アパート及び倉庫が恒久的施設に該当するとされた事例 (4)

 

 

 

 

 

 

 引き続き 東京地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第152号 、判決 平成27年5月28日、第1争点に係る裁判所の判断について検討します。   

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

(1) 争点1(実特法省令9条の2第1項又は7項の定める届出書を提出しなければ,日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができないのか否か。)について

   

 

ア 国民は,民主主義の下,その総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うものとされており(憲法30条参照),その反面において,新たに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とされていること(憲法84条)に鑑みれば,

 

 

 納税義務者,課税標準等の課税要件はもとより,租税の賦課,納付,徴収等の手続についても,全て法律により規定すべきものである(最高裁大法廷昭和30年3月23日判決・民集9巻3号336頁,最高裁大法廷昭和37年2月21日判決・刑集16巻2号107頁)。

 

 

 そして,法律により,政令などの下位の法令に課税要件等の定めを委任することは可能ではあるものの,その委任の方法は,当該法律において委任の内容を個別的・具体的に限定するなどして,租税法律主義(憲法84条)の本質を損なわないものでなければならず,委任の内容を何ら限定することなく,包括的・一般的に委任することは,憲法84条に反するものとして許されないというべきである。

    

 

 

イ 原告は,本件各係争年における国内源泉所得について,実特法省令に基づく届出書を提出していない(当事者間に争いがない。)ところ,被告は,実特法省令に基づく届出書を提出していない以上,日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることはできない旨主張している。

      

 

 そこで検討するに,実特法省令9条の2は,租税条約の特定規定に基づき,税の軽減又は免除を受けようとする場合には,実特法省令に基づく届出書を提出しなければならない旨を定めており,日米租税条約7条1項は,上記特定規定に該当するから(実特法12条,本件総務大臣等告示),実特法省令9条の2によれば,原告は,国内源泉所得について,日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けるに当たり,実特法省令に基づく届出書を提出すべきであったということができる。

      

 

 しかしながら,実特法省令9条の2は,実特法省令に基づく届出書を提出しなかった場合において,租税条約に基づく税の軽減又は免除を受けることができない旨を具体的に規定しているわけではない。

 

 

 また,実特法省令は,実特法12条の委任規定に基づくものであるところ,同条は,「租税条約の実施及びこの法律の適用に関し必要な事項は,総務省令,財務省令で定める。」とのみ規定しており,その委任の方法は,一般的,包括的なものであって,租税法律主義(憲法84条)に照らし,実特法12条が課税要件等の定めを省令に委ねたものと解することはできない。

 

 

 そうである以上,同条が,実特法省令に対し,届出書の提出を租税条約に基づく税の軽減又は免除を受けるための手続要件として定めることを委任したものと解することはできないというべきである。

    

 

ウ この点,被告は,日米租税条約による特典を受けるための実体的要件は,日米租税条約が定めており,実特法省令9条の2は,実特法12条による委任を受けて,上記実体的要件の存否等を確認するための手続的な事項を定めたものにすぎないなどと主張している。

 

  

 しかしながら,実特法省令に基づく届出書を提出しなければ,租税条約による特典を受けることができないとするならば,実特法省令に基づく届出書を提出することは,租税条約の特典を受けるための手続要件になるものと解さざるを得ない。

 

 

 前記検討のとおり,実特法12条の委任規定の内容は,一般的,包括的なものであるところ,同条が法律よりも下位の省令に対し,租税条約及び実特法を実施するための手続的細則を定めることを委任したものと解することはできるとしても,省令の定める手続を経なければ,租税条約の特典を受けることができないという意味での手続要件を定めることを委任したものと解することはできないというべきである。

 

 

 これに反する被告の主張は採用することができない。

    

 

 

エ 以上によれば,原告が日米租税条約7条1項による税の軽減又は免除を受けることができるか否かについては,同項に基づき判断されるべきものであって,原告が実特法省令に基づく届出書を提出しなかったことをもって,同項の適用を否定することはできない。