アパート及び倉庫が恒久的施設に該当するとされた事例 (1)

 

 

 

 東京地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第152号 、判決 平成27年5月28日、について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

1 租税条約の実施に伴う所得税法,法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令(平成22年総務省,財務省令第1号による改正前のもの)9条の2第1項又は7項による届出書の提出は,租税条約に基づく税の軽減又は免除を受けるための手続要件となるか。 

 

      

2 ある場所が所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年条約第2号)5条4項各号に該当するとして恒久的施設から除外されるためには,当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であることを要するか。 

 

      

 

3 所得税法上の非居住者である甲がアメリカ合衆国から本邦に輸入した自動車用品をインターネットを通じて専ら日本国内の顧客に販売する事業の用に供していたアパート及び倉庫が所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約5条の規定する恒久的施設に該当するとされた事例 

 

      

4 所轄税務署長が,上記3の販売事業における平成17年分ないし平成20年分の各収入金額(売上金額)に,甲の平成16年分の事業所得に係る青色申告特別控除前の所得金額の総収入金額に占める割合を乗じる方法によって,上記販売事業につき,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約に基づき恒久的施設に配分される課税所得となる所得金額を推計したことについて,推計の必要性及び合理性があるとされた事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事案の概要

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 本件は,所得税法上の非居住者として,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)から本邦に輸入した自動車用品を,インターネットを通じて専ら日本国内の顧客に販売する事業(以下「本件販売事業」という。)を営んでいた原告が,処分行政庁から,本件販売事業の用に供していたアパート及び倉庫(以下,併せて「本件アパート等」という。)は,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年条約第2号。以下「日米租税条約」という。)5条の規定する「恒久的施設」に該当し,原告は本邦において所得税を納税すべき義務があるとして,原告の平成17年分ないし平成20年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税についての各決定処分(以下,併せて「本件各所得税決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下,併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件各所得税決定処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことに対し,本件アパート等は恒久的施設に該当せず,原告が本邦において所得税を納税すべき義務はないとして,本件各処分の取消しを求める事案である。

  

 

 

 

 

 

1 関係法令の定め

 

   本件に関係する法令の定めは,別紙2「関係法令の定め」記載のとおりである(同別紙において定義した略語等は,本文においても用いることとする。)。

  

 

 

 

 

2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は,当事者間に争いのない事実である。)

   

 

 

 

 

(1) 原告

    

 

 

ア 原告は,「P1」との屋号で本件販売事業を個人で営む者である(以下,原告が上記屋号で営む企業を原告個人と区別して「本件企業」ともいう。)。

    

 

イ 原告は,平成16年10月23日,米国に向けて本邦を出国し(以下,この出国を「本件出国」という。),同日以降少なくとも平成20年末までの間,米国に居住しており,平成17年ないし平成20年(以下「本件各係争年」という。)において,所得税法上の非居住者(同法2条1項5号)であった。

   

 

 

 

(2) 本件販売事業の概要

    

 

 

ア 原告は,平成14年以降,専ら日本の顧客を対象として,本件販売事業を営んでおり,本件企業の営業所を兵庫県高砂市α×番29-208号所在のアパート(以下「本件アパート」という。),本件企業の連絡先電話番号を「×」(以下「本件電話番号」という。)として,インターネット上に自動車用品を販売するホームページ(以下「原告ホームページ」という。)を開設するほか,P2株式会社が運営するインターネット上の電子商店街であるP3に出店し(以下,原告がP3に掲載する本件企業のウェブページを「P3ウェブページ」といい,原告ホームページと併せて「原告ホームページ等」という。),P4株式会社が運営するインターネットを介して競売を行うウェブサイトのP5に出品していた。

    

 

イ(ア) 原告は,平成14年1月14日,P5を利用するための「P6」を取得し,遅くとも同年3月23日までに,原告ホームページを開設した。

     

 

(イ) 原告は,平成16年7月1日から,P3ウェブページ上に出店している。

    

 

 

 

ウ(ア) 原告は,平成13年11月16日,本件アパートを賃借し,同月17日,本件アパートに本件電話番号を設置し,平成16年4月22日,本件アパートに電話番号「×」(以下「本件ファックス番号」といい,本件電話番号と併せて「本件電話番号等」という。)を設置した。本件電話番号は,原告ホームページ等において,本件企業の連絡先電話番号として掲載されており,また,本件ファックス番号は,P3ウェブページにおいて,本件企業のファックス番号として掲載されている。

     

 

(イ) 原告は,本件出国後である平成18年11月29日,兵庫県高砂市β×番8号所在の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を賃借した。なお,本件アパートに設置された本件ファックス番号は,本件倉庫の賃借に伴い,本件倉庫に移設された。

    

 

 

エ(ア) 本件企業は,米国において仕入れた自動車用品を,本件アパート等(本件アパート及び本件倉庫)に保管しておき,日本国内の顧客からインターネットを通じて注文を受けた場合には,その商品を本件アパート等から当該顧客に向けて発送するという方法により,本件販売事業を行っており,注文商品を発送する際,独自の日本語版取扱説明書(以下「日本語取説書」という。)を同梱することもあった。

     

 

 

(イ) 原告は,本件販売事業のうち本件アパート等における業務に従事する従業員(以下「本件従業員」という。)を雇用しており,本件従業員が同業務に従事していた。なお,本件企業が本件アパート等から顧客に向けて発送する商品は,全てP7株式会社(以下「P7」という。)が集荷して顧客に配達している。[乙22,弁論の全趣旨]

   

 

 

(3) 原告の本件出国前後における確定申告等の状況

    

 

 

ア 原告は,平成16年10月23日,本件出国をした。

    

 

 

イ 原告は,平成16年11月19日,処分行政庁に対し,所得税法施行規則98条1項3号の規定に基づき,米国へ移住することを理由として,同年10月23日に本件販売事業を廃業した旨の「個人事業の開廃業等届出書」(以下「本件廃業届出書」という。)を提出するとともに,通則法117条1項及び2項の規定に基づき,平成16年分の所得税の確定申告を行うために納税管理人としてP8税理士を選任する旨の「所得税の納税管理人の届出書」を提出した。

    

 

 

ウ 原告は,本件廃業届出書を提出する一方で,本件各係争年において,本件アパート等を本件販売事業の用に供して,本件販売事業を継続して営んでいた(なお,原告が本件倉庫を賃借した後において,本件企業が本件アパートを本件販売事業の用に供していたといえるかどうかについては,当事者間に争いがある。)。