貸金請求事件

 

 

 

 

東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第855号 、判決 平成27年5月25日について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 

 7回にわたる合計465万円の貸金請求の事案。裁判所は,原告が自己名義の口座から金銭を引き出した事実,電子メールのやり取りから判明する原・被告の接点,複数の借用書の内容との符合等と支払督促の送達による返還請求の事実を認めて,請求を認容した事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 被告は,原告に対し,465万円及びこれに対する平成27年1月3日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

  2 訴訟費用は被告の負担とする。

  3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

        

 

 

 

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

 

 第1 請求

    主文第1項同旨

 第2 当事者の主張

  1 請求原因

   (1) 原告は,被告に対し,以下のアないしキのとおり,いずれも返還期限を定めず,合計465万円を貸し渡した。

    ア 平成25年 6月 4日  15万円

    イ 平成25年 6月21日  50万円

    ウ 平成25年 6月28日  50万円

    エ 平成25年12月28日  40万円

    オ 平成26年 3月21日 130万円

    カ 平成26年 3月29日  30万円

    キ 平成26年 5月 8日 150万円

   (2) 原告は,被告に対し,平成26年9月7日,貸し付けた金銭の返還を請求した。

   (3) よって,原告は,被告に対し,消費貸借契約に基づいて,貸金465万円及びこれに対する返還請求後の日である平成27年1月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 

 

  2 請求原因に対する認否等

    被告は答弁書を提出しないが,原告を債権者とする本訴請求に係る支払督促に対する異議申立書において「請求の趣旨及び原因に記載のある貸付金を借り受ける合意をしたことはなく,金員の交付も受けていません」と記載していることから,請求原因(1)を否認するものと解される。

 

 

 

 

 第3 当裁判所の判断

 

  1 事実経過

 

    証拠(具体的には該当箇所に記載)及び弁論の全趣旨によると,原告の被告に対する金員の貸渡しに関し,以下の(1)ないし(7)の各日又は期間において,各項目記載の事実を認定することができる。

 

 

   (1) 平成25年6月4日

     被告は,同日午後9時50分ころ,原告の自宅を訪れ(甲4),原告は深夜の時間帯である午後11時以降に自宅付近のコンビニエンスストアのATMで自己名義のみずほ銀行の普通預金口座から20万円を引き出し(甲7),そのうち15万円を被告に交付した。

 

     被告は原告宅を退出後,「今日はありがとうございました(中略)ほんとに助かりました」との電子メールを送信し,これに対して原告が「なら良かったよ。無理しないで,体を大切にね。」と返信し,被告が「ほんとにありがとうございました」と重ねてメールを送信したのに対し,原告が「気にしなくていいよ。お金はツケにしとくし」との電子メールを送信した(甲4)。

 

 

   (2) 平成25年6月21日

     被告は,同日午後10時45分ころに原告の自宅を訪れ,アルバイトを辞めてしまい,ホストやそのお店への借金がある上,親から実家を出て行くように言われて引越費用が必要であるとして金銭の借入れを求めた(甲5)。

 

     原告は,翌22日の午前零時5分ころ,自宅付近のコンビニエンスストアにおいて合計50万円を引き出し(甲7),これを被告に交付した。

 

     被告は,翌週の6月28日に原告との待合せの予定を確認する際,電子メールで「もうホストとはこの間ので完全に切れたので,少し楽になりました。」と送信し,原告が「それは良かったよ。Y1ちゃん自身のために時間とお金を使ってね。」と返信したのに対し,被告は「はい!ホストとは完全に切れたんですけど,今またクレジットのお金に苦しめられてる状況ですね」との電子メールを送信した(甲4)。

 

 

   (3) 平成25年6月28日

     原告と被告は上記(2)のような電子メールでのやり取りの後,同日午後9時45分ころに東京駅で待ち合わせて食事をした(甲4)。

     原告は,東京駅丸の内北口のみずほ銀行丸之内支店丸の内オアゾ出張所ATMで合計50万円を引き出し(甲6,7),被告にこれを交付した。

     原告が,翌週の7月1日,被告に対して「借金は大丈夫になった?」と問いかける電子メールを送信したのに対し,被告は「ありがとうございます!とりあえずカード代はなんとかなりました」と返信した(甲4)。

 

 

   (4) 平成25年12月28日

     被告は,平成25年12月10日,原告と会った後に「今日X1さんに会って思ったんですが,いま100万くらい貸してもらってる状況で私の価値だと思って更に私に貸してくれるとしたらどれくらいですか? 私は頼れるのはX1さんだけだし信用しています! ただ信用出来なかったり,価値がないと思ったらこの話しは聞き流してもらえたらいいなと思います。突然こんなこと言ってしまってすいません。ただ,自分に価値があるのか不安になって聞いてしまいました。」との電子メールを送信し,原告は「さらに貸すっていうのはまだ早いな。信用はしてるけどさ。」と返信した(甲4)。

 

 

     そして,被告は,平成25年12月28日の午前6時25分ころに原告の自宅を訪れ,前に付き合っていた男に携帯電話の名義を貸していたら,40万円ほどの請求が来たと話した(甲5)。

 

     原告は,同日午前7時30分ころ,自宅近くのコンビニエンスストアのATMで合計50万円を引き出し(甲6,7),これを被告に交付した。

 

 

 

   (5) 平成26年3月13日から同年同月21日まで

    原告は,平成26年3月13日と17日に新宿で被告と会い,付近のコンビニエンスストアのATMで30万円と50万円を引き出した(甲6,7)。

     被告は,同年同月21日,原告宅を訪問し,原告から金銭を借り入れた上,合計130万円の借用書を作成し,原告に交付した(甲1)。

 

   (6) 平成26年3月29日

     被告は同日午前5時ころに原告宅を訪れ,全身脱毛のための費用30万円が必要であると話した(甲5)。

     原告は,同日午前7時40分ころ,自宅付近のコンビニエンスストアのATMで合計30万円を引き出し(甲6,7),これを被告に交付した。

 

 

   (7) 平成26年4月15日から5月8日まで

    原告は,平成26年4月15日,同年同月24日,同年5月5日,同年同月8日に新宿において,同年4月29日には自宅において,それぞれ被告と会い,新宿又は自宅付近のコンビニエンスストアのATMで合計150万円を引き出し(甲6,7),手持ちの2万円を合わせて合計152万円を順次被告に交付する一方,被告はこの間そのうち2万円を返済した。

 

     被告は,同年5月8日,これらの差引計算を行った結果である150万円の借用書を作成し,原告に交付した(甲2)。

 

 

 

 

 

  2 貸渡しの事実

 

    上記第2の2のとおり,被告は,原告による金銭の貸渡しの事実を争うものと解される。

 

    しかし,本件の事実経過は上記1の(1)ないし(7)のとおりと認められ,このうち,

 

 

原告が自己名義の口座から深夜や早朝の時間帯に金銭を引き出した事実(甲7)

 

LINEの電子メールによる被告とのやり取り(甲4)から判明する原告と被告の接点(会合の場所と時間)及び複数の借用書(甲1,2)の内容が符合することから,原告が主張する被告に対する合計465万円の金員の交付を認めることができる。

 

 

    また,上記電子メールによる被告のやり取りと原告が作成したカレンダーメモ(甲5)の内容は,原告がホストと縁を切るよう被告にアドバイスしている点,しばらく連絡が途絶えた後,

 

平成26年12月には被告が伝えた偽名の「△△」を呼び名としている点,メロンを持つ被告の写真が送信されている点などにおいて整合し,同カレンダーメモの記載内容も信用に足りるということができる。

 

 

    これらに加え,実質的には被告に対する金銭の貸渡しを説明する内容の原告の陳述書ともいうことができる原告作成の貸付経過の一覧表(甲6)の記載を踏まえると,原告の被告に対する合計465万円の金員の交付は,被告の借入れの求めに応じて行われたものと認められるから,原告による貸渡しの事実(請求原因(1))を認めることができる。

 

 

 

  3 返還請求の事実

 

    原告が本訴請求に係る被告に対する貸金返還請求権について支払督促を申し立て,支払督促が平成26年12月26日に書留郵便に付する送達により送達されたことは当裁判所の顕著であり,被告がこれに対して異議を申し立て,本訴に移行していることからすると(甲3),原告が返還時期を定めずに被告に貸し渡した465万円について返還を求める意思表示は,上記送達が実施されたころに被告に到達したものと認められる

 

 

 

 

 

 第4 結論

    以上の次第で,原告の請求は理由があると認められるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

     東京地方裁判所民事第1部

            裁判官  杜下弘記