支払者が源泉徴収義務を負う旨規定しているところ、請求人は、上記(1)のロの(イ)のEのとおり本件各年における本件各店舗の経営者であり、雇用者として本件各店舗の従業員に対して給与の支払義務を負っていたことから、本件各給与の支払者は請求人であるというべきである。

  

したがって、請求人は、本件各給与について、所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務がある。

 

 

ロ 請求人の主張について

 

 上記2の(4)の「請求人」欄のとおり、請求人は、P11に雇われて本件各店舗の経営を任されていただけであり、本件各店舗の経営者は請求人ではなく、請求人は本件各給与の支払者ではないから、請求人は本件各給与について所得税法第183条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務はない旨主張する。

 

 しかしながら、上記(1)のロの(イ)のEのとおり、本件各店舗の経営者は請求人であるから、請求人の主張は前提となる事実関係を誤っている。

 

  したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

 

 

 

イ 事業所得の金額の算定方法

 

 

(イ) 本件月間試算ファイルに基づく事業所得の金額の算定

 

 上記1の(4)のイの(ハ)のDの(A)から(C)までのとおり請求人が作成していた本件月間試算ファイル(本件各店舗の日報等の原始記録に基づく本件月間売上げ等ファイル、請求書や領収証等の原始記録に基づく本件月間支払ファイルの両ファイルに基づき、入力漏れの経費等を加えたもの)につき、当審判所が、項目及び金額について検討した結果、請求人が提示した日報に対応する期間の売上げに係るデータ(本件月間売上げ等ファイルに売上金額として保存されているデータも同一金額である。)は日報に記載された金額と一致し、また、実際の支払金額を確認することが可能な家賃、水道料金等の経費の支払に係るデータ(おしぼりの仕入金額についてはデータ上の金額と実際の支払金額が相違している。)は、実際の支払金額と一致している。

  したがって、本件月間試算ファイルに売上金額及び経費等の支払として記録され保存されているデータは、おしぼりの仕入金額を除いて信用することができ、おしぼりの仕入金額も後記ロの(ハ)のBのとおり実額が確認できるから、本件月間試算ファイルが保存されている年又は月については、その年又は月の本件各店舗の事業所得の金額を実額で算定することができる。

 

 

(ロ) 推計の方法による事業所得の金額の算定

 

A 別表4のとおり、本件月間試算ファイルには本件各年の全てのデータが保存されていないから、本件月間試算ファイルに収入金額及び必要経費に係るデータが保存されていない年、月等に係る事業所得の金額は、推計の方法により算定することが相当と認められる。

  この場合、請求人の営むような風俗店の経営に係る事業においては、同程度のおしぼりの仕入本数に対し同程度の収入を得、同程度の収入に対し同程度の所得を得ることが通例であるから、おしぼりの仕入本数を基礎として事業所得の金額を推計することは、基準となる期間(実額による計算が可能な期間)と推計する期間(実額による計算が不可能な期間)においておしぼりの仕入本数に変更を来たすような特別の事情がない限り、相当であると認められ、当審判所の調査の結果、本件各年において、本件各店舗のおしぼりの仕入本数に変更を来たすような特別の事情は存しない。

 

 B そこで、本件月間試算ファイルにおいてデータが欠落している場合の事業所得の金額の推計方法を検討すると、次の方法によるのが相当である。

 

(A) 本件月間試算ファイルにおいて、その年のデータの欠落が部分的である場合(一部の月又は店舗のデータが欠落している場合)は、データの欠落がない月又は店舗について実額により計算したおしぼり1本当たりの収入金額を算出し、当該収入金額にデータが欠落している月又は店舗のおしぼりの仕入本数を乗じてデータが欠落している月又は店舗の収入金額を算定した上で、当該収入金額にデータの欠落がない月又は店舗について算出した所得率(収入金額に対する所得金額の割合をいう。以下同じ。)を乗じる方法で、データが欠落している月又は店舗の所得金額を算定する。

  この場合において、本件月間試算ファイルの収入金額のデータは欠落しているが、本件月間売上げ等ファイルの収入金額のデータが存する場合には、当該収入金額に所得率を乗じる方法で、データが欠落している月又は店舗の所得金額を算定する。

 

 (B) 本件月間試算ファイルにおいて、その年のデータが全て欠落している場合には、実額による計算が全く不可能であるから、収入金額の算定上及び所得率の適用上の基準となる期間を設定し、その基準となる期間のおしぼり1本当たりの収入金額を算出し、当該収入金額にデータが全て欠落している年のおしぼりの仕入本数を乗じてデータが全て欠落している年の収入金額を算定した上で、当該収入金額に基準となる期間の所得率を乗じる方法で、データが全て欠落している年の所得金額を算定する。

 

 

ロ 本件各年分の事業所得の金額

 

(イ) 本件月間試算ファイル及び本件月間売上げ等ファイルにおけるデータの欠落の状況

  上記1の(4)のイの(イ)のAの(A)、Bの(A)及びCの(A)のとおり、本件各年のうち、K店の営業期間は平成18年7月下旬から平成24年12月まで、旧Q店の営業期間は平成19年12月頃から平成21年11月頃まで、新Q店の営業期間は同月頃から平成24年12月まで、R店の営業期間は平成20年4月頃から平成21年11月頃までであったところ、本件各店舗の上記各営業期間と別表4記載の本件月間試算ファイル及び本件月間売上げ等ファイルにおける本件各店舗ごとの収支計算の期間とを対比して、本件各年におけるデータの欠落の状況を検討した結果、①平成18年及び平成19年については、K店及び旧Q店の収入金額及び必要経費に係るデータが全て欠落していること、②平成20年については、K店、旧Q店及びR店の10月の収入金額及び必要経費に係るデータがいずれも欠落していること、③平成21年については、K店、旧Q店及びR店の9月の必要経費に係るデータ、R店の11月の収入金額及び必要経費に係るデータがいずれも欠落していること、④平成22年については、K店の1月の必要経費に係るデータ、K店及び新Q店の4月の収入金額及び必要経費に係るデータがいずれも欠落していること、⑤平成24年については、K店及び新Q店の4月から12月までの期間の必要経費に係るデータが欠落していることが認められる。

 

(ロ) 実額による計算が可能な期間の収入金額

  上記(イ)の状況から、本件各年分において実額による計算が可能な期間は、平成20年分におけるK店、旧Q店及びR店の10月を除く期間(R店については4月以降の期間)、平成21年分におけるK店及び旧Q店の9月を除く期間(旧Q店については11月までの期間)並びに11月まで営業していたR店の9月及び11月を除く期間、平成22年分におけるK店の1月並びにK店及び新Q店の4月を除く期間、平成23年分におけるK店及び新Q店の1月から12月までの全ての期間、平成24年分におけるK店及び新Q店の1月から3月までの期間となる。

  そして、本件月間試算ファイルに基づいて、実額による計算が可能な上記各期間に対応する平成20年分から平成24年分までの各年分の収入金額の合計額を算定すると、別表7の①欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

 

(ハ) 実額による計算が可能な期間の必要経費

 

A 原処分関係資料によれば、本件月間試算ファイルにおける各支出項目のうちには、本件調査において請求人が私的な使用を認めた支出や敷金等の明らかに経費性が認められない支出が含まれているが、このような支出を必要経費と認めることはできない。

 

B 原処分関係資料によれば、原処分庁は、本件月間試算ファイル及び本件月間支払ファイルに「おしぼり」又は「おしぼり代」として入力された各データを抽出して、平成20年から平成24年までの各年のおしぼりの仕入金額を別表8-1及び別表8-2の「原処分庁主張額」欄の各金額と認定しているが、本件各店舗におしぼりを納入していたr社が原処分庁に提出した「おしぼり取引数量一覧表」と題する書面(本件各年における本件各店舗ごとのおしぼりの取引金額及び取引数量が月別に記載されたもの。以下「おしぼり取引数量等一覧表」という。)によれば(おしぼり取引数量等一覧表は、本件において請求人の税額負担に利害関係がないr社が備付けの請求一覧表及び請求書の控えに基づいて作成したものであるから、信用性が認められる。)、当該各年において、実額による計算が可能な上記(ロ)の各期間に対応する各月のおしぼりの仕入金額は、別表8-1及び別表8-2の「審判所認定額」欄の各金額であったと認められるから、必要経費に算入すべき金額は当該各金額となる。

  また、原処分関係資料よれば、r社は、請求人との取引の締め日を毎月25日としていたこと、そして、これに基づいておしぼり取引数量等一覧表を作成していたことが認められるので、当審判所において、r社の請求書控えに基づいて締め日以降の月末及び月初のおしぼりの取引数量を調整して、本件各年における各月のおしぼりの仕入本数を算定すると、別表9-1及び別表9-2の本件各年の「合計」欄の「合計」欄のとおり、平成18年が15,520本、平成19年が38,950本、平成20年が36,850本、平成21年が22,550本、平成22年が19,450本、平成23年が16,050本、平成24年が18,450本となる。

 

C 本件月間試算ファイル及び請求人の本件調査担当者に対する申述によれば、請求人は、本件各年において、別表10-1から別表10-3までの「取得年月」欄の年月に、減価償却資産を取得(資本的支出と認められる支出を含む。)し又は繰延資産に該当する費用(開業費)を支出したことが認められるところ、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》及び同法第50条《繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法》に基づいて、平成20年分から平成24年分までの各年分における各減価償却資産に係る減価償却費及び開業費に係る繰延資産の償却費を算定した上で、実額による計算が可能な上記(ロ)の各期間に対応する減価償却費及び繰延資産の償却費を算定すると、別表10-1から別表10-3までのとおりとなる。

 

D 以上を前提として、本件月間試算ファイルにおける各支出項目を別表7の②欄から⑬欄までの各項目に区分(おしぼりの仕入金額は⑨欄の内書に記載している。)し、実額による計算が可能な上記(ロ)の各期間に対応する平成20年分から平成24年分までの各年分の必要経費の合計額を算定すると、別表7の⑭欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

 

 

(ニ) 平成23年分の事業所得の金額

  上記(ロ)のとおり、平成23年分については実額による計算が可能であるところ、事業所得の金額は、上記(ロ)の収入金額○○○○円(別表7の①欄の金額)から上記(ハ)のDの必要経費○○○○円(別表7の⑭欄の金額)を控除した金額○○○○円(別表7の⑮欄の金額)となる。

 (ホ) 平成20年分から平成22年分まで及び平成24年分の事業所得の金額

 

A 平成20年分

  実額による計算が可能な上記(ロ)の期間の所得金額を算定すると、上記(ロ)の収入金額○○○○円(別表7の①欄の金額)から上記(ハ)のDの必要経費○○○○円(別表7の⑭欄の金額)を控除した金額○○○○円(別表7の⑮欄の金額)となり、当該金額に基づいて所得率を計算すると19.6%(別表7の⑯欄の割合)となる。

  また、上記(イ)の状況から収入金額及び必要経費に係る各データがいずれも欠落しているため実額による計算が不可能となるK店、旧Q店及びR店の10月分の所得金額は、上記イの(ロ)のBの(A)の方法で算定することになるところ、同月分の収入金額は、別表7の「平成20年分」欄の「収入金額」欄の金額○○○○円をこれに対応するおしぼりの仕入本数34,400本(別表9-1の「平成20年」欄の「合計」欄の「合計」欄の36,850本から「10月」欄の「合計」欄の2,450本を差し引いた本数)で除して計算したおしぼり1本当たりの収入金額○○○○円(1円未満の端数を切り捨てた後のもの)に同月の上記仕入本数2,450本を乗じて計算した金額○○○○円となるから、同月分の所得金額は、当該金額に上記のとおり計算した平成20年分の所得率19.6%を乗じて算定した金額○○○○円(1円未満の端数を切り捨てた後のもの)となる。

  そうすると、平成20年分の事業所得の金額は、実額による計算が可能な期間の所得金額○○○○円と実額による計算が不可能な期間の所得金額○○○○円とを合計した金額○○○○円となる。

 

 

B 平成21年分

 

以下略