アパート及び倉庫が恒久的施設に該当するとされた事例 (6)

 

 

 

 

 

 

 引き続き 東京地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第152号 、判決 平成27年5月28日、第2争点に係る裁判所の判断について検討します。     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

争点2(本件アパート等は,日米租税条約5条の規定する恒久的施設に該当するか否か。)について

   

 

 

ア(ア) 日米租税条約は,ある場所が日米租税条約5条1項の規定する恒久的施設に該当する場合であっても,同条4項各号のいずれかに該当する場合には,恒久的施設から除外する旨を規定しているところ,原告は,本件アパート等が同項(a)号の定める「企業に属する物品又は商品の保管,[中略]引渡しのためにのみ施設を使用すること」に該当する旨主張していることから,まず,同項各号の意義について検討する。

     

 

(イ)a 日米租税条約5条4項各号の文言についてみるに,同項(e)号は,「企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として,事業を行う一定の場所を保有すること」と規定しており,上記「その他の」準備的又は補助的な性格の活動という規定振りに鑑みれば,同号に先立つ同項(a)号ないし(d)号は,文理上,「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解することができる。また,同項(f)号は,「(a)から(e)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として,事業を行う一定の場所を保有すること。ただし,当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。」と規定しているところ,同号が同項(a)号ないし(e)号所掲の活動を組み合わせた活動について,あえて「準備的又は補助的な性格」であるとの限定を付しているのは,同項(a)号ないし(e)号所掲の活動が「準備的又は補助的な性格」の活動であることを前提とした上で,各号を組み合わせることによって,その活動の全体が「準備的又は補助的な性格」を超える場合には,恒久的施設の対象から除外しない旨を規定したものと解するのが合理的である。

        

 

 以上によれば,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は,「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であり,ある場所が同項各号に該当するとして恒久的施設から除外されるためには,当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であることを要するものと解すべきである。

      

 

b 日米租税条約5条4項は,OECDモデル租税条約5条4項と同文であり,OECDモデル租税条約に準拠して定められたものであるところ,OECD理事会は,OECDの加盟国(日本及び米国を含む。)が二国間条約の締結又は改訂に際して,OECDコメンタリーによって解釈されるものとしてのOECDモデル租税条約に従い,その課税当局は,OECDモデル租税条約に基づく二国間条約の規定の解釈適用においてOECDコメンタリーに従うべきとの勧告を行っていることが認められる(乙9)。そこで,OECDコメンタリーの内容をみるに,OECDコメンタリーにおいては,OECDモデル租税条約5条4項各号につき,「これらの活動の共通の特徴は,一般に,準備的又は補助的な活動であることである。これは(e)で定められる例外として明文によって定められている。(e)は,実際には,第1項が規定している定義の適用範囲に対する一般的な制限である。[中略]したがって,第4項の規定は,一方の国の企業が,純粋に準備的又は補助的な性格の活動を他方の国で行う場合には,当該他方の国で租税を課されることがないように企図されているのである」,「第4項は準備的又は補助的な性格を有する活動を遂行する事業を行う一定の場所に関して,第1項の一般的定義に対する例外を規定しようとするものである。」と記述されている(乙9)。

 

 これらの記述に鑑みれば,OECDコメンタリーは,OECDモデル租税条約5条4項各号の活動の共通の特徴が準備的又は補助的な性格であって,同項全体が準備的又は補助的な性格の活動を恒久的施設から除外するための規定であるとの解釈を示しており,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に係る当裁判所の解釈(上記a)に符合したものであるということができる。

 

 なお,原告は,OECDコメンタリーについて,OECDモデル租税条約5条4項各号に該当する活動が準備的又は補助的な性格の活動でなければ,同項(a)号ないし(d)号が適用されないと述べているわけではない旨主張するが,前記指摘したOECDコメンタリーの記述内容に照らし,上記主張を採用することはできない。

     

 

(ウ)a この点,原告は,日米租税条約(OECDモデル租税条約)5条4項各号が「準備的又は補助的な性格の活動」であると解釈した場合,同項(e)号とは別に,同項(a)号ないし(d)号を定めることは無意味であって,不合理であるなどと主張している。しかしながら,「準備的又は補助的な性格の活動」との文言自体から,その内容が一義的に明らかになるわけではなく,「準備的又は補助的な性格の活動」の具体例(同項(a)号ないし(d)号)を挙げた上で,具体的例示の方法によって網羅しきれない場合に備えて包括的な定め(同項(e)号)を置くという規定の仕方が特段不自然,不合理であるということはできない。

      

 

 

b 原告は,国連モデル租税条約との比較によれば,OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号が「引渡し」のための施設(倉庫)を恒久的施設から除外したものと解すべきである旨主張しているところ,国連モデル租税条約5条4項(a)号は,発展途上国の課税権限を広く認めるという観点から,同号に「引渡し」を含めなかったものと解される(甲4)。しかしながら,同号が「引渡し」を含めなかったからといって,OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であることを否定すべきであるということはできず,原告の上記主張を採用することはできない。

      

 

 

c 原告は,OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号ないし(d)号について,2012年報告書の見解に沿った解釈をすべきである旨主張しているところ,証拠(甲24)によれば,OECDの検討チームは,OECDモデル租税条約5条4項8(a)号ないし(d)号について,「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることを要しないとの解釈を示していることが認められる。しかしながら,2012年報告書は,その記載内容に照らせば,同項(a)号ないし(d)号について,従来,「準備的又は補助的な性格を要する活動」であるとの解釈がされていたことを前提とした上で,OECDコメンタリーの改訂により,上記解釈を変更することを提案したものと解されるのであり,2012年報告書が従来の解釈の変更を提案したからといって,本件各係争年における日米租税条約5条4項の解釈につき,2012年報告書に従わなければならないということはできない。なお,原告は,OECDモデル租税条約5条4項について,自己の主張に沿った見解等が記載されている文献を複数指摘しているものの,日米租税条約5条4項の文理解釈として,同項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性格を有する活動」の例示であると解すべきことは,前記検討のとおりであって(前記(イ)a),これと異なる解釈をすべき理由を認めることはできない。

     

 

 

(エ) 以上のとおり,日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は,「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解すべきである。したがって,本件アパート等が恒久的施設に該当するためには,同条1項の規定する「恒久的施設」に当たり,かつ,同条4項各号の規定する「準備的又は補助的な性格の活動」を行う施設には当たらないことを要するというべきである。

    

 

 

イ(ア) 前記アを踏まえて検討するに,前記認定のとおり,本件アパート等は,原告が米国に居住している間も,① 本件販売事業の商品を保管しておき,② 顧客の注文を受けて,個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し,また,③ 顧客からの返品があった場合には,返品された商品を受け取り,代替商品を発送するなどの業務を行う場所であった(認定事実(1)ア(ア),(3)ア,イ(ア))のであるから,本件アパート等が本件販売事業の全部又は一部を行う一定の場所であったことは明らかであり,本件アパート等は,日米租税条約5条1項の規定する「恒久的施設」に該当する。

     

 

 

(イ) この点,原告は,本件アパートが,本件倉庫を賃借した後は無人であり,事業を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)に該当しない旨の主張をしているところ,原告及び本件従業員が,本件倉庫が賃借された後,本件アパートにおいて,本件販売事業に係る具体的な作業を行っていたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。

       

 

しかしながら,

 

① 本件アパートは,本件倉庫が賃借された後も,原告ホームページ等において,本件企業が所在する場所として掲載され(認定事実(1)ウ(ア)),

 

② 本件企業は,本件倉庫において商品の保管,梱包,発送等の業務をしていたにもかかわらず,本件アパートを発送元として,商品を発送していた(認定事実(3)ア(ウ))のである。さらに,

 

③ 本件企業は,顧客が返品を希望した場合には,あえて本件アパート宛てに商品を発送させ,本件倉庫において,転送届により本件アパートから転送された商品を受け取っていたのである(認定事実(1)ウ(イ)c,(3)イ(ア)c)。

       

 

 これらの事実関係によれば,本件アパートは,本件倉庫が賃借され,原告及び本件従業員による具体的な作業の場所が本件倉庫に移転した後においても,本件倉庫と一体となって,本件企業としての活動を行う場所としての機能・役割を担っていたということができる。なお,ある場所が日米租税条約5条1項の定める恒久的施設に該当するか否かは,企業としての活動(事業)の有無及び内容によって判断すべきものであるから,原告及び本件従業員が本件アパートにおいて具体的な作業を行っていなかったことは,上記認定・判断を覆す事情には当たらない。

    

 

ウ 次に,本件アパート等が日米租税条約5条4項各号のいずれかに該当するか否かを検討するに,以下述べるとおり,本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格」のものであるということはできず,本件アパート等は,上記各号のいずれにも該当しないというべきである。

     

 

(ア)a 本件販売事業の事業形態は,日本国内の顧客に対し,インターネット(原告ホームページ,P3ウェブページ,P5等)を通じて,本件アパート等にある在庫商品を販売するというものであるところ,本件企業は,原告が米国に居住している間も,原告ホームページ等において,本件企業の所在地及び連絡先として,本件アパートの住所及び本件電話番号等を掲載し,販売活動を行っていた(認定事実(1)ウ(ア))。

      

 

b(a) インターネットによる通信販売を利用する者は,通常,インターネット上の情報等を通じ,当該企業が取引の相手として信頼できる者であるかどうかなどを判断しており,企業のホームページに掲載された情報は,当該者にとって極めて重要な情報であると考えられる。また,通信販売を利用する者が取引の相手となる企業を選ぶに当たっては,当該企業が日本国内の企業であるかどうかを重要な判断要素の一つとしているものと考えられる(なお,特定商取引法11条1項5号及び特定商取引法施行規則8条1項1号は,通信販売を行う販売業者が広告を行う際に住所及び電話番号を表示することを義務付けている。)。インターネットによる通信販売の上記特質に鑑みれば,本件企業の顧客は,本件企業の所在地及び連絡先が日本国内(本件アパート)にあることを取引する際の重要な判断要素の一つとし,かつ,これを前提として,本件企業と取引を行っていたものと推認することができる。

       

 

(b) また,本件企業が,顧客に対し,原告が米国に居住しているとの情報を公表していたことをうかがわせる事実ないし証拠はなく,原告が,前述のとおり(前記イ(イ)),本件倉庫を賃借した後も,原告ホームページ等において,本件企業の所在地等として,本件アパートの住所等を掲載し続けた上,あえて本件アパートを商品の発送元とし,商品の返品先も本件アパートに指定していたことを併せ考えれば,原告は,顧客に対し,本件企業が日本国内(本件アパート)にある企業であると認識させた上で,本件販売事業における販売活動を行っていたものと推認することができ,同認定を覆すに足りる事実ないし証拠はない。

       

 

 

(c) さらに,本件企業は,P3及びP5を通じて販売活動を行っているところ(前提事実(2)ア・イ),前記認定のとおり,

 

① P3が,日本国内に事業所があることを出品の条件とし,

 

② P5が,日本国内の事業者が出品していることを,P5補償制度を利用するための条件としていたこと(認定事実(1)イ)に鑑みれば,本件企業の所在地が日本国内(本件アパート)であることは,本件販売事業が行われているインターネット市場との関係においても,取引の前提条件となる重要な要素であったということができる。

      

 

 

c 本件企業は,前述のとおり,本件アパートを所在地として販売活動を行っていたところ,本件販売事業における販売活動が全てインターネットを通じて行われており,本件販売事業が本件アパート等に保管された在庫商品を販売するという事業形態であることを併せ考えれば,本件アパートは,本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。また,原告が本件倉庫を賃借した後においては,前記イ(イ)で検討した事情に鑑みれば,本件倉庫も,本件アパートと一体となって,本件企業の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。

     

 

 

(イ) 本件販売事業は,インターネットを通じた通信販売であるところ,通信販売という事業形態に鑑みれば,対面取引に比して,商品の購入者に対する商品の配送(発送)業務が事業の重要な部分を占めていることは明らかである。また,通信販売を利用して商品を購入した者は,商品の配送を受けた時点で初めて,実際の商品を確認することができるのであって,通信販売においては,その性質上,配送後における契約解除(返品)の可能性が,対面取引に比して高く,顧客からの返品に対応することも重要な業務であるということができる。

      

 

 本件従業員は,前記認定のとおり,本件アパート等において,商品を保管しておき,顧客の注文を受けて,個別に商品を梱包した上で顧客に向けて発送し,また,顧客からの返品を受け取り,代替商品を発送するなどの業務を行っており(認定事実(3)イ(ア)),これらの業務は,通信販売である本件販売事業にとって,重要な業務であったというべきである。

       

 

 さらに,本件企業は,原告ホームページ等において,米国から仕入れた自動車用品を低価格で販売し,注文された商品を速やかに顧客に配送する旨を掲載している(認定事実(1)ウ(イ)a・b)ところ,これらは,原告が米国で仕入れた商品を本件アパート等に在庫商品として保管し,本件アパート等から顧客に対して配送するからこそ実現できるのであって,本件販売事業における契約条件の実現という観点からも,本件アパート等における保管及び発送業務は重要なものであったということができる。

     

 

 

(ウ) 前記検討のとおり,本件企業は,本件アパート等を販売拠点(事業所)として,本件販売事業における販売活動を行い,かつ,本件従業員が,本件企業の事業所である本件アパート等において,通信販売である本件販売事業にとって重要な業務(商品の保管,梱包,配送,返品の受取り等)を実際に行っていたことに鑑みれば,本件アパート等が本件販売事業にとって「準備的又は補助的な性格の活動」を行っていた場所であるということはできない。そうである以上,本件アパート等は,日米租税条約5条4項各号のいずれにも該当しないというべきである。

    

 

エ(ア)a 原告は,本件アパート等は,「企業に属する物品又は商品の保管,[中略]引渡しのためにのみ」使用する場所であって,日米租税条約5条4項(a)号に該当する旨主張しているところ,本件従業員が本件アパート等において行っていた業務の内容は,前記認定のとおりであって,その主な活動が商品の「保管」及び「引渡し」としての性格を有するものであったことは否定できない。

      

 

b しかしながら,前記検討のとおり(前記ウ(イ)),通信販売という事業形態の特質に鑑みれば,本件従業員が本件アパート等で行っていた業務は,本件販売事業にとって重要なものであったというべきである。

     

 

c(a) また,本件従業員は,商品を個別に梱包する際,日本語取説書のある商品については,日本語取説書を同梱する作業をしていた(認定事実(3)ア(エ))ところ,本件企業が日本語取説書を無料で添付する旨を宣伝していたこと(認定事実(1)ウ(イ)d)に照らしても,上記作業は,本件企業が販売している商品(自動車用品)の経済的価値を高める活動であり,単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものというべきである。

       

 この点,原告は,日本語取説書も独立の商品であり,上記作業も日米租税条約5条4項(a)号に該当する旨主張している。しかしながら,原告が米国から輸入して本件アパート等に保管していた商品は,その段階では,飽くまで米国内で流通していたままの商品であり,その後,本件従業員が個別に日本語取説書と組み合わせることによって,日本国内の顧客向けの商品としての価値が付加されるものと解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。

       

 

 

(b) さらに,本件従業員は,本件アパート等において,

 

① 原告ホームページ等に掲載するための商品の写真を撮影する業務を行い(認定事実(3)イ(ア)d),

 

② 顧客が商品を返品した場合には,本件アパート等において,返品された商品を受け取り,その代替商品を顧客に対して発送し,返品された商品を米国にいる原告に対して発送するといった業務を行っていた(認定事実(3)イ(ア)c)ところ,これらの業務についても,単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものと解すべきである。

         

 この点,原告は,上記②について,顧客から返品される商品が「企業に属する物品」であり,これを受け取り,代替商品を発送するなどの業務は,いずれも日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引渡し」に該当する旨主張している。しかしながら,前述のとおり(前記ウ(イ)),顧客からの返品に対応する業務は,通信販売において重要な業務であると解されるところ,原告が,顧客に対し,初期不良品の返品を受け取る旨を申し入れ,本件企業の事業所である本件アパートを返品先として,本件企業の負担において返品を受け取るという一連の活動全体が,商品を購入した顧客に対する事後的なサービスを形成していると解されるのであって,このようなサービスの一部分を切り取って,同号の規定する「保管」又は「引渡し」として単純化すべきものではない。原告の上記主張は採用することができない。

      

 

 

d 以上に加えて,前記検討のとおり(前記ウ(ア)),本件企業が,本件アパート等を販売拠点(事業所)として販売活動を行っていたことを併せ考えても,本件アパート等が商品の保管又は引渡しのみのために使用する場所であるということはできず,日米租税条約5条4項(a)号に該当するということはできない(なお,既に検討したところによれば,本件アパート等が日米租税条約5条4項(e)号の規定する「準備的又は補助的な性格の活動」を行う場所に該当しないことも明らかである。)。

     

 

 

(イ)a 原告は,本件販売事業における中核的な業務は,全て原告が米国で行っており,本件従業員が本件アパート等で行っていた作業は,機械的な単純作業のみであるから,本件アパート等における活動は「準備的又は補助的な性格の活動」に該当する旨主張している。

      

 

 

b そこで検討するに,前記認定によれば,本件従業員が本件アパート等において行っていた主な業務(認定事実(3)イ(ア))は,機械的な単純作業であったということができる。また,本件従業員が,本件アパート等において,本件販売事業(本件企業)の管理又は経営に関与していたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。

        

 なお,被告は,本件訪問調査記録を根拠として,本件従業員が本件受注ソフトの運用(在庫管理)に関与していたという趣旨の主張をしているが,本件訪問調査記録には原告の署名等はされておらず,原告がその内容を争う陳述書(甲9)を提出し,その内容に特段不自然な点もないことに照らせば,本件従業員が在庫管理に関与していた事実を認めることはできない。また,被告は,本件P10てん末書を根拠として,本件アパートに本件受注システムが組み込まれたパソコンが設置され,本件販売事業の管理を担っていたという趣旨の主張をしているが,本件P10てん末書においても,原告が米国に居住している間において,上記パソコンが本件アパートに設置されていたことを直接裏付ける記載はなく,P10が,本件P10陳述書により,本件P10てん末書の記載内容を一部訂正していることを併せ考えれば,被告の主張する事実を認めることはできない。

      

 

 

c しかしながら,既に検討したとおり,本件企業は,本件アパート等を販売拠点(事業所)として,本件販売事業における販売活動を行っていたのであり,通信販売の特質に鑑みても,本件従業員が本件アパート等で行っていた業務が「準備的又は補助的な性格の活動」であるということはできない(ある業務が準備的又は補助的な性格のものであるか否かは,事業全体における役割・機能に鑑みて判断すべきものであり,本件従業員の業務が機械的な単純作業であったことは上記判断を覆す事情には当たらない。)。

 

 

 さらに,原告は,本件倉庫の使用状況について,「当初から,作業の簡素化を考えていましたので,平成18年以前と変わりません。私が,日本に居たか,米国に居たかの違いです。」と説明しているところ(乙24),原告が本件販売事業の効率化,合理化を進めた結果として,本件従業員が定型的な業務を行えば足りる人的・物的体制が構築されたものと解することもできる。

      

 

d よって,本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格の活動」に該当する旨の原告の主張を採用することはできない。

    

 

オ 以上によれば,本件アパート等は,本件各係争年において,本件販売事業の全部又は一部を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)であり,かつ,同条4項各号のいずれにも該当しないから,同条の規定する「恒久的施設」に該当するというべきである。