名古屋地方裁判所判決/平成27年(わ)第838号 、判決 平成27年6月25日 について検討します。
【判示事項】
会社の役員として報酬を得ていた被告人が,県民税等の賦課期日である1月1日の住所を中華人民共和国として,県民税等を免れようと企て,同国香港特別行政区に転出する虚偽の申立てをして,住民基本台帳ファイルに不実の記載をさせ,3年間,香港を住所とした確定申告を提出し,県民税等1億2791万円を免れた電磁的公正証書原本不実記録・同供用,地方税法違反の事案で,懲役1年6月,罰金3800万円,懲役刑につき執行猶予3年に処した事例
主 文
被告人を懲役1年6月及び罰金3800万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金10万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
罪となるべき事実
起訴状に記載された公訴事実と同一であるから,これを引用する。
適用した罰条
1 刑法157条1項,158条1項
2 地方税法41条2項,324条1項,2項(情状による)
3 刑法54条1項後段,10条
4 刑法54条1項前段,10条
5 刑法45条前段,47条本文,10条,48条2項
6 刑法18条
7 刑法25条1項
量刑事情
本件で被告人が免れた市県民税の額は,3年間で合計約1億2791万円に上っており,極めて多額である。なお,被告人は,地方行政や地方公務員に対する強い不信感があったことなどから本件犯行に及んだというのであるが,そのような動機に酌量の余地があるとはいえない。
他方,本件犯行により免れた市県民税について現在では全額が納付されたこと,被告人が事実関係を認めて真摯に反省していること,経営する会社の社長職を辞するなどしており一定の社会的制裁を受けていることなど,被告人のために酌むべき事情がある。
そうすると,主文のとおりの主刑を科すのはやむを得ないが,懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当と判断した。
(求刑 懲役1年6月,罰金3800万円)
平成27年7月10日
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判官 高橋里奈
平成27年検第101011 103971号
起訴状
平成27年4月20日
名古屋地方裁判所 殿
名古屋地方検察庁
検察官 検事 楠智裕
下記被告事件につき公訴を提起する。
記
本籍 愛知県日進市(以下略)
住居 同上
職業 会社役員
在宅 A(A)(男) 昭和30年○○月○○日生
公訴事実
被告人は,株式会社Bから役員報酬を得ていた者であり,平成20年9月頃以降,愛知県日進市(以下略)に住所を有していた者であるが,県民税及び市民税の賦課期日である1月1日の住所が同所になく,海外に在るように装って,県民税及び市民税を免れようと企て
第1 平成23年12月26日,愛知県日進市蟹甲町池下268番地所在の日進市役所において,同市役所職員に対し,自己が中華人民共和国香港特別行政区に転出する事実がないのに,同月28日付けで同特別行政区に転出する旨虚偽の申立てをし,同月28日,同市役所において,同市役所職員をして,権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である日進市の住民基本台帳ファイルに自己が同日に同国に転出する旨不実の記録をさせ,これを備え付けさせて公正証書の原本としての用に供し
第2 第1記載のとおり,日進市の住民基本台帳ファイルに自己が中華人民共和国に転出する旨不実の記録をさせ,これを備え付けさせた上,平成24年1月1日の住所が愛知県日進市(以下略)に在るよう同住民基本台帳ファイルの記録を是正する措置を講じず,さらに,
平成24年3月19日,顧問税理士であるCをして,「平成24年1月1日の住所」欄に香港と記載した確定申告書を昭和税務署を介して日進市役所に提出させ,平成24年度の県民税及び市民税の賦課期日である平成24年1月1日の住所が同市(以下略)になく,中華人民共和国に存るように装う方法により,愛知県日進市長をして,同年度の県民税及び市民税の所得割の課税標準が3億4,030万円であったにもかかわらず,同年5月31日までに被告人に係る県民税及び市民税の賦課決定を行わせず,もって不正の行為により同年度の県民税及び市民税合計3,335万800円を免れ
第3 第1記載の不実の記録を備え付けさせたままの状態にした上,平成25年1月1日の住所が愛知県日進市(以下略)に在るよう上記住民基本台帳ファイルの記録を是正する措置を講じず,さらに,平成25年3月11日,上記Cをして,「平成25年1月1日の住所」欄に香港と記載した確定申告書を昭和税務署を介して日進市役所に提出させ,
平成25年度の県民税及び市民税の賦課期日である平成25年1月1日の住所が同市(以下略)になく,中華人民共和国に存るように装う方法により,愛知県日進市長をして,同年度の県民税及び市民税の所得割の課税標準が5億1,130万7,900円であったにもかかわらず,同年5月31日までに被告人に係る県民税及び市民税の賦課決定を行わせず,もって不正の行為により同年度の県民税及び市民税合計5,052万2,500円を免れ
第4 平成25年12月16日,東京都品川区広町2丁目1番36号所在の品川区役所において,同区役所職員に対し,自己が中華人民共和国香港特別行政区に転出する事実がないのに,同月24日付けで同特別行政区に転出する旨虚偽の申立てをし,その頃,同区役所において,同区役所職員をして,権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録である品川区の住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを備え付けさせて公正証書の原本としての用に供し
第5 第4記載のとおり,品川区の住民基本台帳ファイルに自己が中華人民共和国香港特別行政区に転出する旨の不実の記録をさせてこれを備え付けさせたままの状態にした上,平成26年1月1日の住所が愛知県日進市(以下略)に在るよう日進市の住民基本台帳ファイルの記録を是正する措置を講じず,さらに,平成26年3月17日,上記Cをして,「平成26年1月1日の住所」欄に香港と記載した確定申告書を昭和税務署を介して日進市役所に提出させ,平成26年度の県民税及び市民税の賦課期日である平成26年1月1日の住所が同市(以下略)になく,中華人民共和国に存るように装う方法により,愛知県日進市長をして,同年度の県民税及び市民税の所得割の課税標準が4億4,755万7,400円であったにもかかわらず,同年6月2日までに被告人に係る県民税及び市民税の賦課決定を行わせず,もって不正の行為により同年度の県民税及び市民税合計4,404万1,300円を免れ
たものである。
罪名及び罰条
第1,第4 電磁的公正証書原本不実記録・同供用
刑法第157条第1項,第158条第1項
第2,第3,第5 地方税法違反 同法第41条第2項,第324条第1項